富山地方裁判所 平成元年(ワ)264号 判決 1997年2月19日
長野県松本市芳野一九番四八号
原告
キッセイ薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
神澤邦雄
右訴訟代理人弁護士
松本重敏
右同
青柳昤子
右同
美勢克彦
右輔佐人弁理士
阿形明
富山県婦負郡婦中町萩島三六九七番地八
被告
株式会社ワイ・アイ・シー
右代表者代表取締役
松本巍
(以下「被告ワイ・アイ・シー」という。)
東京都中央区日本橋本町四丁目一五番九号
被告
メディサ新薬株式会社
右代表者代表取締役
山根功亘
(以下「被告メディサ」という。)
大阪市淀川区西中島五丁目一三番九号
被告
共和薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
杉浦好昭
(以下「被告共和」という。)
大阪府門真市松生町三番八号
被告
東和薬品株式会社
右代表者代表取締役
吉田雄市
(以下「被告東和」という。)
香川県大川郡大内町三本松五六七番地
被告
帝國製薬株式会社
右代表者代表取締役
赤澤庄三
(以下「被告帝國」という。)
滋賀県甲賀郡甲賀町大字大原市場一七〇番地
被告
大正薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
井元武一
(以下「被告大正」という。)
滋賀県甲賀郡甲賀町大字大原市場四三番地の一
被告
大原薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
大原徳重
(以下「被告大原」という。)
名古屋市東区葵三丁目二四番二号
被告
大洋薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
新谷重樹
(以下「被告大洋」という。)
徳島市国府町府中九二番地
被告
長生堂製薬株式会社
右代表者代表取締役
播磨久明
(以下「被告長生堂」という。)
大阪府池田市豊島北一丁目一六番一号
被告
鶴原製薬株式会社
右代表者代表取締役
鶴原三郎
(以下「被告鶴原」という。)
山形県天童市大字清池字藤段一三三一番地
被告
日新製薬株式会社
右代表者代表取締役
大石俊樹
(以下「被告日新」という。)
東京都港区虎ノ門三丁目一〇番一一号
被告
ベーリンガー・マンハイム株式会社
右代表者代表取締役
ヨアヒム・ウーラー
(以下「被告ベーリンガー」という。)
大阪市旭区赤川一丁目四番二五号
被告
沢井製薬株式会社
右代表者代表取締役
澤井弘行
(以下「被告沢井」という。)
大阪市中央区瓦町三丁目一番四号
被告
東亜紡織株式会社
右代表者代表取締役
永峰俊郎
(以下「被告東亜」という。)
右一四名訴訟代理人弁護士
板井一瓏
右復代理人弁護士
浦崎威
右同
久保精一郎
右輔佐人弁理士
伊藤武雄
主文
一1 被告大原、被告ワイ・アイ・シー及び被告東亜は、原告に対し、連帯して二億九二〇四万一〇〇〇円及び
内九六八三万二〇六八円について平成二年一月一日から
内一億九五二〇万八九三二円について平成三年一月一日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告大原及び被告東亜は、原告に対し、連帯して二億六八九八万二九二八円及び
内一億七五八四万五二八六円について平成三年一月一日から
内三三七六万九〇七七円について平成四年一月一日から
内五九三六万八五六五円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告大原は、原告に対し一六九四万七三九六円及び
内二七一万〇七八七円について平成三年一月一日から
内三二五万一八三二円について平成四年一月一日から
内一〇九八万四七七七円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告共和は、原告に対し五三万九〇七八円及びこれに対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被告東和は、原告に対し二億一七九四万二六五九円及び
内二二五五万五一二三円について平成三年一月一日から
内一億二一〇二万九三四二円について平成四年一月一日から
内七四三五万八一九四円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 被告帝國は、原告に対し七七六八万七六七九円及び
内一四四五万一二四三円について平成三年一月一日から
内四〇三七万〇六三六円について平成四年一月一日から
内二二八六万五八〇〇円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
7 被告大正は、原告に対し二三二九万四四八〇円及び
内一三九万六四六六円について平成三年一月一日から
内六六五万一八七五円について平成四年一月一日から
内一五二四万六一三九円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
8 被告大洋は、原告に対し一九一七万四三八八円及び
内五七八万一四七一円について平成三年一月一日から
内二八〇万〇八三五円について平成四年一月一日から
内一〇五九万二〇八二円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
9 被告長生堂は、原告に対し一一六三万〇七七三円及び
内六八四万一四〇五円について平成三年一月一日から
内三八三万五〇三五円について平成四年一月一日から
内九五万四三三三円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
10 被告鶴原は、原告に対し七七八万三四九八円及び
内八八万九八〇三円について平成三年一月一日から
内三一九万六九〇六円について平成四年一月一日から
内三六九万六七八九円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
11 被告日新は、原告に対し五五三万七九六三円及び
内八三万四二九六円について平成三年一月一日から
内三八二万二四八七円について平成四年一月一日から
内八八万一一八〇円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
12 被告ベーリンガーは、原告に対し一億六八四四万〇四四一円及び
内一一九七万七一〇七円について平成三年一月一日から
内七七一三万三一五〇円について平成四年一月一日から
内七九三三万〇一八四円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
13 被告メディサ及び被告沢井は、原告に対し連帯して八〇二万四八八七円及び
内八五万六五一八円について平成三年一月一日から
内一二六万七八〇九円について平成四年一月一日から
内五九〇万〇五六〇円について平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の、右被告ら(ただし、被告東和及び被告鶴原を除く。)に対するその余の請求はいずれも棄却する。
三 訴訟費用の負担は、次のとおり定める。
1 原告と、被告東亜及び被告ワイ・アイ・シーとの間の費用は、全て右被告らの負担とする。
2 原告と、被告大原との間の費用は、これを一〇分し、その一を原告の、その余を被告大原の負担とする。
3 原告と、被告共和との間の費用は、これを四分し、その三を原告の、その余を被告共和の負担とする。
4 原告と、被告東和との間の費用は、全て被告東和の負担とする。
5 原告と、被告帝國との間の費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告帝國の負担とする。
6 原告と、被告大正との間の費用は これを四分し、その三を原告の、その余を被告大正の負担とする。
7 原告と、被告大洋との間の費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告大洋の負担とする。
8 原告と、被告長生堂との間の費用は、これを五分し、その四を原告の、その余を被告長生堂の負担とする。
9 原告と、被告鶴原との間の費用は、全て被告鶴原の負担とする。
10 原告と、被告日新との間の費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告日新の負担とする。
11 原告と、被告ベーリンガーとの間の費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告ベーリンガーの負担とする。
12 原告と、被告メディサ及び同沢井との間の費用は、これを五分し、その四を原告の、その余を右被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告の請求
一 被告東亜、同大原、同ワイ・アイ・シーは、原告に対し、連帯して二億九二〇四万一〇〇〇円及び
内九六八三万二〇六八円に対し平成二年一月一日から
内一億九五二〇万八九三二円に対し平成三年一月一日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告東亜、同大原は、原告に対し、連帯して二億六八九八万二九二八円及び
内一億七五八四万五二八六円に対し平成三年一月一日から
内三三七六万九〇七七円に対し平成四年一月一日から
内五九三六万八五六五円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告大原は、原告に対し、二二一八万一八四一円及び
内二七一万〇七八七円に対し平成三年一月一日から
内八四八万六二七七円に対し平成四年一月一日から
内一〇九八万四七七七円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告共和は、原告に対し、二二八万一五九三円及びこれに対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告東和は、原告に対し、二億一七九四万二六五九円及び
内二二五五万五一二三円に対し平成三年一月一日から
内一億二一〇二万九三四二円に対し平成四年一月一日から
内七四三五万八一九四円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 被告帝國は、原告に対し、二億三六八〇万七九八六万円及び
内三七六一万七四一九円に対し平成三年一月一日から
内一億二七六一万五四九八円に対し平成四年一月一日から
内七一五七万五〇六九円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 被告大正は、原告に対し、一億〇七九三万七六六八円及び
内一二〇七万〇八二四円に対し平成三年一月一日から
内五四七二万一五九二円に対し平成四年一月一日から
内四一一四万五二五二円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
八 被告大洋は、原告に対し、二九二六万〇六六七円及び
内五七八万一四七一円に対し平成三年一月一日から
内一二八八万七一一四円に対し平成四年一月一日から
内一〇五九万二〇八二円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
九 被告長生堂は、原告に対し、六三八〇万一五八八円及び
内六八四万一四〇五円に対し平成三年一月一日から
内二九三〇万六二二三円に対し平成四年一月一日から
内二七六五万三九五九円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一〇 被告鶴原は、原告に対し、七七八万三四九八円及び
内八八万九八〇三円に対し平成三年一月一日から
内三一九万六九〇六円に対し平成四年一月一日から
内三六九万六七八九円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一一 被告日新は、原告に対し、一二三二万八八〇一円及び
内八三万四二九六円に対し平成三年一月一日から
内一〇一六万〇九九〇円に対し平成四年一且一日から
内一三三万三五一五円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一二 被告ベーリンガーは、原告に対し、二億四四七四万七三六八円及び
内二六八三万〇六四九円に対し平成三年一月一日から
内一億三五七三万〇二二二円に対し平成四年一月一日から
内八二一八万六四九八円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一三 被告メディサ、同沢井は、原告に対し、連帯して四〇八四万四〇四八円及び
内一〇四一万七四三一円に対し平成三年一月一日から
内一七二六万五三六六円に対し平成四年一月一日から
内一三一六万一二五一円に対し平成五年一月一九日から
それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
原告は、後記トラニラストの製法特許を有していた。被告ワイ・アイ・シー及び同大原は、被告東亜から委託を受けて、共同してあるいは被告大原単独でトラニラスト原末(以下「原末」という。)を製造し、被告東亜は、これを被告メディサ、同共和、同東和、同帝國、同大正、同大洋、同長生堂、同鶴原、同日新、同ベーリンガー(以上被告一〇社及び被告沢井を総称して「被告製剤メーカー」という。)に販売し、右被告一〇社は、この原末からそれぞれトラニラスト製剤(以下「製剤」という。)を製造し、被告製剤メーカー(被告沢井は、被告メディサから製剤を購入している。)は、この製剤を販売してきた。また、被告東亜は、被告大原にも原末を販売し、被告大原は、自ら製剤を製造し、販売してきた。
本件は、原告が、被告ら(以下「被告ら」とは、本件の全ての被告を指す。)の右原末及び製剤の製造、販売行為は、原告の特許権を侵害すると主張し、その主張する損害の一部の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、左記特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)を有していたが、本件特許権は、平成五年一月一八日をもってその存続期間は終了した。
発明の名称 新規芳香族カルボン酸アミド誘導体の製造方法
出願日 昭和四八年一月一八日
出願公告日 昭和五六年九月二二日(特公昭五六-四〇七一〇)
登録日 昭和五七年五月一四日
登録番号 第一〇九六七二四号
本件特許権の特許請求の範囲は、別紙特許公報記載のとおりであるが、同公報中の目的物質の一般式として、別紙一記載の化学式が掲載されているが、これは、別紙二の化学式の誤記である。
2 右特許請求の範囲において、別紙三の1記載の一般式をもって示される目的物質芳香族カルボン酸アミド誘導体のうちに、別紙目録記載の一般名を「トラニラスト」、化学名を「N-(3、4-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸」と呼ばれる化合物がある。これは、別紙三の1記載の一般式においてR1R2が水素原子、R3R4が両者で化学結合を形成するものであり、Xが低級アルコキシ基であるメトキン基であり、nが2で表される芳香族カルボン酸アミド誘導体であって、別紙三の2記載の構造式を有する。
別紙物件目録記載のトラニラストは、本件特許出願前に日本国内において公然知られたものではなく、原告の開発にかかる新規な医薬品であり、経口投与によりアレルギー性疾患の治療に優れた効果を有する。原告は、トラニラストを含有する薬剤を「リザベン」の商品名をもって昭和五七年八月以降製造販売しており、右薬剤は気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎を適応症とする薬剤である。
3 被告ワイ・アイ・シーは、平成元年一月二七日、原末について厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、被告東亜から委託を受けて、被告大原と共同で原末の製造を行い、右原末を被告東亜に供給してきた。
