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富山地方裁判所 平成8年(ワ)103号 判決 1998年3月11日

原告

アオイ開発株式会社

右代表者代表取締役

横山一夫

右訴訟代理人弁護士

神山祐輔

山田博

被告

株式会社朝日住建

右代表者代表取締役

松本喜造

右訴訟代理人弁護士

米田宏己

西信子

北薗太

山崎邦夫

主文

一  原告の主位的請求を棄却する。

二  被告は、原告に対し、三億円及びこれに対する平成五年九月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  被告は、原告に対し、三億円及びこれに対する平成五年九月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二  事案の概要

一  本件は、原告と被告との間で、被告が原告に対してゴルフ場等の開発に関し用地買収の取りまとめ等の業務を委託する契約が締結され、原告は右業務を進めたが、事業が途中で中止となったため、原告が被告に対して、右中止は被告の経営状態の悪化によるものであるとして、主位的に本件契約は委任であり、かつ、原告の責めに帰すべからざる事由により履行の半途において終了した場合であるから、本件契約及び民法六四八条三項により原告が既になした履行の割合に応じた報酬として三億円の支払いを請求し、予備的に本件契約は請負であり、かつ、被告の責めに帰すべき事由により履行をなすことができなくなるに至った場合であるから、民法五三六条二項により原告が受けるべき反対給付から被告に償還すべき利益を控除した部分の一部である三億円の支払いを請求した事案である。

二  争いのない事実

1  当事者

原告は、地質調査、ボーリング工事、土木建築工事、不動産の売買・賃貸借及びその斡旋、宅地造成分譲並びに地下開発に伴う資料の収集・調査・研究及び技術指導等を業とする株式会社であり、被告は、不動産の売買・賃貸・その仲介及び管理、土地の分譲、住宅の月賦販売、土木建築の設計施行、ホテル経営並びにゴルフ場等のスポーツ施設の企画及び経営等を業とする株式会社である。

2  契約の成立

(一) 原告は、平成元年春ころ、富山県上新川郡大山町文珠寺地区(以下「文珠寺地区」という。)の住民より地元の活性化対策の一環として文珠寺地区をリゾート地域として開発したいとの要望を受けたことから、訴外新和企画設計事務所の代表である訴外関谷進(以下「関谷」という。)の協力を得て、文珠寺地区におけるゴルフ場を核とするリゾート開発(以下「本件事業」という。)の計画を推進していたところ、被告が本件事業に参画することとなり、本件当時原告の会長であった横山政吉(以下「横山」という。)及び関谷は被告との間で平成二年四月ころから協議を重ねた。

(二) 右協議の結果、平成二年五月一日、被告は原告及び関谷に対して次のとおり本件事業に関する用地の取りまとめ及び買付業務を依頼し、原告らはこれを引き受けた(以下「本件契約」という。)。

(1) 開発区域の所在 文珠寺地区

(2) 開発区域の面積  (公簿)約五二万坪、(実測)約七八万坪

(3) 開発事業の目的 ゴルフ場二七ホール、その他レジャー施設

(4)買収価格 総額三五億円(ただし、土地買収費、コンサルタント費、開発負担金及び補償費等の開発許認可に必要な一切の費用を含む。)

(5) 事前協議及び開発許認可の申請者は被告とする。

(6) その他の詳細については関係者も含め双方が協議の上で決める。

(三) 原告らは右合意に基づいて直ちに文珠寺地区の住民との折衝を開始し、その結果、平成二年六月末に開催された文珠寺地区の総会において、本件事業に同意する旨の決議がなされた。

そして、同年七月二七日ころ、右決議に基づく文珠寺地区総代の被告宛の開発計画に関する同意書が被告に交付された。

(四) 原告と被告は、右経緯を踏まえ、平成二年八月二八日、本件事業について開発区域内の地権者からの用地買収及び開発行為の許認可の取得業務を原告が行うことを目的とし、前記合意を基本として更に本件事業の業務内容や業務報酬金等の詳細を取り決めた以下のとおりの協定(以下この協定に際して作成された書面を「協定書」という。)を締結した。

第1条 原告は、被告の本件事業目的を理解し、開発区域の各所有者に対し、次条以下の条件で被告が取得できるよう、その買収交渉を行い、被告との売買契約を締結せしめるとともに、本件事業における利害関係人及び諸団体の同意を取得し、開発許認可を取得することを約した。

第2条 原告の業務は概ね次のとおりとする。

① 被告が本件事業を行う開発区域の土地所有者及び付着権利者の取りまとめ、売買同意書の取得業務

② 本件事業に必要な開発区域内外の各種同意書の取得及び近隣地域対策

③ 国土利用計画法に基づく届出書類及び農地法五条等の地目変更申請に要する必要書類等の取得並びに官民境界明示立会等の業務

④ 土地所有者と売買の合意に達した時点で土地売渡承諾書及び開発行為同意書等の取得業務

⑤ 本件事業における開発行為の許認可取得完了までの業務(被告はこれに協力する。)

