奈良地方裁判所葛城支部 平成4年(ワ)77号 判決 1996年2月16日
奈良県吉野郡下市町大字伃邑二二一二番地
甲・乙事件原告
大川正智
右訴訟代理人弁護士
吉利靖雄
右輔佐人弁理士
安村高明
同
大和田和美
奈良県北葛城郡広陵町大字南字井殿一七八番地
甲事件被告
株式会社若草食品
右代表者代表取締役
上杉幸作
広島市佐伯区皆賀一丁目二番二〇号
乙事件被告
株式会社寿食品工業
右代表者代表取締役
山本克二
右被告両名訴訟代理人弁護士
藤田邦彦
右輔佐人弁理士
森本義弘
同
笹原敏司
同
原田洋平
主文
一 甲・乙事件原告(以下「原告」という。)の甲事件被告株式会社若草食品(以下「被告若草食品」という。)及び乙事件被告株式会社寿食品工業(以下「被告寿食品」という。)に対する請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
1 被告らは原告に対し、別紙目録記載の物件を製造し、販売してはならない。
2 被告らは原告に対し、その所有する別紙目録記載の物件を廃棄せねばならない。
3 被告若草食品は原告に対し、金六〇〇万円及びこれに対する平成四年四月九日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告寿食品は原告に対し、金六〇万円及びこれに対する平成四年六月二三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が有する特許権(以下の「本件A発明」)侵害を理由に、被告らに対し、侵害行為の差止と損害賠償を求めるものである。
一 争いのない事実
1 原告は大川商店なる屋号で食品の製造販売を業とするものであり、被告らは食品の製造販売を業とする会社である。
2 訴外乾慶治は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有していたが、原告は平成三年九月二四日、訴外乾慶治から本件特許権の譲渡を受け、同年一一月一八日本件特許権の移転登録をした。
(一) 特許番号 特許第一一八八九〇三号
(二) 発明の名称 繊維状団結コンニャク食品及びその製造方法
(三) 出願日 昭和五六年三月二三日
(四) 出願番号 特願昭五六-〇四三四七〇号
(五) 公告日 昭和五八年五月七日
(六) 公告番号 特公昭五八-〇二二一八五号
(七) 登録日 昭和五九年二月一三日
(八) 特許請求の範囲
(1) 濃アルカリ性の芯部外周に希アルカリ性の表面層を有するコンニャク糸条が、その表面層を相隣接するコンニャク糸条の表面層に接着され、かつ、各コンニャク糸条は繊維状態を保持して一体的に団結されてなることを特徴とする繊維状団結コンニャク食品(以下「本件A発明」という。)。
(2) コンニャク原料粉を水もしくは湯に浸漬して膨潤する工程と;該膨潤した原料粉を適量のアルカリおよび水と共に撹拌混練し混合糊状物を得る工程と;該混合糊状物をノズルを介して押出し糸条に成形すると共に、この押出成形された素コンニャク糸条を、該糸条のアルカリ濃度よりも弱アルカリ性に調整した湯中に導き、該湯中に短時間保持して芯部のみを凝固せしめた半硬化コンニャク糸条を得る工程と;該半硬化コンニャク糸条を直ちに冷却する工程と;冷却保持した上記半硬化コンニャク糸条を向きをそろえて重合せしめると共に、適宜加圧の下にその相接する表面層を互いに接着せしめて団結する工程と;該団結したものを弱アルカリ性に調整した湯中に浸漬保持し、その半硬化コンニャク糸条の表面層を凝固せしめると共に仕上げる工程とからなることを特徴とする繊維状団結コンニャク食品の製造方法(以下「本件B発明」という。)。
3 本件A発明の構成要件は分説すると次のとおりである。
(一) 濃アルカリ性の芯部とその外周に希アルカリ性の表面層を有するコンニャク糸条であること。
(二) コンニャク糸条の表面層を相隣接するコンニャク糸条の表面層に接着されていること。
(三) 各コンニャク糸条は繊維状態を保持して一体的に団結されていること。
