大判例

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宮崎地方裁判所 昭和28年(行)1号 判決

原告 春田秀安

被告 宮崎県農業委員会

一、主  文

中郷村農地委員会が樹立した

中郷村上高一〇五五二

一畑一反六畝

中郷村秀原一〇四四八ノ二

一畑一反八畝七歩

に関する農地買収計画を取り消す。

訴訟の総費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、主文第一項記載の土地はいずれも原告の所有であるが、そのうち中郷村上高一〇五五二畑一反六畝(以下単に(一)の畑と称する。)はもと訴外神田国吉に賃貸して小作させていたところ、右土地は原告方近傍の地にあり且つ四十年生位の柿樹を多数栽植していて耕地に陰をさし作物もよく生育せず、むしろ宅地として好適であるところから、原告の長男秀郎の宅地たらしむべく昭和二十年九月小作人たる右神田に右農地を返還して呉れるよう申出たところ、同人は柿樹のため思うように作物ができないからこれを原告に返還するということで、こゝに右土地に対する賃貸借を合意解約した。従つて右農地は昭和二十年十一月二十三日以前すでに小作地ではなかつたのであるから遡及買収のできないものである。仮りに、右農地が昭和二十年十一月二十三日現在小作地であつたとしても、原告は専業農家で家族十人可働人員六人で田畑合計八反余を耕作していて労力は余つているのに対し、小作人たる神田は牛車による運搬業をなし、農業は副業に過ぎず、家族四人可働人員二人で田自作六畝十九歩畑自作三反二畝二十二歩小作一反六畝を耕作しているのであるから右農地を遡及買収することは自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一、第二、第四号に違反するものである。つぎに中郷村秀原一〇四四八ノ二畑一反八畝七歩(以下単に(二)の畑と称する。)は訴外渡辺半四郎に賃貸して小作させていたものであるが、原告方において自作の必要に迫られたので、昭和二十年一月同人に対して解約を申し込んだところ、自分は老人であり、戦争中で働く人も少いから返地するとの承諾を得て合意解約が成立し、一旦土地の返還を受けたところ、同人は昭和二十一年宮崎地方裁判所に小作調停の申立をし、同年五月十一日右土地に関し小作調停が成立し、その結果、昭和二十四年六月まで返還期日が延期されることとなつた。従つて右農地も昭和二十年十一月二十三日以前に合意解約が成立し、すでに小作地でなくなつていたものであるから遡及買収のできないものである。仮りに右農地が右の日現在小作地であり、渡辺が右の日以後において耕作の業務をやめたものであるとしても、情誼をつくして小作調停の成立した土地については小作人としては遡及買収の申請権を抛棄したものというべく、かゝる小作人が自作農創設特別措置法第六条の二第一項の申請をなすのは同条第二項第二号に違反するから右農地を遡及買収することは違法である。しかるに、訴外中郷村農地委員会は右(一)(二)の畑を買収計画に編入したので原告はこれに対して異議を申立てたが棄却されたので昭和二十二年十月三日被告に訴願を提起したところ、被告は右訴願を理由なしとする裁決をなし、同裁決書は同二十三年三月十二日以後二、三日以内に原告に送達告知された。よつて原告は中郷村農地委員会のなした買収計画を違法としてその取消を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、本件(一)(二)の畑がいずれも原告の所有であつたこと、原告が(一)の畑を神田国吉に、(二)の畑を渡辺半四郎に各賃貸していたことは認めるが、原告主張の日に各解約のあつたことは否認する。(一)の畑については原告は昭和二十一年四月頃その土地の小作人たる神田国吉に対し、小作契約は一年毎のものであるから是非返すようにと再三主張して原告の持参した合意解約の証書に押印するよう強制し同人の意思に反して当該畑地を取り上げようとしたものであつて、合意解約の事実はない。もつとも昭和二十二年五月原告が同人の大豆の播付を妨害し自ら大豆を播いたため同人はやむなく畑から引揚げたことはあるが、原告が大豆を取入れると直ぐ同人はそばを播付けその後耕作を続けている。同人家は相当の農家であるが、耕作反別は不明である。(二)の畑については原告主張の日にその主張のような小作調停の成立したことは認めるが、右は返還期日だけを延期したのではなく、小作契約を継続したものである。もつとも昭和二十一年四月頃原告がひそかに渡辺の作つている麦の間に大豆を播いたことはあるが、同人は耕作をやめたことはない。同人も相当の農家であるが耕作反別は不明である。従つて右(一)、(二)の畑はいずれも遡及買収のできるものであると述べた(立証省略)。

