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宇都宮地方裁判所 昭和24年(行)52号 判決

原告 平野八郎

被告 荒川村農地委員会・栃木県農地委員会

一、主  文

原告の請求は何れも之を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は原告荒川村農地委員会が別紙目録表示の土地及建物につき、昭和二十四年七月二日爲した買收計画は無効とする。被告栃木縣農地委員会が右物件について爲した買收計画の承認は之を取消す。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求原因として別紙目録表示の土地及建物は原告の所有で、昭和十八年三月頃から訴外青木仙太郎に賃貸していたものであるが、被告荒川村農地委員会は昭和二十三年十月三十一日同訴外人の申請に依り自作農創設特別措置法(以下自創法という)第十五條第三條に基き買收計画を立てその買收期日を同年十二月二日と定めたので原告は之に対し異議の申立をしたところ同委員会は昭和二十四年一月十八日右買收計画を取消した、しかるところ被告村農地委員会は昭和二十四年七月二日再度同一理由の下に右土地建物の買收計画を立て被告縣農地委員会は之を承認した。しかしながら右買收計画には次のような重大な瑕疵がある。すなわち、

(一)被告村農地委員会は昭和二十四年二月十八日本件土地建物につき前に立てた買收計画を取消しながら、其の後何等事情の変更がないに拘らず再度同一の申請人、同一物件並に同一理由に依り買收計画を立てたものであるから所謂一事不再理の原則に反する。

(二)被告村農地委員会は、本件買收計画の樹立に当つては自創法第六條所定の公告を爲さず、又原告に対して何等の通知をもしていない。

(三)被告村農地委員会は本件買收の目的である土地の所在を上の台四四五の二と表示しているが、右土地は斯る地番には存在しない、被告等は右は誤記に過ぎないとしているが、目的物の表示は行政行爲の重要な要素であるから一方的に訂正することは出來ない。殊に農地委員会を開かずに訂正する如きことは到底許されない。そればかりか本件買收家屋は家屋台帳に依れば、建坪十三坪七五であるに拘らず二十一坪として買收しているが之亦目的物に誤りがある。

(四)本件買收申請人である訴外青木仙太郎は石工を本業とし僅かに野菜を耕作しているに過ぎない兼業であるから買收の適格を有しない。

(五)本件買收計画の樹立は同訴外人が国から農地の賣渡を受けた日より一年以上を経過した後に爲されたものであるから自創法第十五條に違反している。

而して右の瑕疵は何れも行政法上の原則若は法規に違反するもので、当然無効であるから、被告縣農地委員会の爲した承認行爲も亦無効である。仍て原告は右買收計画の無効確認並に被告縣農地委員会の爲した承認行爲につき無効宣言的取消を求める爲本訴請求に及んだ次第であると陳述した。(証拠省略)