4 被告大原は、平成二年四月二五日、原末について厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、被告東亜から委託を受けて、原末の製造を行い、原末を被告東亜に供給してきた。
5 被告東亜は、被告ワイ・アイ・シー及び被告大原に委託して原末を製造させ、この原末を被告大原及び被告製剤メーカーに販売した。
6 被告大原は、堀田薬品合成株式会社が平成二年一月二二日に商品名「トラニラストカプセルOH」として取得した製造承認を承継し、製剤を製造販売してきた。
7 被告メディサは、製剤につき、平成二年一月一八日、商品名「トラントカプセル」及び商品名「トラント細粒」として厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造し、これを被告沢井に販売してきた。被告沢井は、平成二年七月から、右製剤を販売してきた。
8 被告共和は、製剤につき、平成二年三月六日、商品名「トラニドールカプセル」として厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造販売してきた。
9 被告東和は、製剤につき、平成二年一月一八日、商品名「ブレクルス細粒」として、同年二月二一日、商品名「ブレクルスカプセル」として厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造販売してきた。
10 被告帝國は、製剤につき、平成二年三月九日、商品名「テイブロック」として厚生省の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造販売してきた。
11 被告大正は、製剤につき、平成二年一月一八日、商品名「リザラスト細粒」及が商品名「リザラストカプセル」として厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造販売してきた。
12 被告大洋は、製剤につき、平成二年一月一八日、商品名「リザモント細粒」、商品名「リザモントカプセル」及び商品名「リザモントドライシロップ」として厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造販売してきた。
13 被告長生堂は、製剤につき、平成二年一月一九日、商品名「アインテールカプセル」及び商品名「アインテールドライシロップ」として厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造販売してきた。
14 被告鶴原は、製剤につき、平成二年一月一八日、商品名「マゴチラスト細粒」及び商品名「マゴチラストカプセル」として、同年三月六日、商品名「マゴチラストドライシロップ」として厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造販売してきた。
15 被告日新は、製剤につき、平成二年二月六日、商品名「ラミセンスカプセル」として厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造販売してきた。
16 被告ベーリンガーは、製剤につき、平成二年一月三一日、商品名「トラニールカプセル一〇〇mg」及び商品名「トラニールドライシロップ」として厚生大臣の医薬品製造承認を取得し、薬価基準収載を経て、製剤を製造販売をしてきた。
17 被告ワイ・アイ・シー及び被告大原が、被告東亜の委託を受けて共同して製造した原末の量は、別紙四の原末販売量欄記載のとおりであり、製造総量は平成三年四月一五日までで二五三六キログラムであり、これを被告東亜が販売した売上高総額は、四億四五二九万一五〇〇円である。
また、被告大原が、被告東亜の委託を承けて単独で製造した原末の量及びその売上高は、別紙四の原末製造量欄及び原末販売高欄記載のとおりであり、製造総量は平成五年一月一八日までで四一六〇キログラムであり、販売総額は五億五五八〇万五一八九円である。
18 製剤の製剤化費用は、一薬価単位当たり三円を越えることはない。
二 争点
1 争点1(特許権侵害の有無)
トラニラストは、本件特許出願前において、日本国内において公然知られたものではないので、被告らのトラニラストの製造方法は、原告のトラニラストの製造方法(以下、この方法を「本件特許方法」という。)と同一であると推定される。したがって、被告らが、右推定を覆す主張、立証をなしたかが争点となる。
(被告らの主張)
(一) 被告ワイ・アイ・シー及び同大原のトラニラストの製造方法(以下「イ号方法」という。)は、次のとおり三工程からなるものである。
(1) 第一工程
アントラニル酸と酢酸イソプロペニルにトルエンを加え、これに縮合触媒として濃硫酸を加えた後、全体を加熱還流して反応させる。反応終了後、冷却して重炭酸ソーダ水溶液を用いて中和する。トルエン層を分取してこれを水洗後減圧濃縮によりトルエンを留去して濃縮残渣(主たる化合物はアセチルアントラニル)を得る。
(2) 第二工程
第一工程で得た濃縮残渣に溶媒としてジメチルホルムアミドを加え、これに3・4-ジメトキシ桂皮酸と無水炭酸カリウムを加えて加熱反応させる。反応終了後水酸化ナトリウム水溶液を加えるとN-(3・4-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸のアルカリ金属塩(トラニラストのアルカリ金属塩)の結晶が析出し、これを濾取する。
(3) 第三工程
N-(3・4-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸のアルカリ金属塩を塩酸水溶液で処理し、析出する結晶を濾取、水洗後エタノールで処理してN-(3・4-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸(トラニラスト)を得る。
(二)(1) 特許発明の方法によるトラニラストの製造方法は、3・4-ジメトキシ桂皮酸の反応性官能的誘導体とアントラニル酸とを反応させるというものである。
これに対し、イ号方法の第二工程は、3・4-ジメトキシ桂皮酸のカリウム塩と(N・O-イソプロピリデン)アントラニル酸を反応させるものである。そして、本件特許発明にいう3・4-ジメトキシ桂皮酸の反応性官能的誘導体は、本件特許明細書によれば、酸ハロゲン化物、酸無水物、エステル、N・N-ジシクロヘキシルカルボジイミドとの付加物のことであり、3・4-ジメトキシ桂皮酸のカリウム塩は、右反応性官能的誘導体の範疇に入らない別異の化合物であり、また(N・O-イソプロピリデン)アントラニル酸は、本件特許発明にいうアミノ酸安息香酸とは化学構造上、明らかに別の化合物である。このように、本件特許発明の方法とイ号方法は、出発原料が相違する。
(2) また、この原料の反応機構も、次のとおり全く異なるものである。
すなわち、本件特許発明では、右二原料を直接反応させ、塩化水素を離脱してトラニラストを生成するというものである。
これに対し、イ号方法においては、3・4-ジメトキシ桂皮酸は、まずアルカリ性無機化合物である無水炭酸カリウムと酸・アルカリの中和反応により直ちに塩(3・4-ジメトキシ桂皮酸カリウム)を形成する。次に、このカリウム塩が、アセチルアントラニルと反応して、最終的にトラニラストのアルカリ金属塩を形成する。
(三) したがって、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に含まれない。
(原告の主張)
(一) イ号方法の実施不能
イ号方法の第二工程におけるトラニラストのナトリウム塩を生成するための原料物質であるアセチルアントラニルは、空気中の水分で分解するほどの不安定な物質で、しかもアルカリに対して不安定であり、トラニラストのナトリウム塩の生成には何ら関与しないN-アセチルアントラニル酸に容易に分解してしまう。したがって、イ号方法の第二工程のように、3・4-ジメトキシ桂皮酸に対して約四・二倍当量という大量の無水炭酸カリウムを使用すれば、過剰のアルカリが存在することになり、第二工程の加熱反応ではアセチルアントラニルは速やかに分解してN-アセチルアントラニル酸となり、トラニラストのナトリウム塩は、反応中には極めて少量しか生成し得ない。したがって、イ号方法の第二工程は、工業的には実施不能で、この方法では、トラニラストのナトリウム塩は結晶としては析出できない。
(二) 被告大原及び被告ワイ・アイ・シーは、イ号方法を実施していない。
右のとおり、イ号方法は、工業的には実施不能であり、したがって被告大原及び被告ワイ・アイ・シーは、イ号方法を実施していない。
イ号方法を実施していないことは、本件訴訟におけるイ号方法の開示(製造記録の提出)の経過の不自然さ、不合理さ等によっても明らかであり、提出された製造記録は、その記載内容の不合理さに照らせば、被告らの実際の製造工程を記載したものではない。
(原告の主張に対する被告らの反論)
(一) イ号方法の第二工程は、具体的には次の方法による。
(以下に記載する方法を「一時間三〇分分割投与法」と表記し、前記被告らの主張で記載した方法を「一括投与法」と表記する。)
<1> 第一工程で、約二〇〇リットルまで濃縮した液を、第二工程用の高温釜に移す。
<2> 八〇ないし一〇〇リットルまで濃縮、トルエン回収後、ジメチルホルムアミド三五〇リットルを加える。
<3> 加熱攪拌を続けて、七五℃になった時点で、3・4-ジメトキシ桂皮酸三六キログラムを投入し、溶解確認の上、無水炭酸カリウムを一四・四キログラム投入したうえで、加熱攪拌を継続し、一四二℃±二℃を保つ。
<4> 無水炭酸カリウムの残り三五・六キログラムを一暗間三〇分にわたり分割して投与し、一四二℃±二℃を保ち攪拌し反応を終える。
(二) 特許法一〇四条の推定を覆すために必要なイ号方法の主張立証の程度は、特許発明との対比に必要な程度に特定されれば足り、その特定の基本は薬品製造に用いる反応原料如何にあるから、第二工程の特定は、無水炭酸カリウムを一時間三〇分にわたって分割して投与することまで主張する必要はないし、第二工程の目的は、トラニラストのアルカリ金属塩の結晶を取得することにあるから、無水炭酸カリウムをどのように加えてゆくのか、あるいは具体的にどのような量を使用するかといった点(一時間三〇分分割投与法の具体的内容)は、イ号方法の開示の必須要件とならない。
(三) イ号方法(一時間三〇分分割投与法)が実施可能なこと及び被告大原らがイ号方法(一時間三〇分分割投与法)を実施していたことは、次の事実から明らかである
(1) 被告らが提出した製造指図書、製造記録書には、無水炭酸カリウム五〇キログラムを全部一括して投入するとは記載されていない。分割投与方法を製造指図書等に記載しなかったのは、それがノウハウだからである。また、このような分割投与方法は、通常、製造の現場で非常によく見られる操作手段の一つであり、反応の状態を見ながら徐々に原料を分割して投入することは日常茶飯事である。一括投与法は、無水炭酸カリウムを多く入れると液が吹き上がり、液が溢れて作業を行っている人間に危険が及ぶことがある方法であり、現場で行うはずのないものである。
(2) また、原末及び製剤に含まれる不純物を液体クロマトグラフ法(HPLC)で分析した結果によれば、被告らの原末及び製剤は、イ号方法(一時間三〇分分割投与法)により得られたことは明らかである。すなわち、被告らの原末及び製剤からはイ号方法(一時間三〇分分割投与法)に特有の三つの不純物からなる特徴的なパターンが検出されており、これらの不純物は、本件特許方法によって製造されたトラニラストからは検出されず、しかも少なくとも自然界に通常あるものではなく、原末あるいは製剤の製造工程で外部から混入することは到底考えられない物質である。
加えて、被告らは、専門家に立会いを求めて製剤の分析をしたところ、右と同様の不純物が検出された。
以上により、被告らの原末及び製剤は、イ号方法(一時間三〇分分割投与法)により製造されたことが明らかである。
(被告らの反論に対する原告の再反論)
(一) 被告らは、イ号方法として、当初一括投与法を主張していたが、原告が前記(原告の主張記載)の主張をした後になって一時間三〇分分割投与法を初めて主張したものであり、一時間三〇分分割投与法は、実際に行っていた方法ではあり得ない。
(二) 一時間三〇分分割投与法は、イ号方法を前提としてのその製造手順という性質のものでなく、まさに被告らの製造方法にとり必須の技術手段そのものとして捉えなければならない不可欠の製造工程であり、また、一括投与法と一時間三〇分分割投与法とでは、3・4-ジメトキシ桂皮酸、無水炭酸カリウム、アセチルアントラニルの三者についての反応量、反応時間が明確に異なっている。したがって、一時間三〇分分割投与法は、被告らが当初主張したイ号方法に当たらない。
(三) 一時間三〇分分割投与法は、被告らが提出した製造記録に何ら記載がなく、むしろ被告らが提出した製造指図書・製造記録書中の、OTR第二工程の「仕込、蒸留」工程の製造指図欄、製造記録欄には
「無水炭酸カリウム五〇キログラム、3・4-ジメトキシ桂皮酸三六キログラムを仕込み反応を行う
無水炭酸カリウム仕込み数量 五〇キログラム
3・4-ジメトキシ桂皮酸 三六キログラム」
と記載されており、この記載からは、すべての仕込みがなされた後に反応がされることは明らかである。
また、製造指図書には「還流、澄明後二・五時間以上反応後結晶化まで冷却」と記載されており、反応液の「澄明」が反応開始の起点となっている。これは、一時間三〇分分割投与法とは異なったものである。
(四) 被告らが主張する不純物について
被告らのこの点の主張は、そもそも不純物により製造方法が特定されることを前提としているが、原末の製造方法がHPLC分析のパターンにより特定されうるためには、最小限度当該不純物が当該製造方法に由来する固有の不純物であることの立証が不可欠である。しかるに、被告らは、この点の立証を何ら行っていない。
したがって、右不純物は、本件訴訟においては何の意味も持たないものである。
2 争点2(損害額)
(原告の主張一、総論)
右1で主張したとおり、被告らは、イ号方法につき、特許法一〇四条の推定を覆すに足りる主張・立証をしていないので、被告らは本件特許方法を実施していると推定される。よって、原告は、被告らが、本件特許方法を実施しているものとして、被告らの原末及び製剤の製造販売にかかる経費を算定して、被告らの純利益を算出し、同法一〇二条一項に基づき、この純利益が原告の損害であるとして、損害賠償を請求する。
(原告の主張二、原末に関して)
(一) 被告ワイ・アイ・シー及び同大原は、被告東亜の委託を受けて原末を製造し、被告東亜は、争いのない事実17記載の原末全量(別紙四の原末販売量欄記載の量)を、一キログラム当たりの別紙四の原末販売単価欄記載の単価で、被告製剤メーカー及び被告大原に売却した。
(二) 右原末の製造原価は、本件特許方法で製造する場合には、次のとおりとなる。
<1> 原料費は、原末一キログラム当たり約一万二五〇〇円である。
<2> 人件費は、製造人件費が原末一キログラム当たり一一九八円であり、品質検査人件費が原末一キログラム当たり六九九円である。
<3> その他の製造経費(外注加工費、燃料費、運搬費、保管費、減価償却費、賃借料等)の合計額は、医薬品企業におけるその平均値が原材料費の三分の一程度であるところ、本件特許方法では、特殊な製造技術を要せず、かつ原末が安定、安全な物質であり、輸送、保管上特別の費用もかからないことから、右平均値により算出することができる。よって、その他の製造経費の合計は、約四一六七円となる。
<4> 直接販売経費は、原末一キログラム当たり多くとも一〇〇〇円である。
<5> 以上の合計は、約一万九六〇〇円であり、よって、原末一キログラム当たりの原価は、製造メーカー状況によって多少の差異があったとしても、三万円以上となることはない。
(三)(1) 被告大原及び同東亜の共同不法行為による利益額
被告大原及び同東亜が、共同して製造し、販売した原末の製造販売総量は、別紙四記載のとおり四一六〇キログラムであり、平成二年七月から平成五年一月一八日までに五億五五八〇万五一八九円を売り上げ、その利益総額は四億三一〇〇万五一八九円であり、右各年の純利益率、純利益額は、別紙四記載のとおりである。よって、原告の損害額は、四億三一〇〇万五一八九円であると推定される。
