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大阪高等裁判所 昭和63年(ネ)576号 判決 1988年9月30日

控訴人・附帯被控訴人

新政智恵子

被控訴人・附帯控訴人

芦屋中央運送株式会社

ほか一名

主文

一  附帯控訴に基づき原判決主文一項を次のとおり変更する。

1  被控訴人らは各自控訴人に対し金六万六四二二円及びこれに対する昭和五九年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  控訴人の本件控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、一、二審を通じこれを一〇分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの負担とする。

四  この判決は一項1に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らは控訴人に対し、金三〇七万六六一一円及びこれに対する昭和五九年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人らの附帯控訴を棄却する。

4  訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  2項につき仮執行宣言

二  被控訴人ら

1  原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  控訴人の被控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。

3  控訴人の控訴を棄却する。

4  控訴及び附帯控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は次のとおり付加訂正するほかは、原判決事実摘示及び同添付別紙「計算書」(以下「計算書」という。)のとおりであるからこれを引用する。

原判決四枚目表七行目の「春田」を「春日」と、同九行目の「二月二」を「三月」と各訂正し、同五枚目表一一行目と一二行目の間に次のとおり付加挿入する。

「なお、通常は逸失利益は事故前の収入を基準として算定されるところ、本件のような酒類提供飲食業であるいわゆる「ラウンジ」においては月による売上げ変動が大きく、特に開店早々は異常に高収入となるため、右開店時である昭和五九年六月以降本件事故までの収入を基準となしえない。しかも、控訴人のような二〇年近い水商売の経験者が経営をなすときは一年の経年はさして売上増の事由とはならないものである。よつて、本件における逸失利益の算定は事故の月を含む三ケ月の利益と翌年同期比によるのが最も合理的である。右のことは、別紙「売上表」、同「売上経過グラフ」によれば明らかである。」

同六枚目裏一二行目の「西進」から同末行の「ぬつて」までを「渋滞気味の第二、第三車線から第一車線通過の先行車の約一〇メートル後方の加害車両と右先行車両の間隙へ飛び出し」と訂正し、同七枚目表三行目の「割合は」の次に「八〇ないし」を、同裏二行目末尾に「右のことは、控訴人が右折終了寸前である第一車線で一三・五メートルもはね飛ばされた本件事故の態様から明らかである。」を、各付加する。

第三証拠

証拠関係は原審記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所は控訴人の本訴請求を主文の限度で認容すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八枚目表九行目の「走る」の次に「市道山手幹線の中央分離帯で区分された西行車道である」を、同一二行目の「向け」の次に「、最高制限速度五〇キロメートルのところを」、同裏六行目の「まつて」の次に「、体面信号が東、西とも青である間に、なお西行車両が進行して来ることが十分予測されたにも拘らず」を、同一〇行目の「認め」の次に「ハンドルを左に切りつつ」を、同一一行目の「及ばず、」の次に「左斜め前方へ約五、一メートル」を各付加し、同所の「前部」から同一二行目の「原告」までを「右前端部、同部ウインカーの辺が被害車両左前側部と衝突したこと、他方、控訴人が右衝突時に急制動をとつた形跡がなく、また右事故当時同人」と訂正する。

