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大阪高等裁判所 昭和61年(行コ)32号 判決 1988年3月31日

第三二号事件控訴人・第三三号事件被控訴人

第一審原告

進工業株式会社

右代表者代表取締役

高村正雄

右訴訟代理人弁護士

水野武夫

増市徹

飯村佳夫

田原睦夫

栗原良扶

尾崎雅俊

第三二号事件被控訴人・第三三号事件控訴人

第一審被告

下京税務署長古賀伊佐夫

右指定代理人

笠井勝彦

外三名

主文

一  第一審被告の控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

1  第一審被告が、昭和五六年一二月分の源泉所得税について、昭和五八年四月三〇日付けでした納税告知処分のうち税額四万一一〇〇円を超える部分及び不納付加算税決定処分を取り消す。

2  第一審原告のその余の請求を棄却する。

二  第一審原告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二〇分し、その一九を第一審原告の負担とし、その一を第一審被告の負担とする。

事実

一  申立

1  第三二号事件

(一)  第一審原告

(1) 原判決中、第一審原告敗訴部分を取り消す。

(2) 第一審被告が第一審原告に対し昭和五七年一二月二七日付けでした、第一審原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日まで及び昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの各事業年度についての法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(但し、昭和五四年五月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度の各処分については、裁決により取り残された残存部分。また、昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度の各処分については、昭和六〇年四月一六日付けの更正処分、過少申告加算税決定処分により減額された後のもの)のうち、所得金額が、それぞれ金三億一〇二七万七三一六円及び金四億九一一一万二七二五円を超える部分の各更正処分並びに右各処分に対応する部分の各賦課決定処分を取り消す。

(3) 第一審被告が第一審原告に対し、昭和五八年四月三〇日付けでした昭和五五年三月分から昭和五七年一〇月分までの源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分のうち、支給額六五万八九一〇円、徴収すべき税額一一万五五六〇円を超える部分の納税告知処分及びこれに対応する部分の不納付加算税賦課決定処分を取り消す。

(4) 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

(二)  第一審被告

(1) 本件控訴を棄却する。

(2) 控訴費用は第一審原告の負担とする。

2  第三三号事件

(一)  第一審被告

(1) 原判決中、第一審被告の敗訴部分を取り消す。

(2) 第一審原告の請求をいずれも棄却する。

(3) 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

(二)  第一審原告

(1) 本件控訴を棄却する。

(2) 控訴費用は第一審被告の負担とする。

二  主張

次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正

(一)  原判決四枚目裏一行目、同六枚目裏二行目、同一七枚目裏九行目の「本件処分」をいずれも「本件各処分」と訂正する。

(二)  同一五枚目裏五行目の「費用」から七行目の「ある。」までを次のとおり訂正する。

「費用は八万二七七一円であり、そのうち原告は二万九五七八円を負担しているだけである(一人当たりの直接費用額は七万七五〇〇円で、そのうち原告が直接負担した額は二万円であるが、空港までの交通費等の間接費用として一人当たり五二七一円を要しているから、一人当たりの総費用額は八万二七七一円である。これについて、もえぎ会は一人当たり一万二七七一円相当額を支出しているが、もえぎ会は原告から独立した団体とはいえないから、その四分の三に当たる九五七八円は原告の負担額であり、結局原告の負担額の合計は二万九五七八円となる。)。」

(三)  原判決事実摘示中(理由中も同じ)、「レクレーション」とあるのを「レクリエーション」と訂正する。

(四)  原判決添付別表1二枚目の「加算金額」欄中、「期末卸資産」とあるのを「期末たな卸資産」と訂正する。

2  第一審原告

(一)  もえぎ会関係の支出について

(1) 本件当時、もえぎ会は、成文の規約こそなかつたものの、その構成員、活動目的、運営方法等団体としての基本的な事項は確立されていたのであり、第一審原告から独立していた。もえぎ会は、各事業所ごとに存在する単位としての「もえぎ会」の代表者によつて構成される会議(全社もえぎ会)において、その運営方針を決定しており、右全社もえぎ会には第一審原告の役員は含まれておらず、また、社長や取締役が構成員に当然に加わるということもなかつた(会社の役員は、もえぎ会の要望により、オブザーバーの形で出席していたにすぎない。)。なお、第一審原告には、従業員の福利厚生に関する問題の検討機関として厚生委員会があるが、同委員会が発足したことによつて既存のもえぎ会の組織内容に変化があつたことはなく、同委員会ともえぎ会とは別個独立の組織である。

(2) 一般に、従業員の親睦団体として使用者からの独立性を認められている団体の中には、社員の親睦旅行等を目的とする団体が多数存在するが、かかる団体が、親睦旅行のために休暇をとることにつき、使用者の同意を得なければならないということのみで、その独立性が否定されることはない。従業員が親睦旅行のため休暇をとることにつき使用者の了承を得ることが必要であるとしても、旅行の内容を当該団体が自主的に企画決定する限り、その団体は独立性を有するのである。本件において、もえぎ会はあくまで自主的にバカンス制度を運営し、その旅費支給等の内容を決定してきているのであり、その決定過程において会社の意思が介入することは全くなかつたから、もえぎ会は第一審原告から独立した組織というべきである。