⑥ その他被告の本件事業を成就させるため、被告からの要請事項に対する協力業務

第3条 被告の開発区域内土地買収条件は次のとおりとする。

① 開発区域内の買収価格は総額三三億円を上限とする仕切価格とし、買収価格の中には土地代を含めて開発許認可取得に必要な一切の費用(コンサル費用は除く。)を一切含むものとする。なお、原則として開発区域の全部を買収するものであるが、一部借地が生じる場合は、本協定書第6条によるものとする。

② 以下省略

第4条 原告は第2条の業務を本協定締結後、平成五年八月三一日にて完結するものとする。なお、この原告の業務が達成できないと被告、原告協議の上被告が判断した場合は、第7条により処理されても原告は何等異議、苦情を申し立てないものとする。

第5条 原告の第2条記載の業務に対する業務報酬金は次のとおりとし、被告は本件事業開発許認可取得後を条件としてこれを支払うものとする。

① 第3条①記載の被告の買収予定金額総額三三億円を上限とし、開発区域内を買収された場合で、その買収金との差額金を原告の業務報酬金とする。なお、被告の買収予定金額を上回った場合は、原告は被告に対し業務報酬金の請求をしないことはもちろんのこと、上回った土地代金並びに開発許認可取得に要した費用についても原告の負担とする。

② 第3条①の買収代金の支払いについては、以下のとおりとする。

1  事前協議完了、国土法許可時

四億円

(ただし、利害関係人及び諸団体の同意、九〇パーセント以上取得の上、被告が判断するものとする。)

2  所有権移転登記時 二四億円

3  開発許認可取得後 五億円

③ 省略

第6条 省略

第7条 被告の開発区域内の土地買収及び借地目的はゴルフ場建設事業を目的とするものである。したがって、開発区域内の土地買収及び借地ができないとき又は開発の許認可が取得できない場合、本協定は被告、原告協議の上被告の判断により解消されることを原告は合意する。なお、この場合において被告より原告に金額支払いが発生していた場合は、原告は被告に金員全額を無利息で直ちに返還するものとする。

第8条 省略

第9条 この契約後、天災地変又は被告、原告いずれの責めに帰すべき事由によらずに本協定書が解消された場合は、互いに相手方に対し、損害賠償の請求をなさないものとする。

第10条 本契約に定めない事項については、民法その他関係法令及び不動産取引慣行に従い、被告、原告は互いに信義を重んじ、誠意をもって協議し定めるものとする。

3  被告は、平成二年一二月二六日、大山中央農業共同組合上滝支所に二億円を、北陸銀行上滝支店に一億円をそれぞれ預け入れた。

三  争点

1  本件契約の法的性質

(原告の主張)

(一) 協定書においては、その前文に、本件契約は被告が開発区域において計画する本件事業に関し、開発区域内の地権者からの用地買収及び開発行為の許認可の取得業務について締結されたものである旨の定めがあること、協定書において定められた原告の業務のうち、第2条の①から④までの業務はいずれも被告が開発行為の許認可を取得するに当たり不可欠な基盤整備を行う業務であり、同条⑥の被告からの要請事項に対する協力業務を原告が行うことによって被告の本件事業が成就することからすると、本件事業の事業主体は被告であり、開発行為の許認可の申請者も被告であり、原告はその補助者若しくは協力者であった。

(二) 協定書の第3条①の「コンサル費用は除く。」との約定からすると、次のとおりのコンサルタント業務は、被告のなすべき業務であって、被告が自ら行わない限り本件事業を推進し得ない、本件事業の推進に必要不可欠な根幹的業務の一つにほかならない。

① 開発に関する種々の申請に必要な図書の作成

② 申請用レイアウト図面の作成

③ これらを事業主体自らが行政庁に提出して説明をなす際に、これを適切に補助する業務

④ 右の各手続を経て事業主体が開発行為の許認可の取得に向けて関係庁との折衝を行うに当たり、これを補助する業務

(三) このように、本件契約においては、本件事業の事業主体は被告であって、被告自らが根幹的な業務の一つを受け持つことが約定されており、これと原告が行うべき業務とが一体となって遂行されない限り開発行為の許認可の取得に至ることは不可能であったことからすると、本件契約は委任契約の性質を持つものと解される。

(四) 仮に、本件契約は、委任契約の性質を持たないとすると、請負契約の性質を持つことになる。

(被告の主張)

(一) ゴルフ場開発においては、ゴルフ場開発計画会社が自らの名義で事前協議及び開発行為の許認可の申請をし、開発行為の許認可を取得した段階でゴルフ場開発計画会社の株式をゴルフ場経営会社に売却するという法人売買の方法が採られることがあるが、法人売買は多額の譲渡税を負担しなければならないという欠点があるため、本件事業では、法人売買とはせず、開発行為の許認可の取得手続は被告名義でするが、開発行為の許認可の取得業務は原告の業務とし、被告は開発行為の許認可の取得に必要な手続に協力することとなった。

そのため、本件契約は委任事務の履行を内容とするものではなく、原告の役割は被告が事業主体となる二七ホールのゴルフ場及びその他レジャー施設を開発してオープンさせることであり、開発行為の許認可の取得に必要な法律上及び事実上の各種の手続及び行為は全て原告の責任においてなし、被告のなすべきことは事業主体として必要なこと(例えば、関係書類の名義使用)に協力することである。

