大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宮崎地方裁判所 昭和55年(レ)13号 判決 1982年4月12日

昭和五六年(レ)第一三号事件控訴人、同年(レ)第一六号事件被控訴人

第一審原告

竹崎栄

右訴訟代理人

鍬田萬喜雄

昭和五六年(レ)第一六号事件控訴人、同年(レ)第一三号事件被控訴人

第一審被告

二宮良子

昭和五六年(レ)第一三号事件被控訴人

第一審被告

日高サト

同事件被控訴人

第一審被告

日高恵美子

右三名訴訟代理人

野崎義弘

主文

一  原判決主文第一項を取消す。

二  第一審原告の本件土地境界確定の訴を却下する。

三  第一審原告の調停無効確認請求にかかる原判決主文第二項に対する控訴を棄却する。

四  控訴費用は一、二審とも第一審原告の負担とする。

事実《省略》

理由

第一調停無効確認請求事件について

一、二<省略>

三調停の効力と錯誤の検討

(一)  <証拠>に前示当事者間に争いのない事実を総合すると、次の各事実が認められる。

1 宮崎市福島町二丁目一帯の土地については、昭和一四年ころ宮崎市谷川土地区画整理組合によつて整然とした区画を有する土地が確定され、その結果、現在の原告地を包含した同町二丁目の旧二九番一の土地と現在の被告地を包含した同所の旧二九番五の土地が誕生した。

2 右土地区画整理組合は、区画整理の後、その結果を縮尺一、二〇〇分の一の宮崎市谷川土地区画整理確定図八二号の図面(<証拠>、以下整理確定図という)と縮尺六〇〇分の一の宮崎市谷川土地区画整理換地確定図という図面(<証拠>、以下換地確定図という)に残した。

3 右土地区画整理の際、別紙(一)第一図面のZ点やホ点に頭部に十字型の刻みのある8.5センチメートル平方のコンクリート製杭が打ち込まれた。

4 第一審原告竹崎栄は、宮崎砂利株式会社の代表取締役であるが、右土地区画整理がなされたのち、同会社の事務所と住宅を建築するため右の旧二九番五の土地全部を同会社名義で第一審被告らの先代亡日高武利から賃借した。さらに第一審原告は、昭和二五年から昭和二六年にかけて右の旧二九番一とその東隣の旧二八番の二筆の土地を訴外第三者から買受け以上の三筆の土地全体にわたつて右砂利会社の建物、住居等を建築し業務を営んでいた。

5 昭和四二年に至り、建設省は、右の旧二九番一及び五の各土地の北側を流れる大淀川の堤防改修工事を施行することになり、右二筆の土地のほぼ北半分を付近一帯の土地とともに収用して分筆し、所有権移転登記を経由した。その結果誕生したのが現在の二九番一(原告地)と二九番五(被告地)の各土地である。

6 二九番五の所有者であつた日高武利は「右収用により砂利会社の事業は事実上閉鎖となり、残地である土地についての賃貸借契約も終了した」として昭和四八年四月ごろから第一審原告竹崎栄に対して右土地の返還を請求したが解決がつかなかつた。そこで右事由を主張して同年一一月一五日、第一審原告竹崎栄と右砂利会社を相手方として建物収去・土地明渡の訴訟を提起した。

7 別紙(一)第一図面のとおり二八番一、二九番一(以上は第一審原告竹崎栄の所有地)、二九番五(日高武利所有地)の三筆は東西に連続し、昭和二五年ごろから以降はいずれも宅地として利用され、かつ、その全体にわたつて砂利会社と竹崎栄の建物が存在していたため原告地と被告地との所有権の限界線が明確でなく、前記の訴訟と調停において返還すべき土地の範囲が争いとなつた。

8 日高武利は右限界線及び自己の土地所有権の及ぶ範囲として別紙(一)第一図面の1―2の線(一四m)までを主張し、その根拠として換地確定図(甲一四号証)と建設省作成の実測図(乙二号証)を提示した。他方、竹崎栄は右の限界線及び自己の土地所有権の及ぶ範囲として「別紙(一)第一図面中の同人居住建物(昭和四七年に建てかえ)の軒が境界線からはみださないように建築した。」と主張し、その根拠として「水路側には区画整理当時に設置された十字の印をきざんだコンクリート杭がある。」と説明していた。

