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富山地方裁判所 平成9年(行ウ)6号 判決 2000年11月15日

富山市<以下省略>

原告

X1

富山県中新川郡<以下省略>

原告

X2

富山市<以下省略>

原告

X3

富山市<以下省略>

原告

X4

右原告4名訴訟代理人弁護士

山本直俊

金川治人

青島明生

水谷敏彦

富山県下新川郡<以下省略>

被告

石川建設株式会社

右代表者代表取締役

富山県黒部市<以下省略>

被告

共和土木株式会社

右代表者代表取締役

富山県黒部市<以下省略>

被告

桜井建設株式会社

右代表者代表取締役

右被告3名訴訟代理人弁護士

大坪健

富山県下新川郡<以下省略>

被告

株式会社杉沢組

右代表者代表取締役

富山県下新川郡<以下省略>

被告a建設こと亡Y1訴訟承継人

Y2

右同所

被告a建設こと亡Y1訴訟承継人

Y3

右被告3名訴訟代理人弁護士

浦崎威

島谷武志

富山県下新川郡<以下省略>

被告b組こと

Y4

富山県下新川郡<以下省略>

被告

寺林建設株式会社

右代表者代表取締役

右被告両名訴訟代理人弁護士

山本賢治

富山県下新川郡<以下省略>

被告

株式会社飯作組

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

志鷹啓一

右訴訟復代理人弁護士

佐伯康博

富山県下新川郡<以下省略>

被告

廣川建設工業株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

林晃司

富山県黒部市<以下省略>

被告

若栗土建工業株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

佐伯康博

主文

一  本件訴えのうち、富山県に代位して、第1ないし第3、第5、第6工区の入札について行われた共同不法行為に基づく損害賠償請求を求める訴えを却下する。

二  被告石川建設株式会社、被告共和土木株式会社、被告桜井建設株式会社、被告株式会社杉沢組、被告寺林建設株式会社、被告株式会社飯作組及び被告廣川建設工業株式会社は、富山県に対し、連帯して金494万円及びこれに対する平成9年9月21日(ただし、被告石川建設株式会社、被告桜井建設株式会社につき同月23日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

三  被告Y4は、富山県に対し、被告Y2(後記四項)及び被告Y3(後記五項)と連帯して、金335万円及びこれに対する平成9年9月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

四  被告Y2は、富山県に対し、被告Y4(前記三項)と連帯して金167万5000円及びこれに対する平成9年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

五  被告Y3は、富山県に対し、被告Y4(前記三項)と連帯して金167万5000円及びこれに対する平成9年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

六  原告らのその余の請求を棄却する。

七  訴訟費用は、これを6分し、その5を原告らの負担とし、その余は被告石川建設株式会社、被告共和土木株式会社、被告桜井建設株式会社、被告株式会社杉沢組、被告Y2、被告Y3、被告Y4、被告寺林建設株式会社、被告株式会社飯作組及び被告廣川建設工業株式会社の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、富山県に対し、連帯して5520万8560円及びこれに対する平成9年9月21日(ただし、被告石川建設株式会社、同桜井建設株式会社、同Y4につき同月23日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

富山県(以下「県」という。)は、県営かんがい排水事業工事について、工区ごとに区切ってそれぞれ指名競争入札を実施し、それぞれ落札した工事請負業者との間で、落札価格に消費税を加算した金額を請負代金とする請負契約を締結し、右請負代金を支払った。

県の住民である原告らは、右各指名競争入札に参加した被告ら(ただし、被告Y2及び被告Y3は右入札に参加したのではなく、その被承継人である亡Y1が入札に参加したものである。以下同じ。)が談合をして落札価格を不当につり上げたことにより、県は、談合がなければ形成されたであろう各落札価格と請負業者に支払われた各請負代金との差額相当分の損害を被っており、これは被告らの県に対する共同不法行為によるものであるところ、県が、被告らに対し不法行為に基づく損害賠償請求権を行使すべきであるのにこれを違法に怠っているとして、地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき、県に代位して、被告らに対し、損害賠償請求をしている事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告らは、いずれも県の住民である。

(二) 被告石川建設株式会社(以下「被告石川建設」という。)、被告共和土木株式会社(以下「被告共和土木」という。)、被告桜井建設株式会社(以下「被告桜井建設」という。)、被告株式会社杉沢組(以下「被告杉沢組」という。)、a建設こと亡Y1、被告b組ことY4(以下「被告b組」という。)、被告寺林建設株式会社(以下「被告寺林建設」という。)、被告株式会社飯作組(以下「被告飯作組」という。)、被告廣川建設工業株式会社(以下「被告廣川建設」という。)及び被告若栗土建工業株式会社(以下「被告若栗土建」という。)は、いずれも土木工事請負業者であり、富山県入善建設業協会や富山県建設業協会入善支部等に加盟している。

a建設こと亡Y1(以下「a建設」という。)は、本訴訟係属中に死亡し、その相続人である被告Y2(亡Y1の妻)及び被告Y3(亡Y1の子)が、亡Y1の権利義務を各2分の1ずつ承継するとともに、本訴訟を承継した(弁論の全趣旨)。

2  指名競争入札及び工事請負契約

(一) 県は、県営かんがい排水事業入善西部地区青木下流用水路布合川工事(以下「本件公共工事」という。)の第1ないし第3、第5ないし第8工区の各工事について、次のとおり、指名競争入札を実施し、各落札業者との間で、各締結年月日に、各請負代金額で、請負契約をそれぞれ締結した(以下、これらの工事を併せて「本件各工事」といい、これらの請負契約を併せて「本件各請負契約」という。)(甲6の1、乙ロ2、弁論の全趣旨)。

(1) 第1工区

入札参加者 被告杉沢組、被告飯作組、被告廣川建設、a建設、池原建設、道又建設、飛島興産、泉建設、黒隆工業、高沢組

落札者 被告杉沢組

締結年月日 平成5年10月26日

請負代金 2945万8000円

(2) 第2工区

入札参加者 被告杉沢組、被告寺林建設、被告飯作組、被告廣川建設、真岩土建工業、中山組、前田組、道又建設、竹田建設、飛島興産

落札者 被告杉沢組

締結年月日 平成6年8月30日

請負代金 4212万7000円

(3) 第3工区

入札参加者 被告石川建設、被告b組、a建設、池原建設、ノザワ、森田建設、泉建設、上島建設工業、福沢建設、若島建設

落札者 a建設

締結年月日 平成6年8月30日

請負代金 2914万9000円

(4) 第5工区

入札参加者 被告石川建設、被告共和土木、被告桜井建設、被告杉沢組、被告b組、被告寺林建設、被告飯作組、被告廣川建設、被告若栗土建、a建設

落札者 被告杉沢組

締結年月日 平成7年9月29日

請負代金 4738万円

(5) 第6工区

入札参加者 被告石川建設、被告b組、被告寺林建設、被告飯作組、被告廣川建設、a建設、中山組、前田組、池原建設、真岩土建工業

落札者 a建設

締結年月日 平成7年11月21日

請負代金 2564万7000円

(6) 第7工区

入札参加者 被告石川建設、被告共和土木、被告桜井建設、被告杉沢組、被告寺林建設、被告飯作組、被告廣川建設、池原建設、内島組、夏野土木工業

落札者 被告杉沢組

締結年月日 平成8年9月27日

請負代金 4573万2000円

(7) 第8工区

入札参加者 被告b組、a建設、中山組、真岩土建工業、前田組、道又建設、黒隆工業、竹田建設、ノザワ、飛島興産

落札者 被告a建設

締結年月日 平成8年9月30日

請負代金 3141万5000円

(二) 右各落札業者は、それぞれ請負工事を完成し、県は、各落札業者に対し、それぞれ請負代金を支払った。

3  原告らの監査請求及び本件訴えの提起

原告らは、平成9年6月30日、県監査委員に対し、知事に、被告ら談合参加各社に対し損害賠償請求の措置を講ずべきことを勧告することを求める住民監査請求をした(甲2の1、甲6の1。以下「本件監査請求」という。)。