すなわち、本件契約は二七ホールのゴルフ場の開発行為の許認可の取得を完了して始めて被告が原告に対して報酬を支払うという完全請負というべきものであり、個々の行為に対する報酬を予定するものではない。

(二) 右(一)は、協定書の第5条①において、買収価格の総額を示し、原告の努力次第で買収に要した金額との差額を原告の業務報酬金としていることからも明らかである。また、同条②は業務報酬金の支払時期を定めるものではなく、同条②の金額は同条①の買収代金及び開発行為の許認可の取得に必要な費用の前払的性格を有するものである。

さらに、右(一)は、協定書の第2条⑤が被告はその行為が必要であれば協力するにすぎないことを、同条⑥が契約締結以後に行われる各種の手続作業を行うに当たり新たに必要となる作業等については原告にその責任を負わせると定めていることからも明らかである。

(三) 本件契約においてコンサルタント業務は被告のなすべき業務であり、被告は訴外関西航測株式会社に委託して開発行為の許認可の取得のための申請書類に添付すべきゴルフ場のレイアウト図面を作成したり、事前相談のための事前協議書を作成して大山町(以下「町」という。)や富山県(以下「県」という。)との折衝に当たったりしたが、それは原告の開発行為の許認可の取得業務に対する補助業務を履行したものにすぎない。

2  本件契約において原告がなすべき業務

(原告の主張)

(一) 本件事業が成就するためにはまず何よりも本件事業の開発区域の地権者等からその同意を得ることが必要不可欠である。

(二) ついで、地元行政、本件でいえば町と大山町議会(以下「町議会」という。)から本件事業についての賛同を得て、国土利用計画法や農地法で定められた各種の行政手続もしくは許認可について、その承認(許諾)を得ることも必要不可欠である。

とりわけ、本件の場合、文珠寺地区においては昭和六二年大山町条例第一四号の「大山町学園都市建設計画開発規制条例」(以下「開発規制条例」という。)により本件事業の開発区域を含む約八〇ヘクタールが開発規制地域となっており、本件事業を推進するには本件事業の開発区域を開発規制地域から除外する旨の条例の改正が前提となっていた。

(三) さらに、本件のような大規模なゴルフ場開発の場合にはその開発関連法規に基づく許認可を県から得ることも必要不可欠である。

(被告の主張)

(一) 開発に必要な同意は、本件事業の開発区域の地権者はもちろん、開発に関連する利害関係人等について、一〇〇パーセント必要である。

また、協定書の第2条①において取得するべきものは、地権者の売買同意書であり、開発同意書ではなく、同条②における開発区域内外の各種同意書とは、近隣市町村長及び地区の開発同意書、地権者の開発同意書、生産森林組合、水利組合、漁業組合、抵当権者及び採掘権者の開発同意書、開発区域に境界を接する隣接者全員の境界等同意書であり、同条③における国土利用計画法に基づく届出書類とは、同法に基づく申請のための一件書類であり、国有財産用途廃止のための官民境界の全ての同意書を含み、同条④における土地所有者の土地売渡承諾書とは、全ての土地所有者との間で売買代金について坪当たり単価又は総額が合意されている書面である。

(二) 本件事業の開発区域を開発規制条例の開発規制地域から除外することは必要なことではあるが、本件事業は開発規制地域から除外された地域を開発するものであって、本件契約の締結に当たっては本件事業の開発区域が開発規制地域から除外されていることを前提としており、本件事業の開発区域の開発規制地域からの除外は本件契約における原告の業務ではない。

(三) 富山県内におけるゴルフ場開発の概要は、①開発行為の事前審査の前段階における、事前審査受付のための諸条件を満たすための相談、②事前審査の受付、③個別法への適合性、関係各機関の同意(例えば、公共施設管理者の同意)、利害関係人その他の利害関係団体の同意等についての確認、協議、④開発行為の本申請、⑤開発に必要な諸条件が整えば、国又は県の各種の許認可、⑥開発の着工となる。

3  原告が本件契約に基づいて成就させた業務の内容

(原告の主張)

(一) 開発区域内の地権者等からの同意書の取得業務について

(1) 原告は、本件契約締結後、文珠寺地区の役員らの助力も得つつ地権者らと誠意を持って交渉を行った結果、平成二年一二月二五日までに地権者の九〇パーセント以上の同意を得るに至り、その旨文書で原告に報告した。

(2) 右(1)の時点で同意書の取得に至らなかった地権者は県外在住の者が大半であったが、これは文珠寺地区の役員らの全面的協力によって同意の取得が可能なものであり、また既に内諾を得ていた。

(3) 以上のとおり、平成二年中には、原告の主要な業務の一つである地権者からの同意書の取得はほぼ完了しており、協定書の第5条②1のただし書で定められている利害関係人及び諸団体の同意の九〇パーセント以上の取得という条件を満たしていたことは明らかである。

