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奈良地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決

奈良県磯城郡田原本町大木一六八-一九

原告

川崎義明

右訴訟代理人弁護士

吉田恒俊

佐藤真理

相良博美

坪田康男

北岡秀晃

西晃

奈良県桜井市粟殿一八五の四

被告

桜井税務署長 辰巳正純

右指定代理人

中牟田博章

的場秀彦

福島廣

西仲光弘

榎友三

岩城美津男

仲谷良嗣

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告が、平成元年二月一三日付けでした原告の昭和六〇年分ないし昭和六二年分の所得税の各更正のうち、昭和六〇年分につき総所得金額一九二万三二六四円、所得税額一万七四〇〇円、昭和六一年分につき総所得金額二九一万八三九〇円、所得金額一二万六四〇〇円、昭和六二年分につき総所得金額二一〇万二三一五円、所得税額五〇〇〇円を各超える部分並びに右各年分の過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和六一年分については五〇〇〇円を超える部分)をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が、原告の昭和六〇年分ないし昭和六二年分(以下「本件各係争年分」という)の所得金額を原告が提示した書類のみでは把握することができないとして、原告の売上金額を反面調査によって把握し、同業者比率による所得率を算定していわゆる推計によって本件各係争年分の所得金額を算定して更正(以下「本件各更正」という)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件各決定」という)をしたところ、原告が、推計の必要性も合理性もなく、また、所得の実額も被告の算出した所得金額より下回るものであるとして、被告のした本件各係争年分の本件各更正及び本件各決定の取消しを求めた事案である。

【争いのない事実】

一  原告

原告は、昭和六一年三月まで奈良県天理市庵治町四八八K一〇-一二において、その後は奈良県磯城郡田原本町大木一六八-一九において、電気配線工事業を営むいわゆる白色申告者である。

二  課税の経緯

本件課税の経緯は、別表1のとおりである。

【争点】

被告は、推計により本件各更正及び本件各決定をしたことにつき、次のとおり推計の必要性及び合理性が認められるから、適法であると主張しているのに対し、原告はそのいずれも争い、本件各更正及び本件各決定のための税務調査(以下「本件税務調査」という)が違法であり、また、本件各係争年分の所得の実額によれば本件各更正及び本件各決定の所得金額や税額を下回ると主張している。したがって、本件の争点は、<1>本件各更正及び本件各決定のための税務調査が適法であるか否か、<2>推計の必要性が認められるか否か、<3>推計の合理性が認められるか否か、<4>原告主張の所得金額の実額が認められるか否かの点である。

一  本件税務調査の適法性について

《原告の主張》

本件税務調査は具体的な調査理由の開示がなく、原告の取引先の反面調査を行う際に何ら事前の連絡もなく、原告はその必要性の説明も受けていないのであるから、違法である。

《被告の主張》

税務調査について調査理由を開示するか否か、取引先の反面調査を行うについての事前の通知及び説明をするか否かについてはいずれも税務調査を行う調査官の裁量に委ねられており、これらを行わなかったからといって違法になるものではない。

二  推計の必要性

《被告の主張》

原告から提示を受けた書類のみでは原告の本件各係争年分の所得金額を実額で計算することができなかったので、被告はやむを得ず推計により所得金額を算出して本件各更正及び本件各決定をしたものであるから、推計の必要性がある。

《原告の反論》

原告はできる限り被告の調査に応じたものであり、推計の必要性はない。

三  推計の合理性

《被告の主張》

原告の本件各係争年分の所得金額及びその計算過程は、次のとおりである。

1 売上金額

原告の本件各係争年分の売上金額は次のとおりであり、その明細は別表2のとおりである(この事実は当事者間に争いがない)。

(一) 昭和六〇年分 一三〇八万六五〇〇円

(二) 昭和六一年分 二三四〇万九四五二円

(三) 昭和六二年分 二八四五万九五〇〇円

2 同業者比準について

(一) 後記(二)のとおりの方法で抽出した各同業者の本件各係争年分の売上金額に対する売上金額から売上原価及び一般経費(必要経費から特別経費である地代家賃、利子割引料、貸倒金、建物減価償却費、減価償却資産の除却損)を控除した金額の割合(算出所得率)の平均値である。