県監査委員は、同年8月5日、本件監査請求を却下し、そのころ、これを原告らに通知した(甲1)。

右却下の理由は、第1ないし第3、第5、第6工区に関する部分については、それぞれの工事請負契約締結時から1年以上経過しており、かつ、経過したことに正当な理由もない(法242条2項)というものであり、第7、第8工区に関する部分については、監査請求の対象及びその違法性が具体的に主張されておらず、具体的に事実と違法性を証する書面が添付されていないことを理由とするものであった。

原告らは、同年9月3日、本件訴えを提起した。

二  原告らの主張

1  被告らの県に対する共同不法行為

(一) 被告らは、本件各工事の入札において、談合を行い、本件各請負契約の代金額を不当につり上げたものであり、被告らの右談合行為は、県に対する共同不法行為(民法719条)に当たる。

(二) 損害額について

(1) 談合により発注者が被る損害は、談合がなかった場合の落札価格と現実の落札価格との差額であると解されるところ、本件各請負契約の代金額は、右各談合がなければ、自由競争により、少なくとも2割は低くなっていたはずである。

すなわち、本件で、刑事事件となった第5工区の入札については、被告杉沢組及びa建設は、仮に談合をやらずに全く自由競争で入札を行った場合、いわゆるたたき合いになった場合には、業者間で「とめ札」と呼んでいる落札価格の最下限である最低制限価格ぎりぎりで入札しようと考えており、最低制限価格については、設計価格から2割引いた金額より少し少ないと考えていた。また、被告杉沢組及びa建設は、実際の落札価格である予想予定価格を、自らの経験や勘、コンピューター及び発注者である魚津農地林務事務所の職員から感触として聞き出すなどして本来の予定価格に相当近く算出することができ、最低制限価格はそれから2割引いた金額と考えていた。そして、両名は地元で工事がしやすく経費を抑えることができる本件各工事を、最低制限価格に近い金額で落札しても利益が出るので落札しようと考えていた。したがって、談合が成立しなければ、自らが算出した予想予定価格=実際の落札価格から2割引いた金額で入札したはずであるから、自由競争がなされた場合の落札価格と談合による実際の落札価格との差額は、実際の落札価格の2割となる。

また、刑事事件とならなかった工区の入札については、本件各工事は、同一の用水についての同種の工事であり、工区によって工事内容及び工事の技術的又は施工上の難易が異なる事情はなく、工事を施工する用水の長さ以外に工事価格に影響を与える事情はないから、刑事事件となった工区の場合と同様に、自由競争がなされた場合の落札価格と談合による実際の落札価格との差額は、実際の落札価格の2割であると推認できる。

以上より、県は、本件各請負契約の代金合計額の2割相当額である5018万9600円の損害を被ったものである(ただし、第8工区の請負代金額を3145万5000円として計算したもの)。

(2) 民事訴訟法248条の適用(予備的主張)

刑事事件となった第5工区以外の工区にかかる損害額について、民事訴訟法248条が適用されるべきである。

すなわち、本件は、発覚した場合には犯罪として検挙され、かつ、指名停止等の不利益処分が加えられるにもかかわらず、営利を目的とする事業者である被告らが行った談合であるから、特段の事情がない限り、落札者には経済的利得が発生したものと解され、逆に、発注者である県に損害が発生したことは経験則上明らかである。また、損害額の具体的な数額を算出するためには、事業者によって技術力、工事の施工能力、能率、利益率等の詳細が異なるため、実際に落札して工事を請け負った事業者において適正な見積をさせ、これをもとにして算出せざるを得ないが、本件においてはこの事業者は被告とされ、算出結果に直接的な利害を有するから適正な見積を行うことを期待することは不可能であるから、損害の性質上その額を立証することが極めて困難である。

さらに、一般的に、①推定内容と事実との合致の蓋然性が高いこと、②被害救済の必要性があること及び③損害額を推定することが公平であることの各要件をみたす場合には、同条の推定を働かせるべきであると考えられるところ、①について、前記のとおり、本件各工事は全く同種の工事といえるから刑事事件とされた工区における不正の利益率はその他の工区の利益率と合致する蓋然性が高く、②については、全国で談合事件が刑事事件として多数摘発されているのに、一向に談合がなくならないのは、巨額な不正の利益が事業者に確保されるからであり、この不正の利益を保有させず、また、被害が県民の税金の損失であることから、被害救済(損害回復)の必要性が強く、さらに、③について、被告らにおいては、不正の利益がなかったことを刑事事件で主張することができたのにこれをせず、かえってこれを認めていたのであるから、損害額を推定しても公平に欠くところはない。

(3) 弁護士費用

県は、本件住民訴訟を通じて被告らから右損害の補填を受けた場合には、原告ら訴訟代理人弁護士らに対して報酬を支払う義務を負担しているところ(法242条の2第7項)、その弁護士報酬の額は、右損害額の1割である501万8960円が相当であるから、これも、賠償されるべき損害である。

(三) 以上より、県は、被告らに対し、民法719条に基づき、5520万8560円の損害賠償請求権を有している。

よって、原告らは、法242条の2第1項4号後段に基づき、県に代位して、被告らに対し、連帯して、5520万8560円及びこれに対する不法行為の日の後で本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  監査請求の適法性について(被告らの本案前の申立て<後記三>に対する反論)

(一) 監査請求の対象の特定及び「証する書面」(法242条1項)の添付について

本件監査請求で、原告らは、第7、第8工区においても談合が行われたと主張している。談合は即違法であるから、監査請求において要求される違法・不当の記載としては十分である。また、監査委員会は、財務会計の専門スタッフを擁し調査能力と権限を有するのに対し、一般に住民は地方公共団体の内部の行為や業者の行動について調査能力を有しないことを考えると、監査請求をなすに当たり住民に困難を強いることのないよう、その要件は監査委員が調査をなすに足りる程度のものであれば十分である。

また、事実を「証する書面」についても、監査請求書に添付された新聞記事には、「公判の中で検察側は『県建設業協会入善支部では、談合が繰り返し行われていた』と主張。被告・弁護側も、談合は『20年以上行われて半ば慣行化していた』と情状酌量を求める」、「杉沢組が第1、2、3、5、7工区、すでに競売入札妨害罪(不正談合)で罰金50万円の略式命令を受けている同町内のc業者が、第3、6、8工区を落札した。」との記載があり、住民監査請求補正書に添付された競売入札妨害被告事件の冒頭陳述要旨には、右同旨の記載の他、被告人が「今後発注される布合川工事についても、杉沢組とa建設で仲良く分け合って受注していきたいと考えていた」旨の記載がある。これらの記載を合理的に総合すれば、談合の事実について十分な証明力を有する。

(二) 監査請求期間(法242条2項)について

(1) 本件監査請求は、前記1の県の被告らに対する損害賠償請求権の不行使を「財産の管理を怠る事実」(法242条1項)とする監査請求であるから、監査請求期間を制限する同条2項の適用はない。その理由は次のとおりである。

