奈良地方裁判所 昭和55年(ワ)324号
原告
西口良文
(ほか七名)
右八名訴訟代理人弁護士
吉田恒俊
同
坂口勝
同
西田正秀
同
佐藤真理
右訴訟復代理人弁護士
相良博美
被告
郡山交通株式会社
右代表者代表取締役
井上裕
右訴訟代理人弁護士
高橋吉久
主文
一 被告は、各原告に対し、別紙目録(一)記載の各原告分の各金員及びこれに対する昭和五八年一二月一七日からそれぞれ支払ずみまで年六分の割合による各金員を支払え。
二 被告は、各原告に対し、別紙目録(二)記載の各原告分の各金員及びこれに対する本判決確定の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は被告の負担する。
五 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一項同旨
2 被告は、各原告に対し、別紙目録(二)記載の各原告分の各金員及びこれに対する本判決確定の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで年六分の割合による各金員を支払え。
3 主文第四項同旨
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告はタクシー営業を目的とする会社であり、中西久実及び西峰勝美を除く原告ら並びに亡中西彪及び亡西峰広貞(以下「原告ら」という。)は、被告の運転手として、タクシー運転業務に従事する労働者である。原告中西久実は亡中西彪の、原告西峰勝美は亡西峰広貞のそれぞれ相続人である。
2 被告の賃金体系は次の通りである。
(一) 基本給 月額八〇〇〇円
但し、欠勤(昭和五四年末までは公休日も含む。以下、同じ。)日数に応じて、支給される基本給は減額される。
(二) 皆勤手当 月額一万円
但し、
(1) 月に一日欠勤の場合は月額七〇〇〇円、
(2) 月に二日欠勤の場合は月額四〇〇〇円、
(3) 月に三日以上欠勤の場合はなし。
(三) 歩合給(月額)
次の通り支給される。
(1) 月間総水揚額七一万円以上の場合、その四二パーセント
(2) 月間総水揚額五九万円以上七一万円未満の場合、その四〇パーセント
(3) 月間総水揚額四八万円以上五九万円未満の場合、その三一パーセント
(4) 月間総水揚額三六万円以上四八万円未満の場合、その二三パーセント
(5) 月間総水揚額三六万円未満の場合、その二〇パーセント
3 原告らの一勤務の平均実労働時間は、一〇時間二〇分以上である。
4 被告の月間所定労働時間は二〇〇時間である。
5 原告らの昭和五三年九月度(八月二六日から九月二五日まで)から同五七年九月度までの出勤日数は別表(略)(一)ないし(八)の各(1)、(2)各記載のとおりである。
6 原告らの時間外労働に対する毎月のいわゆる割増賃金(労働基準法三七条、同法施行規則一九条等によって算出した賃金)の算式は次の通りである。
(1) <省略>
(2) 各月の歩合給に対する割増賃金額=各月の歩合給/各月の総労働時間×〇・二五×各月の総残業時間数
各月時間外労働に対する割増賃金額=(1)+(2)
7(一) 昭和五三年九月度から同五七年九月度までの間、原告らは同表の固定給欄及び歩合給欄各記載の金員の支払を被告より受けている。
(二) この間の原告らの月間残業時間は、同表の残業時間数欄各記載の時間以上である。
(三) 前記算式によって計算すると、この間の未払いの割増賃金額は、別表(一)ないし(八)の各(1)、(2)の固定給に対する割増賃金額欄及び歩合給に対する割増賃金額欄各記載の金額以上である。
8 被告は本訴に至っても右割増賃金の弁済または供託を行なっていないので、本訴の各原告は、労働基準法一一四条、三七条に基づいて、昭和五三年九月分以降(但し、同月以後に入社した原告らについては入社月以降)昭和五七年九月分までの期間について、被告が各原告に対して未払額の割増賃金と同額の附加金の支払いを命ずることを請求する。
よって、各原告は、被告に対し、右割増賃金及びこれに対するそれぞれ弁済期の経過した後である昭和五八年一二月一七日(各原告の同月一四日付準備書面送達の翌日)から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金並びに右附加金及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1、2、4ないし6及び7(一)の事実は認め、その余の事実は否認する。原告らの実労働時間は一人平均一日一車あたり約八時間である。
三 被告の主張
1 就業規則の休憩時間
(一) 被告の就業規則(以下「本件就業規則」という。)の定めによれば、原告らの平均一日一車あたりの所定労働時間は七時間二〇分、休憩時間は四時間二〇分であり、この休憩時間中に原告らが労働したとしても、それは原告らが被告の指揮下において労働したものではないから、時間外労働の基礎となる実労働時間に含まれない。
(二) 右就業規則は規範力を有している。
(1) 被告は、昭和四六年一一月一日、従業員北村優の意見書を添付して、右就業規則を奈良労働基準監督署長に届け出た。
(2) 北村優は労働者一同を代表する者であった。
(3) 昭和五一年ころからは、右就業規則を、被告は、運転日報とともに被告の事務所内の施錠のないロッカー内に保管し、労働者がこれを知ろうと思えば知りうる状態に置いており、また、雇用の際に説明していた。
