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宇都宮地方裁判所 昭和25年(行)26号 判決

原告 鈴木善一

被告 氏家税務署

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は請求の趣旨として被告が原告所有の別紙目録記載の不動産につき昭和二十五年九月十九日なした差押処分はこれを取り消さねばならない、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め請求原因として原告は農兼精米所を経営しており、別紙目録記載の不動産は原告の所有であるところ、被告は原告に対する昭和二十四年度所得税更正決定によつて所得額を十八万三千百円と決定したが、原告は不服なので関東信越国税局長に対し再審査の請求をしたが、被告は之を上級官庁たる関東信越国税局長に進達しないので握り潰し昭和二十五年九月十九日に至り右不動産に対し差押処分をなした右握り潰しは職権濫用である。仮に握り潰しでないとしても差押には(一)納税義務者の任意の履行意思に期待することができないこと、(二)納税義務者が督促を受け指定された期限迄に税金(延滞加算税額を含む)及督促手数料を完納しないとき、換言すれば納税義務者の財産状況及納税資金の調達の速度と税務官庁の徴収税能率ならびに差押財産の換価の難易及速度とを比較考量して必要ありと認むることの要件を具備しなければならないのにこの点につき何等の考慮を払つてない本件差押は違法である。更に差押は滞納税金の徴収に必要な限度に於て執行せらるべきであるのに滞納税金の十倍を超過する約三十万円以上の取引価値ある物件に対しなした本件差押は違法である。よつてその取消を受けるため本訴請求に及んだと陳べた。(立証省略)

被告指定代理人は本案前の答弁として原告の訴を却下する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、その理由として税務官庁のなした滞納処分の取消又は変更を求める訴は国税徴収法第三十一条の四により原則として再調査の決定を経た後でなければこれを提起することができないのであるが、同条第四項但書により再調査の請求の日より六ケ月を経過してもこれに対する決定の通知がない場合には訴を提起することができることになつている。しかるに原告の再調査の請求は昭和二十五年十月九日になされたのに六ケ月を経過しない同年十月十八日に提起された本訴は右訴願前置の規定に反するから不適法である。よつて却下さるべきである。本案につき主文同旨の判決を求め答弁として原告主張の差押及び再調査の請求の事実は認めるがその他は否認する。

被告は昭和二十五年二月二十日附を以て原告に対し昭和二十四年分所得額金一八三、一〇〇円税額四五、八〇〇円なる更正決定をなし、同日頃にこれを原告に送達したところ原告は同年三月六日右更正決定を不服として審査の請求をしたのであるが、被告は右更正決定に脱漏があつたことが判つたので同年六月二十九日付をもって右所得金額を一九八、五〇〇円税額を五二、七七五円と再更正したところ、この決定に対し更に同年七月二十六日附書面をもつて同月三十一日関東信越国税局長あてに再審査の請求をした。しかし税金の徴収又は滞納処分は審査の請求があつた場合においても猶予しない建前になつており、且つ納税義務者に誠実に納めようとしても納められないというような「相当の事由」ないしは「已むを得ない事由」があるとは認められなかつたので被告は昭和二十五年四月四日第三期分五、三五〇円随時分(更正決定税額より確定申告税額を差引いた額)三四、七〇〇円八、五〇〇円につき督促したが、原告はこれが納付をしなかつたので同年九月十九日本件差押をなしたところ、原告は同年十月十一日右差押処分に対する審査の請求書(同月九日付)を提出したが所得税法第四十八条附則第十一項によれば再更正決定に対し不服ある者は当該税務署長に対して再調査の請求をすることができるのであるが、原告の関東信越国税局長あてに提出した再審査の請求は右再調査の請求と解すべきものであるから税務署長限りて処理したもので何等の違法はないと陳べた。(立証省略)

三、理  由

先づ被告の本案前の抗弁につき審査するに国税徴収法第三十一条の四によれば再調査の請求又は審査の請求目的となる処分の取消又は変更を求むる訴は行政庁の審査の決定を経た後でなければ提起することができないが、右決定を経ることにより著しい損害を生ずる虞あるときその他正当な事由あるときは右審査の決定を経ないで訴を提起することを許している。然るに被告代表者平野吉之助の当事者尋問の結果によれば右審査の決定には一、二年を要することもあることが認められるから直ちに訴を提起したのは違法といい得ないから、被告の抗弁は採用できない。

よつて進んで本案につき按ずるに原告主張の差押があつたこと原告が再審査の請求をしたことは当事者間に争がない。而して右再審査の請求を被告が国税局長に進達しなかつたことは被告の認むるところであるが、所得税法第四十八条及附則第十一項によると再更正決定に対する再調査の請求に対しては税務署長が決定をなし得ることを規定しているし、原告の再審査の請求は再調査の請求と解すべきであるから、被告が税務署長限りに於て決定すべく進達しなかつたことは違法と言い難い。次に原告は任意の履行を促す措置をとらないで差押えしたのは不法であると主張するが、右被告代表者の当事者尋問の結果によると被告は督促しても原告よりの納付がなかつたから差押えしたものであることが認められるから、この点については何等の違法がない。更に原告は滞納税額を数倍超過する価格の物件を差押えしたのは違法であると主張するが成立に争のない甲第四号証によると本件建物の評価格は金四万八千六百円同畑の評価格は八四二四円であることが認められる。右認定に反する原告の当事者尋問の結果は措信できない。且つ課税処分に対する再調査の請求は滞納処分の続行を妨げないものであることは国税徴収法第三十一条の二第三項に規定するところであり、本件滞納金額は四〇、〇五〇円であることは成立に争のない甲第三号証の三により明かであり、滞納額より差押物の価格がある程度超えることは止むを得ないものというべきであるからこの点より見ても本件差押は不法でない。よつて原告の主張は採用できないから本訴は理由ないものとしてこれを排斥し訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のように判決する。

(裁判官 真田禎一)

(別紙目録省略)

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