大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宮崎地方裁判所 昭和27年(行)4号 判決

原告 迫田正彦

被告 住吉村長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十七年四月一日住吉村役場吏員たる原告を免職した処分は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因としてつぎのとおり述べた。

「原告は昭和二十二年六月十五日住吉村役場書記に任ぜられ、財務課税務係勤務、同二十四年四月一日統計主任兼畜産主任、同二十五年四月一日統計主任兼貯畜主任に各補せられ、同二十七年三月三十一日に至つたのであるが、四月一日被告は、住吉村議会において昭和二十七年度歳出予算中人件費二名分を削減されたとの理由で、原告を地方公務員法第二十八条第一項第四号により突如免職処分にしこれが通告をしてきたものである。

ところが、原告は何等罷免される理由がないので、同年四月八日住吉村公平委員会に右不利益処分に対する審査請求をしたが、同委員会は六月二日附を以て被告の右処分は不当でないことを承認する旨の判定を下した。そこで原告はこれを不服としてさらに六月四日同委員会に再審査を請求したのであるが、同委員会は七月六日初度の判定を再確認する旨の判定を為したので、ここに原告は右被告の処分を不当として訴を提起する次第である。

以下原告が罷免される理由なく、被告の右処分は違法で取消さるべきものであることを明らかにする。

原告は鹿児島実業学校工業科を卒業し、大正十五年二月十二日鹿児島地方専売局に奉職、爾来十五年余その管内に勤務し、主として会計事務を管掌したのであるが、専売局の会計事務は他の一般官庁の会計事務に比し最も困難視されるもので原告は会計事務については相当の自信を有するものである。その後日本藷類統制株式会社宮崎出張所、川崎航空機工業株式会社都城工場等に転職し、応召、終戦に至つたもので、この間昭和十七年肩書住吉村に転住しているものである。而して原告は前記のとおり昭和二十二年六月十五日住吉村役場に奉職したのであるが、爾来村民の奉仕者として至公至平勤勉精励したことを自負している。具体的な事実の一、二について記述するならば、住吉村は昭和二十六年八月文部省普通学務局長から教育統計事務優良村として表彰され(県内三ケ町村のみ)たのであるが、これは原告が統計主任としての功績たるはもちろんである。原告は昭和二十六年四月貯畜主任を命ぜられたのであるが、納税成績が良好でないので貯畜組合結成の必要を痛感し、同年十月頃からこの結成に乗り出し、各部落に出張し、あるいは説明会をもよおし、あるいは部落民と膝詰談判をするなど大運動を展開したのであるが、不幸にして同年十二月役場吏員一、二のものが公金費消事件のため検挙されるに至り、この運動の大きな障碍となつたけれどもこれに屈せず部落民を説き、あるいはなだめ、雨の日も風の日も、勤務の余暇を利して出かけ、深更に及ぶことも再三であつたが、昭和二十七年三月末迄に村内三十部落中実に二十七部落の納税貯畜組合を結成するに至つたのである。このことは当時疾弊のどん底にある住吉村農協に預金を吸収するためにも緊要であつてまさに一石二鳥の一大成功をのこしたものというべきである。

本件免職処分が地方公務員法第二十八条第一項第四号によつてなされたものであることは、前述のとおりであるが、右規定は免職処分を為す当該行政庁に、その裁量権を与えたものであることは明らかであるけれども、その裁量権は行政庁の恣意に委ねられたものではなく、そこには自ら一定の限界があり、それを逸脱すればその処分は違法となるものであつて、行政庁は同条同項第一号乃至第三号、その他妥当性ある客観的な規準に従い免職者を選定すべきものである。

