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宇都宮地方裁判所 昭和27年(行)8号・昭27年(行)10号 判決

原告 亀田豊房

被告 宇都宮市長

一、主  文

原告の請求を、いずれも棄却する。

訴訟費用は、全部原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は請求の趣旨として(一)被告は原告に対し、栃木県知事小平重吉が原告に対し昭和二十四年五月二十九日なした宇都宮市池上町三千二十番地所在建物の移転命令は無効であることを確認する。(二)被告が原告に対し、昭和二十七年七月二日都建第三二号を以てなした代執行の戒告は、これを取り消す。(三)訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として次のように陳述し、尚被告の主張事実は原告の主張に反する点を否認すると述べた。

一、原告は宇都宮市池上町三千二十番地の一宅地六十一坪二合五勺及び同市江野町三千百十五番地のイ宅地二十二坪六合五勺を各所有し右地上に木造瓦葺平家建店舗一棟建坪二十二坪五合及び木造亜鉛葺平家建住宅一棟建坪十三坪五合の建物を所有している。

二、終戦後の戦災都市復興に関する国の基本方針に基き、宇都宮市の復興に関しても特別都市計画法に基き、昭和二十一年十二月七日戦災復興院告示第二百五十五号により宇都宮市復興特別都市計画が定められ、同市における特別都市復興計画事業施行区域は百二十万坪、大通りの幅員は三十六米と定められ、栃木県知事がこれを施行することになつたので、昭和二十四年二月十五日、栃木県知事小平重吉は、右事業区域内における土地区画整理の設計に基き原告に対し、換甲第一号ブロツク第四号換地予定地指定通知書を送付し、次いで同年五月二十九日付移甲第一号ブロツク第四号移転命令書を送付して、同年八月三十一日迄に原告所有の前記二棟の建物を移転すべきことを命令した。

三、その後右事業は一切栃木県知事から被告に引継がれたところ、昭和二十七年五月十四日に至り被告は都建第四八号を以つて原告に対し移転の催告をしたので、原告は同年六月二十日、被告に対し右催告について異議を申し立てた。然るに被告は右の異議申立に対しなんらの決定をもすることなく、同年七月二日付都建第三二号戒告書を以つて、原告に対し前記二棟の建物を同年七月七日午後五時迄に移転しないときは被告が代執行をなす旨の戒告をなした。

四、然しながら、右の移転命令は、次の諸理由により無効である。即ち

(1)  特別都市計画法に基き土地区画整理施行者が移転命令を発するには、予め図面により換地予定地を指示し、更に被命令者立会の下に現地指示をすることが必要であるにも拘らず、原告に対し右の手続は履行されていない。

(2)  移転命令の実施には換地が確定していることを要するにも拘らず、本件移転命令により移転すべき原告使用地に対する換地予定地は確定していないから、右移転を実施することは不可能である。従つて、かゝる実施不能の移転命令は無効である。

(3)  区画整理施行者は移転命令を受けた者に対して、補償金を交付することを要するにも拘らず、被告は原告に対し補償金の査定も配当の表示もしたことがない。

(4)  区画整理による土地の減歩率は、各所有者につき平等であることを要するところ、建設省の承認した土地の減歩率は一割八歩であるにも拘らず、原告所有地に対する減歩率は三割四分であつて、著しく公平を欠くのみならず、換地面積の坪以下の端数は切り捨てられてあり、切り捨てられた地積が如何に処理されたか不明であつて、査定の方法が不明朗である。

(5)  前記原告所有地の公簿上の面積は七十六坪六合四勺であるが、実測坪数は八十三坪九合ある。然るにその差七坪二合六勺に対しては、なんらの配慮も示されていない。かくの如きは区画整理に名を藉りて原告の財産権を侵奪するものと言うべく、従つて右の移転命令は憲法第二十九条に違反するものである。

(6)  換地に関する事項は総て土地区画整理委員会に諮問することを要するところ、特別都市計画法第十一条の規定によれば、土地区画整理委員会の委員は、土地区画整理施行地区内の土地所有者及び借地権者のみが被選挙権を有する。然るに宇都宮市復興土地区画整理委員会の委員であり会長である石海勇次郎は、宇都宮市復興土地区画整理施行地区内の土地所有者でも借地権者でもない。従つてその当選は無効であるから、その召集した区画整理委員会は不成立であり、その関与した原告の換地予定地に関する決議等はすべて無効であるべきであるから、本件移転命令に対する同委員会の意見の議決も無効であると言うべく、従つて右の移転命令は土地区画整理委員会の諮問を経ずになされた無効の行政処分であると言わなければならない。

