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奈良簡易裁判所 昭和38年(ろ)31号 判決 1963年7月17日

被告人 山中格

昭一二・七・二四生 建築業

主文

被告人を罰金四、〇〇〇円に処する。

この罰金を完納することができないときは金三〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

但し三〇〇円に満たない端数を生じた場合はその部分を最後の三〇〇円と合せてこれを一日に換算する。

訴訟費用は、被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三七年八月初頃肩書住居の自宅において行使の目的をもつて同所にあつたあり合わせの板切片を自動車登録番号標の大きさに裁断して木札をつくりそれに墨汁で「奈4せ8720」と横書してもつて自動車登録番号標に粉らわしい外観を有する物(昭和三八年押第八号の符号一)一枚を製造してこれを普通貨物自動車の後部に取りつけ同年八月一〇日午前八時一〇分頃京都府相楽郡木津町大字相楽地内道路において右自動車を運転し、もつて前記自動車登録番号標に粉らわしい外観を有する物を使用したものである。

(証拠の標目)(略)

(併合罪となるべき確定裁判)

被告人は、昭和三七年九月六日(同年同月三〇日確定)奈良簡易裁判所において道路交通法違反の罪により罰金一、〇〇〇円に処せられたもので、この事実は、検察事務官作成にかかる被告人の前科調書および被告人の当公判廷における供述によりこれを認める。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示所為中自動車登録番号標に紛らわしい物を製造した点は道路運送車両法第九八条第二項前段、第一〇六条の二に、同使用の点は同法第九八条第二項後段、第一〇六条の二に該当するところ、判示製造と使用の罪の間には手段、結果の関係があるので刑法第五四条第一項後段、第一〇条により重い使用罪の刑で処断することとし、所定刑中罰金刑を選択し、この罪は前示の確定裁判を経た罪とは同法第四五条後段の併合罪の関係にあるので同法第五〇条により未だ裁判を経ていないこの罪につき更に処断することとし、その罰金額範囲内で被告人を罰金四、〇〇〇円に処し、被告人においてこの罰金を完納することができないときは、刑法第一八条に従い金三〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する(但し、三〇〇円に満たない端数を生じた場合はその部分を最後の三〇〇円と合せてこれを一日に換算する。)こととし、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文にのつとりこれを被告人に負担させることとする。

(自動車登録番号標偽造、同使用の訴因に対する判断)

検察官は本件につき、主なる訴因として「被告人は、行使の目的をもつて擅に昭和三八年八月初頃肩書住居の自宅において木札に「奈4せ8720」と横書きし、もつて自動車登録番号標一枚を偽造し、これを普通貨物自動車の後部に取り付け、同年八月一〇日午前八時一〇分頃京都府相楽郡木津町大字相楽地内道路において、右自動車を運転し、もつて右偽造にかかる自動車登録番号標を真正な物ののように装つて使用したものである。」旨主張するが、偽造とはその模擬の程度において一般人が通常の注意力をもつて真正な物と誤認する程度のものであることを必要とするところ、本件において押収してある被告人が製造のうえ使用した自動車登録番号標(昭和三八年押第八号の府号一)は、正規の自動車登録番号標と大きさ、形状においてほゞ同じで、しかも取り付けられていた場所が正規の自動車登録番号標の取付場所と一致しているものではあるが、材質が木材であり、しかもそれに何の塗色もなされていないもので、これが道路運送車両法施行規則第一一条第一項にいう自動車登録番号標であると通常の一般人をして誤認させるものとは解されないので、検察官の右主張はこれを採用することができない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 鎌田泰輝)

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