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宮崎簡易裁判所 昭和33年(ハ)429号 判決 1959年11月18日

原告 盛ミチ子 外二名

被告 柳義平

主文

原告等の請求をいづれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は

「被告より原告等に対する宮崎簡易裁判所昭和三十二年(ユ)第三五号調停事件の調停調書に基く強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

「昭和三十二年十二月二十日被告(代理人弁護士杉尾利雄)より訴外盛福謙(代理人弁護士福沢文夫)に対する宮崎簡易裁判所昭和三十一年(ハ)第三〇三号家屋撤去並土地明渡請求事件において別紙調停条項の如き内容の調停が成立したとして、その旨の調書が作成され、被告は昭和三十三年八月六日原告等に対する執行文の附与を受け、同年九月十五日原告等に対し本件建物の明渡の強制執行をなしてきた。

しかしながら右盛福謙は右調停成立前の昭和三十二年六月四日死亡し、原告等及び訴外盛福俊、同盛福秀、同盛福彦、同盛典子、同盛福義、同盛スエ子において共同相続したが、同人等において前記盛福謙の代理人弁護士福沢文夫に「調停」についての代理権を与えたことはない。もつとも前記調停は通常の訴訟手続から移行したもので、右福沢弁護士は亡盛福謙存命中その訴訟手続について民事訴訟法第八十一条第一、二項所定の各事項につきその代理権を授与されていたことはあるが、もとより右第二項には調停は含まず、したがつて同法第八十五条の代理権不消滅の規定も適用をみない。

けだし調停手続に関する代理権については、民事訴訟法には規定がなく、民事調停法、同規則にも代理権の内容、範囲につき特別の定めはないので、非訟事件手続法の規定が準用されるが、同法においては代理権に関して民訴の一般的準用はなく、僅かに訴訟代理権の証明に関する規定を準用するにとどめている。

このことは非訟事件の本質から本人出頭主義を採用していることを意味するもので、民事訴訟手続が本人又は弁護士たる代理人出頭主義を原則としていることと扱を異にしており、非訟事件たる民事調停手続は民事訴訟手続とは全然別個の手続でもあるから、民事訴訟における代理権の授権をもつて直ちに調停の授権があつたとはいゝ得ない。したがつて本件の如く訴訟手続より調停手続に移行した場合も当然調停手続のための委任授権が必要であると解される。調停手続においては代理人による調停を例外的なものとしている態度も右解釈を裏付けるものである。

実務上問題が起らないのは調停には殆ど本人が出頭しているからであるが、本件では調停成立当時本人の出頭はなく被告(本件原告)訴訟代理人福沢弁護士の出頭あるのみであり、右福沢には記録上明らかなるように調停に関する代理権はない。

そうすると、結局前記調停は無権代理人によつてなされた無効の調停というべく、かゝる無効な調停調書による強制執行は許されないので、これが執行力の排除を求める」と述べ、更に予備的請求として

「被告より原告等に対する宮崎簡易裁判所昭和三十二年(ユ)第三五号調停事件の調停調書につき同裁判所が昭和三十三年八月六日附与した執行力ある正本に基く強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

「仮りに右主たる請求が認容されないとしても、前記調停調書についての承継執行文の附与は亡盛福謙の一般承継人たる前記九名に附与さるべきであるにもかゝわらず、原告等に対してのみ承継執行文の附与がなされたのは違法であるから右執行力ある正本に基づく強制執行は許されない。よつてこれが執行力の排除を求める。」と述べ、

立証として甲第一、二号証を提出し、証人福沢文夫の証言及び原告盛ミチ子、同黒岩賀子本人尋問の各結果を援用し、乙第一号証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として

「原告等主張の日被告(代理人弁護士杉尾利雄)と訴外盛福謙(代理人弁護士福沢文夫)との間における宮崎簡易裁判所昭和三十一年(ハ)第三〇三号家屋撤去並土地明渡請求事件につき別紙調停条項の如き内容の調停が成立したこと、被告が原告等主張の各日時に、その主張のように承継執行文の附与を受け、建物明渡の強制執行をなしたこと及びその主張の日右盛福謙が死亡し、その主張の如く相続がなされたことは認める。

