宮崎家庭裁判所日南支部 昭和44年(家)107号 審判 1970年1月10日
申立人 山村晃(仮名)
事件本人 山村ハツ(仮名)
主文
事件本人の保護義務を行うべきものの順位について申立人の順位を事件本人の配偶者山村重太郎の先とし、申立人を事件本人の保護義務者に選任する。
理由
本件申立の趣旨は、事件本人は現在串間市○○病院に入院している精神障害者なので、その長男である申立人または二女である山村宏子のいずれか一人を事件本人の保護義務者に選任してほしい、というものである。
宮崎家庭裁判所調査官稲留秀穂の調査報告書および申立人、山村宏子の各審問結果によると、事件本人は親族紛争がもとでノイローゼになり、昭和四一年一〇月一八日妄想型精神分裂症と診断されて串間市○○○○△△△△番地○○病院に入院し、そのまま現在に至るも、いまだ治癒しない状態であつて精神障害者であることが認められる。
しかして、筆頭者山村重太郎、同申立人の各戸籍謄本、上記調査報告書および申立人、山村宏子の各審問結果によると、事件本人には大正一二年三月二九日婚姻した夫山村重太郎があるところ、両者は昭和二二年以来事実上離婚状態にあり山村重太郎は西宮市に他女と同棲して別居しその間に子もできていること、他方事件本人と山村重太郎との間には郵便局員をしている長男申立人(昭和七年一〇月四日生)雑貨商を営む二女山村宏(昭和二年八月一二日生)の二人の子があり、相協力して事件本人の保護によくあたつていることが認められる。
ところで、精神衛生法第二〇条一項二項からすると、精神障害者の保護義務者が数人ある場合後見人に次いで配偶者が他の扶養義務者に先んじてその保護義務を行うべきものとされているところ、配偶者において保護能力に欠けるか、保護義務の履行ができないかもしくはむずかしいような場合には、同条二項但書により精神障害者の保護のため特にその必要性がある場合として順位の変更をするのが相当であり、事実上の離婚状態というのは上記後者の場合に該当するものと解する。
しかして、山村重太郎は昭和二二年以来他女との同棲生活を遠く離れた西宮市でもち事実上の離婚状態にあること前記認定のとおりであるから、本件の場合すでによく事件本人の保護にあたつている子たる申立人、山村宏子のうちいずれかをもつて保護義務者に選任するのが相当であり、その場合双方の意向ならびに長男たる身分等を考慮すると申立人を事件本人の保護義務者に選任するのが適当と思料される。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 渡瀬勲)