(四) 繊維状団結コンニャク食品であること。
4 被告若草食品は、原告が本件A発明の構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属することが明らかであると主張する物件を「ねじり糸こん」「新こん生活」「板場さん」等の商品名で販売し、原告が本件特許権の移転登録をした平成三年一一月一八日から平成四年二月一七日までの間のその総販売金額は金三〇〇〇万円を下回らない。
5 被告寿食品は、原告が本件A発明の構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属することが明らかであると主張する物件を「つなこん」等の商品名で販売し、原告が本件特許権の移転登録をした平成三年一一月一八日から平成四年二月一七日までの間のその総販売金額は金三〇〇万円を下回らない。
二 争点
1 被告若草食品が「ねじり糸こん」「新こん生活」「板場さん」等の商品名で製造販売し、被告寿食品が「つなこん」等の商品名で製造販売する捩じり糸コンニャク(以下「イ号製品」という。)が本件A発明の構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属するか否か。とりわけ、本件A発明の構成要件のうちの(一)「濃アルカリ性の芯部とその外周に希アルカリ性の表面層を有するコンニャク糸条であること。」との要件を充足するか否か。
2 右1が肯定されるとして、被告らがイ号製品を製造販売することによって原告が被った損害如何。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 被告らは、被告らのイ号製品の構成が、「<1>芯部を有さず、中心部と表面層とのアルカリ濃度が同一か、又は中心部が希アルカリ性で表面層が濃アルカリ性であって、<2>このコンニャク糸条が捩じれ合いながら相隣接するコンニャク糸条の表面に接着し、<3>複数本の捩じれあったコンニャク糸条がロープ状となって団結した、<4>捩じり糸コンニャク食品である。」旨主張しているところ、右主張及び証拠(甲三号証、検甲一号証の1ないし3、二号証の1ないし3)を総合すると、被告らのイ号製品が本件A発明の構成要件(一)ないし(四)のうち、「(二)コンニャク糸条の表面層を相隣接するコンニャク糸条の表面層に接着されていること。(三)各コンニャク糸条は繊維状態を保持して一体的に団結されていること。(四)繊維状団結コンニャク食品であること。」の各要件を充足するものであることは明らかである。そこで、被告らのイ号製品が、本件A発明の構成要件(一)「濃アルカリ性の芯部とその外周に希アルカリ性の表面層を有するコンニャク糸条であること。」を充足するか否かについて検討する。
2 原告は、被告らのイ号製品について、その繊維状に団結しているコンニャク糸条の一本一本の芯部と外周部のpHを、マイクロエレクトローズ社製の極微小複合電極MI四一五二(以下「本件pH電極」という。)を用いて測定した結果、その全てについて、芯部のpHは外周部のpHよりも高いことが明らかになったと主張し、その証拠として被告若草食品のイ号製品である「新こん生活」について測定した神戸女子短期大学家政学部教授理学博士日色和夫作成の報告書(甲二四号証)と被告寿食品のイ号製品である「つなこん」について測定した近畿大学工学部教授理学博士砂原広志作成の報告書(甲二五号証)及び砂原教授による右「つなこん」についての測定状況を録画したビデオテープである検甲三号証を提出し、証人砂原広志は右測定状況ないし前記報告書の作成について供述し、報告書記載のとおり、「つなこん」のコンニャク糸条の一本一本の芯部のpH値は外周部のpH値よりも高い旨証言する。
3 しかしながら、右甲二四、二五号証及び砂原証言の内容には、以下のとおり種々の疑問点があり、被告らのイ号製品のコンニャク糸条の一本一本全てについて、芯部のpH値は外周部のpH値よりも高いとの結論を直ちに採用することはできない。
