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宮崎地方裁判所延岡支部 平成2年(ワ)112号 判決 1992年3月25日

甲事件原告・乙事件被告

大瀬川漁業協同組合

右代表者理事

K4

右訴訟代理人弁護士

小田耕平

甲事件被告・乙事件原告

延岡五ヶ瀬川漁業協同組合

右代表者理事

井上忍

甲事件被告・乙事件原告

五ヶ瀬川漁業協同組合

右代表者理事

瀬口勇

甲事件被告・乙事件原告

西臼杵漁業協同組合

右代表者理事

佐藤公一

被告ら訴訟代理人弁護士

成見正毅

成見幸子

主文

一  甲事件被告(乙事件原告)らと甲事件原告(乙事件被告)が、別紙漁業権目録記載の内共第四号第五種共同漁業権を共有していることを確認する。

二  甲事件被告(乙事件原告)らは、甲事件原告(乙事件被告)に対し、前記記載の共同漁業権につき、管理区域の配分、漁場の管理方法、瀬付あゆ竿つり漁・やな漁・その他漁法に関する行使区域及び行使期間の配分、その他漁業権の行使に関する協議を拒絶してはならない。

三  その余の甲事件請求をいずれも棄却する。

四  甲事件原告(乙事件被告)は、「安賀多橋下」(別紙図面(1)の①の区域)、「延岡やな下」(同図面②の区域)、「三須地区」(同図面③の区域)、「百軒河原」(同図面④の区域)の各瀬の漁場において、杭を打つなどして実力をもって瀬割りをし、又は、甲事件原告(乙事件被告)所属の組合員をして「瀬付あゆ竿つり漁」をさせてはならない。

五  甲事件原告(乙事件被告)は、「延岡やな」(別紙図面(1)に青色に表示した区域)において、やなを設置するなどして実力をもってこれを支配し、又は、甲事件原告(乙事件被告)所属の組合員をして「やな漁」をさせてはならない。

六  甲事件原告(乙事件被告)は、甲事件被告(乙事件原告)らの管理する五ヶ瀬川水系の各管理区域において、その管理を妨害したり、甲事件被告(乙事件原告)ら所属の各組合員がその漁業権を行使するのを妨害してはならない。

七  訴訟費用は、甲事件及び乙事件ともにこれを五分し、その四を甲事件原告(乙事件被告)の負担とし、その余を甲事件被告(乙事件原告)らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

(甲事件について)

一  請求の趣旨

1 甲事件被告(乙事件原告、以下「被告」という。)らと甲事件原告(乙事件被告、以下「原告」という。)が、別紙漁業権目録記載の内共第四号第五種共同漁業権(以下「本件共同漁業権」という。)を共有していることを確認する。

2 被告延岡五ヶ瀬川漁業協同組合は原告に対し、原告に所属する組合員が、本件共同漁業権に基づき「瀬付あゆ竿つり漁」(いわゆる「瀬掛け漁」)を行う場所を次のとおり指定し、被告延岡五ヶ瀬川漁業共同組合はこれを妨害してはならない。

(一) 安賀多橋下(左岸)別紙図面(1)の①及び別紙図面①の赤斜線部分

(二) 延岡やな下(左岸)別紙図面(1)の②及び別紙図面②の赤斜線部分

(三) 三須地区(左岸)別紙図面(1)の③及び別紙図面③の赤斜線部分

(四) 百軒河原(左岸)別紙図面(1)の④及び別紙図面④の赤斜線部分

3(一) 主位的請求

被告延岡五ヶ瀬川漁業協同組合は原告に対し、原告に所属する組合員が、本件共同漁業権に基づき「やな漁」(いわゆる「あゆやな漁」)を「延岡やな」(但し、その行使場所は、別紙図面(1)に青色で表示した区域)において、被告延岡五ヶ瀬川漁業協同組合に所属する組合員と共同行使することを妨害してはならない。

(二) 予備的請求

被告延岡五ヶ瀬川漁業協同組合は原告に対し、平成四年一〇月一〇日より同年一二月一五日までの間、原告に所属する組合員が、本件共同漁業権に基づき「やな漁」を前記「延岡やな」において行使することを妨害してはならない。

4 被告らは、原告に対し、前項記載の共同漁業権につき、管理区域の配分、漁場の管理方法、瀬付あゆ竿つり漁・やな漁・その他漁法に関する行使区域及び行使期間の配分、その他漁業権の行使に関する協議を拒絶してはならない。

5 被告らは、原告及び第三者に対し、原告が、内共第四号第五種共同漁業権を共有している事実を否定する言動をしてはならない。

6 被告延岡五ヶ瀬川漁業協同組合は原告に対し、金六九〇万円及びこれに対する平成三年一〇月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

7 訴訟費用は被告らの負担とする。

8 第2ないし第6項につき仮執行宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(乙事件について)

一  請求の趣旨

1 主文四項ないし六項と同旨。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

第二  当事者の主張

(甲事件について)

一  請求原因

1 当事者

(一) 原告は、昭和五五年三月八日、五ヶ瀬川及び大瀬川流域の区域内に住所を有する漁民により水産業協同組合法に基づき設立され、同月一四日設立の認可を受けた漁業協同組合であり、昭和六〇年二月九日付けで、宮崎県知事より本件共同漁業権の共有請求の認可を受けた者である。

(二) 被告延岡五ヶ瀬川漁業協同組合(以下「被告延岡五ヶ瀬川漁協」という。)は、昭和二五年六月ころに設立・認可され、水産業協同組合法に基づき設立された漁業協同組合であり、宮崎県知事より本件共同漁業権の免許を受けた者である。

被告五ヶ瀬川漁業協同組合(以下「被告五ヶ瀬川漁協」という。)及び被告西臼杵漁業共同組合(以下「被告西臼杵漁協」という。)は、いずれも水産業協同組合法に基づき設立された漁業協同組合であり、宮崎県知事より本件共同漁業権の免許を受けた者である。

2 共同漁業権の準共有

(一) 宮崎県知事が、昭和五八年九月一四日、被告らに対し、宮崎県延岡市ほかを流域とする五ヶ瀬川水系について本件共同漁業権の免許を与えたことにより、被告ら三組合は、本件共同漁業権を準共有する関係となり、被告らは、「五ヶ瀬川内共第四号共同漁業権管理協定書」を定めて、各組合の管理区域と、各組合の組合員が共同漁業権を行使する区域と行使の方法、行使の期間、行使料の額等を定め、被告延岡五ヶ瀬川漁協が、五ヶ瀬川及び大瀬川の河口から旧延岡市と旧南方村の境界線までの五ヶ瀬川及び大瀬川の本支流を、被告五ヶ瀬川漁協が、旧延岡市と旧南方村の境界線より上流で西臼杵郡日之影町八戸ダムまでの五ヶ瀬川本支流を、被告西臼杵漁協が、西臼杵郡日之影町八戸ダムより上流で本件共同漁業権の及ぶ範囲をそれぞれの管理区域として独占的に漁業権を行使してきた。

(二) 原告は、宮崎県知事に対して本件共同漁業権の共有請求認可申請を行い、宮崎県知事は、内水面漁場管理委員会に諮問し、共有請求の認可を是認する同委員会の答申を受けて、昭和六〇年二月九日付けをもって、原告に対し、本件共同漁業権の共有請求を認可した。

原告は、右認可により、昭和六〇年二月以降、被告らと本件共同漁業権を準共有することになった。

3 共同漁業権に関する協議拒絶

(一) 被告延岡五ヶ瀬川漁協は、原告が、昭和六〇年二月、宮崎県知事から本件共同漁業権の共有請求の認可を受けたにもかかわらず、原告の共同漁業権行使に関する協議の申出を拒絶したほか、宮崎県水産課の行政指導にも従わず、同年四月には、宮崎地方裁判所に対し、宮崎県知事の共同漁業権共有請求認可の取消等を求める行政訴訟を提起し、その後も、被告延岡五ヶ瀬川漁協を始めとする被告ら三組合は、原告の再三再四にわたる協議の申入れに対し、右訴訟の提起を理由に拒絶し続けている。

(二) 行政処分には公定力があり、単に取消訴訟を提起している事実をもって共有権者からの協議を拒絶できないことは明白であるにもかかわらず、被告延岡五ヶ瀬川漁協を始めとする被告ら三組合は、原告が本件共同漁業権を準共有していること自体を否定する言動を続けている。

4 共同漁業権行使に対する妨害

(一) 第五種共同漁業権を有する漁業協同組合の組合員が、漁業を営むには、漁業協同組合が、漁業法八条の規定により漁業権行使規則を定め、県知事に認可を受けなければならないところ、原告は、本件共同漁業権の共有請求を認可された後、本件共同漁業権についての漁業権行使規則を定め、昭和六〇年五月三一日付けで、宮崎県知事の認可を得た。

(二) 右漁業権行使規則の認可により、原告所属の組合員は、漁業権行使規則に定めるところに従って、五ヶ瀬川水系において漁業を営むことができるようになったが、原告は、昭和六〇年度については、被告延岡五ヶ瀬川漁協の姿勢の変化を期待して、所属組合員に対し漁業行使権の実施を自粛させた。

(三) ところが、被告延岡五ヶ瀬川漁協は、その後も本件漁業権行使に関する協議を拒絶し続けたことから、原告は、昭和六一年に入って宮崎県内水面漁場管理委員会に対して漁業権行使に関する紛争の調整方を陳情し、その結果、宮崎県内水面漁場管理委員会は、昭和六一年一〇月一日付けで、昭和六一年度の瀬付あゆ竿つり漁の行使方法について次のとおり決定して、原告及び被告延岡五ヶ瀬川漁協に通知した。

