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奈良地方裁判所 平成9年(行ウ)10号 判決

原告

曽和扶佐兄(X)

右訴訟代理人弁護士

北岡秀晃

石川量堂

被告

奈良県知事(Y) 柿本善也

右訴訟代理人弁護士

川村俊雄

以呂免義雄

右指定代理人

辻本順一

巽宗和

藤岡正

徳田孔功

事実及び理由

第一  二2 本件条例のうち、本件に関する条文は次のとおりである。

「一〇条 実施機関は、公文書の開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書の開示をしないことができる。

二号 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア  法令等の規定により何人でも閲覧することができる情報

イ  公表することを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報

ウ  法令等の規定による許可、免許、届出等の際に実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの

八号 県又は国等が行う取締り、監査、検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟、人事その他の事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの、特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの、関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの」

第四  争点に対する判断

一  本件条例一〇条二号該当性について

1  本件条例一〇条二号の趣旨について

本件条例は、「県政に対する県民の理解と信頼を深め、県民の県政への参加を促進し、もって公正で開かれた県民本位の県政を一層推進することを目的」として、「県民の公文書の開示を求める権利」を保障し(一条)、本件条例の解釈及び運用に当たっては、右権利を「十分に尊重するもの」としており(三条一文)、これを受けて、本件条例一〇条は、公文書の原則公開を基本としている。しかし、他方で、公文書を開示することにより、基本的人権が侵害されたり、公共の利益が損なわれたりすることのないように、これらの権利・利益の保護と公文書開示請求権との調和を図る観点から、一〇条各号の非開示事由に当たる場合には、原則公開の例外として、公文書を非開示とすることを認めている。

このうち、本件条例一〇条二号本文は、基本的人権を尊重し、個人の尊厳を守る立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するため、個人に関する情報につき、非開示とすることを定めたものであり、この点については、本件条例三条二文においても、公文書を開示することによって「個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない」旨重ねて規定されている。

そして、個人のプライバシーの概念は、抽象的であり、その具体的な内容や保護すべき範囲が明確でなく、個人情報は一度開示されるとその被害回復はほとんど不可能であるため、本号の条文の規定の形式としては、「特定の個人が識別され得るもののうち、他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」などと規定して保護されるべきプライバシーの範囲を絞り込む規定形式、いわゆる「プライバシー保護型」)を採用せず、広く個人に関する情報について、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報は非開示とする規定形式(いわゆる「個人識別型」)を採用した上で、本号ただし書アないしウにおいて、法令等の定めるところにより何人でも閲覧できる情報、公表を目的としている情報及び開示することが公益上必要であると認められる情報について、開示することができる旨定めている(〔証拠略〕)。

2  本件について

(一) 前記争いのない事実等によれば、本件非開示部分は、奈良県の食糧費の支出負担行為兼支出命令書中に記載された懇談の相手方である厚生省生活衛生局の幹部職員の役職名であることが認められる。

(二) 本件非開示部分の本件条例一〇条二号本文該当性について検討すると、本件非開示部分は、懇談の相手方である公務員の役職名のみであるから、個人の氏名とは異なり、それ自体は行政庁の補助機関に関する情報であって「個人に関する情報」に該当するということはできない。ただし、当該公務員の役職名が、個人的な会合における当該個人の特定のためのものである場合には、これが「個人に関する情報」に該当すると解する余地もあるが、本件は、そのような場合ではない。そうすると、その余の検討を加えるまでもなく、この点の被告の主張は採用できない。

二  本件条例一〇条八号該当性について

1  本件条例一〇条八号の趣旨について

本件条例一〇条八号は、県又は国等が行う事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより当訣事務事業の目的が損なわれ、又は公正・円滑な執行ができなくなるなど、県民全体の利益を著しく損なうこととなるおそれがある情報につき、非開示とすることを定めたものである。

そして、前述のとおり、本件条例一〇条各号は、公文書の原則公開の例外として、一〇条各号の非開示事由に当たる場合に、公文書を非開示とすることを認めたものであることからすれば、本件条例二〇条八号の「関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの」、「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの」という要件については、将来予測であって立証が困難であるという点を考慮しても、情報の内容・性質等に照らして、情報を開示することにより、右信頼関係等の破壊や事務事業の執行上の著しい支障等が発生する蓋然性につき、客観的、具体的に認められることを要するものと解するのが相当である。

2  本件について

(一) まず、本件非開示部分は、前記争いのない事実等によれば、県の幹部職員が厚生省生活衛生局の幹部職員との間で行った懇談会の懇談の相手方を明らかにする情報であるから、本号の「渉外」に関する情報に該当する。

(二) 前記争いのない事実等及び〔証拠略〕、によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件懇談会は、厚生省生活衛生局の幹部職員らが産業廃棄物処理施設の現地視察のため奈良県を訪れた際、廃掃法の改正に向けた奈良県の要望を国に伝えたり、廃掃法改正の方向付けにつき国の保有している情報を収集したり、焼却炉のダイオキシン対策等に関して、他府県の事例を踏まえて、行政指導のあり方について教示を受けたり(〔証拠略〕)、ダイオキシン対策等の補助金に関する情報を収集したり(〔証拠略〕)するといった目的のほか、円滑な厚生省との付合い、陳情要望活動に資するようにする(〔証拠略〕)といった目的から行われたものであった。

(2) 改正廃掃法の公布は平成九年六月で、本件懇談会が行われた平成八年六月当時は、厚生省が生活環境審議会に諮問をし、改正案の骨子がとりまとめに近い状況であり、平成九年三月四日の衆議院予算委員会第四分科会において、奈良県選出議員が奈良県西吉野村、室生村の産業廃棄物問題に関連して質問を行った際、厚生省生活衛生局長は、いわゆるミニ処分場を許可対象施設にするなど、施設の基準等の見直し、強化を図る意向である旨廃掃法改正に関して答弁をしていた(〔証拠略〕)。

(3) 証人上辻は、懇談の相手方である厚生省生活衛生局の幹部職員には、奈良県の要請により無理に本件懇談会に参加してもらったものであり、相手方も役職名や氏名の公表を前提にして本件懇談会に参加してもらったわけではないので、開示されれば、相手方に不快感を与え、奈良県と厚生省、国との信頼関係にも大きく影響する(〔証拠略〕)、公表されたからといって、行政指導のあり方についての教示や法改正についての要望ができなくなるということはなく(〔証拠略〕)、これまで、懇談の相手方を開示することによって、不利益な取扱いがなされたという事実があるわけではないが、信頼関係をなくし不利益につながるおそれかあると懸念している(〔証拠略〕)旨供述している。

(三) 前述のとおり、既に開示された情報から、懇談の相手方は厚生省生活衛生局の幹部職員であることが明らかになっており、前記認定のとおりの本件懇談会の目的に照らして、これに加えて、懇談の相手方である厚生省生活衛生局の幹部職員の役職名を開示したからといって(すなわち、懇談の相手方が、局長であるのか、部課長であるのかを開示したからといって)、奈良県と厚生省との信頼関係等の破壊や事務事業の執行上の著しい支障等が新たに発生するとは認め難いから、本件非開示部分を開示することによって、同号所定の「関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれ」、「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがある」とは認められない。

第五  以上の次第であるから、本件非開示部分を非開示とした被告の本件処分は違法である。

よって、原告の本訴請求を認容して本件処分を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 川谷道郎 田口治美)

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