法242条1項及び242条の2は、地方公共団体の長や職員の非違行為を中心にした職務違反行為を是正する権能を住民に付与したものである。したがって、この是正請求権が成立するためには、長や職員の自治体に対する違法な行為によって損害が生じているという事実が必要となる。例えば、長や職員が欺罔されて自治体に損害が生じたような場合には(長や職員に、騙されたことにつき落ち度がなければ職務違反行為ではない。)、自治体にその欺罔者に対する損害賠償請求権が発生しても、詐欺行為によって損害が発生しただけでは、直ちには、住民の是正請求権は発生しない。このような場合は、長や職員がその損害の発生を知って、なお適正な管理をなさず、その損害を放置したとき、すなわち、「怠る事実」といわれる状態が生じたときにはじめて、住民の是正請求権が生じるのである。

そして、法242条1項の違法な財務会計行為の「違法」は、長や職員の自治体に対する義務違反、すなわち「内部関係における違法」であり、これは、自治体と請負業者との間の請負契約が不法行為として違法性を有するという「外部関係における違法」とは異なる。

本件において、原告らは、被告らの談合行為から、県の被告杉沢組ないしa建設への請負代金の支払までの全体を、不法行為として構成しており、その意味では、「違法」の主張をしている。しかし、県と被告杉沢組、a建設との間で締結された本件各請負契約に対する評価と、「違法な財務会計行為」という場合の「違法」の評価とは、場面・性質を異にし、同一のものではない。なお、原告らは、被告らの談合による入札後の本件各請負契約の締結は、損害発生の因果の流れにすぎず、それ自体は不法行為ではないと主張するものである。

本件では、県の本件各請負契約の締結及び請負代金の支払が財務会計行為であるとしても、長や職員に、県に対する義務違反はないのであるから、それらは法242条1項にいう「違法」な「当該行為」には当たらない。本件監査請求は、「当該行為」についての監査請求ではなく、「怠る事実」についての監査請求であるから、「当該行為」についての監査請求期間を定めた同条2項の適用はない。

また、被告らは、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体上の請求権の不行使を怠る事実とする監査請求については、当該行為の日又は終わった日を基準として法242条2項の適用がある旨主張するが、本件各請負契約の相手方となっていない被告らについては、「当該行為」が観念できないのであるから、当該行為に基づく実体上の請求権も成り立ち得ない。したがって、本件各請負契約の相手方となっていない被告らとの関係では、監査請求の対象は「真正怠る事実」であると解さざるを得ない。

(2) また、仮に、法242条2項が適用されるとしても、原告らを含む富山県民は、第5工区にかかる被告杉沢組の当時の代表者に対する競売入札妨害被告事件の判決確定後、刑事確定記録の閲覧をすることによって初めて、被告杉沢組及びa建設以外の被告らを特定できる程度に知ることができたのであり、本件監査請求は、右判決確定後1か月以内になされているから、監査請求期間徒過について「正当な理由」(同項ただし書)がある。

三  被告らの本案前の申立て

1  本件監査請求の不適法

(一) 監査請求の対象の不特定及び「証する書面」の不添付について

(1) 被告b組及び被告寺林建設の主張

本件監査請求のうち、第5工区に関する部分以外は、請求の対象となる財務会計上の行為が具体的に摘示されていないから、適法な監査請求を経ているとはいえず、したがって、右に係る本件訴えは却下されるべきである。

すなわち、住民監査請求においては、対象とする当該行為等を監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく、当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的具体的に摘示することを要し、また当該行為等の性質目的等に照らし、これらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるように個別的具体的に摘示することを要するものである(最判平成2年6月5日民集44巻4号719頁参照)。

しかるに、本件監査請求では、第1ないし第3、第6ないし第8工区に関する部分については単に「上記かんがい排水事業入善西部地区青木下流用水路布合川工事のうち、第4区を除く第1から第8の工区工事については上記各社により談合が行われ、これにより、上記各社は前記3(注、第5工区における談合)と同様の関係で県に対し、少なくとも工事金額の2割に相当する損害を与えている」と摘示するだけであり、何ら個別的具体的に摘示されておらず、また、添付された事実を証する書面を総合しても同様に個別的具体的な摘示がなされておらず、適法な監査手続を経由していないことは明らかである。

また、住民監査請求には、監査請求の対象となる行為を「証する書面」を添付しなければならないところ、本件監査請求では、監査を求める行為等に該当すべき事実を具体的に指摘した書面は何ら添付されておらず、適法な監査請求を経由していないものである。

(2) 被告若栗土建の主張

被告b組及び被告寺林建設の主張(前記(1))と同旨。

(3) 被告飯作組の主張

本件監査請求のうち第7、第8工区にかかる部分につき、被告b組乃び被告寺林建設の主張(前記(1))と同旨。

(二) 監査請求期間の徒過

(1) 本件訴えのうち、第1ないし第3、第5、第6工区に関する部分は、その前提となる監査請求が法242条2項の監査請求期間を徒過しており、適法な監査請求とはいえないから、右に係る訴えは却下されなければならない。

普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求については、右財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として法242条2項の規定を適用すべきである(最判昭和62年2月20日民集41巻1号122頁参照)。

本件監査請求は、談合の結果締結された本件各請負契約が違法であることに基づき発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものであり、このような監査請求については、右のとおり、法242条2項により、違法な財務会計行為である本件各請負契約締結時から1年以内に監査請求をしなければならないにもかかわらず、第1ないし第3、第5、第6工区に関する監査請求は、各請負契約の締結から1年以上経過してなされたものである。

(2) また、本件では、法242条2項ただし書にいう「正当な理由」も認められない。

右「正当な理由」の有無は、住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである。

本件では、平成9年1月8日の北日本新聞の朝刊で、第5工区の工事について業者間で談合をした疑いがあり、県警と魚津署が任意で事情聴取をしたとの報道がなされ、さらに、同年3月7日の新聞報道によると、同月6日に、第5工区についての刑事被告事件の初公判が開かれ、検察側が恒常的に談合を繰り返していたと主張し、被告人が罪状認否で起訴事実を全面的に認めたこと、a建設及び県魚津農地林務事務所耕地課長が競売入札妨害罪で罰金50万円の略式命令を受けていること、他工区の談合も指摘されたことなど詳細な報道がなされている。

右事実によれば、原告らは、相当の注意をもって調査すれば、遅くとも平成9年3月7日の時点では、談合に基づき本件各請負契約が締結されたことを知ることができたというべきであり、右時点から3か月以上経過した同年6月30日になされた本件監査請求(第1ないし第3、第5、第6工区に関する部分)は、監査請求期間徒過について「正当な理由」は認められない。

2  被告適格を欠く者に対する訴え(被告飯作組)

本件は、違法な請負契約の締結という「当該行為」が存する場合であり、この場合、法242条の2第1項4号の「相手方」とは、「当該行為」の相手方、すなわち、請負契約の相手方をいうと解すべきである。

被告飯作組は、本件各請負契約の相手方ではなく、同法242条の2第1項4号の「相手方」に該当しないから、本件訴えにつき被告適格を有しない。

したがって、被告飯作組に対する訴えは却下されるべきである。

四  被告らの本案についての主張(損害額について)

1  被告飯作組

落札価格が予定価格と最低制限価格の範囲内である限り、公共事業の発注者には損害が発生する余地がないと解すべきである。

原告らは、談合がなかったならば最低制限価格で落札されるであろうとの前提に立っているものと考えられるが、談合がなかった場合に最低制限価格で落札されるかどうかは不明である。

