大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)333号 判決 1986年5月29日
控訴人(附帯被控訴人)
日本・ゴルフ興業株式会社
右代表者代表取締役
北村守
右訴訟代理人弁護士
中谷茂
右訴訟復代理人弁護士
山口勉
被控訴人(附帯控訴人)
藤本直實
被控訴人(附帯控訴人)
藤本友久
右両名訴訟代理人弁護士
酒井信次
主文
本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決中、被控訴人(附帯控訴人)ら関係部分を次のとおり変更する。
控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)らに対し、それぞれ別紙目録(二)記載の金員の支払をせよ。
被控訴人(附帯控訴人)らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じて一〇分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)ら、その余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とする。
この判決は被控訴人(附帯控訴人)ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という。)
「原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という。)らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。被控訴人らの附帯控訴を棄却する。附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。」との判決
2 被控訴人ら
「控訴人の控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。原判決中、被控訴人ら敗訴部分を取り消す。控訴人は被控訴人らに対し、それぞれ金一〇万円及びその内金一万円に対する昭和六〇年二月一日から、内金三万円に対する同年三月一日から、内金三万円に対する同年四月一日から、内金三万円に対する同年五月一日から各完済までいずれも年六分の割合による金員の支払をせよ(附帯控訴)。附帯控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決並びに金員支払部分に関する仮執行の宣言
二 当事者の主張
1 被控訴人らの請求原因事実
(一) 控訴人はゴルフ場の経営等を業とする者であるが、被控訴人藤本直實(以下「被控訴人直實」という。)は昭和五七年七月六日、被控訴人藤本友久(以下「被控訴人友久」という。)は同年六月二日、それぞれ控訴人との間で、控訴人が次の(1)とおりのゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を建設し、これを被控訴人らにメンバーとして利用させる約定の下に、次の(2)の方法により預託金として各一三〇万円を控訴人に支払う旨の契約(以下「本件入会契約」という。)をし、そのとおり控訴人に支払い、また、約束手形金については各満期に支払われた。
(1) ア ゴルフ場名称 川西ロイヤルゴルフクラブ
イ 場所 兵庫県川西市国崎字笹ケ谷
ウ 内容 (ア) メンバーシップ制 (イ) ゴルフコース一八ホール (ウ) クラブハウス他建物 (エ) 県民の広場その他公共的体育施設
エ オープン 昭和五八年九月予定
(2) 金二五万円は頭金として現金で支払い、残金一〇五万円は、被控訴人ら振出の昭和五七年六月から昭和六〇年四月までの毎月末日を満期とする額面三万円あての約束手形三五通を交付し、各手形の満期に支払う。
(二) 被控訴人らと控訴人との間には、本件ゴルフ場が昭和五八年九月末日までにオープンできなかつたときは、控訴人において被控訴人らに対しそれぞれ右預託金一三〇万円を返還する旨の約定がなされていたが、右期日までにオープンされなかつた。
また、本件ゴルフ場は昭和六一年三月現在においても未だにオープンしていないが、右オープン遅延の程度は、社会通念上許容される範囲を著しく超過しており、それは控訴人の債務不履行である。そこで、被控訴人らはそれぞれ控訴人に対し、控訴人に昭和五九年二月一五日に到達した本件訴状及び同年一二月六日に到達した準備書面とにより、本件入会契約を解除する旨の意思表示をした。
