大判例

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奈良地方裁判所 昭和27年(行)4号 判決

原告 中沢由蔵

被告 安堵村議会

一、主  文

被告議会が昭和二十七年五月二十九日なした原告を被告議会の議員から除名する旨の議決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求原因として原告は被告議会の議員であつたが被告は昭和二十七年五月二十九日の議会において原告を議員から除名する旨の議決をなし同月三十一日その旨原告に通告した。然しながら右議決には次のような違法がある。

即ち

一、右議決の内容は単に「安堵村会会議規則第十章懲罰第三十八条第一項(但し同条第一号の誤記)及び地方自治法第百三十五条第四項(但し同法第一項第四号の誤記)に該当する」というのみで右懲罰の対象たる具体的事実を明示せず。

二、地方議会の議員に対し懲罰を科するには予め当該議員を審問し弁明を試みる機会を与えねばならないことは敢て法律の規定をまつまでもないところ被告はかゝる手続を経ることなく抜打的に前記除名の議決に出で

三、更に右議決は原告が昭和二十五年五月頃から昭和二十六年九月頃迄同村大字東安堵北方の大字会計員として在職中同大字のため保管中の環境改善費を支出した行為を捉えて安堵村会会議規則第三十八条第一号「村会議員たる義務を怠り又は議員たる名誉を失墜する行為のあつた場合」に該当するとしてなされたようであるが原告は右支出に関し如何なる違法行為もした覚えはない。又仮に右の行為が被告の主張する如く横領罪を構成するとするも右行為は議会の議場外の然も議会の運営とは無関係なものであるからかゝる行為を捉えて懲罰を科することは許されないのみならず右安堵村会会議規則は昭和二十七年三月三十一日可決制定されたものであるからかゝる事後、制定にかゝる規則を制定前の行為に遡及適用した右議決は違法たるを免れない。

以上いづれの点よりするも被告の右議決は違法であるからその取消を求めると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め答弁として被告が原告主張の日時その議会において原告を安堵村会会議規則第三十八条第一号及び地方自治法第百三十五条第一項第四号に該当するとして議員から除名する旨の議決をなしその旨原告に通告した事実並に右規則が昭和二十七年三月三十一日可決制定せられた事実はいづれもこれを認めるが右議決が違法であるとの原告の主張はこれを争う。

即ち被告は原告が昭和二十五年五月頃から昭和二十六年九月頃迄安堵村大字東安堵北方の大字会計員として在職中右業務上保管に係る多額の環境改善費を横領したる事実を確認したため右規則第三十八条第一号に該当するとして前記の議決を為した次第である。およそ地方議会の議員たるものは当該地方住民に対し住民全体の奉仕者として良心に従い誠実に職務を行うべく自己は固より一部の者の利益を図るべからざる義務を負いしかもかかる義務の遵守が単に議場内においてのみ要求せらるべきものにあらざることは憲法並に地方自治法の精神に徴し疑なきのみならず前記安堵村会会議規則第三十八条第一号が「村会議員たる義務を怠り又は議員たる名誉を失墜する行為のあつた場合」と規定し同条第四号第五号の如く「議会に於て」或いは「議会中」と限定せられざる事実によるも明白である。次に地方議会の議員に懲罰を科するには必ずしも予め当該議員を審問し或は弁明を試みる機会を与えることを要件とするものではない。殊に本件の場合原告の平素の言動に徴し仮に審問をなすもその誠意ある陳述を期待することの不可能なること明白であつたからこれを審問しなかつたに過ぎないと述べた。(立証省略)

三、理  由

原告が被告議会の議員であつたこと、被告議会が昭和二十七年五月二十九日の議会において原告を安堵村会会議規則第三十八条第一号及び地方自治法第百三十五条第一項第四号に該当するとして除名する旨の議決をなし同月三十一日その旨原告に通告したこと並に右懲罰の対象となつた事実が原告が昭和二十五年五月頃から昭和二十六年九月頃迄安堵村大字東安堵北方の大字会計員として在職中右職務上保管中の同大字の環境改善費の支出に関するものであることは、当事者間に争がない。

思うに地方公共団体の会議規則は地方自治法中議会の会議に関する規定たる同法第百二十条に基き地方公共団体の議会の会議の運営に関する細則を規定するものであるから地方自治法の規定に牴触する規定を設け得ないことは勿論会議の運営に関係なき事項を規定することも許されないところである。而して地方公共団体の議会は地方自治法第百三十四条に基きその決議により議員に懲罰を科することができるが同条によれば「この法律及び会議規則に違反した議員に対し」と規定していることと同法の議会にかゝる懲罰権を与えた目的が議会の秩序を維持し議事の円満な進行をはかるにあることに鑑みればこの懲罰規定の対象は地方議会の会議の運営に関連する議員の非行に限ると解するを相当するから本件において被告がたとえ議員の議会の運営に関せざる議場外の行為についても責任を問う趣旨で右規則第三十八条第一号を制定したとしても右議会の運営とは何等の関係なきこと明白な原告の前記行為を理由として原告を議員から除名することは地方自治法に違反するものと云ふべきでありこれと見解を異にする被告の主張は到底採用することはできない。のみならず刑罰法規は既往に遡及して適用することを許さないことは憲法第三十九条の保障するところであり地方自治法第百三十四条により議員に科せられる懲罰は右に云う刑罰ではないが一種の罰であるから右憲法の精神を類推して刑罰法規と同様不遡及の原則に従うべきであると解すべきところ被告議会の会議規則が昭和二十七年三月三十一日に可決制定されたものであることは当事者間に争がないから右規則をその制定前たる昭和二十五年五月頃から昭和二十六年九月頃迄の間の原告の行為に遡及して適用した前記議決は右憲法の精神に反しこの点においても違法たるを免れない。

以上いづれの理由によるも被告の前記議決は違法であるから爾余の争点につき判断するまでもなく右議決の取消を求める原告の請求を正当としてこれを認容すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小林定雄 竹内貞次 谷野英俊)

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