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宇都宮地方裁判所 昭和62年(ワ)389号 判決 1989年7月17日

原告

柴崎教雄

被告

遠藤満明

主文

一  昭和六二年八月二五日午後一時五分ころ宇都宮市上御田町五五三番地先路上で原告運転の普通乗用自動車栃五七て八〇〇三号と被告運転の普通乗用自動車栃三三せ一四二九号間で発生した交通事故に関し、原告の被告に対する損害賠償債務は金四万二四七四円を超えて存在しないことを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

日時 昭和六二年八月二五日午後一時五分ころ

場所 宇都宮市上御田町五五三番地先交差点(以下「本件交差点」という。)

当事者・車両

原告運転の普通乗用自動車栃五七て八〇〇三号トヨタカリーナ(以下「原告車」という。)

被告運転・所有の普通乗用自動車栃三三せ一四二九号トヨタクラウン(以下「被告車」という。)

事故態様 右交差点を左折しようとした原告車と左方道路から右折しようとした被告車とが、原告車右前部バンパー、被告車右後部ドア間で接触した。

車両損傷 原告車 なし

被告車 右リヤドア、右クオーターパネル破損修理費用七万〇七九〇円

2  原告の責任

原告車の進行道路には一時停止の標識があつたのであるから、原告は、本件交差点手前で一時停止して左右の安全を確認してから進行すべき注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠つたまま右交差点内に原告車を進入させた過失により本件事故を起こしたもので、民法七〇九条による責任がある。

3  過失相殺

被告には、本件事故の発生につき本件交差点を右折する際内回り進行をした過失があり、その過失割合は四割である。

4  訴えの利益

前記のとおり、原告の被告に対する本件事故による損害賠償債務は、被告車の修理費用七万〇七九〇円のうち原告の過失割合六割に相当する四万二四七四円のみである。しかし被告は本件事故により受傷したとして傷害に対する補償を求め、また新車を要求している。

5  よつて、原告は本件事故による被告に対する損害賠償債務が四万二四七四円を超えて存在しないことの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1(事故の発生)及び同2(原告の責任)の事実は認める。

2  同3(過失相殺)の事実は否認する。

3  同4(訴えの利益)の事実のうち、新車の要求をした事実は認め、傷害に対する補償の要求をした事実は否認する。

三  抗弁(本件事故による被告の受傷)

被告は本件事故により頸部捻挫、腰部打撲、右膝打撲・捻挫の傷害を受けたものである。

四  抗弁に対する認否

否認する。本件事故の態様からみて被告が主張するような障害が発生することはあり得ないものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因1(事故の発生)及び同2(原告の責任)の事実は当事者間に争いがない。

二  同3(過失相殺)について

原本の存在及びその成立に争いのない甲第一〇号証の一ないし八、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証に争いのない事実を総合すれば、本件事故は宇都宮市上御田町五五三番地先交差点を、原告が屋坂町方面から下反町町方面へ左折しようとしたところ、折から下反町町方面から屋坂方面へ右折しようとした被告車の右後部ドアに原告車の右バンパーを接触させたものであるところ、原告車の進行方向には一時停止の標識があつたのであるから、原告は本件交差点に進入する前に、右標識に従つて停止線で一時停止して左右の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然本件交差点に進入したのであるが、一方被告としても、交差点を右折するに際し交差点の中心のすぐ内側を通行すべきなのに中心より原告車寄りの内側を通行した過失があつたものと認められ、右事実からすると、過失割合は原告主張のとおり原告六に対し被告四とするのを相当とし、したがつて、原告は本件事故により被告が被つた損害のうち、被告車の修理費用の六割に当たる四万二四七四円を賠償する責任があるものというべきである。

三  同4(訴えの利益)について

被告が新車を要求した事実は当事者間に争いがなく、その余の事実は弁論の全趣旨により認められる。

四  抗弁(本件事故による被告の受傷)について

1  被告が本件事故によつて受けた衝撃の程度について

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証によれば、本件事故における原告車と被告車の接触時の原告車の速度は、被告車の最大変形量を目測の三倍である一五センチメートルと見ても毎秒一・五メートル(毎時五・四キロメートル)以下と推定されるところ、これにより被告車に生じる加速度は左後方向に〇・二九Gであり、被告車の乗員の身体が振れる距離は最大六センチメートルに過ぎず、被告がシートベルトを締めていて頸部に鞭打ち運動が生じたとしても、この衝撃はドライバーが日常何ら支障なく繰り返し体験している程度のものであつて、これによつて被告車に乗車していた者が頸部に傷害を受けることはありえないものであることが認められる。

2  被告の治療状況について

成立に争いのない甲第七号証、甲第八号証の一、二、証人森玄彦の証言によれば、被告は本件事故後、森医院において、頸部捻挫、腰部打撲、右膝打撲・捻挫との診断のもとに治療を受けていること、しかし右診断は被告の痛みの愁訴のみに基づくものであり、レントゲン撮影の結果は頸部及び右膝部に異常は認められず、その他右痛みを裏付ける客観的な所見はなかつたことが認められる。また、原本の存在及びその成立に争いのない甲第一二号証の一ないし一三七、甲第一三号証の一ないし七一によれば、被告は本件事故前の昭和五九年八月九日、バイクを運転してトラツクに正面衝突する交通事故により、第三腰椎圧迫骨折、右足部骨折の損傷を負つて、本件事故の約一か月前の昭和六二年七月二九日まで独協大学附属病院にて治療を受けており、前記森医院でのレントゲン撮影時にも第三腰椎圧迫骨折の所見があつたことが認められ、本件事故当時右損傷が完治していたか疑わしく、全掲甲第七号証記載の傷病のうち腰部と右膝部の障害は本件事故によるのでなく前の事故によるものである可能性がある。

3  右のとおり、本件事故自体による衝撃の程度は通常傷害を生じるものとはいえないほど軽微であること、森医院における治療についても被告の愁訴のみに基づくもので明らかに本件事故によるとみられる客観的所見はないこと、自覚症状についても本件事故の衝撃の程度からみて真実あつたか疑わしく、仮にあつたとしても過去の事故によるものである可能性があることなどを総合すると、結局、本件事故により被告が受傷したとの事実はこれを認めるに足りる十分な証拠がないことに帰する。

五  結論

以上によれば、本件事故による原告の被告に対する損害賠償債務は、原告の自認する四万二四七四円を超えては存在しないものというべきである。よつて、原告の請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 河野泰義)

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