五、従つて、右の無効な移転命令を基礎とする前記戒告は違法であつて、取り消されるべきものであるが、更に本件戒告は次の諸理由によつても亦取り消されるべきものである。即ち、

(1)  前記のように、当初の宇都宮市特別都市計画は大通りの幅員を三十六米とすることを根幹として定められ、前記換地予定地指定及び移転命令は右計画に基きなされたものであるところ、右計画はその後変更されることになり、昭和二十七年十月三日に至り、建設省告示第千二百七十三号により、大通りの幅員は三十米に変更された。従つて本件戒告が発せられた同年七月二日においては、大通りの幅員は変更の為め未だ国において検討中であつて未確定の状態にあつたから本件戒告は国がまだ決定しない事項の実現を目的としたものであつて、手続上違法であるのみならず、不能の事項を目的としたものであるから、取り消されるべきである。

(2)  本件戒告は昭和二十四年五月二十九日付の移転命令の実現を目的としたものであり、右移転命令は大通りの幅員を三十六米と定められた時代の換地予定地に移転すべきことを命じたものである。従つて大通りの幅員が三十米と定められた現在においては、更に別な換地予定地が指定され、原告は再度移転しなければならなくなる。かくては無用の手続を繰り返すことになり、無用の犠牲を人民に強いることとなつて、とうてい遵守できない無暴な戒告と言うべきである。

(3)  宇都宮市大通り拡張反対同盟は、昭和二十七年三月六日付で国会に対し大通り拡張反対の請願をしたところ、衆議院建設委員会小委員会は同年六月十九日再調査附留保を決定し、その旨建設省当局に通知してあるので、建設省は右の再調査後でなければ予算を区画整理施行者である被告に配布できない状態にある。このように本件区画整理事業の実施が未確定の状態にあるに拘らず、被告が原告に対し本件戒告をなしたのは不当違法である。

(4)  前記のように、被告は原告が昭和二十七年六月二十三日付でなした催告に対する異議申立に対し、なんらの決定をなさずに本件戒告をなしたのは不当違法である。

よつて、右移転命令の無効確認を求めるとともに、右戒告の取消を求めるため、本訴請求に及んだ。

被告代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中原告がその主張する地番の土地二筆を所有し、右地上に家屋二棟を所有すること、原告主張の経過で宇都宮市特別都市復興計画が進行し、原告主張のとおり栃木県知事小平重吉及び被告が原告に対し、区画整理に関する各処分をなしたこと、宇都宮市土地区画整理施行地区における土地減歩率が一割八分であること、区画整理委員として石海勇次郎が選任されていること及び原告がその主張するような異議申立をしたことはいずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。尚原告の主張に対し若干の反駁を加えれば、次のとおりである。

一、原告は換地予定地の減歩率に対し云々するが、区画整理地区内の土地の減歩率は平均して一割八分であるとは言え、個々の土地が必ずしもその率に従わなければならないことはなく、又事実従うことが不可能のことがある。原告所有地は台帳面積七十六坪六合四勺で、換地予定地は六十一坪七合五勺であるから、その減歩率は一割九分四厘強であつて、右の基準より多少超過しているが、地形等の関係上止むを得ないところである。台帳面積によつたのは、栃木県告示昭和二十二年第四百四十九号同年十一月十四日公布宇都宮市特別都市計画事業復興土地区画整理規定第三条第一項を適用したものである。

二、原告は換地予定地については現地指示がないと主張するが、当時栃木県知事に対し、昭和二十四年二月十五日附を以つて同月二十一日午前九時三十分現地指示を為す旨を通知し、右日時に現地で原告立会のもとに換地予定地の指示を終つているが、宇都宮市大通路線拡張の幅員が三十六米から三十米に変更されたので、被告においては原告に対し、同年十一月二日附を以つて換地予定地変更に伴う再度の指示を同月二十九日午前九時午後四時に行う旨の通知を為し、右日時に原告立会の上現地を指示した。

