宇都宮地方裁判所 平成2年(ワ)335号 判決 1993年3月04日
原告
宗像紀行
右法定代理人親権者父
宗像幸雄
同母
宗像久恵
右訴訟代理人弁護士
澤田利夫
被告
宇都宮市
右代表者市長
増山道保
被告
鈴木祥子
同
大野昭二
右被告三名訴訟代理人弁護士
大貫正一
右復代理人弁護士
若狭昌稔
被告
鈴木敬助
同
鈴木ミツ子
右被告二名訴訟代理人弁護士
石川浩三
同
伊澤正之
同
熊倉亮三
同
田島二三夫
主文
一 被告宇都宮市は、原告に対し、二八一三万二二五七円及びこれに対する昭和六二年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告宇都宮市に対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用中、原告と被告宇都宮市との間に生じたものは、これを五分し、その三を同被告の、その余を原告の負担とし、原告とその余の被告らとの間に生じたものは全部原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一請求
被告らは、原告に対し、各自四五五〇万八三九三円及びこれに対する昭和六二年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一本件は、宇都宮市立緑が丘小学校二年生当時、図工の授業に同級生のSが持っていたハサミで左目を傷つけられて、左眼角膜裂傷等の傷害を負った事故について、被告宇都宮市については国家賠償法上の責任、他の被告らについては不法行為に基づく責任があるとして損害賠償を求めた事案である。
二争いのない事実
1 当事者等
原告は、後記本件事故当時、宇都宮市立緑が丘小学校二年一組に在籍していた生徒であり、Sはその同級生で、被告鈴木敬助及び同鈴木ミツ子は右敬博の実父母である。
被告宇都宮市は、緑が丘小学校を設置管理するものであり、同鈴木祥子(以下「被告鈴木教諭」という。)は本件事故当時同小学校の教諭を、同大野昭二は同小学校の校長をしていた者で、いずれも被告宇都宮市の公務員である。
2 本件事故の発生
昭和六二年一二月二三日、原告が在籍していた二年一組の第三時限は、鈴木教諭の指導の下に図工の授業として紙版画の製作が行われた。その授業時間中にSが自分の席を離れて原告の後方に来たときに、原告が後ろを振り向いた際、Sが持っていたハサミが原告の左眼に当たり、原告は左眼角膜裂傷、左上眼瞼裂傷の傷害を負った。
三争点とこれに対する当事者の主張
1 被告鈴木教諭の過失・責任の有無
【原告】
(一) 一般に学校教育において授業を推進し、生徒の指導にあたる教諭は、授業時間中生徒を保護監督すべき注意義務を負うことは勿論、特に本件事故発生時のような冬季休暇の二日前の図工の時間にあっては、生徒達が解放的な気分になり、教室内の秩序も乱れやすい雰囲気の中で、まだ未熟な小学校二年生にハサミ等の危険な工作用具を使わせていたのであり、生徒らが私語を交わして自分の席を離れること等は十分予想できたことであるから担当教諭としては、みだりに教室から退出すべきでないことは勿論、教室内にあっても各生徒に対して、注意力を適正に配分してその動静を注視し、危険な行為をする者に対しては制止するなど適切な指導を行って未然に事故を防止すべきであった。
(二) しかしながら鈴木教諭は、本件授業中に教室から退出して、漫然と生徒達が秩序を乱しやすい状況にあるのをそのまま放置した過失によって、本件事故を発生させた過失がある。
【被告鈴木教諭及び同宇都宮市】
(一) 被告鈴木教諭に過失がないことについて
(1) 本件授業は、紙版画の製作を目的とする図工の授業であり、ハサミを使用する内容であったが、このような授業は年間カリキュラムに基づくものであり、使用するハサミは先端が丸くなっている児童用ハサミであった。
被告鈴木教諭は、本件授業の冒頭に、児童に対して安全のために左記の注意事項を伝えて指導した。
① ハサミの取扱いに注意すること
② ハサミを使い終わったら自分の机の右端上に置くこと
③ ハサミを他の人に貸さないこと
④ ハサミを持って席を離れて出歩かないこと
⑤ ハサミを使わないときは、ハサミを閉じておくこと
⑥ 自分の作品をより良くするため、他の児童の作品を見に行くときは、他の児童の作業の邪魔にならないよう気をつけて見に行くこと
(2) 本件事故は被告鈴木教諭が個別指導のために机間巡視をして北側から二列目の最前列に来たときに発生したものであり、南側から一列目の前から三番目の席に座っていた原告が「痛い。」と声を上げたために、同被告が急いで原告の席に駆けつけて事故の発生を知った。
