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大阪高等裁判所 昭和60年(ラ)421号 決定 1985年11月25日

抗告人 伊丹市

右代表者市長 矢埜與一

右代理人弁護士 秋山英夫

相手方 本山武司

主文

原決定を取り消す。

抗告人において本決定送達の日から五日以内に金二〇〇〇万円の担保を供したときは、相手方は伊丹市中央一丁目四二八番の二、同番の四において建築中の建物の建築工事を続行してはならない。

申請費用は第一、二審とも相手方の負担とする。

理由

一  抗告人は、主位的に主文一、二項同旨の裁判を、予備的に「原決定を取り消す。相手方は、伊丹市中央一丁目四二八番の二、同番の四において建築中の建物をパチンコ店用以外の目的に用途変更をしたうえでなければその建築工事を続行してはならない。」との裁判を求め、相手方は抗告棄却の裁判を求めた。

二  本件抗告の理由は別紙第一ないし第三記載のとおりであり、相手方の答弁は別紙第四記載のとおりである。

三  当裁判所の判断

1  一件記録によれば次の事実が認められる。

(1)  伊丹市においては、昭和四七年四月一日施行にかかる別紙第五記載のとおりの「伊丹市教育環境保全のための建築等の規制条例」(以下「本件条例」という)が存在する。

(2)  株式会社天國(以下単に「天國」という)は、遊技場の経営、演芸場経営及び興業等を目的とする会社であるが、伊丹市中央一丁目四二八番四、同番二(以下「本件土地」という)に鉄骨三階建の建物を建築してパチンコ店を経営するため、昭和五九年一〇月二〇日伊丹市長に対し、本件条例三条による同意申請をした。ところで本件土地は、本件条例四条一項1号に定める教育文化施設である月影幼稚園、市立文化会館等の敷地から二〇〇メートル、又通学路から二〇メートルの各区域内にあり、そのため伊丹市長は、前記申請に対し、本件条例四条一項により不同意の決定をし、同年一二月一〇日付書面で天國に対し不同意の通知をした。

(3)  天國は、本件土地上にパチンコ店用の前記鉄骨造三階建の建物を建築すべく、伊丹市建築主事に建築確認の申請をし、昭和六〇年四月二三日建築確認を受けた。その後同年六月二六日、伊丹市建築主事に対し、右建築確認を受けた建物の建築主を天國から天國の取締役である相手方に変更する旨の変更届をした。そして相手方は、同年八月下旬、本件土地上での前記建物の建築工事に着手した。

(4)  一方伊丹市長は、前記のとおり天國が建築確認を受けたことから、同年六月一三日付内容証明郵便で天國に対し前記パチンコ店用建物の建築を思いとどまるよう通告した。しかし前記のとおり建築主の変更届をしたうえ相手方が建物の建築工事に着手したため、伊丹市長は相手方及び天國に対し、同年八月三一日付書面により、本件条例八条に基づき、前記建物の建築の中止を命じ、右書面は同年九月一日相手方、同年八月三一日天國に到達した。しかし相手方が、右中止命令に従わず建築工事を続行したため、伊丹市長は、再度同年九月八日に相手方に到達した書面で建物の建築工事を中止するよう通告した。しかし相手方はこれに従わず建物の建築工事を続行している。

2  右認定の事実によれば、相手方の前記建物の建築は本件条例に違反したものであって、伊丹市長のした建築の中止命令は適法なものと認められる。したがって相手方は、前記建物の建築を中止すべき行政上の義務を負担しているものといわなければならない。

ところで相手方は前記認定のとおり前記建物の建築に関して建築確認を受けているが、建築確認は、建築基準法の目的に照らせば、建物の構造耐力上、防火上、衛生上等の安全、敷地の衛生、安全等の技術的基準に関する法令に適合するかどうかを判断するものと解され、建築確認がなされたからといってすべての法令に適合したものであることが確定するものではない。そして本件条例の目的に照らせば、本件条例に適合するかどうかは建築確認の対象外と解されるから、前記認定のように建築確認を受けたからといって前記建物の建築が本件条例に適合したものとはいえず、相手方は伊丹市長の中止命令に基づく建物の建築を中止すべき義務を免れるものではない。

3  そして本件条例には、建築中止命令に従わない場合に行政上これを強制的に履行させるための定めがなく、又その性質上行政代執行法上の代執行によって強制的に履行させることもできない。このような場合においては、行政主体は、裁判所にその履行を求める訴を提起することができるものと解する。けだし、本件のように行政庁の処分によって私人に行政上の義務が課せられた以上私人はこれを遵守すべきであり、私人がこれを遵守しない場合において行政上右義務の履行確保の手段がないからといってこれを放置することは行政上弊害が生じ又公益に反する結果となり、又何らの措置をとりえないとすることは不合理であり、その義務の履行を求める訴を提起しうるとするのが法治主義の理念にもかなうものである。

4  このように行政主体が私人を被告として行政上の義務の履行を求める訴を提起することができる場合においては、右請求権を被保全権利として仮処分を求めることができるものと解する。即ち行訴法四四条は、行政庁の処分その他公権力の行使を阻害するような仮処分を禁止する趣旨の規定と解されるところ、本件はこれに該当しない。

前記認定のとおり相手方は伊丹市長がした中止命令に従わず又その後の中止勧告をも無視して建築工事を続行しているのであり、建物が完成すると右中止命令の実効性がなくなる虞れがあり保全の必要性があるものと認められる。

5  以上により抗告人の本件仮処分の申請は主たる申立につき被保全権利及びその必要性の疎明があり、これを却下した原決定は相当でないからこれを取り消し、抗告人が本決定送達の日から五日以内に金二〇〇〇万円の保証を立てることを条件として主たる申立を認容し、手続費用は第一、二審とも相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 首藤武兵 裁判官 奥輝雄 寺﨑次郎)

<以下省略>

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