(一) ガラス電極部をコンニャク糸条に完全に没入していない点
(1) 検甲三号証によると、砂原教授によるコンニャク糸条外周部測定の際には、本件pH電極先端の球状のガラス電極部(外径〇・七五ミリメートル)が空気中に露出しており、完全にコンニャク糸条に没入していないことが認められる(日色教授がこれと異なる方法で測定をしたとの立証はないから、日色教授の測定方法もこれと同様と推認することができる。)。
(2) ところで、証拠(乙四九、五〇、五三、五七、五八号証)によると、pH測定のテキストやpH計の取扱説明書では、pH計のガラス電極の先端部は測定する液中に完全に没入するようにすべき旨記載されている(乙五七号証では「ガラス電極の球部を完全に浸し」と、乙五八号証では「ガラス電極と参照電極とが一本の管に組み込まれているものでは、連結孔が球部の上にあるから、そこまで液に浸すよう注意せよ。」と記載されている。)うえ、本件pH電極の英文取扱説明書(甲一六号証に添付)の一・五ミリメートル以下の厚さのゲルの測定方法に関する説明図も、測定の際にはガラス電極の先端部は測定するゲルの内部に完全に没入させるように記載されていることが認められる。そのうえ、証拠(乙五一号証、証人笹原敏司の証言)によると、被告側において、本件pH電極とは異なる種類のpH電極を用いた実験ではあるものの、<1>pH電極先端のガラス電極部と液絡部を検体(板状コンニャク)の三箇所に完全に挿入してpH値を測定した場合、<2>検体にガラス電極部を約半分挿入してpH値を測定した場合、<3>ガラス電極部と液絡部を検体の表面に接触させてpH値を測定した場合とを比較したところ、<1>の三箇所の値がいずれも一二・〇九であったのに対し、<2>が一一・五八、<3>が一一・一八の各値を示し、ガラス電極の先端部が空気中に出るとpH値が下がるとの結果が得られたことが認められることからすると、前記(1)記載のとおり、本件pH電極先端のガラス電極部を完全にコンニャク糸条に没入せず、その一部を空気中に露出した状態で計測されたコンニャク糸条外周部の測定結果は、右外周部の真実のpH値よりも低い値を示したとの疑いが残るといわざるを得ない(乙五六号証、証人笹原敏司の証言)。甲三七、三八号証、四〇、四一号証及びこれらと同旨の証人砂原広志の証言部分は乙五一号証の実験結果を覆すに足るものではなく、いずれも採用の限りではない。
(二) コンニャク糸条芯部のpH値測定の際、本件pH電極の比較電極の液絡部はコンニャク糸条外周部に位置している点
(1) 甲二五号証の二ページd)「測定手順」の※「糸条こんにゃくの芯部の測定」の項には「糸条こんにゃくの芯部にガラス電極部と比較電極部の両方を位置させて測定した。」との記載があり、かつ、※「測定時の留意点」の項には、「測定の際には、特に、顕微鏡で観察しながら、下記の点に特に注意を払った。」としたうえ、「芯部の測定時、ガラス電極部が芯部に位置すると共に比較電極部が外周面より内部の芯部側に位置しているか否か・・・・を確認しつつ行った。」との記載があるにも拘わらず、検甲三号証によると、砂原教授によるコンニャク糸条の芯部測定の際には、本件pH電極先端のガラス電極部は芯部に位置しているが、比較電極の液絡部は外周部に位置していることが認められる(前同様、日色教授の測定方法もこれと同様と推認することができる。)。実際問題として、本件pH電極のガラス電極部と比較電極部とは離れている(証人砂原広志の証言によると、〔本件pH電極のガラス電極部の〕末端から液絡部までは一・二ミリメートル位であることが認められ、検甲三号証の映像や甲一一号証の添付写真からすると、ガラス電極部と比較電極部の距離はガラス電極部の外径である〇・七五ミリメートル程度はあるものと認められる。)から、直径二ミリメートル、従って半径一ミリメートルのコンニャク糸条の芯部にガラス電極部を位置させれば、本件pH電極を斜めに挿入したとしても、その比較電極部は必然的に外周部に位置せざるを得ないのであって、甲二四号証の添付資料三八の参考図(2)の芯部測定の際の図でも、比較電極部はコンニャク糸条の外周部に位置している。
