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奈良地方裁判所 昭和23年(ワ)104号 判決

原告 池淵ウメノ

被告 谷奥淺一 外一名

一、主  文

被告両名は原告に対し

(一)別紙目録<省略>第一号記載土地につき奈良地方法務局富雄出張所昭和十四年二月十四日受付第三五一号同日附賣買に因る持分三分の二共有権取得登記

(二)同目録第二号記載家屋につき同登記所同日受付第三五二号原告と共による被告両名の共有権保存登記の各抹消登記手続をしなければならない。

訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告は主文第一項同旨の判決を求め其の請求原因として原告は昭和四年三月十二日訴外池淵與三郎と婚姻し與三郎は昭和五年二月五日戸主実兄訴外池淵繁藏の同意を得て分家した。其の際別紙目録第一号記載土地の内宅地百七十七坪五勺と其の地上の同目録第二号記載家屋及若干の家財類の分與を受けたが其の余の田畑山林全部を原告夫婦が労苦して買求めた。原告の夫與三郎が昭和十三年八月十三日死亡し直系卑属がなかつたので原告が選定家督相続人として遺産を相続し亡夫の跡を継いで農耕に精励し財産の保全に努めた。しかるに訴外繁藏が原告より不動産登記済証及印章を取上げ保管中親族に当る被告両名と共謀の上原告不知の間に右権利証及印章を冒用し原告名義を偽り賣買証書及委任状を偽造して別紙目録第一号記載土地につき昭和十四年二月十四日奈良区裁判所富雄出張所受付第三五一号を以て同日附賣買に因る被告両名の持分三分の二の共有権取得登記を同目録第二号記載家屋につき同日同登記所受付第三五二号を以て原告と被告両名の共有権保存登記を申請して各其の登記を経た。しかしながら権利移轉の実体原因のない右各共有権取得及保存登記はいづれも無効で原告は所有権に基いて右各共有登記の抹消を求め得るところ円満な解決を図る爲家事調停を申立てたが不調となつたので茲に被告両名に対し右各登記の抹消登記手続を求める爲本訴に及ぶと陳述し仮りに被告等主張のように原被告等間に本件不動産共有持分三分の二讓渡の信託契約成立し從つて右第一次的請求原因が理由ないとすれば原告は本訴において被告両名に対し右信託契約を解除し現状回復として同様前記被告両名の爲に爲された共有権取得登記及持分保存登記の抹消登記手続を予備的に請求する。尚原告が亡夫與三郎の家督相続人に選定されると同時に訴外繁藏の二男孝次と養子縁組したけれども同人は浪費の癖があるので親族と協議の上離籍し昭和二十二年二月十七日訴外繁藏の四男修当時十九歳と養子縁組し同人が現に本件田畑を耕作して居るけれども同人が実父繁藏の意思に服從する限り原告は修との縁組を継続し得ない。このことは原告の右信託契約の解除を阻止すべき正当事由に当らないと附演した。<立証省略>

被告両名訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め其の各答弁として原告主張の婚姻分家の事実及原告の夫池淵與三郎死亡に因る原告の選定家督相続の事実並に原告主張の相続財産である其の主張の各不動産につき原告主張のような被告両名の共有権取得並保存各登記の爲されある事実はいづれも認めるけれども原告其の余の主張事実を否認する。右各登記はいづれも原告名義を偽つて被告両名が訴外池淵繁藏と共謀してしたものでなく原告の承諾により適法に爲されたものである。元來亡與三郎の親族会が原告を家督相続人に選定するに当り原告が本家戸主たる訴外繁藏の二男孝次と養子縁組し相続財産を保持し池淵家を隆興すべきことを申合せたに拘らず相続後原告は養子孝次を疎んじ動産を処分する等の挙に出たので昭和十四年二月十三日被告両名及訴外繁藏、訴外松山卯之松、井上五郎次郎、外数名の親族が原告と協議の上養子孝次を離籍し改めて訴外繁藏の四男修と原告が養子縁組すること及原告所有不動産を親族代表である被告両名と原告との共有名義に登記することとし原告が被告両名に対し財産管理を委託する目的を以て本件不動産の持分三分の二の共有権を譲渡する旨約したので其の翌日原被告三名が右信託讓渡契約に基いて本件各不動産につき前記各共有登記を経由したのである。從つて右各登記は有効でありこれがいづれも不実無効の登記であることを理由とする原告の本訴請求は失当である。又原被告等双方間に前記不動産讓渡の信託契約を將來原告が養子修を入籍し同人と同居して共に農業に從事し先祖の祭祀を絶やさぬようにする時期の到來するまで存続させる旨約定したところ原告は養子修を昭和二十二年二月十七日入籍させたが原告自身昭和十四年二月以降家を出て居所を轉々し現在養子修が独り家に在つて農業に從事して居る。從つて未だ原告が右信託契約を解除し共有権の移轉を求め得る期限到來しないから原告の予備的請求も亦失当であると陳述した。<立証省略>