三、区画整理委員に当選した石海勇次郎が仮に無資格者であつたとしても、委員会の成立には影響がなく、従つて区画整理手続を違法ならしめるものではない。

四、被告の昭和二十七年五月十四日附移転催告に対する原告の異議申立に対しては、特に被告がこれに決定を与うべき法規上の根拠はない。

五、移転に関する補償金は、事前にこれを明示すべきものではない。

六、昭和二十七年度宇都宮市復興事業費は、その半額金千八百五十万円を国庫において補助すべきことが昭和二十七年七月三十一日附を以つて決定済である。

と述べ、更に、宇都宮市復興事業は五ケ年計画であるが、換地及び建物の移転について見ると、換地は総坪数二十七万五百坪金額二百七十万五千円、建物移転は戸数千五百戸金額五千四十万円で昭和二十七年度の事業予定は換地坪数三万六千坪建物移転戸数は九百五十一戸である。宇都宮市復興事業は宇都宮市将来の為めに必要欠くべからざるものであることは何人も異論のないところであるのに、独り原告居住区域を含む池上町から小袋町迄の大通の拡張について反対があるのである。今回大通拡張の範囲である宇都宮市大通は、元幅員約四間の街路であつたが、明治四十年中栃木県に於て拡張計画を立て、原案は十二間であつたところ、県参事会で十間に縮少されたものであり、拡張当時は十間道路が出現すれば道の中央に草が生えると非難した市民もあつたが、今日ではその幅員も狭きに過ぎ交通に支障を来すこととなり、今回の拡張計画となつたものである。原告等の拡張反対も明治四十年の拡張反対と類を異にするものではないと説明し、仮に原告等に対し被告或は栃木県知事の為した移転命令に関する手続に瑕疵があつたとしても、前記宇都宮市復興事業による道路の拡張は宇都宮市の復興発展の為めに喫緊避け難き事業であるので、これを中止することは公共の福祉に適合せざるに至るが故に、行政事件訴訟特例法第十一条により原告の請求は棄却さるべきであると述べた。(各立証省略)

三、理  由

第一、移転命令無効確認について

(一)  前記移転命令に関し原告はその無効を主張して数項に亘りその理由を挙げているが、それ等の理由とするところは仮りに認容されたとしても、いづれも重大且つ明白なる瑕疵とは謂い難いので、移転命令たる行政処分を無効たらしむるに至るものではなく、単にこれを取消す必要あるに過ぎないものと解せられるが、仮りにそれが無効原因たり得るものとして説明を進めることとする。

(二)  原告が宇都宮市池上町三千二十番地の一及び同市江野町三千百十五番のイの宅地二筆(坪数は暫く措く)並びに右地上に建物二棟(その坪数も暫く措く)を所有していること、栃木県知事小平重吉(以下前施行者と略称する)が特別都市計画法に基く宇都宮市特別都市計画事業復興土地区画整理施行者として、原告に対し昭和二十四年二月十五日換地予定地指定通知書を送付し、次いで同年五月二十九日付書面により原告所有の右二棟の建物を同年八月三十一日迄に移転するよう命令したことは、いずれも、当事者間に争がない。

(三)  よつて原告の主張する移転命令の無効理由を順次判断する。

(1)  換地予定地の指定について

原告は換地予定地の指定には図面による指示も現地指示もないと主張するのである。

(イ) 昭和二十四年二月二十一日の換地予定地指示

証人山口金之助、同佐藤左門、同谷田部正男、同藤田進の各証言及び原告本人尋問の結果の各一部に証人谷田部正男の証言により成立を認める乙第五号証の二、三(予定地指定通知書山口金之助と滝沢武宛)並びに成立の争のない甲第十三号証(乙第五号証の一と同じ予定地指定通知書原告宛)及び乙第六号証現地指定指示通知)の各記載を綜合すると、前事業施行者は大通路線幅員三十六米の計画の下に前記の通り昭和二十四年二月十五日付換地予定地指定通知書を原告及び前記原告所有地の一部を賃借し、各その地上に建物を所有中の訴外山口金之助及び滝沢武宛に送付し、換地予定地の図面は一括縦覧に供する旨通知したが、同月十八日付宇都宮都市復興事務所長名義の書面により地主である原告のみに対し、同月二十一日午前九時三十分換地予定地の現地指示をする旨の通知をなしたこと、右書面はいずれもその頃それぞれの名宛人に送達されたこと及び右現地指示期日に係官が原告方に赴き隣地所有者立会の上原告に対し現地指示をなしたことを認定することができる。しかしながら前記証人谷田部正男の証言及び同証言により成立を認める乙第七号証の二、三(借地位置及び坪数の件通知。山口金之助と滝沢武宛)並びに成立の争のない乙第七号証の一(同上原告宛)の各記載を綜合すると、原告及び右訴外両名に対して通知された換地予定地は前示原告所有地全部に対するものであつて、右三名の個々の直接占有部分に対する換地予定地の範囲を積極的に確定せず、原告所有地内における右三者の土地の地割は、右三者間の協議に委ねたところ、その協議のなされないうちに、前記移転命令が発せられたことを認定することができるのである。しからば右換地予定地は不確定であり予定地の指示は完了していないものと解する。

