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大阪高等裁判所 昭和60年(行コ)13号 判決 1987年9月29日

京都市上京区寺町通今出川上ル二丁目鶴山町一一番地六

控訴人

西敏男

右訴訟代理人弁護士

狩野愈

同市同区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地

被控訴人

上京税務署長

伴恒治

右指定代理人

石田浩二

岡本薫

石井清市

岸本貴行

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、昭和五六年七月二五日控訴人に対してした、控訴人の昭和五四年分所得税の再更正(但し、裁決によって一部取り消された後のもの)のうち分離長期譲渡所得金額が七五万一七〇〇円を越える部分及びこれに対応する過少申告加算税賦課決定処分(但し、裁決によって一部取消された後のもの)を取消す。

3  訴訟費用は、一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文同旨。

二  当事者の主張

次に付加する外、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。ただし、原判決三枚目表七行目の「失なった」を「失った」と改める。

(控訴人)

予備的に、つぎのとおり主張する。

1  取得価格について

原判決は、本件不動産の取得価格を被控訴人主張の四五〇万円を案分した二七八万六八二九円とするが、今般、甲第一五証の一の領収証により、その取得価格は一七五〇万円であることが、明らかとなった。

よって、被控訴人主張の面積割合によって、本件不動産の取得価格を算出すると、一〇八三万七六七一円となる。

2  譲渡価格について

本件不動産の売渡価格は、形式的には四五〇〇万円であるが、甲第一六号証の念書にあるとおり、控訴人は譲受人において負担すべき建物の解体費用及び移転費用(立退料を含む)一切として、一〇〇〇万円を差引かれ、実質上の売買価格は三五〇〇万円でしかない。

従って、実質課税の原則からも、その譲渡価格は三五〇〇万円である。

従って、被控訴人の主張のとおりとして譲渡所得を算出しても、二二九九万五一二九円となり、分離長期譲渡所得金額が、少なくとも右金額を越える部分の再更正処分は、解消を免れない。

(被控訴人)

控訴人の主張は、以下に述べる事実等に照らし、到底措置し難い。

1  取得価格について

(1) 訴外亡弓下甚蔵は、自己の譲渡所得の申告に当たって、本件不動産ほかの譲渡価格を四五〇万円であると申告しており、同人の長男訴外亡弓下力三も、被控訴人指定代理人に対して、右譲渡価格が一八〇〇万円ではなく、五〇〇万円前後である旨供述している。

(2) 本件不動産は、京阪電車鳥羽街道駅西口から徒歩三分の住宅地の中にあり、譲渡当時の付近の地価は平均一平方米当たり一万一〇〇〇円ないし一万四〇〇〇円である(建物については、耐用年数が経過しているので、価値はないものとして計算)。更に、右不動産については、貸借人訴外安田利夫の建物賃貸権があり、同人が容易に立退かない事情があったから、付近の地価水準より低額で取引されたと考えられる。

(3) 甲第一五号証の一の領収証の右弓下の筆跡は、同第一七号証の四の根抵当権設定済証や同号証の一〇の根抵当権設定契約証書中の弓下名義の署名と同一でないなどの事情を総合すると、右は同人以外の第三者が作成したのではないかと強く疑われる。

2  譲渡価格について

(1) 控訴人が被控訴人に提出した昭和五四年分の確定申告書に添付された譲渡内容計算書においては、建物の解体費用及び移転費用に当てたとする一〇〇〇万円が減額又は譲渡費用として控除された事実がなく、真実右費用を要したのであれば、申告の当初からその点を明確にしているはずであるのに、あえてそれをなさず、しかも、本件訴訟の控訴審においてはじめて右事実を主張すること自体、極めて不自然であると言わざるを得ない。

(2) 控訴人と啓揚開発との間の本件不動産の売買契約書には、「現状有姿のまま」の売買である旨明記されていること、控訴人が真実建物の解体費用及び移転費用として一〇〇〇万円を啓揚開発に差引かれたのであれば、契約当日作成されるべき甲第一六号証の念書の日付にずれがあって不自然であり、ひいては、右念書が税務対策の為だけに作成されたのではないかとの疑いを強く抱かせるものである。

(3) 控訴人の主張する一〇〇〇万円という金額は、本件における建物の解体費用としては、一般取上は考え難いほど高額である。

三  証拠

原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり付加、補正する外、

1  原判決理由説示とおなじであるから、これを引用する。八枚目表七行目の「証人柏田梅治郎」の次に「(原審)」を、同一〇行目の「第一四号証、」の次に「原審及び当審における」を加え、同行の「(一部)」を「(但し、後記信用しない部分を除く)」と改め、同一一行目の「豊」の次に「、同張吉出(第二回)」を加え、同行の「こと」を「事実」と改め、同行の「認められ」の次に「る。」を加え、以下、同裏二行目までを削る。