被告村農地委員会並被告縣農地委員会各指定代表者は第一次的申立として請求却下、第二次的申立として請求棄却の判決を求め先ず原告の訴変更に異議を述べ所謂抗告訴訟は、行政処分の可及的早期安定並に行政秩序保持の要望を充す爲出訴期間が定められ、その期間経過後はも早爭い得ないものとされている。從て抗告訴訟から他の請求への訴の変更を單なる訴訟経済上の理由のみを以て許すことは、右の法意を無視することとなるから許すべきではない。又行政処分の違法不当を理由とする取消変更の訴とその行政処分より発生した権利又は法律関係の無効確認の訴とは請求の基礎を異にするからその請求を変更することはこの理由に依ても亦許されない、仮にそれが許されるものとしても被告等は無効確認の訴については当事者適格が無い、即ち右請求は被告荒川村農地委員会が爲した行政処分の効果として発生した権利又は法律関係をその訴訟物とするものである。而して同村農地委員会は国の行政機関として行政行爲を爲すに過ぎないのであつて、その行爲の効果は国について生ずるのであるからその行爲の主体は国である。從てその効果の無効確認を求める訴の当事者適格を持つものは国であつて農地委員会ではない。更に又被告等に当事者適格があるとしても原告の訴はその対象を欠くものである、即ち、原告は被告村農地委員会が爲した昭和二十四年七月二日の買收計画の無効確認を求めているが、被告村農地委員会が本件宅地建物につき原告主張のような昭和二十四年七月二日に樹立した買收計画はない。右は自創法に謂う買收期日であつて、計画樹立の日は昭和二十四年五月二十五日である。又被告縣農地委員会が自創法第八條に依て爲した買收計画の承認は外部への表示行爲を必要としない單なる内部的意思決定に過ぎないから所謂行政処分ではない。從て抗告訴訟又は無効確認の訴の対象とはなり得ないものである。以上の主張が総て容れられないとしても被告村農地委員会が立てた買收計画並に被告縣農地委員会が爲した右買收計画の承認には原告の主張するような違法の点はない、すなわち(一)別紙目録記載の土地及建物は原告の所有であつて訴外青木仙太郎が賃借していたものであるが、被告村農地委員会は同訴外人の申請に基き、土地については昭和二十三年十月三十一日、建物については同年十二月二十二日農業用施設物としての買收計画を立てたところ同年十二月二十三日原告より(イ)右買收宅地中には非農家の住家が存在すること、(ロ)建物の坪数が誤つていること(ハ)青木仙太郎が兼業農家であることの三点を理由として異議の申立が爲されたので、同農地委員会は審議の結果右(イ)及(ロ)の理由を認めて前掲買收計画を取消し改めて昭和二十四年五月二十五日同訴外人の爲に買收するを相当と認める部分につき本件の買收計画を立てたのである。從て第一回目の買收計画と第二回目のそれとはその対象を異にしているから所謂一事不再理の原則の適用を見る場合に該当しない。(二)被告村農地委員会は右昭和二十四年五月二十五日に立てた買收計画については即日その公示をしている買收の相手方への通知行爲は自創法は之を要求していないから、その通知を欠いたとしても買收計画樹立行爲の効力には何等の影響を及ぼさない。(三)本件買收の目的である土地の地番は登記簿上は上の台三四三番と表示され、土地台帳面では上の台三四五番と表示されているが、それは全く同一土地である。被告村農地委員会が立てた買收計画において始め之を上の台四四五番の二としたのは土地台帳表示に依る三四五番とすべきを四四五番と誤記したのであつて之に同番の二と枝番を附けたのは分筆買收を表示した爲である。買收計画書に明記してあるとおり、原告所有の上の台所在の土地で土地台帳上の地目が畑、現況は宅地面積九十四坪四十三の中二十三坪五〇の土地は上の台三四三番(登記簿上)の土地を指すことは客観的に明かなことであつて、之を前掲記のように表示したことは土地台帳に依る三四五番を誤つて表示したことは明白で、之を正確な表示に訂正することは決して目的物を変更するものではないから事務的に訂正することは一向差支えないことで、委員会を開くことなく、訂正したことは何等違法ではない。又建物の坪数を二十一坪と表示したのは登記簿に從つたものであるから、目的物を誤つたものではない。(四)訴外青木仙太郎は自創法に依る農地の賣渡を受けている者であつて、耕作面積六反二畝二十九歩を有し、その労働力も十分で、兼業であつた石工は昭和二十一年以來廃業し、現在は專ら農業所得に依り生活を営んでいる者であるから、自創法第十五條に依る農業用施設の買收申請を爲し得る適格者である。(五)本件買收計画樹立は自創法(昭和二十二年法律第二四一号)に基くものであつて買收申請期間の定めのない時に爲されたものであるから賣渡後一ケ年を経過しても問題とはならない。以上の理由に依り原告の主張は総て失当であると陳述した。(立証省略)

三、理  由

先ず原告の被告縣農地委員会に対する請求に付て審案するに行政行爲は之を端的に言えば、一般支配関係において行政権の主体が人民に対する関係に於て爲す行爲を言うのである。從て特別権力関係における行爲又は行政組織の内部に於て行われる行爲は行政行爲の範囲に属しないのを原則とする。そこで自創法第八條に定める都道府縣農地委員会の承認は上級廳と見るべき同委員会がその下級廳である市町村農地委員会の立てた買收計画に対する監督的作用を持つ行政組織の内部的行爲であつて、直接被買收物件の所有者其の他の第三者を対象として爲されるものではない、別言すればその承認がある迄は買收計画が不確定の状態に置かれるに過ぎないのであつて、不承認の場合に於てもそれが直ちに買收計画自体の効力を左右するものではない。右の理由に依り本件被告縣農地委員会の爲した買收計画の承認も行政行爲ではないと解するのが相当であるから、抗告訴訟の対象とならないことは勿論である。而して無効確認を求める訴に於ては右と同様の見地から確認の利益を有しないと謂わなければならない。從て原告の被告縣農地委員会に対する訴は他の点につき判断を俟つ迄もなく失当として排斥せられる。