(二) 原告らの地元行政に対する働きかけとこれに対する地元行政の対応について

(1) 原告は、文珠寺地区の役員らとの間で本件事業の開発区域の一部を開発規制条例による開発規制地域から除外してもらうための善後策を協議した結果、文珠寺地区の住民の同意を取り付けた上、これに基づき町議会に対して請願書を提出して働きかけを行うことを決め、まず文珠寺地区の常会を開催してもらい、本件事業の開発主体が被告に決まったこと及び本件事業の計画の概要とこれに対する町議会の審議状況等を説明したところ、文珠寺地区の住民のほぼ全員の賛同が得られたので、文珠寺地区総代の平成二年八月二九日付け町議会長宛の「開発規制条例の指定地域一部除外に関する請願書」が提出されるに至った。

(2) 町及び町議会は、平成二年九月三日、右請願を受理し、同年九月議会には被告の当時の高田義雄常務取締役ゴルフ事業部長(以下「高田」という。)も出席し、本件事業に関する詳細な説明を行い、町議会の了承を得るべく尽力した。

(3) 右のとおり、原告らと文珠寺地区の役員及び住民らが総力を結集して町及び町議会に働き掛けた結果、平成二年一二月六日開催の町議会総務委員会において、請願採択の議決がなされるに至った。

(4) 右議決を受けて、平成三年一月ころ、町長が文珠寺地区を訪れて本件事業の推進を強く表明するとともに、文珠寺地区には「地権者の会」が設置され、同年三月二〇日の町議会本会議において、文珠寺地区の住民の請願どおり、開発規制条例の一部改正案が可決承認された。

(5) 右のとおり、請願が受理され、町議会で慎重審議が尽くされ、開発規制条例の一部改正案が可決承認された時点では本件事業の事業主体は被告と内定していたのであって、本件事業の事業主体は被告であることを前提として、本件事業の遂行のために障害となる開発規制条例の一部改正案が町議会において可決承認されたのであり、これは町及び町議会が被告による本件事業の推進を全面的に受け入れた上でこれを承認したものにほかならない。

(6) なお、町及び町議会は、この時点において、県に対しても文珠寺地区が学園都市建設計画と本件事業の二股をかけているのではなく、町として本件事業に一本化したことを正式に表明したことになる。

(7) 以上のとおり、町及び町議会が開発規制条例の一部改正まで行って本件事業の推進を認めた以上、国土法や農地法その他の法規制に基づいて町がその権限を握っている開発行為の許認可の取得に必要な手続を行うことがいつでも可能な状況に至っていたことは明らかである。

(三) 原告らの県に対する働きかけとこれに対する県の対応

(1) 被告は、県知事に対し、平成二年一二月二六日付けの開発行為事前協議書を提出した。これに添付された資金計画書によると、本件事業の支出総額は一九〇億円で、そのうち自己資金は七六億円であった。

(2) これに対し、県企業局では、右のとおり町が本件事業の推進を受け入れ、開発規制条例の一部改正まで行っている事実をも踏まえ、平成三年五月ころ、本件事業の中核をなすゴルフ場の規模を約七〇ヘクタールに縮小し、二七ホールから一八ホールに計画を変更することを条件に、事実上これを承認するに至った。

(3) 以上のとおり、遅くとも平成三年五月の時点においては、被告は県との事前協議を経て開発行為の許認可の申請を行いさえすれば許認可を容易に取得できる段階に到達していたのであり、原告が協定書の第2条で定められた本件事業における開発行為の許認可の取得完了までの業務のほとんどを完了していたことは明らかである。

(被告の主張)

(一) 原告は、その行うべき業務のうち、文珠寺地区総代の開発同意書、生産森林組合の開発同意書、約九〇パーセントの地権者の開発同意書を取得したにすぎず、また、本件事業に反対する地権者もおり開発に反対する旨の書面が被告に送付されており、さらに、下流市町村、各地区水利権者及び漁業組合等の同意も得ておらず、利害関係人及び諸団体の同意を九〇パーセント以上取得していたとはいえない。

(二) 開発行為の許認可に関する権限は、基本的には全て県もしくは国が有しており、開発規制条例が改正されたことによって当然許認可が下りるということはあり得ない。

(三) 被告は県に対して事前相談において開発行為事前協議書の提出を申し出たが、県の手続の説明を受けただけで右協議書は受け付けられておらず、県は、ゴルフ場開発による水質汚染を理由として開発に反対しており、二七ホールを一八ホールに変更してゴルフ場を集水区域から除外することで本件事業を承諾したこともなかったのであって、本件事業に関する手続は県が本件事業に反対して以降、事前相談の受付前の段階で止まったままであった。

(四) 地元住民、地権者、地元行政に最良の形態をもって対応することは、これを基盤となる業務と称するかは別として、本件事業を成功させるために必要であることは当然であるが、右業務を完了すれば以後の手続は物理的な手続と作業に基づき進捗するものであるというものではない。

4  本件事業が中止となった原因

(原告の主張)

(一) 被告は、平成三年五月ころ、県との本件事業についての事前協議の過程において、本件事業のうちのゴルフ場開発について二七ホールから一八ホールに計画を変更するよう勧告を受けたが、そのころ、日本経済新聞紙上で被告が「マンション分譲やゴルフ場開発など急速な事業拡大に伴い借入金が五七〇〇億円近くに膨らみ資金繰りが悪化している。」と報じられたのを皮切りに、同年九月にも同紙において「六〇〇〇億円の借入金を抱え経営が悪化している朝日住建は、二〇〇〇億円の保有不動産売却などを柱に、九二年末までに借入金を現在の半分の三〇〇〇億円に圧縮する再建計画をまとめた。」、「また、来年四月まで新規の土地取得を見送る。」とも報じられた。