(2) 被告大原、同ワイ・アイ・シー及び同東亜の共同不法行為による利益額
被告大原、同ワイ・アイ・シー及び同東亜(以下、この三社を総称して「被告大原ら」という。)が、共同して製造し、販売した原末の製造販売総量は、別紙四記載のとおり二五三六キログラムであり、平成元年一〇月から平成五年一月一八日までに四億四五二九万一五〇〇円を売り上げ、その利益総額は三億六九二一万一五〇〇円であり、右各年の純利益率、純利益額は、別紙四記載のとおりである。よって、原告の損害額は、三億六九二一万一五〇〇円であると推定される。
(原告の主張三、製剤に関して)
(一) 被告製剤メーカー及び被告大原は、被告東亜から原末六六九六キログラムを購入し、内六〇五七キログラムを使用して別紙五ないし一五記載のとおり製剤を製造した。
(二) 製剤の販売価格
(1) 被告製剤メーカー及び被告大原の製造している製剤は、全て健康保険の適用対象となっており、かかる医薬品の価格については、健康保険法の定めにより、厚生大臣の定めるところによるとされており、これに基づき、各医薬品製造会社の品目ごとに、医療機関の「使用薬剤の購入価格(薬価基準)」(以下「薬価基準」という。)が個別に定められている。右薬価は、厚生省が、薬価収載された後二年毎に各品目の実勢価格(医療機関に実際に販売される価格)を調査し、これを基準に改定されるもので、その信用性は極めて高く、またこの他に、公表される薬価を算出する資料はない。
そして、新薬価算定の方法は、薬価調査の対象となる月間の薬価の全購入金額を全購入数量で除して実勢価格の加重平均値を求め、これに現行薬価基準価格に一定の数値(平成四年度の改定時には一五パーセント、平成六年度の改定時には一三パーセント)を乗じた数値を加算した数値をもって薬価基準価格とする改定が行われた。したがって、次の式により、改定された新薬価から、実勢価格(の加重平均値)が算定できることになる。
平成四年度の薬価改定までの実勢価格(の加重平均値)
実勢価格=新薬価-旧薬価×一五パーセント
平成六年度の薬価改定までの実勢価格(の加重平均値)
実勢価格=新薬価-旧薬価×一三パーセント
(2) ところで、製剤の保険薬価は、左記各期間においては、次のとおりであっだ。
平成二年七月から平成四年三月
カプセル剤 一〇九・三円
細粒剤 一二一・四円
ドライシロップ剤 一二一・四円
平成四年四月から平成六年三月
カプセル剤 八八円
細粒剤 八八円
ドライシロップ剤 九八・三円
平成六年四月以降
カプセル剤 五七・二円
細粒剤 五七・二円
ドライシロップ剤 六二・九円
この数値から、前記式により、製剤の実勢価格は次のとおりとなる。
平成二年七月から平成四年三月
カプセル剤 七一・六一円(対薬価比六五・五パーセント)
細粒剤 六九・七九円(対薬価比五七・五パーセント)
ドライシロップ剤 八〇・〇九円(対薬価比六六パーセント)
平成四年四月から平成六年三月まで
カプセル剤 四五・七六円(対薬価比五二パーセント)
細粒剤 四五・七六円(対薬価比五二パーセント)
ドライシロップ剤 五〇・一二円(対薬価比五一パーセント)
ところで、前記薬価基準は、各製剤メーカーの各品目ごとに定められており、製剤については後発メーカー(被告製剤メーカー及び大原)のトラニラスト製剤の薬価は一律であるから、被告製剤メーカー及び被告大原が、特別低い価格で製剤を販売したことはありえない。
(三) 利益額
(1) 被告製剤メーカー及び被告大原の製剤の総販売高は、右で算出した製剤の販売価格に被告一〇社及び被告大原の総販売数量(原末六〇五七キログラム)を乗じた四〇億七九一四万八四二三円であり、各被告ごとの販売高は、別紙五ないし一五記載のとおりである。
(2) 主原料を除く製造経費(製剤化費用)については、一単位当たり三円以下であることについては、争いはない。
直接経費については、以下のように算定すべきである。
直接経費の額は、被告製剤メーカーにおける製剤の売上高を離れて算定できず、直接経費の額は、売上高に比例する性質を持っている。したがって、被告製剤メーカー及び被告大原における製剤の売上高が、右被告らの全製品の売上高に占める割合を、右被告らにおける一般管理費総額に乗じた額と対比して算定すべきである。
(被告らの主張一、原末に関して)
(一) 被告ワイ・アイ・シーについて
(1) 被告ワイ・アイ・シーにおける原末の製造内容は、被告東亜と加工契約を締結し、被告大原が製造したトラニラストのアルカリ金属塩を被告東亜から供給を受けて塩酸による加水分解処理により原末(トラニラスト)を生成するというものであり、被告ワイ・アイ・シーは、生成した全ての原末を被告東亜に引き渡し、被告東亜から加工賃を取得するというものである。したがって、被告ワイ・アイ・シーにおける原末製造に係る売上高は、この加工賃の総額であり、利益は、加工賃総額から加工のための経費を控除した額となる。
(2) 加工売上数量は二五五〇・三キログラムであり、一キログラム当たりの平均単価は二万〇九八〇円であり、加工賃総額は五三五〇万四三〇〇円である。
(3) 平成二年度(平成二年一〇月二〇日決算)の販売経費率は、一一・二パーセントであるから、原末の販売経費は、五九九万二五〇〇円となる。また製造原価は、四五四五万七〇〇〇円である。
(4) したがって、被告ワイ・アイ・シーの原末に関する利益は二〇五万四八〇〇円となる。
(二) 被告大原について
(1) 被告大原は、当初はトラニラストのアルカリ金属塩を製造しこれを被告東亜に販売し、その後トラニラストの製造承認を得てからは、トラニラストを製造し、これを被告東亜に全て販売してきた。
被告大原は、トラニラスト及びトラニラストのアルカリ金属塩を被告東亜に販売していたのであり、この売上高から、製造原価、販売経費等の必要経費を控除した金額が、被告大原におけるトラニラスト製造の利益となる。
(2) 被告大原のトラニラストのアルカリ金属塩の販売量は、三一八二・九キログラムであり、その一キログラム当たりの平均単価は七万八四七三円であるから、被告東亜に対する売上高は、二億四九七七万二〇〇〇円である。なお、製造数量(三二〇〇キログラム)との差は、水分換算の相違のため生じたものである。
原末については、販売数量は四一〇〇キログラムであり、一キログラム当たりの平均単価は九万五六三四円であり、売上高は三億九二〇九万八〇〇〇円である。
(3) 被告大原における、毎年の売上高及び販売経費の総額は
(売上高) (販売経費)
平成元年 一三億八九四八万円 二億九七四九万円
平成二年 二一億一七四五万九〇〇〇円 三億三八六二万六〇〇〇円
平成三年 二二億七八五八万七〇〇〇円 三億七九五七万一〇〇〇円
平成四年 一七億四一七五万六〇〇〇円 三億七六八七万三〇〇〇円
であり、各年の販売経費率は、二一・四パーセント、一五・六パーセント、一六・七パーセント、二一・六パーセントである。この数値を各年のトラニラストのアルカリ金属塩、原末の売上高に乗じた販売経費の総額は、一億一〇八九万八〇〇〇円となる。
(4) 被告大原における製造原価の合計は、四億六四五四万四〇〇〇円であり、その内訳は以下のとおりである。
原料費 三億〇九五二万一〇〇〇円
人件費 四七七一万二〇〇〇円
製造経費 六三四五万二〇〇〇円
公害処理費 一一五五万二〇〇〇円
減価償却費 三二三〇万七〇〇〇円
(5) したがって、トラニラストに関する被告大原の利益は、六六四二万八〇〇〇円となる。
(三)被告東亜について
(1) 原末の販売数量は六六九六キログラムであり、一キログラム当たりの平均単価は一四万九五〇七円であり、売上高は一〇億〇一一〇万円である。
(2)被告東亜における、毎年の売上高及び販売経費の総額は
(売上高) (販売経費)
平成元年 四二八億八〇七八万九〇〇〇円 六二億四〇一八万四〇〇〇円
平成二年 四三八億八一八二万三〇〇〇円 六九億四五七一万六〇〇〇円
平成三年 四三三億五九〇五万円 七四億一二三〇万九〇〇〇円
平成四年 三九四億二二〇七万二〇〇〇円 六九億八二二〇万六〇〇〇円
であり、四年間の平均販売経費率は一六・三パーセントである。この数値をトラニラストの売上高に乗じると、一億六三一七万九三〇〇円となり、これにトラニラストの研究開発費二九五〇万円を加えた一億九二六七万九三〇〇円が販売経費となる。
(3) トラニラストの仕入高(被告大原及び被告ワイ・アイ・シーの被告東亜に対する売上高)は、前記のとおり六億九五三七万四三〇〇円である。したがって、被告東亜のトラニラストに関する利益は、一億一三〇四万六四〇〇円となる。
(被告らの主張二、製剤に関して)
(一) 被告製剤メーカー及び被告大原の製剤に関する売上及び損益は、別紙一六のとおりである。
(二) 製剤の売上高の算定に当たっては、実際の販売価格の平均価格を基にすべきである。原告は、被告らの販売価格は不当に廉価であると非難するが、実際の販売価格は薬価に反映されていたわけではない。
第三 証拠
本件記録中の、書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。
なお、以下引用する証拠の表示は、断りのない限り、平成元年(ワ)第二六四号事件の書証目録記載による。なお、併合前に平成二年(ワ)第一五四号事件で提出された証拠を引用するときは、たとえば「併合前乙一」と記載する。
また、口頭弁論期日を摘示する場合は、断りのない限り平成元年(ワ)第二六四号事件の期日を意味する。
第四 争点に対する判断
一 争点1について
1 トラニラストは、本件特許の出願当時、日本国内において公然知られた物質ではなかったので、被告大原らのトラニラストの製法は、本件特許方法によるものと法律上推定される(特許法一〇四条)。したがって、被告らは、トラニラストを製造している方法(イ号方法)を開示し、イ号方法によりトラニラストの製造が可能であることを証明し、しかも、イ号方法が本件特許方法を侵害しないことを主張、立証しなければ、右推定により、本件特許権を侵害していると扱われるというべきである。
そして、右イ号方法の開示・立証は、被告らが本件特許権を侵害していないことを証明するために行われるものであるから、開示するイ号方法は、被告らが実際に行っている製造方法であるべきことは、当然の前提である。そして、イ号方法の実施が確認でき、しかもイ号方法が本件特許発明と抵触しないことが証明できて初めて右推定を覆すことができると解する以上、イ号方法の開示の程度は、イ号方法の実施可能性が追試験等により確認できる程度であることを要するというべきである。
2 まず、被告大原らが、イ号方法と主張する一時間三〇分分割投与法を実際に使用していたかについて判断する。
(一) イ号方法に関する主張、陳述等の経過は、次のとおりである。
(1) 被告らは、本件訴訟において、当初、イ号方法として、一時間三〇分分割投与法を明らかにしておらず、一括投与法を主張していた。被告らが、イ号方法を明らかにするために提出した最初の書証である乙一(大原克文他一名作成の製造実験報告書)には、第二工程に対応する記述として「3・4-ジメトキシ桂皮酸一〇グラム、無水炭酸カリウム一四グラム、上記濃縮残査二五グラムにジメチルホルムアミド一〇〇ミリリットルを加え、加熱還流(約一五〇度)二時間。反応終了後氷水で冷却し、室温で水二〇〇ミリリットル、二四パーセント水酸化ナトリウム水溶液三〇ないし五〇ミリットルを加え、一〇度以下にて析出開始後三時間撹拌する。析出結晶を濾取、水洗、乾燥し、粗結晶一二グラムを得る。」とある。
(2) 原告は、平成三年一〇月一八日の第一〇回口頭弁論期日において、一括投与方法は、実施不可能であることを主張した(原告・第九準備書面)。
(3) 原告は、平成四年四月一七日の第一二回口頭弁論期日において、右の理由として、イ号方法は第二工程で3・4-ジメトキシ桂皮酸に対し約四・二倍当量の無水炭酸カリウムを使用するためであると主張した(原告・第一一準備書面)。
(4) 被告らは、平成四年七月三日の第一三回口頭弁論期日において、乙五七(報告書)を提出するとともに、第二工程において無水炭酸カリウムを分割投入する旨を主張した(被告ら・第一一準備書面)。右報告書の要旨は「イ号方法の第二工程においては、まず無水炭酸カリウム五〇キログラムのうち、一四・四キログラムを仕込み、加熱反応させる。一四二度到達後一時間加熱反応させた後、残りの無水炭酸カリウムを分割投入する。」というものである。なお、分割投入に要する時間の主張はなく、また右報告書にもこの点の記載はない。
(5) 被告らは、平成四年九月一一日の第一四回口頭弁論期日において、無水炭酸カリウムの投与量は、第二工程でトラニラストカリウム塩が生成される反応系全体を考慮して設定ざれたものであると主張した(被告ら・第一二準備書面)なお、その根拠として同日提出した乙五八には、右主張と同旨の記載があるがそれ以上に具体的な投入量、投入時間等の記載はない。
(6) 平成四年一一月一三日、平成二年一五四号事件第一三回口頭弁論期日において、被告ら申請の大原克文証人(被告大原の工場長)の証人尋問において、同人は要旨「一四二度到達後一時間加熱反応させた後、残りの無水炭酸カリウム三五・六キログラムを分割投入する方法は、七〇〇ないし八〇〇グラムずつ四〇数回に分けて、ほぼ同間隔で投入する。投入時間は四〇分から五〇分である。」と証言した。
(7) 平成五年七月七日、平成二年一五四号事件第一七回口頭弁論期日において、被告ら申請の増田悟証人(被告らが、イ号方法の開発者と主張する人物)の証人尋問において、要旨「一四二度到達後一時間加熱反応させた後、残りの無水炭酸カリウム三五・六キログラムを分割投入する方法は、目視的に判断して投入する。分割投入時間は、結果としてジャスト一時間三〇分となる。」と証言した。
また、被告らが同日の平成元年二六四号事件第一九回口頭弁論期日において提出した乙六四には、乙五五の実験は、無水炭酸カリウム三五・六グラムを〇・八グラムずつ順次投与してゆく、右投与により激しい泡立ちが生じるので、これが収まるのを目視的に判断して投与するが、投与に要する時間は一時間三〇分である旨の記載がある。
(8) 被告らは、当初イ号方法(第一工程)の出発原料として<1>(N・O-イソプロピリデン)アントラニル酸と<2>3・4-ジメトキシ桂皮酸のカリウム塩であると主張していたが(被告ら・第一準備書面)、その後これは、<1>アセチルアントラニル、<2>3・4-ジメトキシ桂皮酸、<3>無水炭酸カリウムと主張するようになった。
以上によれば、被告らのイ号方法の内容についての主張は、変遷していることが明らかである。
(二) 後記の証拠によれば、次のとおり認定判断される。
(1) 被告ワイ・アイ・シーにおける第二工程の製造記録には、「仕込・蒸留」の工程欄に「無水炭酸カリウム五〇キログラム、3・4-ジメトキシ桂皮酸三六キログラムを仕込み反応を行う。」と不動文字で印刷してあり、一時間三〇分分割投与法を前提とした記述は見当たらない(乙四四)。
(2) 被告大原における第二工程の製造記録にも、右と同様の記載がある(併合前乙一一)。
(3) 右両書証の「反応・冷却」欄には、「還流・澄明後、二・五時間以上反応後、結晶化まで冷却」と不動文字で記載されているが(乙四四、併合前乙一一)、これに対応する証人大原の証言は、要旨「3・4-ジメトキシ桂皮酸全量三六キログラム、無水炭酸カリウムの一部一四・四キログラムを仕込んで加熱反応させる。一四二度に到達してから一時間反応させる。その後、残りの無水炭酸カリウム三五・六キログラムを柄杓で七〇〇グラムないし八〇〇グラム投入するが、そのたびに泡が出るので、その泡が、ほぼ消えてから投入するという方法で、ほぼ一、二分間隔で投入する。その投入作業時間が、約四〇分ないし五〇分程度かかる。そして、最後に柄杓で投入してから一〇分程度で澄明になる。澄明後、二〇分ない七三〇分反応させ、トータルで一四二度に到達してから二時間三〇分で反応が終了する。」というものである。七かし、前記書証と右証言とは、還流・澄明後の反応時間の点で明らかに食い違いが認められる。
また右証言は、同証人が作成した報告書(併合前乙九)の記載内容(ここでは、一時間三〇分分割投与法は明示されておらず、反応時間として二時間三〇分と記載されている。)とも異なる。