(三) よつて、被控訴人らは控訴人に対し、右約定又は契約解除により、それぞれ別紙目録(一)記載の金員の支払を求める。
2 控訴人の答弁及び抗弁
(一) 右請求原因事実のうち、(一)の事実中、控訴人がゴルフ場の経営等を業とする者であること、被控訴人ら主張の日に控訴人との間で本件入会契約が締結されたこと、控訴人が被控訴人ら主張のとおりの本件ゴルフ場を建設し、これを被控訴人らにメンバーとして利用させる約定の下に、被控訴人ら主張のとおり現金各二五万円が支払われ、額面合計各一〇五万円の約束手形三五通の交付を受け、同約束手形がすべて満期に支払われたことにより、右総計各一三〇万円が控訴人に入金されたこと、及び(二)の事実中、本件ゴルフ場が昭和六一年三月現在において未だオープンしていないことはいずれも認めるが、その余は争う。
控訴人は、本件ゴルフ場及び兵庫県民の広場の建設に協力することを目的とする川西ロイヤルゴルフ倶楽部賛助会(以下「本件賛助会」という。)を設け、入会金一〇〇万円と登録料三〇万円の支払を条件として、その会員(以下「本件賛助会員」という。)を募集したところ、被控訴人らはこれに応じ、控訴人との間において、本件賛助会に入会する旨の入会契約を締結し、入会金一〇〇万円と登録料三〇万円合計一三〇万円をそれぞれ控訴人に支払つたのである。
(二) 本件ゴルフ場のオープンが遅延しているのは、用地の買収が難航したこと及び兵庫県の林地開発許可が遅れたことによるのであるが、控訴人としては、右用地の買収と許可の獲得とにつき真摯な努力をしたのであつて、これがオープン遅延は、控訴人の責に帰すべき事由によるものではない。元来、ゴルフ場の建設には、広大な用地を必要とし、莫大な資金を要するが、その資金を調達するため、いわゆる預託金会員組織によるゴルフクラブ制が生じたものであるところ、そのような事情からして、預託金会員を募集する際においては、未だゴルフ場造成工事の計画段階においてオープン予定時期を設定するのであるから、その設定されたオープン予定時期なるものは、必然的に、あくまでもそのころまでにオープンすることを目途とするという趣旨のものであることが明らかである。けだし、右の広大な用地を取得するためには、多数の土地所有者との買収に関する折衝を重ねることが必要であり、その間、売買価額の高騰を図る土地所有者らは、意識的に売買契約の締結の遅延を策するのを常とし、また、ゴルフ場建設に必要な都市計画法二九条所定の開発許可は、市町村などの公共施設の管理者の同意や協議を経て、都道府県との折衝を要するのであつて、その許可申請の受理までにも相当長い期間が必要であり、その申請が受理された後においても、種々の状況の変化に応じ、申請内容の変更をすることが必要になることが多く、そのため、許可を受けるまでに相当長い期間を要することは、一般的に公知のことであるといい得るからである。ところで、本件ゴルフ場は、目下その造成工事が急速に進行中であり、昭和六一年一〇月にオープンすることが予定されている。したがつて、本件ゴルフ場のオープン遅延は、控訴人に債務不履行の責任があるとして、本件入会契約を解除し得るまでの遅延ではないといわなければならない。
なお、本件ゴルフ場はオープン予定時期よりもかなり遅延してオープンされるわけであるが、控訴人は、本件ゴルフ場の建設中の代替施設として、その経営に係る紀泉ロイヤルゴルフ倶楽部、京阪ロイヤルゴルフ倶楽部及び名阪ロイヤルゴルフ倶楽部の各ゴルフ場を本件賛助会員に提供し、本件賛助会員を右三倶楽部の準会員として、その年会費を無料とし、メンバー料金に一〇〇〇円を加算した優待特別料金(ビジター料金の約四割ないし六割の料金)で利用し得る権利を与えているのである。そして、被控訴人らは右権利を行使し、京阪ロイヤルゴルフ倶楽部ゴルフ場を被控訴人両名において昭和五七年七月一九日、同月二〇日、同年八月二〇日、同月二七日、同月三〇日、同年一一月一二日に、被控訴人直實において同年九月二一日に、名阪ロイヤルゴルフ倶楽部ゴルフ場を被控訴人両名において同年七月一二日に、被控訴人直實において昭和五八年二月一八日にそれぞれ右優待特別料金で利用したのであり、右各ゴルフ場の右態様の利用により、本件ゴルフ場の造成工事中においても、被控訴人らは、本件入会金等の金員の支払に見合う対価を十分に得ているわけである。