(3) このように、被告鈴木教諭は、本件授業の冒頭に十分な注意を行い、その後も教室内にいて各児童の指導にあたっていたのであり、同被告には何らの過失もない。
(二) 被告鈴木教諭に責任がないことについて
原告は、本件訴訟において、被告宇都宮市に対して、国家賠償法一条に基づいて損害賠償を求めるとともに、被告鈴木教諭に対して過失があるとし不法行為に基づく損害賠償を請求している。
しかし、公権力の行使に当たる公務員が職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、公共団体がその賠償の責任を負うのであって、公務員個人は責任を負うことはないと解されるから、被告鈴木教諭に対する原告の請求は理由がないというべきである。
2 被告大野の過失・責任の有無
【原告】
小学校内における校長は、学校教育法の趣旨・校長の職務の性格内容から考えて、教育活動及びこれと密接な関係にある生活関係について、児童を保護監督すべき義務があるところ、小学校低学年の児童らは、教諭不在の場合には自分の席を離れ、勝手な行動に出て他の生徒を傷つける危険があることは十分予想されることから、担当の教諭が教室を退出する場合には、適切な措置を取るよう担当教諭に指導監督すべき義務があるのに、被告大野は同鈴木教諭に対してこのような指導監督を怠った過失がある。
【被告大野及び同宇都宮市】
(一) 前述のとおり、被告鈴木教諭には本件事故発生について何らの過失はなく、同大野についても過失がないことは明らかである。
(二) 被告鈴木教諭の責任について述べたと同様、本件訴訟においては被告大野個人に対する原告の請求は理由がないというべきである。
3 被告敬助及び同ミツ子の過失・責任の有無
【原告】
本件事故はSがハサミを持ったまま自分の席を離れるという不注意な行為によって発生したものであるが、右Sは、事故当時小学校二年生であって、自分の行為の責任を弁識する十分な能力がなかったのであるから、同人の生活全般にわたる注意監督をすべきであった被告敬助及び同ミツ子が、同人の右過失行為による責任を負うべきである。
【被告敬助及び同ミツ子】
本件事故は正課授業中に発生したものであるが、この様な場合には、親権者はその監督にかかる児童を全面的に代理監督義務者である担任教諭及び校長に委ねており親権者において、監督のために介入する余地はない。
したがって、Sが起こした本件事故については、代理監督義務者である被告鈴木教諭らが責任を負い、同敬助及び同ミツ子には何らの責任はない。
4 原告の損害の有無・程度
【原告】
(一) 治療費
原告は、本件傷害の治療のために、昭和六二年一二月二三日から平成二年三月一三日まで、稲葉眼科病院、獨協医学大学付属病院に入通院し、治療費として九万一三八〇円を要した。
(二) コンタクトレンズ装着費
原告は本件事故に基づく視力低下を矯正するためにコンタクトレンズを装着し、その費用として一一万八〇八〇円を要した。
(三) 付添看護費
原告は、前記獨協医科大学付属病院に昭和六二年一二月二三日から同六三年一月九日までの一八日間入院し、その間原告の母宗像久恵が付添い看護に当たり、右看護費用として一日当たり五〇〇〇円の計九万円が相当である。
(四) 入院諸雑費
原告の前記獨協医科大学付属病院への入院期間中に要した諸雑費として一日当たり一〇〇〇円の計一万八〇〇〇円が相当である。
(五) 文書費
診断書の交付を受けるために一万二三〇〇円を要した。
(六) 通院交通費
原告が前記獨協医科大学付属病院等に通院した際の交通費として三万九九四〇円を要した。
(七) 逸失利益
原告は、本件事故前は、裸眼視力は右眼・左眼とも1.0であったが、本件事故により裸眼左眼視力0.05、右眼視力0.04に低下した上、左眼については角膜表面の凹凸が甚だしく、ハードコンタクトレンズ装着による矯正が必要となった。原告は、このような後遺障害により労働能力の九二パーセントを喪失したから、同原告が六七歳に達するまでに得られたであろう逸失利益の現価は二二二八万六四九五円となる。
(八) 慰藉料
原告が本件事故によって被った精神的苦痛は、本件傷害や後遺障害の内容等を斟酌すれば二〇〇〇万円が相当である。
(九) 弁護士費用
三〇〇万円が相当である。
(一〇) なお、原告は、学校安全協会(日本体育学校健康センター)より一四万七八〇二円の災害共済給付金を受領した。
第三争点に対する判断
一被告鈴木教諭の過失について
