大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)101号 判決 1985年7月18日
控訴人
破産者三浦良雄破産管財人
沼田悦治
被控訴人
峰本守
右訴訟代理人
南里和廣
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人のため、原判決添付物件目録一記載の不動産についてなされた原判決添付登記目録一記載の各登記につき、それぞれ原因行為の否認の登記手続をせよ。
三 被控訴人は、控訴人のため、原判決添付物件目録二記載の1、2、5ないし9(ただし、8の不動産の地番「一三〇五番五」を「一三〇番五」と改める。)の各不動産についてなされた原判決添付登記目録二記載の登記につき、それぞれ原因行為の否認の登記手続をせよ。
四 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一 申立て
一 控訴人
主文同旨の判決を求める。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
との判決を求める。
第二 主張と認否
原判決事実摘示(ただし、原判決二枚目表五行目の「御庁」を「神戸地方裁判所龍野支部」と改め、同三枚目裏八行目の「賃借権設定」の次に「「以下「根抵当権設定等」という。)」を加え、同七枚目(物件目録二)表六行目冒頭から同九行目末尾までを削除し(当審における訴えの一部取下げによる)、同裏二行目の「一三〇五番五」を「一三〇番五」と訂正する。)のとおりであるから、これを引用する。
第三 証拠関係<省略>
理由
一請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告の答弁と主張2、3の事実(根保証契約と根抵当権設定等契約締結の事実は当事者間に争いがない。)が認められる。
右事実によると、破産者が昭和五八年七月一日付けで被控訴人に対して設定した根抵当権は、同五七年七月一二日付けで被控訴人に対しヒカネ電気工業の債務を連帯して根保証したことによる破産者の根保証債務を被担保債務とするものではなく、ヒカネ電気工業の被控訴人に対する主たる債務を被担保債務とするものであり(同時に設定(登記は次順位)された停止条件付賃借権は、抵当不動産の担保価値の確保をはかるために設定されたものと解され(最高裁昭和五二年二月一七日判決、民集三一巻一号六七頁参照)、それは将来の抵当権の実行を容易にする目的で付随的に設定されたものにほかならず、否認権行使の結果としては根抵当権と帰すうを共にすると解されるから、根抵当権設定行為とは別個にその効力を論ずるまでもない。)、破産者は被控訴人に対して、破産申立前六か月以内に既存の担保証債務のほか物上保証による物的責任を新たに負担したことになる。
二破産者の本件根抵当権設定等の行為について、被控訴人は、根保証契約に基づく破産者の義務を履行したものであると主張するが、右根抵当権設定等の契約をなすことが前記根保証契約により義務づけられたものであるとの事実関係は何ら認められない。のみならず、破産者が被控訴人から自己の債務の担保提供を求められたのであれば契約上破産者の根保証債務を被担保債務とすべきところ、そのような交渉のなされた形跡はなく、かえつて原審証人藤田正夫の証言によれば、本件根抵当権設定等の契約締結の目的は、ヒカネ電気工業が被控訴人から受ける手形割引の枠を増額することにあつたことが認められるから、間接的にしろ破産者の根保証債務を担保する意図が契約当事者間にあつた訳でないことは明らかであるし、破産者が新たに担保を提供して右契約を締結したところで、破産者に何らの対価も利益も与えられず、又破産者にとつてそのような行為に及ばねばならない必然性も認められない。
これを実質的にみても、主たる債務の総額が根保証の限度額を超えるときは、一種の一部保証の関係となるが、特段の意思表示のない限り、主債務につき一部弁済がなされても保証人の責任額が当然に減少するのではなく、残債務のある以上限度額までは保証人として弁済の責に任ずべきものと解すべきものであるから、本件根抵当権が実行されて主債務の一部が消滅することがあつたところで、主債務総額が根保証の限度額を超える本件においては、必ずしも根保証の債務額が消滅せず、少くとも主債務と保証債務の減少額にはかなりの相違が生ずるとみられるのであり、したがつて、本件根抵当権設定等の契約が既存の根保証債務について担保の供与をした場合と法律上異なるところがないと断じうるものではない。
したがつて、被控訴人の前記主張は失当であつて、採ることができない。
三以上のことから、破産者の本件根抵当権設定等の行為は、破産法七二条二号又は四号の「担保の供与」として理解すべきものではなく、同条五号の「無償行為」と解すべきであり、それが破産申立前六か月以内になされたことはさきに判示したとおりであるから、破産管財人である控訴人は同法条の規定によりこれを否認しうるのであり、否認権行使に基づき、本件不動産一及び二についての前記各登記につき、同法一二三条による原因行為の否認の登記をなすことを求める控訴人の本訴請求はいずれも正当というべきである。
四よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当でなくて本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、控訴人の請求を認容することとして、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官村上明雄 裁判官堀口武彦 裁判官小澤義彦)