平均所得率の算出過程は別表3ないし5「同業者一覧表」記載のとおりであり、平均算出所得率は次のとおりとなる。

昭和六〇年 二六・六九パーセント

昭和六一年 二二・六〇パーセント

昭和六二年 二二・二〇パーセント

(二) 別表3ないし5に記載された業者は、いずれも、<1>青色申告書により確定申告書を提出していること、<2>電気配線工事業を営んでいること、<3>右<2>以外の業種目を兼業していないこと、<4>原告の近隣(奈良、桜井、葛城税務署管内)に事業所を有していること、<5>年間を通じて事業を継続していること、<6>その売上金額が原告のほぼ〇・五倍から二倍以内であること、<7>事業専従者(ただし、専ら記帳に従事している者)が一名以上であること、<8>対象年分の所得税について不服申立て又は訴訟が係属中でないこと、のいずれの条件をも満たす全ての個人納税者を無作為かつ機械的に抽出したものである。したがって、右業者は、その業種、業態及び事業規模等において類似性を有し、しかも、その数値は申告について正確性を有する青色申告者に係るものであり、その抽出も機械的に公正に行われたものであるから、本件平均算出所得率は、推計課税の基礎となし得る合理性を有する。

3 特別経費

原告の特別経費は、昭和六二年分の駐車料金一六万八〇〇〇円のみである。

原告は、給料賃金(労務費)、外注工賃費も特別経費に含まれると主張するが、右の経費は売上の増減と密接に関連し、概ね比例関係にあるものであるから、右の経費も推計によって算出することが適法である。

4 所得金額

売上金額に平均算出所得率を乗じた額から特別経費の額を控除して算出した数値であり、その計算過程は別表6「原告の総所得金額」記載のとおりであり、所得金額は次のとおりとなる。

昭和六〇年分 三四九万二七八六円

昭和六一年分 五二九万〇五三六円

昭和六二年分 六一五万〇〇〇九円

5 納付すべき税額及び過少申告加算税額

右4に基づく納付すべき税額は別表7「税額計算明細書」記載のとおりであり、また、過少申告加算税額も別表8「過少申告加算税計算明細書」記載のとおりであるから、右金額はいずれも本件各更正における納付すべき税額及び本件各決定における過少申告加算税額を上回っているから、本件各更正及び本件各決定はいずれも適法である。

《原告の認否及び反論》

1 売上金額

認める。

2 同業者比準について

以下の理由により同業者比準による本件推計は合理性がない。

(一) 同業者の算出基準について

被告が抽出した基準(右2(二)の<1>ないし<8>)のみでは同業者の類似性は担保されない。

例えば、電気配線工事業を営んでいる者には、<1>材料仕入費用を本人が負担するか、元請が負担するか(材料費の負担率)、<2>大規模なビルなどの工事を主に行うか、一戸建等の小規模建物の工事を主として行うか、<3>従業員の有無、人数(人件費、外注費率)などその業務形態は一様でなく、また、電気配線工事は工事の内容とその受注費が一定しており、どの程度の利益をあげるかは右の業態がかなりの影響を与えるものである。したがって、経費中に占める外注費、人件費、材料費の割合等についての類似性が担保されていない限り、類似同業者の抽出基準としては全く意味をなさない。

(二) 所得率の偏差について

被告が抽出した同業者の所得率はまちまちで、最大三倍程度の開きがあり、その偏差は極めて高く、到底類似同業者とはいえない。そして、原告の営む電気配線工事業は業者間で利益率がかなり異なるものであり、それを無視して所得率を単純に平均化して原告に当てはめて所得金額を推計によって算出するのは非合理的である。

