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奈良地方裁判所五條支部 平成9年(ワ)44号 判決 1998年10月20日

主文

一  被告らは、原告らに対し、別紙土地目録一、10記載の土地にある廃棄物で、別紙図面記載のP1、P21ないしP25、P28ないしP30、P1を順次直線で結んだ断面、同図面記載のP1、P2、P20、P21、P1を順次直線で結んだ断面、同図面記載のP2、P3、P16ないしP20、P2を順次直線で結んだ断面、同図面記載のP3、P4、P15、P16、P3を順次直線で結んだ断面、同図面記載のP4、P5、P14、P15、P4を順次直線で結んだ断面、同図面記載のP5、P6、P13、P14、P5を順次直線で結んだ断面、同図面記載のP6、P7、P12、P13、P6を順次直線で結んだ断面及び同図面記載のP7ないしP12、P7を順次直線で結んだ断面(ただし、同図面記載のP1ないしP25、P28ないしP30の各標高は、同図面座標一覧表Z欄記載のとおりである。)より高い位置にあるものを撤去せよ。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

主文第一項と同旨

第二  事案の概要

本件は、原告らが、原告奥谷区(以下「原告区」という。)区長ら地域住民代表と被告吉田雅亮(以下「被告吉田」という。)との間で平成元年一一月二〇日に締結された「産業廃棄物最終処分埋立地に関する公害防止協定書」による公害防止協定(以下「第一次協定」という。)に被告らが違反しているとして、別紙土地目録一、10記載の土地(以下「本件土地」という。)にある産業廃棄物処理施設(埋立処分地)(以下「本件処分場」という。)に投棄された廃棄物のうち、前記主文記載の各断面(以下、右断面全てを合わせて「本件村道高」という。)より高い位置にある廃棄物(以下「本件廃棄物」という。)の撤去を請求するのに対して、被告らが撤去請求権の不存在、信義則違反等を理由に争う事案である。

一  原告らの主張(請求原因)

1 当事者

(一) 原告区は、奈良県吉野郡西吉野村大字奥谷に居住する住民をもって構成される権利能力なき社団である。

(二) その余の原告(以下「原告住民」という。)は、本件処分場の周辺に居住し、居宅、山林、果樹園などを所有、経営する者である。

(三) 被告吉田は、奈良県知事の許可を得て産業廃棄物の収集、運搬及び処分業を営んでいた産業廃棄物処理業者、被告西吉野開発株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告吉田が代表取締役である産業廃棄物の収集業及び処理業等を目的とする株式会社である。

2 本件処分場の概要

(一) 平成二年三月三〇日、奈良県知事は、被告吉田に対し、産業廃棄物の収集、運搬及び本件処分場における産業廃棄物最終処分(埋立処分)業を許可し、同四年三月二五日右許可の更新をした。

(二) 本件処分場は、地元で「夜中谷」と呼ばれている自然の谷をコンクリート堰堤で堰き止め、同堰堤上流の谷に産業廃棄物を埋立処分した上、覆土する形の産業廃棄物の最終処分場で、埋め立てる産業廃棄物の種類は廃棄物処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)一四条、同施行令六条三号イ所定の安定五品目(以下「安定五品目」という。)である。

(三) 廃棄物処理法の平成三年一〇月五日法九五号による改正によって、同改正法付則三条一項で、改正前に産業廃棄物の収集、運搬及び処分業の許可を受けている者は、改正後の一四条一項及び四項の許可を受けている者とみなされ、同改正法施行令付則三条で、その場合の許可後最初の更新による許可の期限は改正前の廃棄物処理法で許可を得た日から五年とされたので、右(一)の許可の期限は同九年三月二五日であり、既に許可期限は徒過している。

3 本件処分場の現状

(一) 本件処分場は別紙図面記載のP1ないしP22を順次直線で結んだ線(以下「本件村道界」という。)で村道に面しているが、本件村道界に接する村道の高さは、同図面座標一覧表Z欄記載のP1ないしP22の各標高を順次直線で結んだ線と同じである。

(二) 本件処分場には、本件村道高を越えてピラミッド状に本件廃棄物が積み上げられている。

(三) 本件廃棄物は、被告らによって搬入され、処分されたものである。

4 第一次協定違反

(一) 平成元年一一月二〇日、原告区、奈良県吉野郡西吉野村西新子区(以下「西新子区」という。)及び同村夜中区(以下「夜中区」という。)(以下、合わせて「地元三区」という。)と被告吉田は、第一次協定を締結した。

(二) しかし、被告らは、次のとおり同協定の規定に違反している。

(1) 第一次協定二条は、取り扱う産業廃棄物の種類を安定五品目と定めているが、被告らは、それ以外の廃棄物を本件処分場に搬入し、処分している。

(2) 第一次協定一〇条一項、施工条件1(3)は、本件処分場の埋立仕上がりの高さを村道の高さとすると定め、同(2)は、法面勾配をS=一対一・五にすると定めている。

にもかかわらず、被告らは、本件村道高を越えて本件廃棄物を投棄している。

(3) 第一次協定三条1は、本件処分場における操業時間を午前八時より午後五時三〇分までと定めているが、被告らは、それ以外の時間に本件処分場で廃棄物を処分していた。

また、第一次協定五条は、本件処分場における埋立処分等に伴う車両の通行時間を午前九時より午後五時三〇分まで、農繁期は原告らが運行の休止を要請することができると定めているが、被告らは、右通行時間外にも車両を走行し、右要請を無視して農繁期にも車両を通行させていた。

(4) 第一次協定三条2は、埋立処分地周辺に飛散、流出を防ぐよう努力すべきと定めているが、被告らは、廃棄物を一部堰堤から谷に崩落させ、村道との境界に設けられた塀を村道側に押し出し変形させている。

(5) 第一次協定三条3は、本件処分場における埋立はサンドイッチ方式に覆土を繰り返すべきと定めているが、被告らは、同方式による埋立をしていない。

(6) 第一次協定三条4は、本件処分場において被告吉田が衛生害虫等の発生防止に極力努めるべきと定めているが、被告らは、本件処分場で自然発火させ、衛生状態を極めて悪くしている。

(7) 第一次協定三条5は、本件処分場地下水の水質については、汚染物質の排出がないよう被告吉田が万全の措置を講じるべきと定めているが、大雨が降ると、どす黒い水が廃棄物から流れ出し、ゴミの粒子を大量に下流に流失している。

(8) 第一次協定四条は、本件処分場において埋立処分等により発生する騒音、振動、粉じん、悪臭等について、被告吉田が万全の措置を講じるべきと定めているが、本件処分場では風が吹けば粉塵が発生し、搬入のトラックも粉塵予防策をとることがないから、温度、風向き等気象条件によっては耐えがたい悪臭が近隣の人家に及んでいる。

(9) 第一次協定六条は、被告吉田が公害防止のために行政の関係機関の指導、指示に従うべきと定めているが、被告らは、度々奈良県の担当部課室から口頭による搬入停止の行政指導・文書による搬入停止等の勧告を受けたが、その指導や勧告に従った改善を行わなかった。

(10) 第一次協定七条は、本件処分場における埋立処分等に起因して被害が生じた場合は、被告吉田が被害の復旧と損害賠償をすべきと定めているが、被告らは、原告番号七番の原告(以下「原告博文」という。)及び原告番号四一番の原告(以下「原告勤」という。)の果樹園との境界を無断で削り取る等して、数次にわたりその一部を崩壊させて、同原告らに多大な損害を生じさせ、その損害の賠償を請求されているが、これを無視して被害の復旧も損害賠償もしなかった。

5 奈良県許可条件違反

(一) 奈良県知事は、右2(一)の許可更新に際し、被告吉田に対し許可条件を付して許可した。

(二) しかし、被告らは、その許可条件に次のとおり違反している。

(1) 最終処分業(埋立処分)として取り扱う産業廃棄物の種類は安定五品目であり、その他の廃棄物は絶対に処分しないことを条件としているが(許可条件1、9)、被告らは安定五品目以外の廃棄物を本件処分場に処分している。

(2) 埋立処分地の最終仕上げ高等は、許可申請書に添付した計画図面とおりとし、一時的にせよ計画高を越え、許可地からはみ出して処分を行わないことを条件としているが(許可条件10)、右計画図面の計画高(最終覆土を含まず。)は本件村道高であるにもかかわらず、被告らは、これを越えて本件廃棄物を処分している。

(3) 事業の運営にあたっては、法令及び第一次協定を遵守することを条件としているが(許可条件1)、被告らは、第一次協定を遵守していない。

(4) 本件処分場において廃棄物が流出するおそれがある場合は、直ちに埋立行為を中止し、付近に被害が及ばないように措置することを条件としているが(許可条件4)、被告らは、廃棄物を流出させている。

(5) 埋立処分の実施にあたっては、鼠族衛生害虫の発生防止のため薬剤散布、覆土等を適切に行うことを条件としているが(許可条件5)、被告らは、薬剤散布も覆土も行っていない。

(6) 放流水質は水質汚濁防止法三条一項に基づく排水基準を定める総理府令の排水基準を遵守すること、放流水の水質が同排水基準に合致しない場合は、直ちにその原因を究明し改善策を講じることを条件としているが(許可条件6、7)、どす黒い水が本件廃棄物から流れ出ていて、水質の悪化や危険物質による汚染が懸念される事態になっている。

(7) 公害等が発生したときは、原因を究明し解決するまで埋立処分行為を中止することを条件としているが(許可条件8)、火災が発生したにもかかわらず埋立処分を中止しなかった。

(8) 道路等に廃棄物が飛散、流出しないように努めることを条件としているが(許可条件11)、被告らは、廃棄物を飛散、流出させている。

(9) 取り扱う産業廃棄物は、主として奈良県内の事業者から排出されるものとすることを条件としているが(許可条件15)、被告らは、関東を含めた県外からの廃棄物も多く処分している。

6 農地法違反

(一) 被告吉田は、本件処分場を開設するにあたって、その用地に含まれた農地について、奈良県知事から一時転用許可を受けたに過ぎず、埋立後農地に復元することが右許可の条件であった。

(二) そして、その許可期限である平成五年一二月三一日は既に経過しており、奈良県農林部長から農地復元についての文書勧告が出ているが、被告らは農地に復元していないので、農地法に違反している。

7 原告らの被害

原告らは、次のとおり本件処分場の操業によって多大な被害を被っている。

(一) 本件処分場は安定五品目の最終処分場であるが、同様の最終処分場でも廃棄物の間を通過した地下浸透水や排水等により周辺河川や地下水の汚染源となった例も多いので、遮水シートを本件処分場全域にわたり施設し、本件処分場内に降った雨の浸出水が地下に浸透するのを防止すること、本件処分場全域の降雨量に対応することができる調整池を設置すること、同池の排水に対し高度の水質処理を行うことがいずれも不可欠であるが、本件処分場ではそのいずれもされていない。

そのため、原告らのうち、飲料・生活水のすべてを本件処分場直近の沢水に頼っている者にとって、飲料水が有害物質によって汚染される危険性がある。

そして、本件処分場の上手及び下手には農業用水の取水口が設けられているが、本件処分場を通過する水が汚染されれば、右取水口が汚染され、農業用水も汚染され、農作物に被害が及ぶおそれがある。