(2) ところで、証拠(乙五五号証、六一号証)によると、懸濁液を静置しておいて、沈降物と上澄みに分離(一般に前者の方が後者よりかなり低いpH値になることが多いといわれている。)したところでpHを測ると、ガラス電極と液絡部との位置関係(両方が上澄み液中にあるか、沈降物中にあるか、また、一方が沈降物中で他方が上澄み液中にある場合に、どちらがどちらの中にあるか)によって得られるpH値が全く異なってくるという現象(懸濁効果)が知られていることが認められる。このような現象が生ずる原因についてはいまだ解明されていないものの、原告の主張に則ってコンニャク糸条の芯部と外周部にアルカリの濃希の差があることを前提に、その芯部と外周部それぞれのpHを測定する以上は、懸濁効果の生ずるのを避けるため、芯部のpHを測定する際には、ガラス電極と液絡部の双方を共に芯部に位置するようにすべきである(その故に、甲二五号証では、前記のとおり「測定時の留意点」として、「下記の点に特に注意を払った。」としたうえ、「芯部の測定時、ガラス電極部が芯部に位置すると共に比較電極部が外周面より内部の芯部側に位置しているか否かを確認しつつ行った。」との記載をし、甲二四号証でも、「ガラス電極部1と比較電極部3の両方を糸条コンニャクの芯部に位置させて測定した。」との記載を特別にしたものと認められるから、右事実に照らして、甲四〇号証の「第2ガラス電極と参照電極との関係について」の記載は採用の限りではない。)。従って、前記(1)記載のとおり、ガラス電極部は芯部に位置しているものの、比較電極の液絡部が外周部に位置した状態で測定されたコンニャク糸条芯部のpH値は、懸濁効果により不正確な値となっている疑いが強いといわざるを得ない。
(三) 検体の測定条件が厳密に規制されていない点
(1) 証拠(乙六二ないし六五号証、証人沖増哲の証言)によると、次のとおり認められる。筋肉のような生体組織あるいはそれに含まれる体液は緩衝作用(ある溶液に外から酸又は塩基を加えた時、そのpHが変化しないように働く性質)が大きく、そのpHは安定しており、測定条件によってpH値が左右され難いので、正確な測定がやりやすく、また微小な測定値の差が重要な意味を持つ場合がある。これに対し、糸条コンニャクのような単純系のpHは、その緩衝作用が小さいので、測定条件によってpH値が左右されやすい。特に、本件pH電極のように鋭敏なpH計を使用し、しかも微小な差を問題とする(甲二四号証では、六五本の各コンニャク糸条の外周部と芯部との差異は〇・一四七~〇・〇三九の範囲にあり、六五本平均すると、外周部と芯部の差異は〇・〇七六であること、甲二五号証では、五八本の各コンニャク糸条の外周部と芯部との差異は〇・一四九~〇・〇一八の範囲にあり、五八本平均すると外周部と芯部の差異は〇・〇六八であることを問題とする。)場合には、測定条件を相当厳密に規制しない限り、測定された差が果して有意のものかどうか疑問になるというべきである。
(2) この観点から甲二四、二五号証の各測定条件を検討すると、次のとおりの問題点のあることが認められる(甲四二、四三号証は採用の限りではない。)。
<1> 空気中の二酸化炭素の影響
検体はコンニャク糸条であって、前記のとおり殆ど緩衝作用を持たないうえ、直径二ミリメートルで表面積が大きく、しかも、検体の主成分である水酸化カルシウムは空気中の二酸化炭素との化学親和力が大変強いことから、その測定を空気中で行った場合には、水酸化カルシウムが空気中の二酸化炭素を吸収して炭酸カルシウムに変化し、検体のコンニャク糸条表面のpH値を下げるように働くことが認められる(この点は、砂原証人もその可能性を自認するところである。)から、いずれも空気中で各コンニャク糸条のpH測定を行った甲二四、二五号証の各測定結果は、右のような空気中の二酸化炭素の影響により、特に空気と直接接する外周部の測定値が実際のpH値よりも低くなったとの可能性を排除できない。
