大阪高等裁判所 昭和62年(う)1245号 判決 1988年2月24日
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
本件各控訴の趣意は、被告人両名の弁護人正木孝明作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
論旨は、要するに、被告人Yは、A子を被告人X観光株式会社(以下、単に被告人会社という。)の従業員として雇い入れるに際し、同人及びその内縁の夫と面接し、履歴書を提出させるなどして年令を確認したうえ、A子方に電話をしてその記載の裏付け調査をし、かつ住民票を持参するよう指示したのであるから、通常人が従業員を採用するに際して用いる注意義務を尽しており、同人が一八才未満であることを知らなかったことについて過失がなかったというべきであるのに、原判決が、右の調査の程度では年令確認に万全を期したとはいえず、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法と略称する。)四九条四項所定の無過失の場合にあたらないとして、被告人両名に対し、原判示各関係罰条を適用して有罪を言い渡したのは、右法条の解釈適用を誤ったもので、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤りがある、というのである。
そこで、所論にかんがみ記録を調査して検討するのに、原判決挙示の各証拠によれば、被告人会社はその経営にかかるパチンコ店の従業員をかねてから新聞広告などにより募集していたところ、A子がその内縁の夫Bとともに昭和六一年七月三日これに応募してきたので、同会社の営業課長兼人事課長である被告人Xが同日右両名に面接したこと、A子は当時一六才で、右従業員として採用可能な年令に達していなかったため、予めBにおいてA子の年令を一八才と偽った同人名義の履歴書を作成し、これを右面接の際被告人Xに提出したが、同被告人は右記載の正確性をA子らに問い質すこともせず、同人の体格、服装のほか、成人のBと既に同棲していることなどから、A子が一八才に達していると認めて、それ以上の調査をすることなく、即座に同人を右パチンコ店の従業員として雇い入れたこと、その後、被告人Xにおいて、約束の時間に出勤しなかったA子の所在を確かめるため同人方に電話をしたことがあったが、その際応接に出た家人にA子の年令を確認することもせず、また同人に住民票の持参を求めたが提出されないまま今日に及んでいることが認められる。
右事実によると、被告人Xは、Bが作成したA子名義の履歴書の記載のほか、右両名の供述、A子の体格、服装及び既に同棲生活をしていることなど、主として面接時における外観的事情に基づいて、A子の年令を一八才以上と認定したものと認められるところ、風営法四九条四項が、年少者の健全な育成を図る趣旨から、同条項所定の一定の罪につき、雇主において一八才未満の者の年令を知らなかったとしても、そのことについて過失のないときを除いて、処罰を免れないとした法意にかんがみると、右の過失がないといえるためには、雇主が、本件について右に認定したような外観的事情に依拠して、その者が一八才以上であると信じたのみでは足りず、さらに進んで本人の戸籍抄本、住民票などの信頼しうる客観的資料を提出させたうえ、これについて正確な調査をするなど、社会通念上、風俗営業を営む者として、その年令調査の確実を期するために可能な限りの注意を尽したといえることが必要であると解される。
そうすると、右と同旨の見解に立って、被告人Xの本件における年令調査が不十分であったとして、A子の年令を知らなかったことにつき、同被告人に過失がなかったとはいえないとした原判決の判断は相当であって、原判決に所論のような法令の適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。
よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大西一夫 裁判官 谷村允裕 瀧川義道)