(1) 瀬は、百軒河原、三須右岸、三須左岸、延岡やな下(安賀多橋下を含む)の四瀬に分類し、原告及び被告延岡五ヶ瀬川漁協の行使を決定する。

(2) 百軒河原及び延岡やな下(安賀多橋下を含む)の瀬は、被告延岡五ヶ瀬川漁協が行使する。

(3) 三須右岸と三須左岸の瀬については、両漁協の抽選によりいずれかの瀬の行使をさせるものとする。

(4) 瀬付あゆ竿つり漁をする者は、あゆの人工ふ化、放流の種あゆの確保に積極的に協力するものとする。

(四) 宮崎県内水面漁場管理委員会は、右決定に基づき、三須右岸と三須左岸の瀬割りについて抽選を行い、三須右岸の瀬を被告延岡五ヶ瀬川漁協が行使し、三須左岸の瀬を原告が行使するとの抽選結果を、同月二日付けで両漁協に通知し、これによって、原告所属の組合員は、三須左岸について瀬付あゆ竿つり漁を行うことができるようになった。

(五) 原告は、被告らに対し、事態の円満解決を計るため、昭和六二年、昭和六三年と本件共同漁業権行使に関する協議を繰り返し申し入れたが、被告らは、一貫してこれを拒絶し、原告が本件共同漁業権を行使することに対し、明示及び黙示の妨害行為を続けている。

(六) また、昭和六二年三月、被告らは、訴外旭化成工業株式会社が、発電施設などに関わる援助金として河川の関係者に支払う増殖資金の配分についても、被告延岡五ヶ瀬川漁協が、右援助金の四割の金員を独占する意図から、原告が、増殖義務の履行に基づいて援助金の配分を受け得る地位にあるにもかかわらず、原告を正当なる共同漁業権者として取り扱わないように、旭化成工業株式会社に対し強引に主張するなどして、原告の右援助金の収受を不当に妨害している。

(七) また、被告らは、「五ヶ瀬川内共第四号共同漁業権管理協定書」に基づき、やな三ケ所について、「延岡やな」を被告延岡五ヶ瀬川漁協に、「岡元やな」及び「川水流やな」を被告五ヶ瀬川漁協に配分し、右二組合の所属組合員が、昭和六〇年から平成二年まで(毎年一〇月一〇日より一二月一五日まで)、やな漁を実施している。これに対して、原告は、「延岡やな」におけるやな漁の共同行使を被告延岡五ヶ瀬川漁協に再三にわたり申し入れているが、同被告は、かたくなにこれを拒絶しているため、原告所属の組合員は、昭和六〇年から平成二年まで、やな漁の実施が全くできない。

5 漁業行使権の決定方法

(一) 一つの内水面(河川)において、複数の漁業協同組合が共同漁業権の免許ないし認可を受け、共同漁業権を準共有している場合に、漁業権の行使方法について共有者間の協議が整わない場合や協議自体を共有者の一人が拒絶しているときには、民法上、共有物を使用していない他の共有者も自らの持分の範囲内での使用を妨げられることはなく、共有物の使用を独占する他の共有者に対して自らの使用に対する妨害排除を求めることができると解釈されているので、漁業権の行使を独占している漁業協同組合に対して妨害排除請求ができると解すべきであり、また、裁判によってその行使方法を定めて貰うこともできると解すべきである。

(二) 原告所属の組合員は、瀬付あゆ竿つり漁については、昭和六一年から同六三年までの三年間、三須左岸において行うことができたに止まり、平成元年度は、あゆ資源の減少が顕著となり、原告及び被告らを含む五ヶ瀬川水系関係漁業協同組合が、瀬付あゆ竿つり漁を全面的に自主中止することを決議したため、原告所属の組合員も三須左岸における瀬掛け漁を中止し、平成二年度は、被告らの申立てによる仮処分命令(当庁平成二年(ヨ)第二三号)により、原告の漁業権の行使が全面的に禁止されたため、原告所属の組合員は、三須左岸における瀬付あゆ竿つり漁を自粛した。

これに対し、被告延岡五ヶ瀬川漁協所属の組合員は、百軒河原、三須右岸、三須左岸、延岡やな下、安賀多橋下の各瀬において、昭和六〇年度は全部、同六一年度、同六二年度、同六三年度及び平成二年度は、百軒河原、三須右岸、三須左岸、延岡やな下、安賀多橋下の各瀬において、瀬付あゆ竿つり漁を行った。

(三) やな漁については、原告所属の組合員は、前記4(七)のとおり昭和六〇年から平成二年まで、全く漁業権の行使をすることができなかった。

(四) 本件共同漁業権は、昭和五八年に宮崎県知事から免許を受けた、期間を一〇年間とする共同漁業権であり、平成四年度をもって消滅する漁業権であるので、原告の共有請求が認可された昭和六〇年度からの八年間を通じての配分の平等が考慮されなければならない。そこで、原告は、請求の趣旨第2項、第3項記載のとおり、原告所属の組合員に対する漁業行使権の行使方法の決定を求めるものである。

6 やな漁を妨害されたことにより原告の被った損害

(一) やな漁は、五ヶ瀬川にやなを架設し、落ちあゆを捕獲する漁法であるが、その実態は、組合員資格を有する民間の料理店経営者等が、やな漁を独占的に行使するものであり、漁業協同組合にとって、やな漁の漁業行使権とは、実質的に、料理店経営者等が組合に納める漁業行使料及び協力金から、増殖義務の履行として組合が支出する稚あゆの蓄養費、放流費(人工ふ化費)を控除した差額(収益金)の収受権に外ならない。

(二) 被告延岡五ヶ瀬川漁協の昭和六二年度の総会資料によれば、組合が支出する費用は、蓄養費金四三〇万円及び放流費(人工ふ化費)金一一〇万円の合計金五四〇万円、組合の収入は、やな漁の漁業行使料金八五〇万円及び協力金一五〇万円の合計金一〇〇〇万円であり、被告延岡五ヶ瀬川漁協の収益金は、金四六〇万円となっている。

(三) このように、やな漁の漁業行使権とは、収益金の収受権に外ならないから、原告と被告延岡五ヶ瀬川漁協とが、やな漁を共同行使することは可能であり、原告は、被告延岡五ヶ瀬川漁協に対し、平成元年度の「延岡やな」におけるやな漁について、これを共同行使するように要求したにもかかわらず、同被告は、これを拒絶し、原告は、平成元年度のやな漁を共同行使することを妨害された。

その結果、原告は、やな漁の共同行使によって得べかりし収益金(行使料及び協力金の合計額から蓄養費及び放流費(人工ふ化費)の合計を控除した差額である金四六〇万円の二分の一)金二三〇万円の収受が妨害されており、同額の損害を被った。

(四) また、原告は、平成二年度のやな漁についても、被告延岡五ヶ瀬川漁協に対し、平成二年七月一二日付け書面をもって、共同行使を申し入れたが、同被告は、これを拒絶したうえ、原告の漁業権の行使の全面的禁止を求める仮処分を申請したことから、原告は、やな漁の共同行使によって得べかりし収益金二三〇万円の収受が妨害されており、同額の損害を被った。

(五) さらに、原告は、平成三年度のやな漁についても、被告延岡五ヶ瀬川漁協は、やな漁の共同行使を拒絶したことから、原告は、平成三年一〇月一〇日から同年一二月一五日までの間のやな漁の共同行使によって得べかりし収益金二三〇万円の収受が妨害されて、同額の損害を被った。

7 よって、原告は、甲事件請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1(一)の事実のうち、原告が、昭和五五年三月八日に五ヶ瀬川及び大瀬川流域区域内に住所を有する漁民により水産業協同組合法に基づき設立された漁業協同組合であるとの点を否認し、その余は認める。

同1(二)の事実は認める。

2 同2(一)の事実は認める。

同2(二)の事実のうち、原告が、宮崎県知事より、昭和六〇年二月九日付けをもって本件共同漁業権の共有請求の認可を受けたことは認めるが、その余は争う。

3 同3(一)の事実は認める。

同3(二)の事実のうち、被告らが、原告が本件共同漁業権を準共有していること自体を否定する言動を続けていることは認めるが、その余は争う。

4 同4(一)の事実のうち、原告が、昭和六〇年五月三一日付けで宮崎県知事の認可を得たことは認め、その余は争う。

同4(二)の事実は否認ないし争う。

同4(三)の事実のうち、被告延岡五ヶ瀬川漁協が、原告に対し、本件共同漁業権に関する協議を拒絶し続けたことは認め、その余は否認ないし争う。

同4(四)の事実は否認する。

同4(五)の事実のうち、被告らが、原告に対し、本件漁業権に関する協議を拒絶していることは認め、その余は否認ないし争う。

同4(六)の事実のうち、被告らが、旭化成工業株式会社からの魚族増殖資金について、原告を正当なる共同漁業権者として取り扱わないよう主張していることは認め、その余は否認ないし争う。

同4(七)の事実のうち、被告らが、やなを原告主張のとおりに配分していること及び被告延岡五ヶ瀬川漁協が、原告に対し、「延岡やな」におけるやな漁の共同行使を拒絶していることは認め、その余は否認ないし争う。

5 同5(一)は争う。

同5(二)の事実のうち、原告が、昭和六一年九月、瀬付あゆ竿つり漁の漁場の瀬分け施行を宣言し、その行使を強行したこと、平成元年度は、あゆ資源の減少が顕著となり、原告及び被告らを含む五ヶ瀬川水系関係漁業協同組合が、瀬付あゆ竿つり漁を全面的に自主中止することを決議したこと及び被告延岡五ヶ瀬川漁協所属組合員が原告主張のとおり瀬付あゆ竿漁を行ったことは認めるが、その余は、否認ないし争う。