<2> 周囲の温度の影響
検甲三号証によると、砂原教授は、照明の下で、検体の捩じり糸コンニャクを素手で持って割いたうえ、割いたコンニャク糸条を指先で支えながら本件pH電極をこれに押しつけていることが認められる(前同様、日色教授の測定方法もこれと同様と推認することができる。)ところ、このような取扱いをすると、手指の汗が検体に付着したり、コンニャク糸条の外表面の温度が上昇することにより、コンニャク糸条表面のpH値を低下させる可能性が大きいから、甲二四、二五号証の測定結果は、右のような手指の汗が付着したり、コンニャク糸条の外表面の温度上昇の影響により、これも外周部の測定値が実際のpH値よりも低くなったとの可能性を排除できない。
<3> 蒸留水による洗浄をしていない点
前記のとおり、コンニャク糸条の芯部と外周部のpH値の微小な差を問題とする以上、前回計測した検体の一部が本件pH電極に付着したこと等によって、今回の計測値が影響を受けたとの可能性を排除し、計測結果に対する信頼性を確保するため、一回計測する毎に本件pH電極を蒸留水で洗浄する等の措置を講ずべきことは当然というべきところ、証拠(検甲三号証、証人砂原広志の証言)によると、砂原教授は、検体のコンニャク糸条一本一本の各芯部と外周部のpH測定の際、一回毎に本件pH電極を蒸留水で洗浄していないことが認められ、その他、前回計測した検体の影響を排除するための特段の措置を取った状況も窺われない(前同様、日色教授の測定方法もこれと同様と推認することができる。)から、右計測値の信頼性には疑問があるといわざるを得ない。
(四) 以上のとおり、甲二四、二五号証及び証人砂原広志の証言の各内容には種々の疑問点があり、被告らのイ号製品のコンニャク糸条の一本一本全てについて、芯部のpH値は外周部のpH値よりも高いとの結論を直ちに採用することはできない。
4 そして、その他の甲四ないし一八号証、一九号証の1、2、二〇、二一号証、二六ないし三四号証を加えても、これらに対する乙号各証による反証を総合すると、被告らのイ号製品が本件A発明の構成要件(一)を充足するとの事実を認めるに足りず、他に、右事実を認めるに足る証拠はない(なお、仮に、被告らのイ号製品の保存水が製品である捩じり糸コンニャクよりもpH値が低く、かつ、保存水が団結した捩じり糸コンニャクを構成する各コンニャク糸条の周囲に満遍なく浸透すると仮定し、その結果、コンニャク糸条のアルカリ成分が保存水中に溶け出し、他方、保存水がコンニャク糸条に浸透して濃度が均一化することによって、保存水のpH値とコンニャク糸条外面のpH値とが同一になったとしても、それは、濃度勾配により、pH値の低い保存水に接している外側から芯部に向けて順次pH値が高くなっている(逆にいえば、芯部から外周部に向けて順次pH値が低下し希薄化している)状態が想定されるに過ぎず、本件A発明の構成要件(一)(「濃アルカリ性の芯部とその外周に希アルカリ性の表面層を有するコンニャク糸条であること。」)にいう「希アルカリ性の表面層」と言い得るような「層構造」を形成しているとは到底いえない。)。
二 結論
以上によれば、被告らのイ号製品が、本件A発明の構成要件のうちの(一)「濃アルカリ性の芯部とその外周に希アルカリ性の表面層を有するコンニャク糸条であること。」との要件を充足するとは認め難い。他に、右事実を認めるに足る証拠はないから、その余の争点2に対する判断を示すまでもなく、原告の本訴請求は失当であることが明らかである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 水島和男)
(別紙)
目録
濃アルカリ性の芯部と希アルカリ性の表面層を有する約五〇本の概ね直径二ミリメートルの各コンニャク糸条が、外周の表面層を相隣接するコンニャク糸条の外周の表面層と接着し、かつ、繊維状態を保持して一体的に団結された概ね口径二センチメートル、長さ五センチメートルのコンニャク食品。