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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)432号 判決 1987年11月10日

第三九七号事件控訴人(第四三二号事件被控訴人、以下「第一審原告」という。)

辰巳元尉

右訴訟代理人弁護士

津乗宏通

第三九七号事件被控訴人(第四三二号事件控訴人、以下「第一審被告」という。)

株式会社太陽

右代表者代表取締役

常包安紀

右訴訟代理人弁護士

井原紀昭

高田勇

中村潤一郎

主文

原判決を次のとおり変更する。

第一審被告は、原判決添付物件目録(一)記載の建物に設置した原判決添付看板の表示記載の看板を撤去せよ。第一審被告の本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一  第一審原告

1  主文第一ないし第四項同旨

2  主文第二項につき仮執行の宣言

二  第一審被告

1  原判決中、第一審被告敗訴の部分を取り消す。

2  第一審原告の請求を棄却する。

3  第一審原告の本件控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

第二  主張及び証拠関係

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表八行目の「記載(一)」を「(一)記載」に、同九行目の「記載(二)」を「(二)記載」にそれぞれ改め、同裏二行目の「売買契約により」の次に「第一審被告から」を、同三行目の「以来」の次に「これに」をそれぞれ加え、同六行目の「外壁上部」を「上方にある外壁部分」に改め、同七行目の「看板」の次に「の」を加え、同九行目の「本件看板」から同三枚目表九行目の末尾までを次のとおり改める。

「しかし、本件看板の設置は、次のとおり本件マンションの管理規約(以下、本件看板設置当時のものを「旧規約」、昭和六一年七月二〇日新たに設定されたものを「新規約」という。)及び建物の区分所有等に関する法律(以下「建物区分法」という。)に違背し、許されないものである。

(一)  本件パラペット部分は、本件マンションの外壁であり、基礎・屋根と同じく物理的に建物存立の基本をなす部分であるので、構造上共用に供されるべき「建物の部分」とみて、建物区分法上の法定共用部分に該当すると解すべきである。けだし、外壁は、ビルディング・マンション等にあつては、その外観上、色彩やエレベーションなど統一性が要請され、区分所有者が個々に勝手に色を塗り変えたり、文字を表示したり、袖看板等を取り付けたりすることは許されないと解するのが妥当であるからである。

ちなみに、新規約では、本件パラペット部分は九条三項の「住宅等の躯体部分」、「屋根・外壁面」に該当し、「組合が管理するもの」として「管理共有物」と定められている。

(二)  本件看板の設置は、旧規約や建物区分法にいう共用部分の変更行為に当たるところ、旧規約及びそれに関する使用細則は、共用部分上の看板・掲示板の設置等共用部分の変更は区分所有者全員の合意がなければできないと規定している(同法一七条の規定も同趣旨である。)。

第一審被告は、本件マンションの前記店舗及び車庫部分の区分所有者であり、同マンションの管理組合の組合員である。しかるに、本件看板の設置は、右管理組合及び自治会に無断でなされ、また、第一審原告が原告居宅を購入するに際しての物件説明にも本件看板設置の説明はなかつた。

したがつて、本件看板の設置は、旧規約の定めや建物区分法の規定に違背し、許されないものである。

(三)  仮に本件看板の設置について新規約が遡及的に適用されるものとしても、新規約五四条三号は共用部分に看板・掲示板等を設置するには理事会の承認が必要である旨定めているところ、本件看板の設置は、理事会の承認を受けていないから、新規約の定めにも違背し、許されないものである。」

二  同三枚目表一一行目の「かつ」から同裏一行目の「理由に」までを「旧規約(ないし新規約)の規定に基づき、又は共用部分から生ずる物権的請求権(保存行為)に基づき、」に改め、同五行目の「事実のうち、」の次に「第一審被告が第一審原告主張のとおりの区分所有者であり、管理組合の組合員であること、」を、同七行目の末尾に「本件看板設置の説明は」をそれぞれ加え、同八行目の「及び」から同九行目の「あること」までを削り、同行の次に改行のうえ左のとおり加える。