ところで原告の勤務状態については前述したとおりで非難される何物もなく、むしろ優秀な吏員というべきものである。而して原告は四十四歳の働き盛りではあるが、本給七千六百円、家族手当千六百円のみの給与で妻及び長男、長女を扶養していたもので、家、屋敷を所有する外他に収入の途はないのである。したがつて本件の場合の如く二名分の人件費を削減された場合三十余名の吏員から免職者を求めんとするならば、地方公務員法第二十八条第一項第一号乃至第三号の該当者を先ず考慮するの外、老齢者、高給者、長期欠勤者、素行の納まらないもの、風紀問題のあるもの、生活関係が比較的良好なもの、等あらゆる角度から検討すべきで、若し懲戒に価するものがあれば、第一番に整理の対象とすべきは理の当然である。

而して住吉村役場に原告の外右該当者はいなかつたかというに、昭和二十六年末刑事々件を惹起し起訴猶予になつたもの一名、五十八歳の高齢者で高給のもの一名、昭和二十六年十月十八日からの長期欠勤者一名、その他風紀関係の噂のあるもの等々当然整理の対象になるものがいたのである。而も住吉村議会が昭和二十七年度歳出予算中二名分の人件費を削減した理由は、村財政の窮迫によるものでなく、昭和二十六年末職員中公金横領の不正事件で検挙されたもの二名があり、これら不正行為者を罷免すべく被告に要望したが被告がこれを断行しなかつたので村議会は感情的に予算を削減したと見る向もある。

以上述べたように住吉村役場吏員の中には原告の外に当然整理の対象となるべきものがあるのに拘らず、それらのものを差置いて原告を免職処分に附したのは裁量権の限界を超えた違法な処分である。

おもうに今回の整理について他に該当者は幾人もいるにかかわらず、原告一人をその対象としたのは原告が平素真面目で情実に流れず、正しく職務を執行するのが却つて被告の心情に合致せぬとされたものか、また原告のみが村外出身であるという事情が災したものか何れかであるとしか察せられないが、もしかかる事情の下に馘首されたとしたら原告は尚更本件処分の不当なることを痛感するものである。ともかく原告は本件処分によつて収入の途を奪われ家族四名共に路頭に迷うの窮境に立ち至つたのであるから、その違法処分の取消を求めて救済を願うため本訴に及んだ次第である。」

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として訴却下の判決を求め、その理由として、本件免職処分は地方公務員法第二十八条第一項第四号によつてなされたものであつて、原告も又これを認めている。而して右規定に基く免職処分は当該行政庁の自由裁量に属するものである。元来行政庁の自由裁量に属する問題につき、如何に処理することが行政上妥当なりやについては、当該行政庁自身が最も適確なる判断を下し得べきものなのであつて、その判断の結果の争は畢竟行政権の裁量の当否の問題にすぎず、これはいわゆる「法律上の争訟」に該当しないから行政事件訴訟の対象とならないものである、と述べ、本案について、主文同旨の判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。

「原告の請求原因事実中、被告が昭和二十七年四月一日附で、住吉村役場吏員たる原告を、地方公務員法第二十八条第一項第四号に則つて免職したこと、原告がこれを不服として住吉村公平委員会に審査請求ならびに再審査請求し、公平委員会が原告主張どおりの判定をしたこと、昭和二十六年八月文部省普通学務局長から住吉村が教育統計事務優良村として表彰されたこと、ならびに原告の経歴関係はこれを認める。然し住吉村が教育統計事務優良村と表彰されたのは、学校経費調査、学校施設調査、中学校卒業後の状況調査等各当該学校の調査支援にまつところ大なるものがあつたので、ひとり原告のみの功績に帰すべきものではない。また、納税貯畜組合の結成についても、これは原告の発意によるものではなく、当時全国的の運動として提唱せられたるところにより村当局としての計画に基き原告がその衝に当つたものというにすぎず、また、夜間部落民に説得したというのも昼間農事に勤めている村の住民に対しては、当然のことで毫も異とするに足りないことであり、而も昭和二十七年三月末当時に結成されていた納税貯畜組合は二十部落位にすぎなかつたものである。

原告に対する免職処分は全く地方公務員法第二十八条第一項第四号の規定に基いたものであつて、何人を退職せしむべきかは元より任命権者たる地方公共団体の長の権限に属することではあるが、その間原告の主張するが如き各般の事情は充分これを考慮に容れた後に敢て原告を免職したものであつて、極めて公正な判断の結果に基くものであり、原告の請求はその理由がない(各立証省略)。