(二)  サーマルプリントヘッドの期末たな卸資産の評価について

(1) 法人税法(以下「法」という。)は、たな卸資産の評価については、毎期一定の評価方法を継続して採用し、経理処理の継続性を図ろうとしているが、同時に、課税実務の簡素化、税務の画一的処理等も目的としており、法二九条一項括弧書き、同法施行令(以下「令」という。)三一条一項は、右の継続性の原則の例外をなすものであるから、第一審被告のように法二九条一項の「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」を限定的に解釈するのは誤りである。第一審被告のような解釈論では、法人が現実に採つた評価方法がその選定にかかる評価方法と見る余地が全くない場合とそうでない場合を明確に区別することができず、課税関係を不明瞭ならしめ、租税法規の明確性の原則に反するというべきである。

元来、租税法規の解釈においては、租税法が侵害規範であるが故に法的安定性の要請が強く働き、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、それが困難な場合にのみ、規定の趣旨・目的等の考察に立ち入るべきである。法二九条一項に規定する「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」は文理解釈によつて直ちにその意味内容を理解することが可能であるから、第一審被告の主張するように、これを限定的に解釈することは許されない。

(2) 昭和四〇年の法の全文改正により、法定評価方法に関する規定では、改正前の法(以下「旧法」という。)のもとで、同法施行規則二〇条の三が「届け出た方法により、たな卸資産の評価をすることが困難なときは……税務署長は、……最終仕入原価により……当該たな卸資産の評価をなすことができる。」と規定し、同規則二〇条の二が「法人が……届出をしなかつた場合において、当該法人がよるべきたな卸資産の評価の方法は、……最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法とする。」としていたのを、改正により一本化するとともに、その内容面の簡素化、整備化を図つたものであり、これにより法定評価方法に関する定めも現行法のように実態的に改正されたのである。

(3) 第一審被告の後記(二)(3)の主張は争う。

(ア) 第一審被告が総平均法の基本的な考え方として説くところの「一定期間の製造原価の平均値を算出する」という点は、総平均法のみならず、これとは別個の評価方法として令に規定されている移動平均法(二八条一項一号ホ)及び単純平均法(同号ヘ)にも妥当する特質であり、総平均法の基本的考え方とすることはできない。

(イ) 法二九条一項は、評価方法の届出、変更申請といつた手続を介することなく、評価方法を最終仕入原価法に変更することを許容する規定であるから、評価方法の届出が製品ごとに行われるからといつて、法定評価方法の採用がこれに拘束されるいわれはない。

第一審原告は、本件において、「令二八条一項一号ニ所定の総平均法とは異なる評価方法によるべき意思」及び「当該評価方法が本件においては解釈上総平均法に含まれるとの理解」を有していたにとどまるのであつて、第一審被告のいう「総平均法によるべき意思」との表現は正確性を欠いている。

そもそも、法定評価方法の適用の有無を決するにあたり、評価主体の意思という客観的に不明瞭な事柄を判断材料として持ち込むことは、徒に課税法律関係を不明確にし、規定の文理から逸脱した結果を招来するもので不当である。

(ウ) 製品等の区分については、これを更に細分して、種類の異なるごと、その他合理的な区分ごとに細分して異なる方法を選定することが認められており、本件サーマルプリントヘッドもそれ自体で一個の独立の区分を認め得る余地のあるものである。

(エ) したがつて、第一審原告の採用した評価方法は、原審で主張したように、令所定の総平均法とは異なる方法であつても解釈上総平均法として認められるべきであり、仮に右の主張が認められない場合は、第一審原告は結果的に総平均法とは認められない方法を採用したことになるので、当然に法二九条一項の「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」に該当することとなるから、令三一条一項が適用されるべきである。

(オ) いかに多品種の部品を用いる製品であつても、種々の調査により最終仕入原価法による評価を行うことは可能である。最終仕入原価法は、期末直前に製造された製品及びその製造原価を把握することにより行うことができるもので、各種の評価方法のうちで、外部から評価を行うことが最も容易な評価方法であり、第一審被告が最終仕入原価法により評価することは十分可能である。

(4) 同(二)(4)の主張は争う。

(三)  従業員の香港旅行費用の一部負担について

(1) 本件旅行は第一審原告が企画立案したもので、第一審原告において全社的に参加者を募り、全従業員に参加の機会を与えたうえで、第一審原告主催のもとに挙行されている。また、所得税基本通達三六―三〇(以下「本件通達」という。)自体も旅行等への不参加者の存在を前提としているし、従来の課税実務でも、会社が企画し、有志が参加するスキー等の費用を会社が負担しても非課税とされている。したがつて、本件旅行における参加者の多寡と、本件旅行が右の社会通念上一般に行われていると認められる慰安旅行にあたるか否かとは直接関係がない。

(2) 会社が旅行費用を負担することにより役員・従業員が受ける経済的利益が非課税とされるか否かを決するにあたつては、従業員等の自己負担額をも含めた費用総額を重視すべきではなく、会社の負担した金額を問題とすべきであるから、本件旅行の一人当たりの費用総額を問題とする第一審被告の主張は失当である。