「(一) 本件パラペット部分が共用部分であるか専有部分であるかは、一般的、抽象的にパラペット部分の定義から演繹的に定められるものではなく、同部分の具体的態様から帰納的に定められるべきである。

右の観点からすると、本件パラペット部分は、本件マンションの一階店舗部分の区分所有者が広告等に利用するため、わざわざ同マンションの外壁から突出して設置されたものであり、同建物存立の基礎をなす部分ではない。他方、その位置・構造から考えて、本件マンションの住居部分の区分所有者が本件パラペット部分を利用することは全く考えられず、一階店舗部分の区分所有者が当該部分に広告用の看板を設置したからといつて、住居部分の区分所有者の利益を阻害することはない。

以上のような本件パラペット部分の構造・設置目的・利用の実際から考えれば、当該部分は一階店舗部分に附属したその専有部分である。

ちなみに、新規約九条二項は、本件マンションの共用部分として管理事務所、共用の玄関・ホール、住宅のバルコニー、エレベーター設備等を限定的に列挙しており、この点からみても、本件パラペット部分は共用部分に該当しない。

(二) 法律上、一般に共用部分の変更とは、その形状又は効用を著しく変えることであると定義されている。ところが、本件看板の設置は、本件パラペット部分に鋼板製の看板及び時計塔をビスで取り付けただけであり、その撤去はきわめて容易なものである。

また、旧規約九条(1)が、共用部分の変更につき区分所有者全員の合意という厳重な要件を課した趣旨からすれば、右共用部分の変更とは区分所有者全員の利害に影響を及ぼす重要な行為であることが必要である。ところが、一階店舗部分の区分所有者が本件パラペット部分に広告用看板を設置することは各区分所有者(主として住居部分の区分所有者)において入居時に当然に予想していたことなので、その性質上、区分所有者全員の利害に重大なる影響を及ぼすものとはいえない。

以上に述べたところからすれば、本件看板の設置は共用部分の変更に該当しないこと明らかである。」

三  同三枚目裏末行の冒頭に「1」を加え、同行の「本件パラペット部分」から同四枚目表一行目の「ないが、」までを削り、同行の「右」を「本件」に、同三行目の「新たな管理組合規約」及び同六行目の「右管理組合規約」をいずれも「新規約」にそれぞれ改め、同一一行目の「すなわち、」の次に「右大崎氏の答弁は前組合長として右管理組合を代表してなした発言であるから、これにより、」を、同末行の末尾に続けて「したがつて、一組合員である第一審原告が第一審被告に対し本件看板の撤去を求めることは、新規約五四条の解釈上、許されない。」をそれぞれ加え、さらに同行の次に改行のうえ左のとおり加える。

「2 マンション一階店舗部分の外壁の一部には、同店舗部分の入居者が広告用の看板を設置するのが通例である。したがつて、マンションの区分所有者は当然これを予想し、認容するのが常であるから、第一審被告は本件マンションの分譲に際し、第一審原告ら買主との間で、本件パラペット部分に看板設置のための専用使用権を留保する旨の明示の契約は結んでいないけれども、右分譲に当たり、買主との間で右専用使用権設定契約が黙示に締結されたとみるべきである。

3 本件看板には第一審被告の営業内容を示すごく常識的な宣伝文句が記載されているだけであり、公序良俗に反するような宣伝をしているものではない。

本件看板の設置は、日照・通風・採光・眺望等いかなる観点から考えても第一審原告ら本件マンションの居住者の生活利益を侵害するものではない。また、時計部分は、その設置目的からしても右マンション住民及び近隣住民の便益に供するものであり、その外観もマンション住民に対し不快感を与えるようなものではない。本件マンションには多数の居住者がいるが、第一審被告の本件看板の設置行為に異議申立をしているのは第一審原告一人だけである。

以上の事実からすれば、第一審原告の本件看板の撤去請求は、共用部分の保存行為にしや口した権利の濫用に当たるものである。」

四  同四枚目裏二行目の冒頭に「1 第一審被告の主張1の」を、同行の「管理組合が」の次に「本件看板の設置を」を、同行の「した旨」の次に「及び第一審原告が第一審被告に対し本件看板の撤去を求めることが許されない旨」を、同行の次に改行のうえ左のとおりそれぞれ加える。

