大判例

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宇都宮地方裁判所 昭和45年(ワ)279号 判決

原告

阿久津洋子

被告

関一八

第一 主文

一、被告は原告に対し、金一二万三、八八〇円及びこれに対する昭和四四年九月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

一、原告のその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用はこれを三分し、その二を被告の、その余を原告の各負担とする。

一、この判決第一項は仮に執行することができる。

第二 本訴請求

「被告は原告に対して、金一七万三、八八〇円及びこれに対する昭和四四年九月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。」との判決並びに仮執行の宣言。

(自動車事故損害金並びに事故後の遅延損害金)

第三争いのない事実

一、本件交通事故の発生

日時 昭和四四年九月九日午後九時五分ごろ

場所 宇都宮市塙田町二六九番地先道路上

被告車 普通乗用自動車(栃五ぬ六四五八号)

運転者 氏名不詳者(逃走中)

受傷者 自転車に乗つて西進中の原告

態様 西進する被告車が同方向に自転車で進行中の原告に後方から衝突して、そのため原告は頭部及び両肘を打つて受傷した。

二、被告の責任原因

(一) 被告は被告車を所有するものである。

(二) 被告は被告車を所有するものであるが、事故当時妻の実家であり事故現場の近くにある宇都宮市塙田町二六六番地「魚よし」こと小野イチノ方に所用で被告車に乗つて立寄り店頭に駐車したが点火装置のキーをはずすこともなくかつドアに施錠もせずに被告車を離れたところ、数分後に被告車の盗難に会い、泥棒が被告車を運転して五、六〇メートル位進行した地点で本件交通事故を惹起したものである。

第四争点

原告の主張

一、被告の責任原因

(一) 運行供用者責任

被告は被告車を所有し、自己のために自動車を運行の用に供する者であるから、自賠法三条本文により保有者として運行供用者責任を負うべきである。

(二) 管理上の過失責任

仮にそうでないとしても被告は被告車を所有するものであるところ、店頭に駐車するに際し点火装置のキーを外すこともなくかつドアに施錠もせずに被告車を離れたところ数分後に盗難に会つて、本件事故が発生したものである。人や車の通行する道路上に駐車してエンジンキーを点火装置に差し込んだままドアに施錠もせずにしておくときは、他人によつて車を運転され事故発生の恐れが多分にあることは相当の注意をもつてすれば予見できたはずであるから、被告の過失と本件事故との間に相当因果関係があるから被告は車の管理者として当然用いなければならない注意義務を怠つた過失により本件事故から発生した損害を賠償すべきである。

(三) 共同不法行為責任

仮にそうでないとしても被告の前記過失がなかつたならば本件事故は惹起しなかつたのであつてこのことは被告において予見可能であつたというべきであつて、被告の過失行為と本件事故との間には相当因果関係を認めなければならない。そうすると、この過失行為は被告の過失による不作為であつて自動車窃盗者の不法行為に対していわゆる不真正共同不法行為を構成するものを解すべく、被告は自動車窃盗者の共同不法行為者として原告の蒙つた損害を賠償すべきである。

二、損害の額

(一) 休業補償費 金一万三、八八〇円

原告は宇都宮市新宿町四〇九番地株式会社小峰装身具工業所に勤務するものであるが、本件事故のために昭和四四年九月九日から同年一〇月四日までと、同月七日、八日、一四日、二〇日、二七日の合計三一日間欠勤しその間金一万〇、九二〇円の給料支給を受けた。しかし原告は前三カ月の稼働日数は昭和四四年六、七、八月三カ月の平均月当り二五日であり受給金額は右三カ月の合計額は六万〇、一六四円月当り平均二万〇、〇五四円である。これを日割にすると八〇〇円となる。そうすると原告の欠勤日数三一日分は二万四、八〇〇円であるところ、現実の受給額が一万〇、九二〇円あるだけであるから、差引一万三、八八〇円は本件事故のために欠勤したことによる損害である。

(二) 慰藉料 金一六万円

原告は本件事故当時会社勤務の一七才の女性で、頭部挫傷、脳震盪、鞭打症、両肘挫傷の傷害を受け治療期間は二カ月を超えること等を考慮すると慰藉料一六万円をもつて相当とする。

第五証拠〔略〕

第六争点に対する判断

一、被告の責任原因

(一) 運行供用者責任

第三の二の争いのない事実によれば、被告は被告車の所有者であつても、何ら特段の関係のない全くの他人である泥棒によつてこれを運転されたものであつて、被告には被告車に対する運行支配も運行利益も認められないのであるから、本件事故当時被告車を自己のため運行の用に供していたものと認める余地はなく、たとえ泥棒運転が原告主張のように被告の過失によつて可能となつたものとしても、そのことによつて被告が自賠法三条本文所定の責任を負うべきではない。

(二) 管理上の過失責任

第三の二のとおり、被告は被告車を所有するものであるが、被告車を事故現場から五、六〇メートル離れた妻の実家「魚よし」こと小野イチノ方前の道路上に駐車させたときにエンジンキーを点火装置に差し込んだままかつドアに施錠もせずに被告車を離れたことは、被告車の管理者として当然用いなければならない注意義務を怠つた過失がある。けだし、人や車の通行する道路上に駐車してエンジンキーを点火装置に差し込んだままドアに施錠もせずにしておくときは、他人によつてその自動車を運転されそのうえ不測の事故が発生する恐れが多分にあるから、かかる場合自動車の管理者としては、道路上に駐車して自動車を離れるときは、必ずエンジンキーを点火装置からはずしドアに施錠する等所要の処置をとつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるといわなければならない。そして本件の場合被告に右過失がなかつたとすれば、泥棒運転がなされることもなく、従つて当然本件事故の発生もなかつたものと考えられるから本件事故は被告の過失によつて発生したものというを妨げなく、しかして人や車の通行する道路上に被告車を前記のように運転の容易な状態のまま駐車させておくときは、何人かによつてその自動車を無断で運転される恐れがあり、かつ現在のような危険に満ちた道路交通事情のもとにおいてはその無断運転者が第三者に対し損害を加えるような交通事故を起こす恐れもあることは、相当の注意をすれば予測することができるから、被告の過失と本件事故との間には相当因果関係があり、被告は民法七〇九条によつて賠償責任があるものといわなければならない。

二、損害の額

(一) 休業補償費 金一万三、八八〇円

〔証拠略〕を総合すると、原告主張どおり認められる。

(二) 慰藉料 金一一万円

原告が本件事故によつて肉体的精神的に大きな苦痛を受けたであろうことは容易に推察できるから、被告は原告に対し慰藉料を支払わねばならないが、その金額としては、〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故当時会社勤務の一七才の女性で、本件事故のため頭部挫傷(脳震盪)鞭打症兼両肘挫創の傷害を受け双葉病院で昭和四四年九月九日から同年一一月一四日まで六七日間通院診療(診療実日数は三一日)したほか、国立栃木病院にも三日間通院したことが認められ、これら本件諸般の事情によれば金一一万円をもつて相当とする。

第七結論

以上のとおり被告は原告に対し金一二万三、八八〇円及びこれに対する本件交通事故の発生の日の翌日である昭和四四年九月一〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務あることは明らかである。

よつて原告の本訴請求は右金額の限度において正当として認容すべく、その余の請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山修)

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