(ロ) 昭和二十四年十一月二十九日の換地予定地指示

前記移転命令の発せられた後宇都宮市特別都市計画事業に基く土地区画整理計画の一部を変更することとなつたことは当事者間に争なく、証人谷田部正男、同藤田進の各証言に右証人谷田部正男の証言により成立を認める乙第八号証の記載を綜合すれば、前施行者は大通りの幅員を三十米に変更する旨の内示を建設省当局から得たので、昭和二十四年十一月二日、土地区画整理委員会の意見を聞いて、右の変更に伴い、施行地域の換地予定地をも修正変更することを決定し、右決定に従いその頃原告に対し新たな換地予定地指定をすることなく右乙第八号証の「換地予定地(都市計画再検討による修正変更)指定に伴う現地指示について」と題する宇都宮都市復興事務所長名義の書面により右修正による換地予定地の現地指示を同月二十九日に行う旨の通知を発し、右書面はその頃原告に送達されたこと及び同日同事務所係官が原告方に赴き隣地所有者立会の下に右修正による換地予定地を現地に就き指示したことを認めることができ、証人亀田甲の証言及び原告本人尋問結果中右認定に反する部分はいずれも措信し難い。

(ハ) 前二箇の換地予定地の同一性

およそ土地区画整理計画の変更に伴つて新換地予定地(乙地)が従前の換地予定地(甲地)とは全く別箇のところに新たに定められたときは、従前なされた甲地への移転を命ずる移転命令により、新たに乙地への移転を実現させることはできないが、新換地予定地が従前の換地予定地の位置を動かすことなく、従前の換地予定地に比し輪廓或は面積に変動があつたにすぎないような場合にはそれは当初の移転命令に対する新換地予定地の指定と言うよりは従来の換地予定地の修正にすぎないと言うことができる。従つて改めて移転命令を発し換地予定地を指定する必要はなく、従前の移転命令の前提となつている当初の換地予定地の地形面積等の修正を通知すれば足り、その方法は換地予定地指定手続に準じ被指定者をして修正を明確に認識せしめる方法であれば足ると解すべきである。これを本件についてみると、成立に争のない乙第一、二号証(図面)の記載及び検証の結果を綜合すると、前記昭和二十四年二月十五日当時の換地予定地と同年十一月二十九日当時のそれとを比較すると、後者は前者の規模を多少変更したが概して土地を北側大通りに向い約三間を復位せしめたに過ぎないことを認めることができ、右事実によれば両者は当初の換地予定地として同一性が失われていないということができる。かかる換地予定地の変更につき改めて移転命令を発し更に換地予定地を指定する必要はないものと言わねばならない。従つて前記昭和二十四年十一月二十九日の予定地指示は前記換地予定地指定の指示と言えることになる。

(ニ) 昭和二十七年一月中地割協議

ところが前記認定に於ては前施行者は地主たる原告のみに対してその所有する土地全部についての換地予定地修正変更を通知し、その指示を為したにすぎず右換地予定地内には前記認定の通り山口金之助等借地人があり、原告が直接占有使用する部分とそれ等借地人の使用部分との個別の指示が為されねばならない筈であつて、右の指示のみによつては原告は、その所有建物の移転先を確定することができない。ところが証人山口金之助及び同藤田進の各証言に右両証言により成立を認める乙第十号証の一(届書)同号証の二(図面)同第十六号証(図面)を綜合すれば原告は昭和二十七年一月十六日頃、宇都宮市池上町三千二十番地の原告方居宅において、前記修正された換地予定地内における原告前記山口金之助及びその後前記滝沢武から、その土地上の借地権を承継した訴外佐藤左門の各使用部分の地割案を図面に就き、右両訴外人に示して両名の同意を得たこと及び右の協議に被告側の担当係官も立会い、右協議内容を了承した事実を認定することができ、証人谷田部正男、同亀田甲の各証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難い。