2 請求権の不特定
かりに右主張が理由がないとしても、各原告は、時間外労働時間を具体的に特定していない。
四 被告の主張に対する認否
1 1の事実のうち、(二)(1)の事実は認め、その余は否認する。本件就業規則に規範力はない。
(一) 北村優は運転手ではなく、一時期、被告の修理工であったものであり、労働者の過半数を代表する者ではない。
(二) 右就業規則は、労働者の見やすい場所に掲示するなどの方法で労働者に周知させていない。
(三) 右就業規則の定めるところは、労働実態とはかけはなれており、被告もそれを容認して放置している。
2 2の主張は争う。労働時間の管理義務は被告にあり、被告がこれを怠ることによって支払を免れる理由はない。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因1、2、4ないし6及び7(一)の事実は当事者間に争いがない。
二 請求原因3の事実
(一) (証拠略)によれば、原告らの一勤務の平均実労働時間は約一二時間一四分と推認される。右認定に反する(証拠略)は、いずれもその内容などから採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) (証拠略)によれば、原告らの一勤務の平均実労働時間は一一ないし一六時間であると認められる。
(三) (証拠略)によれば、被告とほぼ同一の地域で営業する三都交通株式会社の一日一車あたりの運送収入及び実労働時間と被告の一日一車あたりの運送収入とを対比すると、運送収入と実労働時間とはほぼ対応すること、被告が一車一人制をとることなどからすれば、原告らの一勤務の平均実労働時間は、約一一時間二一分ないし一四時間五一分であることが推認される。
以上の事実を総合すれば、請求原因3の事実を推認することができる。
なお、被告は、原告らの実労働時間は一日あたり平均約八時間にすぎないと主張するが、右主張の推計の基礎となる数値は、一日一車あたりの数値と運転手一人一日あたりの数値とを区別していないものであるから、被告の右主張は採用できない。
三 請求原因2ないし7(一)の事実から、同7(二)及び(三)の事実が認められる。
四 被告の主張
(一) 被告は、就業規則に休憩時間の定めがある以上、右休憩時間内の労働は、割増賃金支払義務の前提となる労働時間に含まれないものと主張するが、労働基準法三七条は実労働時間について割増賃金の支払義務を認めたものと解すべきであり、右実労働時間の算定にあたって考慮される休憩時間とは労働者が権利として労働から離れることを保障されており自由に利用することができる時間でなければならないところ、(人証略)によれば、原告らは客がないときに適宜食事等に労働から離れているのが実態であり、就業規則に定める休憩時間全部について労働から離れることを保障されているものではなく、休憩時間として評価しうる時間は二時間以内であると認められ、右認定を左右するに足りる証拠はないから、被告の右主張は失当である。
(二) 被告は、各原告は時間外労働時間を具体的に特定していないと主張するが、各原告は本訴において、対象となっている期間に行われた時間外労働に対するものとして特定された割増賃金請求権の一部について請求しているものであるから、その主張する休憩時間を除く時間外労働時間以上の時間外労働がなされていたことを立証すれば足りるのであって、被告の右主張は失当である。
五 附加金
前叙認定の割増賃金の不払いについて、その違法性あるいは責任の阻却事由について被告の主張立証はなく、附加金を課することを不相当とする特段の事由も認められないから、各原告の請求する附加金の支払いを命ずる。
なお、附加金の遅延損害金の利率は民事法定利率である(最高裁昭和四八年(オ)第六八二号同五一年七月九日第二小法廷判決裁判集民事一一八号二四九頁参照)。
六 結論
以上の事実によれば、本訴請求は、別紙目録(一)記載の各原告分の割増賃金にあたる各金員及びこれに対するそれぞれ弁済期の経過した後である昭和五八年一二月一七日からそれぞれ支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金並びに別紙目録(二)記載の附加金及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を(主文第二項についての仮執行は相当でないから、これを付さない。)、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 諸富吉嗣 裁判官 山本博文 裁判官 吉川愼一)
目録(一)
原告 西口良文
金七九万一一一三円
同 西川弘一
金一二八万〇三六二円
同 堀口毅
金九八万九三六二円
同 川端昭夫
金六三万七四六三円
同 田中太蔵
金一〇四万九九七一円
同 豊沢猛
金七三万八九九〇円
同亡西峰広貞承継人西峰勝美
金七五万七八四〇円
同亡中西彪承継人中西久実
金二六万〇六二六円
目録(二)
原告 西口良文
金七九万一一一三円
同 西川弘一
金一二八万〇三六二円
同 堀口毅
金九八万九三六二円
同 川端昭夫
金六三万七四六三円
同 田中太蔵
金一〇四万九九七一円
同 豊沢猛
金七三万八九九〇円
同亡西峰広貞承継人西峰勝美
金七五万七八四〇円
同亡中西彪承継人中西久実
金二六万〇六二六円