のみならず、本件旅行における一人当たりの旅行費用総額・従業員の自己負担額も、一人当たりの費用総額が一〇万円を超える慰安旅行が現に実施されている例があること、会社が慰安旅行費用のうち一部しか負担しない例が数多く存することからして、多額であるとはいえない。第一審原告と同規模企業が実施した慰安旅行における会社負担割合と比較しても、本件旅行のみが会社負担割合が高額に過ぎるということはできないし、第一審被告の課税実務の取扱からすれば、本件旅行における従業員の自己負担額の程度をもつて慰安旅行にあたらないとすることもできない。

(3) 本件旅行において第一審原告が負担額を従業員に現金として支給した事実はなく、第一審原告は右負担額を直接旅行業者に支払つている。したがつて、当然従業員によるその換金の問題を生じないから、これを、第一審被告の主張するように、現金支給と認める余地のないことは明らかである。

(4) 従来の課税実務において、本件程度の費用、参加者数をもつてなされた旅行につき、第一審被告主張のような理由付けでその非課税性を否認した例はない。第一審被告の主張は従前の課税実務に反し、第一審原告のみを不当に不利益に取り扱おうとするもので、失当である。

3  第一審被告

(一)  もえぎ会関係の支出について

(1) もえぎ会の独立性が否定されるべきものであることは、原判決認定のとおりである。もえぎ会と第一審原告の厚生委員会とは実体を一にしており、第一審原告の役員は右厚生委員会に出席して決定に関与している。

(2) また、バカンス制度は、昭和五三年までは第一審原告が直接行つていたものをもえぎ会がそのまま引き継いだものであるが、もえぎ会は、その支出金のうち、一六期には七五パーセント余り、一七期には八六パーセント余りを引継事項であるバカンス制度運営のため支出している。バカンス制度の運営に第一審原告が実質的に参画していることは明らかである。

(3) なお、第一審原告が、もえぎ会への拠出金のうち四分の三という圧倒的割合を負担しているのは、第一審原告の優良勤労者を表彰し、休暇や本俸を基準とした表彰金を支給するなど、本来、第一審原告自らが実施すべきことをもえぎ会に委ねているからであり、このことからももえぎ会は第一審原告の一部分にすぎず、独立した団体とはいえない。

(二)  サーマルプリントヘッドの期末たな卸資産の評価について

(1) 法は、法人に対し、たな卸資産の評価方法を令二八条あるいは二八条の二所定のものから選定することは許しつつも、評価方法として選定したものについては、その変更には税務署長の承認を要するものとし(令二九条二項、三〇条)、これにより、できる限り、毎期、評価方法を同一にして経理処理の継続性を図るとともに、法人の利益操作を目的とする恣意的な評価方法の変更を排除しようとしている。

かかる法の趣旨からすれば、法二九条一項にいう「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」とは、法人の選定した評価方法と法人が現実に採つた評価方法の相違の程度、内容、法人が現実にその評価方法を採るに至つた経緯及び意図、法人が他のたな卸資産について採つた評価方法等から判断し、当該法人の採つた現実の評価方法が、その選定にかかる評価方法と全く見る余地のない場合に限定して解釈すべきである。法人の選定した評価方法と法人の現実に採用した評価方法とを、ただ単に形式的に比較し、相違部分の存在をもつて右の「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」に当たると解釈することは、法人に対し、選定方法の変更についての税務署長の承認手続を経ることなく、恣意的な選定方法の変更を許すことになり、法人の利益操作を許す結果となつて不当である。届出方法と若干異なる評価をすれば直ちに最終仕入原価法によるとするのは、結果的に継続性を軽視することになり、妥当ではない。

(2) 第一審被告主張のように解釈すべきことは、昭和四〇年の法の全文改正の経過からも裏付けられる。すなわち、旧法九条の七を受けた同法施行規則二〇条の三は、「届け出た方法によりたな卸資産の評価をすることが困難なときは、……税務署長は、……更正又は決定をなす場合においては、……最終仕入原価法により……当該たな卸資産の評価をなすことができる。」と規定し、更正又は決定の場合でも通常は法人の選定した評価方法に従つて評価額を算定し、法定評価方法(最終仕入原価法)の適用は例外的な場合に限られることを明定していた。そして、旧法は昭和四〇年に全文改正されたが、その基本的な方針は、従来の法人税制を因襲する建前で行われたから、たな卸資産の評価方法に関する旧法当時の考え方は現行法のもとでも維持されるべきである。

(3)(ア) 本件において第一審原告が採用した現実の評価方法は、期末直前二か月間のサーマルプリントヘッドの総製造費用を同期間中の総製造数量で除した額を基準として算定する方法であつたが、右の方法は、一定期間の製造原価の平均値を算出するという総平均法の基本的な考え方と異なるものではなく、第一審原告は、製造上のロスがある場合には、製品の生産が軌道に乗つた期間についての製造原価の平均値によつても総平均法として差し支えないと考えて、本件のような評価方法を採つたものであり、総平均法の期間の採り方について誤つただけのものである。

(イ) また、一般に、たな卸資産の評価方法の選定単位については、個々の製品ごとの評価方法の選定も認められているが(令二九条、基本通達5―2―18)、第一審原告が総平均法によるとして届け出た選定単位は、単に製品、仕掛品、原材料等の区分にすぎず、製品等のすべてにつき総平均法を採用する旨届け出たものであるところ、第一審原告は、その製品のうちサーマルプリントヘッド以外のもの(一九種類)については、その選定した総平均法により評価していることや、その評価方法について変更申請をしていないことからも、第一審原告は、サーマルプリントヘッドについても、あくまでも総平均法によるとの意思であり、ただその期間を期末二か月をとつても総平均法として認められると誤解したにすぎないのである。