同5(三)、(四)の事実は否認ないし争う。

6 同6(一)の事実のうち、やな漁が、五ヶ瀬川にやなを架設し、落ちあゆを捕獲する漁法であることは認めるが、その余の事実は否認ないし争う。

同6(二)の事実のうち、被告延岡五ヶ瀬川漁協の昭和六二年度の予算書(案)の中に、原告主張の予算項目と金額の記載がなされていることは認めるが、その余は争う。

同6(三)ないし(五)の事実のうち、被告延岡五ヶ瀬川漁協が、原告に対し、やな漁の共同行使を拒絶していることは認め、その余は否認ないし争う。

三  被告らの主張

1 原告の設立認可の無効

原告は、次のとおり、無法な反社会的暴力集団K組の組長K1及びその関係者により設立が企図され、右K組の幹部及びその関係者が発起人となって設立認可申請がなされたもので、水産業協同組合法の定める正当な目的、趣旨に反し、その要件を具備しない違法、無効な組合であるから、宮崎県知事の原告に対する設立認可処分は、重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。

(一) K1

原告の設立を進めた張本人であるK1は、当時同和関係団体の延岡地区の立役者であり、かつ、多数の前科を有する暴力集団K組の組長であったが、昭和六〇年五月に愛人を拳銃で射殺してその死体を部下の組員に海岸に埋めさせ、逃亡したため、全国に指名手配され、昭和六二年に逮捕されてその後実刑判決を受けた。

(二) 発起人W1

W1は、昭和二八年より昭和五三年までの間に、七回の服役を含む一一回の前科、その他五回の前歴を有する者で、極道として名の通った暴力集団K組の幹部である。

(三) 発起人Y1

Y1は、昭和五三年からK1と極道関係にあり、昭和五四年五月からK1の運転手等をしており、覚せい剤取締法違反及び毒物及び劇物取締法違反の前科を有するK組の幹部である。

(四) 発起人M2

M2は、K組の幹部であり、覚せい剤取締法違反の前科を有し、サイコロ賭博で逮捕されたこともある。

(五) 発起人U

Uは、K組の幹部であり、昭和六三年八月二二日に、公共工事に関してその発注業者を恐喝したことで逮捕された。

(六) 発起人H

Hは、K組の幹部であり、鉄砲刀剣類所持等取締法違反、覚せい剤取締法違反等の前科を有し、拳銃密売及び覚せい剤密売の主犯格であった。

(七) 発起人O

Oは、K1の妻春子の妹であり、K1の拳銃不法所持の共犯者であった。

(八) 発起人K2

K2は、K1の実弟であり、暴力団Z組の幹部と五分の兄弟分の盃事をしており、K1が、昭和六〇年に逃亡した後、K組の二代目組長となった。

(九) 発起人M1

M1は、K組の幹部M2の兄であって、前科が多数ある。

(一〇) 発起人N

Nは、昭和四七年に常習賭博等の罪で懲役一年六月、その後凶器準備集合等の罪で懲役一年四月の各実刑判決を受けて服役し、昭和五四年八月三〇日にも、覚せい剤取締法違反事件で懲役六月の実刑判決を受けた。

(一一) 発起人K3、同W2、同E1、同I、同B、同G1、同A、同E2、同M3、同Y2、同S1

K3は、K1の弟であり、暴力団Z組と関係がある。

W2は、K組及び同和の関係者である。

E1は、露店商の元締のような仕事をしており、K組の関係者である。

Iは、K1のところに顔を出していた者で、K組関係者である。

Bは、K組の組員であった者で、民生委員を脅して証明書を出させて生活保護を受けていた。

G1は、G2の兄であり、K組の関係者である。

Aは、W1の前妻夏子の父と従兄弟の関係にあり、K組関係者である。

E2は、E1の父でありK組関係者である。

M3、Y2、S1は、いずれもK組と親しい関係にある者である。

2 原告に対する本件共同漁業権の共有認可の無効

原告は、設立許可を受けた後も、次のとおり引き続き暴力団K組の構成員及びその関係者が役員となってこれらの者によって支配され、水産業協同組合法の定める正当な目的、趣旨に反する組合であり、また、内水面漁業の根本的な存立要件である増殖義務を果たし得ない組合なので、宮崎県知事の原告に対する昭和六〇年二月九日付けの共有認可は、重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。

(一) 昭和五五年四月三日付けの設立登記時の理事は、W1を筆頭として、G2、Y1、E1、Oであるが、これらは全てK組の幹部又はその関係者である。

(二) そして、設立登記のわずか一七日後の昭和五五年四月二〇日付けで、K組組長K1が、筆頭理事に就任し、その他従前のW1、E1に加え、新たにK3及びM1が理事に就任している。K3は、K1の実弟であり、M1は、多数の前科を有するK組関係者である。

(三) その後、昭和五八年九月二五日付けで、筆頭理事のK1及び理事のW1、M1は残留し、新たにK4及びZ1が理事に就任している。K4は、K1の実子であってK組組員であり、Z1は、同和団体の役員であってK1と親密な関係にある者である。この役員体制は昭和六〇年五月まで継続している。

(四) K1が、愛人を射殺した昭和六〇年五月一三日の四日後である五月一七日付けで、役員の変更があり、K1の実子K4が、筆頭理事になり、R、K2、W2らが新たに理事に就任している。Rは、K組の代貸であり、K2は、K1逃亡後にK組の二代目組長になったものであり、W2は、K組及び同和団体の関係者である。

3 公序良俗違反

原告は、前記のとおり、反社会的暴力団K組及びその関係者によって支配され、水産業協同組合法の定める正当な目的、趣旨に反する組合であるから、原告による本件共同漁業権の行使は、公序良俗に反し許されないものである。

4 漁業権の具体的行使権の不存在

(一) 漁業法上、内水面の第五種共同漁業権の管理団体としては、できるだけ包括的で単一のものが予定されているのであって、複数の漁業協同組合に漁業権の免許ないし認可を与えることは混乱のもとである。しかしながら、河川が長く広い地域にまたがり、複数の地方自治体の行政地域を含むときに、便宜上、地域性を生かすために複数の漁業協同組合に漁業権が与えられることがあり、この場合は、その河川の共同漁業権の行使にあたっては、複数組合が、協議の上管理の範囲を明確に定めてからでないと、漁業権の具体的行使ができない。このように、共同漁業権の行使、管理については、共有漁業協同組合間の協議によって決められることになっており、この協議の結果に基づいて漁業権行使規則を制定し、その規則に基づいて初めて組合員の漁業行使権が実施されるべきところ、宮崎県知事は、右漁業協同組合間の協議が全く整わないにもかかわらず、原告に対し、昭和六〇年五月三一日付けで本件共同漁業権についての漁業権行使規則を認可したのであって、右認可には、重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。

(二) 仮に、原告が、本件共同漁業権を共有しているとしても、被告らとの間で漁業権の管理、行使についての協議ないし民法二五二条の準用による共有者間の過半数による決定がない以上、原告には、本件共同漁業権の行使及び管理範囲は定まっていないので、具体的な行使権限は未だ発生しておらず、したがって、原告ないしその所属する組合員が具体的行使権を前提として実力行使をすることは許されず、また、被告らに対する妨害排除請求もなしえない。

四  被告らの主張に対する認否

1 被告らの主張1のうち、W1、Y1、M2、G2、H、O、K2、M1、N、K3、W2、E1、I、B、G1、A、E2、M3、Y2及びS1が、いずれも原告の発起人であること並びにK3及びK2がK1の実弟であり、G1がG2の実兄であることは認めるが、その余の事実は否認する。被告らの右主張は、原告に所属する大多数の善良な組合員の存在や、右組合員による組合運営の事実を無視するものであって、共同漁業権の行使を被告らが独占するための口実として、原告を反社会的暴力集団と決めつけるものに過ぎない。

2 同2は争う。

3 同3は争う。

4 同4(一)は争う。被告らの主張は、漁業法上、漁業権行使規則が、共同漁業権に関して、漁業協同組合がその所属する組合員の漁業を営む権利について法定の手続に基づき制定する規則であり、その効力は、県知事の認可によって発効し、共同漁業権が、複数の漁業協同組合によって共有されている場合でも、それぞれの漁業協同組合が、独自に漁業権行使規則を制定できることを否定する見解である。

同4(二)は争う。被告らの主張は、県知事が、漁業権の免許後新たに共有の請求をした者に対し、その共有請求を認可した場合には、自動的に漁業権について従来の漁業権者と新規の漁業権者との間に共有関係が成立することを否定とする独自の見解である。

(乙事件について)

一  請求原因

1 被告延岡五ヶ瀬川漁協は、昭和二五年六月ころに設立・認可され、水産業協同組合法に基づき設立された漁業協同組合で、宮崎県知事より本件共同漁業権の認可を受けた者であり、被告五ヶ瀬川漁協及び被告西臼杵漁協は、いずれも水産業協同組合法に基づき設立された漁業協同組合で、宮崎県知事より本件共同漁業権の認可を受けた者である。

2 被告らが、原告による本件共同漁業権の行使が許されないとする理由は、甲事件の三に記載する被告らの主張のとおりである。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2については、甲事件の四に記載する被告らの主張に対する認否のとおりである。

第三  証拠<省略>

理由

第一甲事件の本案前の判断(瀬付あゆ竿つり漁の場所の指定請求並びに瀬付あゆ竿つり漁及びやな漁についての妨害排除請求の可否について)

