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大阪高等裁判所 昭和63年(行コ)40号 判決 1989年11月30日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求の訴えを却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2(一)  (主位的請求)

控訴人が精華町農業委員会の会長の地位にあることを確認する。

(二)  (予備的請求)

訴外中村秀一が精華町農業委員会の会長の地位にないことを確認する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人及び参加人

主文同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、それを引用する。

一  原判決の訂正<省略>

二  控訴人の主張

1  主位的請求について

原判決は、農業委員会会長は委員により互選された特定の者につき、これを会長に充てる旨の選任があってはじめてその地位に就くものであるから、投票結果のみによって何らの決議を待たず当然に控訴人が会長の地位に就任したものではないとしているが、このような判断は参加人農業委員会における会長選挙の実体を知らないものであり、不当である。

参加人農業委員会においては、会長選任の具体的方法に関する規定が設けられていなかったが、実際は選挙によることとされ、その結果、多数を得た者が当然に会長に就任しており、投票で多数を得た者を総会において改めて会長に充てる旨の決議はしていなかった。

原判決のような解釈を採用すると、選挙では少数の得票しか得られなかった者が総会で会長に充てられたような場合、選挙で多数を得た者の救済手段が全くなくなる結果となるが、それが不当であることは明らかである。

2  予備的請求の請求原因

(一) 主位的請求の請求原因(原判決二枚目表七行目冒頭から同三枚目裏六行目末尾まで)と同一であるから、これを引用する。

(二) したがって、控訴人は参加人農業委員会の会長の地位に就任したものであるが、原判決は、農業委員会会長は委員により互選された特定の者につきこれを会長に充てる旨の選任があってはじめてその地位に就くものであるところ、控訴人を会長に充てる旨の参加人農業委員会総会の決議があったとの事実が認められないとして、控訴人の主位的請求を棄却した。

(三) 参加人農業委員会の会長選任について原判決のような解釈を採用する限り、控訴人が会長の地位にあることの確認請求はなし得ないことになる。そうであるとすれば、控訴人には、現に会長とされている者がその地位にないことの確認請求が許されるべきである。けだし、右確認がされると、参加人農業委員会としてはそれに従って改めて本件総会の選挙結果に基づいて誰を会長に充てるべきかを審議しなければならなくなり、そうなれば、控訴人が会長に充てられることになるであろうからである。

(四) よって、控訴人は、予備的請求として、中村(訴外中村秀一)が精華町農業委員会の会長の地位にないことの確認を求める。

三  被控訴人及び参加人の主張

控訴人の予備的請求が認容されたとしても、控訴人の現在の法的地位そのものを確定することにはならないから、右請求には確認の利益がない。したがって、控訴人の当審における予備的請求の訴えは不適法であり、却下されるべきである。

第三  証拠<省略>

理由

一  主位的請求について

1  被控訴人及び参加人は、被控訴人には本件主位的請求の訴えにつき被告適格がなく、かつ、右請求は法律上の争訟ではなく、原則として裁判所の司法審査は及ばないものであるから、本件主位的請求の訴えは許されない旨主張するが、当裁判所は、右主張はいずれも理由がないと判断する。その理由は原判決六枚目裏一〇行目の「農業委員会」から同七枚目裏八行目末尾までの説示と同一であるから、これを引用する(ただし、同三行目の「一八〇条ノ三」を「一八〇条ノ五」に改める。)。

2  被控訴人及び参加人は、農業委員会の会長の選出をめぐる紛争は農業委員会の責任において自主的に解決すべきものであり、司法審査の対象にはならない旨主張する。確かに、自律的な法規範を有する団体内における法律上の紛争は、それが市民法秩序と直接的な関連を持たず、内部的な問題にとどまる場合には、その紛争は当該団体の自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが相当である。しかし、農業委員会の事務処理結果は農業者の権利義務に大きな影響を及ぼし(農地法三条等)、また、農地法五条二項等を通じて農業者以外の国民の権利にも影響を及ぼす場合があること、農業委員会法(農業委員会等に関する法律)四一条二項によれば、市町村農業委員会の会長は原則として都道府県農業会議の会議員となることなどを勘案すると、公職選挙法の定めに準じた手続によって選出される委員の存する農業委員会の代表者の選任につき、裁判所が全く関与できないと解するのは相当でない。そして、農業委員会法が、「会長は、委員が互選した者をもって充てる。」とのみ定め(五条二項)、選任の具体的手続は各農業委員会の自律性に任せていることからすると、農業委員会が会長選任過程においてした判断について裁判所が違法と評価することができるのは、右判断が社会通念上著しく妥当性を欠いている場合のみに限定するのが相当である。