(二) 本件処分場から村道への廃棄物の崩落により隣接道路の交通が阻害されるおそれがある。

(三) 本件処分場の度重なる火災により、周辺の家屋、畑、山林等に延焼する危険が続いている。

(四) 本件処分場からの悪臭が周辺の人家に及び、原告らの快適な生活を阻害している。

(五) アスベスト等有害物質が大気中に飛散しないような措置を実施することが不可欠であるが、本件処分場ではそれがされていない。

また、本件処分場からの粉じんが果樹園の柿に付着して果皮が変色すれば、商品価値が著しく下落する。

(六) 本件処分場の堰堤に亀裂が生じており、廃棄物の荷重により右堰堤が崩壊して廃棄物が夜中谷の谷筋を落下して原告らの土地を埋める危険性がある。

(七) その他、住民の生活環境を害している。

8 撤去請求権

(一) 次記(二)ないし(六)の事情があるから、原告らは、被告らに対し、本件廃棄物の撤去を請求する権利を有する。

(二) 第一次協定で定められた本件処分場の埋立仕上がりの高さは右4(二)(2)のとおりで、最終覆土を含まない場合は本件村道高である。

(三) しかるに、被告らは、第一次協定に違反して、右3(二)及び(三)のとおり本件村道高を越えてピラミッド状に本件廃棄物を積み上げている。

(四) 第一次協定には、被告吉田が本件村道高を越えて廃棄物を処分した場合の廃棄物の撤去請求権(違反前の原状に回復することを請求する権利)について直接定めていないが、一条に「この協定は、甲(地域住民代表の意―この項では以下同じ。)の快適な生活環境の保全に資する為、搬入廃棄物の最終処分埋立地に伴う、諸々の行為から発生する、すべての公害の防止を目的とする。」と、八条後段に「埋立完了後は、農地として跡地利用出来るよう、関係者との間で締結された土地の賃貸借契約を、すみやかに解除するものとする。」と、九条に「甲は、乙(被告吉田の意―この項では以下同じ。)がこの協定に違反した時、又は、疑義ある時はいつでも乙に指示できるものとし、乙はこれに従うものとする。前項の指示によっても、違反行為が継続していると、甲が認めた時は、甲はこれに対し直ちに、搬入及び埋立行為の中止を、命令することができるものとする。」と、一〇条に「乙は、別紙施工条件に基づく工事を、乙の費用で実施し、その施工条件を遵守すること。乙は、前項の施工に際しては、甲の監督指示に従わなければならない。」とそれぞれ規定していることに、第一次協定の右4(二)(8)、同(9)、同(10)の各規定を合わせ考えると、被告らが第一次協定に違反して搬入した本件廃棄物について、原告らが撤去請求権を有すると解すべきである。

また、第一次協定における埋立範囲の画定は、その範囲を越える廃棄物の投棄の不作為義務を定めたものであるから、民法四一四条三項により被告らが右義務に違反して搬入した本件廃棄物について、原告らに撤去請求権を認めるべきである。

(五) そして、第一次協定は、

(1) 原告区区長は原告区の代表として、夜中区代表は夜中区の住民の代表として、各住民個々に帰属する権利義務について協定したものであり、

(2) 又は、原告区の構成員である住民が原告区区長に対し、夜中区の住民が夜中区代表に対し、信託し、或いは明示又は黙示して代理権を付与した結果、原告区区長及び夜中区代表がその権限に基づき締結したものであり、

(3) そうでないとしても、廃棄物の適正処理を含む本件処分場の管理に関する事項は保存行為に当たるので、原告区及び夜中区が共同してばかりでなく、民法二五二条により地域住民各自が個別にその権利を行使し得るものであるから、原告区の構成員である原告番号二ないし七二の原告ら(以下「奥谷住民原告」という。)は原告区の住民として、夜中区に住む原告番号七三ないし八一の原告ら(以下「夜中住民原告」という。)は夜中区の住民として、個々に本件協定に基づく本件廃棄物の撤去請求権を有する。

(六) 被告会社は、本件協定の当事者でないが、被告吉田が代表取締役を勤め、被告吉田の指示のもと、本件処分場において廃棄物の投棄が行ってきたのであるから、信義則上被告吉田と共に本件協定に拘束され、原告らの右(五)の撤去請求権の相手方となるものである。

(七) それ故、原告らは、被告らに対し、第一次協定に基づき本件廃棄物の撤去を請求する権利を有する。

(八) また、原告区は奈良県西吉野村大字奥谷字大迫一二五七番一及び同大字字タンカス一三一四番二の各一部、原告番号四四番の原告は同大字字久保ノ迫一三九四番の土地、原告番号六〇番の原告は同大字字高倉一二四三番の土地(いずれも本件処分場を通過する国有水路下流の谷間にある土地)を各所有しており、その他の原告らは、本件処分場の周辺に居宅、山林、果樹園などの不動産を所有している。

(九) そこで、原告らは、右不動産に対する危険や汚染に対して、不動産の所有権に基づく妨害排除請求権が認められるべきであるから、原告らは、被告らに対し、右妨害排除請求権に基づき本件廃棄物の撤去を請求する権利を有する。

(一〇) さらに、原告住民は、被告らが右4ないし6のとおり違反行為をしたため、右7のとおり受忍限度を越える財産的被害及び精神的被害を被っている。

特に、原告番号三七番ないし七五の原告(以下「農民原告」という。)は一の木ダムの農業用水を利用する農家であるが、本件処分場を通過する国有水路は一の木ダムに流入しているので、仮にピラミッド型の廃棄物が倒壊し、又は堰堤が決壊して、廃棄物が一の木ダムに流入すれば、右農業用水が廃棄物に含まれる有害物質によって汚染され、ひいてはその農作物が被害を受ける可能性が高い。仮に有害物質が検出されなくても、右倒壊又は決壊による廃棄物の崩落の事実が世間に広まれば、農作物の売上げに大きな影響をもたらすので、被害を受ける可能性が大きい。

(一一) 本件協定及び奈良県の許可条件は、公害予防の最低基準を定めたものであるから、これに対する本質的違反がある場合公害発生の高度な危険性が推定されるので、違反業者側でその危険性がないことを立証しない限り、その危険を受ける者に、人格権及び環境権に基づく妨害排除請求権が認められるべきである。

(一二) まして、本件では、火事、一部廃棄物の崩落、汚染水の流出等現実の被害が既に発生しているから、同請求権は当然に認められなければならない。

(一三) それ故、原告住民は、被告らに対し、人格権及び環境権に基づく妨害排除請求権である本件廃棄物の撤去請求権を有する。

(一四) 加えて、原告住民は、本件処分場の周辺に居住しているので、本件村道面に接している村道を通行している。

(一五) しかし、廃棄物の崩落によって村道の自由な通行が妨害される危険があるので、原告住民は、被告らに対して、村道の通行権に基づく妨害排除請求権を有する。

(一六) したがって、被告らに対し、

(1) 原告らは、

a 主位的に、右(七)の第一次協定に基づく撤去請求権によって、

b 予備的に、右(九)の不動産所有権に基づく妨害排除請求権によって、

(2) 原告住民は、

さらに予備的に、

a 右(一三)の人格権及び環境権に基づく妨害排除請求権によって、

b 右(一五)の隣接村道の通行権に基づく妨害排除請求権によって、

本件廃棄物の撤去を請求する。

二  被告らの主張

1 被告らが安定五品目以外の廃棄物を廃棄した事実はない。安定五品目以外の廃棄物を第三者に不法廃棄された事実があるだけである。

2 第一次協定及び奈良県の許可条件に違反して搬入した本件廃棄物は、次記3の公害防止協定に基づく産業廃棄物最終処分場開設までの仮置きで、埋立処分したものでない。

3(一) 平成六年二月二一日、原告区長西浦繁則、西新子区長平順友及び夜中区代表平井和雄らと被告会社は、新たに公害防止協定を締結した。

(二) 第二次協定は、現堰堤より下流に新堰堤を設置し、その両堰堤間を産業廃棄物最終処理場(埋立処分)にするためのもので、その締結以前に、本件村道高より高く山積みされた廃棄物があった等、一部本件公害防止協定違反の事実があったとしても、第二次協定の締結により、右廃棄物を同処理場に埋め立てることの合意があったもので、被告らの違反事実は治癒又は宥恕された。

それ故、本件廃棄物は右仮置き廃棄物の一部であるから、原告らは本件廃棄物の撤去請求権を失った。

(三) 仮に右(二)の主張が認められないとしても、第二次協定の締結があった上、奈良県公害審査会平成八年(調)第一号公害調停申立事件で被告らが妥当な調停案を提案したにかかわらず原告らの一部の頑なな反対によって受け入れられなかったもので、かかる状況下でなされた第一次協定違反を理由とする請求権の行使は、信義則に違反し又は権利濫用に当たる。

三  争点

1 被告らは、第一次協定及び奈良県知事の許可条件に違反して廃棄物を搬入投棄したか。

2 原告らに被害があるか。ある場合、第一次協定は、原告らに、被告吉田に対する本件廃棄物の撤去請求権を付与しているか。

3 第一次協定は、被告会社を羈束するか。

4 原告らは、被告らに対し、不動産所有権に基づく妨害排除請求権を有するか。

5 原告住民は、被告らに対し、人格権及び環境権に基づく妨害排除請求権により、本件廃棄物の撤去請求権を有するか。

6 原告住民は、被告らに対し、村道の通行権に基づく妨害排除請求権により、本件廃棄物の撤去請求権を有するか。

7 第二次協定によって、被告らの違反事実は治癒又は宥恕され、原告らは本件廃棄物の撤去請求権を失ったか。

協定によって、被告らの違反事実は治癒又は宥恕され、原告らは本件廃棄物の撤去請求権を失ったか。

8 原告らの本件廃棄物の撤去請求権の行使は、信義則違反又は権利濫用になるか。

第三  判断

《証拠略》によって、以下のとおり認定した。なお、取り調べた証拠及び人証の尋問の結果のうち認定に反するもの、それらのうち認定に反する部分は、認定に用いた他の証拠に照らして措信することができない。

一  争いのない事実等

1 当事者

(一) 原告区は、奈良県吉野郡西吉野村大字奥谷に住所を有する約七三世帯を構成員として、大字奥谷の地縁に基づいて形成された、住民相互の連絡、環境の整備等地域的な共同活動を行い、代表者の選任手続等も定め、かつ資産も持つ、権利能力なき社団である(争いのない事実)。そして、本件処分場に関する問題に対処するため、同村大字西新子に住所を有する世帯を構成員とする同種の権利能力なき社団である西新子区及び同村大字夜中に住所を有する世帯を構成員とする同種の権利能力なき社団である夜中区と共同して、当初七人、平成四年度以降一〇人からなる産業廃棄物対策協議会を設置してきた。

(二) 原告住民は、いずれも本件処分場の周辺に居住し、居宅・山林・果樹園等を所有、経営する者(争いのない事実)、奥谷住民原告は本件処分場及びその下流域にある原告区の住民で原告区の構成員、夜中住民原告は本件処分場及びその上流側流域に住む夜中区の構成員、農民原告は一の木ダムの農業用水を利用する農家である。

(三) 被告吉田は、昭和六三年一二月二六日大阪市長の、平成元年一月一一日大阪府知事の、同年三月七日奈良県知事の各許可を得て産業廃棄物の収集・運搬業を営み、同二年二月二一日本件処分場につき奈良県知事に産業廃棄物処理施設設置届出をしていた産業廃棄物処理業者で、同年三月三〇日及び同四年三月二五日に奈良県知事から産業廃棄物の収集、運搬及び本件処分場における埋立処分業を許可されたが、後者の許可期限が同九年三月二四日に終了している者である(争いのない事実、ただし、期限は、廃棄物処理法の平成三年一〇月五日法律九五号による改正法施行令付則三条によった。)。