(ホ) 借地人山口金之助の借地抛棄

尚お証人山口金之助、同谷田部正男、同亀田甲の各供述及び原告本人尋問の結果並びに検証結果の各一部に、証人山口金之助の証言により成立を認める乙第十一号証(届)の記載を綜合すると、その後昭和二十七年八月三日に至り前記山口金之助は前記土地上の借地権を抛棄し、その旨を被告に届出で、同月十日頃迄に前記借地上の建物その他の工作物を収去してこれを原告に明渡し、原告は之を了知の上その後右地上に堀立小屋を建てこれを使用している事実を認めることができ、右認定を覆し得る証拠はない。しからば山口金之助の有する借地権は同年八月三日頃消滅したのであるから、右借地に関する権利義務は当然原告が承継し、従つて同人の借地に対する換地予定地は当然に原告の換地予定地に吸収されるものと解するこの場合該換地予定地と残り借地人佐藤左門の換地予定地との地割は、原告との間に協議済であることは前認定のとおりである。

(ヘ) 地割協議勧告手続の当否

換地予定地指定の方法については法規上制限がないのであるから、一筆又は接続する数筆の土地の一区域の所有者がその所有地の一部を他に賃貸している場合に、土地区画整理施行者は土地所有者に対しその所有地全体に対する換地予定地を指示し、右換地予定地内における土地所有者と借地権者とが移転すべき換地予定地の地割については、両者の協議に委せ、その協議の結果を届出せしめる方法によつて個々の使用地に対する換地予定地の指定をすることは必ずしも違法の措置とは言い難い(しかし最良の方法でないことは今回実証されてはいる)。原告に対する換地予定地の指定につき前記方法が採用されたことは既に認定の通りである。

(ト) 換地予定地指定につき図面指示と現地指示

土地区画整理施行者が換地予定地を指定し、或はその指定した換地予定地を修正変更するには図面を縦覧に供しなければならないという法規上の根拠はなく、換地予定地の指定は、土地所有者その他の関係人に対し換地予定地の範囲を明確に了知させる方法によれば足りると解すべきあるから、他の方法によつて換地予定地を明示した以上は、その図面を示さないことは手続上の不備にならない。前記換地予定地の指定につき、図面による指示が為されたことは遂に証拠は存在しないが、乙第五号証の一乃至三(通知書)等により明かな通り被告等事業施行者は図面に対し一括縦覧を許していたのである。

(チ) 結論

原告に対する換地予定地の指定については以上説明の通り図面による指示は為さないことは明かであるが、現地指示については結局関係者一同の地割協議の成立により完了さしたものであり原告の主張は採用するに由なき結果となつた。

(2)  移転命令の実施について

原告は前記移転命令は換地が確定していないと主張するが、右移転命令の換地予定地の通知が為されたことは原告の認めるところであり、換地予定地通知の指示が完了していることは前項に於て詳細説明した通りである。従つてこの点に関する原告の主張も採用し難い。

(3)  補償金額決定通知について

原告は、前記移転命令につき補償金額の査定を受けず又補償金配当の表示を受けたこともないから、右移転命令は無効である旨主張するが移転命令を受けた者は常に移転開始前に補償金額の決定を受ける法律上の権利を有するものと言うことはできないから、右の主張はそれ自体理由がないと言うべきである。