9 日高武利主張の一四mを納得できない第一審原告竹崎栄やその妻フジエは、法務局と建設省に赴いて図面を見たりして調べたが、いずれも一四mとあつて、当時、前示整理確定図の存在を知らなかつたため、日高武利の提示した図面に対する反論ができず、第一審原告竹崎栄は、やむなく一四mの主張を容認して別紙のとおりの調停が成立した。

以上の各事実を認めることができ<る。>

(二)  ところで調停における合意も訴訟上の和解と同様訴訟行為たる性質のほか私法上の和解たる性質をも併有し、これには民法六九六条の適用があるから、同条に従い、調停によつて争いの目的たる権利の有無が定められた場合は反対の確証が出てもその権利は和解により移転又は消滅したものとされる。

したがって、(1)当事者が争いの目的(対象)とし、互譲によつて決定した事項自体はたとえこれについて錯誤があつても、前同条に照らしこの錯誤を主張して調停の効力を争うことができず、調停は有効であるが、(2)和解契約の要素であつて、それが争いの目的(対象)となつた事項ではない場合、たとえば和解契約の内容上、争いの目的(対象)である事実の確定した前提ないし基礎として両当事者が予定した事項、即ち、争いもなく、調停(和解)における互譲の内容がその点についての不利益を認容することに及んでいない事項であつて、和解の要素をなすものについて錯誤があるときは、前同条の適用はなく調停は民法九五条により無効となると解される。

(三)  本件調停において成立した調停条項第三項では「日高武利は同人所有の別紙第一目録記載の、別紙(二)添付第二図面表示のA、B、E、F、C、D、Aの各点を順次直線で連結した範囲内の土地(以下、甲地という)の内、A、B、C、D、Aの各点を順次直線で連結した範囲内の土地25.88平方メートル(以下、乙地という)を、本日竹崎栄に対し、代金三五万二、三五〇円で売り渡す」旨を定め、同第四項で「竹崎栄は、前示甲地に建築してある同人所有の建物を昭和五〇年一月三一日限り収去して日高武利に明渡す」旨を定めていることは当事者間に争いがない。

そして、右調停条項には、甲地とくに係争地である乙地の所有権の存否の確認ないし、被告地と原告地の所有範囲を確定する旨を直接明言する文言は存しないが、前認定(一)の本件調停に至る紛争の経緯、互譲の趣旨に照らし、右調停条項、とくに第三項において甲地の所有権が第一審被告ら先代日高武利に存する旨を定め、その一部である乙地を第一審原告竹崎栄に売渡しその所有権が最終的に同原告に帰したことを定めたものというべきである。

このように調停和解に際して理論上先行すべき判断を留保のまま、本来その判断に依拠して存否の決せられる権利につき合意が成立することは少なく、むしろそのような場合を予想してこそ民法六九六条の適用があると考える(最判昭三六・五・二六民集一五巻五号一三三六頁参照)。

そして、本件調停において民法上の和解の対象となつたのは乙地の所有権の存否ないし原告地と被告地との所有権の範囲及びその限界線であつたのであるから、たとえ右調停成立後第一審原告主張のように同被告が乙地ないしその一部につき従来からその所有権を有し相手方である第一審被告ら先代日高武利は所有権を有しない旨を示す原、被告両地の境界を表わした確証(宮崎市谷川土地区画整理確定図八二号)が出たとしても、民法六九六条に従いこれにより錯誤による無効等として本件調停における民法上の和解の効力を争うことはできない(前掲最判昭三六・五・二六参照)。

したがつて、その余の判断をするまでもなく本件調停無効確認請求はその理由がない。

第二土地境界確定請求事件について

一土地境界確定の訴は隣接する土地の所有者が相隣接する二筆以上の土地の境界が不明又は境界につき争いがある場合に一筆の土地と他の一筆の土地との境界の確定を求める訴であり、この訴の当事者として適格を有する者は相隣接する土地の各所有者であつて、所有権を有しない者はその適格を欠くから、右両土地が同一所有者に属する場合にはその所有者が自己所有の両土地内にある境界の確定を求めるのは、当事者双方の所有土地の限界が二筆の土地の境界を基準として測定されるなど特段の事情がない限り、訴の利益を有しないのみならず、ひいて当事者適格を欠くものというほかない(最判昭三一・二・七民集一〇巻二号三八頁、最判昭四六・一二・九民集二五巻九号一四五七頁、東京高判昭五一・一・二八判時八〇五号六五頁参照)。

