宇都宮地方裁判所 平成9年(行ウ)18号 判決
原告
宮沢昭夫(X1)
同
西房美(X2)
被告
(栃木県知事) 渡辺文雄(Y1)
同
(栃木県東京事務所次長) 岡村通照(Y2)
右両名訴訟代理人弁護士
谷田容一
事実及び理由
第三 判断
一1 普通地方公共団体の長又はその他の執行機関が、当該普通地方公共団体の事務を遂行する過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、当該普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして許容されるものというべきである(最高裁平成元年九月五日第三小法廷判決参照)。
2 ところで、本件各支出は食糧費から支出されているところ、食糧費は、歳出予算の執行科目である節の区分のうち需用費に含まれる経費であり、行政事務、事業の執行上直接的に費消される経費としての性質を有するものであって、通常は接遇という場で支出することを目的とするものではないが、行政事務、事業の執行上、外部者の参加を求めて会合を持つ必要があり、これと同時又は引き続いて、会合自体では不十分なところを補ったり、会合への出席、情報・助言の提供に対する儀礼の趣旨の接遇を兼ねて食糧費というにふさわしい節度ある会食をすることは、なお食糧費の対象の範囲内にあるというべきである。
このように、普通地方公共団体が、行政事務、事業の執行に伴い接遇を兼ねて会食をしその費用を食糧費から支出することができるとしても、これが公的存在である普通地方公共団体により行われ、その費用が住民の税金等によって賄われるものであることなどに思いを致せば、右接遇が食糧費としての節度を失い、又は社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものと認められる場合には、右接遇は当該普通地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を食糧費より支出することは許されないというべきである。
二 以上を前提として、本件各支出が違法であるかについて検討する。
1 前記争いのない事実に〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。
(一)<1> 支出について
(1) <1>支出は、平成八年九月五日午後五時三〇分ころから約二時間、東京都中央区銀座三丁目所在のフランス料理レストラン「ブラッセリードパリ」において、栃木県側から東京事務所長が、相手方として関東地区内の他の都県の公務員二名(うち一名は課長級)が出席して開催された会合における飲食費用を栃木県の食糧費から支出したものである。
(2) 右会合は、同年秋に開催される予定であった関東地方知事会議の議題等について意見交換を行う目的で開催された。
(3) 右会合における飲食費用の内容・価格は、料理飲物が三万一三七八円、奉仕料が三一三七円、特別地方消費税が一〇三五円、消費税が一〇三五円で合計三万六五八五円(税金等込みで一人当たり一万二一九五円)であった。
(4) <1>支出については、被告岡村により支出負担行為(但し、東京事務所職員が右レストランに予約をした後、これを承認したというもの。)及び支出が行われた。
(二) <2>支出について
(1) <2>支出は、平成八年一二月一一日午後六時ころから約二時間、東京都千代田区霞ケ関所在の日本料理店「カモガワ」において、栃木県側から東京事務所長が、相手方として栃木県議会議員二名(後記特別委員会の委員長と委員)及び随行員(議会事務局職員)二名が出席して開催された会合における飲食費用を栃木県の食糧費から支出したものである。
(2) 右会合は、右議員らが、その所属する栃木県議会の特別委員会が扱っている問題(国の大きな施策に係わり、県全体にとっても重要な問題。)について関係省庁を訪問して要望等を伝えるなどした日の夕刻に開催されたものであり、関係省庁訪問の結果や右問題に関する議会側及び知事部局側の状況などについて情報及び意見交換を行う目的で開催された。
(3) 右会合における飲食費用の内容・価格は、料理飲物が八万〇六〇〇円、奉仕料が一万二〇九〇円、特別地方消費税が二七八〇円、消費税が二七八〇円で合計九万八二五〇円(税金等込みで一人当たり一万九六五〇円)であった。