(二) そのころから、原告らを始め町及び文珠寺地区の関係者は被告による本件事業が最後まで貫徹できるのかについて強い懸念を抱くようになったが、右のような状況の中でも、被告は原告ら及び町、文珠寺地区の関係者に対して一八ホールのゴルフ場に変更されても本件事業を推進する旨表明し続けたばかりか、被告の代表取締役が大山町長(以下「町長」という。)及び町議会議長にあてた平成三年一〇月三日付けの書面で「現在の金融情勢は一過性のものであり、弊社ゴルフ事業部におきましては何ら変更なく事業推進してまいる次第であります。今後も弊社と致しましては、事業実現に向け鋭意努力してまいる次第でありますので、より一層のご支援、ご協力をお願い申しあげます。」などと通知して、対外的には本件事業を従前と変わりなく推進するという強い意向を表明していた。

そればかりか、被告は、平成四年一月、町議会に対して、一八ホールでのゴルフ場開発計画の資料を添えて、一八ホールによるゴルフ場として本件事業を推進することを明らかにした。

(三) しかし、被告は、その後本件事業への熱意を全く示さず、平成四年五月一二日付けの文珠寺地区の総代の「開発促進要望」に対してもこれを黙殺して一切応答しなかったばかりか、このころから、原告らを始め文珠寺地区の関係者との接触も一切断ち切る態度を取り続けたが、このことからも明らかなとおり、被告は既にこれより以前の段階において本件事業から撤退する旨の社内方針を確定していた。

(四) 被告は、平成三年一一月一日、大山中央農業共同組合上滝支所に預けていた二億円及び北陸銀行上滝支店に預けていた一億円を原告ら及び町、文珠寺地区の関係者に何ら事前の通告もせずに解約してその払い戻しを受けた。

被告は、支店登記していた全国四四支店のうち、同月に千葉支店を廃止したのを皮切りに各地の支店を順次廃止し、現在までに三五支店を廃止し、平成三年度末の被告の従業員数は約二〇〇〇名であったが、平成四年度末には約一一五〇名、平成五年度末には約九〇〇名となり、平成七年六月の時点では約五〇〇名にまで激減した。

したがって、遅くとも平成三年一一月までの時点で被告が本件事業を継続することはおよそ財政的に不可能であった。

(五) 以上のとおり、本件事業の中止は、被告がバブル経済に乗じて無謀かつ投機的な事業拡大を図った結果、バブル経済の崩壊によりその経営が破綻し、ひいては本件事業の資金調達が不可能になったという、専ら被告の責めに帰すべき事由によってもたらされたことは明らかであり、本件契約は遅くとも協定書の第4条に定められている原告の業務完了時期(平成五年八月三一日)に至るまでに、被告の責めに帰すべき事由により履行不能となった。

(被告の主張)

(一) 本件事業にあっては、事前申請の準備段階において、県企業局及び富山県熊野川水道用水供給事業連絡協議会等がゴルフ場開発による水質汚染のおそれを理由として開発に反対するという問題(以下「水問題」という。)が発生し、被告は県企業局と再三の交渉を行ったにもかかわらず、県企業局より開発の撤回要望がなされ、県企業局は、平成三年五月二一日以降、被告との協議、面談を拒否するようになり、被告は、それ以降、町を通じて原告と共に交渉し、水問題の解決策としてパイプラインの設置、バイパス水路の設置及び無農薬宣言等を提示したが、県企業局は被告による開発を拒否していたのであって、事前協議の受付さえされない状況であった。

県との交渉、相談において、二七ホールを一八ホールに計画を変更するよう勧告を受けたことはなく、むしろ、水問題でホール数の如何にかかわらず開発中止の要請勧告を受けた。

本件事業は二七ホールを前提として始めて採算性のある事業であり、一八ホールでは事業自体が成立しないため、一八ホールによる開発は考えていなかった。

そして、平成三年九月二六日には、県より県内の各市町村への内部通知として、ゴルフ場に係る総合指針の策定まで事前協議は行わない旨の通知がなされるに至った。

したがって、原告が主張するように原告の行為があれば全ての諸条件を満たし、開発行為の許認可が取得でき、着工できる状態にあったとは到底いえない。

(二) 横山及び関谷らは、平成二年秋ころ、本件事業の開発区域を開発規制条例の開発規制地域から除外するために贈収賄事件を起こした。

(三) 被告の代表取締役の町長及び町議会議長あての平成三年一〇月三日付けの書面は二七ホールでの事業推進が前提となっているし、平成四年一月に被告は資料を正式に提出したことはなく、また、右資料に基づいてはゴルフ場開発は実際上困難である。

このように、被告は原告ら及び町、文珠寺地区の関係者に対して採算性のある二七ホールでの意思表明はしてきたが、一八ホールに変更されても本件事業の推進する旨表明したことはない。