しかして右調停は適法に成立したものである。すなわち前記福沢弁護士は右相続人から調停について代理権を授与されていたものであり、仮りにそうでないとしても原告等も認めるとおり亡盛福謙存命中前記訴訟事件について民事訴訟法第八十一条第二項の代理権を授与されていたのであるから、同項には特に調停という文字はないが、和解と実質的にその効力を異にしない調停を含まないとは解されず、したがつて右訴訟手続から右盛福謙死亡後調停手続に移行しても右福沢弁護士の代理権は消滅せず結局本件調停は適法に代理されたもので 原告等主張の如く無効なものではない。

次に原告等の予備的請求について、原告等は本件執行文の附与に関し、同附与は右相続人全員に対してのみなさるべきで、その一部の者に対してなされた承継執行文の附与は違法である旨主張しているが、相続人中本件建物の現実の占有者のみを相手取つてそれらに対する関係でのみ承継執行文の附与がなされることは違法ではない。」と答え

立証として乙第一号証を提出し証人福沢文夫の証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

昭和三十二年十二月二十日被告(同代理人弁護士杉尾利雄)より訴外盛福謙(同代理人弁護士福沢文夫)に対する当庁昭和三十一年(ハ)第三〇三号家屋撤去並土地明渡請求事件において別紙調停条項の如き内容の調停がなされたこと、被告が昭和三十三年八月六日右調停調書正本につき原告等に対する承継執行文の附与を受け、同年九月十五日原告等に対し本件建物明渡の強制執行をなしたこと及び右盛福謙は右調停成立前の同年六月四日死亡し、原告等三名及び訴外盛福俊、同盛福秀、同盛福彦、同盛典子、同盛福義、同盛スエ子等において共同相続をしたことは当事者間に争がない。

証人福沢文夫の証言によれば同人に対し前記亡盛福謙存命中「調停」についての特別授権のなされたこと、また同人死亡後その相続人から明示的に調停の授権のなされた事実もないことが認められる。

そこで前記調停が適法に成立したか否かにつき検討する。

ところで前記調停は訴訟手続より調停手続に移行して成立をみたものであること、右訴訟手続において前記福沢文夫は被告(亡盛福謙)訴訟代理人として民事訴訟法第八十一条第一項、第二項の授権を得て訴訟手続を追行中調停手続への移行によりそのまま調停代理人として右盛福謙死亡後も何等受継等の手続もとらず調停に関与し調停成立に至つたものであることは弁論の全趣旨に徴し、当事者間に争がない。

原告等は調停手続における代理権は訴訟手続におけるそれとは異なるもので、たとえ訴訟手続において民事訴訟法第八十一条第二項の特別授権があつたとしても、そのなかには調停は含まれないので、同法第八十五条の当事者の死亡による代理権不消滅の規定も適用されない旨主張するのに対し、被告は和解の特別授権ある以上それと実質的に相等しい調停においても代理権ありと解すべく、したがつて民事訴訟法第八十五条の規定も適用される旨主張する。

そこで先ず民事訴訟法第八十一条第二項の和解のうちに調停も含まれるか否かについて考えてみるに、和解と言い調停というも、いづれも当事者の自治的解決によつて紛争を処理する点は同一であつて、確かに手続上の相違はみられるが実質的には同一の内容をもつものといわねばならず、訴訟手続上和解の特別権限をもつ代理人である以上調停手続についても代理権ありとなすべきが相当であつてこのことはまた実務の取扱とも一致する。(成立に争のない乙第一号証)