(三) 原告の業態の特殊性

昭和六〇年ないし昭和六二年は原告が独立して二年ないし四年経過した時期で値切られることが多く、昭和六〇年は材料費を負担しない請負が多かったのが、昭和六一年は材料費を負担する工事が多くなり経費も増加し、昭和六二年は原告一人では対応できなくなり外注に回す比率がかなり増加し、その中にはいわゆる「丸投げ」をしたものも含まれる。本件推計には原告の営業実態の特殊性が何ら考慮されていない。

(四) 同業者の資料の正確性及び抽出方法の公正について

被告はその抽出した同業者の青色決算報告書等の資料を提出せず、しかも、右抽出された同業者は審査請求において抽出されたそれとは全く一致していない。したがって、推計の基礎となった類似同業者に関する資料の正確性は検証できない上、その抽出方法も恣意的で不公正である。

3 特別経費

(一) 別表9ないし11記載の給料賃金(労務費)及び外注工賃費は売上との相関関係がなく、特別経費に算入すべきである。

(二) 地代家賃について、原告は昭和六〇年に金八万四〇〇〇円、昭和六一年に一六万二〇〇〇円、昭和六二年に一六万八〇〇〇円(昭和六二年については当事者間で争いがない)を支出している。

(三) 原告は、元請先から出してもらった材料や入手について、元請相殺の形で売上から控除されており、その額は昭和六〇年で二三万一八〇〇円、昭和六一年で一二八万四七七一円、昭和六二年で一〇七万三三三四円となる。

この相殺分も特別経費に算入されるべきである。

四  経費の実額

《原告の主張》

1 原告の経費の実額は別表9ないし11記載のとおりであり、経費の総額は次のとおりとなる。

昭和六〇年分 一一一六万三二三六円

昭和六一年分 二〇四九万一〇六二円

昭和六二年分 二六三五万七一八五円

2 したがって、原告の所得金額は次のとおりとなる。

昭和六〇年分 一九二万三二六四円

昭和六一年分 二九一万八三九〇円

昭和六二年分 二一〇万二三一五円

《被告の主張》

1 原告が実額による所得を主張・立証して被告による推計課税の合理性を覆すためには、経費のみを主張・立証するだけでは足りず、主張する売上金額が収入金額の全てであること及び主張する経費の全額がその収入と対応することまでを合理的な疑いをいれない程度に立証すべきである。

しかるに、本件における原告の実額反証は、立証の売上金額が総収入金額であることや収支の対応関係が明らかにされていないし、その立証の程度も不十分である。

2 原告主張の売上金額は、被告主張の売上金額をそのまま認めたもので、それだけでは原告の所得金額を実額で主張したことにはならない。しかも、原告の主張する外注費には売上との対応関係が明らかでないものがあることなどからして、原告主張の売上金額がその売上の全てでないことは明らかである。

3 さらに、経費についても、支出金額のどこまでが事業に関連した経費なのか不明であること、売上との対応が不明確なものが存在すること、領収書にも不自然なものが多数存在することなどからして、原告主張の経費があったということはできない。

第三争点に対する判断

【本件税務調査の適法性及び推計の必要性について】

一  乙三、四、五の1ないし5、六の1ないし3、七、八の1ないし3、九の1ないし5、証人中田克美の証言によれば、次の事実が認められる。

1 昭和六三年一〇月一一日、中田克美調査官(以下「中田調査官」という)が原告方を訪問したが、原告は留守であった。中田調査官は、同月二四日に原告方を訪問し、原告の申告した所得金額の確認のため税務調査に来た旨を述べ、申告の基礎となった帳簿書類を提出するように要求したところ、原告から売上げと仕入れが整理されたメモ(内訳書)が提示されたのみで、売上げや仕入れに対応する領収書等の原資料の提示はなかった。

