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宮崎地方裁判所 平成8年(行ウ)3号 判決 1997年7月14日

宮崎県東諸県郡国富町大字伊左生五三番地

原告

近藤勇夫

右訴訟代理人弁護士

日野直彦

宮崎市広島一丁目一〇番一号

被告

宮崎税務署長 尾曲賢

右指定代理人

小澤正義

畑中豊彦

松木末男

竹原一郎

永田秀一

高野潔

池田和孝

橋本洋一

河口洋範

竹本龍一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成七年三月三一日付けでした原告の平成五年分の所得税の更正処分のうち分離長期譲渡所得の金額六八四万〇一〇〇円、納付すべき税額一九五万八九〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を昭和五五年一二月ころ、後藤勝浪(以下「後藤」という。)から取得して、平成五年二月一六日、有限会社郡鉄工所に二〇〇〇万円で譲渡し、平成五年分の所得税確定申告において、本件土地の右譲渡収入金額から以下の各金額を控除し、分離長期譲渡所得の金額を六八四万〇一〇〇円、納付すべき税額を一九五万八九〇〇円として法定申告期限内に被告に申告した。

(一) 原告が本件土地を取得する際に後藤に支払った売買代金一二〇〇万円

(二) 本件土地譲渡に要した測量費一二万四九〇〇円、手数料一万五〇〇〇円及び印紙代二万円の合計額一五万九九〇〇円

(三) 租税特別措置法三一条四項(平成七年三月改正前)に規定する分離長期譲渡所得にかかる特別控除額一〇〇万円

2  これに対して被告は、右(二)の費用は原告の支出であるとし、右(三)の特別控除額を適正であるとしたが、右(一)の原告が本件土地を購入した際の代金は六〇〇万円であるとして、平成七年三月三一日付けで、原告の分離長期譲渡所得の金額を一二八四万〇一〇〇円、納付すべき金額を三七五万八九〇〇円とする更正処分(以下「本件更正」という。)及び重加算税の金額を六三万円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定」という。)をした。

3  原告は、本件更正及び本件賦課決定に対し、平成七年四月二八日異議申立てをしたが、被告により同年六月二九日付けで棄却され、さらに国税不服審判所長に対し、同年七月二四日に審査請求をしたが、平成八年三月二二日付けで棄却された。

二  争点

原告の平成五年分の分離長期譲渡所得の金額の計算にあたり、本件土地譲渡所得から控除すべき本件土地の取得費(原告が後藤から譲り受けた本件土地の売買代金)。

被告は六〇〇万円と主張し、原告は一二〇〇万円と主張する。

第三争点に対する判断

一  前記当事者間に争いのない事実、各成立に争いのない甲第二、第四ないし第七号証、乙第一(原本の存在を含む。)ないし第四号証、第六、第八号証、第一五、第一七号証、弁論の全趣旨により各真正に成立したものと認められる甲第八号証(一部)、乙第七、第九号証、第一〇号証の一、二、第一二ないし第一四号証、第一六号証、証人後藤勝浪の証言(後記認定の信用できない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

1  本件土地は、都市計画法に定める工業専用地域の指定を受けているが、いわゆる角地ではなく、昭和五五年一二月当時、盛土等の造成もされていない土地であり、地目、現況とも田であった。

2  本件土地の近隣の土地につき次の売買事例が存する。

(一) 昭和五三年六月ころ、本件土地の隣の土地であり、本件土地と同様の区画整理によりほぼ同面積で、すでに埋め立てられていた宮崎県東諸県郡国富町大字本庄字上代五四四番の土地が、買主の買受希望により七二〇万円で売却された。

(二) 昭和五五年三月ころ、本件土地の近隣であり、工業専用地域の指定を受け、本件土地とほぼ同面積でいわゆる角地ではなく、盛土等の造成もされておらず、地目、現況ともに田であった同所五四八番の土地が、買主の買受希望により六〇〇万円で売却された。

3  理容業を経営していた後藤は、昭和五五年一二月ころ、同人所有の店舗兼住宅の建替えを計画し、必要な資金一六〇〇万円について、環境衛生資金から五六〇万円、住宅金融公庫から三六〇万円を各借り入れ、残りの資金の一部にあてるため、本件土地を売却することとし、妻のいとこにあたる原告に対し申込みをした(右五六〇万円の借入については担保が設定された証拠がないが、前掲乙第一三及び第一四号証によると、理容業等の環境衛生関係の業種を営む者は、国民金融公庫が環境衛生金融公庫からの受託業務として行っている環衛改善貸付及び環衛貸付から、一定の場合無担保又は保証人の保証により貸付を受けられたことが認められることからすると、これをもって特段異とするに足りない。)

その際、後藤は、同程度の面積で他の条件も類似していた前記2(二)の土地が七〇〇万円程度で売却された旨聞いていたことから、本件土地の相場が七〇〇万円程度であると認識して、親戚関係も考慮して原告とともに本件土地に関する土地売買契約書(代金六〇〇万円。乙第一号証)を作成した。