「2 同2の主張は争う。

3 同3の主張は争う。第一審原告居宅は、本件看板の設置により、西側の窓からの通風・採光・日照・眺望等に支障を来し、また、第一審原告は、右看板の設置により圧迫感・違和感を感じている。」

五  同四枚目裏四行目の「記録中の」の次に「原審及び当審における」をそれぞれ加える。

理由

一請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二第一審原告は、本件パラペット部分は本件マンションの共用部分であつて、同部分への本件看板の設置は旧規約(新規約)や建物区分法に違背し、許されない旨主張するので、以下、この点について判断する。

1  まず、本件パラペット部分が本件マンションの共用部分であるか、専有部分であるかについて検討する。

右当事者間に争いのない事実と、<証拠>を総合すれば、次のとおり認められ、当審証人中村久の証言中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件マンションは、昭和五七年三月ころ市街地に新築された鉄筋コンクリート造陸屋根七階建の分譲マンションで、二階以上は専有部分六九個の住居部分であり、一階は西側の前方道路に面して北側から順に西向きに三個の店舗部分と四個の車庫部分が並んでいる。

第一審原告が区分所有し居住している居宅は、本件マンション二階の南西隅にある南向き住居部分の一個で、南側に手摺等で仕切られたベランダがあり、西側は壁になつていて、そのほぼ中央に開口部(窓)が設けられている。本件マンション一階の車庫部分は、いずれも第一審被告が区分所有し、占有しているが、第一審被告は、本件看板を設置する約一年前に南端の車庫部分を店舗兼事務所に模様替えして使用している。

(二)  本件パラペット部分は、本件マンションの西側道路に面して、原判決添付図面表示の側面断面図のように、一階車庫部分の陸屋根の先端に設けられた垂直幅九六センチメートル(立ち上がりの高さは陸屋根上面より約三〇センチメートルで、下方にも同下面より同じ幅だけ垂れ下がつている。)、厚さ幅約二〇センチメートルの手摺壁であり、一階車庫部分の前面(西側)外壁面より約五〇センチメートル、二階以上の南向き住居部分の西側外壁面より約1.7メートル西方に突き出た位置にある。右一階車庫部分の陸屋根(屋上)は、平常は区分所有者が自由に出入りできないが、その南端には避難はしごの設備があり、ビル火災等緊急の場合は、二階以上の住居部分の区分所有者が避難用空間ないし通路として利用し得る構造となつている。

(三)  第一審被告は、昭和五七年ころ本件マンション(専有部分及び共用部分に対する共有持分)及びその敷地に対する共有持分を分譲するに際し、第一審原告を含む各購入者との間で統一した不動産売買契約書を用いて売買契約を締結したが、右売買約款一六条には「買主は…売買物件の共用部分の管理及び使用並びに環境の維持について末尾添付の管理規約、使用細則等の定めに従うものとする」と規定され、右管理規約(旧規約)三条には「専有部分は、売買契約書において住宅番号を付した各住宅(バルコニーを含む)、これに附属するその他の施設とする」、同四条には「共用部分とは、専有部分以外の部分及びその他の附属施設をいう。(1)専有部分以外の部分とは、共用の玄関・ホール・機械室・電気室・各階廊下及び階段・エレベーター室その他専有部分以外の建物の部分をいう。」、同九条には「(1)土地及び共用部分に関する変更(たとえば改築、改造、模様替え、看板・掲示板等の設置など)は、区分所有者全員の合意がなければできない」旨定められ、また、右使用細則一二項には「共用部分及び専有部分の外装に看板・掲示板等を設置し、又は広告その他これに類するものを掲示しないこと」と定められている。