(4) 乙五九(大原克文作成の報告書)には、要旨「一時間三〇分分割投与法は、実験室段階の実験で分かっていることである。」と記載されているが、本件訴訟で提出された証拠上最初に一時間三〇分分割投与法が明示されているものは、原告が一括投与法は実施不能であると主張した後に作成され、平成四年七月三日の第一三回口頭弁論期日で提出された平成四年五月一八日付追試実験立ち会い報告書(乙五五)及び同年六月八日付報告書(乙五七)である。被告大原らが、右報告書記載のとおり、実験室段階でイ号方法(一時間三〇分分割投与法)を開発していたのであるならば、本件訴訟が提起される以前に作成されたその実験室での実験結果等を示す証拠が提出されてしかるべきであるが、これらは全く提出されおらず、被告大原らがこれ以前に一時間三〇分分割投与法を実施していたことを的確に示す証拠はない。
(三) 以上(一)、(二)に判示した点は、被告大原らが真実イ号方法(一時間三〇分分割投与法)を実施していたならば、通常はありえない事柄ばかりである。また、被告らが、真実イ号方法(一時間三〇分分割投与法)を実施していたならば、その開発過程において作成された資料が証拠として提出されてしかるべきであるが、被告らがイ号方法(一時間三〇分分割投与法)を実施しているとして提出した証拠は、本件訴訟が係属した後に作成されたものばかりである。
そして、右に指摘した疑問点の他に、更に次の疑問点が認められる。
<1>(一)の(6)記載の方法と、(一)の(7)記載の方法は、三五・六キログラムの無水炭酸カリウムの投与方法の点において、その投入時間が明らかに異なっている。しかも、前者の方法を証言した者(証人大原)は、被告大原でイ号方法により原末を製造している工場の責任者であり、一方後者の方法を証言した者(証人増田)は、被告東亜においてイ号方法を開発したとされる人物であり、真実被告大原らがイ号方法を実施しているならば、両者の証言するイ号方法は一致するはずである。
<2>(二)の(1)(2)(3)で述べたとおり、被告大原ら提出の製造記録には一時間三〇分分割投与法を実施していたことを窺わせる記述は一切なく、また当初から一時間三〇分分割投与法を主張していない。この点につき、被告らは、この方法はノウハウにあたることを挙げている。しかしながら、製造指図書には具体的な製造、操作方法、手順を記載しなければ製造方法の記載・指示としては意味がなく、また、製造指図書は、内部文書であるから、ノウハウに属する事柄も記載されていて何等不思議のない文書である。
なお、併合前乙一一の一部には、無水炭酸カリウムを少量ずつ順次投与した旨の記載がある。しかし、この指図書は「(試作)製造指図書・製造記録書」であること、この記載内容は、被告らの主張するイ号方法の第二工程での原料の投与比率が異なること、及び、投与方法などの具体的記載がないことに照らし、一時間三〇分分割投与法の実施の根拠とはならないというべきである。
以上の検討を総合すれば、被告らのイ号方法(一時間三〇分分割投与法)に関する立証によっては、被告大原らがイ号方法を実施していたと認めることは到底できないというべきである。
3 そして、被告らの主張は、イ号方法としては当初から一時間三〇分分割投与法であったというものであるから、被告らは、特許法一〇四条の推定を覆すに十分な主張、立証を行ったとはいえず、被告大原らは本件特許方法を実施してい光ものと法律上推定される。
4 以上の認定判断に対する被告らの反論について
(一) 被告らは、イ号方法(特に第一工程)を実施していたことの根拠として、被告東亜がイ号方法に必要な酢酸イソプロペニルを購入し、これを被告大原に送っていたことを挙げる(乙八一の1、2)。
しかし、右証拠は、被告東亜や被告大原が、酢酸イソプロペニルを入手したことを示すに過ぎず、酢酸イソプロペニルがイ号方法以外にその用途がないことは立証されていないこと及び前記事実関係(特に、製造指図書の不自然さ)の下では、更に進んで、イ号方法を行っていたことの証拠にはならないというべきでおる。
(二) 乙六六の1(製造現場立会報告書)について
右報告書は、立会人が、平成五年八月一七日から同月二八日までの間、被告大原の工場において、製造指図書(これは、被告大原作成のものである。)の記載の作業工程に従ってトラニラストが製造されたことを立ち会い、確認した旨の報告書であるが、この立会実験は本件訴訟の提起後行われたものであり、かつ、原告が損害賠償請求の対象としている不法行為より後の時点の立会いに関する報告でしかなく、しかもその記載内容は、概括的なものであり、どの工程で、どのような原料が、どれだけ使用された等本件訴訟におけるイ号方法の実施の立証上重要な事項について、具体的な確認をしていない。また、その記載からすると、立会人が重要な工程及び検査に立も会っていたとは認められない。
そうすると、右報告書は、本訴請求の対象期間において、被告大原らにおいてイ号方法を実施していたことの証拠としては、実質的証拠力を持たないというべきである。
(三) 被告らは、イ号方法により製造したトラニラストと本件特許方法により製造したトラニラストでは、その含有不純物及びそのHPLC分析のパターンにおいて相違があるので、イ号方法と本件特許方法とは異なると主張し、その根拠として、乙三〇の1ないし3、三三の1ないし3、六〇、六三、六五の1、六七、六八、八四を挙げる。
しかし、右主張が成立するためには、検出された不純物により製造方法が特定されることが必要であり、したがって、検出された不純物がイ号方法に由来するものであることの立証が不可欠であるが、被告らは、この点の立証を行っていない。また、被告らの不純物検出のパターンについての主張及び証言(証人増田)は変遷しており、前記証拠によっても、被告らがイ号方法を実施していたことを認めることはできないというべきである。よって右主張を採用することはできない。
5 また、3に判示したとおり推定されることから、ひいては、被告らは、少なくとも過失により、原告の本件特許権を侵害したものと推定されることになる(特許法一〇三条)。
二 争点2について(以下では、平成の年号は省略する場合がある。)
1 被告らの原末及び製剤の製造、販売により受けた利益額は、原告の受けた損害の額と推定されるから、被告らは、右の利益額を、原告に対して賠償しなければならない。
2 原末に関する損害について
(一) 原末の製造販売による利益額は、販売総額から必要経費を控除した額であり、販売総額が別紙四記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、また、必要経費の内容は原材料費、製造経費、人件費、減価償却費、光熱費等(以下、この五項目を総称して「製造経費等」という。)及び販売経費等である。
(二) 前記判示のとおり、被告大原らは、本件特許方法を用いて原末を製造しているものと法律上推定される。したがって、原末の製造経費等の算定は、本件特許方法を被告大原らが実施しているとの前提でなされるべきである。これに対し、被告大原及び被告ワイ・アイ・シーの原末に関する製造経費等の主張は、イ号方法を実施していることを前提としたものであり、失当である。
右のとおり、被告大原らの原末の製造方法は、本件特許方法によると推定されるので、右各経費は、原告が本件特許方法により原末を製造した経費と同一であると推認できる。したがって、被告大原らの製造経費等は、証拠(甲四七、五七)により次のとおり認めることができる。
(1) 原材料費
原告は、本件特許方法に基づき、3・4-ジメチドキシ桂皮酸及びアントラニル酸を主原料とし、塩化チオニルを使用して活性化した酸クロリドを用いて3・4-ジメチドキシ桂皮酸を活性化させる。そして、これにアントラニル酸を反応させ、原末を製造している(甲二、四七)。この方法によると、使用する原材料費は、別紙一七記載のとおりであり、多くとも原末一キログラム当たり一万二五〇〇円であると認められる。
(2) 製造経費
<1> 人件費
右製法による原末製造日数は、一バッチ当たり五日と認められ、この作業に要する人数は二人であると認められる。そして、右製法では、3・4-ジメチドキシ桂皮酸から収率約七〇パーセントで原末の製造が可能であり(甲二)、医薬品原末製造企業であれば通常有している汎用装置を用いれば、一バッチ当たり約一〇〇キログラムの原末製造が可能であると認められる。そして、通常の製造であれば、二日おきに製造を開始し、二ないし三バッチを平行して連続的に製造すると、九日間で、製造要員二名延べ一八人日で原末約三〇〇キログラムの製造が可能となる。
また品質試験に必要な時間は、一ロツト(一〇〇キログラム)につき、全項目で約四九時間であり、一日の労働時間を七時間とすると七日要することになる。しかし、同時に二ロツトの試験を平行して行うことが可能であるから、品質試験に要する日数は、一ロツト当たり延べ三・五人であると認められる。
そして、平成二年当時の製造業の男性労働者の平均給与は、月額二五万円ないし二六万円であり、同年の年間賞与月数は約三・七月であるから、給料を月額二六万円、年収は賞与を含め平均月収の一六か月分とすると、平均年収は、四一六万円となる。右金額に、法定福利費及び厚生費を年収の約二〇パーセントとして加算し、年間実働日数を二五〇日として、一日当たりの賃金を算出すると、一万九九六八円となる。
よって、原末一キログラム当たりの製造人件費は、左の式により、約一一九八円と認める。
一万九九六八×一八÷三〇〇≒一一九八(小数点第一位を四捨五入)
また、原末一キログラム当たりの品質検査人件費は、左の式により、約六九九円と認められる。
一万九九六八×三・五÷一〇〇≒六九九(小数点第一位を四捨五入)
よって、原末一キログラム当たりの人件費は、右の合計額である一八九七円であると認められる。
<2> その他の製造経費(減価償却費、光熱費など)
これらの経費は、一般に原材料費の三分の一であると認められるので、原末一キログラム当たりの右経費は、四一六七円であると認められる。
(3) 被告大原又は被告ワイ・アイシーの販売経費
本件において、被告大原及び被告ワイ・アイ・シーは、被告東亜の委託を受けて原末を製造していた。そうであるならば、直接販売経費は、ほとんど必要なく、運送費及び一般管理費程度であるから、被告一社につき、原末一キログラム当たり一〇〇〇円であると認められる。よって、被告大原及び同ワイ・アイ・シー主張の販売経費は、これを認めることはできない。
(4) 小計
以上によれば、被告大原及び被告ワイ・アイ・シーにおける原末の原材料費、製造経費及び販売費の合計は、一キログラム当たり約二万円(一万二五〇〇円十一八九七円+四一六七円+一〇〇〇円=一万九五六四円)であり、被告大原及び被告ワイ・アイ・シーの個別の事情を考慮しても、原告の主張するとおり、原末一キログラム当たり三万円を超えることはないものと認められる。
(5) 被告東亜における販売費及び一般管理費(以下「販売費」という)
被告東亜は、原末の製造を被告大原及び被告ワイ・アイ・シーに委託して行い、この原末を被告製剤メーカーに販売していたのであるから、この販売のための経費は、原末の製造販売についての必要経費であると認められる。そして、被告東亜の原末の販売費は、被告東亜における全体の売上高に占める被告東亜の全体の販売費(「販売費及び一般管理費」に「支払利息及び割引料」を加えた金額)の割合(以下「販売費割合」という。)に比例するものと考えられるから、原末の販売費は、原末の売上高に右販売費割合を乗じた額と解するのが相当である。
乙一一一の1ないし4によると、被告東亜における全体の売上高及び販売費は、
売上高 販売費
元年 四二八億八〇七八万九〇〇〇円 六二億四〇一八万四〇〇〇円
二年 四三八億八一八二万三〇〇〇円 六九億四五七一万六〇〇〇円
三年 四三三億五九〇五万円 七四億一二三〇万九〇〇〇円
四年 三九四億二二〇七万二〇〇〇円 六九億八二二〇万六〇〇〇円
であると認められる。したがって、各年の販売費割合は、元年は一四・六パーセント、二年は一五・八パーセント、三年は一七・一パーセント、四年は一七・七パーセントであると認められる(〇・一パーセント未満四捨五入)。よつて、原末の売上高に右割合を乗じた金額を原末の販売費と認め、被告大原らの利益の算定については、これを必要経費として控除するのが相当である。しかし、被告東亜主張の開発経費は、イ号方法を実施していると認められない以上、これを認めることはできない。
なお、被告東亜が被告大原又は被告ワイ・アイ・シーに支払ったと主張する原末の製造委託料は、これを経費として算定することはできない。なぜならば、原末に関する原告の請求は、被告大原及び被告東亜の共同不法行為に基づく損害賠償請求並びに被告大原、被告ワイ・アイ・シー及び被告東亜の共同不法行為に基づく損害賠償請求であり、共同不法行為者が特許権侵害により得た利益が損害額と推定される(特許法一〇二条一項)ものであるところ、右委託料の支払いは、共同不法行為者間での金銭の授受であり、共同不法行為者全体で見た場合には、その利益額に変動を来すものではないからである。
一方、原告は、被告東亜は顧客の需要に応えるために既にトラニラストの製造承認を取得していた被告ワイ・アイ・シーに製造を委託したから、被告東亜は何ら営業努力も要さずにトラニラスト原末を販売できたものであるとして、利益額の算定に当たっては被告東亜の販売費を控除すべきでないと主張する。しかしながら、販売費は、販売先を新規に開拓するための経費ではなく、恒常的に販売活動をするための経費であるから、被告東亜においてもこれを認めるのが相当である。また、原告は、被告東亜の一般管理費については、被告東亜においては繊維部門と医薬品部門とではその製品の性質が全く異なるなどの理由から、全社的比率で算出すべきでないと主張する。しかし、製品の性質が異なることから全社的比率で一般管理費を算定する方法を不当といいうる程の事情が導き出せない以上は、原告の右主張は認められないというべきである。
(三) 被告大原らの利益額及び賠償すべき金額
(1) 以上を基に、被告大原らの得た利益額を算定(算定式は、次のとおり。)すると、次のとおりとなる(別紙一八参照、一円未満切り捨て)。
利益額={単価-(単価×販売費割合+三万円)}×数量
<1> 被告大原及び被告東亜の共同不法行為によるもの
平成二年 二億二七七七万五九九六円
三年 四一九六万八八三五円
四年 六九七九万九五四八円
合計 三億三九五四万四三七九円
<2> 被告大原、被告ワイ・アイ・シー及び被告東亜の共同不法行為によるもの
平成元年 一億〇一一〇万七一〇〇円
二年 一億九九五〇万三五〇〇円
合計 三億〇〇六一万〇六〇〇円
(2) ところで、右金額(各年の金額及び合計額)は、いずれも原告の請求額を超えているので、本訴において被告大原らの賠償すべき額は、民事訴訟法一八六条に基づき、原告の請求額の限度ということになる。
3 製剤に関する損害額
(一) 製剤の販売単価
(1) この点に関しては、被告製剤メーカー及び被告大原の提出した売上伝票などの帳票類に基づき算定するのが相当である。その理由は、右帳票類は、その形状及び宛先等の外形的、形式的意において疑問を挟む余地はなく、真正に成立したものであると認められ、被告製剤メーカー及び被告大原は、概ね右帳票類の記載内容どおりの取引を行ったものと認められるからである。
これに対し、原告は、右帳票類に記載された製剤の価格は、信頼性の極めて高い薬価基準に比べて、著しく低いものであるから、右帳票類は真実の取引を記載したものではないと主張する。確かに、右帳票類に記載された製剤の価格は、薬価基準に比べて低いものであることは否定できない。しかし、薬価基準は、いくら信頼性が高いといっても統計上の数値であり、全取引を網羅して調査し、算定されたものではなく、また、製剤の取引においては実際に値引き取引がなされている(乙九一、九二の1ないし3)ことに照らせば、正規の伝票がある取引の価格が薬価基準と大きく食い違うことの一事をもって、その取引の価格の真実性が揺らぐものとはいえないというべきである。
(2) そして、被告製剤メーカー及び被告大原が製剤に関する全取引の内容(個々の取引における販売価格等)を開示していないことは当裁判所に顕著であり、また、薬価(製剤の販売価格)は取引ごとに異なることが認められる(乙九一、弁論の全趣旨)。以上の事情の下では、右各被告らの売上高算定の基礎となる製剤の販売単価は、それぞれの製剤ごと、各年ごとに最も高い価格とするのが相当である。