(ウ) たな卸資産の評価方法の届出は、「製品」「半製品」ごとに行われるのであるから、「製品」の一部分のものについてのみ評価方法を異にするのは妥当ではなく、「製品」につき全体的に届け出た方法によつているかどうかを判断すべきである。

(エ) 以上のような事実を考慮すれば、第一審原告の採用した評価方法は、いまだ法二九条一項にいう「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」には該当しないというべきであり、第一審被告が、第一審原告の選定した総平均法の正しい適用によつて、第一審原告のたな卸資産を評価したことには、何ら違法はない。

(オ) まして、第一審原告のように少量多品種の部品からなる製品を製造している企業において、その製品を最終仕入原価法により評価することは事実上不可能である。

(4) 青色申告制度のもとでは法人には自主的に適正な申告をなすことが期待されており、したがつてたな卸資産の評価方法は第一審原告が自ら選定した総平均法によることが期待されているのであるから、自ら選定した評価方法以外の評価方法である法定評価方法によるべきである旨を主張することは信義則に反するものである。

(三)  従業員の香港旅行費用の一部負担について

(1) 本件通達の趣旨は、①当該利益が、金銭による給付あるいは利益の給付ではなく、いわゆる現物給付であり、収入としての価格評価が困難であること、②慰安旅行等は会社主催の行事であり、従業員は雇用関係により事実上参加せざるを得ないこと、③経済的利益の価額が少額であること、④当該利益は、必ずしも希望したものではなく、自由に処分できるような性質のものではないこと、等により課税するのは適当でないというところにある。

したがつて、本件通達は、あくまで当該旅行の規模、参加・不参加の選択の可能性等により、慰安旅行として非課税とするかどうかを定めたもので、本件通達にいう「レクリエーションとして社会通念上一般に行われている慰安旅行」か否かの判断に際しては、当該旅行の企画立案、目的及び行程のほか、従業員の参加割合や会社の費用負担割合等を総合して判断すべきであり、使用者の負担額の多寡のみがその判断基準となるものではない。本件の海外旅行のように、使用者が一般にレクリエーションとして行う旅行といえるかどうか必ずしも明らかでない旅行については、従業員の勤労意欲の向上のために全従業員を対象として行われるという会社の福利厚生事業の本旨に鑑みると、従業員の参加割合や使用者たる会社の費用の負担割合が右の判断要素として重要となるというべきである。

(2) ところが、本件においては、参加者一人当たりの旅行費用は八万二七七一円であり、そのうち使用者が負担する額は二万九五八七円(約三五パーセント)と低額であり、従業員の自己負担額は五万三一九三円と多額なものとなつたことから(このように、従業員に高額の負担をさせるということは、従業員に対する現物給付としてのレクリエーション制を否定することにもなる。)、本件旅行への参加は従業員の全くの任意の自由選択に任されることとなり、その結果、参加者は従業員約四五〇名のうち一七一名(三八パーセント)にとどまつた。

(3) 右のことから明らかなとおり、本件旅行は、多額の自己負担を前提に、海外旅行を希望する特定の従業員のために企画されたものであり、右従業員ら有志による個人的旅行とみるのが相当であつて、その費用の一部を会社が援助したとみるべきである。

(4) したがつて、本件旅行は、本件通達にいう「レクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる」いわゆる慰安旅行とは到底いえないから、本件旅行には本件通達の適用はない。

本件香港旅行費用の一部負担は、旅行参加者本人が支払うべき旅行費用の一部を第一審原告が代払したものであり、現金支給(賞与)と認めるべきものである。

三  証拠<省略>

理由

一税務手続、本件各処分の理由

請求原因一のとおり、更正処分、納税告知処分その他の税務手続がとられたこと、請求原因二のとおりの基礎事実が存し、本件処分が理由として判断したことは、当事者間に争いがない。

二もえぎ会関係の支出

当裁判所も、もえぎ会関係についての第一審原告の主張は理由がないものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由説示(原判決一九枚目表六行目から同二二枚目裏七行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正

(一)  原判決一九枚目表八行目の「及び乙一六号証」を「、乙一五号証、乙一六号証、乙二三号証及び乙二七号証」と訂正する。

(二)  同裏一行目の「一月」を「五月」と訂正し、二行目の「団体であつて」の次に「、各事業所ごとに単位としてのもえぎ会があり、これをまとめるものとして、全社のもえぎ会があつた(以下特に区別しない限り、もえぎ会とは全社のもえぎ会をいう。)。もえぎ会では」を加える。

(三)  同七、八行目の「各事業所から選出された者のほかに」を次のとおり訂正する。

「細かな事業については各事業所の単位としてのもえぎ会で選出された者によりなされていたが、全社的な行事を決定する際など主要な事業に関しては」

(四)  同末行の「なかつた。」から同二〇枚目表二、三行目の「話合われた。」までを次のとおり訂正する。

「なかつたが、会議においては、右の原告役員らの発言が重視されていた。ところで、原告には、昭和五五年五月ころ、社員の福利厚生を総合的に検討する機関として厚生委員会が設けられたが、各事業所にあるもえぎ会で選出された者は自動的に厚生委員会の委員となつており、同委員会の会議では、従業員の福利厚生に関する事項だけではなく、もえぎ会に関する事項も一緒に検討され、これらに関する決定がなされた。」