2  同九枚目表二行目の「原告」から同九行目末尾までを次のとおり訂正する。

「控訴人は右折を完了するまでの間、道路交通法(以下「法」という)三七条に基づき、当該交差点において直進しようとする車両の進行妨害をしてはならない義務を負い、本件加害車両が右直進しようとする車両にあたることは明らかであつて、右『進行妨害』とは相手車両がその速度又は方向を急に変更しなければならないこととなるおそれがあるときに、進行を継続し、又は始めることをいうところ、右事故時の状況によれば、加害車両の進行方向(西行)の信号機が青であり、かつ優先道路であるから、青の間は直進車両が右折車に優先すると考えて速度を減ずることなく(法三六条四項の一般的注意義務に反し)進行してくることは当然予測されるところであり、しかも、加害車と控訴人がその通過を待つた先行車の間隔がわずか約一〇メートルであり、その手前の第二車線には停滞車があり第一車線左側の見通しが十分でなかつたにも拘らず、控訴人は右先行車通過後を漫然車間をぬけるような態様で右折しようとし、後続加害車両をして急制動をやむなくせしめたが、間にあわず、本件衝突に至つたというのであるから、控訴人の法三七条違反の程度は著しいというほかなく、さらに法七一条の三、二項に反してヘルメツトを着用していなかつたため前認定の頭部の傷害の程度が着用の場合より大きくなつたことは容易に推認されるところであるから、控訴人の本件事故原因と損害発生についての注意義務違反は著しいというべきである。他方、被控訴人の方にも前記の一般的前方注視、安全運転義務違反があつたところ、もともと直進車両は法三七条の反射的効果として先行順位を与えられているから、同法に著しく違反して右折して来る右折車を常に予測して右先行順位を放棄するに等しい行動を求めることは相当でなく、前認定のハンドル操作と急制動の始期に照らせば、右義務違反は極めて軽微というべきである。以上のところとその他本件にあらわれた諸般の事情によれば、加害車両が被害車両より、一般的にみて危険度の高い普通貨物自動車であることを考慮しても、過失割合は、人損につき控訴人七〇パーセント、被控訴人三〇パーセント、物損につき控訴人六〇パーセント、被控訴人四〇パーセントと認めるのが相当である。

3  同九枚目表一一行目から同裏七行目までを次のとおり訂正する。

「1 治療費(請求原因5、(一)、(五)、(七))金一〇五万二五二五円

控訴人が前記のとおり本件事故のため入院と通院をなしたことは争いなく、成立に争いない甲第五ないし第七号証、控訴人の本人尋問結果により成立を認める同第二号証(一月八日付記載)を総合すれば、控訴人の入院期間は九四日間(甲八号証の「3月8日(95)日間」は「3月7日(94)日間」の誤記と認められる)、通院は同六〇年三月九日から同年一二月二日までの間計一一二日(三月は一七日、四月は二二日、五月は二一日、六月から九月までは各約一〇日、一〇月、一一月は各数日、一二月は二日)であり、控訴人は入通院費合計一〇四万七五二五円、後遺症診断書料五〇〇〇円、合計一〇五万二五二五円の支払をなしたことが認められる。

2  入院雑費 金九万四〇〇〇円

右認定の入院期間中の入院雑費としては請求額どおり一日一〇〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのが相当であるから、右割合により計算すると右同額と認められる。

4  同一〇枚目表二行目から同一二枚目表一一行目までを次のとおり訂正する。

「4 通院交通費 金三万五八四〇円

症状の関係上タクシーによる通院が必要であつたこと、現実にタクシーを利用したこと、その際の実際にかかる料金等損害算定の基礎事実については全く立証がなく、かえつて、前掲甲第二、第七号証、控訴人本人の尋問により成立を認める同第一号証によれば、控訴人のラウンジ営業帳簿には、控訴人の入院中も含め全期間の開店日に車賃として二〇〇〇円の記載があるのみで、これが右タクシー料金と認められないことは明らかであり、他に控訴人個人用の出費も記載(現に後遺症診断書料の支払事実が記載されている)されているに拘らず、それらしい記載が全くなく(甲七号証では昭和六〇年一二月三日通院した記載があるが、これに対応する甲二号証の同日には控訴人主張のタクシー代の記載はなく、前記二〇〇〇円の車賃の記載があるのみ)。したがつて、通院交通費としては最低限として市バス基本料金の往復代金(三二〇円。公知)により算定するほかない。右によれば少くとも金三万五八四〇円を要したものであるが、これを超える部分につき証明がない。

5  逸失利益 金一二三万三六二二円

控訴人は本件事故による同人の休業損害として昭和五九年一二月ないし同六〇年二月まで三ケ月分を請求し、その算定方法として同年六月開業のため、ラウンジ営業では、開業当初は異常に売上げが多く、徐々に減少するから、事故前の売上げ及び純益は基準となしえず翌年同時期の純益との差額が右休業損害にあたる旨主張する。