以上により、本件ゴルフ場のオープン遅延は、未だ社会的に容認される範囲内のものであり、その遅延の間においても、代替施設たる他のゴルフ場の利用の提供により対価関係を維持しているから、これが遅延につき、控訴人において債務不履行の責に任ずべきいわれはなく、被控訴人らがなした本件入会契約解除の意思表示は無効である。
(三) 控訴人と被控訴人らとの間においては、本件入会金は入会時から一〇年後に返還する旨の約定がなされているから、控訴人は被控訴人らに対し、昭和六七年六月二日又は七月六日に本件入会金を返還すれば足りるのであり、その支払期日は未だ到来していない。
(四) 本件賛助会は、兵庫県川西市一庫ダム周辺において本件ゴルフ場と兵庫県民の広場とを建設することに対する協力を目的とするものであり、その目的は公共的なものを含んでいる。そして、本件賛助会員は、右目的に協力する趣旨で入会金と登録料とを支払つて本件賛助会に入会したのであり、その入会契約は単なる通常のゴルフクラブ入会契約とは性質を異にする。換言すると、本件賛助会員の主要な目的は、本件ゴルフ場が完成したときに、そのまま本件ゴルフ場「川西ロイヤルゴルフ倶楽部」の正会員になることと併せて、兵庫県民の広場の建設なる公共的事業に協力することである。被控訴人らは、本件入会契約の締結により本件賛助会員になつた以上、本件賛助会の目的達成に協力する義務を負担する。したがつて、本件ゴルフ場建設の遅延のみを理由とする被控訴人らの本件入会契約の解除は、被控訴人らが負担する右協力義務に違反する行為であつて、信義則上許されないものというべく、右契約解除の意思表示は無効である。
3 右抗弁に対する被控訴人らの答弁
(一) 本件入会契約締結時に控訴人が被控訴人らに告知した本件ゴルフ場のオープン予定時期は昭和五八年九月末日であつたから、昭和六一年三月現在においてそのオープンがなされていないのは、その性質上社会通念として容認される遅延期間を著しく超えて遅延しているというべきである。本件ゴルフ場の建設に必要な用地買収の難航や行政庁の開発許可の遅延などは、控訴人において事前に十分予想し得られたことであるから、控訴人としては、それらの事情を勘案して、オープン予定時期を定めるべきであつたのであり、右の事情による本件ゴルフ場のオープン遅延は、控訴人の責に帰し得ない事由によるものとはいえない。
なお、控訴人主張のとおり、被控訴人らが控訴人主張の日に京阪ロイヤルゴルフ倶楽部及び名阪ロイヤルゴルフ倶楽部の各ゴルフ場をそれぞれ利用したことはあるが、それは、被控訴人らの会員としての権利の行使であつたのであり、被控訴人らが右利用によつて得た利益は事実上皆無であつたのみならず、そのことは、その後に生じた事由により、被控訴人らが控訴人の責任を追求することを妨げ得るものではないといわなければならない。
(二) 控訴人と被控訴人らとの間に、本件入会金は入会時から一〇年後に返還する旨の約定がなされていたことは認める。
(三) 本件ゴルフクラブ入会の目的のなかに兵庫県民の広場建設なるものがあつたとしても、右広場を建設する義務を負うのは企業主体である控訴人であり、被控訴人らは、控訴人が右義務を果たすものと信じて会員になつた関係になるところ、控訴人において右義務を果たさないため、被控訴人らにおいて本件入会契約を解除したわけであるから、右広場建設の目的がある以上、単に本件ゴルフ場のオープン遅延のみを理由として被控訴人らが本件入会契約を解除することは許されない旨の控訴人の主張は失当である。
三 証拠関係<省略>
理由
一被控訴人ら主張の請求原因事実のうち、控訴人がゴルフ場の経営等を業とする者であること、被控訴人ら主張の日に控訴人との間で本件入会契約が締結されたこと、控訴人が被控訴人ら主張のとおりの本件ゴルフ場を建設し、これを被控訴人らにメンバーとして利用させる約定の下に、被控訴人らがその主張のとおり控訴人に対して現金各二五万円を支払い、額面合計各一〇五万円の約束手形三五通を交付したこと、右約束手形がすべて満期に支払われ、右総計各一三〇万円が控訴人に入金されたこと、及び本件ゴルフ場が昭和六一年三月現在において未だオープンしていないことは、いずれも当事者間に争いがない。
二被控訴人らは、被控訴人らと控訴人との間において、本件ゴルフ場が昭和五八年九月末日までにオープンできなかつたときは、控訴人において被控訴人らに対し右一三〇万円を返還するとの約定があつた旨主張するところ、成立に争いのない甲第三号証に原審における被控訴人藤本直實の供述を総合しても、未だ右主張事実を認めるに足りず、他に当該事実を認めるに足りる資料はない。
