宮崎地方裁判所 昭和55年(ワ)183号 判決 1981年3月30日
原告 坂本孝一
被告 国
代理人 有本恒夫 甲斐津代志 後藤伸一 黒木憲三 ほか一名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、二三九万五六〇〇円及びこれに対する昭和五五年四月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 仮執行免脱宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告は、昭和四七年一二月二七日別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を取得し、同五一年五月二一日三〇〇〇万円で他に譲渡したが、その間銀行から本件土地取得のため二〇〇〇万円借り、その利息として本件土地譲渡の日までに五七〇万二三三三円支払つた。
(二) 宮崎税務署長は、昭和五二年一〇月二五日、原告の分離課税の短期譲渡所得金額を、収入金額三〇〇〇万円から買入代金、買入時及び譲渡時の仲介料、整地費の合計二〇一〇万七七五〇円を取得費、譲渡費として控除した九八九万二二五〇円、納付すべき税額を三八四万六八〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を一九万二六〇〇円とする賦課決定処分(以下本件課税処分という)をした。
そこで、原告は、昭和五二年一一月二二日宮崎税務署長に対し異議申立てをしたが、棄却され、さらに同五三年二月一七日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが棄却されたので、被告に対し右各金員を支払つた。
2(一) しかしながら、資産を取得するための借入金に対する利息は、その借入及び利息の支払が、資産取得に必要かつ相当と認められる限り、所得税法三八条一項の「資産の取得に要した金額」として譲渡所得金額の計算上控除されるべきものであるから、本件譲渡所得金額は、原告の支払つた前記利息をも控除した四一八万九九一七円となる。よつて、原告の支払うべき正当な税額は、納付すべき税額一五七万一六〇〇円、過少申告加算税額七万八二〇〇円である。
(二) 従つて、本件課税処分は法律の解釈を誤つた違法の処分である。現に、被告は、昭和五四年一〇月二六日、通達改正により、本件におけるような場合、土地を保有していた期間に対応する借入金利子の金額を土地の取得費に算入する取扱いに変更した。従つて、前記税務署長は、本件課税処分を更正すべきであるのにこれをなさない。他方、原告は出訴期間の経過により本件課税処分の効力を争う途を失なつている。
3 原告は本件課税処分により前記適正税額を超える四〇三万九四〇〇円を支払つているが、被告は右過払分について不当に利得をしているというべきである。蓋し、本件課税処分は、取消し又は変更されてはいないが、前項(二)の事情に鑑ると、右処分の効力を維持することは著しく正義公平の理念に反するからである。
4 よつて、原告は被告に対し、不当利得返還請求権に基づき金二三九万五六〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五五年四月一五日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)のうち利息の金額については不知、その余の事実は認める。同(二)の事実は認める。同(三)は争う。
2 同2(一)(二)の事実のうち、本件課税処分が違法であるとの点は争う。右処分は、借入金利子は土地の取得費を構成しないとの従来からの通説、判例にのつとりなされた適法な処分であり、実務における一般の取扱いであつた。同項その余の事実は認める。
3 同3は争う。徴収された租税が不当利得となるのは、課税処分が無効であるか、違法を理由に取消された場合に限られるが、本件課税処分にそのような事跡はない。
第三証拠 <略>
理由
徴収された租税が不当利得となるのは、単に当該課税処分が無効である場合、又は取消された場合のみに限られないが(最高裁判所昭和四九年三月八日民集二八巻二号一八六頁)、本件におけるように、法律の解釈に変動があり、従前の取扱いが変更されたにすぎない場合は、これに該らないものと解すべきである。
よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 蒲原範明 竹江禎子 村岡泰行)
物件目録 <略>