2 中田調査官は、銀行等への反面調査に着手し、同年一二月六日と同月二二日にも原告方を訪問したが、原告は昭和六二年分の収支計算書と外注費の領収書の一部を中田調査官に提示したのみでそれ以外の領収書等の提示はなかった。なお、中田調査官は、昭和六三年一〇月二四日と同年一二月二二日に、それぞれ原告に対し、その協力が得られない場合には取引先に対して反面調査を行わなければならなくなる旨を告げている。

3 中田調査官は、更に反面調査を進めた後、平成元年一月二三日、原告方を訪問した。原告は昭和六二年分の収支内訳書及び外注費の領収書を中田調査官に提示したが、外注費の領収書の内二社分については住所及び氏名が伏せてコピーがされたものであった。中田調査官は右の者の氏名・住所を明らかにするように原告に要求したが、原告は応じなかった。

4 同年二月七日、中田調査官は原告方を訪問し、調査結果を説明し修正申告に応ずるのであれば同月九日までに被告署まで来るようにいったが、原告は反面調査を行ったことに立腹し、調査には応じないし、修正申告もしない旨を述べた。中田調査官が原告方から帰った後、原告は被告署に電話をし、中田調査官の上司である統括官にこれ以上資料の提出をする意思も修正申告をする意思もない、更正をするならすればよいと告げた。

二  以上の事実によれば、被告は原告が中田調査官に提示した書類のみでは原告の所得金額を把握することができなかったというべきであるから、推計課税の必要性が認められる。

そして、税務調査をするにあたり、調査理由を開示することや反面調査を行う際の事前の通知及び説明をすることは、法律上前提要件とされているものではなく、いずれも税務調査を行う調査官の合理的な裁量に委ねられており、これらを行わなかったからといって直ちに違法になるものではなく、社会通念上、税務調査の理由を告知しないことや反面調査をすることが明らかに不合理と考えられる場合に違法の問題が生ずるというべきである。

前記一に認定した事実によれば、中田調査官の調査の理由に関する告示の程度がその質問調査権の行使を不適法ならしめるほどのものとは認められないし、また、反面調査も不適切なものであったとはいえず、本件課税処分のための調査について違法があったとは認められない。

【推計の合理性について】

一  売上金額について

当事者間に争いがない。

二  同業者比準について

1 乙一及び二の各1ないし3、証人福田隆彦の証言によれば、別表3ないし5に記載された業者は、<1>青色申告書により確定申告書を提出していること、<2>電気配線工事業を営んでいること、<3>右<2>以外の業種目を兼業していないこと、<4>原告の近隣(奈良、桜井、葛城税務署管内)に事業所を有していること、<5>年間を通じて事業を継続していること、<6>その売上金額が原告のほぼ〇・五倍から二倍以内であること、<7>事業専従者(ただし、専ら記帳に従事している者)が一名以下であること、<8>対象年分の所得税について不服申立て又は訴訟が係属中でない、という条件を満たす全ての個人納税業者を無作為かつ機械的に抽出したものであることが認められる。

そして、右の基準で抽出された業者は、業種、業態、事業場所、事業規模において原告との類似性があり、かつ、青色申告者であるからその数値の正確性も担保されていて、業者数も本件係争年分において九件ないし一二件であるから、同業者の個別性を平均化するに足りるものである。したがって、本件推計における同業者の抽出は合理性を有するものと認められる。

2 原告は、右<2>の「電気配線工事業を営んでいること」、<6>の「その売上金額が原告の売上金額の約〇・五倍から二倍未満であること」という条件では材料の仕入れを本人が負担するか否か、工事の規模、従業員の有無やその人数が何ら考慮されていないため、業態の類似性が担保されていることは到底いえず、少なくとも経費中に占める外注費、人件費の割合についての類似性が担保されない限り、同業者の抽出基準としては全く意味をなさないし、さらに、原告は、抽出した同業者の所得率について、最大三倍程度の開きがあり、電気配線業は業者間で利益率が異なるものであるから、それを無視して所得率を単純に平均化した推計は合理性がないと主張する。