三被控訴人らが昭和五九年一二月六日の原審第七回口頭弁論期日において同日付準備書面を陳述し、それにより、それぞれ控訴人に対し、本件ゴルフ場のオープン遅延は控訴人の債務不履行であるから本件入会契約を解除する旨の意思表示をなしたこと、及びその契約解除の意思表示が本件訴訟の係属により現在に至るまで引続き維持されていることは、いずれも当裁判所に明らかである。
控訴人は、本件ゴルフ場のオープン遅延は社会通念上許容される範囲内の遅延であつて、控訴人において債務不履行の責を負うべきものではない旨主張する。そこで考えてみるに、前記争いのない事実に、<証拠>を総合すると、
1 控訴人は、兵庫県川西市一庫ダム周辺において本件ゴルフ場を建設することを昭和五二、三年ころから計画し、その建設資金を得ることを目的として本件賛助会を設け、昭和五六年秋ころから会員の募集を始めたところ、被控訴人らは昭和五七年六月ないし七月ころこれに応じ、それぞれ入会金一〇〇万円と登録料三〇万円合計一三〇万円を現金と約束手形とにより控訴人に支払い、本件賛助会員となつたが、その入会契約の締結に当たり、控訴人は被控訴人らに対し、本件ゴルフ場のオープン予定時期を昭和五八年九月末日と明示したこと、
2 その後、控訴人は、本件ゴルフ場を建設するべく、必要な用地の買収を行うとともに、兵庫県から昭和五九年二月一四日に開発行為の許可、同年三月二八日に林地開発行為の許可をそれぞれ得た上、同年八月中にその造成工事に着手し、以来、当該工事を継続しているが、昭和六〇年六月二六日当時においてもなお荒造成の段階にとどまつており、昭和六一年三月現在において、本件ゴルフ場は未だオープンされていないこと
が認められ、この認定に反する資料はない。右の認定によれば、控訴人は、いわゆる預託金会員組織によりゴルフ場を建設することを企図し、ゴルフ場のオープン予定時期を昭和五八年九月末日と明示して本件賛助会を設立し、被控訴人らと契約をして本件賛助会に入会させたものであることが明らかである。
ところで、右預託金会員組織に入会した者の入会の目的は、当該ゴルフ場をメンバーとして使用し得ることを主眼とするものであるから、それが何時オープンするかは、その入会者にとつて最も重大な関心事であり、そのオープン予定時期は、入会するか否かを決定する重要な要素の一つであるといわなければならない。もつとも、ゴルフ場の建設には、広大な用地と莫大な資金とを必要とし、法令上の制約も多く、用地の買収や行政庁の許可の獲得に相当長い期間が必要であることは一般的に知られており、その間、種々の事情の変化が生ずるおそれもあるため、そのオープン予定時期を事前に確定することは容易ではなく、そのため、企業主体が定めたオープン予定時期についても多少の遅延がありうることは、入会者の方でも当然予想されるところであるが、企業主体が一旦オープン予定日を定め、これを明示して入会者と契約をした以上は、その時期と大差のないところにオープンするものと考えるのもまた当然である。これらの点を考え合わせると、企業主体と入会者との間の契約の中には、社会通念上相当として是認される程度の遅延はこれを許容し、その期間内は履行遅滞の責を問わないとの暗黙の合意が含まれているものと解するのが相当であり、したがつて、企業主体が定めたオープン予定日から右相当期間を経過した日をもつて最終期限たるオープン日と定めたものと解し、実際のオープン日がその日より遅延するような場合には、その遅延が企業主体の責に帰することのできない事由によるものであるということが立証されない限り、企業主体の債務不履行として、右入会者に対し、その責に任ずべきものといわなければならない。
そこで、本件において、企業主体たる控訴人が債務不履行の責を問われないオープン遅延の限度について考えるに、前記認定のとおり、控訴人が本件ゴルフ場の建設を計画し始めたのが昭和五二、三年ころであること、本件賛助会の会員募集を始めたのが昭和五六年秋ころであること、被控訴人らが右会員となつたのが昭和五七年六月ないし七月であつたこと、その他現在における社会的経済的諸事情を総合して勘案すれば、控訴人が定めたオープン予定時期の昭和五八年九月末から遅くとも二年後の昭和六〇年九月末までと考えるのが相当である。