2  原判決八枚目裏六行目の「原告」の次に「宛」を、同七行目の「その」の次に「所有権移転」を、同八行目の「一四日付で」の次に「当時の控訴人の姓である松井敏雄名義により」を、同九行目の「代理人として、」の次に「その実の父親である訴外」を、同行の「柏田梅治郎」の次に「(但し、事情があって、控訴人は右柏田の姉の子として届けられ、同人も表向き、叔父と称している。)」をそれぞれ加える。

3  原判決九枚目表五行目の「これを機会に、」を「右工事代の見返りとして、」と改め、同行の「代理して、」の次に「右達富から」を加え、同九行目を削る。

4  原判決一〇枚目表六行目の「この訴訟で、」の次に「本件不動産は現在も控訴人の所有物であり、」を加え、同行の「仮登記が」を「仮登記は」と、同九行目の「売却した」を「売渡し、その代金を受領済である」と改め、同一〇行目の「認め、」の次に「控訴人は昭和五二年一二月二五日限り右仮登記の本登記手続をなす義務を承認する一方で、」を加える。

5  原判決一〇枚目裏二行目の「ことから、」の次に「控訴人の承諾も得て、」を、同七行目の「板橋清子は、」の次に「右同日」を、同一〇行目「原告は、」の次に「柏田梅治郎を代理人として、」をそれぞれ加える。

6  原判決一一枚目表一行目の「弁済し」の次に「た。板橋清子は右期日後の弁済を承認し、前記売買契約を合意解除し」を加え、同行の「をうるとともに、」を「(同月六日受付)をした。訴訟人は」と、同二行目の「。原」から同三行目末尾までを「が、控訴人は自ら右契約にも立会って、契約書(乙第八号証の一)に、売主として署名捺印し、」と、同六行目の「するとき」を「した昭和五四年七月六日に」と、同九行目の「に、」を「である京都市中京区東洞院通竹屋町上ル三本木町四三八番地二の宅地及び同地上店舗、事務所に、同日」とそれぞれ改める。

7  原判決一一枚目裏四行目の「原告は、」の次に「昭和五五年三月一五日提出の」を加え、同七行目の次に、改行のうえ、左の説示を加える。

「原審及び当審証人柏田梅治郎の証言並びに控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠及び後記説示に照らし、にわかに信用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。」

8  原判決一一枚目裏八行目の「事実」から同一〇行目末尾までを、次のとおり改める。

「経緯及び本件不動産の登記簿上の所有名義人が、前掲弓下甚蔵から取得した後、啓揚開発への売買までの間、一貫して控訴人であった事実(登記簿上の所有名義人が、当該不動産を所有するものと推定されることにつき、最高裁昭和三四年一月八日判決、民集一三巻一号一頁参照)並びに原審及び当審証人柏田梅治郎の証言によって窺われる、前記、同人が控訴人の実の父親であることを秘している負い目から本件不動産を買い与えた事情を合せ考えれば、控訴人が本件不動産の単なる登記名義人ではなく、その実質所有者であった事実を肯認できる。

従って自白の撤回は許されず、右事実は当事者間に争いがない。」

9  原判決一二枚目表三行目の「反する主張であって」を「照らし」と改め、同行の次に、改行のうえ、左の説示を加える。

「4 訴訟人の当審における予備的主張について判断する。

(1)  取得価格について

本件不動産を含む、分筆前の右弓下からの買受不動産の取得価格の証拠として、控訴人は当審において、甲第一五号証の一として、昭和四二年八月一二日付、弓下甚蔵作成名義の一七五〇万円の領収証を提出し、当審証人柏田梅治郎は、右書証は息子のところにある書類の疎開先の中から、漸く発見した旨供述する。

しかしながら、原処分の不服申立手続及び本訴の一審を経た当審において、初めて右重要な書証が提出されること自体いささか不自然であり、かつ、その方式及び趣旨により真正に成立した公文書と推定される乙第一四号証によれば、右弓下の子である弓下力三は、右価格を五〇〇万円位と述べていること及び弁論の全趣旨によって認められる弓下甚蔵が右譲渡価格を四五〇万円と申告している事実に照らし、右書証及び証言はにわかに信用できず、他に控訴人の主張を認めるべき的確な証拠もない。

(2)  譲渡価格について

甲第一六号証の昭和五四年七月一五日付啓揚開発代表取締役山田構三こと張吉出作成の念書には、本件建物の解体費用及び移転費用、その他一切の費用として、一〇〇〇万円を預かる旨の記載があり、当審証人柏田梅治郎、同張吉出(第一回)、同吉村恵美子の各証言中にも、右控訴人の主張に沿う部分があるところ、右は、成立に争いない乙第八号証の一によって認められる本件売買が現状有姿のままの取引であること、成立に争いない乙第一号証によって認められる控訴人が被控訴人宛提出した昭和五四年分の確定申告書添付の譲渡内容兼計算書には、右解体費用等控除の事実が記載されていないこと並びに成立に争いない乙第三五号証及び証人張吉出の証言(第二回)に照らし、信用できないから、控訴人の右主張も失当である。」

二  以上によれば、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 川鍋正隆 裁判官 若林諒)

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