しかし、推計課税は、原告の帳簿書類の不提示や調査に対する非協力的な態度により、原告の所得の実額を算出できないことによりやむを得ず行うもので、推計により得られた近似値を真実の所得金額として取り扱うものであるから、同業者比準により推計を行う場合に業種、業態、事業規模等において比準同業者と原告とが完全に一致する必要はなく、合理的と認められる方法で類似している同業者を抽出し、その平均値をとれば、原告が主張するような事項はその平均値の中に包摂され、捨象されるというべきである。そして、本件推計は売上から経費を同業者比準によって推計したものであり、売上と経費中に占める外注費、人件費の割合を考慮していないことをもって、推計の方法が不合理とまではいえないし、また、比準同業者間で所得率が著しく突出した業者はなく、その偏差は同業者に通常存在する程度であるから、平均値の中に包摂し得るもので、本件における推計を不合理とすることはできない。

3 また、原告は、昭和六二年分においていわゆる「丸投げ」で外注に回した比率がかなりあるとしてその業態が極めて特殊であると主張する。

しかし、原告が主張する昭和六二年分に「丸投げ」した工事は、「エスポワール」、「三笠運輸」、「石倉サイクル」の三つだけであり売上全体の一割以下しかないこと(甲一二の17、25、ないし28、30、一四、原告の第二回口頭弁論調書一三丁ないし一六丁の供述)からして、原告の所得率に大きく影響を与えるものではない。また、原告は開業して間もない時期であったため、所得率が低かったと主張しているが、原告は昭和五八年ころから開業しており(証人竹森衛の第一二回口頭弁論調書一一丁表の証言)、本件各係争年は開業後三年目以降になるから、この点も原告の所得率に大きく影響を与えるとはいえない。

4 さらに、証人福田隆彦の証言によれば、同業者の抽出も無作為かつ機械的に行われたことが認められる。

5 以上のとおりで、本件比準同業者は合理的に抽出されているものと認められる。

三  特別経費について

1 原告は、給料賃金(労務費)、外注工賃費、元請から相殺された材料費及び人件費は特別経費に算入されるべきであると主張する。

しかし、特別経費とは、必ずしも売上げとの相関関係がなく、事業主の個別的な事情に左右され、所得率の算出に大きく影響する経費であるところ、原告の供述によれば、原告は本件係争年当時、常用の従業員を雇用しておらず、忙しいときにアルバイトを雇うという事態で事業をしていたと認められるから、給料賃金(労務費)及び外注工賃費は原告の売上げと相関関係も有する経費であると言うべきであり、特別経費に算入することはできない。したがって、本件において同業者比準により推計を行うにあたり、特別経費として利子割引料、地代家賃、貸倒金、建物の減価償却費、減価償却資産の除却損、税理士報酬等を挙げるに止め、労務費及び外注工賃費を特別経費としなかった被告の取扱い(乙一の1ないし3)は、相当である。また、元請から相殺された材料費及び人件費も当然に売上げとの相関関係があるから、これも特別経費に算入することはできない。

2 原告は、奈良県磯城郡川西町の中川四郎に対して駐車料金として昭和六〇年に金八万四〇〇〇円、昭和六一年に一六万二〇〇〇円支払ったと主張しており、原告の供述及び甲六の53ないし63、甲九の55ないし66によれば、原告は倉庫のかわりにガレージを月七〇〇〇円で借りていたことが認められる。しかし、右金額を特別経費に算入しても昭和六〇年分及び昭和六一年分の所得金額は本件各更正における所得金額を上回るから、本件推計課税の合理性に何ら影響を及ぼさない。

