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奈良地方裁判所 平成9年(ヨ)61号 決定 1997年10月17日

債権者

藤井保雄

右訴訟代理人弁護士

吉田麓人

北岡秀晃

山﨑靖子

債務者

株式会社丸島アクアシステム

右代表者代表取締役

島岡司

右訴訟代理人弁護士

門間進

主文

債権者の本件各申立てをいずれも却下する。

申立費用は債権者の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  債権者が債務者との間で労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は債権者に対し、平成九年五月から本案判決確定に至るまで毎月二五日限り、月額四四万六二七〇円の割合による金員を仮に支払え。

第二事案の概要

本件は、債務者の嘱託社員であった債権者が雇止めの無効を主張して、労働契約上の権利を有する地位の保全と賃金の仮払いを求めている事案である。

一  争いのない事実等

1  債務者は、主としてダム等の水利関係施設(水門等)の製造を業とする株式会社であり、全従業員数は約三八〇名である。その本社は肩書住所地にあるが、製造部門は奈良県大和郡山市にある奈良工場に集中しており、同工場には二〇〇余名の従業員がいる。

2  債権者(昭和一七年二月二四日生)は、平成三年一二月に債務者の奈良工場で面接と実技試験を受け、平成四年一月二〇日付けで嘱託社員として採用された。採用後債権者は、奈良工場の生産本部鉄構ライン機械チーム第二グループに配属され、旋盤を使って軸受け、主軸、雌ねじ等の部品を製造する作業に従事してきたが、途中平成七年九月から約一年間フライス盤の作業に従事したほかは一貫して右旋盤の作業に従事してきた。

なお、具体的な業務に関しては、債権者を含む嘱託社員と正社員との間で差異はなく、残業や休日出勤も正社員と同様であった。

3  右以降の雇用契約の締結日(更新日)と当該契約における雇用期間の定めは、次のとおりである。

(一) 締結日 平成四年三月一日

雇用期間 平成四年三月一日から平成四年八月三一日まで

(二) 締結日 平成四年九月一日

雇用期間 平成四年九月一日から平成五年二月二八日まで

(三) 締結日 平成五年三月一日

雇用期間 平成五年三月一日から平成五年八月三一日まで

(四) 締結日 平成五年九月一日

雇用期間 平成五年九月一日から平成六年二月二八日まで

(五) 締結日 平成六年三月一日

雇用期間 平成六年三月一日から平成六年八月三一日まで

(六) 締結日 平成六年九月一日

雇用期間 平成六年九月一日から平成七年二月二八日まで

(八) 締結日 平成七年三月一日

雇用期間 平成七年三月一日から平成七年一〇月一八日まで

(八) 締結日 平成七年一〇月一九日

雇用期間 平成七年一〇月一九日から平成八年四月一三日まで

(九) 締結日 平成八年四月一四日

雇用期間 平成八年四月一四日から平成八年一〇月一三日まで

(一〇) 締結日 平成八年一〇月一三日

雇用期間 平成八年一〇月一四日から平成九年四月一三日まで

4  債権者は少なくとも、平成七年九月ころ一件、同年一〇月ころ二件、同年一二月ころ一件、平成八年一月ころ二件、同年五月ころ一件、同年八月ころ一件、同年九月ころ一件、同年一一月ころ二件、同年一二月ころ一件、平成九年二月ころ一件の加工ミスをした。

5  債務者においては、それまで就業規則に従った正常な形で欠勤・休暇の取得手続が取られていなかったため、平成六年四月一三日、欠勤・休暇の取り方についてのガイドラインを作成し、前日までに休みの届出をせず、当日の朝に電話等で連絡して休む「ポカ休」を一掃する等の運動に取り組んでいたところ、債権者は、平成八年だけでも五月二九日、六月二七日、八月五日、同月二一日、九月四日、同月一二日、一〇月二日、同月二九日の八回、平成九年は二月五日、三月一〇日、同月二一日の三回、右「ポカ休」により欠勤した。

6  平成八年九月二一日、債務者の林生産本部マネージャーと大平人事労務担当マネージャーとが債権者と面接し、債務者の業績が芳しくなく再建を図っている状態であるので、平成八年一〇月一四日から平成九年四月一三日までを雇用期間とする次回契約をもって、雇用を終了する旨債権者に告知した。

7  平成九年二月二四日、債務者の大平人事労務担当マネージャーが債権者と面接し、平成九年四月一三日までの雇用期間満了をもって、その後の雇用契約を更新しない旨債権者に告知した(以下「本件雇止め」という。)。

