大判例

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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)594号 判決 1987年7月16日

控訴人

中村平八

右訴訟代理人弁護士

和田栄重

鍛治川善英

被控訴人

株式会社ユニテイ

右代表者代表取締役

中村松市

被控訴人

大和鋼管工業株式会社

右代表者代表取締役

中村松市

右両名訴訟代理人弁護士

川井信明

主文

原判決を取り消す。

本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは控訴人に対し、各自金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一二月三一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張及び証拠関係

次のとおり付加、訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

原判決三枚目表一行目の「支払い」を「支払」に改め、同四枚目表四行目の「中村松市」の次に「(以下「松市」という。)」を加え、同六行目の「平八」を「控訴人」に、同行の「本件手形金」を「金二億五〇〇〇万円の内金五〇〇〇万円の」に、同一〇行目の「被告らは」を「被控訴人らには」にそれぞれ改める。

理由

一控訴人の本件の訴は、手形訴訟により、被控訴人らに対し本件手形の振出人及び保証人として手形金及びその利息を支払うよう求めるものであるところ、右手形金及び利息については、被控訴人らが本件の訴提起前の昭和六一年九月二五日控訴人に対しその債務不存在確認等を求める別件の訴を大阪地方裁判所に提起し、同訴訟が現在同庁昭和六一年(ワ)第八六一六号債務不存在確認等請求事件として同裁判所に係属中であることは、記録上明らかである。そして、原裁判所は、本件の訴は別件の訴と訴訟物たる権利関係が同一であり、かつ、別件の訴の反訴としてではなく、別訴として提起されたものであるから、民訴法二三一条の重複起訴の禁止に抵触し、不適法であるとして、これを却下した。

二思うに、別件の訴のうち手形金債務不存在確認を求める請求に関する部分と本件の訴は、いずれも同一当事者間において、本件手形金債権につき、前者が消極的にその不存在の確認を求め、後者が積極的にその存在を前提として手形金及び利息の支払を求めるものであつて、両請求にかかる判決の既判力の範囲は同一であるから、同一の事件に当たるといわなければならず、したがつて控訴人が右支払を求める請求を別件の訴に対する反訴の形式をもつてすることなく、独立の訴の提起によつてすれば、民訴法二三一条の規定が防止しようとしている審理判断の重複による不経済、既判力抵触の可能性及び被告の応訴の煩という弊害が生じることがあるのは避け難いところである。

ところで、本件の訴は手形訴訟によるものであるところ、手形訴訟は厳格な証拠制限が存する点において通常訴訟と異なる訴訟手続であると解されるから、手形金債務不存在確認請求訴訟において手形金支払請求の反訴を提起するには、手形訴訟によることは許されず、通常訴訟の方式によらざるを得ない。そうすると、一に摘記した原裁判所の判断に従えば、手形金債務不存在確認請求訴訟が先に裁判所に係属した場合にはもはや手形債権者は、手形訴訟を提起することができないことになる。しかし、かかる場合に手形訴訟手続利用の途を閉ざすことは、手形訴訟が手形債権者に対して通常訴訟によるより格段に簡易迅速に債務名義を取得させ、かつ、強制執行による満足を得せしめるとともに、これにより手形の経済的効用を維持するのに資することを目的とする制度であることを考えると、手形債権者に著しい不利益を与えるばかりでなく、手形債務者において先制的に手形金債務不存在確認請求の訴を提起して手形債権者からの手形訴訟の提起を封殺することを可能にし、不当に手形金支払の引き延ばしを図ることにより、手形訴訟制度を設けた趣旨を損なうおそれもある。このような事態に至るのは避けるべきであり、手形債権者が通常訴訟とは手続を異にする手形訴訟を選び、簡易迅速な審判を求めるならば、その手続の利用によつて受ける利益を保護する必要があるから、手形金債務不存在確認請求訴訟の係属中に手形訴訟を提起することは、民訴法二三一条の重複起訴の禁止に抵触しないと解するのが相当である。これによつて生じる前記のような弊害は、訴訟の運用によつて防止するほかはない。

三そうすると、本件の訴を重複起訴の禁止に抵触し不適法であるとして却下した原判決は失当であり、控訴人の本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、民訴法三八八条を適用して本件を大阪地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川恭 裁判官竹原俊一 裁判官松山恒昭)

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