(四) 本件事業の遂行が困難な状態にあった旨は、平成三年一〇月ころ、高田から原告らに対して通知し、同年一一月九日にも同様の通知をした。

(五) 本件事業が継続できなかったのは、被告の財政的な問題によるのではなく、県の指導によるものである。

被告は現に平成三年には白浜コース、平成五年には広島コース、平成八年には三木・市川コースにおいてそれぞれゴルフ場開発を行っており、事業としての採算性と開発可能性とを前提に事業を推進してきた。

(六) 以上のとおり、本件事業は、水問題によって二七ホールでの開発ができなくなったこと、及び原告らによる贈収賄事件等の理由によってその遂行が困難となったものであり、被告に帰責事由はない。

5  原告の業務報酬金請求権の発生

(原告の主張)

(一) 原告は、前記3のとおり、協定書において定められた業務を誠実に履行し、協定書の第2条で定められた業務のうちの被告がその意思に基づいて自ら協力しない限り成就しないものを除いた業務を本件契約の趣旨に基づきほぼ完全に成し遂げた。

したがって、原告は、被告に対し、協定書の第5条及び民法六四八条三項に基づき、少なくとも協定書の第5条②1に規定する四億円の業務報酬金請求権を有する。

(二) 仮に本件契約が請負契約の性質を有するとしても、本件契約は注文者である被告の責めに帰すべき事由によって仕事の完成前に履行不能となったのであるから、被告は、原告に対し、民法五三六条二項に基づき約定されていた報酬の全額である三三億円を支払う義務を負い、原告は残債務を免れたことによる利益である買収費もしくは補償費である協定書の第5条②2で定められた二四億円を償還することになる。

したがって、原告は、被告に対し、九億円の業務報酬金請求権を有しており、本訴請求はその一部請求である。

(三) よって、原告は、被告に対し、主位的に委任契約に基づき、予備的に請負契約に基づき業務報酬金四億円から、原告が被告より受領した一億円の前渡金を控除した残金三億円と、被告が履行不能に陥った日の翌日である平成五年九月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の主張)

争う。

四  証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(本件契約の法的性質)について

1  委任契約はそれが法律行為であるか否かを問わず事務を委託する契約であり、請負契約は当事者の一方がある仕事の完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を与えることを約する契約であり、共に労務の供給を内容とする契約ではあるが、委任契約は労務の供給そのものに意味があるのに対して、請負契約は労務の供給によって仕事を完成することに重点があると解される。

これを本件契約についてみると、確かに、前記第二、二、2、(四)のとおり、協定書の第3条①によると、開発行為の許認可の申請手続を始めとしてそのために必要な図書の作成、町、県との折衝等の開発行為の許認可を取得するために必要なコンサルタント業務は原告のなすべき業務から除かれ被告の業務とする旨定められており、原告のなすべき業務のみでは開発行為の許認可を取得することはできないことからすると、本件契約が本件事業に関する開発行為の許認可の取得という仕事の完成を約する請負契約であると解することはできない。

しかしながら、前記第二、二、2、(四)のとおり、協定書の第1条によると原告は開発区域の各所有者と被告との売買契約を締結せしめること及び利害関係人、諸団体の同意を取得することを約しており、原告の本件契約に基づく右債務は単に売買契約の締結や開発行為に対する同意の取得に向けての業務を行うことではなく、売買契約の締結や開発行為に対する同意の取得自体がその内容になっていると解されること、さらに、協定書の第2条、第3条①によると本件契約において原告のなすべき業務はコンサルタント業務を除く開発行為の許認可の取得を完了するまでの業務であるとされており、協定書の第4条によると原告は平成五年八月三一日までに右業務を完結しなければならないとされていることからすると、本件契約においては、被告が本件事業に関する開発行為の許認可を取得することが目標とされ、コンサルタント業務を除く右目標を達成するために必要な一切の業務という仕事の完成が原告の債務とされているものということができる。

2  さらに、請負契約においては報酬は仕事の完成に対する対価であり、仕事が完成しない限り報酬の支払いを請求することはできないと解されているのに対し、委任契約においては特約がある場合には報酬は労務の提供自体に対する対価であり、労務に服しさえすればその成果の如何にかかわらず報酬の支払いを請求することができる。

これを本件契約についてみると、前記第二、二、2、(四)のとおり、協定書の第3条①、第5条①によると、買収価格の総額を三三億円とし、その中には土地の取得代金等の一切の費用が含まれている旨定められていること、また、右買収価格の総額と土地の買収金との差額金を原告の業務報酬金とする旨定められていることからすると、右買収価格の総額は仕事の完成の対価としての性質を有しているものと解され、したがって、本件契約は報酬の面からも請負契約としての性質を有しているということができる。

3  以上からすると、本件契約は、被告が本件事業に関する開発行為の許認可を取得することを目標として、原告が被告に対してコンサルタント業務を除く右目標を達成するために必要な一切の業務という仕事の完成を約する請負契約の性質を有するということができる。

二  そして、本件契約の請負契約の性質を有するものであると解すると、民法五三六条二項により、原告、被告双方の責めに帰すべからざる事由によって原告がその債務を履行することができなくなった場合は、原告は反対給付を受ける権利を有さないことになり、被告の責めに帰すべき事由によって原告がその債務を履行することができなくなった場合は、原告は被告に償還することが必要な利益を控除した反対給付を受ける権利を有することになる。