(四) 被告会社は、平成元年二月一五日設立され、主として産業廃棄物収集業及び産業廃棄物処理業を営み、被告吉田が設立当初からその代表取締役である株式会社で、本件処分場に産業廃棄物を埋立処分してきた者である(争いのない事実)。

2 本件処分場の状況

(一) 本件処分場は、西吉野村大字夜中、同村大字西新子及び同村大字奥谷のほぼ境界域にあって、流域中の二つの谷が合流する、地元で「夜中谷」と呼ばれている自然の谷にある(争いのない事実)。

(二) 付近は、柿・梅が栽培されており(争いのない事実)、奈良県でも有数の柿の産地で(原告曽和)、近くに五〇〇ヘクタールの国営総合農地開発事業五條吉野地区があり、本件処分場下流約二・五キロメートルに、平成一二年供用開始の右開発事業用地の潅漑用の一の木ダムがある。

(三) 本件処分場は、夜中谷を重力式コンクリート堰堤で堰き止め、同堰堤上流の谷に産業廃棄物を埋立処分し、覆土して農地を復元する計画で、本件土地、道路敷及び河川敷を用地とし、処理能力面積四三七八平方メートル、容量三二八六八立方メートルの計画で許可された産業廃棄物の最終処分場である。

(四) 本件処分場で取り扱うことが許可された産業廃棄物の種類は、廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスくず及び陶磁器くず、建設廃材の安定五品目であるが、本件処分場には、安定五品目以外の古布団、古着、スーパーの領収書や段ボール等の紙、スーパーのトレイ、医療廃棄物等、有機質の物質が数多く混入している。

(五) 本件処分場は、本件村道界で村道湯塩奥谷線の一部である村道(以下「隣接村道」という。)に面しているが、隣接村道は、本件処分場の下流域にある大字奥谷の村落からその上流側流域にある大字夜中及び大字湯塩に通じる道路で、奥谷側から湯塩側にかけて登り勾配になっており、本件村道界における隣接村道の高さは、同図面座標一覧表Z欄記載のP1ないしP22の各標高を順次直線で結んだ線と同じである(原告曽和、但し、詳細な標高は、平成一〇年七月一四日付け請求の趣旨訂正申立書別紙図面による。)。

そこで、本件処分場の埋立計画でも、湯塩が高く奥谷側が低く計画され、そのいずれ側でも、廃棄物の埋立仕上がり高は本件村道高、覆土した後の表土高は本件村道高より一・三メートルになるように表面を傾斜地とする設計になっていて、そのため、産業廃棄物の埋立容量は二万七一七七立方メートルに過ぎない計画であった。

(六) しかし、右(三)の容量、同(五)の埋立仕上がり高と異なり、現状は本件廃棄物がピラミッド状にうず高く積み上げられ、本件廃棄物により本件処分場の周囲のフェンスは隣接村道に張り出しており、電柱も傾けさせてきた経緯もある。

(七) また、本件廃棄物は、十分な転圧がなされておらず、覆土もされずに長らく放置されており、風が吹けば、悪臭が広がり、粉じんが舞い上がる状態が続いている。

(八) しかも、平成七年五月から一二月にかけて実施された現地調査等によれば、

(1) 本件廃棄物には、右(四)の安定五品目以外の紙、布等の他、有機質の物質が混入していて、安定五品目の分別をせずに投棄されている。

(2) また、本件廃棄物の斜面勾配は四〇度以上の場所もあり、臨界角となっているが、右(1)のような物質を含んでいるので、年月が経つと、滑り易くなる。

(3) さらに、地山の岩盤状態が変成作用と風化を受け、支持基盤として弱い上、堰堤右側袖部の岩着が浅く、コンクリートの突っ込み量が足りないので、地山との結合状態が良好でない、そのため、支持地盤に不等沈下が起こっていて、堰堤の自重で生じたと認められる亀裂が上部から下部まで入っているので、廃棄物の重みが徐々に堰堤に寄り掛かると、堰堤の安全性に問題が生じるおそれがある、

(4) 本件処分場には、暗渠排水溝を設け、上流の水を通して堰堤の水抜き口から排水し、本件村道界に側溝を設けて、隣接村道外に降った雨水を本件処分場に流入させずに排水し、本件処分場内に流入するのを防いでいるが、大量の本件廃棄物のために十分に機能しておらず、大雨等の際重大な事態を起こすおそれがあり、

(5) 電気伝導度計による水質調査によると、本件処分場下流の電気伝導率が上流の電気伝導率より一桁高い値を示した

等の問題点があり、廃棄物の下流域への崩落も始まっており、廃棄物の隣接村道へのはみ出し、下流域への崩落が予測される状態にある。

3 第一次協定書調印に至る経過

(一) 被告吉田は、昭和六三年ころ大賑建設という商号で建設業及び建物解体業を営んでいたが、平成元年三月二四日、本件処分地の一部で岡本実の所有であった別紙不動産目録一1ないし4記載の土地につき賃貸借契約を締結し、自家処分地として同土地に右建物解体業で生じる廃棄物を投棄していた。

(二) その結果、飲料水への影響を心配し、悪臭、搬入車両による道路の傷みに悩む地元三区の住民が西吉野村に嘆願書を提出する事態を生じ(原告曽和)、平成元年八月までに被告吉田が国有水路の形状変更や付け替えの手続をとらずに国有水路を破壊していたこともあって、西吉野村は被告吉田に埋立中止を勧告するに至った。

(三) それを契機に、被告吉田は、本件処分場での産業廃棄物最終処分(埋立処分)業を開設しようと考えて地元同意を得る努力を始めたが、当初反対が強かったものの、平成元年九月ころには、野焼き・悪臭等もあったので、西吉野村が、投棄される廃棄物の適正処理を確実に行わせ、かつ投棄範囲の拡大を防ぐという観点で調整に乗り出した結果、地元では、その行政の動きに乗らざるを得なくなり、仕方なくこれに応じて、公害防止協定を締結の上、本件処分場の設置に同意することになった。

4 第一次協定

(一) そして、平成元年一一月二〇日、原告区区長中元冨浩、西新子区区長上東芳弘、夜中区代表中谷義則、大西繁一及び西吉野村長石井勲を地域住民代表(この項では「甲」という。)とし、被告吉田を産業廃棄物埋立業者(この項では「乙」という。)として、両者間で第一次協定に関する協定書(以下「第一次協定書」という。)に調印した。

それによると、

(1) 前文に、埋立地位置として、別紙土地目録一、1ないし9の土地が記載された上で「位置については、別紙平面図及び横断図のとおり」と表示され、さらに埋立地面積は、四三七八平方メートル、申請区域は五三六〇平方メートルと明らかにされている。その上で、

(2) 「この協定は、甲の快適な生活環境の保全に資する為、搬入廃棄物の最終処分埋立地に伴う、諸々の行為(この項についてのみ「埋立処分等」という。)から発生する、すべての公害の防止を目的とする。」と、同協定が地域住民の生活環境を保全するための公害防止協定であることを明記し(一条)、

(3) 本件処分場で取り扱う産業廃棄物の種類を安定五品目とし(二条)、

(4) 本件処分場の埋立仕上がりの高さは隣接村道の高さ、表土の厚さは最低一・三メートルとする(一〇条一項、施工条件1(3))、乙は、その施工条件を遵守し、その施工に際しては甲の監督指示に従わなければならないとし(一〇条二項)、

(5) 本件処分場における操業時間を午前八時より午後五時三〇分まで(三条1)、本件処分場における埋立処分等に伴う車両の通行時間を午前九時より午後五時三〇分までとし、農繁期には甲が運行の休止を乙に要請することができることとし(五条)、

(6) 乙が埋立処分地周辺への廃棄物の飛散、流出を防ぐよう努力することとし(三条2)、

(7) 本件処分場における埋立はサンドイッチ方式とし、埋立厚さ二メートルで五〇センチメートルの覆土とすることとし(三条3)、

(8) 乙が本件処分場において衛生害虫等の発生防止に極力努めることとし(三条4)、

(9) 本件処分場地下水の水質については(略)乙が汚染物質の排出がないよう万全の処置を講ずることとし(三条5)、

(10) 「乙は、埋立処分等により発生する騒音、振動、粉じん、悪臭等について、地域住民に影響を及ぼさない様、万全の措置を講じること」とし(四条)、

(11) 「乙は、公害防止等に関し、行政の関係機関の指導、指示に従う」こと(六条)、「甲は、乙がこの協定に違反した時、又は、疑義ある時はいつでも乙に指示できるものとし、乙はこれに従う」こと、この指示によっても「違反行為が継続していると甲が認めた時は、甲はこれに対し直ちに、搬入及び埋立行為の中止を命令することができる」こととし(九条)、

(12) 「乙は、埋立処分等に起因して道路、水路、山林、その他に被害が生じた場合は、すみやかに甲に報告すると共に、甲と協議し、乙の責任に於て被害の復旧を行い、損害賠償について甲及び被害者に全面的に弁償する」こととし(七条)、

(13) 埋立完了後は、農地として跡地利用出来るよう、乙が関係者との間で締結された土地の賃貸借契約をすみやかに解除することとし(八条後段)

ている。

(二) また、第一次協定書の別紙施工条件1(8)には、「上記工事については、別紙図面を参照のこと。」と書かれているが、それに該当する図面は、締結の際に綴られていなかった。

(三) それ故、第一次協定書は、これら図面の補完を要するものであったが、その後、被告吉田によって作成された図面が地元三区に届けられた。そのうち、平面図及び縦断面図には、2・3・22の日付印と原告区区長中元冨浩、西新子区区長上東芳弘、夜中区区長今西哲夫及び被告吉田並びに西吉野村村議会議員藤井芳次(以下「藤井議員」という。)の署名及び押印があるから、第一次協定書調印当事者並びに立会人が平成二年三月二二日に右のとおり署名及び押印して、第一次協定の内容を確定したものである。

(四) それ故、図面は右(一)(1)にいう平面図、平面図及び縦断面図は同(二)にいう別紙図面であると認められ、これをもって、第一次協定書が完成した。

5 知事の許可から許可期限延長までの動き

(一) 被告吉田の申請に基づき、奈良県知事は、被告吉田に対し、平成二年三月三〇日、産業廃棄物の収集、運搬及び本件処分場における最終処分(埋立処分)業を許可し、同時に、その用地に含まれた農地四五〇四平方メートルについて、二年以内に農地へ復元することを条件にして一時転用許可をした。

(二) そこで、被告吉田は、平成二年三月三〇日以降本件処分場の設置工事を行い、同年九月ころ完成させたが、堰堤は、幅二一・五メートル、高さ八メートルの計画と異なり、上部が嵩上げされていて、幅が約四〇メートル高さが約一〇メートルもある大きなものになり、平面図の堰堤付近の設計程には左右の法面が残っていない。

この点について、被告吉田は、右図面どおりでは地盤が柔らかいので、岩着不良のため、地元の安全を考えて、西吉野村の指定どおり変更したものであると供述しているが、その真否は明らかでない。

(三) 産業廃棄物の投棄は、被告吉田ばかりでなく、被告会社の手でも行われ、平成三年一月ころから本格的に始められたが、同年六月ころ以降は本件処分場だけでなく、堰堤下土地にも投棄する例が生じた。

これに対し、地元三区が抗議したが、被告らは、堰堤下流にある別紙不動産目録一7記載の土地についても本件処分場の一部として許可を得ていると言って右投棄を正当化する姿勢を示し、また同年七月二五日に被告吉田が大西繁一から本件処分場の下流域にある同目録二1ないし3記載の土地(以下「旧大西土地」という。)を代金一五〇〇万円で購入していたとして、堰堤下の廃棄物の撤去に応じなかった。