1 証拠(<書証番号略>、被告鈴木祥子、検証)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告が在籍していた緑が丘小学校二年一組の教室の机等の配置は、既ね別紙教室配置図のとおりであり、原告の座席は最も南側の列の後ろから二番目、Sの座席は南側から三列目の後ろから二番目であった。
(二) 本件授業において指導されていた紙版画の制作は、八時限を利用して完成させる計画で行われていた指導内容であり、本件授業はその七時限目に当たっていた。
紙版画は、下絵を書いたものを切り抜いて黒い紙の上に張り、さらに部分部分に紙や毛糸等を重ね張りしたものを、最終的に厚紙に張って仕上げるものであった。原告やSは、本件授業の時点で黒い紙の上に張った下絵にさらに紙等を重ね張りしていく段階で、八時限目に完成させるという計画よりも遅れ気味であったが、他の同級生も次の時限で完成させるという進行状況の生徒は少なく、既ね計画よりも遅れていた。
被告鈴木教諭は、計画どおり完成しない場合には、冬季休暇の間に家で仕上げるように生徒達に指導していた。
(三) 本件授業でSら生徒が使用したハサミは先端が丸くなっている児童用ハサミであった。
被告鈴木教諭は、本件授業の最初に、ハサミは危険だから注意して扱うこと、ハサミを使わないときは机の右端に閉じて置いておくこと、紙をうまく切る方法、他の生徒の作品を見に行くときは他の人の邪魔にならないようにすること等について一般的な注意を与え、当日ハサミを持って来なかった生徒に貸す際に、ハサミを持って歩くときはハサミの刃の部分を閉じて持って、刃先を他の人に向けないように注意した。
被告鈴木教諭は、本件授業開始一〇分後の午前一〇時五五分ころに、生徒全員が必要な道具等を全部揃えているか等を確認する目的で、教室配置図の「教師の第一回目の机間巡視路」(実線で指示)の経路で教室全体を見て回った。
(四) 被告鈴木教諭は、午前一一時一〇分ころ、教室配置図の「教師の第二回目の机間巡視路」(一点破線で指示)の経路で、個々の児童に対して作品作成上の指導を行うために北側の列から順次児童の様子を見て回ることとした。北側から四列目の一番後ろの児童のところを曲がって先頭の児童のところに達したときに、北側から一列目と二列目の先頭に座っている児童の様子をもう一度見るために北側に向かったところ、本件事故が発生した。
(五) Sは、教室配置図の「Sの行動」(破線で指示)の経路で、自分の席を離れて教室の最も後ろの座席を回って原告の座席まで行き、さらに原告の隣の座席と自分の座席の間を通って後ろの座席まで一回りして原告の座席まで来たところで、後ろを振り返った原告の左眼にSが持っていたハサミの刃先が当たったのであるが、被告鈴木教諭はこのようにSが歩き回っていたのに全く気付いていなかった。
(六) 本件授業の行われた昭和六二年一二月二三日は冬季休暇に入る二日前であり、それぞれの児童は紙版画の制作が冬休み中の持ち帰りとならないよう比較的熱心に作業に取り組み、ごみを捨てに立つ以外は、座席を離れる生徒もほとんどいなかった。ただし、被告鈴木教諭が二回目の机間巡視を始めたころに、Sは教室の北側後ろ角にあるごみ箱までごみを捨てに行っており、同教諭もSが自分の座席に戻るところを見ていた。他にも作品を完成したと判断して他の児童の様子を見に自分の座席を離れる児童が数名いた。
2 なお、原告法定代理人宗像幸雄は、本件事故が発生したとき、被告鈴木教諭は教室内にいなかったと原告が述べていた旨供述するが、同原告法定代理人は、本件事故発生直後に原告から話を聞いただけで、その後被告大野昭二らから本件事故発生の状況について説明を受けてから、あらためて原告に食い違う点を確認したことはなく、右伝聞供述のみでは前記認定を覆すに足りず、他にこれを覆すに足る証拠はない。
3(一) ところで、小学校の教諭は、学校教育法に定める小学校の目的、教育の目標及び教諭の行う職務の内容・性格等から導かれる当然の帰結として、学校における教育活動及びそれに密接した児童の生活関係について、児童を保護、監督すべき義務があり、その義務の内容は、児童の心身の発達段階に応じてその生命身体の安全について、予見可能性のある限りで万全を期すべき高度のものである。殊に、小学校の低学年の児童にあっては心身の発達も未熟な段階にあり、小学校における集団教育に十分習熟していないのであるから、このような児童を担任する教諭は、教育活動において危険な用具等を使用させる場合には、単に口頭で危険な行為をしないように注意するだけでなく、終始自分が直接指導監督できる状態におくことによって、他の児童に危害が加えられることがないように配慮すべき義務があるものと解される。
(二) そこで、本件事故における被告鈴木教諭の過失について検討する。