当裁判所は職権を以て原告本人を訊問した。

三、理  由

原告が昭和四年三月十二日訴外戸主池淵與三郎と婚姻し與三郎が昭和五年二月五日分家したが昭和十三年八月十三日死亡し直系卑属がなかつたので親族会決議により原告が選定せられて家督相続し別紙目録記載不動産所有権を承継取得したこと及昭和十四年二月十四日同目録第一号記載土地につき賣買に因り被告両名に持分三分の二を移轉する旨の原告主張の共有権取得登記同目録第二号記載の未登記建物につき原告被告等三名の原告主張の共有権保存登記を経由しあることは本件当事者間に爭がない。原告は第一次的に右各登記は当時本家戸主である訴外繁藏が被告両名と共謀の上原告不知の間に原告の印章及登記済証を冒用し原告名義の登記申請書類を偽造して爲した実体上無原因で無効のものであるから所有権に基いて右各登記の抹消を請求する旨主張するけれどもこれを認むべき証拠がない。却て各成立に爭ない甲第四号証の一乃至十四、乙第一号証及証人池淵繁藏同池淵奈良吉並被告本人谷奥浅一の各供述を綜合すれば原告の亡夫與三郎が生前訴外繁藏の四男訴外修を養子に迎える予定であつたところ與三郎死亡当時修が幼少であつたため訴外繁藏の二男訴外孝次を原告の養子に入籍させたが原告との折合惡かつたため離籍することとし修が成年に達するとき入籍することの條件で其の間寡婦原告に將來不行跡あつて財産喪失することあるを慮り本家戸主訴外繁藏が原告の相続財産を管理する必要ありとし昭和十四年二月十三日被告両名訴外繁藏、池淵奈良吉、井上五郎次郎、稲葉諒太郎等親族協議の上原告の任意の処分を妨げ財産の保全を図る爲に本件不動産共有持分三分の二を親族代表者である被告両名に対外的に移轉して管理を預託することを原告をして被告両名に約諾させ翌十四日該共有権讓渡の信託契約に基いて前記各共有権移轉並保存登記爲され爾來訴外繁藏が原告の印章及不動産登記済証を手裡に保管して本件各不動産を管理收益しつゝあることを認定するに足りる。從つて本件各不動産の前記各共有権登記が偽造の登記申請書類に基いて爲された無原因の登記であることを主張する原告の第一次的請求原因は其の理由ないこと明かである。仍て前記信託契約の成立を前提とし該契約解除に因る現状回復として被告両名に対し右各共有登記の抹消を求める第二次的請求原因の当否につき審按する。原告が昭和二十四年十二月八日の口頭弁論期日において被告両名に対し前記不動産共有権讓渡の信託契約を解除する旨意思表示したことは記録上明白であるから斯様に財産管理委託の爲にする不動産所有権讓渡契約は委任契約の原則に從い特約ない限り委託者が任意に右契約を解除して所有権の回復を請求し得るものと解すべきところ被告両名は原告が養子修の入籍後も修も同居して農業に從事し先祖の祭祀を絶やさぬようにする時期の到來するまで右信託契約を存続させる旨原被告間に確約したところ原告が昭和十四年二月以來家を出て居所を轉々し先祖の祭祀を施行しないから未だ原告において任意に右契約を解除して共有権を取戻し得る時期到來しない旨抗弁するから按ずるに改正民法第八百九十七條は遺産の相続に関し祖先の祭祀を主宰すべき者の特権を慣習上認めて居るけれども他面改正民法が戸主、家族制度を廃止し財産権、家族に関する事項につき個人の尊嚴と両性の本質的平等を基調とする改正民法親族相続編の規定の精神に鑑みるときは寡婦をして其の相続した財産権の享有行使を包括的に不定期間制限禁止することを目的とする不動産信託讓渡契約に附帶する解除権の抛棄に関する特約は改正民法施行とともに民法第九十條の趣旨に從い失効するものと解するを妥当とする。しかも被告等提出援用のすべての証拠によるも前記趣旨の特約の成立を認むるに足りない。