大阪高等裁判所 昭和62年(行コ)3号 判決 1988年9月27日
奈良市あやめ池南二丁目一番二六号
控訴人
木奥明子
右訴訟代理人弁護士
大深忠延
同
中村悟
同
西田正秀
同
吉田恒俊
同
佐藤真理
同
相良博美
同市登大路町一八
被控訴人
奈良税務署長
大西昭男
右指定代理人
石田浩二
同
佐治隆夫
同
曽根健次
同
高田安三
同
田中猛司
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人が昭和五三年七月四日控訴人の昭和四八年分贈与税についてした賦課決定及び無申告加算税の賦課決定(いずれも昭和六〇年一〇月一八日付更正処分により一部取消された後のもの)を取消す。(当審で請求減縮)
3 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二主張及び証拠関係
次のように訂正、付加するほか原判決の事実摘示(ただし昭和四八年分贈与税の賦課決定及び無申告加算税の賦課決定に関する記載部分)のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決三枚目裏九行目の「、同四九年分」から一〇行目の「賦課処分」までを「並びに無申告加算税の賦課決定」に、同一三枚目裏二行目の「の」を「死因贈与する」に、同一八枚目裏末行の「本件」を「原、当審の」にそれぞれ改める。
二 控訴人の主張
1 本件公正証書作成においても、本件各不動産の所有名義及び占有関係には何らの変化はなく、亡芳弘は、昭和四八ないし同五〇年分所得税確定申告書添付財産債務明細書に本件各不動産を自己の所有物と記載していた。
2 本件公正証書を作成した芳弘の意図は、自己の死が控訴人よりも先である場合に、本件各不動産を死因贈与するにあつた。本件公正証書の文言は公証人の指導によるものである。本件不動産を贈与者(芳弘)が受贈者(控訴人)に引渡した旨の第二条の文言は、受贈者の立場を確固とさせるためにのみ意味がある形式的文言に過ぎず、同人が実質的には依然所有権を保有しているという実体を変えるものではなく、同条の「なお所有権移転登記申請手続を速やかにするものとする」旨のなお書は、単なるつじつま合わせのためのものでしかなかつた。このことは、本件公正証書作成後同人の死亡に至るまでの間控訴人は本件不動産の引渡しをうけていず、移転登記もなされなかつた事実によつて明らかである。
3 課税上の基本原則である実質課税の原則ないし「疑わしきは課税せず」との法格言に照らすと、本件贈与は、死因贈与であるか、然らずとすれば、みせかけだけの贈与であつて、芳弘の真意は、贈与の公正証書は作成するが、真実は贈与の意思がなく本件贈与は心裡留保により無効であると解するのが自然である。このことは、芳弘の芳彦に対する贈与につき、甲第二二号証の公正証書を作成し、かつ贈与税の消滅時効完成後において、芳彦が自己の受贈物件を亡芳弘の相続財産として相続税の申告をしたことに照らしても首肯しうるものである。
4 被控訴人が、控訴人に対しては、本件贈与税を課したうえに相続税の増額更正をし、芳彦に対して反対に贈与税を課さず相続税減額の措置を講じ、他の相続人に対してもそれぞれ相続税減額の更正をしたのは、極めて偏ぱな処分をしたものというべきである。
三 被控訴人の主張
1 控訴人は、本件贈与は死因贈与であるとか、本件公正証書の記載は形式的で実体を反映するものではない旨主張するけれども法律行為が書面をもつて行われた場合行為の内容は、記載された文言により決すべきが当然である。
2 本件公正証書の記載によれば、芳弘は、生前贈与をなす意思をもつて本件贈与をなしたことが認められ、本件公正証書作成直後芳弘が控訴人に対しその謄本一通を交付したのは、生前贈与の履行に向けてなした行為であつた。控訴人自身も乙第七四号証の審尋調査において、「この土地建物は未だ私の夫芳弘名義になつていますが、私が夫の生前に贈与を受け公正証書もまいてもらつています」と生前贈与であることを言明している。
理由
当裁判所の認定判断は、次のように訂正、付加するほか原判決の理由説示(昭和四八年分贈与税の賦課決定及び無申告加算税に関する記載部分)のとおりであるから、これを引用する。
一 右理由説示中の「原告本人尋問の結果」を「原当審における控訴人本人尋問の結果」に、「証人」を「原審証人」にそれぞれ改める。
二 原判決十九枚目表五行目の「1」の次に「並びに当審における控訴人の主張1、2」を七行目の「贈与」の前に「生前」を各付加し、同二〇枚目表一〇行目の「自分」から末行の「として」までを「妻の明子に本件不動産を」に改める。
三 同二一枚目表八行目の「明確に」の次に「控訴人に対する本件不動産の」を付加し、裏一〇行目の「して、」から同二二枚目表二行目までを「したこと、」に、同二四枚目表末行の「贈与」を「生前贈与」にそれぞれ改め、裏五行目末尾に「それゆえ、原告の反論1及び控訴人の当審における主張1、2は、採用できない。」を、六行目の「2」の次に「及び控訴人の当審における主張3」を各付加する。
四 同二五枚目裏五行目の「贈与が」を「贈与を認定することは、正に実質課税の原則に沿うものてあつて、これに反するものではなく、又本件は控訴人主張のごとくに事実の認定について疑問のある事案とは認められないから、仮に控訴人所論の「疑わしきは課税せず」との法格言が存在するとしても、これにも反するものではなく、いわんや控訴人の主張するように、心裡留保により本件贈与が」に改め、六行目末尾に「それゆえ、原告の反論2及び控訴人の当審における主張3は採用できない。」を付加し、九行目の「定めに」を「定めの」に、同二六枚目表七行目の「定めて」を「もつて」にそれぞれ改め、同三〇枚目裏一〇行目の「内容は」の次に「あいまいなうえに」を付加する。
五 同三一枚目表七行目の「旨の」を「とか」に、同三二枚目表一〇行目の「こと」を「理由」にそれぞれ改め、同三五枚目裏三行目、同三六枚目表三行目の「7」の次に「及び控訴人の当審における主張4」をそれぞれ付加し、同三五枚目裏七行目の「によつて」を「と芳彦が誤つて相続財産として申告したため」に改め、同三六又目表二行目の「芳彦」の次に「及びその他の相続人」を、四行目の「被告」の前に「以上により」を、四行目と五行目の間に次をそれぞれ付加する。「(なお、相続税法施行地に住所を有する者は、取得財産の所在場所のいかんを問わず、その全部につき贈与税の納税義務を負い、各年中に贈与により取得したすべての財産の価額の合計額をもつて贈与税の課税価格とするものである。)」
六 同三六枚目表一〇行目、裏一行目の「本件各処分及び本件各賦課処分」を「昭和四八年分決定及び無申告加算税賦課決定」にそれぞれ改める。
よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今中道信 裁判官 仲江利政 裁判官 上野利隆)