奈良地方裁判所 平成9年(わ)447号
主文
被告人を懲役一〇か月及び罰金四〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は、平成六年にその所有農地を譲渡した仲西正彦(以下「正彦」という。)の妻で、その所得税申告の代理人であるが、榎堀靜秀、福田兵一と共謀の上、正彦の平成六年分の所得税を免れさせようと考え、正彦の同年中の実際の総合課税の総所得額は二一万三六一五円、分離課税による譲渡所得金額は二億〇三三九万七三五三円で、これらに対する所得税額は五八八五万三五〇〇円であるにもかかわらず、被告人及び榎堀において、右農地の譲渡価格が三億四五九五万円であるのにこれを圧縮して二億八〇五〇万円である旨の虚偽の売買契約書を作成し、更に福田において、正彦には買換資産を取得する意思がなく、したがって、租税特別措置法三七条四項に規定する譲渡所得の課税の特例の適用を受けることができないのに、正彦が右特例の適用を受ける一億六〇〇〇万円相当の買換資産を取得する見込である旨虚偽の記載をした買換え承認申請書を作成し、正彦の平成六年分の総合課税の総所得金額は二一万三六一五円、右特例の適用を受けることによる分離課税の長期譲渡所得金額は三三一五万五〇〇〇円で、これらに対する所得税額は七八四万〇三〇〇円である旨虚偽の記載をした所得税確定申告書を作成するなどしてその所得の一部を秘匿した上、平成七年三月一五日、奈良市登大路町八一所在の所轄奈良税務署長に対し、右買換え承認申請書及び所得税確定申告書を郵送提出(翌一六日受付)し、右特例の適用について承認を受けたが、右特例の適用を受ける場合の修正申告期限である平成八年四月三〇日までに同税務署長に対し、所得税の修正申告書を提出せず、もって、不正の行為により正彦の平成六年分の所得税五一〇一万三二〇〇円を免れさせた(税額の算定は別紙脱税額計算書記載のとおり)
(証拠)
括弧内の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
一 被告人の
1 公判供述
2 検察官調書(六六から七三)
一 山形裕子(二四)、松本増雄(二通)、島岡幸男、向所満弘、川端知子、榎堀靜秀(四五から四九、五一)、福田兵一(五六、五八、六〇から六四)の検察官調書謄本
一 査察官調査書謄本一六通
一 脱税額計算書謄本
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面の謄本
一 証明書謄本
一 メモ書き二枚(平成一〇年押第五号の1、3)、名刺一枚(同号の2)
(適用法令)
罰条 平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、所得税法二四四条一項、二三八条一項
刑種の選択 懲役刑及び罰金刑の併科
労役場留置 前記改正前の刑法一八条
刑の執行猶予 前記改正前の刑法二五条一項
訴訟費用の負担 刑訴法一八一条一項本文
(量刑の理由)
本件は、夫から不動産譲渡等に係る所得税の申告を一任された被告人が、譲渡代金の圧縮など不正な手段を弄してその所得税を免れようとした事件である。納税という国民としての義務を、自己本位な理由から故意に免れようとした動機に酌量の余地はなく、また計画的な犯行態様は悪質といわざるを得ず、そのほ税額は高額で、ほ税率も高率であること、更には本件犯行の性質、社会的影響等を考え併せると、被告人の刑事責任は軽視できない。
しかしながら、被告人の反省の情は顕著であり、所轄税務署に修正申告し課税額全額の納付を済ませていること、本件では共犯者らに利用された面があること、被告人には前科がなく、これまで一家の主婦として社会に適応した生活を過ごしてきた者であることなど被告人のために考慮すべき事情が認められる。
そこで、これら諸事情を総合考慮し、被告人に主文の刑を科すとともに、その懲役刑の執行を猶予することが相当と判断した。
(求刑-懲役一〇か月及び罰金五〇〇万円)
(裁判官 大西良孝)
別紙
脱税額計算書
<省略>