8  債権者が本件雇止め前三か月間に支払を受けた賃金の平均額は、四四万六二七〇円である。

二  争点

本件雇止めは解雇権の濫用によるものとして無効か。

三  債務者の主張

1  債務者の下の嘱託社員とは、もともとは正社員が定年退職後に、健康で債務者の下で引き続き勤務したいとの希望を持ち、債務者としても当人の過去の勤務成績が優秀で、かつ、技能等を活用することが期待できる者で、人員的に見て余裕がある場合に期間を定めて再雇用する制度であった。しかし、こうした定年退職者以外にも次第に比較的高年齢者で技能を有し、債務者に就職を希望し、債務者がそうした技能者を必要と判断したときや、債務者の下請に雇用されている者の中で同様の状況にあるときに採用された者も、右と同様に嘱託社員として扱われるようになった。したがって、債務者が嘱託社員を雇用するときは、必ず人事担当者が面接し、必要なときには実技試験も行い、期間、賃金等の雇用条件を明示して、相手方がこれに合意した場合にのみ雇用契約を締結するという厳格な手続を取っている。

こうした期間の定めのある嘱託社員契約を更新する場合、債務者の下ではいわゆる自動更新とか黙示の更新といったことは一切行っておらず、必ず当該嘱託社員の所属長や所属部門長が更新を適当と判断したときに、本部に「契約更新伺」という書類を提出して新たな雇用期間中の賃金等の雇用条件を定め、当人に事前にこれを提示して当人がこれに合意したときに、新たな嘱託社員契約をその都度締結している。したがって、更新後の契約は、形式的なものでは全くなく、実質的に債務者が当人のそれまでの勤務状況等を審査して決定しているのであり、単なる更新というよりはむしろ雇用期間毎に新たな嘱託社員契約を締結していたというのが実態である。

2  債権者は平成三年一二月、旋盤の熟練工として債務者の下で働きたいと希望してきたが、当時債務者の下では旋盤関係の技能者が不足していたため、債権者と面談し、実技試験を実施した結果、債権者の年齢を考慮し、六か月間の嘱託社員としてならば採用しようということになった。そこで債務者は、賃金等の雇用条件を債権者に提示したところ、債権者もこれに同意したので、とりあえず平成四年一月二〇日から同年二月末日までを雇用期間とする契約書を取り交わし、引き続き同年三月一日に同年八月末日までを雇用期間とする契約書を取り交わした。このように、このとき二度雇用契約書を取り交わしたのは、他の嘱託社員との雇用期間に債権者の雇用期間を合わせるためであって、同年三月一日に契約更新をしたものではない。

債権者について実質的に契約の更新と目されるのは、平成四年九月一日を始期とする雇用契約からである。このときの契約更新伺では、過去六か月の勤務状況に問題がなく、面談の上、債権者も新しい雇用条件に同意したので、翌年二月末日までを雇用期間とする新しい契約書を取り交わし、以後平成六年九月一日を始期とする雇用契約締結まではこれと同様の状態が続いた。

しかし、平成七年三月一日以降の債権者の勤務状況等には問題があったので、同年九月四日、藪下機械ラインリーダーが債権者と面接し、次の三点を明らかにして次の雇用期間中での改善を求め、もしその改善ができない場合はその次の契約更新はできないかもしれない旨の予告をした。その第一点は、採用当初から熟練施盤工として雇用しているにもかかわらず、過去六か月間に債権者の不注意による加工ミスが発生しており、今後は旋盤からフライス盤に担当を変えるが、加工ミスを出さないようにすること、第二点は、業務の遂行に関しグループリーダーに協力すること、第三点は、債務者の方針に従うことである。

平成八年三月五日、債権者の雇用期間満了にあたり、栗田工務部マネージャーが債権者と面接し、前回の契約更新時における改善指摘事項が一向に改善されていないだけでなく、次のような新たな問題が発生していると指摘した。その第一点は、加工ミスが依然として多いこと、第二点は、防火水槽付近で嘔吐するなど酒気を帯びての勤務がみられること、第三点は、平成六年四月一三日から「ポカ休を追放する」運動を全社的に展開中であるにもかかわらず、債権者には「ポカ休」が多いこと、第四点は、就業中の離席、雑談が多いことである。これらの点について債権者と話し合った結果、同マネージャーは、以上のことが今後改善されない場合、次の契約更新は会社に申請できないので、しっかり頑張るようにと申し渡したが、これに対し債権者は、「ミスをしたことは職人として非常に恥ずかしい、十分に反省しています。更新よろしくお願いします」と返答していた。