一漁業権の設定を受けようとする者は、都道府県知事に申請してその免許を受けなければならず(漁業法一〇条、以下条文のみを表示するものはすべて同法を指すものとする。)、都道府県知事は、管轄に属する水面につき、漁業上の総合利用を図り漁業生産力を維持発展させるためには漁業権の内容たる漁業の免許をする必要があり、かつ、当該漁業権の免許をしても漁業調整その他公益に支障を及ぼさないと認めるときは、漁業種類、漁場の位置及び区域、漁業時期その他免許の内容たるべき事項、免許予定日、申請期間、共同漁業についてはその関係地区を定め(一一条一項)、海区漁業調整委員会(内水面漁業においては内水面漁場管理委員会、一三〇条四項)の意見を聞いた上(一二条)、一四条に定めるところに従って適格性を有する者に漁業権の免許を与えるものである。

このように漁業権は、免許の際に都道府県知事の定める漁業計画においてその内容が規定されているものであるが、免許後の水族の繁殖、回游状態の変化その他の漁業事情の変化に伴い、権利の内容をこれに合わせる必要性が生ずる場合があり、このような場合、漁業法上は、漁業権を有する者が、都道府県知事に申請して漁業権の分割又は変更の免許を受けなければならないと規定されており(二二条一項)、都道府県知事は、漁業権の分割ないし変更の申請があったときには、海区漁業調整委員会(内水面漁業においては内水面漁場管理委員会)に諮問のうえ(二二条三項)、漁業調整その他公益に支障を及ぼさないと認める場合に、これを免許するのである。

二一方、漁業権は、二三条一項において、漁業権は、物権とみなし、土地に関する規定を準用すると規定しており、漁業権を数名の者が準共有する場合の共有関係の処理については、漁業権の性質に反しないかぎり民法の共有に関する規定が準用されることになる。しかしながら、民法二五六条ないし同法二六二条の共有物の分割についての規定は、漁業権については、漁業法二二条一項の規定に抵触するため、準用されないものと解され、したがって、漁業権の共有者が、民事訴訟手続によって裁判所に漁業権の分割の請求をすることは許されないというべきである。

三そして、原告は、数名のものが準共有する漁業権について共有者間で漁業権の行使方法について協議が調わないときは、裁判によってその行使方法を定めてもらうことができると解すべきである旨主張する。

しかしながら、前記のとおり、漁業権は、都道府県知事が定める漁業計画の中においてその内容が規定され、また、その免許に際しても、漁業権の分割又は変更の免許に際しても、漁業従事者の代表や学識経験者をもって構成される海区漁業調整委員会(内水面漁業においては内水面漁場管理委員会)に諮問したうえで免許が与えられるところ、裁判所が、判決をもって、都道府県知事が免許した漁業権の内容とは異なる内容のものとするような形で漁業権の行使方法を定めることは、都道府県知事の定める漁業計画との整合性を欠く結果となるおそれがあり、また、例えば本件の第五種共同漁業権において、共有者である漁業協同組合所属の組合員に漁業行使権を配分するにあたっては、組合員数等に応じて単純に配分を決定すれば良いわけではなく、各組合の増殖義務の負担能力、各組合所属組合員による漁業の実態、各組合の過去の漁業の実績等を加味して、当該河川等の全体の漁業計画の中でその配分を合目的的に決定しなければならない性質のものであって、訴訟において提出された証拠資料のみによって裁判所がこれを判断するという司法判断になじまないものというべきである。さらに、判決をもって漁業権の行使方法を定めた場合には、行使方法についての判断に既判力が生じ、たやすくこれを変更することはできなくなるが、漁業権においては、水族の繁殖、回游状態の変化その他の漁業事情の変化に伴い、権利の内容をこれに合わせる必要性が不断に生ずる可能性があるのであって、判決をもって行使方法を固定してしまうこともまた相当ではない。したがって、漁業権の内容を変更する必要があるときは、二二条所定の手続によるべきであって、裁判所に対し、民事訴訟手続によって、二二条一項の「漁業権の変更」にあたるような漁業権の行使方法の決定を求めることはできないというべきである。

四被告らが、宮崎県知事から免許を受けた本件共同漁業権は、別紙漁業権目録記載のとおり、河口部分と支流の一部を除く、五ヶ瀬川本流、支流及び派流の全域について、毎年六月一日から一二月三一日までの期間、あゆ漁業を行う権利を与えるもので、その免許に加えられた制限は、敷設できる「あゆやな」を六統以内とすること及び河川の維持・管理その他保全のため公共団体の行う事業の施行をみだりに阻んではならないというもののみである。

したがって、共同漁業権の共有者相互が、協定を結んで漁業権の管理区域を決めたり、共有者である漁業協同組合が、自主的に所属組合員による瀬付あゆ竿つり漁及びやな漁の実施場所を一定の範囲に限ることはともかく、原告が甲事件請求の趣旨2項において求めているように、裁判所が、判決によって五ヶ瀬川本流、支流及び派流の内の一部の区域を原告所属の組合員が瀬付あゆ竿つり漁を行う場所として排他的に指定することは、被告らの漁業権の内容を、県知事の免許を受けたものとは異なる内容のものとするものであって、二二条一項の「漁業権の変更」にあたると解されるから、前記の如く民事訴訟手続によって請求することは許されないというべきである。

五また、原告が甲事件請求の趣旨2項及び同3項(二)で求めているように、裁判所が、判決によって、五ヶ瀬川本流、支流及び派流の内の特定の区域において原告所属の組合員が、瀬付あゆ竿つり漁及びやな漁を実施することについて、被告延岡五ヶ瀬川漁協に対し、期間・方法を問わず全面的な妨害の禁止を命ずることは、右区域において原告に漁業権の行使を独占させることに外ならないのであって、やはり、二二条一項の「漁業権の変更」にあたると解されるから、これまた民事訴訟手続によって請求することは許されないというべきである。

もっとも、原告所属の組合員が、本件共同漁業権の漁業行使権を有しているとした場合には、原告が甲事件請求の趣旨2項及び同3項に掲げる区域において、原告所属の組合員も被告延岡五ヶ瀬川漁協の所属組合員も、共に瀬付あゆ竿つり漁及びやな漁を実施することができるのであるから、右地域において被告延岡五ヶ瀬川漁協所属の組合員が、実力をもって、原告所属の組合員による瀬付あゆ竿つり漁及びやな漁の実施を阻止するような事情があるような場合には、暴力行為等の発生を避けるために、その具体的妨害行為について禁止を請求することは、民事訴訟手続において可能である。そして、原告が甲事件請求の趣旨2項及び同3項(二)で求める妨害排除請求は、右の趣旨であるとも解されるので、以下、このような請求であるとの前提の下に本案の判断をする。

第二甲事件の本案の判断

一原告の設立認可の効力

1  宮崎県知事が、昭和五五年三月一四日に原告の設立認可をしたことは、当事者間に争いがない。

漁業協同組合を設立するには、水産業協同組合法五九条以下の規定に従って定款を作成し、創立総会を行う外、発起人が、行政庁に対して、設立の認可の申請をしなければならず(同法六三条一項)、右設立の認可が、漁業協同組合成立の要件となっているのであり、また、行政庁は、右設立認可申請があったときは、申請書を受領したときから二か月以内に、発起人に対し、認可又は不認可の通知を発しなければならず(同法六五条一項)、さらに、同法には、設立の不認可に対する取消訴訟を提起できることを前提とする規定(同法六五条五項)も設けられているのであるから、行政庁のなす漁業協同組合の設立認可は、公権力の行使に当たる行為に該当し、行政事件訴訟法三条一項の抗告訴訟の対象となる行政行為であると解せられる。

このように、抗告訴訟の対象となる行政行為については、行為に瑕疵があったとしても、原則として、行政庁自身による取消又は行政事件訴訟法の手続による裁判所の取消判決がなされるまでは有効なものと取り扱われ、裁判所もその効力を否定することはできないが、行政行為の瑕疵が重大であり、かつ、行為の要件の存在を肯定する行政庁の認定が誤認であることが、行為成立の当初から外形上客観的に明白である場合には、例外的に、行政庁による取消又は取消判決を待つまでもなく当該行政行為は無効なものというべきである。

2  そして、被告らが、宮崎県知事の原告に対する設立認可に関する重大かつ明白な瑕疵として主張する事実は、原告の発起人が、反社会的暴力集団K組の幹部及びその関係者であって水産業協同組合法の定める適法な発起人にはなり得ず、また、原告の設立目的自体が、水産業協同組合法の目的、趣旨に反するにもかかわらず、設立の認可がなされたというものである。

3  訴外W1、同Y1、同M2、同U、同H、同O、同K2、同M1、同N、同K3、同W2、同E1、同I、同B、同G1、同A、同E2、同M3、同Y2及び同S1が、いずれも原告の発起人であること並びに右K2及びK3が訴外K1の実弟であり、G1がG2の実兄であることは当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば、次の事実が認められる。

(一) K1は、出身地の宮崎県延岡市内で、昭和三九年ころから精肉業を営んでおり、同五一年ころからは同和産業有限会社を設立して土木建築業をしていたが、昭和四三年ころから昭和四五年ころまで、大分県佐伯市に居住して屠殺場の屠殺下請けをしていた際、同県別府市に本拠を有する暴力団○○組のC支部長となり、延岡市に戻ってからも○○組内乙川組の組長との付き合いを続け、暴力団として正式な看板は出していなかったものの、原告が設立された昭和五五年当時、自宅に出入りする配下の者が三〇名程度おり、暴力団関係者からは、「K組」の組長としての扱いを受けていた。そして、同人自身、昭和二八年から同五五年当時まで傷害、覚せい剤取締法違反、常習賭博、鉄砲刀剣類所持等取締法違反等の前科一〇犯を有し、同五四年三月に覚せい剤取締法違反等で逮捕されて同年七月に実刑判決を受け、上告中の同年一二月二四日に病気を理由に執行停止により一時釈放されたが、原告の設立認可の直前の昭和五五年三月六日拳銃所持で再逮捕され、右拳銃所持と、保釈中に犯した覚せい剤取締法違反で懲役一年八月の実刑判決を受け、その後、昭和六〇年五月には愛人を拳銃で射殺し、配下の者に海岸に埋めさせて逃亡するという事件を起こして全国に指名手配され、昭和六二年に逮捕されて実刑判決を受けた。