ところで、前記第二、二、2、(四)のとおり、協定書の第7条においては、開発区域内の土地買収、借地ができないとき及び開発行為の許認可が取得できないときは、本件契約は解消され、被告から原告に支払われた金員については原告が被告に全額を無利息で直ちに返還する旨定められているが、第9条において本件契約が被告、原告のいずれの責めに帰すべき事由によらずに解消された場合には互いに損害賠償の請求はしないとされていることからすると、第7条は、被告の責めに帰すべき事由によって原告がその債務を履行することができなくなった場合にまでは適用されないものと解するべきである。

三  争点4(本件事業が中止となった原因)について

1  水問題の発生から本件事業の中止に至るまでの経緯については、関谷及び本件当時原告の副社長であった松田喜代司(以下「松田」という。)の陳述書及び証言、本件当時町議会議員であった山下弘(以下「山下」という。)の陳述書並びに関係証拠によると、次のとおりの事実が認められる。

(一) 平成三年四月初旬、県企業局から被告に対して、ゴルフ場で使用される農薬等による水道水源の汚染のおそれがあるなどとして本件事業の変更を勧告する旨の意向が表明された。

(二) さらに、同月二二日、富山県公営企業管理者や周辺町村長らで構成される富山県熊野川水道用水供給事業連絡協議会が被告及び町議会に対して右(一)と同様の理由から本件事業の撤回を申し入れ、同年五月七日、被告に対して同様の申し入れをした

(乙八の一、九、一〇、一二の二)。

(三) 原告らは直ちに被告及びコンサルタント会社と共に水問題の解決に向けて県企業局との折衝を開始し、町や町議会も県企業局との同様の折衝を開始した。

(四) そして、県企業局との折衝の中で、開発区域の中から集水区域の八〇ヘクタールを除外すれば問題はないという県企業局の意向が表明された(甲三五、三六)。

(五) 県企業局の右意向表明を受けて、当初計画の二七ホールから一八ホールへ縮小する旨の検討が行われ、同年九月二七日、同年一一月二二日、平成四年一月一七日、同月一八日、同年二月八日、同月一二日にそれぞれ被告会社の担当者により一八ホールのゴルフ場として開発する旨の計画書等が作成され(甲一八の一ないし五、二八、二九、乙二七の二、二八)、右計画書等は原告らや町、文珠寺地区の関係者に示された。

(六) 原告らは、被告の右(五)の計画書等の提示を受けて、文珠寺地区の関係者に計画の変更について報告し、詳細な説明を行って了解を求めた結果、一部に反論もあったものの文珠寺地区の総意としての承認を得ることができ、同年五月一二日付けの文珠寺地区総代の被告宛の「ゴルフ場を中核としたリゾート開発の促進についての要望」と題する書面が提出された(甲一九)。

(七) 同年五月一二日、文珠寺地区の総代が被告に対して「ゴルフ場を中核としたリゾート開発の促進についての要望」と題する書面により本件事業の促進を要望したが(甲一九)、被告は何らの応答もしなかった。

(八) 被告は、原告に対し、同年七月一六日到達の内容証明郵便により、水問題により二七ホールでのゴルフ場開発が不可能な状況になったこと、一八ホールでのゴルフ場開発は採算性がなく事業化は不可能であること、右(七)の贈収賄事件により被告の名誉が傷つけられたことから、本件事業は不可能になったとして本件契約を解消するとの通知をした(乙二〇の一、二)。

2  被告の経営状態等については、関谷及び松田の陳述書及び証言、山下の陳述書並びに関係証拠によると、次のとおりの事実が認められる。

(一) 被告は、平成三年五月一五日付けの日本経済新聞において、五七〇〇億円もの負債を抱えて資金繰りが悪化している旨の報道をされ、同年九月一三日付けの日本経済新聞においても被告の経営悪化の実態が報道された(甲一五の一、二)。

(二) このころから被告の本件事業に対する取り組みが消極的になり、同月一〇日の町議会においては被告の担当者が町長より「被告はゴルフ場開発事業に対する企業努力が足りないのではないか」との指摘を受けた。

(三) 被告は、同年一〇月三日、町及び町議会に対して、本件事業を変更することなく遂行する旨の意向を表明した(甲一六、一七)。

(四) 同年一一月初旬、被告は原告らや文珠寺地区の関係者に何らの通知等もしないまま、大山中央農業共同組合上滝支所及び北陸銀行上滝支店に預けていた預金合計三億円を解約した。

(五) 同年一一月九日、原告らは文珠寺地区の総代や山下らと共に被告の本社を訪れ、被告の真意を糺した(甲三五、三六)。

(六) 平成四年三月の町議会において、町長は「開発業者のバブル崩壊による影響が懸念される。」などの答弁をした(甲三四)。

(七) 同年五月一二日、文珠寺地区の総代が被告に対して「ゴルフ場を中核としたリゾート開発の促進についての要望」と題する書面により本件事業の促進を要望したが(甲一九)、被告は何らの応答もしなかった。