しかし、平成八年九月初旬、現場の所属長や所属部門長から、債権者について、人を入れ替えてほしいとか、勤務態度や勤務成績が悪く、この際退職してもらってほしいといった内容の契約更新伺が出されてきた。したがって、本来ならば同年一〇月一四日からの契約は更新できないところであったが、一か月前の予告での雇用期間満了では債権者も困惑するであろうと考え、債務者としてはもう一回だけ契約を更新してその時点で退職してもらうこととし、争いのない事実6、7項に摘示された手続を取ったものである。

3  右のとおり、債務者は、債権者との契約更新にあたり常に実質的な審査検討を行っており、自動的に契約を更新してきたようなことは全くない。したがって、債権者との雇用契約は、実質的にも「期間の定めのない契約」と同視されるようなものではない。

債務者の下での雇用期間の定めのある嘱託社員の雇用契約の更新が、右のようなものである以上、債務者は、次回の雇用契約を締結するか否かを強制される理由はなく、解雇を相当とする事由がなくても、社会常識から見て新しい契約を締結しないのもやむを得ないと認められる事由が存すれば、契約を更新しないことも許されるというべきである。

しかるところ、債権者の勤務状況、とりわけ仕事に対する不適格性、これに関し二度にわたり改善を指示されていたにもかかわらず改善しようとする努力が全く認められなかったこと、いわゆる「ポカ休」等の改善もみられなかったこと、債務者は事業の再構築中であり、非効率な債権者と新たな雇用契約を締結するような余裕が存しなかったこと等に照らすと、債権者との雇用契約を更新し難い相当な事由が存したものである。

四  債権者の主張

1  債務者において、契約更新伺という文書が作成されていたことや、期間満了の一か月前ころに所属長との面接が行われていたことは事実であるが、その面接は、所属長から契約更新の希望の有無を聴取され、債権者が継続を希望する旨回答することで実質的な話は終わり、仕事のやり方について意見交換をしたり、雑談をする程度のものに過ぎなかった。このような面接を経て、期間満了の二週間前ころには新たな嘱託社員契約書が交付され、債権者はこれに署名押印して提出していた。したがって、審査があったとはいえ、その内容としては形式的な面接や書面の作成があるだけで、ほとんど自動的に更新されてきたのが実態で、実質的に債権者の勤務状況を審査するというものではなかった。

このように、契約更新が自動的に行われていたことのほか、従事する作業の種類・内容の点で正社員と差異がないこと、採用後五年間一〇回にもわたって契約更新がされてきたこと等に照らすと、債務者との雇用契約は実質的に期間の定めのない契約と同視することができるから、債権者の雇止めには解雇の法理を類推適用するべきであり、解雇を正当化するに足りる合理的な理由が必要である。

この点、債務者は、債権者の加工ミス、ポカ休、その他の勤務状況等が芳しくなかったと主張する。

確かに、債権者が加工ミスをしたことはあるが、債務者主張のすべてが債権者によるものではなく、債権者だけが突出して加工ミスを多発していたわけでもない。仮にミスが多かったと評価されるとしても、機械の変更や作業量等の問題も影響している以上、これが直ちに債権者の旋盤工としての適格性を否定する根拠にはなりえない。また、債権者のした当日の電話による休暇申出のほとんどは、突然の頭痛や腹痛等の体調不良によるもので、事前に予測することができなかったものばかりであり、このような「ポカ休」が債務者に与える影響もほとんどないから、これを解雇の理由にされるのは全く不当である。

2  仮に、右主張が認められないとしても、契約更新が自動的になされていること、従事する作業の種類・内容の点で正社員と差異がないこと、採用後五年間一〇回にもわたって契約更新がなされてきたことからすると、債務者との雇用契約は、期間満了後の雇用継続を合理的に期待させるものであり、信義則上、更新拒絶にはそれが相当と認められる特段の事情を要するというべきである。しかるに、本件ではこのような特段の事情は一切ないから、本件雇止めは信義則に反し無効である。