次に原告の被告村農地委員会に対する訴の変更が許されるか否かの点について考えて見るのに、原告は始め被告村農地委員会の立てた買收計画の取消を求め後之を無効確認に変更しているのであるが、その請求の原因には全く変更がない。而して行政行爲の無効と取消との限界はその行爲に内在する瑕疵が重要な法規違反であるか否か及その存在が外観上明白であるか否かの標準に依り定めるのが相当であつて、本件原告の主張自体に依て見れば右にいう重要な法規違反及外観上明白な瑕疵が在ることを理由としていることが明かであるから、原告が始め取消という表現を用いたとしてもそれは裁判上無効を宣言する意味の取消を求めているものと解するのが相当で、後之を無効確認の趣旨に変更することは、何等請求の基礎に変更がないのであるから許容するのが相当である。原告は当初取消を求め被告等の出訴期間経過の抗弁に逢うや、之を無効確認に変更したという狡さは認められるけれども、初めから請求原因自体無効原因を主張しているものと認められる限り止むを得ないことである。

次に同被告の当事者適格の問題であるが、行政処分の無効確認を求める訴が行政事件訴訟特例法第一條にいう公法上の権利関係に関する訴に該当することは異論のないところである。しかし斯のような訴であつても一概にその処分に依て生じた効果である権利乃至法律関係の存否を訴訟物とするものとは限らないのであつて、当該処分自体の適否を訴訟物とする場合も存在するわけである。農地又は施設物の買收手続に於ては市町村農地委員会の買收計画樹立に始まり、都道府縣農地委員会の承認を経知事の令書発行々爲に依り買收が完成し、所有権の変動を生ずるわけであるから本件のようにその先行処分である計画の無効確認を求める場合には右一連の手続に依り完成した法律上の効果の存否を爭うと見るよりはむしろ当該処分自体を直接攻撃するものと見るのが相当であつて、從て所謂抗告訴訟の場合と全く共通の性格を持つから前掲特例法第三條を類推適用して当該処分廳に当事者適格を認むべきであると解する。

次に原告の被告村農地委員会に対する訴はその対象を欠くという同被告の主張について判断するに被告村農地委員会が別紙目録表示の宅地建物につき昭和二十五年五月二十五日その買收期日を同年七月二日と定めて買收計画を立てたことは成立を認める乙第四号証並証人佐藤卯之助の供述に依て明かであつて、他に右目的物についての買收計画は存在しない。してみれば原告が本訴に於て無効確認を求めるものは右買收計画を指すものであることは明かで原告が昭和二十四年七月二日の計画と表示したのは買收期日を誤つて表示したに外ならないことであつて、請求趣旨の記載は目的物を特定し得る程度の表示があれば足りるのであるから、計画樹立の日を記載しなかつたとしても直ちに訴訟の対象を欠くと爲すことはできないから同被告のこの主張は理由がない。

