宮崎簡易裁判所 昭和41年(ろ)82号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(罪となるべき事実)
被告人は昭和四〇年一〇月三一日午後零時二〇分ごろ、宮崎県公安委員会が道路標識によつて、一時停止すべき場所と指定した宮崎市広島通二丁目一番地先道路において、普通乗用自動車を運転して交差点に入るに際し、一時停止しなかつたものである。
(被告人の主張に対する判断)
被告人は「自分は当時前示交差点に入るに際しその直前で、一時停止したものであるから本件は罪とならない。」旨一貫して主張する。
要するに当公判廷で被告人は右交差点の直前で少くとも一秒間位は停止したのち進行した旨供述し一方証人渡辺喜洋、同土谷五男に対する各証人尋問調書によれば、警察官である右両名は当日右交差点附近で一時不停止を主とした交通違反の取締りに従事していて被告人運転の自動車が時速二〇粁位で西方から東方に向つて進行して来て停止することもなく本件交差点に進入して来たのを現認し直ちに停車を命じて一時停止違反として検挙したというのである。
そこで右被告人の供述の真否を他の各証拠と対比して検討する、当裁判所の検証調書、前記各証人尋問調書によれば両警察官は本件当日、本件場所で午前一一時頃から午後零時三〇分頃まで交差点から東方へ通ずる道路沿いの南側自転車店前で交差点の方を向いて二人接近して立ち停止線上における通行車の停止の有無を注意していたというのであるが、証人等の所在地点から被告人の車の進行して来たという西方道路への見通しはよく、殊に事件当日は晴天で昼間であつたこと、停止すべき地点に至るまでの被告人の車の運行状況については視界を妨害する物件もないこと、取締時間の一時間半の車の通行台数が朝夕のラッシェ時の如きふくそう(輻輳)している状態でなかつたこと、現場は一方通行とされておること、被告人の車の進行直前方に通行車がなかつたことなどからして、たえず被告人の車を凝視して緊張を保ちうることを期待しえなかつたとは云えない。したがつて西方である前方から交差点に直進してくる被告人の車を交差点直前で一時停止の有無の事実を確認することが容易に出来たものと認められ右両警察官が右停止の有無について識別しえなかつたとは到底考えられないものといわなければならないのである。
ただ若干疑問になるのは証人等の現認位置が被告人の車の進行方向に対しほとんど直正面に位置し、しかも停止すべき線上より約二八米距てた地点で車の停止状況を注目していた場合かりに被告人の供述どおり一秒間の位の短時間内の停止について確認が出来かねることがあるのではないかということであるが、横の方から見ると違つていくらかは難があるが、しかし前記のとおり進行車を注視して緊張していたならば見間違うことはないということを検証の結果認めることができるのである。
なお、被告人の停止したと供述することから被告人の利益になるように瞬時に停止したものと考えてみた場合、被告人が停したと主張する地点においてクラッチとブレーキを踏んで停止した状態につつた後直ちに発進したとすれば被告人の主観としては停止したが車輪は惰性により若干の間回転しているので車体自体は動いており客観的には停止した状態にはならないことからして本件の場合にも或はかような状況を呈したものでなかつたとは否定することができないのであることから現認した取締警察官たる証人等には右のような状況の場合として停止しなかつたとしたものとも考えられないことはないのである。道路交通法四三条の指定場所における一時停止をすべき地点について考えるに同法条の立法趣旨が同法一条に規定する道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図る目的にでたものであることは当然のことであるから具体的危険の有無を問うことなく必ず交差点の直前において一時停止して左右の確認をなすべき義務を課したものであることからして画一的に客観的一時の停止した状態を要求されるので、前記のような場合は停止したものとすべきでないことは当然なことである。又被告人が不停止違反として停車を命ぜられたときに停止の有無について取締官たる証人等と問答したと被告人は述べるが、その際被告人としては自己の真実性を立証するために証人等の面前で被告人の車の乗客に対し停止の有無についてたしかめて証拠を保全する等の方法をとるべきであり、かような方法をとらなかつたたことからその後の取調べのときおよび現在の被告人が停止したという供述には他にこれを裏づけうる証拠がなく、なお逆に証人等の供述の証明力を弾劾する証拠も他にないことからして証人等の一致した不停止を現認した事実の真実性の蓋然性が強力であることになり、被告人の主張は証明力が薄弱なことになるのである。すると被告人の停止した旨の供述はこれを信用することが出来ないということになる。
なお被告人は証人渡辺から停車を命ぜられたときの問答は警察官が停止したか否かについて疑をもつたから被告人にその真実性をたしかめたもので従つて明確な停止を認めていなかつたのであるから証人両名の証言内容は信用性がないと述べるが、しかし停車を命じたのは停止しなかつたことを認めたからであつて停止したか否かを確認するために停車を命じうることは取締官としては特別の事情のある場合は勿論であるも特段の事情の見出せない本件においては経験則上考えられないことであるしその問答内容について右の判断を前提とする以上信用性がなく、かりにかような問答がなされたとしても本件判断に影響を及ぼすものではない。又停車を命ぜられた位置につき被告人と証人等の供述にくい違いがあるが停止したか否かの点にはたやすく結びつくものではなくかりに強いて若干結びつくとしても前示判断をくつがえすに足りるものではない。
すると、被告人の本件主張はその理由がないというべきである。(佐多春見)