(4)  換地の減歩率について

原告は前記換地予定地の減歩率は不公平でありその査定方法は不当であり、坪の端数切捨は不当であると主張するがこれを明認するに足る証拠はなく、原告本人の訊問結果は直には措信できない。寧ろ証人城経親の証言によれば、宇都宮市特別都市計画土地区画整理施行地区内における換地の減歩率の最高限度は平均一割八分であるが、事情により三割まで拡張することが許されているのであるが証人谷田部正男の証言の一部に成立に争のない甲第九号証の四、(委員会附議)甲第四号証の一、(協議会附議)の記載を綜合すると、前記換地予定地修正当時の原告所有土地の公簿上の面積(これを基準とすることの当否については後に判断する)は江野町三千百十五番地のイの地積が十七坪六合七勺、池上町三千二十番地の一の地積が五十八坪九合七勺であつて、右両者の合計地積七十六坪六合四勺に対し、前記修正による換地予定地の地積は五十九坪であつて、その減歩率は約二割三分であり、尚お隣接する訴外田中長次所有地の地積は百九坪一合二勺、その換地予定地の地積は八十五坪であつて、その減歩率は約二割二分であることを認めることができるのであつて、原告所有地に対する減歩率は普通最高限度を超すことは明かであるが除外例の範囲内に止まるものである。

(5)  公簿上の地積と実測地積との差について

原告は換地予定地と所有土地との実測差の土地を被告は侵奪したと主張するのである換地予定の坪数が原告所有土地の土地台帳面の坪数を基準としたことは被告の認むるところであり、成立に争ない甲第四号証の一(地積誤謬申告書)によれば、原告所有土地が実測上土地台帳の地積より差増のあることが認められるが、成立に争のない乙第三号証(昭和二十二年栃木県告示第四四九号宇都宮市特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程)によれば、前事業施行者の定めた土地区画整理施行規程第三条第一項は、換地交付の標準及法第十六条の補償地積算出の基準となるべき従前の土地各筆の地積は、昭和二十二年三月一日現在の土地台帳地積によると規定し、本件土地に対する換地予定地指定の基準も、右の規定に基き昭和二十二年三月一日現在の土地台帳記載の地積によつたことを認めることができる。右規程第三条第三項は、土地所有者は整理施行者が別に定める期間内に実測図を添付し土地台帳地積の訂正申請をなし査定をうけることができる旨を定め、土地台帳地積が実測地積より少い土地所有者に対する一種の救済規定が存するのである。尚お乙第四号証(昭和二十五年五月十五日宇都宮市告示第三三号宇都宮市特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程)によれば、被告においても前同様の規程を設けているのであつて、被告等事業施行者はこれ等の規程に準拠し換地予定地を定めたものと解せられるのである。しかもこの規程の趣旨とするところは原告の所有土地を侵奪するものではなく、換地予定地の地積を算定する規準としたに過ぎない。但し補償地積算出につき不服の理由とすることは別箇の問題であつて論外である。以上の理由により原告の主張を排斥する。

(6)  区画整理委員の欠格について

特別都市計画法第十一条の規定による宇都宮市特別都市計画事業復興土地区画整理委員会の委員の一人として石海勇次郎が選任されていることは、当事者間に争がない。原告は、右石海勇次郎は被選挙権を有しないにも拘らず両委員会委員として当選し会長に互選されて委員会を招集し議決に関与したから、前記換地に関する議決は無効である旨主張するのであるが、仮りに右石海勇次郎が無資格でありながら委員に当選したとしても原告主張の如く議決が直ちに無効であると断ずることを得ないものと解する。即ち右石海勇次郎の当選は当然無効とは認められないのであるから、当該理由によりその当選無効に対する行政的措置が講ぜられるまでは、委員会の議決に参加し又は委員会の会長に選任されても、右の議決又は選任はそのまま存在するのであるしかるに原告よりはかかる事情の主張も立証もない。

第二、代執行の戒告取消について

(一)  第一に於て説明した通り移転命令は原告の主張悉く理由なく毫も違法の点なきに帰したのであるが、栃木県知事に代り被告が事業施行者となり、昭和二十七年五月十四日原告に対し移転の催告を為し、同年七月二日被告が原告に対し本件土地上に原告の所有する前記建物を同月七日午後五時迄に移転しないときは、被告が代執行をなすべき旨の戒告をしたことは、当事者間に争ない。

