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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)547号 判決 1987年9月18日

主文

一  控訴にもとづき、原判決を次のとおり変更する。

(一)  控訴人李昭博と被控訴人との間で、原判決別紙債務目録記載の金銭消賛貸借契約に基づく債務は、金一五九万四六九一円及びこれに対する昭和六一年八月四日から支払ずみまで年三割の割合による金額を超えて存在しないことを確認する。

(二)  被控訴人の控訴人李昭博に対するその余の請求及び控訴人金光彰に対する請求をいずれも棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

(求める裁判)

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  本件附帯控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件各控訴を棄却する。

2  原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。

3  被控訴人の控訴人李昭博に対する原判決別紙債務目録記載の金銭消費貸借契約に基づく債務が存在しないことを確認する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。

(主張及び立証)

当事者の主張及び立証は、次に補正、付加する他は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  補正

原判決四枚目表六行目の「八日」を「三〇日」と、同二〇枚目裏三行目の「二八日」を「二九日」とそれぞれ改める。

二  被控訴人

被控訴人は、昭和六二年三月二日、控訴人李に対し、銀行口座への振込により金四万五〇〇〇円を支払った。

右支払により、被控訴人の控訴人李に対する本件債務は消滅した。

三  控訴人ら

被控訴人の右支払の事実は認めるが、その余の主張は争う。

理由

一  控訴人李が被控訴人に金員を貸したことは、当事者間に争いがない。

二  右貸借についての認定は、次に補正する他は、原判決七枚目裏一二行目の「証人田川」から同九枚目表九行目までの認定と同一であるから、これを引用する。

1  八枚目表一〇行目の「一五〇〇万円」を「一五〇〇円」と改める。

2  八枚目表末行末尾から八枚目裏一行目にかけての「被告李の見解による」と、二行目の「被告李の見解によれば」と、四行目の「被告李の見解による」と、五行目の「被告李の見解によれば」をそれぞれ除く。

3  九枚目表八行目の「部分は」の次に「前掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らして」を加え、九行目の「ほどの」を除く。

三  原判決別紙計算書(1)の支払中、昭和六〇年一〇月七日までの分について支払期日欄記載の日に支払額欄記載のとおりの金額の弁済がされたことは、当事者間に争いがない。

四  そこで、貸金業法四三条の適用の有無について判断する。

1  前掲乙第一号証の一ないし三、第二号証、第三号証の一ないし二六及び証人田川宗平の証言に弁論の全趣旨を総合すると、

(一)  本件貸借は、大阪府知事の登録を受けた控訴人李が、自己の業として行ったものであり、被控訴人の利息、損害金の支私は、右貸借の約定に基づいてされたものである。

(二)  控訴人李は、右貸借(貸増を含む)に当っては、被控訴人に対し、貸金業法一七条の所定事項を記載した契約書を交付した。

(三)  同控訴人は、前記三記載の弁済を受けたときに、その都度、直ちに、被控訴人に対し、貸金業法一八条所定事項を記載した受取証書を交付している。

以上の事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

2  被控訴人本人尋問の結果によれば、

(一)  被控訴人は、昭和四六年から、サラ金から金を借りている。

(二)  被控訴人は、本件貸借以前から、新聞のサラ金業者や利息制限法の記事を見ている。

(三)  被控訴人は、控訴人らから、払えないなら担保に入れている家を取るぞといわれたことはない。

(四)  被控訴人は、本件貸借の途中で利息の利率が変ったことは知っている。

(五)  被控訴人は、控訴人李から残額確認書を貰っても目を通していない。

以上の事実が認められる。

控訴人らが、本件貸借に関して、被控訴人に対し支払を強制したことを認めるに足る証拠はなく、証人田川宗平の証言によれば、被控訴人は何らの異議も述べずに、本件弁済をしたことが認められる。

以上を総合すると、被控訴人の本件弁済は、任意に行われたものと認められる。

3  以上によれば、本件弁済には、貸金業法四三条が適用され、被控訴人の利息制限法超過分の元本への充当の主張は理由がない。

五  そこで、当事者間に争いのない弁済のうち、昭和六〇年八月三〇日までの弁済について、前記認定の利率で計算すると、原判決別紙計算書(2)記載のとおり利息、元本に充当されることが認められる。