(四) そこで、地元三区は、河川の機能を回復させることを重視し、平成四年一月一七日、堰堤より下流の形状変更は極力避け、下流へ影響を及ぼさないよう施工し、右機能を低下させないように処理をすること、土砂流入を防ぐため、代替農道設置に伴う河川暗渠施設の飲み口部から沈澱槽下流端までヒューム管を敷設すること、盛土・スロープは山土で施工し、法面は崩落防止を図ること等を被告吉田と追加協定して、平成五年七月三一日まで産業廃棄物の搬入を延長することに同意した。

(五) その結果、被告吉田の申請に基づき、奈良県知事は、被告吉田に対し、平成四年三月二五日、事業計画の変更を承認して、農地一時転用の許可期限を同五年一二月三一日まで延長し、本件処分場における最終処分(埋立処分)業の許可証を被告吉田に交付し、その許可期限を同五年一二月三一日までとした。

6 奈良県知事の許可条件

(一) 奈良県知事は、廃棄物処理法に基づき、許可に生活環境の保全上必要な条件を付することができるところ、右5(一)の許可及び同(五)の許可証交付に際し、被告吉田に対し許可条件を付けたが、それに次の条件が含まれていた。

(1) 最終処分業(埋立処分)として取り扱う産業廃棄物の種類は安定五品目であり、その他の廃棄物は絶対に処分しないこと

(2) 埋立処分地の最終仕上げの高さ(最終覆土を含む。)等は、許可申請書に添付した計画図面とおりとし、一時的にせよ計画高を越え、許可地からはみ出して処分を行わないこと

(3) 事業の運営にあたっては、法令及び第一次協定を遵守すること

(4) 本件処分場において廃棄物が流出するおそれがある場合は、直ちに埋立行為を中止し、土地保全を図るとともに、付近に被害が及ばないように措置すること

(5) 埋立処分の実施にあたっては、鼠族衛生害虫の発生防止のため薬剤散布、覆土等を適切に行うこと

(6) 放流水質は水質汚濁防止法三条一項に基づく排水基準を定める総理府令の排水基準を遵守し、その水質が右排水基準に合致しない場合は、直ちにその原因を究明し、改善策を講じること

(7) 公害等が発生したときは、原因を究明し解決するまで埋立処分行為を中止すること

(8) 道路等に土砂及び廃棄物が飛散、流出しないように努めること

(9) 取り扱う産業廃棄物は、主として奈良県内の事業者から排出されるものとすること

(二) 奈良県知事は、農地一時転用の右5(一)の許可及び同(五)の許可期限延長に際し、本件処分場の農地につき農地へ復元することを条件にした。

7 許可期限延長後、第二次協定書調印までの動き

(一) 被告らは、平成四年一月二四日、本件処分場の一部である別紙不動産目録一1ないし4記載の土地を岡本実から購入し、同年四月一六日、堰堤下流にある同目録二4ないし6記載の土地(以下「旧中井土地」という。)を中井邦安から借りたとして、旧中井土地に重機を入れて作業を始め、その頃そこに自家処分場がある旨の看板を設置した。

(二) 同年六月、被告らは、原告区の梅の収穫期の産業廃棄物搬入中止要請を無視して、その搬入を強行するとともに、同月一八日、被告吉田は、西吉野村の役場に赴き、旧大西土地付近に産業廃棄物を投棄したい旨を表明した。

(三) そして、同年五月二三日ころ、被告らは、別紙不動産目録二9記載の土地(以下「旧博文土地」という。)付近の土を重機で削り取り、その後同目録二10記載の土地(以下「旧勤土地」という。)付近の土も切り取ったので、原告区、原告博文及び原告勤は、同年六月一一日付けで、擁壁及び安全柵等の設置を早急に設置するように要請した。

しかし、その対策がなされなかったので、同年七月四、五日に旧博文土地及び旧勤土地の一部が崩れ、梅の樹が落下した。

(四) そこで、原告区、原告博文及び原告勤は、同月一〇日耕作地の復元と崩れ落ちた梅の樹の補償金の支払を被告吉田に請求し、また、津田浩克弁護士らが、地元三区、原告博文及び原告勤を代理して、被告らに対し、平成四年八月二一日付け内容証明郵便で、コンクリート堰堤のかさ上げ、右(三)の崩落、国有水路の形状変更、サンドイッチ方式によらない投棄、農繁期の車両運行休止要請無視、右堰堤下流への産業廃棄物投棄を指摘して、これらが第一次協定に違反することを理由に、第一次協定書九条に基づき、違反行為の即時中止、産業廃棄物の搬入・埋立の中止、原状回復及び損害賠償を要求し、同郵便は同月二一日被告会社に到達した。

(五) しかし、被告らは、これを無視する一方、被告会社は、八月三日には中谷義則と別紙不動産目録二4及び5記載の土地を一三〇〇万円で買い受ける契約を締結し、同月八日にも中井邦安と旧中井土地、別紙不動産目録二7及び8記載の土地をそれぞれ四〇〇〇万円で買い受ける契約を締結して、右(一)の購入地と合わせて本件処分場の殆どの土地の所有権を取得するとともに、本件処分場の拡張に備えた。

(六) そして、平成五年一月には、本件処分場の埋立計画に違反して、本件村道高をこえて廃棄物を投棄し始めた。

(七) そこで、地元三区は津田浩克弁護士を代理人として交渉することになったが、被告らは荻原研二弁護士を代理人としてこれに応じたものの、平成五年一月二五日話合いは決裂したので、地元三区は、同月二八日三区総集会を開催し、被告らに対し堰堤下流域への廃棄物投棄を禁止する仮処分命令を申請する手続をすることを決議した。

(八) この動きを受けて、同月三〇日、被告らの要請を受けた堀村長は、地元三区役員らに対し「堰堤から下流九〇メートル当たりに新堰堤を作る方向で解決したいので、私に任せて欲しい。」と申し入れ、同年二月一二日、原告区区長辰己登、夜中区区長中迫安男及び西新子区区長千切重敏、藤井議員並びに産業廃棄物対策協議会委員六名が、行政機関からの指導には従わなければ仕方がないという思いから、堀村長に対し、本件処分場に関する問題につき「村長が吉田と話合いをされ、出来る限り速やかに本問題が解決するように委任」する旨の委任状を交付したので、堀村長と被告吉田との間で被告会社が計画していた拡張案を縮小する方法で交渉が行われた。

(九) その結果、同月一七日、堀村長と被告会社は、現堰堤の下流約九〇メートルの地点に新たに新堰堤を設けて、現堰堤と新堰堤の間に産業廃棄物を投棄すること等を定めた本件約定を締結した。

その定めの中に、原告の産業廃棄物の投棄により、原告区が失う法面の補償として原告区又は原告区の指定する者は、新堰堤直近下流の別紙不動産目録二5及び6記載の土地の全部並びに旧大西土地及び同目録二4記載の土地の各一部(以下、合わせて「交換地」という。)の土地所有者から、農地法三条の許可を受け、所有権移転登記手続を受ける旨の条項が含まれていたが、右定めは、新堰堤直近下流域の土地を原告区の所有にし、今後新堰堤下流域への本件処分場の更なる拡大を防止しようという堀村長の意図により設けられたものであった。

(一〇) ところが、被告らは、その後も現堰堤の下流域での作業を続け、同年二月下旬頃旧博文土地を新たに崩壊させた。

さらに同年四月八日、本件処分場で火災が発生し、消火活動にかかわらず同月一〇日までくすぶり続けた。その際同消火活動に農業用水を使用したため、水不足が起き、梅の樹の消毒作業が遅滞したり、悪臭が周辺に充満する等の被害が生じた。

(一一) そこで、津田浩克弁護士らが、地元三区を代理して、被告らに対し、平成五年四月二七日付け内容証明郵便で、右(四)の郵便で摘示した違反行為の外に、右(一〇)の火災及び最終仕上げの高さをはるかに超えて産業廃棄物を投棄していることを指摘して、これらが第一次協定に違反することを理由に、第一次協定書九条に基づき、違反行為の即時中止、産業廃棄物の搬入・埋立の中止、原状回復及び損害賠償を要求し、同時に、奈良県知事に対し、同日付け内容証明郵便で、被告らに対する郵便で指摘した行為を摘示して、その行為が許可条件に違反するとして、吉田に対する行政指導又は許可の取消しを含む行政処分を求めた。

右両郵便は同月二八日被告ら及び知事に到達したところ、奈良県担当者は、五月ころ本件処分場をパトロールし、転圧しても計画高に戻るかどうか問題のある高さであったので、また堰堤を越えて廃棄物が流出していたので、被告吉田に口頭で廃棄物の搬入・投棄を止めるように指導したが、被告吉田は、殆ど対応しなかった。

(一二) そこで、同年五月、産業廃棄物対策協議会が、原告博文及び原告勤に対し、本件約定の右(九)の定めによる旧博文土地の一部及び旧勤土地と交換地を交換する話をしたところ、右(三)及び(一〇)の崩落並びに(一〇)の火災の被害にあった同原告らは容易にその話に応じなかった。

そのため、堀村長は、西吉野村村議会議長森本某、片山議員、藤井議員及び西吉野村村議会議員宮田某(以下「宮田議員」という。)と相談し、産業廃棄物対策協議会に対し、片山議員、藤井議員及び宮田議員を仲介させたいと申し出、同会がこれを受け入れたので、右議員らが用地交渉に入った。

(一三) その過程で、被告会社は、旧博文土地及び旧勤土地を買うよう村長から求められたところ、それなら自分が買った土地は自分が自由に使いたいと、同年六月には右(九)の定めよりさらに下流に新堰堤を設ける意向を示すようになった。

(一四) 産業廃棄物対策協議会は、当初本件約定どおりにすることに固執していたが、この推移に加えて、行政関係者や仲介者の説得もあって仕方なく譲歩することとなり、平成五年六月一四日地元三区は、その総会を開催し、旧博文土地の右(三)の梅の木崩壊地点まで下流に新堰堤を下げることを了承した。

そして、同月二一日、関係者が官民境界明示の立会いを行った上、被告らは、堀村長の了承のもとに、右議員らの仲介で、新堰堤予定地より下流域にある土地も購入することになり、平成五年七月八日に、宮田調員の仲介により、原告勤から旧勤土地を一〇〇〇万円で買い受け、中前ハマエから別紙不動産目録二11記載の土地(以下「旧中前土地」という。)を二〇〇万円で買い受け、原告平善之から同12記載の土地(以下「旧平土地」という。)を二一三〇万円で買い受ける各契約をし、同年八月二七日、片山議員の仲介により原告博文から旧博文土地全部を三五〇〇万円で買い受ける契約をして、本件拡張予定地をすべて買い終えた(但し、農地につき農地法五条に基づく奈良県知事の許可がない。)。

(一五) 平成五年一二月一六日、同年六月二一日に杭打ちができないところもあったので、片山議員、被告吉田及び産業廃棄物対策協議会役員が立ち会って、旧博文土地の範囲を明らかにする杭打ちを行ったが、その際と同月二八日の立ち会いで、地元が譲歩して、旧博文土地から約五メートル下がった地点までに堰堤を設けることを合意し、同地点に杭を打った。

その際、被告吉田も、埋立仕上がり高が湯塩側は湯塩側村道、奥谷側は奥谷側村道を超えてならないことを了解していて、これを変更するために新たな協議を申し込むこともなかった。

