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宇都宮地方裁判所 昭和28年(ヨ)14号 決定 1953年3月18日

申請人 堀内耕一 外三十五名

被申請人 株式会社大興電機製作所

主文

被申請人が昭和二十八年一月二十一日附申請人等に対してなした解雇の意思表示はその効力を停止する

申請人等のその余の申請を却下する

(無保証)

理由

第一、申請の趣旨

主文第一項同旨並に被申請人は申請人等に対し所定の給与の支払をせよ被申請人は申請人等の就労を妨害してはならない。

第二、申請人の主張

被申請人は、東京都品川区中延四丁目一四〇二番地に本社を置き、栃木県塩谷郡矢板町大字矢板一五二六番地に矢板工場を設け電機通信器用部品の製作を目的とする株式会社であり。申請人は何れも被申請人会社の従業員で、昭和二十八年一月二十一日現在に於て申請人中左の者は夫々矢板工場労働組合に於て、別紙第一目録記載の地位を占め労働者の生活権擁護のため被申請人会社に対し積極的に組合活動をして来たが、右以外の別紙第二目録記載者も夫々組合活動に熱心に協力し、殊に昭和二十七年十二月に於ける越年資金獲得闘争等に於て組合員の中枢として組合員の生活権擁護のため会社に対し、積極的に活躍して来たところ、昭和二十八年一月十六日会社側は経営不振を理由に人員四十名の整理を組合に申入れ団体交渉の結果希望退職者を以て之に当てることに協議成立したが、会社の提示した退職金に不満あり、その折衝中に会社は突如、昭和二十八年一月二十一日夕刻退社時に際し、翌二十二日の電休日の翌日たる二十三日を臨時休業とすることを宣言しその間二十一日附にて申請人等に対し、内容証明郵便を以て解雇の意思を表示し来た。然し、右意思表示は、(一)組合の正常行為をした事を理由とする解雇であり、労働組合法第七条第一項に違反している。(二)就業規則第四十九条第一項第二号によれば、従業員解雇基準として已むを得ない業務上の都合によるとき、但し従業員の過半数の代表者と協議して行うとあるが何等協議しないので約款に違反している。(三)右一月十六日会社と組合間で、希望退職者を募る旨契約が成立しているに拘らず、一方的に破棄し解雇の通告をしておるので、これは契約に違反している。(四)何等正当の事由に基かず、且つ団体交渉を中途にて打切り臨時休業中になされたものであるから権利の濫用であり、信義誠実の原則に反する。従つて法律上無効である。そこで申請人等は解雇無効確認の本訴を提起すべく準備中であるが、申請人等はその日の生計に事欠くのであり、この儘推移するには餓死を免れない状況にあるので本案判決確定迄地位の保全の仮処分決定を求める。

第三、被申請人の主張

被申請人は本件申請却下の決定を求め、その答弁は申請人等の主張事実中本社及矢板工場の所在申請人等が社員であつたこと、矢板工場の従業員二百五十一名が労働組合を組織しており、昭和二十八年一月二十一日現在、申請人主張の内堀内耕一外八名(熊田良平を除く)がその主張の地位にあつたこと、越年資金獲得闘争で委員長石月作造以下十七名が副委員長及委員であつたこと、人員整理に関し、組合と団体交渉をしたこと、同年一月二十三日臨時休業したこと、解雇の意思表示をしたことは認めるがその他の主張事実は否認する。被申請人は発注元たる日本電信電話公社からの受注が減少し、一般の需要も縮少する見込にて経営上の危機に直面したので、経営の合理化を計る必要があり、就業規則第四十九条第一項第二号に基いて組合側に団体交渉を開くことを申入れ、昭和二十八年一月十六日午後一時の団体交渉の際経営の合理化のため余剰人員の整理を要することを説明し、希望退職者の申出は同月二十日午後四時迄とする旨申入れ第二回団体交渉を同月十八日午後一時と定め、その時開かれた団体交渉の際組合側から企業合理化を人員整理により解決する会社の考え方には反対であること其の他の回答があつたがこれに対し、会社側は翌十九日回答することとし、翌十九日第三回の団体交渉を開いたが、会社側の申出と組合側との回答との間には距離があつて円満妥結の見込がないから、組合側の申出を拒絶し交渉を打切ることにした。被申請人は組織の変更及び配置転換をする事務的必要上同月二十三日を臨時休業としたもので、解雇は(一)業務上の能力(二)勤勉度(過去三ケ年の実績による)(三)人物に対する信頼性(四)将来性(五)精神身体の健全でないもの(六)離職するも生活に比較的影響の少いもの(七)他の職場に配置転換の困難のもの等の整理基準に照し申請人等を該当者として、解雇したものであり、昭和二十八年一月二十三日迄の賃金は同二月五日支払を了し同二十四日以後は各従業員は就労してない許りでなく同二月二十二日午後二時三十分ストライキの宣言をなし争議に突入しているので当然賃金の請求権はないから申請人等の申請は、理由がないというのである。

第四、当裁判所の判断

按ずるに申請人等主張のように申請人堀内耕一外八名(熊田良平を除く)が、その労働組合に於てその主張の地位にあること解雇通知のあつたことは、当事者間に争ない。而して被申請人の疏明によると被申請人は経営上の危機に直面し、経営合理化のため人員整理の必要あり、被申請人はその主張のような解雇の基準を定め申請人等は之に該当するものとして解雇したもののように一応見られる。然し申請人の疏明によると、申請人堀内耕一、君島勲、熊田良平、小川岩夫、高橋義雄、増田常夫、高井享、松田伸一、立石泰之助、塩沢茂は昭和二十七年末の越年資金獲得闘争委員会の委員として活躍したこと、その他の申請人等も組合運動を熱心に推進し来たこと、昭和二十七年十一月末日に於ける人事考課評定表による申請人高井享、増田常夫、高橋義雄、松田伸一、小川岩夫、熊田良平の作業成績順位は何れも上位で、申請人君島勲、堀内耕一、立石泰之助、塩沢茂の作業成績は優位であつたことが認められる。これに前記争のない事実を綜合すれば、申請人等に対する前記解雇の意思表示は主として、申請人等が組合活動をしたことに基因するものと一応推認することができる。然らば、右解雇の意思表示は労働組合法第七条第一号に違反する行為と認めざるを得ない。よつて、その余の判断を待つ迄もなく申請人等に対する解雇は無効であるのに被解雇者として取扱はれることは、申請人等にとり著しい損害であるから本案判決確定迄本件解雇の効力を停止する仮処分を命ずるのが相当である。その余の仮処分は給与の支払については、現にストライキ継続中であること、その他の事実より必要のないものと認め、就労については労働協約等に特別の定めのない限り使用者は、労働者の労務提供を受領する義務はないものと認める。(賃金の支払又は損害賠償の義務は別途に考えらるべきであるが)から、仮処分の申請は理由ないものと認め却下すべきものとし主文のように決定する。

(裁判官 真田禎一)

(別紙第一および第二目録省略)

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