第三当裁判所の判断

一  一件記録によれば、次のような事実を一応認めることができる。

1  債務者においては、嘱託社員との雇用契約の期間満了に先だって、所属長が当該社員と面接した上で記した契約更新についての意見のほか、過去六か月間の出勤状況や所属部門長の総合所見を記載した契約更新伺という文書に基づいて、当該社員の契約更新の可否を審査し、これを決定する手続を取っている。そして、債権者との雇用契約の更新にあたっても、右手続のために契約更新伺が作成されていたが、このうち現存しているものの内容は、おおむね次項以下に記載するとおりである。

2  平成四年七月二九日付けの契約更新伺には、所属長(前田)の意見として、「過去6か月間、旋盤作業を中心にして従事してもらった。旋盤作業の技能は申し分なし。又、得手としないフライス作業についても仕事の都合を良く理解し、気持ち良く応じるなど勤務態度も良好で人柄も良い。今後も旋盤作業者として欠かせない存在であり、本人も希望していますので契約の更新を御願いします」と記載されており、所属部門長(林)の総合所見として、「勤務態度も良く、明るく、機械ラインにあって良い存在と思われる。技能も基礎ができており多能工化も可能。継続して下さい」と記載されている。

3  平成五年七月一九日付けの契約更新伺には、所属長(前田)の意見として、「旋盤作業の技能は申し分ありません。又、現在機械の稼働率の向上に取り組んでいます。機械の多台持にも積極的に取り組んでいます。繁忙期の残業、休日出勤も気持ち良く協力してくれますので、契約更新を御願い致します」と記載されており、所属部門長(林)の総合所見として、「軽いケガをしたが、特に問題ないと思われる。仕事も熱心であり所属長意見通り継続して下さい」と記載されている。

4  平成六年一月一四日付けの契約更新伺には、所属長(前田)の意見として、「旋盤作業の技能は申し分なく、又、丸島の仕事にも慣れてきた事もあり、非常に能率的に作業を進めている。AGK活動などにも積極的に取り組み、機械職場には必要な人材ですので、契約の更新を御願いします」と記載されており、所属部門長(林)の総合所見として、「入社2年目で職場にもとけ込み、仕事も慣れて来た。昨年軽傷があったが、特に不安全行為をいつも行っている様子もなく、所属長意見通り更新をお願いします」と記載されている。

5  平成六年七月一日付けの契約更新伺には、所属長(前田)の意見として、「仕事に取り組む態度は、誠実で好感が持てます。現在は長尺汎用旋盤の仕事を担当しているが、技能的にも申し分ありません。AGK活動などにも積極的に取り組み、機械2グループとして必要な人材ですので、契約の更新を御願いします」と記載されており、所属部門長(林)の総合所見として、「年令も若く更新にあたって何も問題ないと思われる。所属長意見通り更新下さい」と記載されている。

6  平成七年一月五日付けの契約更新伺には、所属長(前田)の意見として、「旋盤作業の技能は申し分ありません。AGK活動にも積極的に取り組み、機械職場には必要な人材ですので、契約の更新を御願いします」と記載されており、所属部門長(林)の総合所見として、「所属長の意見通り更新下さい」と記載されている。

7  平成七年八月二一日付けの契約更新伺には、所属長(藪下)の意見として、「長尺旋盤にて従事されておられたおりは、まじめにいそしまれていた。此度フライス盤にてチャレンジしてもらうことになるのですが、過去に於いてフライス経験があると云うことですから、丸島にとってよき戦力であると考えます。したがって雇用契約を継続してもらいたい」と記載されており、所属部門長(林)の総合所見として、「血圧が少し高い、次回検診時の様子をチェック下さい。更新お願いします」と記載されている。

8  平成八年二月二六日付けの契約更新伺には、所属長(栗田)の意見として、「本人は強く契約更新を希望しており、今回の更新にあたって機械Gのチームワークを乱すような言動を慎み前向きな意見を述べること、ムダ話を慎むこと、ミルクを出さないよう、プロの仕事をすること等厳重に注意を致しました。本人も深く反省しこれから一生懸命に仕事に取り組むことを約束致しましたので契約を更新願います」と記載されており、所属部門長(林)の総合所見として、「少し問題はあるが、藪下さんの停年退職、岡本の退職、坂本さんの停年等、機械Gの弱体を考えると上記厳重な注意と今後の日頃の行動を見ていくことにして、再更新をお願いします」と記載されている。