四  以上のとおりで、本件推計には合理性が認められる。

【実額反証について】

原告は経費の実額を主張しているのでこの点について検討する。

一  原告が実額による所得を主張・立証して被告による推計課税の合理性を覆すためには、経費のみを主張・立証するだけでは足りず、主張する売上金額が収入金額の全てであること及び主張する経費の金額がその収入と対応することまでを立証すべきか否かは問題があるところである。しかし、少なくとも原告の事業による収入金額に一定の補足漏れがあることが具体的に明らかとなった場合には、補足漏れとなった収入金額に対応する部分の金額を必要経費に算入することは相当でなく、また、右の補足漏れとなった具体的な収入金額が明らかでない場合においても、所得計算の前提とされている収入金額と対比して得られた所得率が同業者と比較して著しく過少であったり、所得金額が極めて低額である場合など収入金額にかなりの補足漏れのあることが明らかに認められる場合には、支出額の総額をもって必要経費に算入することが不合理になると考えられる。

二  売上金額について

1 原告の前記【推計の合理性について】二の2の特別経費を除いた所得率は、昭和六〇年が約一五・三四パーセント、昭和六一年が約一三・一六パーセント、昭和六二年が約七・九八パーセントであり、比準同業者間でも極めて低い所得率であり、特に昭和六二年分については原告より低い所得率の比準同業者はいない。

2 さらに、杉枝邸の工事に対する売上(甲一二の31、甲一四)や高畑団地の工事に対する売上(甲一〇の5)が売上金額の中から漏れていることが認められる(乙一七、原告の第一七回口頭弁論調書二五丁の供述)。原告は、高畑団地の工事は奈良教育大学の工事であると供述する(第一八回口頭弁論調書五丁)が、奈良教育大学の工事が本件係争年ではないことは明らかである(甲一六、乙一九ないし二一)。

3 原告の供述によると、工事費用の支払は二五日締めで翌月一〇日支払を原則としていたことが認められる。そうすると、昭和六一年分の伏見あやめ池公民館の工事(甲七の3)は遅くても昭和六一年四月二五日に終わっている(甲七の4)のに、それに対応する外注費の支払いの領収書は昭和六二年五月一三日付けであり(甲九の33)、極めて不自然である。また、日本GORの工事についても、早くても八月二六日(甲七の9)からの工事であるのに、これに対応する領収書の日付けは八月一二日となっており(甲九の43)、これも不自然である。したがって、右の領収書に対応する売上が漏れている可能性が高い。

また、昭和六二年分の竹田ビルと日本GORの工事については、売上金額(甲一〇の2、一〇の13)よりも外注費の金額(甲一二の3、8、16、40)が大きく、他に工事を請け負ったものと認められる。また、ホテルニューわかくさの工事についても、その着工は早くても六月二四日である(甲一〇の8)のに、外注費の支払いは五月一三日であり(甲一二の34)、不自然というほかはない。

4 さらに、乙一四及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和六一年中に自宅を借入金により取得しており、その借入金の返済(元金、利息とも)として、昭和六一年中に一三一万〇六三八円、昭和六二年中に一六八万四七七四円をその所得から支出しており、原告主張の所得によると家族五人の原告一家(乙一〇ないし一二)の生活費は昭和六一年分が一六〇万七七五二円、昭和六二年分が四一万七四三一円しかなくなり、この点でも売上に漏れがあると認められる。

5 以上の事実によれば、原告の売上金額にはかなりの補足漏れがあると認められるから、原告主張の支出額の総額をもって必要経費に算入することは不合理というべきであり、原告の主張する実額は採用できない。

二  経費について

原告は、仕入れに関する領収書(甲五の1ないし11、甲八の1ないし23、甲一一の1ないし31)のみを提出しているだけであり、納品書や請求書等の書証を提出しておらず、右の領収書が原告の事業に関連するか否か不明であり、その全てを経費と認めることはできない。また、接待交際費についても、本件各係争年分に関して証拠がないものが昭和六〇年分で四九万七八〇〇円、昭和六一年分で五〇万三五七五円、昭和六二年分で五〇万円各計上されており、それ以外にも領収書からして事業との関連性が明らかでないもの(甲六の120、九の121、一二の204、214)が含まれている。さらに、消耗品費についても、上様名義や支払者の欄が空白のもの等が存在しており(甲六の108、九の140ないし142、189、一二の218、231、234、235)、原告本人が支出したかどうか不明であって、事業との関連が明らかでないもの(甲六の125、九の124、128)が含まれており、これらを直ちに経費と認めることはできない。外注費についても、支払者が不明なもの(甲九の50)、後日領収書が作成されたのではないかと疑われるもの(甲一二の16は、甲一二の6ないし15、17と比較すると用紙が異なる。)、重複しているもの(甲九の33と一二の1)が含まれており、前記二のとおり売上に対応しない外注費があることからして、外注費もすべて経費と認められることはできない。