本件において、損害の発生及び金額を主張立証するには、当該請負工事の具体的かつ詳細な設計内容、県が設計価格を積算した具体的かつ詳細な内容、及び当該請負工事を施工するための(業者の適正な利益も含めた)客観的に妥当で正確な工事請負代金額が主張立証されなければならない。

2  被告石川建設、被告共和土木、被告桜井建設、被告杉沢組、被告Y2、被告Y3、被告b組、被告寺林建設、被告廣川建設及び被告若栗土建

談合がなければ最低制限価格で落札されたとする原告らの主張は失当である。

入札に参加する業者は、予定価格の上限で落札できると判断すれば上限で入札するし、上限とはいえないまでも、上限から下限の範囲内において、できるだけ利益を確保する価格で入札することになるのである。しかも、平成7年当時は、最低制限価格を下回ると失格になってしまったのだから、最低制限価格を予想してぎりぎりに入札するのはリスクも大きく、常に予想した最低制限価格で入札することは現実的ではなく、実際にもあり得ないことである。

五  争点

1  原告らの監査請求が適法であるか否か

(一) 監査請求の対象の特定の有無、「証する書面」添付の有無

(二) 第1ないし第3、第5、第6工区に関する監査請求の監査請求期間遵守の有無(法242条2項適用の有無、同項ただし書の「正当な理由」の有無)

2  被告適格の有無

3  被告らの県に対する共同不法行為の成否及び損害額

第三争点に対する判断

一  監査請求の対象の特定の有無及び「証する書面」添付の有無について(争点1(一))

1  監査請求は、個々の住民が、財務会計上の行為又は怠る事実(以下、併せて「財務会計上の行為等」という。)の違法又は不当を指摘して、自治体が自主的にその是正措置をとるべきことを要求する制度であり、適切な是正措置がとられなかった場合に提起することのできる住民訴訟(法242条の2)の前提となるものであるから、監査請求をなすに当たっては、監査の対象となる財務会計上の行為等を、他の事項と区別して、特定して認識できる程度に具体的に摘示することを要すると解すべきである。右の特定をどの程度要求するかは、個々の事案に照らして判断せざるを得ないが、一般に、特定の程度をあまりに厳格に要求すると、監査請求の趣旨を没却することになり妥当でない。そして、自治体の財務会計上の行為等についての情報・資料は、住民よりも自治体において豊富に有していることに照らせば、監査請求の内容をもとに、監査委員において調査すれば、問題とされる財務会計上の行為等を容易に特定・具体化できるような場合には、これを適法な監査請求として扱うべきと解するのが相当である(ただし、監査及び勧告は、監査請求があった日から60日以内に行わなければならないと定められており<法242条4項>、監査に迅速性が要求されていることからすれば、対象の特定のための調査は、極めて容易なものに限られるべきである。)。

2  これを本件について検討するに、本件監査請求は、第5工区の入札については、入札参加者全員の業者名を挙げて、右参加者らが被告杉沢組に落札させるよう談合したこと、右談合につき被告杉沢組の代表者とその余の談合参加者の一部が競売入札妨害罪で有罪となっていること及び談合により県が請負代金の2割に相当する損害を被っていること等を指摘し、入善建設業協会においては20年以上前から談合が行われてきたことも指摘し、その他の工区についても第5工区と同様の談合が行われたことを指摘し、更に、第1ないし第8工区の契約年月日、契約金額及び契約の相手方を特定している(甲2の1、甲6の1)。そして、事実を「証する書面」として、第5工区に係る刑事事件について報道した新聞記事3通、右刑事事件の冒頭陳述要旨及び談合がなされると一般に2割高額に落札される旨指摘した新聞の社説を提出している(甲2の2の1ないし3、甲3、6の2)。

本件監査請求は、談合参加者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠っている事実を監査対象とするものであり、行使を怠っているとされる損害賠償請求権が、他の債権と区別できる程度に特定されていることが必要であると解される。この点、監査請求の内容(添付資料を含む。)からは、第5工区以外の工区に関する談合については、不法行為に基づく損害賠償債務を負う者、すなわち、不法行為者が明らかではない。しかしながら、談合がなされたとする入札は特定されているのであるから、監査委員において、当該入札に参加した業者を調査して特定することは極めて容易であり、また、本件監査請求は、第5工区について入札参加者全員が談合したとし、他の工区においても同様であるとしているのであるから、各入札において、入札参加者全員が談合に参加した旨指摘しているものと解され、したがって、不法行為者は、各入札参加者全員であると特定することができる(談合がなされたという指摘があれば、それ以上に、各談合参加者が具体的にいかなる行為をしたかまでの特定は不要であるというべきである。)。また、各損害額についても、それぞれの請負代金額の2割に相当する額であるとし、各請負代金額も特定して指摘している(談合があれば、請負代金額は上昇し、発注者が損害を被るものと考えるのが一般であることからすれば、監査請求においては、この程度の損害額の特定で足りるというべきである。)。

また、怠る事実について、それが違法であることが必要であるが、県が損害賠償請求権を有している場合には、これを行使すべきと解されるから(法240条2項参照)、県が右請求権を行使していない状態のもとで、本件監査請求において、損害賠償請求権の存在を指摘することは、県の右損害賠償請求権の不行使の違法をも指摘しているものというべきである。監査請求の際に、県の不行使の違法を基礎づける事情(損害賠償請求権についての県の認識の有無や権利行使についての裁量的判断等)についてまで特定して指摘することを要求するのは、住民に困難を強いるものであり、妥当でない。

以上からすれば、本件監査請求は、監査の対象が特定されているというべきである。

3  また、本件監査請求には「証する書面」の添付がない旨主張されているが、「証する書面」の添付が求められているのは、単なる主観や憶測だけで監査を求めることの弊害を防止することにあると解されるところ、本件監査請求においては、前記のような新聞記事及び刑事事件の冒頭陳述要旨が添付されており、これらの資料にはある程度の客観性があるというべきであるから、本件監査請求には「証する書面」が添付されているといえる。

二  第1ないし第3、第5、第6工区に関する監査請求の監査請求期間遵守の有無について(争点1(二))

1  本件監査請求に法242条2項が適用されるか否かについて

(一) 監査請求は、個々の住民が、財務会計上の行為等の違法又は不当を指摘して、自治体が自主的にその是正措置をとるべきことを要求する制度であり、監査請求を受けた監査委員が、違法又は不当な財務会計上の行為等があると認めたときに自治体に勧告すべき是正措置は、請求人の掲げた是正措置に限定されず、右違法又は不当な財務会計上の行為等の是正に必要なあらゆる措置が含まれる。

そして、通常、違法又は不当な財務会計上の行為(「当該行為」)の是正措置となるべき実体法上の請求権の不行使をもって「財産の管理を怠る事実」とする監査請求についてとられるべき是正措置は、右違法又は不当な「当該行為」そのものの監査請求においてとられるべき是正措置と実質上重なり合う(一般に、前者が後者に含まれる)関係にあるといえる。

そうすると、「当該行為」の是正を求める監査請求の機会は、法242条2項により、当該行為のあった日又は終わった日から1年の経過により失われるものとされているのであるから、当該行為の是正措置となるべき実体法上の請求権の不行使をもって「財産の管理を怠る事実」とする監査請求の機会についても、特段の事情のない限り、「当該行為」のあった日又は終わった日から1年の経過により失われるものと解するのが相当である。このように解さないと、法が、「当該行為」の是正を請求できる期間を制限しているにもかかわらず、監査請求の対象を「当該行為」の是正措置となるべき実体法上の請求権の不行使という「怠る事実」として構成することにより、監査請求期間の制限を受けずに当該行為の是正を請求しうることとなるが、これでは、法が監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されてしまい、妥当でない。