そして、第一審原告は前示のとおり調停により第一審被告の所有であつた前示乙地(係争地)の売渡を受け、最終的に自己が所有権を有することに確定した乙地内にある別紙(一)第一図面記載のイ点とロ点を結ぶ直線をもつて原告地と被告地との境界である旨を主張して本訴を提起していること、他方、第一審被告らも右乙地の東端で第一審原告地内にあるA=1点と2=D点を結ぶ直線をもつて境界であることを主張していることは、右第一図面及びそれぞれの主張自体から明らかである。

そうすると、最終的に第一審原告の所有に属することが調停により確定した係争地である前示乙地内に存在する原、被告両土地の境界の確定を求める第一審原告の本訴請求は実質的に前示調停調書の既判力を覆えしその紛争を蒸しかえすにすぎないものであつて、結局、無益な境界の確定を求めるものであるというほかなく、訴の利益を欠くうえ、自己の所有地内の境界確定を求める点で相隣接する土地所有者間でなすべき境界確定の訴の当事者適格を欠くものといわねばならない。

二したがつて、その余の判断をするまでもなく、本件境界確定の訴は不適法であつてこれを却下すべきである。<以下、省略>

(吉川義春 三谷博司 白石研二)

別紙(二)

調停条項

(宮崎簡易裁判所昭和四九年(ユ)第五号、原告日高武利、被告宮崎砂利株式会社、被告竹崎栄、昭和四九年一一月二一日成立)

(調停条項全文)

一 当事者間において昭和一一年一二月締結した別条第一目録記載の土地に対する賃貸借契約は本日合意解除する。

二 原告は被告宮崎砂利株式会社に対する訴を取り下げる。

三 原告は、原告所有の別紙第一目録記載の、別紙添付図面表示のA、B、E、F、C、D、Aの各点を順次連結した範囲内の土地の内、A、B、C、D、Aの各点を順次連結した範囲内の土地25.88平方メートルを、本日被告竹崎栄に対し、代金三五万二三五〇円で売り渡すこと。

右代金は、昭和五〇年二月一〇日限り、売買を原因とする所有権移転登記手続と引換えに宮崎市大橋二丁目五七番地鎌田正光方において原告に支払うこと。

四 被告竹崎栄は、別紙添付図面表示のA、B、E、F、C、D、Aの各点を順次連結した範囲内の土地に建築してある被告竹崎栄所有の別紙第二目録(一)記載の建物を昭和五〇年一月三一日限り収去して、原告に明け渡すこと。

右収去に要する費用は原告、被告ともに二分の一宛負担すること。

五 本件訴訟費用並びに調停費用は各自弁のこと。

(第一目録)

宮崎市福島町二丁目二九番五

畑 一〇三平方メートル

(第二目録)

(一) 宮崎市福島町二丁目二九番五

家屋番号二三番

木造瓦葺平家建居宅

床面積 102.54平方メートル

木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建店舗

床面積 59.04平方メートル

木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建倉庫

床面積73.38平方メートル

(二) 宮崎市福島町二丁目二九番一

木造瓦葺平家建居宅の内

床面積 2.33平方メートルの部分(未登記)

(別紙(一))

(説明)

Ⅰ 左記各図面は単なる見取図であって、正確な縮図ではない。A.B.C.Dの各点は調停調書添付図中のA.B.C.Dと同じ地点である。

Ⅱ 各点の位置

1)基点……建1の地点

被告地の北西角直近にある、十字の印をいれた建設省設置の境界杭(コンクリート製)

建2〜4も同様の杭である。これらの点を順次直線で結んだ線の北側が建設省の所有地となる。

2)ハ.B.イ.P.1の各点は建1と建2を結ぶ直線上にある。

3)二点……図面の市道の突き当たりにある堤防階段の最下段の南東角から11.70m、図面の場所にある電柱の基部から4.80mの地点(電柱NO=576・ハ84・−5)

4)ニ.C.ロ.Q.2.4の各点は、いずれも―直線上にあって、これは水路との境界線である。

Ⅲ 点間距離(単位=m)

1)関係地の北側の線

2)関係地の南側の線

建1~ハ =0.64

ハ~1=A=14.00

ニ~2=D=14.00

ハ~ P =13.73

ニ~Q  =13.73

ハ~ イ =12.70

ニ~ロ  =12.70

ハ~ B =10.36

ニ~C  =11.12

Q~4  =27.84

ニ~4  =41.57

3)南北の線

3  ~ 4= 7.60

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例