却て前段認定の各証拠に依れば前記信託讓渡契約の所期する目的は原告自身の利益の爲養子修が成年に達して本件土地を耕作し家計を維持し得るまでの期間保全することに存し被告等受託者に不動産收益権を與え財産上の利益を供與する爲に締結されたのでないことが窺知し得られ原告が右約旨に從い昭和二十二年二月十七日修が十九歳のとき養子縁組届出を了し爾來修が本件土地を耕作し居れることは本件当事者間に爭ないから尠くとも養子修の入籍後は原告において任意に右信託契約を解除し得る期限到來したものといわねばならない。尤も成立に爭ない乙第二号証及証人池淵繁藏同松本茂被告本人谷奥浅一の各供述に拠れば原告が本家戸主訴外繁藏の子を養子とし家系を維持することを條件として亡夫與三郎の家督相続人に選定されたところ原告は繁藏の意に逆い家に定住せず昭和二十二年五月以來家出し他人の家に寄寓して大阪市交通局事務員に就職し親族一同の再度の説諭にも拘らず養子修と同居を肯じないこと殊に原告が昭和二十三年二月十日被告両名訴外繁藏等親族一同に対し気儘の所爲を詫び繁藏と同居することを誓約したのに拘らず右約束を破棄し自発的な行動を持続し來れることを認め得るけれどもひるがえつて証人松本茂の証言及原告本人の供述に徴するときは原告が相続した財産の大半は亡夫與三郎と共稼して得た蓄財により買求めたこと訴外繁藏が原告を実弟與三郎の選定家督相続人に選定しながらも自己の子をして與三郎の遺産を承継させるこの実質を貫かんが爲に家系の維持を理由に原告の人格を軽視し其の財産権の享有を必要の程度を超えて制限しつゝ財産の管理に藉口して自から收益を取得し原告所有家屋を他人に賃貸して原告に同居を強いて労役に服させようとしたが性來從順の婦徳に欠けるところある原告はこれを慊らず反抗しつゝも農家保有米制度に束ばくされて居たけれども漸く自活し得るに及んで繁藏方を立去り養子修と別居し居れるが親族等の監督を離れ自主的な家庭生活を樹てることを希望して本件不動産所有名義の返還を求めるに至つたことを認め得られる。從つて右事実よりして原告に本件不動産の所有名義を回復し原告の支配による管理收益に委ねることは寧ろ原告と養子修との家庭生活の円満幸福を期待し得る所以であることを窺うに足りるから被告等の家族制度偏重に捉われた主観よりして気儘放縱の行動と観察する叙上認定の原告の行動は畢竟するに訴外繁藏の原告に対し加え來れる不当且不必要な制限干渉とこれに左袒する被告等の固陋な因襲的態度に原因するものと断じ得られ到底原告が前記不動産共有権の信託讓渡を解除することを阻止制限するにつき信義則上正当の事由とするに足りない。してみれば原告の前記共有持分権の信託讓渡契約の解除は有効であり被告両名は原告に対し共有持分権を移轉し原告の單独所有に回復すべき義務あること勿論であつて別紙目録第一号記載土地の内生駒郡富雄村大字二名四千十三番の二田一畝五歩外田畑六筆がいづれも農地であることを証人池淵奈良吉の証言に依り認め得るけれども前顕認定のように財産管理委託の目的で対外的関係においてのみ農地の所有権を非耕作者名義に移轉する信託讓渡契約を解除する結果現状回復により右農地所有権が原所有者に移轉する場合は農地調整法第四條の適用を受けないものと解するを相当とする。しかして土地建物共有権の信託讓渡に伴う共有登記を該契約を解除して單独所有の現状に回復する爲には信託者は必ずしも受託者に対し共有持分の移轉登記手続を求めるの要なく右共有登記の抹消を請求し得ること勿論であつてこのことは未登記建物につき其の共有権の信託讓渡の履行方法として信託者受託者双方の共有権保存登記せられたときでも受託者の共有登記のみを抹消することにより登記簿上信託者の單独所有登記に回復し得られるから本件において原告は受託者である被告両名に対し本件建物につき共有権保存登記の抹消を求め得るものと解する。よつて原告の右予備的請求原因に基く原告の本訴請求を理由ありと認め民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 南新一)

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