奈良地方裁判所 昭和56年(ワ)207号 判決
一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
二 当事者間に争いがない(ハ)号製品についての構成上の特徴は、当事者間に争いがない事実、成立に争いのない(中略)証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし三、同証言により(ハ)号製品であることが認められる検乙第一号証の一、二、同証言を綜合すると、次のとおりであると認められる。
合成樹脂製の栓体であつて、
(1) 上部が開口した有底筒状の中空の栓体における彎入した底面2及び栓体上端に外方へ突出した鍔1を設けるとともに鍔1の下方に瓶口の内径より大きく外径より小なる厚肉段部6を形成し、
(2) 押入部4の外側は、その途中において内方向へ屈折する段差4cが設けられ、その上方側は断面直線状の短い径大部4a、段差4cより下方側は底面2に至る程ごく僅かに外径の細くなるテーパー状に形成した長い径小部4bを形成し、径大部4a、径小部4b及び底面2からなる押入部4全体は、段差4c´4c間を除いて、略同一の肉厚に形成され、
(3) 押入部4の内側は、その途中において段差4cの催か上方側に内方向へ屈折する段差4c´が設けられていて、押入部4の内径は段差4c´の上方側では下方側よりも大きく、
(4) 底面2は中央部に椀状の彎入部2aを形成するとともに、その外周を環状の平滑面2bに形成している。
三 そこで、(ハ)号製品の右構成を本件実用新案権の構成要件(請求原因2(一))と対比して検討するに、
1 本件実用新案権においては、底面2及び押入部4の下部にアルミ箔、紙等の包被体5を接着包被しているのに対し、(ハ)号製品においては右包被体を接着包被しておらず、両者に相違があることは明らかである。
2 そして、成立に争いがない甲第二号証の一、二によると本件実用新案権はその登録請求の範囲に「中空の栓体における彎入した底面2および押入部4の一部にアルミ箔、紙等の包被体5を接着包被し、」と記載しているほか、その考案の詳細な説明においても「包被体5による滑り止め効果とも相まつて(中略)栓体が瓶口を滑上するのを阻止し」と記載しており、経験則上も右構成上の相違によつて滑り止め効果について、両者に顕著な相違があることは明らかである。
3 それゆえ、(ハ)号製品は右構成上、効果上の相違において、本件実用新案権の技術的範囲に属さないが、右包被体を(ハ)号製品に接着包被することは容易であり、(ハ)号製品が本件実用新案権の他の構成要件を具備しているならば、(ハ)号製品は本件実用新案権に係る物品の製造にのみ使用する物として、これを業として製造販売する行為が本件実用新案権に対するいわゆる間接侵害にあたる余地があるので、本件実用新案権の他の構成要件とも対比して検討する。
4 本件実用新案権においては、径小部4bの外径は略同一であるのに対し、(ハ)号製品においては径小部4bの外径は底面2に至る程ごく僅かに細くなるテーパー状に形成されており、両者に相違があることは明らかである。
5 しかし、右テーパーはごく僅かなものであるし、成立に争いのない甲第九号証、右谷原の証言によると、右テーパーは金型からの取り出しを容易にするためにつけられているものであつて公知の技術であり、右構成上の相違によつては本件実用新案権と目的、作用効果上の相違を生じないことは明らかであるから、(ハ)号製品は本件実用新案権の右構成要件を充足している。
6 本件実用新案権においては、押入部4の外側上方側は厚肉の径大部4aとし、それより下方側を薄肉の径小部4bとし、押入部4の内径は全体が略同一であるのに対し、(ハ)号製品においては、押入部4全体は段差4c´4c間を除いて、略同一の肉厚であり、押入部4の内径は段差4c´の上方側では下方側よりも約一ミリメートル大きく、両者に相違があることは明らかである。
7 そして、右甲第二号証の一、二によると本件実用新案権はその登録請求の範囲に「全体が略同一内径の押入部4は上方側を断面直線状の押入面にした厚肉の短い径大部4aとし、それより下方側を薄肉の長い径小部4bとして形成し、」と記載しているほか、その考案の詳細な説明においても「押入状態にあつては、厚肉の径大部4aが断面直線状で略同程度の肉厚であるため、この径大部4aの上下部で殆んど差のない厚肉による具有弾性力をもち、このことが清酒瓶特有の瓶口形状に適合して、殊に径大部4aの下端側で瓶口内面に対しより強く圧着し、浮上り抜脱防止にきわめて効果的なものとなつている。」と記載しており、右谷原の証言によると(ハ)号製品の場合は抜栓はやわらかいことが認められ、経験則上も右構成上の相違によつて浮上り抜脱防止効果について、両者に相違があることは明らかである。
8 なお、原告は、瓶口内面の構造上、具有弾性力が径大部4aの上部と下部とで差がない場合にも作用効果は同一であるとか、径大部4aの下端側の厚肉による具有弾性力のみ同一であれば作用効果は同一であるとか、あるいは鍔1と厚肉段部6のみによつても具有弾性力は生じるから作用効果は同一であると主張するが、右考案の詳細な説明によれば明らかなように、径大部4aが略同程度の肉厚であることによつて、径大部4aの上下部で殆んど差のない具有弾性力をもつことは本件考案の要部というべきであり、たとえ作用効果における相違が少ないものであつても本件考案の構成要件から除くことは許されないから、均等の主張も含めて、原告の主張はいずれも失当である。
四 そうすると、被告の(ハ)号製品はその余の点について判断するまでもなく本件実用新案権の技術的範囲に属さず、それゆえ、被告がその製造販売を業とすることは何ら本件実用新案権を侵害あるいは間接侵害するものではない。
五 よつて、原告の請求はその余の判断をするまでもなく理由がないからこれを棄却することとする。
〔編註〕本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
上部が開口した有底筒状の中空の栓体における彎入した底面2及び押入部4の下部にアルミ箔、紙等の包被体5を接着包被し、栓体上部に外方へ突出した鍔1を設けるとともに、鍔1の下方に瓶口7の内径より大きく外径より小なる厚肉段部6を形成した瓶詰用口栓において、全体が略同一内径の押入部4は上方側を断面直線状の押入面にした厚肉の短い径大部4aとし、それより下方側を薄肉の長い径小部4bとして形成し、さらに底面2の彎入部は扁平に近い状態になつたときに前記径小部4bが瓶口内面に密着し得る程度以上の椀状をなすことを特徴とする清酒の瓶詰用口栓