したがつてまた訴訟手続から調停手続え移行し、当事者が死亡した場合も民事訴訟法第八十五条の規定の趣旨を類推して委任者の死亡によつて代理権が消滅することはないものと解するを相当とする。(この点民事調停法乃至同規則には明文上特段の規定がないから、或は明文のない以上は調停事件は当事者の死亡により当然終了し調停についての代理権は消滅して受継の問題を生ずるとの見解もあり得ようが、当該調停事件が死亡当事者の一身専属権に関する場合の如く調停によつて解決すべき紛争がその当事者の死亡により当然消滅に帰するものと認められる如き場合を除き、当該紛争は通例死亡当事者の一般承継人たる相続人により承継されて存続すると考えられるし、また調停手続は訴訟手続と異り、自治的解決を主眼とするとはいえ、民事紛争の解決を計るため国家機関の関与のもとに当事者対立の手続構造をそなえている点両者は相違するものではないから手続経済並びに当事者の便宜を考慮すべき要請は訴訟手続と同様調停手続にも存すると考えられる)

いま本件について、これを考えてみると、さきに記載した如く前記福沢弁護士には前記訴訟事件について民事訴訟法第八十一条第二項の和解権限があつたことは当事者間に争がないから、右に説示したような理由によつて調停についての代理権もあつたこととなり、且つ当事者たる盛福謙の死亡により右代理権に消長を来たすこともないと考えられるので、結局調停についての代理権のないことを理由に前記調停調書の執行力の排除を求める原告等の主たる請求は排斥を免れないこととなる。

次に原告等の予備的請求について判断する。

原告等は承継執行文の附与は相続人全員に対してなさるべきものであるにもかかわらず、原告等だけに対して承継執行文を附与したのは違法である旨主張しているが、承継執行文附与に対する異議の訴は承継の点を争つて、附与された執行力ある正本の執行力排除を求める形成の訴と解されるところ原告等は自ら承継人であることは認めながらその附与手続の瑕庇を攻撃しているのであるから、果して前記訴の形で右の如き主張が許されるかは問題といわねばならないが、しばらくこの点を論外においたとしても、冒頭記載したように当事者間に争のない前記調停調書によれば、亡盛福謙が昭和三十三年六月三十日までに本件家屋のうち別紙図面表示部分の明渡義務を負担していることは明らかであるから、かかる明渡義務の相続において、右の義務はその性質上相続人の関係では不可分債務となることは多言を要しない。そして他方債権者の執行の自由を前提として考える限り相続人中の何人を相手に右不可分債務の履行を求めて執行に及ぶかは債権者の執行の自由の範囲内のことであるといわねばならない。ましてや本件においては原告盛ミチコの供述からも窺われるように前記強制執行当時右家屋占拠中の亡福謙の相続人は原告等だけであつたのであるから、債権者である被告が前記調停調書を債務名義として執行に及ぶ以上不要な手続の浪費を避けて直接原告等だけを相手として承継執行文の附与を求めたことも当然に肯けることである。したがつて右の附与自体に原告等の主張するが如き違法な点はなく、結局原告等の予備的請求もまた棄却を免れない。

よつて原告等の本訴請求はいづれも失当として棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 麻上正信)

調停条項

一、被告(盛福謙以下同じ)は原告(柳義平以下同じ)に対し、

宮崎市神宮東町一九四番地の四所在の被告所有に係る

(一) 木造瓦葺二階建店舗建坪一〇坪二階坪五坪の内別紙見取図表示の(イ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(ロ)(イ)の各点を順次連結した部分((イ)(ロ)を連結した線は右家屋の棟木南北の中心点より垂直に下ろした地上々の二点を連結したもの)を本日金一〇万円にて売渡した。

二、被告は昭和三三年六月三〇日までに右売渡部分を原告に明渡し原告は右部分の明渡をうけると引換えに金一〇万円を支払うものとする。

三、原被告間の所有家屋の境界線は前記(イ)(ロ)を連結した線にして、(イ)(ロ)の線上には壁板を以て仕切りこの板壁は両側より板を打ち(所謂大皷張り)これに要する造作費は原告の支弁負担とする。

四、原告買受部分の分割並びにその所有権移転登記の費用は原告負担とし且被告に対する昭和二六年九月八日以降月一五〇円の割による地料相当額の損害金の請求は原告においい放棄する。

五 本件訴訟費用は各自弁とする。

図<省略>

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