(二) W1は、昭和二八年より同五三年までの間に七回の服役を含む傷害、覚せい剤取法違反等の一一回の前科、その他五回の前歴を有する者で、Kグループの相談役であり、その後同五六年五月にも覚せい剤取締法違反容疑で逮捕され刑事処罰を受けた。

(三) Y1は、昭和五三年ころからK1方に出入りをするようになり、同人の運転手等をしていたが、昭和五四年三月に覚せい剤取締法違反容疑で逮捕されて同年六月に執行猶予付の有罪判決を受け、また、昭和五四年の暮れころからは、病院に入院中であったK1に代わって、前記同和産業有限会社専務の訴外Fと共に、宮崎県庁や市役所に出向いて、原告の設立手続を進めていたが、同年一〇月ころ、K1より拳銃を預かり、原告の設立認可申請から設立認可の時期にかけて、K1の拳銃所持の共犯者として、警察官の取調べを受けている。そして、右Fは、同和対策のために宮崎県知事から、昭和五四年度のシラスウナギの特別採捕許可証の交付を受けていたが、許可証の期限切れの後にこれを訴外Jに貸与し、Jが約束の貸与料五〇万円を支払わないとして、Y1と共に恐喝した。

(四) M2は、昭和五四年三月にK1やNらと共にサイコロ賭博をしていたところを警察に逮捕され、昭和五四年七月に覚せい剤取締法違反で執行猶予付の有罪判決を受けており、K1方によく出入りをしていたKグループの構成員である。

(五) G2は、昭和六〇年当時におけるKグループの幹部であり、昭和六三年八月二二日には、公共工事に絡んで、発注業者を恐喝したことで逮捕された。

(六) Hは、昭和五三年ころ、配下を何名か使って覚せい剤の密売をし、同年七月に覚せい剤取締法違反で執行猶予付の有罪判決を受け、また、昭和五四年当時のKグループの構成員であり、昭和五六年六月にも、覚せい剤をW1に譲渡したことで警察に逮捕され、昭和六一年七月には、銃砲刀剣類所持等取締法違反で逮捕され、同人の事務所から拳銃五丁と実弾四〇発が押収された。

(七) Oは、K1の妻春子の妹であり、昭和五五年一月に拳銃一丁と実包六発をK1から預かっており、これ以前にも二回くらい同人より拳銃を預かったことがある。

(八) K2は、暴力団Z組の幹部であったY3と兄弟分の盃事をしていて、Kグループの若頭の地位にあった者で、昭和五三年には訴外M4が、K2方で覚せい剤を所持していたところを警察に逮捕されたことがあり、昭和五六年一一月には、K2に関する覚せい剤取締法違反事件でK1の内妻Lが家宅捜査されたこともあった。

(九) M1は、昭和四九年一一月にK1と共に覚せい剤取締法違反などの容疑で逮捕され、また昭和五五年八月にも恐喝容疑で逮捕されたが、当時前科一四犯であり、その後昭和五七年にもサイコロ賭博容疑で逮捕されている。

(一〇) Nは、昭和四七年に、常習賭博、賭博開張図利、猥褻図画頒布、同販売の罪で懲役一年六月、その後の凶器準備集合、傷害、銃砲刀剣類所持等取締砲違反の罪で懲役一年四月の各実刑判決を受け、昭和五四年三月には、K1やM2らと共にサイコロ賭博をしていたところを警察に逮捕され、同年八月に覚せい剤取締砲違反で懲役六月の実刑判決を受けた。

なお、K3、W2、E1、I、B、U、A、E2、M3、Y2及びS1については、被告らが主張する事実を認めるに足る証拠はない。

4  このように、原告の発起人のうち半数近くの者が、原告の設立認可時において、前科、前歴を有していたり、刑事事件に係わったりしており、また、K1を中心とする暴力集団Kグループの構成員ないし関係者であったことが認められるが、水産業協同組合法は、漁業協同組合の発起人について前科、前歴がないことをその資格要件として挙げているわけではないから、このことによって、直ちに、原告の設立手続が違法であるということはできない。

また、水産業協同組合法五九条によれば、発起人は正組合員となろうとする者でなければならず、同法一八条二項によれば、右正組合員とは、組合の地区内に住所を有し、かつ、漁業を営みもしくはこれに従事し、又は河川において水産動植物の採捕もしくは養殖をする日数が一年を通じて三〇日から九〇日までの間で定款で定める日数を超える個人をいい、<書証番号略>によれば、原告の定款には、原告の組合の地区として、宮崎県延岡市の三須町、古城町、大貫町、西階町、出口町、上大瀬町、大瀬町、春日町、中島町、浜砂町、東浜砂町、方財町、須崎町、船倉町、新町、柳沢町、桜小路、本町、東本小路、塩浜町、北小路町、緑ケ丘町、二ツ島町、平原町、惣領町、松原町、小野町、高千穂通、日ノ出町の一円の区域とすると規定され、正組合員の資格としては、右原告組合の地区内に住所を有し、かつ、漁業を営みもしくはこれに従事し、又は河川において常例として水産動植物の採捕もしくは養殖をする日数が一年を通じて三〇日を超える個人でさえあればよいということが認められる。

ところが、そもそも特定の個人が漁業を営みもしくはこれに従事し、又は河川において水産動植物の採捕もしくは養殖を年間を通じて何日行ったかという事実認定は、極めて困難であるし、漁業免許を有しない者も、漁業免許を有する者との雇用関係に基づいて漁撈作業を行って漁業に従事したり、河川において遊漁証を購入して水産動植物の採捕をすることがあり得るのであり、また、前科、前歴を有していたり、刑事事件に係わったりした者であっても、漁業を営みもしくはこれに従事し、又は河川において水産動植物の採捕もしくは養殖を行うことが全くないと断定することもできない。

そして、前掲<書証番号略>によれば、原告の発起人らは、いずれも右地区内に住所を有していること、原告の設立認可申請に際しては、原告の発起人が、それぞれ作成した、漁業従事状況書と題する申告書が宮崎県知事に提出されており、右漁業従事状況書には、少ない者で年間三五日間、多い者で年間一五〇日間、延岡市一円で漁業を営みもしくはこれに従事し、又は河川において常例として水産動植物の採捕もしくは養殖をしている旨記載されていること、原告の発起人にうち、W2、K3、K2、A及びM2は、原告の設立認可申請当時、シラスウナギ特別採捕許可を得ていたことが認められるので、その当時において、原告の発起人の年間の漁業従事日数が定款で定める日数を下回っていたという事実が、誰が判断しても同一の結論が出る程度に明らかであったとまでいうことはできず、正組合員になり得ない者を発起人として原告の設立手続がなされたものとして、その設立認可手続を無効とすることはできないといわざるを得ない。

5  また、原告の発起人のうち半数近くの者が、原告の設立認可時において、前科、前歴を有していたり、刑事事件に係わったりしており、また、K1を中心とする暴力集団Kグループの構成員ないし関係者であったとしても、このことによって直ちに、原告を、水産業協同組合法一条の定める「漁民及び水産加工業者の協同組織の発達を促進し、もってその経済的、社会的地位の向上と水産業の生産力の増進とを図り、国民経済の発展を期する。」との目的に反する組合であると断定することもできないから、このことを理由として、原告の設立認可手続きを無効とすることもできないというべきである。

二原告に対する本件共同漁業権の共有請求認可の効力

1  宮崎県知事が、昭和六〇年二月九日付けで、原告に対し、本件共同漁業権の共有請求を認可したことは当事者間に争いがない。

漁業法は、一四条八項に定める共同漁業権の免許の適格を有しない漁業協同組合であっても、共同漁業権の免許を受けた漁業協同組合等に対し、都道府県知事の認可を受けて共同漁業権の共有請求をすることができる旨規定している(一四条四項、一〇項)。この共有請求権は、形成権であると解され、権利を行使することによって、請求組合は、当然に共同漁業権の共有者となり、自らも共同漁業を営む権利を取得することになる。したがって、都道府県知事による共有請求の認可は、請求組合に対しこのような形成権を与えるものであるから、行政庁が公権力の行使として行い、国民の法的地位に変動をもたらす行為に該当し、行政事件訴訟法三条一項の抗告訴訟の対象となる行政行為であると解される。

そして、このような行政行為については、行為の瑕疵が重大であり、かつ、行為の要件の存在を肯定する行政庁の認定が誤認であることが、行為成立の当初から外形上客観的に明白である場合にのみ、例外的に、無効となることは、前記一1のとおりである。

2  被告らが、宮崎県知事の原告に対する本件共同漁業権の共有請求認可に関する重大かつ明白な瑕疵として主張する事実は、原告が、設立認可を受けた後も引き続き暴力団K組の構成員及びその関係者が役員となってこれらの者によって支配され、水産業協同組合法の定める正当な目的、趣旨に反した組合であり、増殖義務を果たせない組合であるにもかかわらず、共有請求を認可したというものである。

3  <書証番号略>によれば、昭和五五年四月三日付けの設立登記時には、原告の理事として、W1、G2、Y1、E1及びOが登記されていたが、右五名は、設立登記前の同年三月三一日付けで理事を退任し、新たに昭和五五年四月二〇日付けでK1が理事に就任し、その他従前のW1、E1に加え、新たにK3及びM1が理事に就任したこと、その後、昭和五八年九月二五日付けで、K1、W1、M1は残留し、新たにK4及びZ1が理事に就任し、この役員の体制は昭和六〇年五月まで継続したこと、昭和六〇年五月一七日付けでK4は残留し、新たにR、K2、W2、R3、S2及びR2が理事に就任したこと、以上の事実が認められる。