そして、右のとおり、原告の主張する経費にはその事業との対応が認め難いものがかなり含まれており、経費全体としても信用できないというべきである。

三  以上によれば、原告の実額の主張を認めることはできない。

第四文書提出命令申立事件(平成五年(行ク)第二号)について

一  原告は、被告に対し、本件推計課税の不合理性を証すべき事実として、本件推計課税の根拠となった各納税者の納税申告書及び添付書類一式が民訴法三一二条一号の「引用文書」であるとして、その提出を求めている。

二  本件各決算書が引用文書に該当するか否かについて検討するに、弁論の全趣旨を総合すると、被告は本訴において推計課税の合理性を主張するため被告、奈良及び葛城の各税務署長が大阪国税局長あてに提出した各同業者調査表(以下「各調査表」という)を引用し、かつ、これを証拠として提出して推計課税の合理性を立証しようとしていることが認められる。したがって、各調査表が青色申告決算書と異なる文書であることは明らかである。

もっとも、各調査表中には、青色申告決算書の記載の一部を資料として使用して作成したことがうかがわれる部分がある。しかし、青色申告決算書には事柄の性質上、申告者の所得関係だけではなく、取引先関係について具体的に開示されているほか、世帯の構成等の申告者のプライバシーに係わる事項の記載もあるものであり、青色申告決算書と各調査表とは全く性質の異なる文書とみるほかない。また、被告は、後記三のとおり守秘義務の点からも本件各決算書を引用する意思のないことが明らかである。

したがって、本件各決算書が、民事訴訟法三一二条一号所定の引用文書に該当するということはできない。

三  また、仮に被告が本件各決算書を引用していると解し得るとしても、民事訴訟法三一二条の定める文書提出義務は、裁判所の審理に協力すべき国法上の義務であり、基本的には証人義務、証言義務と同一の性格のものと解されるから、文書所持者にも同法二七二条及び二八一条一項一号等の規定が類推適用され、文書所持者に守秘義務のあるときは、右文書の提出義務を免れるというべきである。

青色申告決算書は、個人の秘密に属する所得金額、資産負債の内容等が記載された文書であって、税務署長は、所得税の調査に関し職務上知り得た右のような事項につき、国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条によって守秘義務を負う者であって、税務署長が訴訟当事者としてこのような文書を訴訟において引用したからといって、各納税者の秘密保持の利益が無視されてよいこととなるいわれはない。

したがって、被告は、本件各決算書につき文書提出義務を負うものではない。

四  結局、原告の本件申立ては理由がないから、これを却下することとする。

第五結論

以上の次第で、原告の本件各係争年分の所得金額はいずれも本件各更正における所得金額を上回っており、本件の各更正及び本件各決定はいずれも適法であるから、主文のとおり原告の請求をいずれも棄却することとする。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 裁判官 近田正晴)

別表1

課税処分の経緯

<省略>

別表2

原告の売上金額

<省略>

別表3

同業者一覧表(昭和60年分)

<省略>

別表4

同業者一覧表(昭和61年分)

<省略>

別表5

同業者一覧表(昭和62年分)

<省略>

別表6

原告の総所得金額

<省略>

別表7

税額計算明細書

<省略>

別表8

過少申告加算税計算明細書

昭和60年分

<省略>

昭和61年分

<省略>

昭和62年分

<省略>

別表9

昭和60年分の経費

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別表10

昭和61年分の経費

<省略>

別表11

昭和62年分の経費

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