(五)  同六行目の「出席していた。」を「出席し、その発言は前記事項の検討、決定にあたつて尊重されていた。」と訂正する。

(六)  同裏九、一〇行目、同二一枚目表一行目、四行目、同二二枚目表一〇行目の「旅行費」をいずれも「旅行券」と訂正する。

(七)  同二一枚目裏四行目の「事業」の前に「主要な」を加え、末行の「しているのである。」の次に、改行のうえ、以下のとおり加える。

「右にみたとおり、もえぎ会の事業経費の大部分は原告が負担しているのであつて、もえぎ会が資金的に原告から独立しているとはいえないし、もえぎ会の組織状況、もえぎ会への原告役員の出席状況、その指導的役割、バカンス制度への原告の関与の程度等からすると、もえぎ会の事業の運営については原告が参画しているというべきである。」

2  第一審原告の当審における主張について

前記引用にかかる原判決認定のとおり(但し、前記1で補正後のもの)、もえぎ会は、代表の方法、運営方法等も確立しておらず、独立した団体と認めるに足りるだけの組織的実体を有していたとは到底いえない。第一審原告に設けられた厚生委員会では、各事業所の単位としてのもえぎ会から選出された者は自動的に同委員会の委員になつているのであり、もえぎ会に関する事項も、第一審原告役員の出席のもとに同委員会で検討、決定されているのであるから、もえぎ会は第一審原告の厚生委員会に従属するものというべきである。

もえぎ会の運営にあたつては、中心的な事業であるバカンス制度について第一審原告が最終的に決定しているのをはじめ、その主要な事業の検討、決定、遂行について第一審原告が参画しているのであり、もえぎ会が第一審原告から独立しているとはいえない。第一審原告の主張は理由がない。

三サーマルプリントヘッドの期末たな卸資産の評価

1  次の(一)、(三)、(五)の事実は当事者間に争いがなく、(四)の事実は第一審原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。また、(二)の事実は<証拠>によつて認める。

(一)  第一審原告は、本件係争年度の時点では、たな卸資産の評価方法として総平均法による原価法を選定して届出ていた。

(二)  サーマルプリントヘッドは、プリンターの印字部分に使用される電子部品であり、第一審原告は昭和五三年からその製造を開始した。本件係争年度当時、サーマルプリントヘッドは、試作品、改良品、新製品の開発競争が激しいため、開発費用の負担が大きく、また製品が開発途上にあることから歩留まりも悪いうえ、顧客の希望を把握するため多品種を少量生産する関係上製造費用も多額にのぼり、年度前半は殊に、これらの費用負担が過大で、販売価格をかなり上回つていた。

第一審原告は、本件係争年度のサーマルプリントヘッドの総製造数量、総製造費用を明らかにした資料を有しており、サーマルプリントヘッドについても届出済みの総平均法による評価をすることができたが、総平均法をそのまま適用すると、一七期では製造原価が販売価格を上回るため利益が過大に計上され、反面翌期には売上利益が過少となつて、適正な期間損益を示すことができないと考え、同期の法人税確定申告において、意識的に次の評価方法を選んで申告した。

(三)  すなわち、第一審原告は、一七期の法人税確定申告において、サーマルプリントヘッドの製品及び仕掛品の期末たな卸額を、同期末直前二か月間のサーマルプリントヘッドの総製造費用を同期間中の総製造数量で除した額を基準として算定する方法(以下「第一審原告の評価方法」という。)で、二七一八万二八五〇円と評価した。

(四)  他方、令二八条一項一号二に定める総平均法の方法により第一審原告の一七期末の右たな卸資産の評価をすると、原判決添付別表3のとおり四七三九万四七七〇円となる。

(五)  第一審被告は、サーマルプリントヘッドの製品及び仕掛品の一七期末たな卸資産評価額を総平均法により右(四)の額と判断して、更正処分等をした。

2 令二八条一項一号二の総平均法とは、「……当該事業年度開始の時において有していた……たな卸資産の取得価額の総額と当該事業年度において取得した……たな卸資産の取得価額の総額との合計額をこれらのたな卸資産の総数量で除して計算した価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」であるが、第一審原告の評価方法は、事業年度開始の時において有していたたな卸資産の取得価額の総額とその数量を全く考慮しておらず、当該事業年度において取得したたな卸資産についても、期末直前二か月間に取得したもの以外は一単位当たりの取得価額の算出上考慮していないのであるから、これらの点で総平均法と異なつている。そうである以上、前記1(二)の事情があるとしても、第一審原告の評価方法をもつて令二八条一項一号二に定める総平均法とみることはできない。第一審原告の評価方法も総平均法として容認されるべきであるとの第一審原告の主張は理由がない。

3(一) 法二九条一項、令三一条一項は、法人が評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した評価の方法により評価しなかつた場合には、最終仕入原価法により評価する旨規定しているので、本件においては、第一審原告の評価方法が第一審原告が選定した評価方法である総平均法により評価しなかつた場合として、最終仕入原価法を適用すべきかが次に問題となる。