その後昭和六一年七月二〇日本件マンションの区分所有者全員で構成される管理組合の総会が開催され、新規約が設定されて翌二一日から施行されるとともに、旧規約を廃止された。そして、新規約八条には「専有部分の範囲は、本件マンション内にある次の各号に掲げるものとする。(1)住宅番号を付した住宅、(2)一階店舗・事務所・車庫」、同九条二項には「共用部分及び附属施設の範囲は、次の各号に掲げるものとする。(1)管理事務所、(2)共用の玄関・ホール・機械室…、(3)住宅のバルコニー、(4)エレベーター設備・電気設備…」、同条三項には「その他、次の各号に掲げるものを、住宅等の部分にあつても組合が管理するもの(管理共有物)とする。(1)住宅等の躯体部分、(2)屋根・庇・外壁面・手摺、(3)雨水配水管…」、同五四条には「組合員は次に掲げる行為をしてはならない。但し、理事会が承認したときはこの限りではない。(1)共有部分…に対する修理、改築、その他原状を変更すること (3)共用部分…に看板・掲示板・広告・標識の設置等工作物を築造し、又は窓ガラス等に文字を書き込むこと」と定められている。

以上認定の事実によれば、一階車庫部分の陸屋根(屋上)は、本件マンションの基本的構造部分であり、しかも二階以上の区分所有者の避難用空間ないし通路としての機能・目的をも兼ね備えているから、共用部分に当たることは明らかであるところ、本件パラペット部分は、右陸屋根に接着し、かつ、その先端の保護ないし危険防止のためのものとみられるから、その構造上、右共用部分たる陸屋根と同様の性質を帯有するものと認めるのが相当である。

当審証人中村久は、本件パラペット部分は一階店舗部分購入者の広告掲示のためのスペースとして設置されたものである旨供述するが、<証拠>、当審証人中村久の証言によれば、第一審被告が本件マンションの分譲に際して作成した販売用のパンフレットには、本件パラペット部分直下の一階四区画はいずれも「車庫」と明記されていることが認められるから、本件パラペット部分が右中村証人の供述するような広告掲示のスペースとして設置されたものとはにわかに認めがたい。本件パラペット部分の外壁が看板の設置個所として利用するのに適するとしても、当該部分が共用部分であることを否定するものではない。

さらに、旧規約ないし新規約上、パラペット部分は共用部分として具体的に列挙されていないが、このことは本件パラペット部分が専有部分以外の建物の部分、すなわち共用部分に該当するものと解する妨げとなるものではない。

以上検討したところによれば、本件パラペット部分は、性質・構造上当然の共用部分に該当するものというべきである。

2  ところで、前記認定の諸規定、特に旧規約九条、使用規則一二項及び新規約五四条によれば、本件マンションの共用部分に看板を設置するには、それが建物区分法上の共用部分の変更に当たる場合は勿論、それが右変更に当たらない場合でも、旧規約上は区分所有者全員の合意が、新規約上は管理組合の理事会の承認がそれぞれ必要であることが明らかである(共用部分の変更に当たらない場合については、右条項は共用部分の使用の制限を定めたものと解される。)。

そして、第一審被告が本件マンションの区分所有者であり、同マンション管理組合の組合員であることは当事者間に争いがないから、第一審被告は、旧規約ないし新規約の定めに従う義務があるところ、原審証人岡田有弘、同大崎慎一の各証言によれば、第一審被告は、本件パラペット部分への本件看板の設置につき、事前に本件マンションの管理組合に説明をしたことはなく、まして同マンションの区分所有者の同意を得たこともなかつたことが認められる。

3  なお、本件パラペット部分に本件看板を設置することが共用部分の変更に当たるか否かについての当裁判所の見解は次のとおりである。

<証拠>によれば、本件看板は、本件パラペット部分の外壁面に設置された原判決添付図面表示のとおりの広告用看板で、横幅は約二一メートル、縦幅は約九六センチメートルもあり、中央やや南寄りのパラペット部分には、横幅約二メートル、縦幅約一メートルの本体の上に三角屋根の付いたスチール製の時計塔がビスで取り付けられ、右三角屋根の部分がパラペット部分の上方にはみ出ており(そのはみ出た裏側部分が原告居宅の西側窓から間近に見える。)、右時計塔の北側は、パラペット部分に横幅約一二メートルにわたつて塗装仕上げをし、淡くイラストを施したうえ、右図面表示の第一審被告のマークと着色の切文字(ゴム質の上にプラスチックを張つたもの)をボンドで貼り付けたものであり、南側は、パラペット部分に横幅約七メートルにわたつて焼付仕上げをしたスチールベースをビスで取り付けたものであることが認められる。