しかしながら、本件のようないわゆる水商売といわれるラウンジ、バー、スナツク営業においては売上げの額は、特に女性従業員の人数、人柄、交際範囲により、その他季節等種々の要因により影響されるものであることは公知の事実であり、さらに、右のように企業組織体を構成する女性従業員如何により売上額が左右される業態の個人営業体にあつては、ありうべき売上げ額から経費を控除した額が直ちに営業主の休業自体による逸失利益となしえず、右額に対する営業主の貢献度の限度(寄与分)に限り、右逸失利益にあたるというべきものである。

したがつて、控訴人主張の算定方法は右寄与従業員女性の変動その他の売上げ決定要因を考慮していないので、そのままでは採用できない。

右観点に立つて本件についてみるに、前掲甲第一、第二号証、控訴人本人の尋問結果(一部)と弁論の全趣旨(別紙売上表及び同添付のグラフ)によれば、控訴人は昭和五九年六月本件ラウンジ店舗を敷金金八〇〇万円で借り受け、内装等に金一二〇〇万円投入し、内金一〇〇〇万円を銀行よりの借入によりまかなつて、酒類提供飲食営業であるラウンジ営業(以下「本件ラウンジ」という)を始めたものであるが、バー、スナツク等右同種営業では、開業当初は売上額は異常高を示すものであること、控訴人は本件ラウンジの従業員構成として厨房担当者の他常勤女性五人(日給制四人時間給制一人)を主体として、一二月には別に一・五人の臨時女性を雇つていた(昭和五九年一二月、同六〇年一及び二月{以下『事故以後三ケ月』という}と同年一二月、同六一年一及び二月{以下『翌年度三ケ月』という}共通の常勤者はアキ、カヨ、つゆみ、タンタンで、残一人は前者ではトモコ、後者ではアヤ子と思われる)ところ、本件事故入院のため別に、五九年一二月に茂子(一七日)、洋子(五四・五時間)、ミキ(五日)を、翌年一月に茂子(二五日)、ミキ(二日)、同二月に千原(二〇日)、隅井(一一日)、京子(一二日)、を臨時応援として雇い入れたこと、本件ラウンジの同六一年一二月までの売上額の推移は別紙売上表、売上経過グラフのとおりであり、同売上額の年間の傾向は、八月が最低、一二月が最高で他の月に比し著しく高額であり、一月には大巾に減少し、その後漸減傾向で八月に至り、同六〇年三月から一二月までの平均売上額は金三九一万二四三〇円(一二月と八月を除く平均値は金三九一万八七五三円)、同六一年度の同平均値は金三七九万八三八〇円(右同値は金三七五万一〇七二円)で、同六一年度でみると、一月は年間平均値をやや上まわり、二月はほぼ最高低除外平均値に近いこと、控訴人作成の帳簿(甲一、二号証)には、支出として、控訴人の営業以外の支出も記載されているところ、本件ラウンジ内装の原価償却費を月一〇万円とし、右帳簿中、営業外支出と思われる支出を除外して、事故以後三ケ月及び翌年度三ケ月の売上げ、経費の内容収益(売上額から経費を控除したもの)対売上高経費率、同収益率は別紙収益計算書のとおりとなること、以上の事実が認められ、右認定に反する控訴人本人の供述部分は俄かに措信できず、控訴人主張の原判決添付計算書は固定経費を売上額、季節に拘らず一定額とする点、甲一、二号証記載と対比し、事故以後三ケ月分については人件費等が過大で、翌年度三ケ月分については経費が過少である点に照らし到底採用できない。

右認定の事実関係及び弁論の全趣旨(売上表)を総合すれば、本件ラウンジの売上げ額は一二月は他の月とくらべ特異高を示す傾向があり、一ないし四月頃の間の収支に特異性は認められず、昭和六一年度の一月、二月の対売上経費率、同収益率の各平均値(前者は七二・二パーセント、後者は二七・七パーセント)は控訴人就労平常営業時の予測の参考になるというべく、ついで控訴人は本件事故による就業不能がなかつたならば、事故以後三ケ月間について、少くとも翌年度三ケ月の各月売上額を確保しえ、この売上額に対し、一二月分は翌年一二月同率の、一、二月分は翌年同期の平均値の、各収益を確保しえたものと、そして本件ラウンジ営業による収益中の控訴人の労働による寄与率は八〇パーセントを下ることはないものと、夫々推認することができ、右推認を妨げる事情は証拠上認められない。

