奈良地方裁判所 平成3年(行ウ)6号 判決 1994年7月06日
奈良県橿原市八木町三丁目五番二三号
原告
植田利隆
同所
原告
植田庸子
奈良県橿原市八木町二丁目六番三〇号
原告
植田靖子
同所
原告
植田喜久次
右四名訴訟代理人弁護士
荻原研二
同
内橋裕和
同
藤井茂久
奈良県大和高田市西町一番一五号
被告
葛城税務署長 田辺浩三
右訴訟代理人弁護士
井上隆晴
右指定代理人
小野木等
同
竹田優
同
前川典和
同
西川裕
同
西仲光弘
同
小西嘉次
同
八木康彦
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求の趣旨
被告が、平成元年三月七日付けで被相続人植田喜兵衛の相続税につき、原告らに対してした更正(平成二年七月二五日付け異議決定並びに原告植田靖子及び同植田喜久次については平成三年七月二三日付け裁決により取消し後のもの。以下、右各取消し後のものを「本件各更正」という)につき次の金額を超える部分を取り消す。
1 課税価格
<省略>
2 相続税額
<省略>
第二事案の概要
本件は、被告が、被相続人が有していた株式及び貸付金債権は、相続財産に含まれるとして、相続人である原告らに対して相続税の更正をしたところ、原告らが、右株式は被相続人が生前に訴外会社に贈与したものであり、また右債権については被相続人が放棄しているから、いずれも相続財産ではないと主張して、右更正につきその一部の取消しを求めた事案である。
【当事者間に争いのない事実】
一 本件相続
被相続人植田喜兵衛(以下「被相続人」という)は、昭和六一年一二月一〇日に死亡し、同人の遺産を原告らは相続した(以下「本件相続」という)。被相続人および原告らの身分関係は別紙「相続関係図」のとおりであり、法定相続分は、原告利隆、原告庸子、原告喜久次が各六分の一で、原告靖子が二分の一である。
なお、被相続人は、昭和四六年七月一日、カセキ株式会社(当時の商号は喜株式会社、以下「カセキ」という)を設立し、その後、原告利隆が同社の代表取締役となった(甲七)。また、被相続人は、昭和五七年五月一四日、中和石油販売会社(以下「中和」という。なお、昭和六三年九月に「株式会社中和商事」に商号変更した。)を設立し、原告喜久次が同社の代表取締役となった(甲八)。
二 課税の経緯
本件相続に関する原告らに対する相続税の課税の経緯は、別表1ないし5記載のとおりである。
三 本件相続財産
別表6ないし11の各明細表に記載された財産は、被相続人に係る相続財産であり、その価額及び相続の割合は被告主張額欄記載のとおりである。ただし、別表9の「有価証券(株式)の明細」の順号3から15までの株式(以下「本件遺贈株式」という)、別表10の「三年以内の贈与加算の明細」に記載された株式(以下「本件贈与株式」といい、本件遺贈及び贈与株式を「本件株式」という)、別表11「その他の財産の明細」順号12の中和に対する貸付金債権(以下「本件中和債権」という)、順号13のカセキに対する貸付債権及び順号14の未収金(以下、右カセキに対する両債権を「本件カセキ債権」という)については、後述のとおりいずれも相続財産に含まれるか否かにつき争いがある。また、相続税法一三条の規定により相続財産の価額から控除される債務の額及びその負担者は、別表12の「債務及び葬式費用の明細」記載のとおりである。
なお、本件株式並びに本件中和債権及びカセキ債権が相続財産に含まれるとした場合、本件遺贈株券の相続時における評価額は別表13の「遺贈株式の価額」のとおりであり、本件贈与株式の評価額は別表14の「贈与株式の価額」のとおりであって、その相続分は原告利隆と同靖子が二分一ずつである。また、右の場合、本件中和債権及びカセキ債権は未分割で、被相続人の相続に関する原告らに対する相続税の課税価格及び相続税額は、別表15及び16の被告主張額のとおりとなる。
右各財産が相続財産に含まれない場合には、原告らに対する被相続人の相続財産の価額及び相続税額は、別表15及び16記載の原告らの主張額のとおりとなる。
【争点】
