大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)1413号 判決 1986年8月07日

控訴人(被告) 中島義弘 外二名

被控訴人(原告) 福田正夫

訴訟代理人 石丸鐵太郎

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(控訴人中島義弘、同有限会社ロイヤル商事)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の各請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文と同旨。

二  当事者主張と証拠関係

次に付加するほかは原判決事実摘示欄記載と同じである(ただし、原判決三枚目裏四行目の「予備的」を「価格弁償の方法によりえないときは」と改める。)から、ここにこれを引用する。

(控訴人中島義弘)

原判決別紙物件目録(一)記載の土地(以下、「目録(一)記載の土地」という。他の土地・建物についても同様の略称を用いる。)については現物分割が可能である。

理由

一  請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

目録(一)、(二)記載の各土地と目録(四)記載の建物の共有者は現在控訴人ら三名と被控訴人の四名であるが、ここに至つた経過は次に認定のとおりである。

成立に争いのない甲第一、二号証、第四号証および弁論の全趣旨によれば、目録(一)、(二)記載の各土地は被控訴人の妻(亡)福田きみ子の所有であり、同(四)記載の建物は被控訴人と福田きみ子の共有(持分各二分の一)であつたこと、昭和五六年二月一三日福田きみ子の死亡に伴い法定相続分にしたがい右各土地につき相読人である被控訴人が二四分の一八、控訴人高田千栄子、(亡)中島義男、中谷貞子、山口よしゑ、野間文子、小林節子が各二四分の一の持分割合で共同相続し、昭和五六年八月一日小林節子は自己の持分を控訴人有限会社ロイヤル商事に売渡し、同月二日中谷貞子、山口よしゑ、野間文子は各人の持分を控訴人中島義弘に売渡し、中島義男の死亡(昭和五九年八月八日)により同人の持分を控訴人中島義弘が相続により取得したこと、目録(四)記載の建物については同じく相続により福田きみ子の共有持分二分の一につき被控訴人が四八分の一八(同人は元来同建物の持分二分の一の共有者である。)、その他の前記相続人六名が各四八分の一の持分割合を取得し、右八月一日小林節子は自己の持分を控訴人有限会社ロイヤル商事に売渡し、同月二日中谷貞子ら三名は各人の持分を控訴人中島義弘に売渡し、中島義男の持分につき前同様に控訴人中島義弘が相続により取得したことが認められる。

二  目録(一)、(二)記載の各土地および同(四)記載の建物についてそれぞれ被控訴人と控訴人らとの間で共有物分割の協議が整わないことは弁論の全趣旨により明らかである。

被控訴人は、共有関係の解消を求めて、目録(一)、(二)記載の各土地については相続による共有持分二四分の一八に基づき、同(四)記載の建物については元来有していた共有持分四八分の二四と相続による共有持分四八分の一八とを合せた共有持分四八分の四二に基づき第三者、他の相続人から共有持分を買受けたものなどの控訴人らに対し共有物の分割を求めるものである。こうした共有者間においては、相続人が、家庭裁判所に対して家事審判法九条一項乙類一〇号の遺産分割審判を申し立てる方途によらず、先ず民法二五八条による共有物分割請求訴訟を選択して地方裁判所にこれを提起しうると解すべきである。そして右訴訟の確定後、相続人は遺産全体について右分割の結果を踏まえて家庭裁判所に遺産分割の審判を申し立て具体的相続分に応じた遺産の分割を受けて終局的に相続による共有関係の解消をえられることになる。

共有物分割請求訴訟においては現物分割を原則とし、それが不能か又は分割により著しく価格を損する虞れあるときは共有物の競売を命じてその売得金を共有持分割合に応じて分割すべきであり(民法二五八条二項)、価格弁償による分割の方法は許されないと解すべきである。そうであれば、価格弁償を求める被控訴人の主張は採用するに由ないところである。

三  次に、現物分割の可否を検討する。

1  目録(一)記載の土地上には被控訴人が所有し同人とその母が居住する目録(三)記載の建物があり、目録(二)記載の土地上には同(四)記載の建物があることは当事者間に争いがない。

2  目録(一)、(二)記載の各土地上にはそれぞれ目録(三)、(四)記載の各建物がほぼ全面的に建てられてあり、かつ、いずれも区分所有の認められるような建物でないことは原審被控訴人本人尋問の結果と弁論の全趣旨により認められる。

3  前掲甲第一、二号証、第四号証によれば、目録(一)記載の土地の面積は七〇・〇八平方メートル、同(二)記載の土地のそれは六六・一一平方メートル、同地上にある目録(四)記載の建物の床面積は延べ四六・一一平方メートルであると認められる。これらを前記認定の控訴人中島義弘の共有持分二四分の四(建物については四八分の四)、他の控訴人らの各二四分の一(建物については四八分の一)の持分割合に応じて現物分割をすると、右(一)の土地については一一・六八平方メートルと二・九二平方メートル、(二)の土地については一一・〇一平方メートルと二・七五平方メートル、(四)の建物については三・八四平方メートルと〇・九六平方メートルとなる。

4  以上の事実関係によれば、現物分割は不能、少なくともその価格を著しく損するものというべきである。仮に目録(二)記載の土地と同(四)記載の建物を一体として現物分割を試みても右理は同様である。さらに控訴人ら主張のように目録(一)記載の土地の隣接地が控訴人らの所有であるとしても、右結論を左右するものではない。

5  したがつて、目録(一)、(二)記載の各土地および同(四)記載の建物についてこれを各競売に付しその売得金から競売費用を控除した金額を被控訴人、控訴人らの共有持分割合に応じて配分するのが正当である。

四  よつて、右と結論を同じくする原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し(なお、共有物分割の訴えにおいては当事者が単に共有物の分割を求める旨を申し立てれば足り、分割の方法を具体的に指定することは必要でなく、被控訴人が原審において分割方法に応じて主位的・予備的請求として申し立てる点は一個の訴えの請求原因の問題にすぎない。したがつて、原判決が主文第一項において競売の方法による分割を命じている以上、主文第二項(原告の主位的請求棄却)は不要であるが、本判決主文においてこの部分を取消すまでの必要は認めない。)、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 大久保敏雄 裁判官 稲田龍樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例