(二)(1) たな卸資産の価額は、原則として、令二八条あるいは令二八条の二所定の評価方法の中から法人が選定した評価方法により評価した金額とされ(法二九条)、ただ法人が評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した評価の方法により評価しなかつた場合に、最終仕入原価法により評価することになるのである(法二九条一項かつこ書、令三一条一項)。そして、法人は、選定した評価方法を一定期限までに届け出ることが義務付けられているし(令二九条二項)、法人が選定した評価方法を変更するには税務署長の承認が必要とされ(令三〇条一項)、変更しようとする評価の方法によつては法人の所得金額の計算が適正に行われると認め難いときなど、一定の場合には税務署長は変更申請を却下できるものとされている(令三〇条三項)。

右各規定からすれば、法は、法人がたな卸資産の評価方法を令所定のものから選定することは許しつつも、その変更については極めて慎重な態度をとつているといえる。これは、経理処理の継続性を図り、できる限り毎期の評価方法を同一にして利益計算の一貫性を確保しようとするもので、会計処理の原則の一つである継続性の原則を重視するとともに、反面、安易な評価方法の変更によつて法人による恣意的な利益操作がなされることを排除しようとしたものと解される。

(2) かかる法の趣旨からすれば、法二九条一項にいう「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」にあたるとして最終仕入原価法による評価をすることは、他に評価する方法がないため、例外的に法の重視する継続性の原則を犠牲にすることを余儀なくされるときにほかならないから、右の「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」とは、法人が採つた現実の評価方法と当該法人が選定した評価方法を対比し、その相違の程度、内容からみて、法人の採つた現実の評価方法が、当該法人が選定した評価の方法とその基本的考え方を異にし、両者が同一性を有しないと認められる場合を意味するものと解釈すべきであり、法人が現実に採つた評価方法と当該法人が選定した評価方法に形式的に異なる部分があつても、両者が同一性を有すると認められる場合は、法の重視する継続性の原則を犠牲にする必要はないから、いまだ「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」とは認められないと解するのが相当である(右の「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」の中に、法人が現実に採つた評価方法と当該法人が選定した評価方法とが異なるすべての場合が含まれると広く解するのは、法の重視する継続性の原則を無視するものであつて、法人の利益操作を許すことにもなりかねないから、採用できない。)。

(3) もつとも、法が、法人が選定した評価の方法により評価しなかつた場合は最終仕入原価法により評価するとした(法二九条一項、令三一条一項)こと自体、また法人が選定した評価方法を変更できる(令三〇条)ことから、法は、評価方法が異なることがあり得るのを認めているとはいえるが、前者は、右のとおり、他に評価の方法がない場合の例外的な処理を定めたものであるし、後者の場合は、評価方法の変更について税務署長の承認を要する(一定の場合は却下される。)として、評価方法の変更についての合理的な理由の存在が担保されているといえるから、前記の解釈の妨げとなるものではない。

(4) なお、昭和四〇年の法の全文改正により、旧法九条の七を受けた同法施行規則二〇条の三で「法人がその有するたな卸資産の評価についてその届け出た評価の方法によつていない場合において、その届け出た方法によりたな卸資産の評価をすることが困難なときは、……税務署長は、……更正又は決定をなす場合においては、……最終仕入原価法により……当該たな卸資産の評価をなすことができる。」とされていたのが、法二九条、令三一条のように改められたのであるが、旧法施行規則二〇条の三が、法文上、法人の届け出た方法により評価することができることを前提としているのに対し、令三一条はこれを欠いており、両者に差異があるとはいえるが、右の改正の経過からは、法定評価方法に関する法の定めが実態的に改正されたとまでいえるかは明らかでないから、結局は、法二九条の合理的な解釈によるべきもので、法改正の沿革は、同条一項の「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」の解釈の決め手となるものではない。

(三)(1) 第一審原告は、法二九条一項の「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」を限定的に解釈することは、課税関係を不明瞭ならしめ、租税法規の明確性の原則に反すると主張するので検討する。

(2) 租税法律主義の原則上、課税要件は実定法上明確に規定されていることが要求されるのであり、租税法規の定めはできるだけ明確かつ一義的であるのが望ましく、この点は、納税者の課税に対する予測を可能ならしめ、法的安定を確保することからも必要なことである。

したがつて、租税法規の解釈適用にあたつては、もとより法の文言を重視すべきことはいうまでもないが、租税法規は、究極的には租税正義の実現を図ろうとするものであるから、租税の公共性、公平負担の原則等租税法の基本原則を踏まえつつ、法規の目的に照らし、その経済的、実質的意義を考慮して、合理的、客観的に解釈すべきである。

(3) これを法二九条一項にいう「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」の解釈についてみるに、前記(二)(1)のとおり、法は経理処理の継続性を重視しているのであるから、右の「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」にあたるとするためには、法人のした評価方法が選定した評価の方法と異なるため、他に評価の方法がなく、継続性の原則を犠牲にするのもやむを得ない場合をいうものと解するのが法の趣旨に合致するといえる。そして、法人が現実に採つた評価方法が既に選定した評価方法と形式的に異なつていても、その基本的考え方において共通し、同一性を有するときは、継続性の原則を犠牲にする必要は存しないから、この場合は「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」にはあたらず、右の同一性を欠いたときに「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」にあたるとするのが法の趣旨に沿つた合理的、客観的な解釈であるというべきである。