被告は、<1>本件遺贈株式は原告利隆及び同庸子が被相続人から持分二分の一ずつ死因贈与(相続税法一条一号により死因贈与も遺贈に含まれることとなる。)されたものであり、<2>本件贈与株式は別表10に記載された日時及び内容のとおり、被相続人の死亡時から三年以内に原告利隆に贈与されたものであるから、相続税法一九条によりその価格が相続財産の価格に算入され、<3>被相続人死亡時に本件中和債権及びカセキ債権は存在した、として右各財産の価額は本件相続の相続財産の価額に算入されるべきであると主張する。右各財産が被相続人の相続財産に含まれるとした場合、被相続人の相続に関する原告らに対する相続税の課税及び相続税額は、別表15及び16の被告主張額のとおりとなり、原告らに対する本件各更正における課税価格及び相続税額をいずれも上回るから、本件各更正は適法であると主張する。
これに対し、原告らは、<1>本件遺贈株式及び贈与株式はいずれも被相続人が生前にカセキに贈与しており、原告利隆及び同庸子には贈与されておらず、また、<2>被相続人は生前に本件中和債権及びカセキ債権を放棄したから、これらは相続財産に含まれない、と主張する。
したがって、本件の争点は、<1>本件遺贈株式及び贈与株式を被相続人が原告利隆及び同庸子に贈与(死因贈与も含む。)したものでカセキに贈与したものではないと認められるか否か、また、<2>被相続人がカセキ債権及び中和債権を放棄したと認められるか否かの点である。
《被告の主張》
一 被相続人及び原告らは、昭和六〇年四月三〇日ころ、被相続人の死後の相続財産の分割方法を協議し、「植田家の本家・分家相続覚書」(甲六、以下「当初覚書」という。)を作成した。当初覚書には「株式に関する分家の所有」という表題で「甲(後述の本家をいう)のうち南都銀行橿原支店及び協和銀行橿原支店にカセキ(株)の担保としてある被相続人名義の株式は乙(後述の分家をいう。)の所有とする(三項)。」、「中和石油販売(株)の所有する財産及び負債は甲、カセキ(株)の所有する財産及び負債は乙とする。中和石油販売(株)とカセキ(株)の相互に保有する甲、乙名義の株式の権利は相互に放棄する。(四項)」との記載があり、また、その末尾には「相続する日時までに、この記載の配分に基づき資産の効率運用、贈与等を行ってもかまわないものとする。」との記載がある。
なお、覚書にいう「本家」とは、被相続人を世帯主とし、その妻である原告靖子、長男である原告喜久次をその世帯員として、被相続人死亡後は原告喜久次が世帯主となることが予定されていた世帯のことを示し、前記のとおり原告喜久次が中和の代表取締役としてその経営をしている。また、「分家」とは、原告利隆を世帯主とし、原告庸子を世帯員とする世帯を示し、前記のとおり原告利隆はカセキの代表取締役としてその経営をしている。
右記載からすれば、被相続人所有の南都銀行橿原支店及び協和銀行橿原支店にカセキの担保とされていた株式については、それを処分した場合には原告利隆に対して生前贈与し、被相続人が死亡した場合には原告利隆及び同庸子に死因贈与するとの契約が成立していたと解すべきである。
二 原告らは、当初覚書を作成した後、被相続人及び原告らが当初覚書の一枚目を差し替えた甲一五及び一六の覚書(以下「本件覚書」という)を作成し、本件贈与及び遺贈株式はカセキに贈与し、本件カセキ債権及び中和債権を放棄したと主張しているが、その事実はない。
三 したがって、本件贈与株式は、別表10記載の日時に原告利隆に贈与され、本件遺贈株式は原告利隆及び同庸子に死因贈与されたというべきであり(ただし、本件遺贈株式については未分割)、また、本件カセキ債権及び中和債権が放棄された事実はない。
《原告の主張》
被相続人及び原告らは、当初覚書を作成した一箇月後の昭和六〇年五月ころから七月ころに当初覚書の一枚目を「三 株式について 甲所有の株式のうち南都銀行橿原支店及び協和銀行橿原支店にカセキ(株)の担保として預けてある植田喜兵衛名義の株式は、カセキ(株)に本日贈与する。四 中和石油販売(株)とカセキ(株)に関して中和石油販売(株)とカセキ(株)に対しての植田喜兵衛の債権(貸付金・未収金)については、本日各社に対して債権を放棄する。」との記載のある書面に差し替えた書面(甲一五、一六)を作成した。被相続人は、これにより本件贈与株式及び遺贈株式をカセキに贈与するとともに、本件カセキ債権及び中和債権を放棄しているから、右各財産は相続財産に含まれない。