そして、平成六年一月八日にも、片山議員宅で、右合意を確認したが、以後平成六年二月二一日までにこれを変更する話は出なかった。

(一六) そして、平成六年二月二一日、産業廃棄物対策協議会役員ら地元民四、五〇人がいる前で、原告区区長西浦繁則、西新子区区長平順友及び夜中区代表平井和雄らを地域住民代表とし、被告会社を産業廃棄物処理業者として、両者間で「産業廃棄物最終処分場に関する公害防止協定書」(以下「第二次協定書」という。)に調印した。

8 第二次協定書

第二次協定書は、

(一) 同協定が、地域住民の「快適な生活環境の保全に資する為、産業廃棄物最終処分場の建設及び産業廃棄物の搬入、埋立等に伴う諸々の行為から発生するすべての公害及び損害の防止を目的とする。」と(一条)、同協定が地域住民の生活環境を保全するため公害及び損害の防止を図る公害防止協定であることを明記し、被告会社が別紙工事施工条件を遵守し、行政の関係機関の指導、指示に従うこと(二条)、同処分場で取り扱う産業廃棄物の種類が安定五品目であること(三条)、協定区域をこえて、産業廃棄物を投棄しないこと(四条)等を定めている。

(二) しかし、その前文に、その対象となる最終処分場の位置は「西吉野村大字奥谷一二四八番地・一二五二番地・一二五三番地の各一部・一二五四番地の一・一二五四番地の二・一二五五番地・一二五六番地・一二五七番地の一の内、村道から下の約二分の一、一二六一番地・一三一四番地の二の内の約二分の一のうち、別紙現況平面図中、太線で囲んだ線内の区域(沈澱槽及び付替河川用地を含む。)」と書かれているものの、別紙現況平面図が添付されておらず、第一次協定書と異なり、埋立地面積も申請区域面積も明らかにされていないので、その対象となる処分場の位置及び範囲は、書面上右記載以上に明らかでない。

(三) また、同じく前文に、「最終仕上がりの高さ(最終覆土を含む。)は、別紙横断、縦断図のとおりとする。」と書かれているが、別紙横断、縦断図いずれも添付されていない。

(四) 末尾に「別紙工事施工条件」が添付され、

(1) 「堰堤の構造は、コンクリー卜堰堤で産業廃棄物処理施設の構造に関する基準による。」

(2) 「村道湯塩奥谷線と新堰堤の延長線上の奥谷側村道敷地内に基準高を設置し、その基準高から、  m下がりの水平線を堰堤の施工上限高とする。」

(3) 「最終埋立計画高(最終覆土を含む。)は、村道湯塩奥谷線の現況道路高を超えてはならない。」

(4) 「埋立の勾配及び一層盛土(埋立)高は、廃棄物処理施設の構造に関する基準により、盛土(埋立)勾配はS=1:1.5・一層盛土(埋立)高は5.0mまでとし、幅1.5m(水平)の小段を設けること。」

(5) 「詳細については、別紙縦断図・横断図の通りとする。」

と定められているが、右(2)の数値の記入がなく、別紙縦断図・横断図の添付がない。

9 第二次協定書調印以後の動き

(一) 第二次協定に関する動き

(1) 平成六年七月一一日、被告会社から産業廃棄物対策協議会に片山議員を通じ計画図が届けられ、同月一四日平成五年度及び平成六年度産業廃棄物対策協議会役員で、これら図面を検討した。

その図面には、平面図が含まれていたと認められるが、そのうち、平面図によると、現堰堤から約一七〇メートル下流に打擁工を行い、その間を本件処分場の拡張用地にし、その下流に自家処分場を設置する計画図になっていて、平面図によると、拡張予定の用地面積は、埋立処分場面積一三五九五・四九平方メートル、構造物面積一一〇〇・四六平方メートル、合計一四六九五・九六平方メートル、現堰堤から構造物先端まで約一九〇メートルとする計画であった。しかも、処分場用地に黒川及び中窪の所有地が含まれていること、コンクリート堰堤でなく、土の堰堤であることが分かった。

そこで、産業廃棄物対策協議会は、これでは了解することができないと、同月中と同年九月の二回にわたり片山議員に右計画図を返しに行った。

(2) しかし、産業廃棄物対策協議会と被告会社の折衝はその後も続き、同協議会が被告会社に本件処分場の拡張用地に黒川及び中窪の所有地がかかっていること等を申出たところ、同年一〇月二〇日、被告会社は、産業廃棄物対策協議会に対し、黒川及び中窪の所有地との境界を破壊しない旨の誓約書を差し入れ、計画を再検討する態度をみせた。

(3) その再検討の結果として、同年一二月一九日ころ、被告会社は、産業廃棄物対策協議会に再び計画図を届けた。

その図面のうち、平面図によると、現堰堤から約一六〇メートル下流にコンクリート造成又はブロック擁壁を設ける計画に、平面図によると、右擁壁のさらに下流約五〇メートルに土堰堤を、その先に沈澱槽及び調整池を設ける計画になっていて、合わせて全長約二五〇メートルに本件処分場を拡張することを示すものになっている。

また、横断面図は、平面図に対応する本件処理場及びその拡張予定用地での計画図の一部で、横断面図は拡張予定用地での、横断面図は本件処理場での計画図であるが、廃棄物の埋立仕上げ高は、いずれの横断面においても本件道路高より高く計画されている。

(4) そこで、同月二一日、地元三区は、産業廃棄物対策協議会で被告吉田から説明を受け、翌二二日、産業廃棄物対策協議会役員が奈良県に行って計画図を解説してもらったところ、これら計画図は、埋立仕上がり高を村道湯塩側の一番高いところを基準にし、仕上がり面を平地にしていることが明らかになった。

(5) その結果、同月二五日、産業廃棄物対策協議会は、被告吉田を呼び、これら計画図は埋立仕上がり高で第二次協定の際の約束と違う、これでは調印(割印)することができない、第二次協定どおりの計画図を求めると申し出たところ、被告吉田は跡地を利用したいので平地にしたと言って、計画案を変更しようとしなかったので、同協議会と被告会社の話合いは決裂した。

(6) その後、次記(二)(10)の仮処分命令申請事件の審尋手続中に、被告ら代理人が右計画を変更して解決する意向があることを申し出るまで(甲六二における原告代理人の質問からの推認)、被告らから右計画の変更に言及することはなかった。

(二) 本件処分場をめぐる動き

(1) 一方、本件処分場では、平成六年六月二九日では、村道沿いの亜鉛並板囲いは積み上げられた廃棄物によって倒壊しそうな状況になって、廃棄物を転圧しても計画高に整地することが不可能になっていた。

(2) 同年八月一日では、搬入は止まっているものの、整地転圧は未だされておらず、周囲のトタン塀が壊れかけている箇所があった。

(3) 同年九月二六日では、ゴミ臭が強く、頂上で重機が作業していたところ粉塵が多かった。

(4) 同月二七日に煙が出て、地元消防団が三〇分間放水したが、翌二八日でも、右発煙箇所付近の温度は六〇度に達していたので、奈良県は定期注水を被告吉田に指示した。

しかし、同年一〇月一六日にも数メートルの火の手が出て、地元消防団が一時間三〇分間放水しなければならなかった。

(5) そこで、奈良県保健環境部長は、被告吉田に対し、同年一〇月二八日、本件処分場について、産業廃棄物が計画高以上に積み上げられ、覆土転圧不足による飛散・流出のおそれがある点、原因不明の火災が発生した点、地元住民に不安感を与えている点につき、維持管理上問題が発生しているとして、維持管理に万全を期し、速やかに支障除去作業に着手することを勧告した。

(6) しかるに、同年一二月九日、再び本件処分場から出火した。

(7) そこで、奈良県環境管理課廃棄物対策室長は、被告吉田に対し、平成七年一二月二六日、本件処分場について、産業廃棄物が計画高以上に積まれており、周辺道路に崩落のおそれが生じているとして、産業廃棄物の搬入を停止し、処分場内の整地に努めるとともに、周辺道路に産業廃棄物が崩落しない措置を早急に講じることを勧告した。

(8) にもかかわらず、本件処分場から、同年二月一九日、同年四月三日、同月一六日、同月二三日及び同月二九日と再三にわたり煙が出、同年二月二一日及び同年五月一〇日の二度にわたり火が上がった。

(9) 一方、奈良県農林部長は、被告吉田に対し、平成七年五月一五日、本件処分場について、右5(五)の許可期限を過ぎても農地復元されないばかりか産業廃棄物が山積みされており、農地法違反状態が続いているとして、早急に是正するよう文書により強く勧告した。

(10) しかし、被告らは、廃棄物の投棄を続けたので、原告番号一、六ないし三五、同三九ないし七三の原告らは、平成七年一一月七日、第一次協定違反を理由に、被告らに対し、本件処分場において自ら及び第三者による廃棄物の搬入・埋立を禁止する仮処分命令申請手続を奈良地方裁判所葛城支部に行った。

それでも、被告らは、廃棄物の投棄を続けたが、同八年一月二二日、同支部は同趣旨の仮処分決定をした。そのため、奈良県の指導もあって、本件処分場に対する搬入は止めたものの、堰堤下流への投棄は続けられていた。

(11) そこで、地元住民は、監視小屋を設置し、監視を続けることになった。

(12) 平成九年一一月六日、右原告らと被告らは、奈良地方裁判所葛城支部において、被告らが本件処分場において自ら廃棄物を搬入・埋立を行わず、第三者をしてこれらの行為を行わせない等を定めた訴訟上の和解をした。

(13) しかし、本件処分場について行われた奈良県公害審査会平成八年(調)第一号公害調停申立事件において、被告らが地元住民に対し調停案を提案したが、受け入れられず、右(12)の和解以外に合意が成立することがなく、本件提訴に至った。

二  争点に対する判断

1 争点1について

原告らは、被告らが第一次協定及び奈良県知事の許可条件に違反して廃棄物を搬入投棄したと主張し、被告らは、被告らが安定五品目以外の廃棄物を廃棄した事実はなく、安定五品目以外の廃棄物は第三者が不法に廃棄した物である、また被告らが第一次協定及び奈良県の許可条件に違反して搬入したすべての廃棄物は第二次協定に基づく産業廃棄物最終処理場開設までの仮置きで、埋立処分したものでないと反論して争う。

そこで、まずこの点について判断する。

(一) 第一次協定違反

(1) 本件処分場に搬入投棄された廃棄物には、前記第三、一、2(四)及び(八)(1)のとおり安定五品目以外の廃棄物が混入しているが、被告ら主張のように第三者が廃棄したことを証する証拠がなく、検甲二のとおり見ることのできる表面だけでも安定五品目以外の廃棄物が大量に存在すること、その混入は搬入前の廃棄物の分別が不足していた故であることから、意図的でないとしても、被告らが安定五品目以外の廃棄物を搬入投棄したものと認めるのが相当である。

それ故、原告らが前記第二、一、4(二)(1)で主張するとおり、被告らが第一次協定の同第三、一、4(一)(3)の定めに違反していることは、明らかである。

(2) 前記第三、一、2(六)及び(八)(2)のとおり本件廃棄物がうず高く積み上げられているが、その量、パトロール報告における現認・指導状況に加えて、被告ら自身も本件廃棄物は仮置きであると主張するから、被告らが搬入投棄したものと認められる。

その上、その始期は同7(六)のとおり第二次協定を一年も先立つ平成五年一月であること、また、被告吉田は、平成七年及び同八年の六月に出した奈良県に対する両年の年次報告に、処分量、残容量について虚偽の報告をしていたこと、次記(3)の行政指導及び勧告に従わず、前記第三、一、9(二)(10)の仮処分決定まで右搬入投棄を継続したことも認められる。