そして、原告の設立直後から昭和六〇年五月まで原告の理事であったK1は、前記一3のとおり、暴力集団Kグループの中心人物であって、刑事事件の前科、前歴を多数有し、その外の原告の歴代の理事のうち、W1、Y1、G1、O、K2及びM1は、K1を中心とする暴力集団Kグループの構成員ないし関係者であり、前記一3のとおり、前科、前歴を有していたり、刑事事件に係わったりしている。

また、右Y1は、前記一3(三)のとおり、訴外Fが、宮崎県知事から交付を受けていた昭和五四年度のシラスウナギの特別採捕許可証を期限切れの後にもかかわらず訴外Jに貸与し、Jが約束の貸賃五〇万円を支払わないとして同人を恐喝した事件の共犯者であり、<書証番号略>によれば、昭和六〇年五月一七日付けで原告の理事に就任したRは、大分県大分市に住居を有する訴外Pを、昭和五八年ころから、原告の組合員として、宮崎県知事からシラスウナギの特別採捕許可を受けさせ、手数料数万円を右Pから受け取っていた者であるが、昭和六〇年一二月には、右Pが、R所有の船を使用して、右特別採捕許可では使用を認められていないふくろ網を使用してシラスウナギを採捕し、宮崎県内水面漁業調整規則違反で検挙され刑事処罰を受けるという事件が発生したことが認められる。

そして、前掲<書証番号略>によれば、昭和五九年度の宮崎県知事に対するシラスウナギ特別採捕許可申請の際に、原告所属の組合員として申請者名簿に記載されている者の中に、多数の暴力集団Kグループの構成員が含まれていることが認められる。

4  しかしながら、原告の理事にK1が就任し、原告の理事の中にK1を中心とする暴力集団Kグループの構成員ないし関係者であったり、前科、前歴を有する者が含まれており、原告の組合員にも暴力集団Kグループの構成員が多数含まれているとしても、このことによって直ちに、原告を水産業協同組合法の目的に反する組合であると断定することはできない。

また、漁業法一二七条は、「内水面第五種共同漁業は、当該漁業の免許を受けたものが当該内水面において水産動植物の増殖をする場合でなければ免許してはならない。」と規定していることから、原告が、本件共同漁業権の共有請求の認可を受けるためには、原告が内水面において水産動植物の増殖をすることを予定していなければならないと解されるところ、<書証番号略>によれば、原告は、本件共同漁業権の共有請求認可申請にあたって、宮崎県知事に対して、「漁業権の内容たる漁業に係わる増殖計画」と題する書面を提出していることが認められる。

そして、そもそも共同漁業権の共有請求の認可にあたって、認可後に認可の申請をしている漁業協同組合等が、増殖義務を果たすか否かを予想することは極めて困難であるし、原告の理事であったY1ないしRが関与した前記3のシラスウナギの特別採捕許可に関する法規違反行為が水産資源の保護に反する行為であるとしても、Rが関与した宮崎県内水面漁業調整規則違反事件が発覚したのは、原告に対して本件共同漁業権の共有請求が認可された後のことであり、Y1の、期限切れのシラスウナギの特別採捕許可証の貸与への関与についても、原告が、組合として組織的にこの行為をしたことを認めるに足る証拠はないから、原告に対する本件共同漁業権の共有請求認可の時点において、認可後に原告が増殖義務を果たさないことが、誰が判断しても同一の結論が出る程度に明らかであったとまでいうことはできず、原告が、水産動植物の増殖を予定していないものとして、原告に対する本件共同漁業権の共有請求認可を無効であるとすることもできないといわざるを得ない。

5  以上のとおり、宮崎県知事の原告に対する本件共同漁業権の共有請求認可を無効であるとすることはできないのであるから、右認可は、宮崎県知事自身による取消又は行政事件訴訟法の手続による裁判所の取消判決がなされるまでは有効なものと取り扱われ、裁判所もその効力を否定することはできない。

そして、宮崎県知事が、昭和五八年九月一四日、被告らに対し、本件共同漁業権の免許を与えたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば、原告は、被告らに対し、昭和六〇年二月一二日付けの「漁業権共有請求書」を発送し、右請求書は、被告らに、いずれも同月一三日に到達したことが認められるので、原告は、昭和六〇年二月以降、被告らと、本件共同漁業権を準共有することになったというべきである。

三公序良俗違反の主張について

1  被告らは、原告が、反社会的暴力団K組及びその関係者によって支配されているので、原告による本件共同漁業権の行使は、公序良俗に反する旨主張するところ、前掲<書証番号略>、原告代表者R2及び同S2の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、設立認可後、昭和五五年に、被告らが、有する内共第四号第五種共同漁業権につき、宮崎県知事に対して共有請求の認可を申請したが、宮崎県知事は、宮崎県内水面漁場管理委員会にこれを諮問した結果、関係漁業協同組合の組織の一本化の方向で解決することが相当である旨の答申を受けたため、原告及び被告らに対し、組織一本化の協議と指導を繰り返し行った。

(二) その結果、昭和五八年六月一九日に開催された被告延岡五ヶ瀬川漁協の臨時総会で、同漁協と原告との合併交渉の了解が得られ、同年八月二一日に開催された被告延岡五ヶ瀬川漁協の臨時総会で、同漁協と原告との合併が決議された。

(三) 宮崎県知事は、これを受けて、昭和四八年九月一日付け内共第四号第五種共同漁業権の免許の期間満了による失効後の新免許について、五ヶ瀬川水系の内水面漁業計画を樹立し、昭和五八年九月一四日に被告らに対して、本件共同漁業権の免許を与えた。

(四) その後、被告延岡五ヶ瀬川漁協と原告との折衝により、昭和五九年三月一八日に至って、当時の被告延岡五ヶ瀬川漁協の組合長理事のR3と当時の原告組合長理事のK1との間で、合併期日を同年六月一日とする合併契約の調印が行われた。

(五) ところが、その後被告延岡五ヶ瀬川漁協の内部において、組合運営不信を理由とする役員改選請求がなされ、その結果前執行部役員は辞任し、昭和五九年四月一六日に同漁協の役員が改選された。

(六) そして、同年四月二九日に開催された被告延岡五ヶ瀬川漁協の臨時総会において、出席組合員から、同漁協のR3前組合長が、昭和五八年八月二一日開催の臨時総会において虚偽の言動を用いて合併決議を誘導したとの非難がなされ、結局、昭和五九年四月二九日の臨時総会において、原告との合併反対の緊急動議が決議された。

(七) さらに、昭和五九年五月二七日に開催された被告延岡五ヶ瀬川漁協の臨時総会では、同漁協の前執行部の責任追及がなされて資格停止処分二年とする決議がなされ、原告との合併に関する継続審議反対の決議もなされた。

(八) こうしたいきさつから、原告は、昭和五九年七月一九日に、宮崎県知事に対して本件共同漁業権の共有請求認可を申請し、宮崎県知事は、宮崎県内水面漁場管理委員会にこれを諮問し、同委員会は、一旦は関係漁業協同組合の組織統合を図ることが相当である旨の答申をしたが、宮崎県知事の再度の諮問を受けて、認可やむなしとの答申をし、その結果、宮崎県知事は、原告に対し、昭和六〇年二月九日付けで、共有請求を認可した。

(九) 昭和六三年五月二七日以降の原告の理事は、K4、R2、W2、S2、K5、Q及びG1であり、このうちK4はK1の実子であるが、他の者についは、必ずしもKグループの構成員であるとはいえず、昭和六三年一〇月一日時点での原告の正組合員及び準組合員には、Kグループの構成員はほとんど含まれていない。

2  漁業法は、地元漁民(河川の場合は、一四条八項、六項一号かっこ書により、当該河川において、一年に三〇日以上水産動植物の採捕又は養殖をする者)の世帯数の三分の二以上を組合員として擁する漁業協同組合か、合計して地元漁民の三分の二以上の組合員を擁する複数の漁業協同組合に、共同漁業権の免許の適格性を与えているが(一四条八項)、これらの漁業協同組合に漁業権を独占させる趣旨ではなく、地元漁民世帯数の三分の一未満の者の保護のために、共同漁業権の共有請求制度(一四条四項、一〇項)等の制度を設けている。

そして、前記一3、二3のとおり、原告の発起人や、原告の歴代の理事には、K1を始めとして、暴力集団Kグループの構成員ないし関係者が多数含まれており、また、昭和五九年の段階で、原告組合員には多数のKグループの構成員が含まれていたことは確かであるが、前記1(九)の事実によれば、昭和六三年以降は、原告組合におけるK1ないしKグループの影響力は、それ以前に比べると弱まっているということができるし、原告の組合員の中には、K1ないしKグループと全く関係のない者もいるのであるから、被告らに加入していないこれらの者が、原告に所属することによって五ヶ瀬川水系において漁業を営むことは、漁業法の予定するところであって何ら公序良俗に反する行為であるとはいえない。

さらに前記1の事実によれば、原告は、本件共同漁業権の共有請求認可については、漁業法の規定に則って手続を進め、宮崎県の仲介の下に被告延岡五ヶ瀬川漁協と交渉にあたっているものであって、原告が暴力的手段を用いて被告延岡五ヶ瀬川漁協と交渉したわけではないことが認められるし、他方、被告延岡五ヶ瀬川漁協は、代表者である当時の組合長理事が、原告との合併契約に調印していながら、被告延岡五ヶ瀬川漁協内部の事情によって、これを一方的に覆したものであるから、これらの諸事情を考慮すれば、原告による本件共同漁業権の行使が、公序良俗に反し許されないものであるということはできない。