第三争点に対する判断
一 本件の争点は、被相続人の生前に本件覚書が作成され、本件遺贈株式及び贈与株式がカセキに贈与されるとともに、本件カセキ債権及び中和債権が放棄されたかどうかの点であるが、括弧内に掲記した証拠によれば、次の事実が認められる。
1 当初覚書及び本件覚書の記載内容
(一) 当初覚書の記載内容
当初覚書三項には「株式に関する分家の所有」という表題で「甲(本家)のうち南都銀行橿原支店及び協和銀行橿原支店にカセキ(株)の担保としてある被相続人名義の株式は乙(分家)の所有とする。ただし、配当金については相続時まで植田喜兵衛の所有とする。念のため上記銀行の植田喜兵衛の株式担保預かり証を添付する。」、同四項には「中和石油販売(株)の所有する財産及び負債は甲、カセキ(株)の所有する財産及び負債は乙とする。中和石油販売(株)とカセキ(株)の相互に保有する項、乙名義の株式の権利は相互に放棄する。中和石油販売(株)の土地の謄本上にカセキ(株)名義が有るがこれについてはカセキ(株)は放棄する。カセキ(株)の銀行関係への担保提供物件で乙の所有になるもの以外については甲は現在のまま提供するが、乙は随時交換するように努力すること。」との記載があり、また、その末尾には「相続する日時までに、この記載の配分に基づき資産の効率運用、贈与等を行ってもかまわないものとする。」との記載がある(甲六)。
(二) 本件覚書の記載内容
本件覚書三項には「甲所有の株式のうち南都銀行橿原支店及び協和銀行橿原支店にカセキ(株)の担保としてある植田喜兵衛名義の株式は、カセキ(株)に本日贈与する。念のため上記銀行の株式担保預かり証を添付する。」、同四項には「中和石油販売(株)とカセキ(株)に対しての喜兵衛の債権(貸付金、未収金)については、本日各会社に対して債権を放棄する。」との記載がある。(甲一五、一六)。
(三) 原告利隆は、「昭和五七年ころから原告喜久次と同利隆との間で被相続人の遺産をどのように分割するかを協議検討し、昭和六〇年四月三〇日ころに合意をみてその一週間程度後に当初覚書を二通作成した。さらに、その一箇月程度後に当初覚書の一枚目のみを差し替えて本件覚書を作成したものである。甲一五は原告喜久次が、甲一六は同利隆がそれぞれ保管していた」と供述している(第九回弁論原告利隆供述一丁ないし一一丁)。
2 本件株式に関する事実関係について
(一) 本件遺贈株式の名義は相続開始日当時において、被相続人名義となっており、また、本件贈与株式は別表10の記載の日付に売却されているが、その時点での名義人も被相続人であり、いずれの株式もカセキに名義変更された事実は認められない(乙一の1ないし4、二の1ないし3、三、四の各1、2、五の1ないし3、六の1ないし3、七ないし一四の各1、2)。
(二) 本件株式の配当金は、被相続人の銀行口座に振り込まれている(乙一五ないし一七)。
(三) 本件贈与株式である近畿日本鉄道、九州電力、大阪ガス、三菱重工業の各株式は昭和六一年七月及び八月に売却され、その代金でソニー、全日本空輸の各株式が被相続人名義で購入されている(甲二二、乙一八)。
(四) 本件贈与株式である三菱地所、東洋リノリュームが同年五月に売却され、その売却代金の一部でタツミコウジ名義の割引金融債に買い換えられているが、この名義分の金融債は原告利隆個人のものであり、その後これを処分して原告利隆名義のゴルフ会員権の取得に充てられている(甲二二、乙一八ないし二〇、二一の1ないし3)。
(五) 本件贈与株式を売却した代金の一部がカセキに入金されているが、カセキの帳簿ではそれが会長(被相続人)からの借入金又は社長である原告利隆からの預り金として処理されている(甲二二、二三の1、2、二四の1ないし4、二五の1ないし4)。
