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大阪高等裁判所 昭和61年(行ス)6号 決定 1986年9月10日

第八号事件抗告人・第六号事件相手方

(以下「原審申立人」という)

阿部満雄

右代理人弁護士

岩嶋修治

宮地光子

関戸一考

乕田喜代隆

田窪五郎

藤木邦顕

第六号事件抗告人・第八号事件相手方

(以下「原審相手方」という)

東大阪税務署長

粕淵重治郎

右指定代理人

小林克巳

外四名

主文

一  原決定中原審相手方に文書提出を命じた部分を取り消す。

二  本件文書提出命令申立てのうち、基本事件における推計課税のため抽出した同業者中、昭和六〇年九月一七日付原審相手方(被告)準備書面別表三に表示する東大阪税務署管内のA及びBについての各昭和五五年分ないし昭和五七年分の青色申告決算書(青色申告書添付の決算書一切)の写(申告者、税理士の住所・氏名・電話番号、事業所の名称・所在地、従業員の氏名等の固有名詞を削除したもの)の提出を求める部分を却下する。

三  原審申立人の抗告を棄却する。

四  申立費用は原審、当審とも原審申立人の負担とする。

理由

一原審申立人の抗告の趣旨及びその理由は別紙(一)記載のとおりであり、原審相手方の抗告の趣旨は「原決定中原審相手方に文書提出を命じた部分を取り消す。本件文書提出命令申立てを却下する。」との裁判を求めるというにあり、その理由は別紙(二)、(三)、(四)、(五)、(六)、(七)記載のとおりであり、これに対する原審申立人の反論は別紙(八)、(九)記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  民訴法三一二条ないし三一四条所定の文書提出命令の制度は特定の文書の原本が現存することを前提とし、これを所持する訴訟当事者若しくは第三者にその提出を命ずるものであつて、右文書の現存と提出命令を申立てられた相手方が右文書を所持することは申立人において主張立証すべきものであつて、その作成がいかに容易であつても、現存しない文書を作成した上、これを提出すべきことを命ずることは文書提出命令の制度には含まれないというべきである。

これを本件についてみるに、一件記録によれば、相手方等税務署長を被告とする推計課税の取消訴訟において、被告は右推計の合理性の立証につき、過去においては、同業者に対する守秘義務のために青色確定申告決算書の原本又は写は提出できないために、税務署において、右申告決算書をもとにして、その申告者氏名住所その他申告者の特定にかかわる事項を削除した写(以下「氏名等削除申告書写」という)なる別個の文書を作成して、これを提出した例があつたが、その後右写によつても守秘義務の遵守に不安があるとして右立証方針を変更し、少し以前より、氏名等削除申告書写の作成提出にかえ、国税局長の通達に応じて、各税務署長が同通達が指定する、特定同業者に関する特定事項(売上金額、同原価、経費等)を右業者の青色申告決算書及びその他の資料に基づき調査報告した文書(以下「同業者調査表」という)によることが多くなり、本件基本事件においても、原審相手方は推計課税の合理性の立証方法として同業者調査表により、申告者名等削除申告決算書写を作成して立証に供するつもりもないことが認められ、他に一件記録によるも、原決定が提出を命ずる同業者A、B作成の昭和五五年ないし同五七年分の青色申告決算書のうち、A、Bの特定にかかわる固有名詞部分を削除した写が原審相手方その他税務関係行政庁関係者、若しくは同業者等の誰かにより作成されて現存すること、及び原審相手方が右写を所持することを認めることができない。

そして右写が、氏名秘匿者A、Bの各年度の青色申告決算書記載事項を報告する趣旨内容の税務担当公務員作成にかかる文書として、原資料たる右A、B作成の青色申告決算書とは、作成者、趣旨内容を異にする別個の文書であることはいうまでもなく、また、文書提出命令は、現存するあるがまゝの文書原本の提出を命ずるに止まり、右原本により新たな趣旨内容の異なる別個の文書を作成の上提出を命ずることまで含むものでないことは前叙のとおりである。

そうだとすると、原決定がいうとおり、本件文書提出命令の申立てが原決定主文掲記の前記A、B名義の青色申告決算書のうち氏名住所等A、Bの特定にかかわる事項を削除した写をも予備的に提出を求めるものであるとしても、その現存及び原審相手方の所持が認められないのであるから、その余の点につき考えるまでもなく右予備的申立部分は理由がないという外ない。相手方の以上と異なり右写の現存を問わずに提出を命ずべきとする所論は独自の見解で採りえない。

2  原審申立人の本件文書提出命令申立てのうち、本件各青色申告決算書の原本それ自体の提出を求める部分については、当裁判所もその理由がないものと判断するが、その理由は、原決定の理由説示のうち第三の二、四(但し、原決定七枚目裏一〇行目から八枚目裏一行目まで)の説示と同一であるからこれを引用する。

3  よつて、双方のその余の主張につき考えるまでもなく、前記予備的文書提出命令の申立を認容した原決定は相当でなく、原審相手方の抗告は理由があるというべく、原決定を取り消し、右予備的文書提出命令申立てを却下することとし、原審申立人の抗告は理由がないからこれを棄却し、申立費用は、原審、当審とも原審申立人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官首藤武兵 裁判官奥輝雄 裁判官杉本昭一)

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