右の同一性を有するときは、当該法人としては自己の選定した評価の方法によつて評価されることを予期できるから、格別課税要件の予測が不可能とはいえないし、自らが選定した評価の方法によつて評価される以上、このように解しても当該法人に不利益となるとはいえない。

(4) なお、第一審被告は、法人が現実にその評価方法を採るに至つた経緯及び意図、法人が他のたな卸資産について採つた評価方法等も考慮して、当該法人の採つた現実の評価方法が、その選定にかかる評価方法と全く見る余地のない場合に限定して解すべきであると主張するが、評価方法を採るに至つた経緯は単なる縁由にすぎないし、法人の意図も必ずしも客観的に明確な事柄ではなく、また、法人が他のたな卸資産についていかなる評価方法を採つたか否かは、当該たな卸資産について法人の選定した評価方法ないし現実に採つた評価方法とは直接に関係しないから、これらの事情までも考慮するのは相当でない。したがつて、第一審被告主張のようにまで狭く解釈するのは正当といえず、前記(二)(2)のように解釈することが客観的、合理的な解釈というべきである。

(四)(1) そこで、第一審原告の評価方法が総平均法と基本的考え方を同じくし、両者が同一性を有すると認められるかについて検討する。

(2) 総平均法は、たな卸資産について、期首時に有していた取得価額の総額と当期に取得した取得価額の総額との合計額を総数量で除して計算した単価をもつて期末評価額の基礎となる原価とする方法であるから、その基本的な考え方は、一定期間の取得価額の総額を総数量で除して得た製造原価の平均値を算出することによつてたな卸資産の評価をしようとするものといえる(期首時に有していた取得価額の総額とその数量も、一定期間の取得価額の総額、総数量を算出する関係で必要となるにすぎないから、これらも含めて、総平均法の基本的な考え方は右のように把握できる。)。

そして、第一審原告の採つた評価方法も、期末二か月間に限定しているとはいえ、その間の総製造費用を総数量で除して得た製造原価の平均値を基準としてたな卸資産の評価をするものであるから、その考え方は総平均法と基本的な考え方を同じくし、両者は同一性を有するものというべきである。

(3) なお、令において、総平均法とは別個の評価方法として、移動平均法(令二八条一項一号ホ)及び単純平均法(同ヘ)が規定されているが、移動平均法は、たな卸資産を取得するつど取得総額を取得した数量で除して得た平均単価を、そのたな卸資産の一単位当たりの単価としていく方法であり、単純平均法は、取得価額に異なるものがある場合に、その異なるものだけを合計し、その合計額をその異なる取得価額の数で除して得た平均単価をたな卸資産の一単位当たりの単価とする方法であり、いずれも一定期間の製造原価の平均値を算出するという点では共通するものであるが、これらは取得価額の総額を総数量で除するものではない点で総平均法と異なる。第一審原告の評価方法は、一定期間の総製造費用を総製造数量で除した額を基準としているので総平均法と基本的考え方を同じくするものといえるが、移動平均法、単純平均法とは異なるものである。

(五) したがつて、第一審原告の採用した評価方法は、総平均法と基本的考え方を同じくし、同一性を有するものであり、ただその計算の基礎とした対象期間を誤つたものというべきであるから、いまだ法二九条一項にいう「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」にあたるとすることはできない。

そうすると、第一審原告の一七期末のたな卸資産の価額を、選定した評価の方法である総平均法の正しい適用により原判決添付別表3のとおりたな卸資産の評価をした第一審被告の法人税更正処分には違法はない。

四従業員の香港旅行の一部負担

当裁判所も、第一審原告が支出した右の旅行費用負担額は所得税法上課税の対象となるものではないと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由説示(原判決二五枚目裏一〇行目から同二八枚目裏六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正

(一)  原判決二六枚目表一行目の「乙一九号証、」の次に「乙二三号証、乙二四号証」を加え、七行目の「右の香港旅行」の前に次のとおり加える。

「さらに、もえぎ会は、右の香港旅行について直接費費用額として一人当たり七五〇〇円相当額を支出したほか、家族を含めた総参加者二〇四名のために空港までの交通費等の間接費用額として一〇七万五三八〇円を支出したので、参加者一人当たりの間接費用額として五二七一円相当額を支出したことになる。」

(二)  同九行目の「あつた。」を「あり、原告が企画立案して主催し、全従業員を対象に参加者を募集したうえ実施された。」と訂正する。

(三)  同裏三行目の「基本通達三六−三〇」の次に「(本件通達)を加え、九行目の「対して」を「対し」と、末行から同二七枚目表一行目にかけての「課税しなくても」を「課税しなくて」と各訂正する。

(四)  同三行目の「二万円」を次のとおり訂正する。

「二万九五七八円(原告の直接の負担額は二万円であるが、前記第二の二のとおりもえぎ会は原告から独立した団体とは認められないから、もえぎ会の支出した直接・間接の費用額一人当たり合計一万二七七一円の四分の三にあたる九五七八円は原告が負担したものというべきである。したがつて、本件香港旅行についての原告負担額の合計は二万九五七八円である。)」