被告らは、製剤の販売価格の平均価格を算定の基礎とすべきこと、また製剤の販売に際しては値引きがあったことを主張している。しかし、被告製剤メーカー及び被告大原は、すべての取引を開示しておらず、したがって、その主張する平均価格の根拠を明らかにしていない。そして、被告製剤メーカー及び被告大原は、一部の取引につき値引きがあったことは立証しているが、全体の取引(製剤取引の総額)を客観的に示す証拠を提出していないから、この値引きがその主張する平均価格にいかなる影響を与えているかは、明らかでない。以上の理由に加え、特許法一〇二条、一〇五条の趣旨に照らすと、製剤の一部の取引に際して値引きが行われていたとしても、その値引きを前提に製剤の販売価格を算定することは相当でなく、被告製剤メーカー及び被告大原にとって、各製品ごとに、証拠上最も不利な価格(すなわち、最も高い価格)を販売価格と認定することもやむを得ないというべきである。よって、被告製剤メーカー及び被告大原の右主張は、採用できない。
なお、製剤の販売価格は、毎年変化(逓減)するものが多いから(乙九一、九二、弁論の全趣旨)、右の基準により、毎年その価格を認定するのが相当である。
(3) この観点から、被告製剤メーカー及び被告大原の各製品ごとの販売単価(各期間における、最高額の販売価格)は、次のとおりであると認められる(認定の用に供した証拠は、冒頭の各被告の次に括弧書きしたとおりである。)。
<1> 被告大原(乙八七の1、一二二の2、3)
二年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(八月八日販売)
三年 カプセル 三万円(一〇〇〇ピース)(四月九日販売)
四年 カプセル 三万円(一〇〇〇ピース)(二月七日販売)
シロップ 一万〇八〇〇円(〇・五グラム×一二〇〇包)
(七月一四日販売)
被告大原は、売上元帳(乙一二二の2)を提出し、これに製剤のすべての販売高が記載してあると陳述するが(乙一二二の1)、右売上元帳は内部文書にすぎず、これを裏付ける客観的な証拠を提出していないから、これを採用することはできない。
<2> 被告メディサ、被告沢井(乙八七の2、九五の2、九六の3、一二三の2)
被告メディサについて
二年 カプセル 二七円(二ピース)(六月二三日販売)
細粒 一四円(一包)(六月二三日販売)
被告メディサが被告沢井に売却した製剤の価格は、後記(五)記載のとおり、被告メディサにおける販売経費の算定にのみ意味を持つものである。そうすると、被告メディサにとり証拠上最も不利益な価格は、最低価格であるので、右のとおり認定した。なお、被告メディサは、三年、四年については、その販売価格を証明する証拠を提出していないが、最低価格が前年を上廻ることは通常あり得ないから、三年、四年の被告メディサの敗売単価も、右と同様の価格とするのが相当である。
被告沢井について
二年 カプセル 三万三〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(一〇月一〇日販売)
細粒 三万三〇〇〇円(一キログラム)(八月六日販売)
三年 カプセル 二万五〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(二月五日販売)
細粒 三万三〇〇〇円(一キログラム)(後記判示参照)
四年 カプセル 二万五〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(一月七日販売)
細粒 二万二〇〇〇円(一キログラム)(六月九日販売)
被告沢井は、三年の細粒についての売上伝票など、この販売価格を立証する客観的な証拠を提出していない。そして、製剤の価格は、時の経過により減少することはあっても、高騰することは通常ありえないから、右期間における細粒の販売価格は、三万三〇〇〇円を超えることはないと推認される。そこで、前記(2)で判示したところに従い、右期間の細粒の販売価格は、三万三〇〇〇円であると認めるのが相当である。
<3> 被告共和(乙一二九の3)
三年 カプセル 一万八六〇〇円(一〇〇〇ピース)(四月一〇日販売)
<4> 被告東和(乙八七の3、一二五の1)
二年 細粒 二万円 (〇・五グラム×一〇〇〇包)(一一月一四日販売)
カプセル 四万円 (一〇〇〇ピース)(八月二一日販売)
三年 細粒 一万九〇〇〇円(〇・五グラム×一〇〇〇包)(二月二一日販売)
カプセル 四万円 (一〇〇〇ピース)(五月一六日販売)
四年 細粒 一万九〇〇〇円(〇・五グラム×一〇〇〇包)(三月一二日販売)
カプセル 一三〇〇〇〇円(五〇〇〇ピース)(一二月二六日販売)
被告東和は、乙一二五の1に添付の管理月報にトラニラストに関する売上は全て記載されている旨陳述するが(乙一二五の1)、この文書は被告東和の内部文書にすぎず、その客観性は、他の客観的証拠により担保されているとは認められないから、右陳述を採用することはできない。
<5> 被告帝國(乙八七の9、九八の3、一三一の2)
二年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(被告大原の最高価格)
三年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(被告大原の最高価格)
四年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(被告大正の最高価格)
被告帝國は、自ら製剤を販売した際の売上伝票等を提出せず、その代わりに、被告帝國の製剤の販売を担当していると思われる太田製薬株式会社及びテイコクメディツクス株式会社作成の販売伝票を提出している。ところで、本件において、被告帝國が賠償すべき損害の額は、被告帝國自身が製剤の販売により得た利益額である。したがって、基準となるべき販売単価は、被告帝國における販売単価である。そうすると、被告帝國は、販売伝票等製剤の販売価格を客観的に立証する証拠を何ら提出していないこととなる。ところで、他の製剤メーカー及び被告大原の製剤の販売価格の最高価格を見ると、前記<1>ないし<4>及び後記<6>ないし<11>のとおりであり、被告帝國も右被告らと同様の製剤を販売している以上、その販売価格は右数値内と推認するのが相当である。よって、右の最高価格をもって、被告帝國の製剤の販売価格と認定することとする。
<6> 被告大正(乙八七の4、一三〇の4)
二年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(七月一一日販売)
細粒 二万二八〇〇円(六〇〇グラム)(八月七日販売)
三年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(七月二六日販売)
細粒 二万二八〇〇円(六〇〇グラム)(四月二日販売)
四年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(一月四日販売)
細粒 二万二八〇〇円(六〇〇グラム)(一月六日販売)
<7> 被告大洋(乙八七の5)
二年 細粒 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(後記判示参照)
カプセル 二万七六〇〇円(一二〇〇ピース)(一〇月二二日販売)
シロップ 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(後記判示参照)
三年 細粒 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(後記判示参照)
カプセル 一万八六〇〇円(一二〇〇ピース)(五月二二日販売)
シロップ 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(後記判示参照)
四年 細粒 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(後記判示参照)
カプセル 一万五六〇〇円(一二〇〇ピース)(九月二日販売)
シロップ 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グテム)(後記判示参照)
被告大洋は、カプセル(商品名・リザモントカプセル)の納品伝票のみ提出し、細粒及びドライシロップの販売価格を客観的に示す証拠を何ら提出していない。ところで、他の製剤メーカーの、細粒及びドライシロップの販売価格を見ると、その最高価格は、いずれも四万二〇〇〇円(いずれも、被告鶴原のもの)であり、被告大洋も同様の製剤を販売している以上、その販売価格は右数値内と推認するのが相当である。よって、右の最高価格をもって、被告大洋の細粒及びドライシロップの販売価格と認定することとする。
<8> 被告長生堂(乙八七の6、一二六の2、3)
二年 シロップ 一万四〇〇〇円(〇・五ミリグラム×一〇〇〇包)(六月一七日販売)
カプセル 二万五〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(七月一一日販売)
三年 シロップ 一万一五〇〇円(〇・五ミリグラム×一〇〇〇包)(二月二六日販売)
カプセル 一万七〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(二月二七日販売)
四年 シロップ 九〇〇〇円(〇・五ミリグラム×一〇〇〇包)(一〇月二七日販売)
カプセル 九五〇〇円(一〇〇〇グラム)(六月一八日販売)
被告長生堂は、全ての売掛元帳票を提出したと陳述するが(乙一二六の1)、これに対応する売掛台帳が全て提出されているわけではないので(乙一二六の1、3)、右陳述を採用することはできない。
<9> 被告鶴原(乙八七の7、一〇一の2、一二七の2、3)
二年 カプセル 三万七二〇〇円(一二〇〇ピース)(七月二六日販売)
細粒 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(八月二二日販売)
シロップ 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(九月一八日販売)
三年 カプセル 二万七六〇〇円(一〇〇〇ピース)(三月二〇日販売)
細粒 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(後記判示参照)
シロップ 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(後記判示参照)
四年 カプセル 二万四〇〇〇円(一二〇〇ピース)(一月二一日販売)
細粒 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(後記判示参照)
シロップ 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(後記判示参照)
被告鶴原は、三年及び四年の製剤のうち細粒及びドライシロップについての販売価格を立証する証拠を提出していない。そして、製剤の価格は、時の経過により減少することはあっても、高騰することは通常ないから、右期間における右両製剤の販売価格は、四万二〇〇〇円を超えることはないと推認される。そこで、前記(2)で判示したところに従い、右期間の右両製剤の販売価格は、四万二〇〇〇円であると認めるのが相当である。
<10> 被告日新(乙八七の8、一二八の2、3)
二年 カプセル 二万六〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(七月三日販売)
三年 カプセル二万六〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(四月二三日返品)
四年 カプセル 二万三七〇〇円(一〇〇〇ピース)(四月一〇日販売)
被告日新は、乙一二八の1において、製剤の納品書は乙八七の8として全て提出した、そして納入先は被告日新の販売部門としての日新薬品株式会社のみであると陳述するが、提出された納品書は合計わずか四枚であり、しかも納入先を秘して提出してあり、これと得意先別売掛台帳中の右日新薬品に係るもの(乙一二八の3)だけをもっては、右陳述を採用することはできない。
<11> 被告ベーリンガー
被告ベーリンガーは、販売伝票等製剤の販売価格を客観的に立証する証拠を何ら提出しておらず、その提出した証拠は内部資料であり、これにより被告ベーリンガーの製剤の販売価格を認定することはできないというべきである。どころで、他の製剤メーカーの製剤の販売価格を見ると、その最高価格は、後記のとおりであり、被告ベーリンガーも同様の製剤を販売している以上、その販売価格は右数値内と推認するのが相当である。よって、右数値内の最高価格をもつて、被告ベーリンガーの製剤の販売価格と認定することとする。
二年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(被告大原)
シロップ 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(被告鶴原)
三年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(被告大原)
シロップ 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(被告鶴原)
四年 カプセル 三万八〇〇〇円(一〇〇〇ピース)(被告大正)
シロップ 四万二〇〇〇円(一〇〇〇グラム)(被告鶴原)
(4) 以上によると、各製剤の一単位当たりの販売価格(ドライシロップについては、一グラム当たりのもの)は、別紙一九ないし二九の販売単価欄記載のとおりであると認められる。
(二) 製剤の販売量
(1) 被告製剤メーカ及び被告大原は、後記(3)において各製剤メーカーごとに記載のとおりの原末を被告東亜から購入したと認められる(乙八六の1ないし12)。
そして、通常であれば、製剤メーカーとしては、購入した原末を全て製剤に加工し、これを販売するものであるから、被告製剤メーカーにおいて、購入した原末を製造して在庫として保管しているとか、製造した製剤を試供品などとして無料で頒布したといった特段の事情を主張、立証しない限りは、購入した原末全てを製剤に加工し、これを全て販売したものと推認するのが相当守ある(なお、棚卸しについては、当事者はなにも主張してないので、当該期間内に購入した原末は、当該期間内に全て製剤に製造し、全て販売したものとして扱う。)。
被告製剤メーカーは、原末につき在庫がある旨等を主張するが、これらを示す客観的な証拠を何ら提出しておらず、他の証拠を総合しても右主張を認めることはできない。なお、返品された旨を示す伝票なども提出されているが、返品されたとしてもこれを廃棄したり使用可能期間が経過しない限り、商品として更に使用し販売できるから、廃棄したあるいは期限が経過したとの立証がない限り、右返品伝票等では右認定は左右されない。よって、被告製剤メーカー及び被告大原は、被告東亜から購入した原末を全て製剤に加工し、これを全て販売したものと認めるのが相当である。
(2) 被告製剤メーカーが製剤を製造するために必要とする原末の量は、次のとおりであると認められる(乙八六の1ないし12)。
細粒一グラム 原末 一〇〇ミリグラム
カプセル一個 原末 一〇〇ミリグラム
ドライシロップ一単位(一グラム) 原末 五〇ミリグラム
(3) 被告製剤メーカーが製造した製剤の内訳及びその量については、これを示す客観的な証拠はない。そこで、被告製剤メーカー及び被告大原が提出した報告書に記載の各製剤の製造量の数値の割合に応じて、前記原末の購入量を割り当てることにより算定することとした。そして、右(2)で判示したとおり、原末一グラムからカプセルならば一〇個、細粒ならば一〇グラム、ドライシロップならば二〇グラム製造できる。
ただし、被告帝國は、被告東亜からの原末購入量から理論上製造できる製剤の量よりも多量の製剤を製造したことを自認している(乙九八の1)。そこで、被告帝國については、その自認している数値を製造している製剤の数量と認めることとした。