それ故、原告らが前記第二、一、4(二)(2)で主張するとおり、被告らが第一次協定の同第三、一、4(一)(4)の定めに違反していることも、明らかである。

(3) 被告らは、協定時間外または住民の休止要請を無視し、農繁期にダンプカーを運行したので、原告らが前記第二、一、4(二)(3)で主張するとおり、被告らは第一次協定の同第三、一、4(一)(5)の定めに、

(4) 被告らは、サンドイッチ方式による覆土をせずに、右(2)のように積み上げ、塀を押し曲げて隣接村道へ張り出させ、転圧不足によって廃棄物を飛散させて、堰堤下流へ落下させたので、原告らが前記第二、一、4(二)(4)及び(5)で主張するとおり、被告らは第一次協定の同第三、一、四(一)(6)及び(7)の定めに、

(5) 本件処分場からどす黒い水が流出していて、水質が同2(八)(5)のとおりであることが認められるので、汚染物質が排出しているものと認められるから、原告らが前記第二、一、4(二)(7)で主張するとおり、被告らは第一次協定の同(8)の定めに、

(6) 本件処分場からしばしば悪臭を発したので、原告らが前記第二、一、4(二)(8)で主張するとおり、被告らは第一次協定の同第三、一、4(一)(10)の定めに、

(7) 被告らは、同9(二)(5)及び(7)の文書による勧告を受けたにかかわらず、何らこれらに従って搬入を停止する等の措置を行わなかったので、原告らが前記第二、一、4(二)(9)で主張するとおり、被告らは第一次協定の同第三、一、4(一)(11)の定めに、

(8) 被告らは、同7(三)及び(七)のとおり二度にわたり隣地を崩落させたにかかわらず被害の復旧も損害賠償もしなかったので、原告らが前記第二、一、4(二)(10)で主張するとおり、被告らは第一次協定の同第三、一、4(一)(12)の定めに

各違反している。

(二) 県知事の許可条件違反その一

また、奈良県の本件処分場における被告吉田に対する埋立処分場の許可に伴う許可条件は、前記第三、一、6(一)のとおりであるが、被告らは、

(1) 右(一)(1)のとおり安定五品目以外の廃棄物を搬入投棄したから、原告らが前記第二、一、5(二)(1)で主張するとおり、同第三、一、6(一)(1)の許可条件に、

(2) 右(一)(2)のとおり本件廃棄物を搬入・投棄したから、原告らが前記第二、一、5(二)(2)で主張するとおり、同第三、一、6(一)(2)の許可条件に、

(3) 右(一)のとおり第一次協定に違反し、かつ同(一)(1)のとおり安定五品目以外の廃棄物を処分し、同(一)(2)のとおり本件廃棄物を投棄したから、原告らが前記第二、一、5(二)(3)で主張するとおり、同第三、一、6(一)(3)の許可条件に、

(4) 右(一)(4)のとおり本件廃棄物に一切覆土せず、廃棄物を飛散・流出させたから、原告らが前記第二、一、5(二)(4)、(5)及び(8)で主張するとおり、同第三、一、6(一)(4)、(5)及び(8)の許可条件に、

(5) 右(一)(7)のとおり勧告に従って搬入を停止する等の措置を行わなかったから、原告らが前記第二、一、5(二)(4)で主張するとおり、同第三、一、6(一)(4)の許可条件に

各違反した。

(三) 県知事の許可条件違反その二

さらに、奈良県の本件処分場における被告吉田に対する農地法に基づく一時転用許可の許可条件は前記第三、一、6(二)のとおり農地への復元、同期限は同5(五)のとおり平成五年一二月三一日であったが、被告らは同期限までに農地に復元せず、被告吉田は同9(二)(9)摘示の勧告にも応じなかったから、同許可条件に違反した。

(四) 仮置きについて

被告らは、仮に被告らが第一次協定及び奈良県の許可条件に違反したとしても、違反して搬入したすべての廃棄物は、第二次協定に基づく産業廃棄物最終処理場開設までの仮置きで、埋立処分したものでないと主張する。しかし、

(1) 前記第三、一、7(六)のとおり本件村道高を越えて本件廃棄物を搬入投棄し始めた時期は平成五年一月で、第二次協定に先立つこと一年以上も前であるから、第二次協定調印以前の搬入投棄は同協定と因果関係がない。

(2) 本件廃棄物には、被告ら主張のように、同9(二)(10)のとおり第二次協定調印以後に搬入投棄したものもある。そして、奈良県が的確に対応しなかったのには、事前協議の書類を受理したことはないものの、第二次協定によって本件処分場の拡張につき許可申請がなされ、それに基づき許可をするであろうと考えていたからである。

(3) しかし、仮置きは、積替え保管にかかわるものでない限り容認されることがなく、積替え保管の場合でも決して長期間にわたることが許されない。

(4) このように、着替え保管の場合を除いて、産業廃棄物最終処理場における廃棄物の仮置きは認められないので、仮に被告らが第二次協定に基づく産業廃棄物最終処理場開設まで仮置きする意思で本件廃棄物を搬入したものであったとしても、奈良県知事の右(二)の許可条件に違反するものであることには変わりがない。

(5) 奈良県議会厚生委員会における議事録によると、本件廃棄物が搬入投棄された時間的経過を確認せず、第二次協定に関する被告吉田等の言葉を鵜呑みにして、安易な見通しで奈良県廃棄物対策室が対応したことが認められ、その結果、適正な行政指導を行う機会が遅れた事情は窺える。しかし、そのことをもって、被告らの第一次協定及び奈良県知事の許可条件違反の事実を軽視すべき事情になることはない。

それ故、被告らの仮置きの主張は採用することができない。

(五) なお、原告らは、前記第二、一、4(二)(6)並びに同5(二)(6)(7)及び(9)のとおり、

(1) どす黒い水が流出しており水質の悪化や危険物質(重金属など)による汚染が懸念されることが、知事の前記第三、一、6(一)(6)の許可条件に、

(2) 一一回の火災が発生したことが、第一次協定の前記第三、一、4(一)(9)の定めに、

(3) 火災は公害に当たるから、原因を究明し解決するまで埋立処分を中止しなければならないのに、中止しなかったことが、知事の同6(一)(7)の許可条件に、

(4) 被告らが投棄した廃棄物には関東を含めた県外からのものも数多く含まれていることが、知事の同6(一)(9)の許可条件に各違反していると主張するが、

(5) 右(1)は、排水が右(一)(5)のとおりであることが認められ、水質の悪化や危険物質(重金属など)による汚染が懸念されるものの、前記第三、一、6(一)(6)の排水基準と比較することのできる本件処理場の水質検査結果が証明されないので、被告らが同排水基準を遵守していないことを認めるに足りる証拠がなく、

(6) 右(2)は、出火原因が不明でその大半は規模が小さく、廃棄物の排出するガスによるものと認めるに十分でなく、

(7) それ故、右(3)は、出火原因を究明し解決するまで被告らが埋立処分行為を中止しなければならないと認めるに足りる事情に当たると認めるに足る証拠がなく、

(8) 右(4)は、本件処分場に投棄された廃棄物に県外からのものが数多く含まれていたと認める証拠がない

ので、いずれについても、原告らの右(1)ないし(4)の主張どおりに違反があったものと判断することができない。

(六) したがって、被告らは、右(一)の限度で第一次協定に、右(二)及び(三)の限度で奈良県知事の許可条件にそれぞれ違反したものと認定した。

2 争点2について

(一) 第一次協定には、被告吉田に対する本件廃棄物撤去請求権を地域住民に与える明文の定めがない。

しかるに、原告らは、原告らに右撤去請求権があるとして、請求の趣旨どおりの請求に及んでいる。

そこで、この点につき判断する。

(二) 第一次協定の定め

(1) 第一次協定は、前記第三、一、4(一)(3)のとおり取扱品目を限定し、同(一)(4)及び(7)のとおり埋立仕上がり高・埋立方式を、同(二)のとおり施工条件を各定め、同(三)のとおり同施設の規模・構造、廃棄物の最終埋立仕上がり高を本件村道高以下とすることを確認して、本件処分場での事業終了後に地元住民の生活環境に悪影響を残さないようにする規定を設けている。

それは、本件処分場を地元三区の住民が受容することができるものにするための規定に外ならない。

(2) また、前記第三、一、4(一)(11)のとおり、第一次協定は、明文をもって、地域住民代表に対し、被告吉田が同協定に違反したとき等に同被告に対する指示権を与え、さらに同指示によっても違反行為が継続していると認めたときに、搬入及び埋立行為の中止請求権を与えている。

(3) 一般に、公害防止協定が地域住民に産業廃棄物の搬入及び埋立行為の中止請求権を与えた場合、施設設置者がこれに応じて搬入及び埋立を中止することを当然のことと想定しているので、施設設置者が、中止せずに、同施設について、同協定で取決めた埋立最終仕上がり高を越えて埋立行為を継続し、撤去しなければ協定違反状態を解消することができない事態を想定していない。

(4) それ故、かかる事態を想定した規定、即ち地域住民に対し協定違反状態を解消するために廃棄物の撤去を請求する権利を具体的に明文化しないのは、当然である。

したがって、同定めが存在しないことを理由に安易に右撤去請求権がないものと断定することは相当でない。

(5) そこで、第一次協定において、本件処分場に処分された廃棄物に関し、生活環境の保全のために、地域住民が右(1)以外に如何なる措置を求めることができ、被告吉田が如何なる義務を負うのか、明文の規定をみると、第一次協定は、被告吉田に対し、

a 前記第三、一、4(一)(6)及び(8)のとおり周辺への廃棄物の飛散、流出を防ぎ、衛生害虫等の発生防止に極力努める義務、

b 同(9)のとおり、浸出水に汚染物質の排出がないよう万全の処置を講じる義務、

c 同(10)のとおり、埋立処分等により発生する騒音、振動、粉じん、悪臭等について、地域住民に影響を及ぼさないよう万全の措置を講じる義務、

d 同(12)のとおり、埋立処分等に起因して道路、水路、山林、その他に被害が生じた場合は、被害の復旧を行う義務

を課していることが判る。

(6) そこで、被告らの協定違反行為が原告住民の生活環境へ与える影響、公害防止協定についての意思解釈の在り方、右行為の違反の程度を検討して、第一次協定における右(1)の埋立高及び施工条件の規定の意味、同(2)の中止請求権及び同(5)の義務を吟味して、本件廃棄物の撤去請求権の存否を検討することが相当と考える。

(三) 原告住民の生活環境への影響

そこで、まず、本件処分場における被告らの協定違反行為が原告住民の生活環境に如何なる影響をもたらしているか、特に山積みされた本件廃棄物がどんな影響をもたらしているかを検討する。

(1) 安定五品目でも、金属くず、廃プラスチック等には重金属、環境ホルモン等水質・土壌等周辺環境に悪影響を与えるものが含まれていることが指摘されている。その上、安定五品目の中には、建設廃材のようにどうしても混入物の分別が困難なものがあり、本件処分場では、前記第三、一、2(四)のように、安定五品目以外の廃棄物が数多く混入している。しかも、浸出水が地下に浸透するのを防止するため、遮水シートが設置されていない。

また、同(八)(4)のように、本件廃棄物の状況から、隣接村道外に降った雨水を本件処分場に流入させないで、本件村道界に設けた側溝によって下流に排水することが困難になっている。

そのため、本件処分場には調整池が設けられているものの、調整池に流入する水量がその処理能力を越え、浸出水に対して十分に水質浄化を施すことが難しくなっていると推認することができる。

また、同(六)のように、計画された廃棄物処分量を大きく上回る本件廃棄物が本件処分場に搬入されているので、浸出水に溶け出る有害物質の量は許可時に予定された推定量より多いから、調整池で適正な水質処理をすることをより以上に困難にしている。