控訴人らは、昭和六〇年八月三一日以降は元本の弁済日が到来し、遅延損害金の支払義務が発生していると主張しているものと認められるところ(右計算書(2)の最終行の遅延損害金の主張による)、被控訴人は、原判決別紙計算書(1)で、同日以降について、遅延損害金を支払うことを前提とした計算をしているので、控訴人の右主張事実を自白したものと認められる。

前掲乙第三号証の二六によれば、控訴人李は、昭和六〇年一〇月七日の金一〇万円の支払については、日歩一七銭で計算し、不足損害金二万六八一七円としているので、同日の支払金一〇万円を元本一九六万三一二二円に対する日歩一七銭の遅延損害金に充当すると三〇日分となる(100000÷(1963122×17÷10000)=29.96)。

そうすると、右金一〇万円は、昭和六〇年九月二九日までの遅延損害金に充当される。

六  被控訴人が、控訴人李に対し、本件債務の弁済として、

1  昭和六〇年一〇月二八日、金三三万五三一七円を弁済供託し、同控訴人が昭和六一年二月二〇日、この供託金を受領したこと、

2  同年六月三〇日、同控訴人の銀行口座に金四一万七一一九円を振込弁済をしたこと、

3  昭和六二年三月二日、同控訴人の銀行口座に金四万五〇〇〇円を振込弁済したこと、

以上の事実は、当事者間に争いがない。右1の供託は、元本に充たないものであり、弁済供託としては効力がないが、弁論の全趣旨によれば、控訴人李は、右供託日に一部弁済がされたことを承認しているものと認められる。

七  前項の弁済の充当について判断する。遅延損害金は、利息制限法に従い年三割である。

1  昭和六〇年一〇月二八日の供託分は、同日までの遅延損害金四万六七九二円(1963122×0.3×29÷365=46792)と元本金二八万八五二五円に充当され、残元本は金一六七万四五九七円となる。

2  昭和六一年六月三〇日の銀行振込分は、同日までの遅延損害金三三万七二一三円(1674597×0.3×245÷365=337213)と元本金七万九九〇六円に充当され、残元本は金一五九万四六九一円となる。

3  昭和六二年三月二日の銀行振込分は、三四日分の遅延損害金(45000÷(1594691×0.3÷365)=34)に充当されるので、昭和六一年八月三日までの遅延損害金に充当されることになる。

八  以上によれば、被控訴人は、控訴人李に対し、金一五九万四六九一円及びこれに対する昭和六一年八月四日から支払ずみまで年三割の割合による金員を支払うべき債務を負担していることになり、被控訴人の債務不存在確認の請求は、右金員を超える債務が存在しないことの確認を求める限度で認容されるものであり、その余は棄却されるべきものである。

九  次に、被控訴人の抹消登記手続の請求について判断する。

被控訴人が本件不動産を所有し、本件不動産につき、控訴人李のために本件根抵当権設定登記が、控訴人金光のために本件賃借権設定仮登記がそれぞれ経由されていることは、当事者間に争いがない。

一〇  成立に争いがない乙第四号証、控訴人金光作成部分は弁論の全趣旨によって成立が認められ、その余の部分の成立に争いがない乙第五号証、証人田川宗平の証言に弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は、昭和五九年一月一二日、控訴人李との間の前記金銭消費貸借契約に基づいて生ずる債務を担保するため、控訴人李との間で根抵当権設定契約を、控訴人金光(控訴人李の従業員)との間で賃借権設定契約を締結し、これらの契約に基づいて、前記当事者間に争いのない各登記が経由されたことが認められ、この認定に反する被控訴人本人尋問の結果は前掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

一一  被控訴人の錯誤及び公序良俗違反の主張に対する判断は、原判決理由六、七記載の説示と同一であるから、これを引用する。

一二  被控訴人は、被担保債権が消滅したから、前記各登記は抹消すべきものとなった旨主張するが、被担保債権が消滅していないことは、既に述べたとおりであるから、この主張は理由がない。

そうすると、本件各登記の抹消を求める請求はいずれも理由がなく、棄却すべきものである。

一三  以上によれば、原判決は当裁判所の判断と結論の大部分を異にするので控訴人らの控訴にもとづき、これを主文のとおり変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用については、民訴法九二条但書、九六条を適用して、第一、二審とも被控訴人の負担とし、主文のとおり判決する。

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