控訴人は、本件ゴルフ場の遅延は用地買収の難航と、行政庁の許可の遅延とによるのであつて、控訴人の責に帰すべき事由によるものではない旨主張するが、それらの事情は、ゴルフ場を建設する際に一般的に予想可能な事項であり、控訴人が本件賛助会員を募集するに当たりオープン予定時期を設定した際においても、当然に予想し得られたものであつて、控訴人としては、それらの点をも考慮して、オープン予定時期を設定すべきものであつたのであり、また、本件における全立証をもつてしても、本件の場合には、他のゴルフ場の建設の場合に比し、用地の買収が特別に難航したとか、行政庁の許可が特別の事情により遅延したとかを認めるに足りる資料はないから、控訴人主張の事情により、控訴人の予想に反して、著しくオープンが遅延することになつたとしても、それは控訴人の判断の誤り、資金の不足その他控訴人側の事情によるものであつて、本件ゴルフ場のオープン遅延が控訴人の責に帰することのできない事由によるものであるということはできない。
以上によると、控訴人は、オープン予定時期から二年後である昭和六〇年九月末日の経過により、被控訴人らに対し、本件ゴルフ場のオープン遅延につき債務不履行の責に任ずべきこととなり、本訴の係属により維持されていた被控訴人らの本件入会契約解除の意思表示は、同年一〇月一日その効力を生じたものといわなければならない。なお、本件においては、履行遅滞による契約解除の前提としての催告がなされたとの主張立証はないが、本件入会契約の締結にあたつて定められた前記オープン期限を相当期間経過し、しかも前記認定の控訴人の本件ゴルフ場建設の進渉状況に照らし、催告をしても早急に控訴人の履行遅滞を解消しうる可能性が全く無いことが客観的に明白な状況下においては、催告を経ることなくなされた右契約解除の意思表示も有効と解すべきである。したがつて、控訴人は被控訴人らに対し、これが契約解除に伴う原状回復義務の履行として、本件各預託金(入会金と登録料の双方を含む。)とその各入金の翌日以降完済までの商事法定利率年六分の割合による法定利息の支払をすべき義務があるというべきである。
なお、控訴人は、被控訴人らは本件賛助会員として、入会から本件ゴルフ場オープンまでの間、控訴人経営に係る紀泉ロイヤルゴルフ倶楽部、京阪ロイヤルゴルフ倶楽部及び名阪ロイヤルゴルフ倶楽部の準会員として、その各ゴルフ場を優待特別料金で利用する権利を有し、被控訴人らにおいてその権利を行使したから、被控訴人らは本件入会金等の金員の支払いに見合う利益を得ているのであり、本件ゴルフ場のオープン遅延による被控訴人らの不利益はなく、これがオープン遅延につき控訴人において債務不履行の責を負うべきいわれはない旨主張するので考えるに、京阪ロイヤルゴルフ倶楽部ゴルフ場及び名阪ロイヤルゴルフ倶楽部ゴルフ場を被控訴人らが控訴人主張のとおりそれぞれ利用したことは当事者間に争いがなく、前記乙第一号証と当審証人北沢照夫の証言とによれば、被控訴人らは本件賛助会員として控訴人主張のとおりの権利を有し、それを行使して、右各ゴルフ倶楽部のゴルフ場をメンバー料金に一〇〇〇円を加算した優待特別料金により右のとおり利用したことが認められるが、被控訴人らにおいて右各ゴルフ場を右態様により利用し得る権利を有し、また、現実に利用したとしても、その一事により、本件ゴルフ場のオープンが予定時期より二年以上も遅延したことによる被控訴人らの不利益を消滅させることは到底できないといわなければならないから、右主張は失当である。
四次に控訴人は、控訴人と被控訴人らとの間には、本件入会金は入会時から一〇年後に返還するとの約定があるから、その支払期日は昭和六七年六月二日又は七月六日であり、未だ到来していない旨主張するので考えるに、控訴人と被控訴人らとの間に右主張のとおりの約定がなされたことは当事者間に争いがないが、右約定は、入会契約の存続が前提であつて、控訴人側の履行遅滞による契約解除によつて控訴人に原状回復の義務が生じ、その履行として預託金を返還すべき場合には適用がないと解すべきであるから、右主張は理由がない。