(4) <2>支出については、被告岡村により支出負担行為及び支出が行われた。
(三) <3>支出について
(1) <3>支出は、平成八年一二月一八日午後六時ころから約二時間、東京都所在のパレスホテルの一室(小会議室のような部屋)において、栃木県側から被告渡辺及び東京事務所長が、相手方として前記(二)の(2)記載の問題を扱っている国の附属機関である委員会の委員(民間人)及び報道機関の解説員が出席して開催された会合における飲食費用並びに同ホテル一階のレストランにおける右会合出席者の随行員三名の飲食費用を栃木県の食糧費から支出したものである。
(2) 右会合は、前記(二)の(2)記載の問題に関する情報及び意見の交換、県の実状その他県政全体に関する情報・意見の交換を行い、相手方の県に対する理解を深めてもらうことなどを目的として開催された。
(3) 右会合における飲食費用の内容、価格は、料理飲物が八万〇六〇〇円、奉仕料が八〇六〇円、特別地方消費税が二六五九円、消費税が二六五九円で合計九万三九七八円(税金等込みで一人当たり約二万三四九四円)であった。
なお、随行員三名の飲食費用の内容・価格は、料理飲物が八〇六〇円、奉仕料が八〇六円、消費税が二六五円で合計九一三一円(税金等込みで一人当たり約三〇四三円)であった。
(4) <3>支出については、被告岡村により支出負担行為及び支出が行われた。
2 右認定事実によれば、本件各会合に要した飲食費用の金額は、税金等込みで一人当たり<1>会合が一万二一九五円、<2>会合が一万九六五〇円、<3>会合が二万三四九四円(随行員は三〇四三円)であり、特に<2>及び<3>会合における飲食費用は、納税者の一般的な感覚に照らせばいささか高額との印象を免れないものである。
しかしながら、本件各会合を開催した目的は、平成八年秋に開催された関東地方知事会議の議題等に関する他県の情報を収集することや、国の大きな施策に係わり、県全体にとっても重要な問題について情報を収集することであり、右目的に照らせば、本件各会合を開催することは、中央官庁その他関係方面との連絡、県行政上必要な資料及び情報の収集、その他知事が特に命ずる事務に関すること等を処理する東京事務所の事務の具体的な執行ということができ、本件各会合で提供された飲食物は、右事務の執行との直接的な関連性があるといえ、会食(夕食)を伴う形式での本件各会合の必要性も否定できないものがある。
また、本件各会合の出席者の顔ぶれも、<1>会合は東京事務所長、関東地区内の他の都県の公務員二名(うち一人は課長級)、<2>会合は東京事務所長、栃木県議会議員二名及び随行員二名、<3>会合は被告渡辺、東京事務所長、国の附属機関である委員会の委員及び報道機関の解説員(その他随行員三名)というものであり、<3>会合の相手方の所属ないし地位は抽象的にしか明らかにされていないものの、栃木県側から東京事務所長に加え栃木県知事である被告渡辺が出席していることに照らせば、社会的地位を有する者であると推認することができる。
さらに、本件各会合の場所も、<1>会合は東京都内のフランス料理レストラン、<2>会合は東京都内の日本料理店、<3>会合は東京都内のホテルの一室(小会議室のような部屋)と、会食を伴う形式で会合する場としては相応の場所で行われており、また、本件各会合に芸妓、ホステス、コンパニオンなどが同席したり、出席者に飲食物のほかに経済的利益が供与された事実も認められない。
このように検討してみると、本件各会合における接遇は、その費用がやや高額ではあるものの、右に検討した本件各会合と具体的行政事務の執行との関連性、本件各会合を開催する必要性、出席者の社会的地位、本件各会合の場所・内容等に照らせば、食糧費としての節度を失い、又は社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものとまでは断じ難いというべきである。
3 したがって、本件各会合の飲食費用を栃木県の食糧費からそれぞれ支出したことは、いずれも違法とまではいえない。
第四 結論
よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島内乘統 裁判官 小川浩 中尾佳久)