3 中和所在地の土地について
中和のガソリンスタンドがある橿原市東坊城町字大角田三九番三及び四〇番三の宅地の所有名義が真正な登記名義の回復を原因として昭和六一年一一月二二日受付でカセキから被相続人に所有権移転登記が経由され、そのうち、三九番三については、相続を原因として被相続人から原告喜久次に所有権移転登記が経由されている(甲八、乙二二、二三、弁論の全趣旨)。
4 カセキ及び中和における会計処理等
(一) 取締役会議事録
昭和六〇年四月三〇日付けカセキの取締役会議事録(甲一七)には、昭和六〇年四月三〇日開催の取締役会で、前期一四期計上の欠損金の処理のため本件贈与株式及び遺贈株式並びに被相続人の債務を受入れ、益金として処理する旨の記載がある(甲一七)。また、昭和六〇年四月三〇日付け中和の取締役会議事録(甲一八)には、昭和六〇年四月三〇日開催の取締役会で、被相続人及び原告喜久次からの借入金の贈与を受入れ、債務免除がされたとの記載がある。
(二) 帳簿及び法人税の申告処理について
しかしながら、カセキは、昭和六一年七月一日から昭和六二年六月三〇日までの事業年度において本件株式の受贈益を計上し、しかも、右受贈益の計上については原告利隆が当時の経理担当者である福村信二に指示して昭和六二年六月期の決算時において贈与の時期を昭和六一年七月一日に遡らせて記帳させている(乙二四、五〇の1ないし4)。また、中和は、昭和六二年一一月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度の決算期において初めて本件中和債権の放棄にかかる債務免除を計上している(乙四九)。したがって、前期取締役会議事録記載のとおりの帳簿処理は行われていない。
(三) 前期カセキ取締役会議事録は、右のとおり「前期一四期に計上した欠損金」との記載があるが、一四期とは昭和五九年七月一日から昭和六〇年六月一日の事業年度のことであり(第九回弁論原告利隆供述二七丁裏)、取締役会議事録作成年月日である昭和六〇年四月三〇日には右事業年度はまだ経過していないから、本件議事録の記載は不合理といわざるを得ない。
また、前期中和の取締役会議事録(甲一八)の被相続人の筆跡は、ほぼ同時期に作成されたと考えられる当初覚書の同人の筆跡と異なることが認められるから、右取締役会議事録が昭和六〇年四月三〇日に真正に作成されたかは疑わしい。
さらに、原告らは、昭和六〇年五月から七月ころ本件遺贈株式及び贈与株式の贈与と本件カセキ債権及び中和債権の放棄が行われたと主張しているが、前期各取締役会議事録は四月三〇日付けで同日に取締役会が行われたとの内容であり、原告らの主張とも合致しない。
(四) 以上の事実からするとカセキ及び中和の取締役会議事録の記載内容は信用できず、カセキ及び中和に対する被相続人の債権放棄並びにカセキの本件遺贈株式及び贈与株式の受入れの帳簿処理は被相続人死亡後に行われたものと認められる。
5 国税局調査時に本件覚書が存在したか否かについて
証人小山英樹(以下「証人小山」という)、同佐土原源(以下「証人佐土原」という)は、昭和六三年二月一日、原告喜久次宅、カセキ及び中和の事務所を税務調査した際に、「本家・分家相続分分割覚書」と題する書面三通が提出されたので、これらをそれぞれコピーしたものが乙四四、四七、四八であると供述している(証人小山四丁、同佐土原三、四項)。そして、甲六(二枚つづり)と右乙四四、四七、四八を比較対照すると、その一枚目及び二枚目の記載内容はいずれも一致している。また、印鑑の位置等からして、乙四四と甲一六とは二枚目が同じで、乙四七、四八と甲一五も二枚目が同じものであると認められる。これに対し、原告利隆は、右税務調査時には利隆(中和)のもとには当初覚書はなく本件覚書のみを提出したところ、税務職員は、喜久次のところから持ってきた当初覚書のコピーを出して、なぜ覚書が二通り存在するのかを問いただされたと供述し、原告らは、乙四四、四七、四八は国税局の職員が甲一六(本件覚書)の一枚目を前期コピーの一枚目と差し替えて偽造したものであると主張している。しかし、原告利隆は、前記のとおり本件覚書は当初覚書の一枚目を差し替えて作成したと供述しており、そうであるならば、国税局職員が税務調査をしたときには本件覚書のみが調査資料として提出されるはずであり、当初覚書が資料として提出されることは考えられない。