3  そこで、本案につき判断するに、請求原因1及び2の事実(参加人農業委員会の構成と会長選出過程)は当事者間に争いがない。

4  控訴人は、本件投票(無効とされた二票の内の一票)は控訴人に投票されたものであり、控訴人は一三票を獲得して参加人農業委員会の会長に当選したから、参加人農業委員会の会長の地位にあると主張するので、以下、右主張につき判断する。

<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一)  参加人農業委員会規程(甲第六号証)の二条二項は、「会長が欠けるに至ったときは会長の選挙はその欠けるに至った日から一〇日以内に行わなければならない。」と定め、会長の選任にはまず選挙を行うことを前提とし、同規程四条は、「農業委員会で行う選挙の方法及び手続に関しては別に定める。」としているが、現在、別に定められてはいない。しかし、参加人農業委員会会議規則(甲第五号証)の附則二項は、「農業委員会等に関する法律二一条但書により開かれる委員会の運営にあたっては地方自治法の規定を準用する。」旨定めており、地方自治法一一八条一項は、議会において行う選挙については、公職選挙法の規定を準用する旨規定している。

(二)  ところで、本件総会(昭和六二年七月二九日開催の総会)においては、委員中最年長の訴外藤原敏雄が臨時に会長の職務を行い(地方自治法一〇七条参照)、最初に選挙の方法及び手続につき協議した結果、別紙(一)のとおりの精華町議会会議規則第四章「選挙」の手続に従うこと、委員全員を被選挙権者とせず、候補者を立て、その候補者を対象として投票し、多数の票を得た者を当選人とすること、選挙の結果得票数が同数の場合にはくじによって当選人を決定することを委員全員の合意によって決定し、さらに、投票用紙には候補者の氏名だけを記載し、候補者以外の委員の氏名を記載した場合は当該投票は無効となる旨あらかじめ確認した上、投票立会人に訴外西村善勝及び同杉山義尋を指名し、立候補した控訴人及び中村の二名を候補者として投票を行った。

(三)  右投票の終了後、藤原臨時会長は、開票を宣告し、右立会人らと投票を点検したところ、投票総数二六票のうち白票一票と別紙(二)のとおりの一票(本件投票)があったので、本件投票の効力について、事務局職員の助言を受け、右立会人らの意見を聞いた上、本件投票には候補者以外の氏名の記載があり他事が記載されているから無効であると決定した。そのため、有効投票は二四票となったが、その得票数は控訴人及び中村が共に一二票ずつで同数であったため、抽選を実施した結果、中村が当選人となった。そこで、藤原臨時会長は、その結果を委員会に報告し、中村に当選の旨を告知して、会長選任手続を終了した。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、中村が参加人農業委員会の会長に互選されて就任したものであり、控訴人が右会長に互選されたものでないことは明らかである。

控訴人は、本件投票は控訴人に投票したものとして数えるべきであるから、本件投票を無効とした前記決定は無効であると主張するが、本件投票は、別紙(二)のとおり、「川崎」と記載された左上部に、抹消されてはいるものの「杉山」と判読し得る文字が記載されているから、「候補者の氏名のほか、他事を記載したもの」(公職選挙法六八条一項五号参照)に該り、効力を有しないものというべきである。したがって、藤原臨時会長の前記決定は正当であり、控訴人の右主張は理由がないから採用できない。

また、控訴人は、立会人らは本件投票の効力について臨時会長の決定を仰ぐことなく無効として処理した違法があるというが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、藤原臨時会長は、前記決定のとおり、事務局職員の助言を受け、立会人らの意見を聞いた上、本件投票を無効と判断したものであるから、控訴人の右主張は採用できない。

二  予備的請求について

中村が参加人農業委員会の会長の地位にないことが控訴人と被控訴人及び参加人農業委員会との間で確定したとしても、そのことによって控訴人が参加人農業委員会の会長の地位にあることが確定するわけではないから、控訴人の予備的請求は、控訴人の法的地位の不安を除去する方法として有効適切であるとはいえず、控訴人に訴えの利益を肯定することはできない。よって、控訴人の予備的請求は、訴訟要件を欠く訴えとして却下すべきである。

三  以上のとおり、被控訴人の主位的請求を棄却した原判決の結論は相当であり、本件控訴は理由がないから行政事件訴訟法七条、民訴法三八四条によりこれを棄却し、控訴人の予備的請求は訴えの利益を欠き不適法であるからこれを却下することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日野原昌 裁判官 大須賀欣一 裁判官 加藤 誠)

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