その結果、このまま放置すれば、本件処分場からの排水は、許可時に予定された計画値を越えて汚染し、それが今後継続するものと推認することができる。

そのため、地下水・下流域の河川の水質汚染が危惧される状況にある。

そして、数は少ないものの同谷水や井戸を飲料水に用いている一部原告住民の健康に、或いは本件処分場の下流域にある一の木ダム、谷水が汚染され、その結果、その流域の取水口及び井戸から農業用水を取水している一部原告住民、またはダムからの揚水を潅漑用水として用いることを予定している農民原告の生産する柿等の農産物に水質汚染による被害が及ぶおそれがある。

(なお、原告らは、アスベスト等有害物質が大気中に飛散しないような措置を実施するようにされていないことを理由に、粉じんによる飲料水汚染の危険性があると主張するが、粉じんにアスベスト等有害物質が含まれていること、粉じんが飲料水を汚染する危険性があることを具体的に証する証拠がない。)

仮にかかる直接的な被害がなくとも、本件廃棄物がこのまま放置されることにより生じる風評によって、右一部原告住民が生産する柿の値段が安くなる被害が生じるおそれがあり、柿を生産している同原告らの中には既にそれに脅えている者がある。

(2) 前記第三、一、2(六)のとおり、山積みされた本件廃棄物により、本件処分場の周囲のフェンスは隣接村道に張り出しており、電柱が傾いた例もある。

しかるに、被告らは、その防止措置も徹底せずに放置しているので、本件処分場への搬入処分が停止している今でも、本件廃棄物の一部がフェンスと共に隣接村道に張り出しており、原告住民は、隣接村道を通行する際に不便を受けている。

(3) 前記第三、一、7(一〇)並びに9(二)(4)及び(8)のとおり、本件処分場ではしばしば火災が発生しており、原告住民は、消防活動に参加を余儀なくされ、また放水のために生じた水不足に悩まされ、周辺の畑・山林・家屋に延焼する不安を感じた。

その後も覆土せずに、本件廃棄物が放置されているので、原告住民は、今後も同様の事態が繰り返されるおそれに不安を感じ続けなければならない。

(4) また、常時廃棄物からの臭気が、特に火災時には噴煙による悪臭が激しく、周辺の畑・人家に及ぶので、本件処分場周辺に居住し又は周辺で農作業をする一部原告住民には勿論、村道を通行する他の原告住民にも不快感を与え続けている。

(5) さらに、前記第三、一、2(七)のとおり、本件処分場は転圧・覆土されずに長らく放置されており、風が吹けば本件廃棄物から粉じんが舞い上がる状態にあるが、粉じんが柿に付着した場合、その果皮が黒く変色し、商品価値が著しく下落するので、粉じんは周辺で果樹を栽培する原告住民にとって、大きな経済的被害を生じさせるものである。

(6) 加えて、前記第三、一、2(八)(3)及び(4)のとおり、安定五品目以外の廃棄物が投棄されているから、転圧によっても固まりにくく、不安定である上、堰堤に亀裂が発生しているので、廃棄物の荷重と、大雨の際本件処分場に流入し排出が困難になった水の重みで、堰堤自体が崩壊し、本件廃棄物ばかりでなく、本件処分場に投棄された相当量の廃棄物及び堰堤コンクリート塊が夜中谷の谷筋に沿って流下するおそれもある。

そして、山のように積まれた本件廃棄物がもたらす荷重は堰堤の設計強度計算の際考慮されていないと推認されるから、本件廃棄物が存在し続ける場合、その危険性は増大する。

そこで、仮にかかる堰堤の崩壊がなくとも、本件処分場の下流域に土地を所有している原告番号四四及び原告番号六〇番の原告両名は勿論、同様の場所に区有地をもつ奥谷住民原告も、その可能性に不安を抱き続けることになる。

(7) 本件処分場は、柿・梅の果樹園に囲まれているが、そこにできた本件廃棄物の山は、周辺の景観を著しく傷つけており、常に本件処分場を見下ろし、隣接村道を通る夜中住民原告は勿論、他の周辺原告住民の生活環境も損ねている。

(8) したがって、本件処分場の現状、なかんずく本件廃棄物の存在は、原告住民の生活環境の保全上支障を生じさせており、さらに今後大きな支障を生じさせるおそれがあって、その中には水質汚染等一部原告住民の健康被害に結び付くおそれのあるものも予想される上、その支障は、本件廃棄物が存在し続く限り、継続し続けるのである。

(四) 公害防止協定についての意思解釈

このように、本件処分場、特に本件廃棄物の存在が原告住民の生活環境に影響を与えている場合に、監督行政機関によって原告住民の生活環境の保全が如何に図られているかを検討し、そこからも公害防止協定の解釈の在り方を導き出すことにする。

(1) 一般に、産業廃棄物最終処分(埋立処分)施設は、公害の発生源となる可能性が大きく、公害が発生する事態になれば、施設設置場所周辺住民の生命・身体・健康に対する具体的侵害をもたらすものである。

(2) しかし、同施設は、社会生活上不可欠なものであるから、生活環境の保全上支障が生じ、また生じるおそれがないように、厚生省令で定める基準に適合する施設を設置し、的確にこれを管理・監督すれば、公害の発生をその数歩手前で未然に防止することができ、その方策として生活環境の保全を基準とすることが必要であると考え、廃棄物処理法が制定されている。

(3) 同法は、産業廃棄物最終処分(埋立処分)業を許可制にして(一四条四項)、都道府県知事の監督下に営業させるものとし、その事業の用に供する施設及び産業廃棄物業者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するものであること等と認めるときでなければ、営業を許可しないことにして(同条六項)、それによって、右埋立処分地周辺住民の生活環境を保全している。

(4) そして、同法は、産業廃棄物処分業者は産業廃棄物処理基準に従い産業廃棄物の処分を行わなければならないこと(一四条八項)、また、これに適合しない産業廃棄物の処分が行われた場合で、しかも生活環境の保全上支障が生じ、又は生じるおそれがあるときには、都道府県知事は、必要な限度において、当該処分を行った者に対し、期限を定めて、その支障の除去又は発生の防止のために必要な措置を講ずべきことを命じることができると定めている(一九条の四)。

(5) それと合わせて、監督行政機関は、予め施設設置場所周辺住民と公害防止協定を締結するように同施設設置者を行政指導し、右住民の参加を得て、同住民に契約上の請求権を与え、又は同施設設置者に契約上の義務を課することによって、同住民の生活環境の保全に努める手法も用いている。

それ故、同施設の規模・構造・設備及び操業形態を、既存の生活環境に照らし右住民が受容することができるものに制限し、かつ、その受容限度を越えるときは、同住民が施設設置者に対し、直ちにその原因たる行為を停止させ、原状回復が必要なときは復旧に要する行為を請求する権利を付与する規定を、公害防止協定に整えている。

(6) この点、施設設置者も、周辺住民の同意が得られて初めて同施設を設置することができるのであるから、通常右規定による取決めに合意している。

(7) したがって、公害防止協定の規定については、締結当時者の意思を右目的に合致するように推し量って解釈するのが相当であって、同協定が定めた権利義務の解釈も同様の立場で行わなければならない。

(五) 許可条件違反の程度

(1) 前記第三、一、6(一)のとおり、奈良県知事は、廃棄物処理法一四条七項に基づいて、被告吉田に対し許可条件を付したが、被告らは、同第三、二、1(二)のとおり右許可条件に違反した。

(2) 被告らの右違反行為は、同2(三)のとおり、いずれも継続して原告住民の生活環境に影響を及ぼし、その中には今後原告住民の健康被害を起こすおそれがあるものもある。

(3) それ故、奈良県は、原告住民の支障の除去又は発生を防止するため、前記第三、一、9(二)(5)及び(7)のとおり、被告吉田に対し、二度にわたり措置命令前の最後の手段である文書による勧告を行ったが、同被告はこれに応じなかった。

(4) その結果、現存し、放置すれば今後も存続し続ける許可条件違反の状態は、奈良県知事が被告吉田に対し、右(四)(4)の措置命令として本件廃棄物の撤去を求める命令を発することができる程度と認められる。

(5) しかし、一般に、右(4)の措置命令発布の要件が具備している場合でも、行政機関が的確にその権限を行使して早期に措置命令を発すると限らないことは、経験則上しばしば見聞するところ、奈良県は、被告吉田に対し、前記第三、一、9(二)(5)(7)及び(9)の勧告(ただし、(9)は農地法違反を理由とするもの。)を行ったものの、知事は、本件廃棄物の撤去を求める命令を発することなく、今日に至っている。

かかる場合、原告住民が、専ら知事の措置命令の発動を待つ以外ないと考えるべきでなく、公害防止協定の定めを右(四)の考えによって解釈し、可能な限り第一次協定を締結した当事者の協定意思を実現して、同協定に地元三区住民が期待した機能を果たさせるべきである。

(六) 第一次協定と本件廃棄物撤去請求権

(1) 地元三区住民の生活環境の保全に資するため、第一次協定は、明文をもって、右(二)(2)のとおり搬入及び埋立行為の中止請求権を地域住民代表に与え、同(1)のとおり埋立仕上がり高・方式の遵守、同(5)のとおり被害復旧等の義務を被告吉田に課している。

(2) それ故、本件廃棄物は、右埋立仕上がり高である本件村道高を越えて搬入されたものであるから、被告吉田に、前記第三、二、1(一)(2)のとおり第一次協定違反が、同(二)(2)ないし(5)のとおり奈良県知事の許可条件違反があることが明白である。

(3) また、右(三)のとおり原告住民の生活環境に影響が生じており、右(五)のとおり影響は、本件廃棄物の撤去を命ずる措置命令の発布要件を満たす程度に達している。

(4) さらに、埋立仕上がり高である本件村道高を越えて、山のようになるまで本件廃棄物が搬入されたのは、右(二)(2)摘示の第一次協定の定めに基づき前記第三、一、7(二)のとおり津田浩克弁護士が地元三区を代理して搬入埋立の中止を請求したのにかかわらず、被告らがこれを無視したからである。

(5) 第一次協定の右(二)(5)d摘示の定めは、被害対象を「道路、水路、山林、その他」と限定しているので、本件廃棄物のうち、前記第三、二、2(三)(2)のように隣接村道に影響を与えているものを撤去請求する権利はあると認めるものの、その定めのみから、本件廃棄物全部の撤去を請求する権利を「被害の復旧」請求権として是認することには躊躇がある。

(6) したがって、右定めにより本件廃棄物撤去請求権を認める余地はないが、前記第三、二、2(三)(2)のとおり右(二)(5)d摘示の義務の違反の外に、同2(三)(3)及び同1(一)(4)のとおり同2(二)(5)a摘示の義務の違反、同2(三)(1)及び同1(一)(5)のとおり同2(二)(5)b摘示の義務の違反、同2(三)(4)(5)及び同1(一)(6)のとおり同2(二)(5)c摘示の義務の違反を惹起しているときに、同様に判断すべきでない。

何故なら、第一次協定は、被告吉田に対し、右(二)(5)a摘示の「発生防止に努める義務」、同b及び同c摘示の各「万全の措置を講じる義務」、同d摘示の「被害の復旧を行う義務」を課しているから、本件廃棄物の存在が右に摘示の各違反を惹起している現在、被告吉田は、本件廃棄物について、右義務すべてを果たすために必要な措置をとる義務があるからである。

加えて、被告吉田は、右(1)の埋立仕上がり高・方式の遵守義務があるのに、同(2)のように同義務に違反しているが、同義務と右(6)の義務すべてを完全に履行するためには、本件村道高を越えて投棄された本件廃棄物そのものを撤去する外に手段がない。