(二) この点、原告らは、住民監査請求(法242条)及び住民訴訟(法242条の2)における財務会計上の行為の「違法」とは、財務会計上の行為の主体たる地方公共団体の長や職員の地方公共団体に対する義務違反(内部関係における違法)をいい、住民監査請求や住民訴訟が成立するためには、長や職員の自治体に対する違法な行為によって損害が生じているという事実が必要となり、例えば、長や職員が欺罔されて自治体に損害が生じたような場合には、欺罔されたことにつき落ち度がなければ義務違反行為ではないから、住民監査請求の要件はみたさず、このような場合には、長や職員がその損害の発生を知って、なお適正な管理をなさず、その損害を放置した、すなわち、「怠る事実」といわれる状態が生じたときにはじめて、住民監査請求の要件をみたすのであると主張する。そして、本件各請負契約の締結が財務会計上の行為であるとしても、本件では、長や職員の県に対する義務違反行為はないから、本件各請負契約の締結は、違法な財務会計上の行為にはあたらず、したがって、法242条2項の監査請求期間の制限は適用されないと主張する。

しかしながら、住民監査請求や住民訴訟は、地方財務行政の適正な運営を確保し、もって住民全体の利益を擁護するための制度であることからすれば、財務会計上の行為等の「違法」(法242条1項、242条の2第1項)又は「不当」(法242条1項)とは、財務会計上の行為が服すべき規範(地方公共団体の財政の健全性を図る目的で設けられた種々の法律・条例・規則等の規定及びこれと同視しうる条理、以下「財務会計規範」という。)に違反し又はそれに照らして不相当とされる場合を指すというべきである。原告らのいうところの義務違反とは、その挙げる例示からみると、行為の結果を特定人に帰責するための根拠としての故意や過失を指しているようであるが、これは、監査においてとられるべき是正措置の一つである民法上の損害賠償請求権発生の要件と、監査請求の要件(監査の対象である財務会計上の行為等の属性)とを混同するものといわざるを得ない。

これを実質的にみても、例えば、契約の相手方が職員に詐欺を行って、明らかに不当に高額な出捐を伴う契約を締結させようとしている場合を想定すると、原告らの主張によれば、このような場合でも、右職員の契約締結行為を差し止めることはできないことになるが、これは、前記の住民監査請求及び住民訴訟の趣旨に照らし、明らかに不当である(原告らの主張によれば、契約が締結され、自治体から相手方に支払がなされた後に、相手方に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実を監査請求の対象とすることになろうが、余りに迂遠であり、後に相手方が無資力になる場合も考えられるなど、事後的な救済に必ずしも実効性があるとは限らない。)。

(三) また、原告らは、県と被告杉沢組、a建設との間の本件各請負契約に対する評価と、違法な財務会計上の行為という場合の違法の評価とは、場面・性質を異にするものであって、原告らは、本件監査請求及び本件訴訟において県の財務会計上の行為である本件各請負契約の違法は主張していないのであるから、本件監査請求は、「当該行為」ではなく「怠る事実」についての監査請求であり、期間制限(法242条2項)の適用はないと主張する。

前述のとおり、財務会計上の行為の「違法」とは、財務会計規範に違反する場合を指すから、一般私法上の不法行為法における違法評価等とはいちおう別個のものというべきであり(財務会計上の行為が法律行為により行われた場合における、法律行為の無効事由や意思表示の瑕疵・欠缺も、財務会計規範違反とは別個のものである。)、この意味においては、原告らの主張するように、本件各請負契約に対する評価と、違法な財務会計上の行為という場合の違法の評価とは、場面・性質を異にする。

しかし、本件各請負契約という財務会計上の行為についての違法は主張していないという原告らの主張は採用できない。なぜなら、本件で、原告らは、監査請求の段階から、被告らが談合によって不当に代金額をつり上げた行為が共同不法行為であると主張しているところ、そこにあらわれる不法行為の要件である権利侵害は、県の財産権に対する侵害、すなわち、県が、被告らにより不当につり上げられた代金額で本件各請負契約を締結させられ、右不当な代金の支払をさせられたというものであり、この権利侵害の主張の中に、財務会計上の行為(本件各請負契約の締結)が、地方公共団体の経費は目的達成のために必要かつ最小限度でなければならない旨を定める地方財政法4条1項、法2条13項等の財務会計規範に違反している事実があらわれている以上、原告らは、財務会計上の行為の違法を主張しているものというべきだからである(そもそも「違法」とは評価なのであるから、その評価を基礎づける事実が主張されているにもかかわらず、監査委員ないし裁判所が、これを違法と評価することができないというのは相当でない。)。

なお、原告らは、談合による入札後の本件各請負契約は、損害発生の因果の流れにすぎず、本件各請負契約の違法は主張していないとするが、右主張は、前記のとおり、「違法」の概念を誤るものであると同時に(なお、「契約が違法である」という点に関しては、契約が行政上の取締法規等に違反するような場合はともかくとして、契約それ自体が、私法上「違法である」と評価されることはないと考えられる。)、不法行為に基づく損害賠償請求権発生の要件である、「権利侵害行為」と「損害の発生」とを混同するものであり、採用できない。談合は、入札において、落札者や落札価格、各入札者の入札価格等について入札参加者が協定をする行為であるが、これは、落札者と入札を実施する自治体との間で請負等の契約が締結されることを当然の前提としてなされるものであるから、談合(協定)行為を自治体の契約締結行為と全く切り離して考えることは、談合行為の不法行為としての違法性(権利侵害)も失わせることになるといわざるを得ない。

(四) また、原告らは、本件請負契約の相手方となっていない被告らに対する関係では「当該行為」が観念できないから、右被告らに対する損害賠償請求権の不行使は「真正怠る事実」であり、監査請求期間の制限(法242条2項)が適用されない旨主張する。

しかし、前記のとおり、「当該行為」の是正措置となるべき実体法上の請求権の不行使を「怠る事実」とする監査請求が監査請求期間の制限を受けるのは、右監査請求においてとられるべき是正措置と「当該行為」そのものの監査請求においてとられる是正措置が、通常の場合実質上重なり合う関係にあると考えられるからであるところ、「当該行為」の監査請求において監査委員がとりうる是正措置には、「当該行為」の直接の相手方でない者に対する損害賠償請求も含まれるのであるから、「当該行為」の相手方でない者に対する損害賠償請求権の不行使を監査対象とする場合においても、監査請求期間の制限が及ぶと解すべきである。

(五) 以上より、本件監査請求については、法242条2項が適用される。

そうすると、本件では、工区ごとに請負契約が締結されており、それぞれが独立した財務会計上の行為として、監査請求の対象となるべきところ、第1ないし第3、第5、第6工区についての各請負契約は、本件監査請求より1年以上前に締結されたものであるから、法242条2項本文の監査請求期間を徒過していることになる。

2  法242条2項ただし書の「正当な理由」の有無について

(一) 前記のとおり、本件監査請求のうち、第1ないし第3、第5、第6工区についての各請負契約に関する部分については、監査請求期間を徒過していることになるから、次に、右監査請求期間を徒過したことについて「正当な理由」(法242条2項ただし書)があるか否かを検討する。