三、理  由

中郷村上高一〇五五二畑一反六畝(以下単に(一)の畑と称する。)および中郷村秀原一〇四四八ノ二畑一反八畝七歩(以下単に(二)の畑と称する。)がいずれも原告の所有であつて、(一)の畑を訴外神田国吉に、(二)の畑を訴外渡辺半四郎にそれぞれ賃貸して小作させていたことは当事者間に争がない。

成立に争のない乙第三号証の二、差戻前の第一審証人神田国吉、春田イツノ、園田武彦の各証言ならびに差戻前の第一審における原告本人訊問の結果(証人神田国吉の証言については後記措信しない部分を除く)を綜合すれば、昭和二十年九月頃原告は(一)の畑の小作人たる神田国吉に対し、右畑の返還を要求したところ同人はこれを承諾し、中一反歩位については現実にこれを原告に引渡し、原告は右部分を耕作したこと、ならびに残余部分については作物の関係もあり、しばらく右神田に使用させていたことを認めることができ、成立に争のない乙第一号証、差戻前の第一審証人神田ユキ、並に前掲証人神田国吉の証言中右認定に反する部分は当裁判所これを措信せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。然らばすなわち本件(一)の畑は昭和二十年十一月二十三日以前すでに小作地ではなくなつていたものであるから右農地を遡及買収することはできないものと言わなければならない。而して訴外中郷村農地委員会が右(一)の畑に関し遡及買収計画を樹立したことは被告の明かに争わないところであるから、原告の予備的主張に対して判断を為すを要せずして、右買収は違法としてこれを取り消すべきものである。

つぎに(二)の畑について、原告は、昭和二十年一月小作人たる渡辺半四郎との間に合意解約が成立したから遡及買収できないと主張し、前掲証人春田イツノの証言、原告本人訊問の結果中にはこれに沿うかの如き部分があるが、当裁判所これを措信せず他に右事実を認めるに足る証拠はない。然し右(二)の畑について、昭和二十一年五月十一日宮崎地方裁判所において、同二十四年六月までにこれを原告に返還するという内容の小作調停の成立したことについては当事者間に争がなく、前掲証人園田武彦、春田イツノ、差戻前の第一審証人渡辺静の各証言、前掲原告本人の供述を綜合すれば右調停の申立をしたのは渡辺半四郎であることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。而して右(二)の畑について中郷村農地委員会が遡及買収計画を樹立したことは被告の明かに争わないところであり、右遡及買収の申請の為されたのが右調停成立の日以後にかゝるものであることは、日附を除く他の部分について成立に争がなく公文書であるから日附の点においてもその成立を認め得る乙第四号証、成立に争のない第三号証の一、その他自作農創設特別措置法昭和二十一年勅令第六百二十一号自作農創設特別措置法施行令の規定よりこれを認めることができる。右認定した事実によれば、渡辺半四郎は右(二)の小作地について自ら裁判所に調停の申立を為し、昭和二十四年六月中に右畑を原告に返還すべきことを承諾し、その旨の調停が成立したにもかかわらず、右調停成立の日以後右畑について遡及買収の申請を為すことは、著しく信義に反するものであるといわざるを得ない。原告は、かゝる事情の下においては、渡辺半四郎は遡及買収の申請権を抛棄したものというべく、かゝる小作人が自作農創設特別措置法第六条の二第一項の申請を為すのは同条第二項第二号に違反すると主張するが、右自創法第六条の二は昭和二十二年十二月法律第二百四十一号により追加された規定であつて、本件遡及買収は右改正法律施行前のものであることは前掲乙第四号証等によつて認められるところであるから、原告の主張はその点において理由がないが、右改正法律施行前の昭和二十一年十月法律第四十三号附則第二項の趣旨から言つて、右の如き事情にある本件(二)の畑を遡及買収することはその裁量権を逸脱するものであつて違法であるといわねばならない。よつて原告の主張はこの点において結局正当に帰するので右買収計画を取り消すこととし、訴訟の総費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十六条後段を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 仲地唯旺 斎藤格之助 高林克己)

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