(五)  同裏一〇行目の「来ており」の次に「(この事実は、成立に争いのない甲四号証、乙一八号証及び弁論の全趣旨によつて認める。)」を加え、三行目と同二八枚目表五行目の「二万円」をいずれも「二万九五七八円」と訂正する。

2  第一審被告の当審における主張について

(一) 本来、使用者が役員又は使用人の参加を求めて行うレクリエーション行事につき、その費用を使用者が負担することは、レクリエーション行事に参加した使用人らにとつてはその分の経済的利益を受けることになるから、右利益相当分は使用人ら個人の所得として課税されるべきであるが(所得税法三六条一項)、本件通達は、「使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる行事の費用を負担することにより、右行事に参加した使用人らが受ける経済的利益については課税しなくて差支えない。」旨規定し、税務当局は右の経済的利益については非課税とする取り扱いをしている。

(二) 本件通達は、①使用人らは、雇用されている関係上、必ずしも希望しないままレクリエーション行事に参加せざるを得ない面があり、その経済的利益を自由に処分できるわけでもないこと、②レクリエーション行事に参加することによつて使用人らが受ける経済的利益の価額は少額であるのが通常であるうえ、その評価が困難な場合も少なくないこと、③使用人らの慰安を図るため使用者が費用を負担してレクリエーション行事を行うことは一般化しており、右のレクリエーション行事が社会通念上一般的に行われていると認められるようなものであれば、あえてこれに課税するのは国民感情からしても妥当ではないこと等を考慮したものと解され、合理性を有するものといえる。

(三) したがつて、本件旅行が本件通達にいう社会通念上一般的に行われていると認められるレクリエーション行事にあたるか否かの判断にあたつては、本件旅行の企画立案・主催者、旅行の目的・規模・行程・従業員の参加割合、第一審原告及び参加従業員の負担額、両者の負担割合等が総合的に考慮すべきであるが、右(二)①ないし③の趣旨からすれば、第一審被告が重視すべきであると主張する、従業員の参加割合、参加従業員の費用負担額ないし第一審原告と参加従業員の負担割合よりも、参加従業員の受ける経済的利益、すなわち本件旅行における第一審原告の負担額が重視されるべきである。

けだし、右の経済的利益が多額であれば非課税とする根拠を失うのに対し、従業員の参加割合、参加従業員の負担額、第一審原告と参加従業員の負担割合は、本件旅行がレクリエーション行事といえるかどうかの判断について考慮すべき事項であるとはいえても、自ら、どの程度の費用を負担してレクリエーション行事に参加するか否かは最終的には従業員が決定すべき事柄であつて、参加しない者も予定されるからである。

(四) そこで、右の観点から、本件旅行が社会通念上一般的に行われていると認められるレクリエーション行事にあたるか否かについて検討する。

(1)  前記引用にかかる原判決認定のとおり(但し、前記1で補正後のもの)、本件旅行は、第一審原告が企画立案・主催したもので、全従業員を対象にして参加者を募集したうえ、第一審原告社内の親睦と従業員の勤労意欲向上を目的として行われたレクリエーション行事である。本件旅行の日程は二泊三日であり、行先は比較的近距離の香港であるが、海外旅行であることから、レクリエーション行事としての目的に一層叶う面があるといえる。

(2)  本件旅行には従業員約四五〇名のうち一七一名(三八パーセント)が参加しており、右の目的を達成するのに支障のない程度の参加者数である。

(3)  従業員の自己負担額は五万三一九三円(参加者一人当たりの直接費用額七万七五〇〇円に同間接費用額五二七一円を加えた額から第一審原告負担額二万九五七八円を差し引いた額)であるが、この額自体もレクリエーション行事として不相当な程に多額であるとまではいえないし、現に相当数の従業員が参加している。

(4)   第一審原告の費用負担額、すなわち参加従業員の受ける経済利益は一人当たり二万九五七八円であり、少額といつて差支えない。このことは、本件旅行が本件通達の適用を受けるか否かの判断にあたつて重視されるべきである。第一審原告の費用負担割合は、約三五パーセントとなるが、これをもつて低率に過ぎるということもできない。

(五) 以上の点を総合考慮すると、本件旅行が海外旅行であるからといつてこれを特別視する必要はなく、本件旅行は、本件通達にいう、「レクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる」行事であると認定するのが相当であり、本件旅行についての第一審原告の負担額は、本件通達により非課税扱いとなるべきものである。第一審被告の主張は理由がない。

五結論

以上の説示によると、第一審原告に対する昭和五六年一二月分の源泉徴収所得税納税告知処分及び不納付加算税決定処分のうち、右四に対応する部分、すなわち源泉徴収所得税納税告知処分のうち税額四万一一〇〇円を超える部分及び不納付加算税決定処分の全部は違法であるから、これを取り消すべきであるが、その余の本件各処分は適法であるから、第一審原告その余の請求は棄却すべきである。

よつて、第一審被告の控訴に基づき、これと一部趣旨を異にする原判決を主文第一項のとおり変更することとし、第一審原告の控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官田坂友男 裁判官辰巳和男 裁判官山口幸雄)

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