(二) 法242条2項本文が、「当該行為のあった日又は終わった日から1年」という監査請求期間を設けているのは、財務会計上の行為(当該行為)はなるべく早期に安定させるべきという趣旨に基づくものと考えられるが、このような短期の期間制限の起算点を「当該行為のあった日又は終わった日」としているのは、自治体の行為は、秘密裡に行われるものではなく住民に公表されているべきものであって、財務会計上の行為(当該行為)も、通常、議会における予算・決算審議や自治体公報への掲載等によって、直ちに住民が知りうるものであり、財務会計上の行為(当該行為)の存在とその内容を知り得れば、その違法又は不当を疑うことができ、監査請求をなし得るということを前提にしているものと考えられる。そして、同項ただし書では、「正当な理由があるとき」は、右期間を徒過していても監査請求ができる旨規定しており、これは、本文に定められた期間制限を機械的に適用すると住民監査請求を封じるに等しいような場合を救済する趣旨であると考えられる。

したがって、同項ただし書の「正当な理由」は、財務会計上の行為(当該行為)の法的安定性と住民監査請求の機会の確保との調和の観点から解釈すべきであり、天災地変等があったため監査請求期間を徒過してしまったような場合がこれにあたるのは当然のこととして、そのような場合に限らず、住民が、当該行為がなされた時点又はそれに近接する時点においては、当該行為の存在やその違法又は不当を疑わせる事実をおよそ知り得ないような状況であった場合には、住民が相当の注意力をもって調査したときに当該行為の存在とその違法又は不当を疑わせる事実を知ることができたといえる時点から、監査請求の準備に必要な相当の期間内に、監査請求をしていれば、「正当な理由」があるというべきである。

(三) 本件では、第1ないし第3、第5、第6工区についての各請負契約の締結は公然となされており、住民は、各請負契約自体は容易に知ることができたと考えられる。

そして、本件で原告らの主張する(原告らが財務会計上の行為の違法を主張していないという主張が採り得ないことは前述のとおり。)財務会計上の行為の違法事由は、被告らの談合の結果、請負代金額が不適正な価格となっていることであるから、本件において、当該行為が違法であると疑わせる事実は、各請負契約締結に先だって行われた各談合の事実であるというべきであり、本件で、住民が、各請負契約締結時又はこれに近接する時点において、談合の事実を知り得なかったことは明らかである。

なお、この点、請負代金額が不適正であることは、請負工事の内容と代金額を見れば判別できるともいい得るし、逆に、談合の事実を知り得ても、理論的には、談合即不適正な代金額ということにはならないのであるから、談合の事実を知り得ても、財務会計上の行為の違法事由を知り得たとはいえないとも考え得る。しかし、一般住民にとっては、請負契約の内容自体から、その代金額が適正か否かを判別することができない場合が多いと考えられること、及び、談合の結果締結された請負契約については、自由競争が行われた場合に比して高額の代金額となる疑いがあると考えるのが自然であることからすれば、本件のように、談合の結果不適正な代金額となったことを違法事由とする場合においては、談合の事実を知り得たときに、請負契約の代金額が不適正であることを知り得たものといってよいと考えられる。

(四) そこで、本件において、住民が相当の注意力をもって調査したときに、各請負契約に先だって談合が行われた事実を知ることができた時期がいつであるかを検討する。

(1) 証拠(甲2の1、甲2の2の1ないし3、甲6の1・2、甲23、24、乙ハ1ないし3、乙ニ1、2、4)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

① 平成9年1月8日の北日本新聞の朝刊に、「一昨年、県魚津農地林務事務所が発注した入善町内の農業用排水のかんがい事業工事の入札をめぐり、業者間で談合した疑いがあり、県警と魚津署は7日までに業者数人から任意で事情を聴取した。同農地林務事務所から関係書類などを押収した。関係者によると、同事業は、用排水路の敷設改良工事区間を数カ所に区切って行われており、工事区間1カ所の事業費は約4000数百万円という。1カ所が1キロ未満で、関係者業者は30社ほどとみられる。魚津署などでは、業者が入札に絡んで談合し、工事区間を1カ所ずつまわしたのか、工事区間1カ所で談合したのかなど、競売入札妨害の疑いで詳しく調べている。」との記事が掲載された。

② 同年3月7日の北日本新聞の朝刊で、入善町の農業用水かんがい排水事業をめぐる談合について、被告杉沢組の当時の代表者の競売入札妨害被告事件の初公判が同月6日に行われ、右事件の被告人が起訴事実を認めたこと、及び、検察官の冒頭陳述において、右被告人と、すでに競売入札妨害罪で罰金50万円の略式命令済みであったa建設ほか4社が、第5工区の指名競争入札について、被告杉沢組に落札させることを申し合わせたことや、富山県入善建設業協会が用排水工事で以前から談合を繰り返していたことが指摘され、更に、落札価格は4600万円であったが、自由競争で行った場合の第5工区の入札価格は3850万円から4010万円に収まると予想されると指摘されたこと等が報道された。

また、同日の朝日新聞朝刊では、右と同旨の報道の他、被告杉沢組が第1、第2、第5及び第7工区を落札し、すでに競売入札妨害罪で罰金の略式命令を受けている「c業者」が第3、第6及び第8工区を落札したことが報道された。

③ 同年5月17日ころの新聞では、同月16日に、被告杉沢組の当時の代表者に対する競売入札妨害被告事件について、有罪判決が言い渡されたこと、同年4月中旬ころに「市民オンブズ富山」がその定例会において、知事が談合に加わった業者に損害賠償を請求するよう求める監査請求をすることを申し合わせたこと、右刑事判決確定後2週間以内に知事が損害賠償請求手続をしなかった場合に住民監査請求をすること、同年3月25日に県が「市民オンブズ富山」に対し「落札価格は入札予定価格の範囲内の適切な価格で損害はない」と回答したのに対し、「市民オンブズ富山」が「予定価格内でも談合で価格が引き上げられたはず」と反発していたことが報道された。

④ 原告らは、右刑事判決確定後に、右刑事事件確定記録のうち、冒頭陳述要旨、論告要旨及び判決の閲覧を行った。

⑤ 原告らは、平成9年6月30日、本件監査請求をし、その際、前記②の朝日新聞記事及び前記③の新聞記事等を、事実を証明する書面として添付した。

原告らは、同年7月22日、本件監査請求について補正書を提出し、その際、他の工区においても第5工区と同様の談合が行われたことを証する書面として、前記刑事事件における冒頭陳述要旨を添付した。

(2) 以上の事実をもとに判断するに、住民は、平成9年1月8日の新聞報道を端緒に、相当の注意力をもって調査すれば、直ちに、少なくとも各工区の落札業者を知ることができ、被告杉沢組とa建設がほぼ半分ずつ落札していることが判明すること等から、本件公共工事の各工区の入札において談合が行われたのではないかとの疑いをもち得たといえるし、同年3月7日の新聞報道によれば、刑事公判において、被告杉沢組の当時の代表者が、起訴事実である第5工区に関する談合の事実を認め、更に、冒頭陳述において、富山県入善建設業協会加入業者が以前から談合を繰り返していたことが指摘され、被告杉沢組が第1、第2、第5及び第7工区を落札し、a建設が第3、第6及び第8工区を落札したことが報道されていること、同月25日になされた県の「市民オンブズ富山」に対する回答(前記③)は、「市民オンブズ富山」が県に対し、本件公共工事の入札について談合が行われた旨を指摘したことに対するものと考えられることからすれば、住民は、遅くとも同年3月中旬ころには、本件公共工事のうち第1ないし第3、第5ないし第8工区の入札において、入札参加業者により談合が行われた事実を知り得たものというべきである。