9  平成八年八月一二日付けの契約更新伺には、所属長(栗田)の意見として、「ベテランの機械作業者としてはミスが多く、またミスに対する反省や歯止めに対する意欲が薄い。勤務態度も雑談が多い。当日TELによる欠勤が多い等あまり良くない。この状態では職場に悪影響を及ぼす。これから繁忙期に入る為機械の作業員は一人でも多く必要な時期であるが、もう少し良い人と入れ替えて頂き度い」と記載されており、所属部門長(林)の総合所見として、「所属長の意見通り、勤務態度、勤務成績が良くない。失敗の反省も少なく、上司への応対も良くないと聞く。この際更新をせずに退職してもらって下さい。上記事項で退職してもらうことが無理であれば今回限りの更新を承知させたうえで更新やむを得ないと思います」と記載されている。

二  右に疎明された事実によれば、債務者においては、嘱託社員との雇用契約の期間満了に先立ち、所属長が当該社員と面接して更新希望の有無を聴取した上、自らの立場で記した意見のほか、過去六か月間の出勤状況や所属部門長の総合所見等が記載された契約更新伺という文書に基づいて、当該社員の契約更新の可否を実質的に審査し、これを可とする判断をした場合に雇用契約の更新を行っており、債権者についても、本件雇止めに至るまでこのような審査の結果雇用契約の更新が行われてきたことが一応認められる。

債権者は、契約更新伺が作成されていたことや、雇用期間満了の一か月前ころに所属長との面接が行われていたことは認めつつも、審査の内容としては形式的な面接や書面の作成があるだけで、ほとんど自動的に契約が更新されていたと主張する。

しかしながら、契約更新伺には、右のとおり、債権者の技能を始めとして、その勤務態度や職場に与える雰囲気に至るまで、雇用契約の更新の可否を判断するにあたり必要と思われる一応の事項について、所属部門の責任者の意見が詳細に記されており、しかも、契約が更新されたときの契約更新伺であっても、その記載内容が形骸化していないことからすると、債務者は、日頃の債権者の仕事ぶりを観察して嘱託社員としての適格性を不断に注視し、債権者との雇用契約を更新することが債務者の経営にプラスに作用するか否かを慎重に吟味した上で契約の更新を行っていたものと認められるから、債権者の主張するように、契約更新が自動的に行われていたとは認め難い。

そうすると、債権者について、従事する作業の種類・内容の点で正社員と差異がなく、採用後五年間にわたって契約更新がなされてきたことを考慮に入れても、債務者との雇用契約が実質的に期間の定めのない契約と同視できるとはいえないから、本件雇止めについて解雇の法理が類推適用されるべきであるとの債権者の主張は、採用することができない。

三  債権者はまた、契約更新が自動的になされていること、従事する作業の種類・内容の点で正社員と差異がないこと、採用後五年間一〇回にもわたって契約更新がなされてきたことからすると、債務者との雇用契約は、期間満了後の雇用継続を合理的に期待させるものであり、信義則上、更新拒絶にはそれが相当と認められる特段の事情を要するところ、本件ではこのような事情は一切ないから、本件雇止めは信義則に反し無効である旨主張する。

しかしながら、契約更新が自動的に行われてきたと認め難いことは前示のとおりであるし、債権者は既に平成八年九月二一日には、債務者の林生産本部マネージャーと大平人事労務担当マネージャーから、同年一〇月一四日から平成九年四月一三日までを雇用期間とする次回契約をもって雇用を終了する旨の告知を受けていたものであるから、従事する作業の種類・内容の点で正社員と差異がなく、採用後五年間にわたって契約更新がなされてきたことを考慮に入れても、債務者との雇用契約が、期間満了後の雇用継続を合理的に期待させるものであったとはいい難い。

のみならず、平成八年二月二六日付けの契約更新伺の記載内容からすると、債権者は、同年四月一三日を終期とする雇用契約の期間満了に先立ち、所属長から、加工ミスを含めそこに記載された諸点について厳しい注意を受けていたことが窺われるところ、債権者がその前後を通じて、少なくとも争いのない事実4項に摘示したような加工ミスを繰り返し、その理由は明らかでないものの、「ポカ休」等の一掃運動が行われていることを知りながら同5項に摘示したとおり、当日朝の電話連絡による欠勤を度々していたことも当事者間に争いのない事実であるから、債権者の勤務態度に問題がなかったとはいえず、平成七年後半からの債務者の業績が芳しいものでなかったこと(<証拠略>)をも考慮に入れると、債権者の法的主張を前提としても、信義則上、債務者による本件雇止めが不当であるということはできない。

四  よって、債権者の本件各申立てはいずれも理由がないから却下することとし、申立費用の負担につき民事保全法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 石原稚也)

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