したがって、右原告利隆の供述は信用できない。
二 以上の事実を前提に検討する。
1 当初覚書の一枚目については全て書き替えながら、さして内容も多くない二枚目をそのまま使用することは不自然であり、しかも、当初覚書四項は原告喜久次の経営する中和と原告利隆の経営するカセキとの関係について重要な記載であるのにこれを本件覚書のように単なる中和及びカセキに対する被相続人の債権の放棄だけの規定に変更するのは不合理である。
2 本件相続に関する税務調査において、原告利隆及び喜久次が国税局職員に提出したのは、当初覚書であり、本件覚書でないから、右時点で本件覚書が存在したとは考えにくい。
3 カセキ及び中和の取締役会議事録は信用できず、また、カセキ及び中和における被相続人に対する債務や本件株式受入れの帳簿処理は被相続人死亡後に行われたことは明らかであるから、被相続人の生前にカセキ及び中和に対する債権の放棄並びにカセキに対する本件遺贈株式及び贈与株式の贈与がされたと認めることはできない。
4 中和のガソリンスタンドが存する宅地の所有名義が当初覚書四項の記載のとおり真正な登記名義の回復を原因として昭和六一年一一月二二日受付でカセキから被相続人に所有権移転登記が経由されているから、右時点まで当初覚書が有効に存続していたと認められる。
5 本件株式の名義がカセキに変更されたことはないこと、その配当金を被相続人が受領していたこと、本件贈与株式が売却されその代金の一部が原告利隆名義のゴルフ会員権の購入資金に割り当てられたこと、右代金の一部はカセキに入金されているが被相続人ないし原告利隆からの借入金ないし預かり金として会計処理されていたことを総合すると、本件遺贈株式及び贈与株式についてはカセキに贈与されたものではなく、当初覚書の記載のとおり分家である原告利隆及び庸子の所有のものとして処理されていたことが認められる。
三 以上のとおり、昭和六〇年四月ころ当初覚書が作成された後、被相続人及び原告らによりその内容を一部変更する本件覚書が作成されたものと認めることはできない。したがって、被相続人が本件遺贈株式及び贈与株式をカセキに贈与し、本件カセキ債権及び中和債権を放棄したことは認められない。
そして、当初覚書の三項や末尾の文言、本件贈与株式についてはその売却代金の一部が原告利隆の名義のゴルフ会員権の購入代金やカセキに対する原告利隆の預り金とされていたことからすると、売却されずに被相続人死亡時まで残存していた本件遺贈株式については分家を構成する原告利隆、同庸子に死因贈与され、本件贈与株式については原告利隆に生前贈与されたものとみるべきである。
第四結論
以上の次第で、原告らが相続した相続財産の価格は本件更正における相続財産の価格を上回るから本件更正は適法である。原告らの請求は理由がない。よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 裁判官 近田正晴)
別紙
相続関係図
<省略>
別表1 相続税の課税の経緯(植田利隆)
<省略>
別表2 相続税の課税の経緯(植田庸子)
<省略>
別紙3 相続税の課税の経緯(植田靖子)
<省略>
別表4 相続税の課税の経緯(植田喜久次)
<省略>
別表5 相続税の総額の計算明細
<省略>
別紙6 土地の明細
<省略>
<省略>
別表7 家屋の明細
<省略>
別表8 預貯金等の明細
<省略>
別表9 有価証券(株式)の明細
<省略>
別表10 3年以内の贈与加算の明細
<省略>
別表11 その他の財産の明細
<省略>
別表12 債務及び葬式費用の明細
<省略>
別表13 遺贈株式の価額
<省略>
別表14 贈与株式の価額
<省略>
別表15 各相続人の取得財産の種類別価額及び課税価格の計算
<省略>
別表16 各相続人の納付すべき税額の計算
<省略>