(3) この点、原告らは、原告らを含む富山県民は、第5工区にかかる被告杉沢組の当時の代表者に対する競売入札妨害被告事件の判決確定後、刑事確定記録の閲覧をすることによって初めて、被告杉沢組及びa建設以外の被告らを特定できる程度に知ることができたのであり、本件監査請求は、右判決確定後1か月以内になされているから、監査請求期間徒過について「正当な理由」(同項ただし書)があると主張する。

しかし、前記(1)のとおり、監査請求の対象は、監査委員が監査の対象として他の財務会計上の行為等と区別して認識できる程度に特定されていれば足り、どの入札において談合が行われたかを特定できれば、その入札に参加した業者は容易に明らかになり特定されるものといえるから、必ずしも監査請求の際に入札参加者名を特定できなくても、監査委員において、監査の対象を認識できると考えられる。逆に、本件のような場合に、入札参加者名をすべて特定しなければ監査請求ができないとするのは、監査請求の途を不当に閉ざすことになり、妥当でない(現に、本件監査請求においては、第5工区以外の工区の入札についての談合参加者は指摘されていないが、監査対象の特定に欠けるものでないことは前記一のとおりである。)。

(五) 次に、談合が行われた事実を知り得た時点から、監査請求の準備に必要な相当の期間内に、本件監査請求(第1ないし第3、第5、第6工区に関する部分)がなされているかどうかを検討するに、本件監査請求がなされたのは、右知り得た時点から約3か月半後であるところ、本件監査請求の内容及び添付資料からすれば、本件監査請求の準備のために3か月半もの期間が必要であるとはいえない。

したがって、本件監査請求(第1ないし第3、第5、第6工区に関する部分)は、その準備に必要な相当の期間内になされたものとはいえない。

(六) 以上によれば、本件監査請求(第1ないし第3、第5、第6工区に関する部分)が監査請求期間を徒過したことについて「正当な理由」があるということはできない。

3  したがって、本件監査請求のうち、第1ないし第3、第5、第6工区に関する部分は、監査請求期間を徒過した不適法なものというべきである。

三  被告適格について(争点2)

被告飯作組は、本件のように「当該行為」が存する場合には、法242条の2第1項4号の請求の「相手方」とは、「当該行為」の相手方、すなわち、請負契約の相手方をいうと解すべきであるから、請負契約の相手方でない被告飯作組は被告適格を有しないと主張する。

しかしながら、同号の「怠る事実に係る相手方」につき、被告飯作組が主張するように限定して解釈すべき合理的理由はなく、原告らにより、県に対する共同不法行為者として損害賠償責任を負うと主張されている被告飯作組は、「怠る事実に係る相手方」として被告適格を有する(この理は、請負契約の相手方となっていない他の被告らについても同様である。)。

四  被告らの県に対する共同不法行為の成否及び損害額(争点3)について(第7及び第8工区について)

1  争いのない事実等及び証拠(甲9ないし15、18ないし21、26、27、29ないし37、被告Y3、証人E)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告らは、富山県入善建設業協会や富山県建設業協会入善支部等に加盟する土木工事請負業者であるが、右協会に加盟する土木工事請負業者ら(以下「加盟業者ら」という。)は、長年の慣行として、公共工事の入札の際に談合を行っていた。すなわち、加盟業者らのうち当該公共工事の入札の指名通知を受けた者は、入札の前日に、入善建設業会館の会議室に集まり、「地元の工事は地元の業者が行う」等の暗黙の基準に従って、受注を希望する業者が名乗りを上げ、希望する業者が複数ある場合には話し合って、落札予定業者を決めていた。そして、落札予定業者は、入札当日に、他の業者が入札書に記載すべき金額を記載した紙片を他の入札参加者に手渡し、他の入札参加者は右紙片どおりの価格で入札し、その結果、落札予定業者が、希望どおりの価格で落札していた。なお、入札前日の右会合には、必ずしも、指名通知を受けた業者全員が集まるわけではなく、落札する意思のない業者は右会合に参加しないこともあった。ただし、その場合でも、参加しなかった業者は、入札当日に、落札予定業者から手渡された紙片に記載された価格で入札するものと了解されていた。

(二) 公共工事を発注する自治体は、入札を行うに当たり、落札価格の上限である「予定価格」及び下限である「最低制限価格」を設定していたところ、加盟業者らは、予定価格は、当該工事について算出された「設計価格」から1ないし5パーセントを減じた額であり(なお、業者により、右減価率の認識は異なっている。)、最低制限価格は、予定価格から20パーセント減じた額であると考えていた。そして、加盟業者らのうち、当該公共工事の入札の指名通知を受けた者は、受注を希望する工事については、設計図書を閲覧するなどして工事代金を積算し、これをもとに予定価格と最低制限価格を予想した。また、加盟業者らの中には、発注者の担当職員に接触し、当該工事の設計価格を不正に聞き出していた者もあった。

そして、談合により落札予定業者となった者は、当該工事請負による利益を最大限にするため、予定価格にできるだけ近い価格で入札していた。

(三) 本件公共工事の入札を所管する魚津農地林務事務所は、各工区の設計価格に0.995を乗じて予定価格を算出し、予定価格の10分の8をもって最低制限価格としていた。

(四) 加盟業者らは、公共工事は、工事費用に関する項目が民間工事より細かく、民間工事では計上されない経費が設定され、単価も高く見積もられるために、民間工事より利益率が高くなること、発注者が官公庁であるため工事代金の支払が確実であることに加え、工事着手前に工事代金の約40パーセントが支給され、残代金も工事完成後約40日以内に現金支給されるため、資金繰りの計画が立てやすいこと及び公共工事受注の実績が社会的信用となること等の利点があると認識していた。そして、加盟業者らの中には、その受注工事の95パーセント以上を公共工事が占めている業者もあり、公共工事を利益率が最大になるような価格でできるだけ多く受注したいという希望をもっていたが、談合をしなければ、公共工事をどれだけ落札できるかどうか不安定となる上、落札の確率を上げるためには入札価格を談合による場合より低くせざるを得ないことから、たとえ落札できたとしても利益率が低くなってしまい、談合により受注する場合に比して経営が苦しくなるため、加盟業者らは、長年、公共工事の受注を談合により回し合ってきた。

(五) 本件公共工事のうち、第1ないし第3、第5ないし第8工区については、前記のような方法で、入札参加者により談合が行われた(入札参加者及び落札者は、争いのない事実等2(一)のとおり。なお、入札が行われた日は、同記載の締結年月日と同じ<乙ロ2>。)。

以上の事実からすれば、右各入札に参加した業者らが、いずれも、公正な自由競争が行われたならばより低額で落札され、発注者である県と落札業者との間で右金額で請負契約が締結されることを認識しながら、自由競争を排して、あらかじめ落札予定業者を決め、右以外の者は、落札予定業者が確実に希望の価格で落札できるように、落札予定業者が指示した入札価格で入札することを協定したものであり、これは、右各入札につき、入札に参加した業者らが、共同して、県の財産権を侵害する不法行為をなしたものといえる。