また、被告大正は、各製剤の合計の製造量は明らかにしているが、各年ごとの製造量を明らかにしていない(乙九九の1)。そこで、合計の製剤量を各年の販売高に応じた割合により、原末の使用量を割り当てることにした。
(4) 以上によると、被告製剤メーカー及び被告大原が被告東亜から購入した原末の量及び各製剤毎にその製造に用いた原末の量(単位はグラム)は次のとおりである。そして、その製造した製剤の量は、カプセル又は細粒の場合はこの数値の一〇倍、ドライシロップの場合はこの数値の二〇倍である(単位は、カプセルはピース、細粒及びドライシロップはグラムである。)。なお、被告製剤メーカー及び被告大原が製造した各製剤の量は、別紙一九ないし二九に記載のとおりである。
<1> 被告大原・購入原末量二四三キログラム
二年 カプセル 一一〇、四五四
三年 カプセル 二九、四五五
四年 カプセル 八八、三六四
シロップ 一四、七二七
(乙九四の1、2。前記(二)(3)に判示した原末量割当の基礎となる資料。以下同様。)
<2> 被告メディサ、被告沢井・購入原末量四九一キログラム
二年 カプセル 九六、三八四
細粒 三〇、三七二
三年 カプセル 一七七、四一五
細粒 三二、六一四
四年 カプセル 一一四、七六五
細粒 三九、四五〇
(乙九六の1)
被告メディサ、同沢井の原末使用量については、実際に販売を行っている
被告沢井の数値を基準に算定した。
<3> 被告共和・購入原末量三〇〇キログラム
二年 カプセル 一六五、一五九
(乙九〇の12)
原告は、被告共和に対しては、平成三年分の製剤製造よる損害の賠償のみ求めている。ところで、被告共和は、二年も製剤を製造していたことを自認しているが(乙九〇匹12)、原告が、これを請求していない以上、二年における製剤製造の利益の賠償を認めることはできないというべきである。
<4> 被告東和・購入原末量二七四五キログラム
二年 カプセル 四六九、〇三三
細粒 一一二、五二八
三年 カプセル 七五五、〇六三
細粒 一七三、五五八
四年 カプセル 一、〇二〇、四五三
細粒 二一四、三六五
(乙九七)
<5> 被告帝國・購入原末量四五一キログラム
二年 カプセル 一二〇、八五〇
三年 カプセル 二四〇、七六〇
四年 カプセル 一〇七、一六〇〇
(乙九八の1)
<6> 被告大正・購入原末量三三〇キログラム
二年 カプセル 七七、〇三八
細粒 二四、六五二
三年 カプセル 七六、八三四
細粒 二四、五八七
四年 カプセル 九六、一二八
細粒 三〇、七六一
(乙九九の1)
<7> 被告大洋・購入原末量五一〇キログラム
二年 カプセル 一三六、四六〇
細粒 五五、五二一
シロップ 七一、九八〇
三年 カプセル 二七、一八八
細粒 五、〇五二
シロップ 三、七八六
四年 カプセル 一一四、五八五
細粒 四二、四〇七
シロップ 五三、〇二一
(乙一〇六)
<8> 被告長生堂・一六五キログラム
二年 カプセル 五三、四八四
シロップ 一九、三二六
三年 カプセル 三六、五〇一
シロップ 一四、九七〇
四年 カプセル 三一、九八〇
シロップ 八、七三九
(乙一〇〇の1)
<9> 被告鶴原・購入原末量一〇〇キログラム
二年 カプセル 一三、一二七
細粒 三、五〇五
シロップ 二、三三六
三年 カプセル 二〇、五一八
細粒 七、六四七
シロップ 三、二九二
四年 カプセル 四三、八四〇
細粒 三、五〇五
シロップ 二、二三〇
(乙一二〇)
<10> 被告日新・購入原末量九五キログラム
二年 カプセル 四三、九五五
三年 カプセル 四二、八五三
四年 カプセル 八、一九二
(乙一〇二)
原告は、被告日新に対しては、四年も製剤を製造・販売していると主張しているが、被告日新は、これを否認している(乙一〇二)。ところで、被告日新は、平成四年に製剤を販売したことを示す売上伝票を提出(乙八七の8、一二八の2)しているところからすれば、右否認の趣旨は、平成四年の会計期間(平成四年六月以降)は製剤を製造していないものと理解するのが相当である。よって、被告日新の平成四年の原末使用量については、月割りで計算した。
<11> 被告ベーリンガー・購入原末量六二七キログラム
二年 カプセル 四八、〇四〇
シロップ 八、六八四
三年 カプセル 二六八、四六三
シロップ 三九、〇四一
四年 カプセル 二二二、〇四四
シロップ 四〇、七二八
(乙一二一)
(三) 製剤販売費
この点に関しては、被告製剤メーカー及び被告大原のそれぞれにつき、全体の売上高に対する全体の販売費の割合(販売費割合)を製剤の売上高に乗じて算出すべきである。なお、決算期が年の途中になっている場合は、
「決算期の販売費割合×決算期までの月数+翌決算期の販売費割合×残月数/12」の式により算定することにする(ただし、二年は、原告の請求により、四月から一二月までで計算した。各数値は、小数点一位未満四捨五入。)。また、五年一月一日から同月一八日までの期間については、四年一月から一二月までの期間と合算して計算し、その期間の販売費割合については、四年と同一で算定する。そうすると、被告製剤メーカー及び被告大原における各会計期間の販売費割合及び二年、三年、四年の販売費割合は、以下のとおりとなる。
(1) 被告大原(一一二の1ないし4)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年二月一日から三年一月三一日まで 一二・六パーセント
三年二月一日から四年一月三一日まで 一三・三パーセント
四年二月一日から五年一月三一日まで 一七・八パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
二年 一二・六パーセント
三年 一三・二パーセント
四年 一七・四パーセント
(2) 被告メディサ、被告沢井
被告沢井について(乙九六の2)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年七月一日から三年三月三一日まで 三三・八パーセント
三年四月一日から四年三月三一日まで 三三・二パーセント
四年四月一日から五年三月三一日まで 三〇・二パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
二年 三二・六パーセント
三年 三三・四パーセント
四年 三一・〇パーセント
被告メディサについて(乙一三四)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年七月一日から三年三月三一日まで 一一・五パーセント
三年四月一日から四年三月三一日まで 一四・六パーセント
四年四月一日から五年三月三一日まで 一三・六パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
二年 一一・五パーセント
三年 一三・八パーセント
四年 一三・九パーセント
被告沢井及び被告メディサは、二年六月以前の損益計算書を提出していないので、後記(10)と同様の理由により、右期間については被告沢井及び被告メディサに最も不利益な数値(三〇・二パーセント、一一・五パーセント)で算定した。
(3) 被告共和(乙一三六)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年一月二一日から三年一月二〇日まで 一八・二パーセント
三年一月二一日から四年一月二〇日まで 一七・六パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
三年 一七・六パーセント(ただし、この被告は、三六五日に日割り計算)
(4) 被告東和(乙七五の2)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年四月一日から三年三月三一日まで 三〇・四パーセント
三年四月一日から四年三月三一日まで 二六・二パーセント
四年四月一日から五年三月三一日まで 二四・二パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
二年 三〇・四パーセント
三年 二七・三パーセント
四年 二四・七パーセント
(5) 被告帝國(乙一三一の5)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年一月一日から同年一二月三一日まで 一五・九パーセント
三年一月一日から同年一二月三一日まで 一六・四パーセント
四年一月一日から同年一二月三一日まで 一四・九パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
右数値と同様である。
(6) 被告大正(一三〇の5)
<1> 各会計期間の販売費割合について
元年一〇月一日から二年九月三〇日まで 一八・七パーセント
二年一〇月一日から三年九月三〇日まで 二〇・四パーセント
三年一〇月一日から四年九月三〇日まで 一三・一パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
二年 一九・三パーセント
三年 一八・六パーセント
四年 一三・一パーセント
被告大正は、平成四年一〇月以降の損益計算書を提出していないので、後記(10)と同様の理由により、右期間については被告大正に最も不利益な数値(一三・一パーセント)で算定した。
(7) 被告大洋(乙一三八)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年四月一日から三年三月三一日まで 二一・九パーセント
三年四月一日から四年三月三一日まで 一九・〇パーセント
四年四月一日から五年三月三一日まで 一八・四パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
二年 二一・九パーセント
三年 一九・七パーセント
四年 一八・六パーセント
(8) 被告長生堂(乙一二六の4)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年四月一日から同年一二月三一日まで 八・六パーセント
三年一月一日から同年一二月三一日まで 八・三パーセント
四年一月一日から同年一二月三一日まで 七・九パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
右数値と同様である。
(9) 被告鶴原(乙一三五)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年一月一日から同年一二月三一日まで 二四・二パーセント
三年一月一日から同年一二月三一日まで 二三・〇パーセント
四年一月一日から同年一二月三一日まで 二三・七パーセント
<2> 各請求年の販売費割合について
右数値と同様である。
(10) 被告日新(乙一二八の4)
<1> 各会計期間の販売費割合について
二年六月一日から三年五月三一日 七・七パーセント
三年六月一日から四年五月三一日 八・二パーセント
被告日新は、右期間の損益計算書のみ提出しており、二年五月三一日以前販売費割合についての客観的資料はない。そこで、前記判示(3(一)(2))と同様に、客観的証拠の中から被告に最も不利益な証拠を用いることとする。そうすると、右期間の販売費割合については、七・七パーセントとするのが相当である。なお、被告日新は、四年六月以降は製剤を製造していないので、四年の販売費割合は次のとおりとなる。
<2> 各請求年の販売費割合について
二年 七・七パーセント
三年 八・〇パーセント
四年 八・二パーセント
(11) 被告ベーリンガー
被告ベーリンガーが提出した損益計算書(乙一三七)には、一般管理費は研究開発費と合算されて計上されており、本件訴訟で提出された一切の証拠を総合しても、被告ベーリンガーの販売費割合を算定することは不可能である。
ところで、被告製剤メーカーの販売費割合は、右に判示のとおり七・七パーセント(被告日新・二年六月一日から三年五月三一日までのもの)から三三・八パーセント(被告沢井・二年七月一日から三年三月三一日までのもの)の間にある。よって、被告ベーリンガーの販売費割合も、右の数値の間にあるものと推認でき、前記判示(3(一)(2))と同様の理由により、この数値の中から被告ベーリンガーに最も不利益な数値をもって、被告ベーリンガーの販売費割合と認定するのが相当である。そうすると、被告ベーリンガーの販売費割合は、七・七パーセントとなる。
(四) 製剤の製造原価
原末の販売価格は、別紙四に記載のとおりであること、及び、製剤化費用は、一薬価単位(一カプセル、細粒及びドライシロツプは一グラム)当たり三円以下であることについては、当事者間に争いはない。そして、製剤一単位当たり一〇〇ミリグラムの原末を利用するところ、右によれば、一〇〇ミリグラムの原末の価格は、二年は一七円、三年は一二円、四年は八円となる(ドライシロツプは、一薬価単位当たり原末を五〇ミリグラム使用するので、右価格の二分の一となる)。
(五) 被告製剤メーカー及び被告大原の製剤販売による利益額及び賠償すべき金額
以上の事実を前提とすると、被告製剤メーカー(被告メディサ及び同沢井は除く)及び被告大原の各製剤の販売による利益額は、次の式により算出するべきである。
{販売単価-(販売単価×販売費割合+原末代金+製剤化費用)}×販売数量
また、被告メディサ及び被告沢井における製剤の販売利益の、次の式により算出するべきである。
{被告沢井の販売単価-(被告沢井の販売単価×被告沢井の販売費割合+被告メディサの販売単価×被告メディサの販売費割合+原末代金+製剤化費用)}×販売数量
右の各式により算出した各製剤メーカー及び被告大原の製剤ごとの金額は、別紙一九ないし二九の利益額欄に記載のとおりである。よって、被告製剤メーカー及び被告大原が、製剤販売により得た利益額は、次のとおりであると認められる(円未満切り捨て)。
ところで、後記のとおり各年につき原告の本訴請求額以上の利益を上げている製剤メーカーがあるが、この場合は、民事訴訟法一八六条に基き、毎年の請求ごとに原告の請求額を上限として認容すべきものである。ただし、複数の製剤を製造しているメーカーについては、そのうちの一つの製剤について原告の当該製剤についての請求額を上廻る利益を上げている場合でも、当該年の利益額を合計して、その合計額が原告の請求額を超えない場合には、右の扱いはしない。
<1> 被告大原(別紙一九)
二年 一四五九万三一八二円
三年 三二五万一八三二円
四年 一二七四万二三一一円
合計 三〇五八万七三二五円
よって、原告の請求額を上限とすると、被告大原の賠償すべき額は、
二年分として 二七一万〇七八七円
三年分として 三二五万一八三二円
四年分として 一〇九八万四七七七円
の合計一六九四万七三九六円となる。
<2> 被告メディサ、被告沢井
(別紙二〇、左記の金額は、原告の請求の範囲内である。)
二年 八五万六五一八円
三年 一二六万七八〇九円
四年 五九〇万〇五六〇円
合計 八〇二万四八八七円
<3> 被告共和(別紙二一)
三年(合計) 五三万九〇七八円
<4> 被告東和(別紙二二)
二年 四五五九万四三八二円
三年 一億二八二二万六三〇三円
四年 一億二五二九万二七〇九円
合計 二億九九一一万三三九四円
よって、原告の請求額を上限とすると、被告東和の賠償すべき額は、
二年分として 二二五五万五一二三円
三年分として 一億二一〇二万九三四二円
四年分として 七四三五万八一九四円
の合計二億一七九四万二六五九円となる。
<5> 被告帝國(別紙二三、左記の金額は、原告の請求の範囲内である。)
二年 一四四五万一二四三円
三年 四〇三七万〇六三六円
四年 二二八六万五八〇〇円
合計 七七六八万七六七九円
<6> 被告大正(別紙二四、左記の金額は、原告の請求の範囲内である。)
二年 一三九万六四六六円
三年 六六五万一八七五円
四年 一五二四万六一三九円
合計 二三二九万四四八〇円
<7> 被告大洋(別紙二五の1、2)
二年 三九八九万六九二八円
三年 二八〇万〇八三五円
四年 四〇六一万〇一四四円
合計 八三三〇万七九〇七円
よって、原告の請求額を上限とすると、被告大洋の賠償すべき額は
二年分として 五七八万一四七一円
三年分として 二八〇万〇八三五円
四年分として 一〇五九万二〇八二円
の合計一九一七万四三八八円となる。
