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大阪高等裁判所 昭和62年(行コ)32号 判決 1988年2月18日

大阪市西区南堀江通六丁目四五番地

送達場所

大阪市平野区長吉長原西四丁目六番九号

清川六番館四〇五号 岩田敝万

控訴人

丸善鋼材株式会社

右代表者清算人

岩田敞

大阪市西区川口二丁目七番九号

被控訴人

西税務署長

堀健一

右指定代理人

細井淳久

竹内郁雄

保科隆一

木戸久司

主文

本件控除を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が、昭和六〇年八月三〇日付で控訴人に対してなした、控訴人の昭和三三年一一月七日から昭和三八年三月三一日までの五事業年度の法人税に係る更正の請求に対する、更正すべき理由がない旨の通知処分の決定は、これを取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

二  主張

次に付加するほか、原判決事実摘示のとおり(但し、原判決二枚目裏一一行目の「過小」を「過少」と訂正する。)であるから、これを引用する。

1  控訴人

(一)  控訴人が本件(一)ないし(三)の処分について法定の出訴期間を徒過した事実はない。

(二)  本件(一)の処分については、その理由の記載が不備であるから、右処分に重大かつ明白な瑕疵がないとするには、控訴人において「売上除外」の具体的な明細を提出すべきであるし、本件(四)の処分をするについても、控訴人の更正の請求が理由がない旨の重大かつ明白な客観的な証拠を示すべきである。

(三)  被控訴人は、控訴人に架空借入金があるとして、本件(一)の処分及これに起因する本件(二)の処分をしたが、その約二年後大阪国税局徴収部は、被控訴人の処理した「架空借入金」が真実の借入金と確認し、真実の借入金の名義人(加藤庄一)に滞納処分の通知をしている。したがつて、右各処分が控訴人に架空借入金があるとしたのは誤りであり、被控訴人側の徴収部門が被控訴人と異なる認定をしているのであるから、右各処分には重大かつ明白な瑕疵があるというべきである。

また、国税通則法二三条二項は、後発的事由に基づく更正の請求を可能としているところ、右の事実(賦課段階では架空借入金とされたが、後に真実の借入金があることが判明したこと)は後発的事由にあたるから、本件係争年度の法人税に係る控訴人の更正の請求を理由がないとした本件(四)の処分は違法である。

(四)  控訴人が国を相手として不当利得金の返還を求めた大阪地方裁判所昭和六十年(ワ)第三三一号事件の判決(以下「本件判決」という。)は、本件(二)の処分には真実存在する控訴人の借入金を架空なものとして認定してなされた瑕疵があるとしている。右判決により、本件(一)、(二)の処分の基礎事実である「売上除外による架空借入金」が真実と異なることが確定したから、控訴人は、国税通則法二三条二項一号により、本件係争年度の法人税に係る更正の請求ができるというべきであり、控訴人の右請求を理由がないとした本件(四)の処分は違法である。

2  被控訴人

(一)  控訴人の当審における主張は争う。

(二)  本件判決は、「真実存在する控訴人の借入金を架空なものとして認定してなされた瑕疵があるとしても」と仮定したうえ、本件(二)、(三)の処分については右瑕疵は明白ではないと判断しているにとどまり、控訴人主張のように、架空とされた借入金が真実存在するものであつたと認定しているわけではないから、国税通則法二三条二一号の「判決」に該当しない。

三  証拠

原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も本件(四)の処分の取消を求める控訴人の本訴請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決理由説示(原判決六枚目裏一〇行目から同八枚目表八行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人の当審における主張(一)について

本件(一)ないし(三)の処分の取消を求めるためには、原則として控訴人が本件(一)ないし(三)の処分について異議申立てをし、これに対する審査請求の裁決があつたことを知つた日から三箇所月以内に取消訴訟を提起しなければならず、右の裁決のあつた日から一年を経過したときは、正当な理由がない限り取消訴訟を提起することはできない(国税通則法七五条一項一号、三項、四項、一一五条一項、行政事件訴訟法一四条一項、三項)。しかるに、控訴人が、本件(一)、(二)の処分について、その審査請求の裁決があつた昭和四〇年一月三〇日から前記の期間内に取消訴訟を提起したこと、または右の期間内に取消訴訟を提起しなかつたことに正当な理由があること及び本件(三)の処分について異議申立てをしたことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人が決定の出訴期間を徒過していることは明らかである。

2  同(二)について

行政処分の瑕疵が明白であるというためには、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤りであることが、処分成立の当初から客観的に明白であることを要すると解すべきところ、本件(一)の処分の理由の記載が不備であるとしても、そのことから被控訴人の誤認であることが客観的に明白であるとはいえないから、右処分に重大かつ明白な瑕疵があるとまではいうことはできないのであり、したがつて、これを理由に本件(四)の処分が違法であるとすることはできない。また、被控訴人に、控訴人主張の証拠資料の提出義務があるとも解されないから、控訴人の主張は採用できない。

3  同(三)について

前記のとおり、行政処分の瑕疵が明白であるとは、処分成立の当初から誤認であることが客観的に明白であることを指すものと解すべきであるから、右の明白性は、処分成立の当初の状況を基準として判断すべきであつて、処分後の事情を考慮して判断すべきものではない。そして、本件(一)、(二)の処分に控訴人主張の事実誤認があるとしても、右処分の瑕疵が明白であつたと認めるに足りる証拠はないし(甲第一〇号証によつても、これを認めるに足りない。)、右各処分後に控訴人指摘の事情があることについても、これを認めるに足りる証拠はないうえ(成立に争いのない甲第一一号証の一ないし三によると、大阪国税局長は、昭和四一年三月二六日付けで、加藤庄一に対し、同人を第二次納税義務者として、控訴人の滞納税額を納付するよう通知したが、同年四月八日付けで右納付通知は取り消されていることが認められる。)、そもそもこれらの事情は右各処分の瑕疵の明白性の判定にあたつて考慮すべきものではないのであるから、控訴人の主張は採用できない。

また、控訴人主張の事実は、国税通則法二三条二項一号ないし三号所定の事由にあたらないことが明らかであるから、このことを理由に本件(四)の処分が違法であるとすることはできない。

4  同(四)について

成立に争いのない乙第一、第二号証によれば、本件判決は、控訴人が国を相手として、本件(一)ないし(三)の処分の無効を前提として不当利得金の返還を求めた事件について、「本件(一)の処分が当然に無効であるとは解し難いのみならず、本件(一)の処分の違法により本件(二)の処分が当然に無効になるものとは到底解し難い。また、本件(二)、(三)の処分が真実存在する控訴人の借受金を架空なものとして認定してなされた瑕疵のあるものであるとしても、そのことから右処分の瑕疵が明白なものであつたと認めることはできない。本件(二)、(三)の処分は当然無効ではなく、有効に存続している。」旨判示して、控訴人の請求を棄却していることが認められる。右の事実によれば、本件判決は、本件(二)、(三)の処分に事実誤認があると認定したものではないし、本件(一)ないし(三)の処分を無効としたものでもないことが明らかである。したがつて、本件(二)、(三)の処分の税額等の計算の基礎となつた事実が、本件判決によつて当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとはいえないから、本件判決が、国税通則法二三条二項一号にいう「判決」にあたるとすることはできない。控訴人の主張は理由がない。

二  よつて、本件(四)の処分の取消を求める控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田坂友男 裁判官 辰巳和男 裁判官 山口幸雄)

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