そして、本件では、第7、第8工区における入札が問題となるものであるところ(その他の工区については、適法な監査請求を経ておらず不適法であることは前記のとおり。)、第7工区の入札については、被告石川建設、被告共和土木、被告桜井建設、被告杉沢組、被告寺林建設、被告飯作組、被告廣川建設、池原建設、内島組及び夏野土木工業が、共同して不法行為をなし、第8工区の入札については、被告b組、a建設、中山組、真岩土建工業、前田組、道又建設、黒隆工業、竹田建設、ノザワ及び飛島興産が、共同して不法行為をなしたものと認められる。

なお、本件で、原告らは、第7、第8工区の各入札に参加していない被告らも、右各入札に参加した被告らと共に共同不法行為者であるとして、損害賠償請求をしている。前記のとおり、被告ら全員は、長年の慣行として公共工事の入札につき談合を繰り返してきたこと及び本件公共工事のうち第5工区の入札において、談合をした上で実際に入札に参加したことが認められるが、これらの事実によっても、第7、第8工区の談合について、右各入札に参加していない者も含めた被告ら全員が共同不法行為者であると認めることはできない。本件における不法行為(県の財産権侵害の具体的危険性のある行為)は、当該入札の指名通知を受けた者らが、落札者や落札価格、各入札者の入札価格等について協定し、右協定したとおりの行為を行うことであると考えられるところ、第7、第8工区の各入札に参加していない被告らが、右各入札の指名通知を受けた者であることや、右各入札前日の会合に参加するなどして右のような協定行為をしていたことを認めるに足りる証拠はないし、他に、右各入札に参加していない被告らが共同不法行為者であると評価しうる事実を認めるに足る証拠もない。

2  損害額について

(一) 前記のとおり、被告らは、談合による落札予定者が予定価格にできるだけ近い価格で落札できるように談合していたものであり、談合をしないとすれば、自由競争となって、談合による場合より入札価格を低くせざるを得ないと考えていたのであるから、県は、被告らの談合がなければ、より低い価格で請負契約を締結でき、現実の落札価格と自由競争下での落札価格との差額の損害を被ったといえる。

(二) そして、証拠(甲6の2、14、18、21、22、28、30、31、33ないし35、37)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、本件公共工事をめぐる競売入札妨害被疑事件について、検察官による取調べを受けており、その中で、談合をしない場合の入札価格については、最低制限価格付近の金額である旨の供述をしたり、「談合による入札価格より10パーセント以上下げる」などと供述していること、右被疑事件の捜査において、第5工区の入札が自由競争により行われたと想定した場合の入札価格を、落札者以外の入札参加者が算定したところ、4010万8380円から3847万8154円の間となったこと及び本件公共工事は、同種の内容の工事を施工距離で区切って工区を設定したものであることが認められ、これらを総合すれば、本件においては、第7、第8工区の入札についても、被告らの談合がなければ、少なくとも現実の各落札価格より少なくとも10パーセント低い価格で落札されたと推認され、したがって、県は、第7、第8工区のそれぞれの入札において談合した前記被告らの行為により、右金額の損害を被ったものと認めるのが相当である。

この点、原告らは、県の被った損害額は落札価格の2割であると主張する。しかしながら、本件公共工事の入札においては、最低制限価格は予定価格の10分の8とされていたのであるから、本件不法行為による損害が落札価格の2割であるといえるためには、少なくとも、落札者が予定価格と同額で落札していることが必要となるところ(そうでなければ、落札価格から2割減じた額での入札は、最低制限価格を下回り無効となるのであるから、右金額での請負契約締結はありえない。)、第7及び第8工区において、予定価格と同額で落札されたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、第5工区における落札価格は予定価格より低いこと(甲37)や、前記のとおり、加盟業者らは、実際の予定価格よりも低めに予定価格を想定していたこと(前記1(二)、(三))こと等に照らせば、本件で、損害額が落札価格の2割に達することはないというべきである。また、証拠(甲9、29ないし32、被告Y3、証人E)及び弁論の全趣旨によれば、加盟業者らは、入札の指名通知を受けた工事について、必ずしもすべて落札受注する意思で入札に参加しているものではなく、当該工事現場に対する地理的優位性や工事内容と自己の作業能力との兼ね合い等に照らして工事を選定し、かつ、それぞれの経営能力に応じた利益分を加味して入札に臨んでいることが認められるから、本件公共工事の入札において、談合がなされなかったとした場合に、必ずしも最低制限価格で落札されたとは認め難い。

(三) 本件では、落札価格に消費税分(本件当時、3パーセント)を加えた額が請負代金額であるところ(甲37)、第7、第8工区の請負代金額はそれぞれ4573万2000円、3141万5000円であるから(争いのない事実等2(一)(6)、(7))、落札価格はそれぞれ第7工区が4440万円、第8工区が3050万円である。

したがって、第7工区における談合により県が被った損害額は、落札価格4440万円の10パーセントに当たる444万円であり、第8工区における談合により県が被った損害額は、落札価格3050万円の10パーセントに当たる305万円である。

(四) また、本訴において原告らが一部勝訴することにより、県は、本件訴訟追行に関する弁護士報酬のうち相当額を原告らに支払う義務を負担するところ(法242条の2第7項)、右相当額は、本件事案の内容、前記の損害認容額、訴訟追行の過程等に照らし、80万円であると認める。

そして、右80万円の報酬額のうち50万円が、第7工区における共同不法行為により生じたものとして賠償されるべき損害であり、30万円が、第8工区における共同不法行為により生じたものとして賠償されるべき損害であると認めるのが相当である。

(五) したがって、被告らのうち、第7工区における共同不法行為者である被告石川建設、被告共和土木、被告桜井建設、被告杉沢組、被告寺林建設、被告飯作組及び被告廣川建設は、県に対し連帯して、上記(三)、(四)の合計額である494万円の損害賠償義務を負い、第8工区における共同不法行為者である被告b組並びにa建設の承継人である被告Y2及び被告Y3(それぞれ2分の1ずつ分割して承継)は、県に対し連帯して、上記(三)、(四)の合計額である335万円(被告Y2及び被告Y3はそれぞれ右金額の2分の1である167万5000円の限度で)の損害賠償義務を負う。

五  以上のとおり、県は、被告ら(被告若栗土建を除く。)に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているところ、右請求権は、地方公共団体の財産であり(法237条1項、240条1項)、県が、右損害賠償請求権を行使しないことは、「財産の管理を怠る事実」(法242条1項)に該当する。そして、指名競争入札において談合がなされ、不当に請負代金額がつり上げられたことにより県が損害を被った本件のような場合には、県が右損害賠償請求権を行使しないことは、特段の事情のない限り、違法であるというべきである(本件では、右特段の事情は見当たらない。)。

六  以上より、(一)原告らの本件訴えのうち、第1ないし第3、第5、第6工区の入札について行われた共同不法行為に基づく損害賠償請求を求める訴えは、不適法であるからこれを却下し、(二)原告らの適法な訴えに係る本訴請求は、(1)被告石川建設、被告共和土木、被告桜井建設、被告杉沢組、被告寺林建設、被告飯作組及び被告廣川建設に対して、連帯して494万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を、(2)被告b組に対して、被告Y2及び被告Y3と連帯して335万円(被告Y2及び被告Y3については、それぞれ167万5000円の限度で連帯して)及びこれに対する右(1)と同旨の遅延損害金の支払を、(3)被告Y2に対して、被告Y4と連帯して167万5000円及びこれに対する右(1)と同旨の遅延損害金の支払を、(4)被告Y3に対して、被告Y4と連帯して167万5000円及びこれに対する右(1)と同旨の遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。

よって、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言は相当でないので却下する。

(裁判長裁判官 徳永幸藏 裁判官 源孝治 裁判官 冨上智子)

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