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大阪高等裁判所 昭和60年(行コ)59号 判決 1986年9月25日

控訴人 大竹貿易株式会社

被控訴人 神戸税務署長

代理人 竹中邦夫 佐治隆夫 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五七年三月三一日付けで控訴人に対してなした昭和五二年三月ないし昭和五七年二月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を取り消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決九枚目表示末行の「SINGARORE」を「SINGAPORE」と改め、同一二枚目表一〇行目の「右不動産」の次に「に」を加え、同一四枚目裏一行目の「特」を「別」と改め、同一五枚目表三行目の「所得税法」の次に「施行令」を加える。)であるから、これを引用する。

1  控訴人の主張

所得税法(以下「法」という。)二条一項三号にいう住所は、民法二一条にいう住所とは異なる意義を有するのであり、前者の住所も後者の住所と同じく生活の本拠であるとすれば、国内と国外とにおいて二重に課税されるおそれがあるため、それを避ける見地から、個人が国内に住所を有するか否かの判定については、法三条二項に基づき所得税法施行令(以下「令」という。)一四条がもうけられているのであり、該規定は推定規定ではあるが、国内に住所を有するというためには、国内に継続して一年以上居住することが必要であると定めており、単に国内に生活の本拠があるのみでは足りないとしている。所得税基本通達二―一は、法にいう住所は各人の生活の本拠をいう旨を指示しているが、それは令に抵触するものであつて、不当である。

大竹成正(以下「大竹」という。)は、昭和五二年三月から昭和五七年二月までの間(以下「本件係争期間」という。)、国内に継続して一年以上居住したことがなく、その間、芦屋市に在存していた妻子とは別居状態であつて、同人らと生計を一にしていたわけでもなく、控訴会社の本店に近い同市に財産を所有してはいたが、生活の本拠は居住登録をしていた香港であつて、芦屋市ではなかつたから、本件係争期間中、大竹は国内に住所を有していなかつたのである。したがつて、大竹は法二条一項三号の居住者ではなく、法二条一項五号の非居住者であつたから、同人を右の居住者であるとしてなされた本件処分は違法であつて、取り消されるべきものである。

2  被控訴人の主張

法二条一項三号にいう住所は、民法二一条にいう住所と同じく生活の本拠をいうのであり、法三条二項は、住所の意義・解釈を政令に委任する規定ではなく、単に個人が国内に住所を有するか否かの判定について必要な事項を政令に委任する規定にすぎず、これをうけて制定された令一四条は、国内に居住することとなつた個人が国内に住所を有するとされるについての推定規定にすぎない。

そして、個人の生活の本拠は、単に住民登録ないし居住登録をした土地であると速断すべきではなく、その所在は、当該本人の実質的な生活事実によつて判断すべきであるところ、本件係争期間中、大竹は芦屋市に自宅を所有し、その妻子は当該自宅を生活の本拠としていたのであり、夫婦は特別な事情がない限り同居するものであるから、大竹の生活の本拠も右自宅であつたというべきであり、更に同人が控訴会社の業務のために出張した際には、大阪又は神戸を発地及び着地としていたから、同人は、右業務による出張の期間のほかは、右自宅において妻子とともに生活していたものと思料される。したがつて、本件係争期間中の大竹の住所は芦屋市にあつたというべきであり、それを前提としてなされた本件処分は適法である。

三  本件証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由説示と同一(ただし、原判決一八枚目表六行目の「あるには」を「あるいは」と、同一九枚目裏一〇行目の「同表」を「右各表」と、同行の「本件係争期間中」を「昭和五二年から昭和五六年までの間」と各改め、同二三枚目表九行目の「大竹成正が、」の次に「香港において」を加える。)であるから、これを引用する。

なお、付言するに、法二条一項三号にいう住所は、民法二一条にいう住所と同一の意義を有するものであることは、法の文言と趣旨とに照らし、現行法体系上明らかであり、それは、所得税基本通達二―一の示すとおり、各人の生活の本拠であるというべきである。ところで、大竹は、本件係争期間中、芦屋市を生活の本拠とし、同市に住所を有していたものと認めるのが相当であるから、国内に住所を有していた個人として、法二条一項三号にいう居住者であつたといわなければならない。右のほかに、更に大竹が右期間中引き続き一年以上国内に居住していなければ右規定の居住者ではないということが理由のないことは、当該規定の文言に照らして明らかである。

法三条二項の規定は、個人が国内に住所を有するかどうかの判定についての必要な事項は政令で定める旨を規定し、それをうけて、令一四条一項は、国内居住の個人が国内に継続して一年以上居住することが予想されるような事象又は状況が存するときは、当該個人は国内に住所を有する者と推定する旨を定めているにすぎず、右各規定は、国内に住所を有するとすべきか否かが明確でない個人について適用される推定規定であつて、国内に住所を有することが明らかな個人についてまで適用する必要のないものであるところ、大竹は国内に住所を有していたことが明らかに認められる個人というべきであるから、右各規定を適用する必要はなく、したがつて、同人が本件係争期間中引き続き国内に一年以上居住したことがなかつたとしても、その間、国内に住所を有していた者として、法二条一項三号所定の居住者であつたことを免れることはできない(なお、大竹が昭和四七年ないし昭和五一年分の各所得税の確定申告を福井税務署長になした事実があつたとしても、そのことは、本件に関する当裁判所の認定判断を左右するに足りるものではない。)。

二  よつて、控訴人の本訴請求を理由がないとして棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条一項により、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 日野原昌 坂上弘 大谷種臣)

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