4  原告は、農地法の許可を受けて、昭和五六年二月二四日に本件土地の所有権移転登記を経由したが、原告は、右売買当時、本件土地について特段の利用目的をもっておらず、平成五年に売却するまで他人に貸して小作させていた。

5  後藤は、昭和五七年二月付けで、本件土地の売却による収入が六〇〇万円である旨の内容を含む所得税の確定申告(昭和五六年分)をなしたが、右申告手続に関与した税理士も、近隣土地の売買事例から、右六〇〇万円を適正な売買価格と考えていた。なお、原告も、税務署の照会に対し、本件土地の買入価格が六〇〇万円である旨回答した。

6  後藤は、本件が提訴された後も、本件第三回口頭弁論期日(平成八年一一月一八日)までは、被告の担当者らに対し、本件土地の売買価格が六〇〇万円である旨一貫して供述し、その旨の記載がある質問てん末書、聴取書、質問調書に署名・押印した。

二  右一で認定した事実のとおり、近隣土地の売買事例が存すること、その点に関し後藤に認識があること及び売主である後藤に売買の必要性があったことなどからすると、後藤と原告は、近隣土地の売買事例と同程度かやや低めの額を売買代金額とした土地売買契約書(乙第一号証)どおりの売買意思を有していたものと推認され、契約後の後藤と原告の行動や供述態度もこれに符合するものである。

したがって、原告の本件土地購入代金は、六〇〇万円であると認めることができる。

三1  原告は、本件土地購入代金は一二〇〇万円であった旨主張し、これに沿う原告本人尋問の結果、証人後藤勝浪の証言及び甲第一号証(売渡契約書)が存する。

2  しかしながら、前記一認定の事実からすると、本件土地の右売買契約当時の相場価格は六〇〇万円ないし七〇〇万円程度であり、原告が本件土地を相場価格を超えて高く購入する必要もなかったのであるから、代金額一二〇〇万円は不相当に高額であるといわざるを得ない。この点に関し、原告は、本人尋問において本件土地売買に際し、近隣土地の相場について一反あたり一二〇〇万円であるとの話を聞いた旨供述するが、右供述自体曖昧かつ不自然で客観的な裏付けがなく、たやすく信用することができない。

なお、前掲乙第六号証、各成立に争いのない乙第一一号証の一ないし五、弁論の全趣旨により各真正に成立したものと認められる乙第一八ないし第二〇号証によると、本件土地の近隣で、面積が本件土地の約二分の一の宮崎県東諸県郡国富町大字本庄字上代五三八番五の土地が、昭和六一年四月に六五〇万円で売却されたことが認められるが、右土地の売買は、本件土地の売買から五年以上も経過していて、二方が道路に面し、盛土がされ、水道管も敷設されるなど、本件土地よりも条件が優れていたと認められることからすると、右土地の売買価格をもって本件土地価格が一二〇〇万円であることの根拠とすることはできない。

3  また、甲第一号証は、売渡契約書と題する売主の買主宛書簡で、「物件代金壱阡弐百萬円也で売渡し前渡金として六百萬円受領致しました」との記載があるので代金一二〇〇万円のうち、六〇〇万円の領収書の意味も有するようであるが、残り六〇〇万円については領収書が証拠として提出されておらず、それが提出できない理由としての領収書の保管及び紛失状況については、甲第九号証、原告本人尋問の結果によるも判然としないから、結局甲第一号証は、裏付けを欠く書面といわざるをえない。

そして、原告本人尋問の結果と証人後藤勝浪の証言との間には、代金決定の過程、代金授受の方法等重要な部分で齟齬がある外、証人後藤勝浪の証言は、前記一6のとおり、本件第三回口頭弁論期日でそれ以前とは内容を異にするに至ったものである。そしてその証言は、代金額決定に関して、本件土地の当時の相場が一反あたり七〇〇万円程度との認識のもと、本件土地の売買代金を六〇〇万円とする合意ができた後、金額を示すことなく、あらためて原告に金銭の支払を要求したところ、原告が後藤に六〇〇万円を支払ったというものであって、その内容自体極めて不自然である。したがって後藤の証言及び原告の本人尋問の結果は信用することができない。

4  以上によると、原告の主張は、相場価格からして不相当な内容であり、主張に沿う証拠も信用するに十分でないから、採用の限りでない。

第四  以上のとおり、本件更正は適法なものと認められ、前記第二の一、第三の一、二の各認定事実によると、原告において税額等の計算と基礎となるべき事実を仮装し、それに基づいて納税申告書を提出したといえるから(国税通則法六八条一項)、本件賦課決定も適法である。

よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安藤裕子 裁判官 浅見宣義 裁判官 中田幹人)

物件目録

所在 宮崎県東諸県郡国富町大字本庄字上代

地番 五四三番

地目 宅地

地積 一〇〇八・二六平方メートル

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