三、理  由

まず被告の本案前の抗弁について判断する。

本件免職処分が地方公務員法第二十八条第一項第四号の規定によつて為されたものであることは当事者間に争がない。而して同号に基く免職処分は、原告も自陳するように、いわゆる自由裁量処分に関するものであることは、法文の規定自体からしても明白なところである。然し行政庁に任された自由裁量権といえどもその行使が全然当該行政庁の恣意に委ねられているわけではなく、そこには自ら法の企図する目的による一定の限界があり、その限界を超えたときにはその処分は単に当、不当の問題たるにとどまらず違法な処分として取消訴訟の対象となると解すべきである。したがつて、被告の免職処分が自由裁量の限界を超えた違法なものであるとしてその取消を求める原告の本件訴は、これを裁判権がないとして却下すべきものではない。

よつて、進んで本案について判断する。

前説明のとおり、地方公務員法第二十八条第一項第四号の規定に基く免職処分はその限界を超えない限り、行政庁の自由なる裁量によりこれを為し得るところである。而してその限界がいずれにあるかは一々列挙して説明することは困難であるけれども、例えば右規定に藉口してなされた地方公務員法第十三条にいわゆる平等取扱の原則や同法第五十六条にいわゆる不利益取扱の原則に違反する免職処分、あるいは任命権者の純然たる感情的、恣意的免職処分等はその限界を超えたるものというべきである。然し、原告の主張するところは同法第一項第四号により免職処分を為す場合も、任命権者は先ず同項第一号乃至第三号の該当者を考慮するの外、老齢者、高給者、長期欠勤者、素行の納まらないもの、風紀問題のあるもの、生活関係が比較的良好なもの等客観的に妥当性のある規準に従つて免職者を選定すべきであり、住吉村役場には原告の外に右の事項に該当するものが多数いたのにも拘らず之等のものを差置いて原告を免職処分にしたのは自由裁量の限界を超えた違法な処分であるというにある。もとよりそのような規準に従つて免職者を選定することは行政上妥当な措置ではあろう。然しそのようにしなかつたからとて、それはあくまでも当不当の問題であつて違法の問題とはなり得ない。被告が原告挙示のような事項を調査、考慮しないで原告を免職処分にしたというのであれば、それは一応被告の処分がその恣意によつて為され、したがつてその自由裁量権の範囲を逸脱したものであると推認され得る資料と為り得るであろうが、そのことだけで処分が違法となるものではない。而も被告が原告を免職処分にするに際して、かかる事項を調査考慮のうえ決定したものであることは被告本人の供述によつてこれを認め得るところである。

その他被告の原告に対する本件免職処分がその恣意に基きその他裁量権の範囲を逸脱したものであるとの立証はない。反つて、証人新名貞衛、斎藤虎一、落合兼挙の各証言ならびに被告本人の供述を綜合すれば、原告は仕事は割合真面目にやつていたが、性格的に、他人との協調性にやや欠けるところがあり、そのため役場内で他の吏員との事務上の連絡がうまくゆかず、被告はその点よりして原告が役場吏員としては不適格であると考えてこれを免職したということを認定することができる。右のような事情による免職処分は当然被告の自由裁量の範囲内で行われたものというべきであり、したがつて適法なものである。

原告は、被告が他にいくらも免職すべきものがいるのにかかわらず、原告一人をその対象としたのは、原告が平素真面目で情実に流れず正しく職務を執行するのが却つて被告の心情に合致せぬものとされたか、また原告のみが村外出身であるという事情からであると主張するけれども、右事実を認めるに足る証拠はない。

以上のとおり被告の本件免職処分がその裁量権を逸脱し違法であるとの証拠はないから、それが違法であることを前提としてその取消を求める本訴請求はその理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 仲地唯旺 斎藤格之助 高林克巳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!