四原告所属の組合員の漁業行使権の存否

1  共同漁業権においては、漁業権者である漁業協同組合等は、もっぱらその漁業権の管理にあたるに過ぎず、免許された漁業権の内容たる漁業は、漁業権ごとに漁業協同組合等が制定する漁業権行使規則に定められた一定の資格を有する組合員が、権利としてこれを営むのであり(八条一項)漁業権行使規則には、右の漁業行使権を有する者の資格に関する事項の外、当該漁業を営む場合の区域、期間、漁業の方法、その他当該漁業を営む場合に遵守しなければならない事項を規定するものとされ(八条二項)、この漁業権行使規則の効力発生には、都道府県知事の認可が必要である(八条四項)。

そして、漁業法は、地元漁民世帯数の三分の一未満の漁業協同組合の組合員の保護のために共同漁業権の共有請求制度(一四条四項、一〇条)を設けているので、内水面の第五種共同漁業権を複数の漁業協同組合が準共有することは、漁業法が本来予定しているものというべきであり、漁業法上、内水面の第五種共同漁業権の管理団体としてはできるだけ包括的で単一のものが予定されているとの被告らの主張は採り得ないが、地元漁民世帯数の三分の一未満の漁業協同組合が共有請求をして共同漁業権を準共有することになった場合、右三分の一未満の漁業協同組合は、共有持分に応じた漁業権を行使することしかできないはずであるから、漁業権行使規則も右共有持分に応じた漁業権の行使内容を定めたものでなければならず、共有請求を受けた漁業協同組合との調整を図る必要が生ずる。

ところが、漁業法にはこの点についての規定がないので、同法二三条の規定により、漁業権の性質に反しないかぎり、民法の共有に関する規定に従って処理されるものと解される。そして、民法二四九条は、「各共有者は、共有物の全部につき、その持分に応じたる使用をなすことを得。」と規定しているが、この規定自体からは、抽象的な共有物の使用権というものを考えることができるにすぎず、共有持分権に基づく具体的な使用権は民法二四九条だけでは決まらず、共有者間の協議が成立し初めて決定されると解され、漁業権の中で、一定区域の漁場の排他的占有を認めなければ成立が困難な漁業を目的とするものについては、民法の所有権の場合と同様に共有者間の協議がなければ漁場の具体的使用に支障が生ずるのであるから、右の共有物の使用に関する民法上の解釈が適用されるというべきである。

定置漁業及び区画漁業(漁業法六条)が、一定区域の漁場の排他的占有を認めなければ成立が困難な漁業を目的とする漁業権であるのに対し、共同漁業権の内容となりうる漁業には、一定区域の漁場の排他的占有を認めなければ成立が困難なものも、漁場の重複的使用が可能なものも含まれており、共同漁業権が準共有されている場合の漁業行使権の決定の解釈にあたっては、当該漁業権が、一定区域の漁場の排他的占有を認めなければ成立が困難な漁業を含むものであるか否かを検討する必要がある。

2  宮崎県知事が、昭和六〇年五月三一日付けで、原告に対し本件共同漁業権についての漁業権行使規則を認可したことは当事者間に争いがなく、前掲<書証番号略>、原告代表者R2の本人尋問の結果及び<書証番号略>、被告延岡五ヶ瀬川漁協代表者井上忍の本人尋問の結果、<書証番号略>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件共同漁業権は、あゆ漁業がその内容の一つになっているが、宮崎県知事が認可した原告の漁業権行使規則には、正組合員である個人にやな漁の行使権を与える旨の規定及び一年以上の組合員である個人に瀬付あゆ竿つり漁の行使権を与える旨の規定がある。

(二) 他方、被告延岡五ヶ瀬川漁協が、宮崎県知事から認可を受けている漁業権行使規則には、正組合員である個人にやな漁の行使権を与える旨の規定及び五年以上の組合員である個人に瀬付あゆ竿つり漁の行使権を与える旨の規定があり、被告五ヶ瀬川漁協及び被告西臼杵漁協も、被告延岡五ヶ瀬川漁協の漁業権行使規則に合わせて、漁業権行使規則を定めて宮崎県知事からそれぞれ認可を受けている。

(三) 被告延岡五ヶ瀬川漁協の漁業権行使規則には、第四条に「理事は、水産動植物の繁殖保護、漁業調整上必要と認める場合は漁業の方法、統数(人数)若しくは規模区域または期間を制限することができる。」との規定があり、被告らは、昭和四八年九月に宮崎県知事より内共四号共同漁業権の免許を受ける際に締結した「五ヶ瀬川内共四号共同漁業権管理協定書」と同内容の協定をそのまま本件共同漁業権の免許にあたっても締結し、右協定には、被告延岡五ヶ瀬川漁協は、五ヶ瀬川及び大瀬川の河口から旧延岡と旧南方村との境界までの区域、被告五ヶ瀬川漁協は、五ヶ瀬川の旧延岡市と旧南方村との境界から西臼杵郡日の影町八戸ダムまでの区域、被告西臼杵漁協は、五ヶ瀬川の八戸ダムから上流の区域を管理区域とするものと定められ、右協定に従って、被告らの間では、やな漁及び瀬付あゆ竿つり漁の行使は、それぞれの管理区域に限るとの合意がなされている。

(四) ところが、原告に対する漁業権行使規則が認可された時点で、原告と被告らの間には本件共同漁業権の行使、管理に関する協定はなかった。

(五) やな漁は、木材等を川の中に打ち並べて水を堰き止め、一箇所ないし数箇所に流すようにし、そこに流れてくるあゆをやな簀に落し入れて採る漁法であり、一旦やなを設置した場合は、あゆやな漁の期間中はやなを移動することはなく、また、やなの上流及び下流の数百メートルにわたって、魚道を遮断し又は散逸する行為を禁止する保護区域を設けることが必要であり、宮崎県内水面漁場管理委員会も、あゆやな漁の保護区域を漁場の上流七〇〇メートル、下流の三〇〇メートルとする委員会指示を出している。

(六) そして、別紙漁業権目録のとおり、本件共同漁業権には、敷設できるあゆやなは六統以内とするとの制限があるのみであるが、実際にあゆやなが設置されるのは、被告延岡五ヶ瀬川漁協の管理区域内において一統(延岡やな)、被告五ヶ瀬川漁協の管理区域内において二統(岡元やな及び川水流やな)のみで、被告西臼杵漁協の管理区域内には、あゆやなは設置されていない。

(七) 瀬付あゆ竿つり漁は、河原の瀬にあたる部分の両側に石等を積み上げて、その瀬を通過するあゆを掛け針で吊り上げる漁法であり、一区画の瀬は、川幅にして五メートル程度、上下流方向に一〇数メートルの広さで、瀬に杭を打って区別し、各漁業協同組合が、瀬割りをして各組合員に瀬を指定し、瀬を指定された組合員は、その年の瀬付あゆ竿つり漁の期間中は瀬を独占的に使用することができ、一般遊漁者はもちろん、他の組合員も、指定を受けた組合員の承諾なしには瀬に入ってあゆ漁をすることはできない。

(八) 瀬付あゆ竿つり漁は、浅瀬でなければできない漁法なので、これができる漁場は、被告延岡五ヶ瀬川漁協の管理区域内では、安賀多橋下(別紙図面(1)の①)、延岡やな下(同(1)の②)、三須地区(同(1)の③)及び百軒河原(同(1)の④)に限られ、瀬割りの数は年によって変わるが、最近の被告延岡五ヶ瀬川漁協の瀬割りにおいては、安賀多橋下の漁場で一四ないし二五箇所、延岡やな下の漁場で七ないし一一箇所、百軒河原で二〇箇所位、三須地区では、右岸で三、四箇所、左岸で一四、五箇所(但し、昭和六一年度以降は、被告延岡五ヶ瀬川漁協は、三須左岸では瀬割りをしていない。)であり、被告延岡五ヶ瀬川漁協の組合員(約一四四人)のうち瀬の指定が受けられるのは一部の者に限られている状態である。

(九) 瀬によって、あゆのとれる量がかなり違ってくるため、組合員のあいだでは、どの瀬が指定されるかに重大な関心を有しており、通常は抽選によって公平に瀬を指定するようにしている。

3 前項の事実によれば、やな漁及び瀬付あゆ竿つり漁は、一定区域の漁場の排他的占有を認めなければ成立が困難な漁業というべきであるところ、被告らの漁業権行使規則は、やな漁及び瀬付あゆ竿つり漁の行使をそれぞれの管理区域に限るとの合意を前提として、その行使の資格が定められているのに対し、原告の漁業権行使規則は、本件共同漁業権の及ぶ範囲全域につき、漁業権の共有者である被告らとの調整を経由することなく、やな漁及び瀬付あゆ竿つり漁を行使する資格を組合員に与えているものであって、右漁業権行使規則に基づいて原告所属の組合員がやな漁及び瀬付あゆ竿つり漁を行使することができるとするなら、前記二、三記載の原告の役員及び組合員の実態並びに漁業権行使規則認可に至るまでの原告と被告らとの間の本件共同漁業権をめぐる紛争の経緯を考慮すれば、原告所属の組合員と被告ら所属の組合員との間で、やな漁及び瀬付あゆ竿つり漁に適した漁場を実力で奪い合う事態が発生することは極めて容易に予想できるところである。したがって、本件共同漁業権の場合は、一定区域の漁場の排他的占有を認めなければ成立が困難な漁業を含むものであるから、他の共有者である被告らとの間で漁業権の行使に関する協議がなされなければ、具体的な行使ができないものと解すべきであり、右協議がなされないまま原告が勝手に定めた原告の漁業権行使規則は、共有物の使用方法に関する定めに基づかない規則であって無効というべきである。