(7) その上、右(五)のとおり、被告らは、奈良県知事の許可条件にも違反して、その違反の程度は措置命令を発布することができる程度に達している。それ故、第一次協定に基づく義務違反の程度も、総体として捉えると著しいものがあると判断することができる。

しかも、かかるまでの事態を惹起したのは、右(4)のとおり地元三区の中止請求を無視した結果である。

右(四)に述べた公害防止協定についての意思解釈の在り方に、右の事情を考え合わせると、明確ではないが、第一次協定には、本件廃棄物そのものを撤去する外に手段がないまでに右(6)の義務すべてに違反した被告吉田に、本件廃棄物を撤去する義務があり、調印相手当事者である地域住民代表にその撤去を請求する権利がある旨の協定条項があったと解するのが相当である。

(8) ところで、民法四一四条一項は、債務者が任意に債務の履行をなさないときは、債権者はその強制履行を裁判所に請求することができる旨、同条三項は、不作為を目的とする債務については債務者の費用をもってそのなしたるものを除去することを請求することができる旨を各規定している。

(9) そこで、原告ら主張のように、右(1)の埋立仕上がり高の遵守義務を、その高さを越えて廃棄物を投棄してはならない旨の不作為義務とし、右不作為義務を民法四一四条三項にいう「不作為を目的とする債務」と考え、同規定を適用することも、一つの考え方であるが、当裁判所は、前記第三、一、6(2)の奈良県の許可条件が「計画高を越えた処分を行わないこと」と不作為義務を明確に定めているのと異なり、第一次協定の場合、同4(4)のとおり「本件処分場の埋立仕上がりの高さは、隣接村道の高さ、表土の厚さは最低一・三メートルとする。」、被告吉田は「その施工条件を遵守し、その施工に際しては」地域住民代表の「監督指示に従わなければならない。」としか規定していないので、右定めを本件村道高を越えて廃棄物を投棄してはならない旨の「不作為を目的とする債務」を定め、「監督指示」を越える撤去債務をも定めたものと判断するに至らない。

それ故、原告らの主張を採用しなかった。

(10) ところで、地域住民代表として、原告区区長が第一次協定に調印し、後に改選後の原告区区長が前記第三、一、4(三)の図面に確認の署名押印をしている。

公害防止協定は契約としての性質を有するから、原告区は、奥谷住民原告ら原告区構成員に対する責任において自ら第一次協定に調印した契約当事者として、相手契約当事者である被告吉田に対し、契約上の請求権である右(8)の本件廃棄物撤去請求権を行使することができると解される。

(11) また、一般的に、産業廃棄物最終処分(埋立処分)施設に関する公害防止協定によって保護せんとする住民の生活環境の保全に関する権利は、元来同施設所在地付近の地域住民が個々に有するものである。

それ故、地域住民代表として同協定に調印した者は、地域住民個々人の法益のために、同人達に帰属する権利を協定によって設定する立場で、右住民の代表として協定に調印したものであり、相手方当事者として調印した産業廃棄物処分業者も、右住民個々人の権利を設定するものであることを認めて協定に至ったものであると判断するのが相当である。

それ故、第一次協定の場合も、その性質上、同協定によって設定された本件処分場周辺地域住民の生活環境保全の権利を調印者が代表する地元三区住民にも帰属させる合意のもとに協定された蓋然性が大きい。

(12) また、夜中区に関しては、同協定の調印は夜中区の区長でない人が夜中区代表という肩書で行い、前記第三、一、4(三)の図面の確認の署名押印は夜中区区長がその肩書で行っている。このように、調印と確認の当事者の資格が相違することも、第一次協定の当事者が、誰が協定調印当事者かを重視していないことを示している。そのことも、同協定の調印者が地元三区住民個々人の権利を設定する意思のもとに協定したことを裏付ける。

(13) しかも、地元三区が産業廃棄物対策協議会を結成し、第一次協定、第二次協定とも同協議会が対策を協議し、その決議に基づいて、協定の調印、図面の確認印押捺または確認印押捺拒否を行ってきた経緯がある。

(14) これらを総合すると、協定調印者である原告区区長が奥谷住民原告を含む同区住民から、また同じく同調印者である夜中区代表が夜中住民原告を含む同区住民から、いずれも書面によらないものの、信託を受けて当該住民の権限を付与され、或いは当該住民を代理して、第一次協定書にそれぞれ調印し、同協定を成立させたものと判断する。

したがって、同協定によって設定された右(8)の本件廃棄物撤去請求権は、原告住民にも帰属する。

(15) よって、民法二五二条により地域住民各自が個別にその権利を行使し得るものであるという法技術を駆使し、原告住民の本件廃棄物の撤去請求権を根拠付けるまでもなく、原告住民は、被告吉田に対し、右(8)の本件廃棄物撤去請求権を行使することができると解する。

3 争点3について

被告会社は、第一次協定の直接の締結者ではないが、被告吉田がその代表取締役を勤め、被告吉田の指示のもと、同被告の許可を用いて、本件処分場において投棄を行ってきたものである(争いのない事実)。

また、本件処分場を含む産業廃棄物処分施設を設置するために調印した第二次協定では、被告会社は、自ら当事者となっており、その完成後同施設に投棄するための仮置きとして本件廃棄物を保管してきたと、本件訴訟において主張し、当庁平成七年(ワ)第九号事件でも、本件処分場を自ら設置した旨を主張して、原告として原告区らを相手に訴訟を提起している(裁判所に顕著な事実)。

それ故、被告会社は、信義則上、被告吉田とともに、本件公害防止協定に拘束されると判断するのが相当である。

したがって、被告会社は、第一次協定の定めに羈束され、本件廃棄物撤去請求の相手方となる。

4 争点4ないし6について

争点1ないし3において判断したとおり、第一次協定違反を理由に、原告ら全員について本件廃棄物撤去請求権を認容することができるので、予備的請求である、争点4の一部原告についての不動産所有権に基づく妨害排除請求権、同5の人格権及び環境権に基づく妨害排除請求権並びに同6の通行権に基づく妨害排除請求権に基づく本件廃棄物撤去請求権の存否について判断するまでもない。

5 争点7について

被告らは、前記第二、二、3(二)のとおり、第二次協定の締結以前に本件村道高より高く山積みされた廃棄物があった等一部本件公害防止協定違反の事実があったとしても、第二次協定によって被告らの違反事実は治癒又は宥恕されたので、原告らは本件廃棄物の撤去請求権を失ったと主張する。

そこで、その点につき検討する。

(一) 産業廃棄物処理施設をめぐる公害防止協定は、施設設置場所周辺住民の生活環境を保全するは勿論、その生命・身体・健康に対する侵害をも防止する目的で締結されるものである。

それ故、公害防止協定が右目的に合致するように、住民側に施設に関する情報が公開され、その情報によって、施設が公害の発生源であっても、その発生の程度が住民に受容することができるものに止まると住民側が確認することができ、かつ示された内容と異なるものが設置されないように設備の規模・構造・設備内容が書面で明確に特定されることが必要である。

(二) ところが、前記第三、一、8(二)のとおり第二次協定書前文に「別紙現況平面図中、太線で囲んだ線内の区域(沈澱槽及び付替河川用地を含む。)」と書かれているものの、別紙現況平面図が添付されておらず、第一次協定書と異なり、埋立地面積も申請区域面積も記載されていないので、その対象となる処分場の位置及び範囲は明らかでない。

また、同(三)のとおり同前文に「最終仕上がりの高さ(最終覆土を含む。)は、別紙横断、縦断図のとおりとする。」と書かれ、さらに、同(四)のとおり第二次協定書末尾「別紙工事施工条件」に「*詳細については、別紙縦断図・横断図の通りとする。」と定められているが、別紙横断、縦断図も別紙縦断図・横断図も添付されていない。

その上、処分場の位置及び範囲並びに工事施工条件は、同協定の主要な定めであるから、それが確定しなければ、同施設の規模・構造・設備及び操業形態が明らかにならない。

(三) それ故、第二次協定書には瑕疵があり、協定当事者の意思確認を他の方法で補完する必要がある契約書といわなければならない。

(四) 第二次協定は右(一)のとおりでなければならないので、右(二)の現況平面図、横断・縦断図、横断図及び縦断図は、第二次協定の対象となった拡張予定地を用地とした産業廃棄物処理施設の位置、同処理施設の処理能力(埋立の範囲、埋立容量を含む。)、処理方式(埋立方式、埋立仕上がり高を含む。)、同処理施設の構造及び設備(堰堤及び沈澱槽等の構造図を含む。)を明確に特定することのできるものを意味すると解すべきである。

(五) したがって、かかる図面が、後に第二次協定書に添付されるか、または第一次協定書についてなされたように、これら図面が契約当事者間で交換され、それが第二次協定や他の方法で合意された内容に合致することが第二次協定書調印者らにより確認されるか、そのいずれかの方法で協定当事者の意思が合致する必要がある。

(六) そこで、被告会社から地元三区の産業廃棄物対策協議会に届けられた図面についてみるに、

(1) 前記第三、一、9(一)(1)のとおり、最初届けられた平面図によると、現堰堤から約一七〇メートル下流に打擁工を行い、その間を本件処分場の拡張用地にし、その下流に自家処分場を設置し、現堰堤から構造物先端まで約一九〇メートルとする計画で、しかも、処分場用地に黒川及び中窪の所有地が含まれていて、かつコンクリート堰堤でなく、土の堰堤であった。

(2) また、同(3)のとおり、次に届けられた平面図によると、現堰堤から約一六〇メートル下流にコンクリート造成又はブロック擁壁を設け、右擁壁のさらに下流約五〇メートルに土堰堤を、その先に沈澱槽及び調整池を設ける計画になっていて、合わせて全長約二五〇メートルに本件処分場を拡張することを示すものであり、埋立仕上がり高も村道湯塩側の一番高いところを基準にしていて、本件処分場及びその拡張予定用地いずれでも道路高より高く計画されていた。

(七) 地元三区と被告会社間には、第二次協定に先立ち旧博文土地から約五メートル下がった杭の位置に現堰堤と平行に新堰堤を設置し、その間に廃棄物を埋立てること、新しい堰堤をコンクリート堰堤にすること、廃棄物の埋立仕上がり高を村道の現況道路高を越えなくすることの合意があった。

(八) しかし、被告会社が地元三区に届けた右(六)の図面は、いずれも同(七)の合意に反していた。

(九) したがって、被告会社は、右効力発生に必要な図面を提出しないまま、前記第三、一、1(三)の許可期限を徒過したので、結局右図面が補完されなかったから、第二次協定は成立しなかった。

(一〇) したがって、第二次協定書は効力を生じなかったので、被告らの争点7における主張は、その前提を欠くから、理由がない。

6 争点8について

被告らは、仮に前記第二、二、3(二)の主張が認められないとしても、同(三)のとおり、第二次協定の締結があった上、公害調停申立事件で被告らが妥当な調停案を提案したにかかわらず、原告らの一部の頑なな反対によって受け入れられなかったもので、かかる状況下でなされた第一次協定違反を理由とする請求権の行使は、信義則に違反し又は権利濫用に当たると主張する。

しかし、第二次協定は、右5(九)の理由で効力を生じなかった上、被告吉田によっても公害調停申立事件で被告らが妥当な調停案を提案したと認め難いから、被告らの右主張も、その前提を欠くから、理由がない。

第四  結論

よって、原告らの被告らに対する本件廃棄物撤去請求は、いずれも認容することができる。

そこで、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田川和幸)

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