一般に小学二年生は十分な判断能力、自律能力に欠けている上、本件授業は、小学二年生が扱う用具としては非常に危険なハサミを使って作業を行うという内容であり、しかも、授業中、他の児童の作品を見るために自分の座席を離れることも認められていたのであるから、このような授業を担当する教諭としては、単に口頭でハサミの使用方法についての注意を与えるだけではなく、右注意をうっかり忘れてハサミを持ち歩く児童もあり得ることを想定して、可能な限り教室内の児童の行動を見守り、注意に反する行動に出た児童に対しては、適宜注意・指導を与えるべき注意義務があったというべきである。
ところが、前記認定によれば、本件事故は被告鈴木教諭が各児童に対して個別に作業についての指導を行うために教室内を見回っていた間に発生したものであり、自分の座席を離れる児童が数名いた上に、本件事故発生までに、Sは自分の座席を離れて原告の座席までハサミを持ったまま歩いていき、同人の座席の周りを一周していたにもかかわらず、同被告はSの右行動に全く気付かなかったというのであるから、同被告には前記のような教室内の児童の動静を見守るべき義務に反する過失があったというべきであり、その結果原告に傷害を与えることになったものと認められる。
二被告鈴木教諭の責任について
被告宇都宮市は、同被告の公務員である被告鈴木教諭の前記過失に基づき、公立小学校における教育活動も国家賠償法一条の「公権力の行使」にあたることから、同条の損害賠償責任を負うものであるが、このような場合には、その公務員個人には直接被害者に対する損害賠償責任を負担しないものと解される。
三被告大野の過失及び責任について
小学校内における校長は、学校教育法の趣旨・校長の職務の性格内容から考えて、児童に対して適切な教育と保護監督が施されるように各教諭の活動を統合し、指導助言を行うべき注意義務があるものと解されるが、本件事故の発生については、本件全証拠をもってしても、被告大野にこのような注意義務の違反があると認めることはできない。
四被告敬助及び同ミツ子の過失・責任について
1 自分の行為についてその責任を弁識する能力のない児童が不法行為を行った場合には、その全生活関係について監督義務を負うべき親権者が、原則として、右不法行為による損害を弁償すべき責任を負う。児童が右不法行為を行ったときに小学校教育のために学校長等の指導監督の下に置かれ、学校長等が代理監督義務者としての責任を負うとしても、そのことによって親権者の右責任が当然に免除されることにはならない。
しかし、右不法行為の行われた時間・場所、その態様、児童の年齢等から判断して、当該行為が学校生活において通常発生することが予想できる態様のものであり、もっぱら代理監督義務者の監督下で行われたと認められる場合には、親権者は、その監督義務を怠らなかったとして、責任を免れると解される。
2 Sは、本件事故当時小学校二年生で、自分の行為について責任を弁識する能力がなかったのであるから、右の1第一、第二文の説示からすると、その親権者である被告敬助及び同ミツ子は、本件事故により原告の被った損害を賠償する責任を負うかのようである。
しかし、前記一1の認定のとおり、本件事故は、ハサミを使用する図工の授業中に、Sがハサミを持ったまま自分の座席を離れて、原告に近づいたときに発生したものであり、被告鈴木祥子本人尋問によれば、Sは、小学校二年生の児童としては比較的言いつけを守り、普段から粗暴な行動も見られない児童であったと認められるから、本件事故はハサミの使用という小学校二年生の授業の中では児童間での傷害が生じやすい作業の中で、その危険が現実化したものであり、格別Sの個人的な能力・性格等に基づくものではなく、もっぱら学校長等の代理監督義務者の監督下で発生したものというべきである。
以上によれば、被告敬助及び同ミツ子は、Sに対する監督義務を怠っていなかったものと認められるから、同人の不法行為に対する親権者としての責任を免れるものと解される。
五損害について
1 原告の傷害の内容について
証拠(<書証番号略>、原告法定代理人宗像幸雄)によれば、原告は、左眼角膜裂傷、左上眼瞼裂傷の治療のために、昭和六二年一二月二三日に稲葉眼科病院で診察を受けた後、同日から同六三年一月九日まで獨協医科大学病院に入院し、平成二年三月一三日まで同病院において通院治療を受けた(通院実日数三〇日)が、本件事故前には左右とも裸眼視力が1.0であったにもかかわらず、本件事故後、裸眼視力が右眼0.04、左眼0.05にまで低下したこと、左眼については、角膜の縫合手術が施され、その後も角膜表面に凹凸があることから眼鏡による視力矯正はできず、ハードコンタクトレンズの使用が必要であること、ただし、右各入通院治療の経過は良好で、その間視力低下以外の後遺障害等は認められず、昭和六三年七月一六日にはプール授業も含めた運動も可能と診断されたこと、視力についてもハードコンタクトレンズ装着による矯正視力は右眼・左眼双方とも1.2となっていることの各事実が認められる。