よって、原告は、被告らに対し共有請求をして本件共同漁業権の共有者となった時点で、改めて被告らとの間で、漁業権行使規則を制定するために漁業権の行使に関する協議をするべきであったのであり、原告による漁業権行使規則の認可申請を受けた宮崎県知事としても、原告及び被告らに対し、漁業権の行使に関する協定の締結をした上でこれに基づく新たな漁業権行使規則を各組合で定めて認可申請をするように指導すべきであったということができる。そして、原告と被告らとの間で全員一致の合意が得られない場合には、民法二五二条により、共有者の持分の過半数によって行使協定を定めることも可能であると解されるが、このようにして定められた行使協定に基づく新漁業権行使規則もまた宮崎県知事の認可を受けなければ効力を有しないのであるから、小数組合に不当に不利益に定められた漁業権行使規則であれば、県知事の認可を受けられないことになるので、多数決によって行使協定が定められるとしても、原告にとって不当に不利益なものにはならないものと考えられる。

もとより、都道府県知事の漁業権行使規則の認可は、行使規則に効力を付与するものであって、公権力の行使に当たる行為として行政事件訴訟法三条一項の抗告訴訟の対象となる行政行為というべきであるが、宮崎県知事による原告の漁業権行使規則の認可には、前記の如く右行使規則中に漁場区域の排他的占有を認めなければ成立が困難な漁業であるやな漁及び瀬付あゆ竿つり漁の行使に関する規定が含まれているのにもかかわらず、他の共有者である被告らとの間で漁業権の行使に関する協定が全くなされないまま勝手に定めた原告の漁業権行使規則を認可した瑕疵があり、やな漁及び瀬付あゆ竿つり漁が漁場区域の排他的占有を認めなければ成立が困難な漁業であるとの事実及び行使協定が締結されていなかったという事実は、認可当時の状況の下で、誰が判断しても同一の結論が出る程度に明白であったというべきであるし、行使協定がないままに漁業権行使規則を認可したという瑕疵は、前記の如く原告所属の組合員と被告ら所属の組合員との間で、実力による漁場の奪い合いが生ずる可能性が高いという意味においてその結果も重大であるので、宮崎県知事による取消又は行政処分の取消判決を待つまでもなく無効であるといわなければならない。

4 このように、原告の定めた漁業権行使規則は、その効力を有しないものであるから、原告所属の組合員には、本件共同漁業権に基づく漁業行使権はないものといわざるを得ない。したがって、前記第一の五のとおり、甲事件請求の趣旨2項及び3項のうち(二)の請求を、被告延岡五ヶ瀬川漁協所属の組合員による具体的な妨害行為の禁止を求める請求であると解したとしても、甲事件請求の趣旨2項並びに3項(一)及び同項(二)の各請求は、いずれも原告所属の組合員が本件共同漁業権に基づく漁業行使権を有することを前提とする請求であるから、その余について判断するまでもなく、右各請求は失当といわざるを得ない。

五本件共同漁業権に関する協議の拒絶

1  原告が本件共同漁業権の共有請求認可を受けて被告らに対して共有請求をした昭和六〇年二月以降も、被告延岡五ヶ瀬川漁協が、原告の漁業権行使に関する協議の申出を拒絶し、同年四月には、宮崎地方裁判所に対して宮崎県知事の共有請求認可処分の取消等を求める行政訴訟を提起したこと、被告延岡五ヶ瀬川漁協を始めとする被告らは、その後も、原告と被告らが本件共同漁業権を共有していることを争い、原告の再三再四にわたる協議の申入れに対し右訴訟の提起を理由に協議を拒絶し続けていることは当事者間に争いがない。

2 前記二のとおり、宮崎県知事の共有請求認可は公権力の行使たる行政行為であるから、単に抗告訴訟を提起している事実をもってその効力を否定することはできないのはもちろん、右認可に重大かつ明白な瑕疵があるものとしてこれを無効とすることもできないのであるから、被告らは、右認可が宮崎県知事によって取り消されるか、あるいは裁判所の取消判決がなされるまでは、右認可の瑕疵を理由に、原告が本件共同漁業権を準共有していることを法律上争うことができない。

したがって、原告と被告らが本件共同漁業権を共有していることの確認を求める甲事件請求の趣旨1項は理由がある。

そして、前記三のとおり原告による本件共同漁業権の行使が公序良俗に反するともいえないのであるから、被告らは、本件共同漁業権の共有者である原告からの漁業権行使に関する協議の申出に当然応じなければならないものであって、協議の拒絶禁止を求める甲事件請求の趣旨4項もまた理由がある。

六本件共同漁業権の共有を否定する言動の禁止請求の可否

前項のとおり、被告らは、宮崎県知事の原告に対する共有請求認可が宮崎県知事によって取り消されるか、あるいは裁判所の取消判決がなされるまでは、右認可の瑕疵を理由に、原告が本件共同漁業権を準共有していることを法律上争うことができないが、被告らが、右認可の取消等を求める抗告訴訟の中で原告による本件共同漁業権の準共有を否定する主張をすること等はもとより何ら差し支えないのであって、原告には、被告らに対し本件共同漁業権の準共有を否定する言動の全てを一律に禁止する請求権がないことは明らかであるから、右権利があることを前提とする甲事件請求の趣旨5項の請求は失当である。

七やな漁の行使を妨害されたことによる原告の損害

1  甲事件請求の趣旨6項の請求は、原告が、被告延岡五ヶ瀬川漁協に対して「延岡やな」におけるやな漁の共同行使を要求したのに対し、同被告が、これを拒絶して原告の得べかりし収益金の収受を妨害したことによる損害賠償の請求を、同被告のみに求めるものであって、この請求は、被告らが本件共同漁業権の行使協定締結のための協議を拒絶していることによって、原告の漁業権行使規則が効力を有せず、その結果原告の本件共同漁業権の共有持分が実効性を有しないものとなっていることに対する損害の賠償を請求するものではないことは、原告主張の請求原因から明らかである。

2 そして、前記四のとおり、原告と被告らとの間で本件共同漁業権の行使協定が締結された上で、原告が新しい漁業権行使規則を定めて宮崎県知事の認可を得るまでは、原告所属の組合員には本件共同漁業権に基づくやな漁の行使権はないから、原告所属の組合員がやな漁の行使権を有することを前提とする甲事件請求の趣旨6項の請求は、その余について判断するまでもなく失当である。

第三乙事件についての判断

一被告延岡五ヶ瀬川漁協、被告五ヶ瀬川漁協及び被告西臼杵漁協が、いずれも水産業協同組合法に基づき設立された漁業協同組合であり、宮崎県知事より本件共同漁業権の認可を受けた者であることは、当事者間に争いがない。

二前記第二のとおり、宮崎県知事による原告の設立認可手続及び原告の本件共同漁業権の共有請求認可手続には、重大かつ明白な瑕疵があるとはいえないので、これらの処分を無効とすることはできないが、宮崎県知事による原告の漁業権行使規則の認可手続には重大かつ明白な瑕疵があるので、右認可は、宮崎県知事の取消又は行政処分の取消判決を待つまでもなく無効と解される。

そして、共同漁業権は、漁業権者である漁業協同組合自体が漁業を営むものではなく、免許された漁業権の内容たる漁業は、漁業権行使規則に定められた一定の資格を有する組合員が権利としてこれを営むものであり(八条一項)、有効な漁業権行使規則がなければ、たとえ共同漁業権の共有者であっても、自ら共同漁業権の内容たる漁業を営むことができないのはもちろん、その所属組合員が、共同漁業権に基づく漁業を営むこともできないというべきところ、原告の漁業権行使規則は、宮崎県知事の認可が無効であるから、その効力を有しないものであって(八条四項)、原告及び原告所属の組合員は、漁業行使権を有しない。

三他方、被告らも、昭和六〇年二月に原告から共有請求を受けたことによって、本件共同漁業権の持分が減縮し、従来と同一内容の漁業権の行使をすることができなくなったため、被告らが、それ以前に制定し認可を受けていた漁業権行使規則も、実体にそぐわないものになったものということができる。

しかしながら、漁業法は、共有請求がなされた後に漁業権の行使に関する協議がなされることも予想しているというべきところ、このような場合に、共有請求を受けた漁業協同組合の漁業権行使規則が自動的に無効となり、行使協定が成立するまでは共同漁業権に基づき漁業を営み得る者が誰もいなくなるとするのも不合理であるから、共有請求を受けた被告らの漁業権行使規則は、原告との間の行使協定が締結される以前においても有効と解するのが相当である。

四したがって、被告ら所属の組合員は、本件共同漁業権に基づく漁業行使権を有しているのに対し、原告所属の組合員は、右漁業行使権を有していないのであるから、被告らは、本件共同漁業権に基づき、原告に対し、原告が、五ヶ瀬川水系において瀬付あゆ竿つり漁の瀬割りをしたり、原告所属の組合員に瀬付あゆ竿つり漁を実行させること及びあゆやなを設置したり、原告所属の組合員にやな漁を実行させることを禁止し、又は、被告らによる五ヶ瀬川水系での漁業権の管理及び被告ら所属の組合員の漁業権行使への妨害排除を求めることができるというべきである。

第四結論

以上のとおり、甲事件請求の趣旨1項及び4項は理由があるのでこれを認容するが、仮執行宣言は相当ではないからこれを付さないこととし、その余の甲事件請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却し、被告らが、原告に対し、本件共同漁業権に基づき妨害排除を求める乙事件請求の趣旨は、いずれも理由があるのでこれを認めることとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官雨宮則夫 裁判官高原正良 裁判官中山幾次郎)

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