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大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)177号 判決 1985年11月21日

控訴人(附帯被控訴人)

辰野株式会社

右代表者

辰野元彦

右訴訟代理人

辰野守彦

千葉睿一

原滋二

被控訴人(附帯控訴人)

株式会社竹中工務店

右代表者

竹中統一

右訴訟代理人

藤井榮二

主文

1  本件控訴および附帯控訴に基づき原判決を左のとおり変更する。

(一)  控訴人(附帯被控訴人。以下省略)は被控訴人(附帯控訴人。以下省略)に対し原判決末尾添付物件目録(一)記載の建物および同(二)記載の土地を明け渡し、かつ昭和五五年一一月九日から同五九年九月二一日まで一か月一〇五万円、同翌日から右明渡しずみまで一か月二六〇万円の割合による金員を支払え。

(二)  控訴人は、被控訴人において前記(一)建物を収去するときは、被控訴人に対し同目録(三)記載の建物につき、原判決末尾添付図面中のABを直線で結ぶ線から西側に五〇センチメートル離れて平行する直線上に本判決末尾添付目録記載の補強工事をせよ。

(三)  被控訴人のその余の請求を棄却する。

2  訴訟費用は一、二審とも控訴人の負担とする。

3  この判決は1(一)、(二)につき仮に執行することができる。

理由

第一本件建物部分明渡請求について<省略>

第二本件土地(D土地)明渡請求について<省略>

第三損害金請求について<省略>

第四補強工事請求について

1  前記認定事実によれば、本件覚書においては被控訴人主張のとおり控訴会社の本件残存建物補強整備工事施行義務に関する約定(正確には原判決一四枚目裏一二行目から同一五枚目表五行目までに認定の約定)がなされていることが明らかである。

そして、右条項によれば、その明文上は、控訴会社は、被控訴会社から六ヵ月の予告期間付解約申入れをされたことにより本件建物部分の貸借関係が終了したことによりその明渡しをなし、かつ被控訴会社が右建物部分を取りこわし収去する場合に限り控訴会社に残存建物部分補強工事義務が存するかのように解されないではないが、本件覚書による契約の成立経過、その内容等を全体として合理的に解釈するときは、当事者双方は単に右のような終了原因による場合だけではなく本件のような契約更新拒絶による終了を原因とする本件建物部分明渡、収去のさいも含めて前記補強工事約束をしたものと解するのが相当で、かえつて、後者の場合を特に排除した約定であると解さなければならない合理的な理由は見出し難いところである。

また、右約定によれば控訴会社の負担する補強整備工事の内容については「本件残余建物を境界線より民法所定の距離を設けて補強整備する。」と定めているだけで、具体的な工事内容について特段の約定が存しないことが明らかである。しかし、右約定の趣旨は、要するに、民法二三四条一項の趣旨に則り、双方の相隣関係に関する利害を調整し、かつ互いの土地利用上の最小限の安全を確保しようとするものであることが認められ、当事者を規律する約定内容の特定としてはこのていどで十分であつて、これを内容不特定のゆえに無効であるとか、または強制力を伴わない単に任意の履行を期待する約定にすぎないと解するのは相当でない。右補強工事約束は、前記のような約定の趣旨目的に照らし社会通念上および建築技術上、本件残余建物の維持保全に必要な範囲内での相当の工事が約されたものと解すべきである。そして、当審証人重山忠雄の証言によれば、その具体的内容は被控訴人主張のとおりの内容、すなわち、控訴会社が本件建物部分を明け渡し、被控訴会社においてこれを取りこわし収去するときは、本件残余建物につき原判決末尾添付図面中のABを直線で結ぶ線から西側に前記法条所定の五〇センチメートル離れて平行する直線上に本判決末尾添付目録記載のような補強工事をすることが前記条項の趣旨目的上必要であり、かつこれで十分であつて相当性を有することが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

2  そうすると、被控訴人の補強整備工事請求は理由がある。

第五  結論

よつて、被控訴人の請求は叙上説示の限度でこれを認容し、その余は棄却すべきであり、一部これと異なる趣旨の原判決は本件控訴および附帯控訴(当審での新請求を含む)に基づきこれを変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官今富 滋 裁判官畑 郁夫 裁判官遠藤賢治)

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