(二)  原告は右戒告は取消さるべきものとして種々理由を主張するので順次判断する。

(1)  移転命令に関するもの

前記移転命令が無効であることを理由に、原告は戒告の取消を主張するが右移転命令が無効でないことは前記認定のとおりである。従つて、原告の主張は、理由がない。

(2)  大通幅員変更に関する建設省告示の性質について

原告は戒告は建設省告示に関するもので違法であり不能を目的とすると主張するのである。そこで当初の宇都宮市特別都市計画は大通りの幅員を三十六米とすることを根幹として定められ、これに基き原告に対する換地予定地指定及び移転命令がなされたが、その後大通りの幅員を三十米とすることに改められたため、昭和二十四年十一月二十九日頃右の換地予定地指定が修正変更されたこと、及び昭和二十七年一月十六日頃右予定地指定の指示が完了されたことは、いずれも前記認定のとおりであり、都市計画法第三条及び特別都市計画法施行令第一条の規定に基く、建設大臣の右街路幅員変更に関する決定が昭和二十七年十月三日建設省告示第千二百七十三号により告示されたことは、当事者間に争がない。しからば右移転命令に関する諸手続は建設省告示前に為された違法手続の感がある。

ところが特別都市計画法の基本法たる都市計画法第三条の規定によれば、特別都市計画は主務大臣が決定することになつているが、その立法の趣旨は、土地区画整理の施行の適正な運営を図るため、主務大臣が土地区画整理の大綱を明かにすることを目的としたものであると解せられる。従つて土地区画整理施行者は、主務大臣が特別都市計画又はその変更を決定した後に、これに則つて土地区画整理をなすべきであることは言う迄もない。しかしながら、土地区画整理施行者が、主務大臣の特別都市計画変更決定を待たずに、従前の土地区画整理を変更したとしても、右の土地区画整理の変更内容が、主務大臣が後になした特別都市計画変更決定の内容と同一であるときは、土地区画整理施行の適正は害せられなかつた訳であるから、右の変更決定前になした整理施行者の行政措置の瑕疵は治癒されるものと解すべきである。そこで、前施行者のなした換地予定地の修正変更であるが証人谷田部正男の証言によれば事前に主務省の内示を受けてあつたことが認めらる、仮りにこの証言がないとしても主務大臣たる建設大臣の決定した街路変更も、共に大通りの幅員を三十米に改めたものであることは前記判示のとおりであるから、右告示のなされたことにより、前記換地予定地指定の修正変更並びにこれを前提として被告のなした代執行戒告の瑕疵はいずれも治癒したものと解することができる。従つて、又右戒告が不能の事項を目的とするものであるとの原告の主張は採用し難い。

(3)  新なる換地予定地指定の要否

原告は、本件戒告は大通りの幅員が三十六米と定められていた時代の換地予定地への移転を実現することを目的としたものであるから、大通りの幅員が三十米と定められた現在においては、更に別個の換地予定地への移転が必要となると主張するのであるが、前記認定のように本件移転命令は現在においては大通りの幅員を三十米と変更した後の換地予定地へ移転すべきことを命じたものとして存在していると解すべきであるから、右の主張も理由がない。

(4)  移転の催告に対する異議申立について

原告は異議に対する決定なきことを理由に戒告の違法を主張するのである被告が、昭和二十七年五月十四日原告に対し、本件土地上の原告所有建物の移転を催告したこと及び原告が同年六月二十三日右催告につき被告に対し異議を申立てたことは、当事者間に争のないところである。そして、特別都市計画法第二十六条において準用される都市計画法第二十五条によれば、行政庁のなした処分に不服ある者は、訴願をなし得る旨規定せられているけれども、これに対し異議申立をなし得る旨の規定はない。従つて被告が右の異議申立に対し判断を示すことなく、前記戒告をなしたことは違法とは言い得ないので此の点に関する原告の主張も理由がない。

(5)  予算を伴わない代執行の戒告について

原告は、宇都宮市特別都市計画事業の執行に対する国の予算が被告に対し配布され得ないにも拘らず、被告が戒告をなしたのは違法であると主張するが、特別都市計画法及び同法施行令の規定によれば特別都市計画事業は全額国庫補助により行われるものではないのみならず成立に争のない乙第十四号証(通達)の記載によれば、建設大臣は被告に対し昭和二十七年七月三十一日、昭和二十七年度宇都宮都市復興事業費国庫補助金として千八百五十万円を配布する旨を通知したことが認められるから、右の主張も亦理由がない。

以上原告の請求原因たる理由につき説明を加えたが、これを要するに原告の請求はいずれも理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用は全部敗訴当事者たる原告の負担とすることとした、よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 岡村顕二 石田実 大和勇美)

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