以上の事実、殊に本件看板は本件パラペット部分の外壁面に大幅な改装を加えるほか、ビスを用いて物品をコンクリート壁面に固定したものであつて、壁面の損傷拡大の危険なしとしないこと、本件看板の撤去にそれほど困難を伴わないとしても、その設置が一時的なものではないこと、マンションの建物の外観は専有部分の経済的価値に大きな影響を与えるが、本件看板は規模のかなり大きなものであつて、その設置が本件マンションの外観に与える影響は少なくないことなどの諸点を考えると、本件パラペット部分に本件看板を設置することは、同部分の物的性状を著しく変えるものといえるから、建物区分法上、共用部分の変更に該当するものというべきである。

三第一審被告は、第一審原告の本件看板の撤去請求は次の理由により許されない旨主張するので、以下、この点について判断する。

1  まず、第一審被告は、本件マンションの管理組合は昭和六一年七月二〇日の総会における大崎前管理組合長の発言により本件看板の設置を許容した旨主張する。

<証拠>によれば、昭和六一年七月二〇日本件マンション管理組合の総会が開催され、新規約が設定された際、大崎慎一前管理組合長が新規約の内容について説明をしたが、その席上、一組合員である第一審被告の従業員前田恭厚が同規約五四条三号所定の看板の設置の可否につき「自由に看板を設置してもいいのかどうか」という趣旨の質問をしたのに対し、右大崎前組合長は一般的な回答として「常識的なものならいい」旨答えたことが認められ、証人前田恭厚の証言中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかしながら、右大崎前組合長の発言は本件マンションにおける看板の設置の可否について一般的に自己の見解を表明したものにすぎず、右発言をもつて、直ちに本件看板の設置につき新規約五四条三号所定の理事会の承認がなされたものということはできないし、管理組合が許容したものともいえないから、第一審被告の右主張は理由がない。

2  次に、第一審被告は、本件マンションの分譲に当たり、本件パラペット部分について第一審被告と第一審原告ら買主との間で黙示的に看板設置のための専用使用権設定契約が締結されたとみるべきである旨主張する。

しかしながら、既に認定したとおり、第一審被告が本件マンションの分譲に際し作成した販売用のパンフレットには、本件パラペット部分直下の一階南寄り四区画はいずれも「車庫」と明記されている点から考えても、本件パラペット部分に広告用看板の設置されることが、右分譲当時その買主に当然に予想されていたとは認めがたく、その他本件全証拠によつても、本件パラペット部分について右両者間で黙示的に専用使用権が設定されていることを認めるに足りない。したがつて、第一審被告の右主張は理由がない。

3  さらに、第一審被告は、第一審原告の本件看板の撤去請求は共用部分の保存行為にしや口した権利の濫用に当たる旨主張する。

しかし、第一審被告は旧規約及び新規約所定の手続を全く経ないで勝手に本件パラペット部分に本件看板を設置しているものであり、したがつて、本件看板の近くの二階の一個を所有してこれに居住し、その設置に利害関係を有する第一審原告が、本件マンションの共用部分(本件パラペット部分)から生ずる物権的請求権に基づき、同部分に対する保存行為として、第一審被告に対し本件看板の撤去を求めることは、看板の宣伝文句の内容やその設置が本件マンションの居住者の生活利益に与える侵害の有無・程度如何などにかかわりなく、正当な権利の行使というべきであり、他にこれをもつて権利の濫用に当たるものと解すべき特段の事情も認められない。したがつて、第一審被告の右主張も理由がない。

四以上によれば、第一審原告は、共用部分たる本件パラペット部分の共有持分権から生ずる物権的請求権に基づき、保存行為として、第一審被告に対し、右部分の外壁面に設置された本件看板の撤去(塗装部分の消去を含む。)を求めることができるというべきであり、したがつて第一審原告の本訴請求は理由がある。

五よつて、第一審原告の本訴請求は認容すべきところ、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、第一審被告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川恭 裁判官大石貢二 裁判官竹原俊一)

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