<8> 被告長生堂(別紙二六)
二年 六九七万一一三三円
三年 三八三万五〇三五円
四年 九五万四三三三円
合計 一一七六万〇五〇一円
よって、原告の請求額を上限とすると、被告長生堂の賠償すべき額は
二年 六八四万一四〇五円
三年 三八三万五〇三五円
四年 九五万四三三三円
合計 一一六三万〇七七三円
<9> 被告鶴原(別紙二七の1、2)
二年 一八二万四一三〇円
三年 三四一万八七三一円
四年 三七二万二二九七円
合計 八九六万五一五八円
よって、原告の請求額を上限とすると、被告鶴原の賠償すべき額は
二年分として 八八万九八〇三円
三年分として 三一九万六九〇六円
四年分として 三六九万六七八九円
の合計七七八万三四九八円となる。
<10> 被告日新(別紙二八)
二年 一七五万七三二〇円
三年 三八二万二四八七円
四年 八八万一一八〇円
合計 六四六万〇九八七円
よって、原告の請求額を上限とすると、被告日新の賠償すべき額は
二年分として 八三万四二九六円
三年分として 三八二万二四八七円
四年分として 八八万一一八〇円
の合計五五三万七九六三円となる。
<11> 被告ベーリンガー(別紙二九、左記の金額は、原告の請求の範囲内である。)
二年 一一九七万七一〇七円
三年 七七一三万三一五〇円
四年 七九三三万〇一八四円
合計 一億六八四四万〇四四一円
三 結論
以上の次第で、原告の本訴各請求は、右二の2(三)及び3(五)に判示した限度で正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れない。
よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長 裁判官 渡辺修明 裁判官 堀内満 裁判官 鳥居俊一)
別紙
<19>日本国特許庁(JP) 特許出願公告
<12>特許公報(B2) 昭56-40710
<31>Int.Cl3C 07 C 103/84 //A 61 K 31/195 識別記号 ABF 庁内整理番号 7375-4H 6408-4C <24><44>公告 昭和56年(1981)9月22日
発明の数 1
<34>新規芳香族カルボン酸アミド誘導体の製造方法
<21>特願 昭48-7359
<22>出願 昭48(1973)1月18日
公開 昭49-93335
<43>昭49(1974)9月5日
<72>発明者 張田耕三郎
長野県東築摩郡本郷村横田原436番地の1
<72>発明者 味沢幸義
岡谷市湊小坂10番地の4
<72>発明者 飯塚欣二
松本市笹部南原1128番地の1
<72>発明者 木下幸彦
松本市大字寿白瀬淵字南原681番地の83
<72>発明者 上条哲聖
塩尻市大字広丘吉田2525番地
<72>発明者 小林通洋
長野県南安曇郡豊科町南穂高2604番地
<71>出願人 キツセイ薬品工業株式会社
松本市芳川区野溝105番地
<74>代理人 弁理士 阿形明
<57>特許請求の範囲
1 一般式
<省略>
(式中のR1、R2、R3、R4、Xおよびnは前記と同じ意味をもつ)
<省略>
(式中のR1とR2はそれぞれ水素原子または低級アルキル基であり、R3とR4はそれぞれ水素原子であるか、あるいは両者で化学結合を形成するものであり、Xは低級アルコキシ基であり、nは2または3である)
で表わされる芳香族カルボン酸の反応性官能的誘導体と、式
<省略>
で表わされるアミノ安息香酸とを反応させ、所に応じその生成物を塩に変えることを特徴とす一般式
<省略>
で表わされる芳香族カルボン酸アミド誘導体またはその塩の製造方法。
発明の詳細な説明
本発明はアレルギーに起因する疾患の治療薬として有用な新規芳香族カルボン酸アミド誘導体の製造方法に関するものである。
これまで抗原抗体反応によりひき起こされるケミカルメデイエターの遊離を抑制する抗アレルギー剤としてはジソジウムクロモグリケートが知られているが、このものは経口投与では全く薬効を期待できないため、その使用にはいろいろ制限があつた.したがつて、経口投与によつても十分治療効果をを発揮できる医薬の出現がこの分野における重要な課題となつていた.本発明により得られる新規な芳香族カルボン酸アミド誘導体は経口投与によりアレルギー性疾患を治療しうるという顕著な効果を奏するものである.
すなわち、本発明は一般式
(Ⅰ)
<省略>
(式中のR1、R2、R3、R4、Xおよびnは前記と同じ意味をもつ)
で表わされる芳香族カルボン酸アミド誘導体またはその塩を製造する方法である.
前記一般式(Ⅰ)の芳香族カルボン酸は公知の化合物であり、文献記載の方法に従つて容易に製造することができる。この芳香族カルボン酸のうち不飽和結合を有するものについてはシス体、トランス体の2種の異性体が存在するが、本発明においてはそのいずれを用いてもよい。この一般式(Ⅰ)の芳香族カルボン酸としては、3・4-ジメトキシヒドロケイ皮酸のような芳香族飽和カルボン酸や、2・3-ジメトキシケイ皮酸、3・4-ジメトキシケイ皮酸、α-メチルー3・4-ジメトキシケイ皮酸、β-メチルー3・4-ジメトキシ(式中のR1とR2はそれぞれ水素原子または低級アルキル基であり、R3とR4はそれぞれ水素原子であるか、あるいは両者で化学結合を形成するものであり、Xは低級アルコキシ基であり、nは2または3である)
で表わされる芳香族カルボン酸の反応性官能的誘導体と、式
(Ⅱ)
<省略>
で表わされるアミノ安息香酸とを反応させ、所望に応じその生成物を塩に変えることを特徴とする、一般式
(Ⅲ)
<省略>
ケイ皮酸、3・4-ジエトキシケイ皮酸、2・4・5-トリメトキシケイ皮酸などの芳香族不飽和カルボン酸をあげることができる。本発明方法においてはこれら芳香族カルボン酸の反応性官能的誘導体を出発原料として用いるが、このようなものとしては酸ハロゲン化物、酸無水物、混合酸無水物、エステル、N・N'-ジ置換カルボジイミドとの付加物などのカルボン酸誘導体をあげることができる。これらの反応性官能的誘導体は、常法に従つて一般式(Ⅰ)の芳香族カルボン酸から容易に誘導することができる。たとえば酸クロリドは無溶媒もしくはベンゼン中で芳香族カルボン酸と塩化チオニルとを数時間加熱することによつて容易に得ることができる。また、エステルは所定の芳香族カルボン酸とフエノール類より得ることができる。さらに混合酸無水物はたとえばクロルギ酸エステルとの反応により得ることができる。
一般式(Ⅱ)のアミノ安息香酸としては、アントラニル酸、3-アミノ安息香酸、4-アミノ安息香酸のいずれをも用いることができる。
本発明におけるアミド化反応は、それ自体公知の方法に従つて行なうことができる。たとえば反応性官能的誘導体として酸ハロゲン化物を用いるときは、不活性溶媒中、塩基性物質の存在下で両者を反応させることができる。この場合塩基性物質としては、トリエチルアミン、ピリジンなどのような第三有機塩や炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのような無機塩基が用いられる。また不活性溶媒としてはクロロホルム、メチレンクロリド、アセトン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、水などを用いることができる。
前記の塩基性物質を用いる代りに、式(Ⅱ)の化合物を過剰量すなわち式(Ⅰ)の化合物に対し2倍モル以上用いて反応させてもよい。
本発明方法を好適に実施するには、一般式(Ⅰ)の化合物を基準として、5~20倍量のクロロホルムと2~15倍モルのピリジンの混液に一般式(Ⅱ)の化合物を溶解し、これに一般式(Ⅰ)の化合物の反応性官能的誘導体のクロロホルム溶液を冷却かきまぜながら滴下したのち必要に応じ教時間加熱する。
反応生成物は減圧下で濃縮し残留物を水中に注ぎ、次いで塩酸を加えて弱酸性とする。析出結晶を口取し適当な溶媒から再結晶し目的物を得る。
得られた一般式(Ⅲ)の化合物は常法に従いその塩とすることができる。たとえば一般式(Ⅲ)の化合物のアルコール溶液にこれと当量の水酸化ナトリウムの水溶液を加え必要に応じ加温することにより、容易にナトリウム塩とすることができる。一般式(Ⅲ)の化合物においてR3とR4がそれぞれ水素原子である化合物はR3とR4とで化学結合を形成した化合物を適当な触媒で還元することによつても製造することができる。本発明によつて得られる芳香族カルボン酸アミド誘導体は、抗原抗体反応によつて惹起される効果に対して特別の作用を有している。すなわち、アレルギーに起因する疾患の治療薬として広く使用することができる。
次に実施例によつて本発明をさらに詳細に説明する。なお、各実施例中における生成物の融点はいずれも未補正である。
実施例 1
4-アミノ安息香酸4.3gをクロロホルム100ml、ピリジン19gの混液に溶解する。これに3・4-ジメトキシケイ皮酸クロリド5.4gの乾燥クロロホルム溶液を冷却下に滴下する。混合物を1時間30分加熱遠流し生成物を減圧下に濃縮する。残留物を水中に注ぎ、塩酸に加え・酸性とし析出する結晶を口取しアルコールよりき結晶し、4-(3'・4'-ジメトキシシンナモイルアミノ)安息香酸5.6gを得る。融点267~9℃
元素分析値
C18H17O5Nとして、
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:66.00%
H:5.12%
N:4.14%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1690、1665cm-1
νNH:3320cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.81、3.83(S.S.6H、メトキシ水素)
6.87、7.62(q.2H、J-16Hz、オレフイン水素)
7.0~7.3(m、3H、メトキシ置換芳香環水素)
7.85、7.97(q、4H、J-9Hz、アミノ置換芳香環水素)
10.4(S、1H、カルボン酸水素)
11.5~12.7(ブロード、1H、アミド水素)
マススペクトル
M+、327
m/e:282、191、163
4-(3'・4'-ジメトキシシンナモイルアミノ)安息香酸1.5gを150mlのニタノールに加熱溶解し等モル量の水酸化ナトリウムのアルコール水溶液(エタノール2:水1)を加えると、白色の結晶が析出する。結晶を口取し減圧下に乾燥し4-(3'・4'-ジメトキシシンナモイルアミノ)安息香酸のナトリウム塩1.0gを得る。融点330℃以上
以下同様にして下記化合物を製造することができる。
<省略>
<省略>
実施例 2
実施例1における核置換ケイ皮酸クロリドの代りに相当する核置換ヒドロケイ皮酸クロリドを用いることにより、下記の化合物を製造することができる。
<省略>
<省略>
実施例 3
3・4-ジメトキシケイ皮酸3.1gとトリエチルアミン2.0gとをテトラヒドロフラン50mlに溶解し、氷冷下でかきまぜたのち、クロル炭酸エチル1.7gをテトラヒドロフラン10mlに溶かした溶液を滴下し、1時間かきまぜて反応させる。このようにして得た混合酸無水物の溶液に、アントラニル酸2.1gをテトラヒドロフラン50mlに溶かした溶液を滴下し、室温で1夜かきまぜたのち、さらに1.5時間加熱還流させる。次に反応混合物から不溶物をろ去し、ろ液から減圧下に溶媒を留去する。残留物を酢酸エチルに溶かし、希塩酸と水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥後減圧下に溶媒を留去する。得られた結晶をクロロホルムより再結晶して、N-(3'・4'-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸2.1gを得る。融点211~213℃。
元素分析値
C18H17O5Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:65.87%
H:5.10%
N:4.13%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1685、1650cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.82、3.88(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.6~8.8(m、9H、オレフイン水素芳香環水素)
11.27(S、1H、アミド水素)
実施例 4
3・4-ジメトキシケイ皮酸2gとトリエチルアミン1.5gをジメチルホルムアミド20mlに溶かし、この中に氷冷下でかきまぜながら、クロル炭酸エチル1.1gを加え1時間反応させる。このようにして得た混合酸無水物の溶液中に、3-アミノ安息香酸1.5gをジメチルホルムアミド10mlに溶かした溶液を加え2時間かきまぜる。反応終了後、反応液を減圧下に濃縮し、残留物を希塩酸中に注加する。析出した結晶をろ別し、水洗したのちニタノールより再結晶すれば、3-(3'・4'-ジメトキシシンナモイルアミノ)安息香酸1.5gを得る。融点225~226℃。
元素分析値
C18H17O5Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.18%
実測値 C:65.99%
H:5.18%
N:3.87%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1690、1655cm-1
νNH:3320cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.85、3.87(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.5~8.5(m、9H、オレフイン水素芳香族水素)
10.27(S、1H、アミド水素)
実施例 5
3・4-ジメトキシケイ皮酸2gとトリエチルアミン1.5gをテトラヒドロフラン10mlに溶かし、この中へ氷冷下かきまぜながら、クロル炭酸エチル1.1gを滴下し、次いで20分間かきまぜる。このようにして得た混合酸無水物の溶液に4-アミノ安息香酸1.5gをテトラヒドロフラン10mlに溶かした溶液を滴下し、25時間かきまぜて反応させる。次に不溶物をろ去し、ろ液から減圧下に溶媒を留去し、残留した黄色油状物質を少量のエタノールに溶かして希塩酸中に注加する。析出する結晶をろ別し、エタノールより再結晶すれば4-(3'・4'-ジメトキシシンナモイルアミノ)安息香酸1.0gを得る。融点267-269℃。
元素分析値
C18H1705Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:66.25%
H:5.36%
N:4.18%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1690、1665cm-1
νNH:3320cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.81、3.83(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.78、7.62(q、2H、J=16Hzオレフイン水素)
7.0~7.3(m、3H、メトキシ置換芳香環水素)
7.85~7.97(q、4H、J=9Hzアミノ置換芳香環水素)
10.4(S、1H、カルボン酸水素)
11.5~12.7(ブロード、1H、アミド水素)
実施例 6
3・4-ジメトキシケイ皮酸フエニルエステル5gと3-アミノ安息香酸2.4gをキシレン50mlに溶解し、16時間加熱還流させる。冷却後析出する結晶をろ別し、エタノールより再結晶すれば3-(3'・4'-ジメトキシシンナモイルアミノ)安息香酸3.8gを得る。融点225~226℃。
元素分析値
C18H17O5Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値_C:66.00%
H:5.25%
N:4.04%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1690、1655cm-1