(八) 被告の業績は、平成三年一二月期から平成六年一二月期まで赤字であり、従業員は、平成三年度末には二〇〇〇名であったのが、平成四年度末には一一五〇名に、平成五年度末には九〇〇名に、平成七年六月ころには五〇〇名になり、平成四年度には五七支店のうち五〇店舗を売却した(甲二一)。

3  これに対し、当時被告のゴルフ事業部次長であった河野正博(以下「河野」という。)は、水問題により二七ホールでのゴルフ場開発の可能性はなくなり、一八ホールでのゴルフ場開発では採算性が問題となることから、平成三年九月末ないし一〇月初旬ころ、横山に対し事業の撤退を通知した、その際、横山は一八ホールでも開発推進を希望する業者もあるので、事業主体の切り替えをする間、しばらく地元に対して撤回宣言をしないよう要請した、甲一六、一七はそのような過程で提出した書面である、同年一一月九日にも一八ホールでは事業性が問題になるとして原告側に本件事業の中止を告げた、当時被告のゴルフ事業部員で本件事業の担当者であった赤﨑文則(以下「赤﨑」という。)が一八ホールを前提とする計画書等を作成しているが、右計画書等は、県企業局が除外勧告した区域にゴルフ場のコースの一部等が属しているので企業局の同意を得られるものではないし、森林法にも適応しておらず、赤﨑が原告らのために被告と関係なく作成したものであるなどと陳述ないし証言し、当時被告のゴルフ事業部課長であった溝口耕太郎(以下「溝口」という。)もこれに沿う陳述ないし証言をする。

しかしながら、横山から地元に対して撤回宣言をしないようにとの要請があったにもかかわらず、被告はその直後に地元金融機関に預けた預金を解約していること、右計画書等は本件当時本件事業の計画書等として確定したものではなく検討段階のものであったと認められることからすると、県企業局が除外勧告した区域にゴルフ場のコースの一部等が属していたり、森林法に適応していなかったとしても検討段階の計画書等としては問題はないこと(そもそも、乙三五によると、県企業局が除外勧告した区域に属しているのはクラブハウス等であって、ゴルフ場のコースの一部が属しているものとは認められない。)、右計画書等の作成者や様式、内容等からすると右計画書等は被告の意向と無関係に赤﨑が独自に作成したものと認めることはできず、したがって、河野及び溝口の陳述書及び証言を信用することはできない。

4  これに対して、赤﨑は、平成三年一一月、高田から「文珠寺は中止、撤退する。」と告げられ、あわせて「町当局や地権者等地元関係者には、すぐやめると言わずに段々と離れていくようにしよう。」と言われた旨陳述するが(甲三七、三九)、この陳述は右1、2において認定した事実経過によく合致している。

5  以上によれば、本件事業が途中で中止となった理由について、被告はゴルフ場開発計画が二七ホールから一八ホールに縮小されたこと、原告らが贈収賄事件を引き起こしたことを挙げるが、前記認定によればその実態は主として被告が会社経営の悪化に伴って事業資金を調達することができなくなったためと認めるのが相当である。

したがって、本件事業は専ら被告の責めに帰すべき事由によって原告が本件契約における原告の債務を履行することができなくなったものということができる。

四1 以上によれば、本件は請負契約における注文者である被告の責に帰すべき事由によりその履行が不能となった場合であり、危険負担の問題となる。この場合、請負人である原告は被告に償還することが必要な利益を控除した反対給付を受ける権利を有する。

2  そこで、被告に償還することが必要な利益を控除した原告が受けるべき反対給付の金額について検討する。

3  甲三一、証人関谷の証言によると、関谷は本件事業による原告の報酬を九億円と見込んでいたこと、甲二三によれば被告は本件契約における原告の報酬を一〇億円と見込んでいたこと、前記第二、二、2、(四)のとおり、協定書の第5条②によると、所有権移転登記時に被告から原告に買収代金の一部として二四億円が支払われることとなっており、買収価格の総額三三億円に土地の買収金等の費用及び純然たる報酬の両者が含まれていることからすると右の二四億円にも土地の買収金等の費用及び純然たる報酬の両者が含まれていると解されるものの、実質的には所有権移転登記時に支払われる買収代金は土地の買収金に相応するものであり、かつ、買収金等の費用のうち土地の買収金が大半を占めるものと考えられることからすると、右の三三億円から右の二四億円を差し引いた残りの九億円は原告の純然たる報酬に相応するものと考えることができる。

以上からすると、本件契約における原告の報酬は九億円を下らないものと推認することができる。

五  結論

以上によれば、その余の争点について検討するまでもなく、原告の委任契約に基づく主位的請求は理由がないから棄却し、原告の請負契約に基づく予備的請求については、原告は被告に対し民法五三六条二項に基づいて九億円の支払いを請求できるところ、原告の三億円の請求はその一部請求と認められ、また、被告が履行不能に陥った日と認められる平成五年九月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって、原告の請求は右の限度で理由があるからこれを認容する。

(裁判官堀内満 裁判官村上泰彦 裁判長裁判官大濵惠弘は差し支えのため署名押印することができない。裁判官堀内満)

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