仍て本案について審究するに別紙目録表示の宅地及建物は原告の所有で訴外青木仙太郎に賃貸していたものであるが、被告村農地委員会は同訴外人の申請に基き右宅地建物に関して一度買收計画を立てたところ、原告より異議の申立が爲された結果該計画を取消し再度本件の買收計画を立てたものであることは当事者間に爭のないことであつて、成立に爭のない甲第一号証に依ると右買收計画取消の日は昭和二十四年二月十八日であることが認められ、本件買收計画樹立の日が同年五月二十五日であることは前認定のとおりである。原告は先ず第一に右のように一度買收計画を立て之を取消しながら再度同一物件について買收計画を立てることは一事不再理の原則に違反し許されないと主張するけれども、成立に爭のない甲第一号証証人佐藤卯之助同中山利廣の各供述に依ると被告村農地委員会が前に立てた買收計画を取消したのは(一)買收宅地中に非農家である岩瀬キクの建物が存在する爲この部分迄も申請人青木仙太郎の爲買收するのは妥当でないこと、(二)買收建物の坪数に誤りがあること、という二つの理由に依るものであつて右部分を除外又は訂正し同申請人の爲買收するのを相当とする範囲につき改めて本件買收計画を立てたものであることが認められ他に反対の証拠はない。思うに行政行爲に瑕疵の存する場合には正当な権限を有する官廳に於て之を取消し得るのを原則とするけれども、人民の権利又は利益を設定する行爲、確認的性質を有する行爲又は当事者の参加等一定の手続を経て爲された行爲等の如きはその性質上行政廳に於てももはや自由に之を取消すことを得ないものとされ、斯様な効力を不可変更力又は実質的確定力と称している。而して斯様な効力を持つに至つた行爲が申請に基くものである場合に、行政廳はもはや同一事項につき再度申請を受理し得ないということを一事不再理と呼ぶのであろう。しかしながら前認定の事実は被告村農地委員会が立てた前の買收計画はその一部に誤りがある爲之を一たん取消しその正当な部分について計画の立て直しをしたというのであるから、その方法としては必しも正鵠を得たものではないとしても取消した行爲そのものを変更せんとするものではないから、所謂一事不再理の原則の適用を受ける場合に該当しない。從て原告の此の主張は採用し難い。次で原告は本件買收計画にはその公示も通知も無かつたと主張するけれども成立を認める乙第二号証証人佐藤卯之助並証人中山利廣の各供述に依れば、被告村農地委員会は昭和二十四年五月二十五日買收計画を立て、翌二十六日その所在地である村役場の掲示場に掲示してその公示をした事実が認められ、之に反する証人小堀義夫並に原告本人の各供述は前掲各証拠と対比してた易く措信し得ないことであつて、尚買收物件の所有者に対し計画の通知をすることは自創法の要求していないことであるから之を欠いたとしてもその計画の違法を來すものではない。從て原告のこの主張も排斥を免れない。次に買收宅地の地番並建物の坪数についての主張について考えて見るに被告村農地委員会が別紙目録記載の物件につき宅地の地番を上の台四四五の二とし、建物の坪数を二十一坪と表示して買收計画を立てたことは当事者間に爭のないことであつて、成立に爭のない乙第一号証、同第三号証、甲第一号証、同第三号証、成立を認める乙第四号証、同第五号証並に証人佐藤卯之助の供述等に依ると、右宅地の地番四四五の二とあるは、土地台帳表示の地番三四五番と表示すべきを誤つたものであつて、後被告村農地委員会に於て之を登記簿表示の三四三番と正確に訂正して居り、決して目的物そのものを誤つたものではないことが認められ他に反証はない。斯の様に明白な表示上の誤謬は計画の効力を左右するものでもなく農地委員会を開くことなく事務的に訂正して支障ないものと謂えるし、尚建物の坪数は登記簿記載に依つたもので誤謬とは認められないから原告のこの主張も亦理由がない。最後に申請人青木仙太郎の申請適格の問題であるが、成立を認める乙第七号証乃至同第十一号証、証人佐藤卯之助、同中山利廣、同青木仙太郎の各供述並に檢証の結果を綜合すると、訴外青木仙太郎は元は石工を営業としていたが、昭和二十一年以來之を廃業して專ら農業に從事して居る者で、自創法に依る農地の賣渡を受けその労力も十分で、本件宅地建物はその農業施設として必要なものと認められるから、被告村農地委員会が同人の申請に基き買收計画を立てたのは正当であつてこの認定に副わない証人小堀義夫、同斎藤久四郎、同平野トミ並に原告本人の各供述は当裁判所之を措信しない。尚原告は右買收計画は同訴外人が農地の賣渡を受けた日から一年以上経過後に爲されているから違法であると主張しているが、本件買收計画は自創法第十五條の改正(昭和二十四年六月二十日)に依り右のような期間の定められる以前に樹立されたものであつて、右期間の適用がないこと勿論であるから、原告の右主張はそれ自体失当である。以上の説明のとおり原告の主張は悉く失当であるから本訴請求は何れも之を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝)

(目録省略)

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