νNH:3320cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.85、3.87(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.5~8.5(m、9H、芳香環水素、オレフイン水素)
10.27(S、1H、アミド水素)
実施例 7
3・4-ジメトキシケイ皮酸フエニルエステル1gとアントラニル酸0.48gをキシレン10mlに溶解し、48時間加熱還流させる。冷却後、減圧下に溶媒を留去し、残留物をクロロホルムと酢酸エチルの等量混合物に溶解し、希塩酸次いで水で洗浄する。次に無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下に溶媒を留去し、残留物にベンゼンを加え結晶化したのち、析出した結晶をろ別する。これをクロロホルム再結晶すればN-(3'・4'-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸0.4gを得る。融点211~213℃。
元素分析値
C18H1705Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:66.07%
H:5.23%
N:4.26%
赤外線吸収スペクレル(KBr)
νCO:1650、1685cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.82、3.88(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.6~8.8(m、9H、芳香環水秦、オレフイン水素)
11.27(S、1H、アミド水素)
実施例 8
3-アミノ安息香酸274mgと3・4-ジメトキシケイ皮酸無水物796mgをピリジン20mlに溶解し、1夜加熱還流させる。反応混合物を減圧下に濃縮し、析出する結晶をろ別し、少量のベンゼンで洗浄したのち、エタノールより再結晶すれは、3-(3'・4'-ジメトキシシンナモイルアミノ)安息香酸591mgを得る。融点225~226℃。
元素分析値
C18H17O5Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:66.14%
H:5.26%
N:4.34%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1690、1655cm-1
νNH:3320cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.85、3.87(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.5~8.5(m、9H、オレフイン水素、芳香環水素)
10.27(S、1H、アミド水素)
実施例 9
アントラニル酸0.5gと3・4-ジメトキシケイ皮酸無水物1.48gを、ピリジン20mlに溶解し、1夜加熱還流させる。反応混合物を減圧下に濃縮し、析出する結晶をろ別し、少量のベンゼンで洗浄後クロロホルムより再結晶すれば、N-(3'・4'-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸S38mgを得る。融点211~213℃。
元素分析値
C18H17O5Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:66.08%
H:5.21%
N:4.16%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1685、1650cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.82、3.88(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.6~8.8(m、9H、芳香環水素.オレフイン水素)
11.27(S、1H、アミド水素)
実施例 10
3・4-ジメトギシケイ皮酸3.0gをピリジン30mlに溶解し、これにベンゼンスルホン酸クロリド2.5gを加え室温で3時間かきまぜる。次いでこの中にアントラニル酸2.0gのピリジン10ml溶液を滴下し室温で1夜かきまぜる.反応液減圧下に濃縮し、残留物を氷水中に注ぎ、塩酸を加え酸性とし析出する結晶をろ別する。
これを70%含水アルコール50mlに溶かし、1.2mlの濃塩酸を加え30分加熱還流する。反応液を濃縮し、残留物を氷水中に注ぎ析出する結晶をろ別し、クロロホルムより再結晶し、N-(3'・4'-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸1.0gを得る。融点211~213℃。
元素分析値
C18H17O5Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:66.14%
H:5.18%
N:4.32%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1685、1650cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.82、3.88(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.6~8.8(m、9H、オレフイン水素、芳香環水素)
11.27(S、1H、アミド水素)
実施例 11
3・4-ジメトキシケイ皮酸エチルエステル2.5gと3-アミノ安息香酸2.74gを減圧下(15~20mmHg)に150℃で6時間加熱反応させる。冷却後生成した油状物をクロロホルム、酢酸エチルの等量混合物に溶解し、希塩酸と水で洗浄する。無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去する。残留物にベンゼンを加え結晶化したのち結晶をろ別し、エタノールより再結晶すれば、3-(3'・4'-ジメトギシシンナモイルアミノ)安息香酸1.2gを得る。融点225~226℃。
元素分析値
C18H17O5Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:59.98%
H:5.31%
N:4.26%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1690、1655cm-1
νNH:3320cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.85、3.87(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.5~8.5(m、9H、芳香環水素、オレフイン水素)
10.27(S、1H、アミド水素)
実施例 12
3・4-ジメトキシケイ皮酸2.1gをジメチルホルムアミド100mlに溶かし、これにN-エチル-N'-(3-ジメテルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩1.9gを加え室温で3時間かきまぜることにより、付加物を形成させる。次いでこれにアントラニル酸1.4gを加え10.0℃で1夜かきまぜる。この反応混合物を減圧下で濃縮し、残留物な氷水中に注ぎ塩酸を加えて酸性とし、析出する結晶をろ別する。この結晶を70%含水エタノール30mlに溶かし、濃塩酸1mlを加え30分間加熱還流させる。次にこの反応混合物を濃縮し、残留物を氷水中に注加し、水酸化ナトリウム水溶液を加え塩基性としたのち結晶をろ別する。これをかきまぜながら塩酸水溶液中に加え、生成した結晶をろ取する。この結晶をクロロホルムより再結晶すると、N-(3'・4'-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸0.16gを得る。融点211~213℃。
元秦分析値
C18H17O5Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:66.13%
H:5.27%
N:4.19%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1685、1650cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.82、3.88(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.6~8.8(m、9H、オレフイン水素、芳香環水素)
11.27(S、1H、アミド水素)
実施例 13
3・4-ジメトギシケイ皮酸10.4gとN・N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド10.3gをジオキサン150mlに溶解し、室温で1夜かきまぜたのちアントラニル酸6.9gを加え6時間加熱還流する。冷却後酢酸4mlを加え0.5時間かきまぜろ。析出結晶をろ去し、ろ液を減圧下で濃縮し、残留物に酢酸エチルを加え不溶物をろ去する。ろ液を減圧下で濃縮し、残留物を70%含水エタノール170mlに溶解し、これに濃塩酸4mlを加え30分間加熱還流させる。反応液を減圧下で濃縮し、残留物を氷水中に注ぎ、水酸化ナトリウム水酸液を加え塩基性とし、析出結晶をろ取する。これをかきまぜながら、塩酸水溶液中に加え結晶をろ取しこの結晶を2%炭酸カリウム水溶液500mlに溶解し、不溶物をろ去したのち塩酸で酸性とし析出結晶をろ取し、クロロホルムより再結晶するとN-(3'・4'-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸0.92g得る。融点211~213℃。
元素分析値
C18H17O5Nとして
計算値 C:66.05%
H:5.24%
N:4.28%
実測値 C:65.97%
H:5.19%
N:4.22%
赤外線吸収スペクトル(KBr)
νCO:1685、1650cm-1
核磁気共鳴スペクトル(d8-DMSO)
δ3.82、3.88(S、S、3H、3H、メトキシ水素)
6.6~8.8(m、9H、オレフイン水素、芳香環水素)
11.27(S、1H、アミド水素)
参考例
ラツトのホモローガス受身皮膚・アナフイラキシー反応
百日ぜき、ジフテリアワクチンに溶解した卵白アルブミンで感作したラツト(ウイスター系・体重120~150g)から得たレアギン抗体を正常ラツト(ウイスター系・体重120~150g)の皮下に注射し感作する。感作48時間後、抗原(卵白アルブミン)とエバンスブルーを静脈内に注入し、注入30分後殺し、抗原抗体反応の結果生じるブルー・スボツトを光学的に測定する。
試験薬物は1%炭酸水素ナトリウム水溶液に溶解し、抗原注入2時間前に200ml/kg経口投与し、一方ニントロール群として1%炭酸水素ナトリウム溶液を投与する。
試験薬物のホモローガス受身皮膚・アナフイラキシーの抑制効果を下記の式を用いて求めた。
<省略>
A:ニントロール群におけるろ出色素量
B:試験薬物投与群におけるろ出色素量
試験結果を次表に示す。
試験薬物 抑制率%
コントロール 0
N-(シンナモイル)アントラニル酸(市販品) 16.7
3-(シンナモイルアミノ)安息香酸(市販品) 10.0
4-(シンナモイルアミノ)安息香酸(市販品) 7.0
N-(2'・3'-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸 56.8
3-(2'・3'-ジメトキシシンナモイルアミノ)安息香酸 41.1
N-(3'-メトキシ-4'-ローブロボキシシンナモイル)アントラニル酸 52.2
N-(3'-メトキシ-4'-インブロボキシシンナモイル)アントラニル酸 47.1
N-(3'・4'-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸 46.1
N-(2'・4'・5'-トリメトキシシンナモイル)アントラニル酸 56.8
N-(3'・4'-ジメトキシヒドロシンナモイル)アントラニル酸 55.4
N-(3'・4'-ジメトキシ-β-メチルシンナモイル)アントラニル酸 66.2
この表から明らかなように、本発明により得ら35い抗アレルギーを示す。れる化合物は、公知の類似化合物に比べ著しく高
別紙
目録
左記構造式を有する
N-(3、4-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸(一般名:トラニラスト)
<省略>
別紙一
<省略>
別紙二
<省略>
別紙三の1
<省略>
別紙三の2
<省略>
別紙四
原末純利益額計算表
単位:kg、円
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙五
純利益額計算表
単位:円、カプセル、g
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙六
純利益額計算表
単位:円、カプセル、g
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙七
純利益額計算表
単位:円、カプセル
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙八
純利益額計算表
単位:円、カプセル、g
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙九
純利益額計算表
単位:円、カプセル
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙一〇
純利益額計算表
単位:円、カプセル、g
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙一一
純利益額計算表
単位:円、カプセル、g
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙一二
純利益額計算表
単位:円、カプセル、g
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙一三
純利益額計算表
単位:円、カプセル、g
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙一四
純利益額計算表
単位:円、カプセル
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙一五
純利益額計算表
単位:円、カプセル、g
<省略>
※1 製造原価とは当該製造のために直接必要とされた製造費用及び製造経費(原材料費、製造人件費、光熱費等の設備費、工場設備の減価償却費等)である。
※2 直接販売経費とは当該売上を得るために直接必要とされた販売経費(販売費、管理費、販売人件費、運送費、保険料)である。
別紙一六
売上高及び損益一覧表
<省略>
別紙一七
<省略>
別紙一八、原末製造メーカーの利益額
<省略>
別紙一九(被告大原の製剤による利益額)
<省略>
(注) 「単価」は製剤一単位当たりのもの。「販売費割合」の単位は%。
「単価」、「販売費割合」、「原料費」、「販売量」は、判決本文中に判示した数値である。(以下同じ。)
別紙二〇(被告メディサ、沢井の製剤による利益額)
<省略>
(注)△は、マイナスを示す。(以下同じ。)
別紙二一(被告共和の製剤による利益額)
<省略>
別紙二二(被告東和の製剤による利益額)
<省略>
別紙二三(被告帝國の製剤による利益額)
<省略>
別紙二四(被告大正の製剤による利益額)
<省略>
別紙二五の1(被告大洋の製剤による利益額)
<省略>
別紙二五の2(被告大洋の製剤による利益額)
<省略>
別紙二六(被告長生堂の製剤による利益額)
<省略>
別紙二七の1(被告鶴原の製剤による利益額)
<省略>
別紙二七の2(被告鶴原の製剤による利益額)
<省略>
別紙二八(被告日新の製剤による利益額)
<省略>
別紙二九(被告ベーリンガーの製剤による利益額)
<省略>
特許公報
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>