右によれば、事故以後三ケ月間の控訴人個有の逸失利益は右三ケ月間の予測収益の八〇パーセントと右三ケ月間の控訴人不就労中の現実の収益との差額を求めて算出すべきところ、右算出においては控訴人の休業以外の条件を可及的に同等のものとしてなすべきである。したがつて、右三ケ月間に控訴人が自己の休業に備えて別個余分に雇い入れたことによる収支は控除すべきであるが、右収支のうち売上増、人件費以外の経費増が不明であり、右人件費のみを控除しても、なお対売上高経費率が翌年度三ケ月の控訴人就業時と対比して異常に高率であり、昭和六〇年三月以降の売上額と対比し、右雇い入れ女性のみによる売上増が特段あつたとも思われないので、人件費(ただし、一二月分は翌年度の雇用傾向に照らし、そのうち茂子一人分に限る)のみを控除することで足りると解する。

右計算経過は別紙逸失利益計算書のとおりであつて、合計金一二三万三六二二円となる。

5  同一三枚目表一〇行目から同裏七行目までを次のとおり訂正する。

「8 過失相殺による減額

前記のとおり過失相殺率が人身傷害による損害と車両損害では異なるところ、以上1ないし5、及び7の人損合計は金五〇五万八四八七円であるから前記の過失割合七〇パーセントにより相殺すると金一五一万七五四六円となり、6の車両損を同割合六〇パーセントにより相殺すると金一万六四二二円となる。

9 損益相殺

請求原因5、(一五)の事実は争いがなく、同損害てん補は人身傷害による損害を対象とするものであるから、これを前項人身傷害による損害額から控除すると全額てん補済となり、前項車両損額のみが残ることとなる。」

6  同一三枚目裏七行目と八行目の間に次のとおり付加挿入する。

「10 以上の次第で、本件事故による人身傷害に基づく損害は現存しないので、その余の点につき考えるまでもなく、被控訴会社に対する自賠法三条に基づく損害賠償請求権は発生の余地がない。

そして、請求原因2の被控訴人らの民法七一五条の責任原因事実については争いがないので、被控訴人高田は民法七〇九条に基づき、被控訴会社は同法七一五条に基づき、前記9記載の車両の損害を賠償すべき義務を夫々有するというべきである。」

7  同一三枚目裏八行目の「10」を「11」と、同一四枚目表一行目の「七」を「五」と、同二行目の「事実」から同三行目の「対する」までを「次第で、控除人の本訴請求は、被控訴人ら各自に対し、右9の車両の損害金一万六四二二円と同11の弁護士費用金五万円の合計金六万六四二二円と被控訴人らが右損害賠償債務につき遅滞に陥つたことが明らかな」と各訂正する。

二  以上の次第で、控訴人の本訴請求は被控訴会社に対する自賠法に基づく請求はすべて理由がなく、不法行為による被控訴人らに対する請求は金六万六四二二円及びこれに対する昭和五九年一二月五日から右完済まで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があり認容すべく、その余は失当として棄却すべきであるから、右限度をこえて認容した原判決は相当でなく被控訴人らの附帯控訴は理由があり、原判決は変更を免れず、控訴人の本件控訴は理由がないので棄却することとし、民訴法三八四条、三八六条、九六条、九二条、八九条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎 杉本昭一 三谷博司)

売上表

<省略>

売上経過グラフ

<省略>

収益計算書

<省略>

逸失利益計算書 (単位、切捨は収益計算書に同じ)

1 59年12月分

(1) 得べかりし収益 4546230×0.371×0.8=1349321

(2) 人件費控除時の現実収益額=1214207 (収益計算書による)

(3) (1)-(2)=13万5114

2 60年1月分

(1) 前同 3894010×0.277×0.8=862912 (0.277は1.2月の平均値)

(2) 前同 (収益計算書による)=216437

(3) (1)-(2)=64万6475

3 60年2月分

(1) 前同 3750740×0.277×0.8=831163

(2) 前同=379130

(3) =45万2033

各(3)の合計=123万3622

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