なお、原告法定代理人宗像幸雄は原告の左眼に白内障が進行中であると供述し、<書証番号略>にも室本眼科病院において同様の診断がなされた旨の記載があるが、右認定のとおり、獨協医科大学病院においては視力低下以外の後遺障害の発症は認められなかったこと、原告はコンタクトレンズによる矯正のみで1.2の視力となっていること等の各事実からすれば、原告に現時点で白内障が発症しているとは認められず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 治療関係費用
(一) 治療費 九万〇一三〇円
前記1認定のとおり原告は入通院治療を受け、証拠(<書証番号略>)によれば、その間の治療費として九万〇一三〇円を要したことが認められる。
(二) コンタクトレンズの装着費
一一万八〇八〇円
前記1認定のとおり、原告は本件事故に基づく視力低下を矯正するためにコンタクトレンズの装着を余儀なくされ、証拠(<書証番号略>)によれば、その費用として一一万八〇八〇円を要したことが認められる。
(三) 付添看護費
七万二〇〇〇円
証拠(原告法定代理人宗像幸雄)によれば、原告が前記獨協医科大学付属病院に一八日間入院していた間、原告の母宗像久恵が付添い看護に当たったことが認められ、右看護費用として一日当たり四〇〇〇円の計七万二〇〇〇円が相当である。
(四) 入院諸雑費
一万八〇〇〇円
前記1認定の原告の前記獨協医科大学付属病院への入院期間中に要した諸雑費として、一日当たり一〇〇〇円の計一万八〇〇〇円が相当である。
(五) 文書費 九三〇〇円
証拠(<書証番号略>)によれば、診断書の交付を受けるために九三〇〇円を要したことが認められる。
(六) 通院交通費
一万二〇〇〇円
前記認定のとおり、原告は獨協医科大学付属病院に平成二年三月一三日までに三〇日間通院治療を受けたのであるが、証拠(原告法定代理人宗像幸雄)によれば、その通院に要する交通費として一日当たり少なくとも四〇〇〇円を要したものと認められるから、その総額は一万二〇〇〇円となる。
3 逸失利益
一六九六万〇五四九円
前記1認定のとおり、原告は、本件事故前の裸眼視力は右眼・左眼とも1.0であったが、本件事故により裸眼左眼視力0.05、右眼視力0.04に低下した上、左眼については角膜表面の凹凸が甚だしく、ハードコンタクトレンズ装着による矯正が必要となったのであるが、コンタクトレンズによる矯正視力は右眼・左眼とも1.2であり、他に後遺障害が認められないことからすれば、右視力低下による原告の労働能力損失率は三〇パーセントと認めるのが相当である。証拠(原告法定代理人宗像幸雄、被告鈴木祥子)によれば、原告は本件事故当時健康な八歳の男子であったから。就労可能な一八歳から六七歳までの間に少なくとも平成二年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者平均の年額五〇六万八六〇〇円の収入を得ることができるものと認められ、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、原告の本件事故による逸失利益の現価を算定すると、次のとおり一六九六万〇五四九円となる(円未満切捨て)。
506万8600円×0.3(18.8757−7.7217)=1696万0549円
4 慰藉料 九〇〇万円
原告が本件事故によって被った精神的苦痛は、前記認定の傷害や後遺障害の内容等本件に現れた事情を考慮すると九〇〇万円が相当である。
5 弁護士費用 二〇〇万円
本件事案の内容、認容額等を考慮すれば、弁護士費用としては二〇〇万円が相当である。
6 以上によれば、原告の本件事故による損害額は、合計二八二八万〇〇五九円となるが、原告は、学校安全協会(日本体育・学校健康センター)より一四万七八〇二円の災害共済給付金を受領した(この事実は当事者間に争いがない。)ことから同額を右損害額から控除する。
六よって、原告の請求は、被告宇都宮市に対して二八一三万二二五七円及びこれに対する不法行為の日の翌日である昭和六二年一二月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
(裁判長裁判官村田達生 裁判官草深重明 裁判官森木田邦裕)
別図<省略>