五更に、控訴人は、本件賛助会は兵庫県民の広場の建設なる公共的な事業に協力することをも目的とするから、単に本件ゴルフ場のオープン遅延のみを理由とする被控訴人らの本件契約解除の意思表示は、信義則上許されない行為であり、無効である旨主張するので考えるに、前記の認定によれば、本件ゴルフ場の建設に付帯して、兵庫県民の広場を建設する義務を負うのは控訴人であり、被控訴人らは、右の各建設事業を行うべき控訴人に対し、入会金等の預託金を預託する義務を負担するのみであつて、被控訴人らにおいては、その義務を履行済であるから、控訴人において、その主たる義務である本件ゴルフ場の建設につき履行遅滞に陥つた以上、それを理由にして、被控訴人らが本件入会契約を解除し得ることは当然であり、その結果、兵庫県民の広場の建設が予定のとおり、進展しなくなつたとしても、それは控訴人の責によるものであつて、被控訴人らの責によるものではないから、そのことにより、被控訴人らにおいて本件入会契約を解除し得ないいわれはない。したがつて、右主張は失当である。
六以上により、被控訴人らの本訴請求は、控訴人に対しそれぞれ、頭金として現金で支払つた二五万円と昭和五七年六月から昭和五九年一月まで毎月末日に支払つた約束手形金合計六〇万円とを合算した八五万円及び昭和五九年二月から昭和六〇年四月まで毎月末日に支払つた各三万円あての約束手形金合計四五万円、以上総計一三〇万円並びにそのうち本件訴状送達の日までに支払われた右八五万円に対する同訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五九年二月一六日から、また、同年二月から昭和六〇年四月まで毎月末日に支払われた各内金三万円に対する各支払日の翌日から、各完済まで、いずれも商事法定利率年六分の割合による法定利息の支払を求める限度において理由があるから、これを認容すべきであるが、被控訴人らの本訴請求中、昭和五九年二月から同年一二月まで毎月末日に支払つた各三万円あての約束手形金計三三万円及び昭和六〇年一月末日に支払つた三万円の約束手形金の内金二万円に対し、その各支払日より以前の昭和五九年二月一六日から年六分の割合による利息金の支払を求める部分は、前記認容の限度を超える部分につき失当であるからこれを棄却すべきであり、また、原判決は、その主文一の1に掲げる九〇万円の内金五万円に対し、その支払日より以前の昭和五九年二月一六日から年六分の割合による利息金の支払を命じているが、右は過誤であるから、本件控訴に基づき、右五万円の内金三万円に対しては昭和六〇年一月一日から、内金二万円に対しては同年二月一日から各完済まで年六分の割合による金員を支払うよう変更すべきものである。
よつて、本件控訴及び附帯控訴に基づき、右趣旨に従つて原判決を変更し、控訴人において被控訴人らに対しそれぞれ別紙目録(二)記載の金員の支払をなすべきことを命じ、被控訴人らのその余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき、同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官日野原 昌 裁判官坂上 弘 裁判官伊藤俊光は退官のため署名押印することができない。裁判長裁判官日野原 昌)
目 録
(一) 被控訴人ら各自の請求額
預託金一三〇万円及び
(1) 内金一二〇万円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年二月一六日から、
(2) 内金一万円に対する昭和六〇年二月一日から、
(3) 内金三万円に対する同年三月一日から、
(4) 内金三万円に対する同年四月一日から、
(5) 内金三万円に対する同年五月一日から、
各完済までいずれも商事法定利率年六分の割合による金員
(二) 当裁判所の認容額
金一三〇万円及び
(1) 内金八五万円に対する昭和五九年二月一六日から、
(2) 内金三万円に対する同年三月一日から、
(3) 内金三万円に対する同年四月一日から、
(4) 内金三万円に対する同年五月一日から、
(5) 内金三万円に対する同年六月一日から、
(6) 内金三万円に対する同年七月一日から、
(7) 内金三万円に対する同年八月一日から、
(8) 内金三万円に対する同年九月一日から、
(9) 内金三万円に対する同年一〇月一日から、
(10) 内金三万円に対する同年一一月一日から、
(11) 内金三万円に対する同年一二月一日から、
(12) 内金三万円に対する昭和六〇年一月一日から、
(13) 内金三万円に対する同年二月一日から、
(14) 内金三万円に対する同年三月一日から、
(15) 内金三万円に対する同年四月一日から、
(16) 内金三万円に対する同年五月一日から
各完済までいずれも年六分の割合による金員