富山地方裁判所 昭和31年(行)2号 判決 1960年4月15日
原告 平田盛秋
被告 立山町長・富山県中新川郡公平委員会
主文
原告の被告立山町長に対する請求を棄却する。
原告の被告富山県中新川郡公平委員会に対する訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は
一、被告立山町長に対し第一次的に「被告立山町長が昭和三〇年六月一日なした原告に対する待命処分は無効であることを確認する。」予備的に「被告立山町長がなした右待命処分を取消す。」
二、被告富山県中新川郡公平委員会に対し「被告同委員会が昭和三一年六月一五日なした判定は、これを取消す。」
三、訴訟費用は被告等の連帯負担とする。
との判決を求め、
その請求原因として
一、原告は、昭和二六年四月より昭和二九年七月九日まで富山県中新川郡新川村の村長として勤務し、同月一〇日右新川村が同県立山町に編入合併されるや、同町事務吏員として建設課勤務を命ぜられ、建設課長に補され、爾来勤務して来た者である。
二、被告立山町長(以下被告町長と略称する。)は、同町条例第六二号「立山町職員の待命に関する条例」(以下待命条例と略称する。)の改正後のものに基き、昭和三〇年五月三一日、原告に同年六月一日付待命通知書を交付し、原告に対しその意に反する臨時待命(待命期間四ケ月)を命じた(以下被告町長の原告に対する右臨時待命処分を本件待命処分と略称する。)。
三、原告は、本件待命処分が原告の意に反する不利益処分であるので、地方公務員法第四九条により、同年六月一日任命権者である被告町長に対し、処分の事由を記載した説明書の交付を請求したが、被告町長において、同日より一五日以内に右説明書の交付をなさないのみならず、その後も原告の再三の請求に拘らず交付しなかつたので、原告は、同年七月一一日、被告富山県中新川郡公平委員会(以下被告委員会と略称する。)に対し、本件待命処分につき審査の請求をしたところ、被告委員会においては、同年九月二二日より昭和三一年四月二八日までの間に五回の公開口頭審理を経た上、同年六月一八日原告に対し、本件待命処分を承認する旨の同月一五日付判定書を送達した。
四、しかしながら、本件待命処分は、次のような理由によつて違法の処分である。
(一)、被告町長が、本件待命処分を行うにつき準拠した待命条例(昭和三〇年四月四日公布、同月一日より遡及施行)は始め「立山町職員の人事の刷新並びに事務能率の向上を期し、人件費の節減を図るため、職員の臨時待命に関する事項を定めること」を目的(第一条)として制定され、その目的を遂行するため「任命権者は昭和三〇年八月三一日までの間において、職員にその意に反して臨時待命を命じ、又は職員の申出に基いて、臨時待命を承認することができる」旨(第二条)を定めていたのであるが、その後立山町条例第六五号「立山町職員の待命に関する条例の一部を改正する条例」(昭和三〇年五月六日施行、以下条例六五号と略称する。)により、右第一条を「この条例は、地方公務員法の一部を改正する法律(昭和二九年法律第一九二号)附則第三項の規定に基き、職員の臨時待命に関する事項を定めることを目的とする」に、第二条を「前条の目的に遂行するため、立山町職員定数条例の施行に伴い任命権者は、昭和三〇年八月三一日までの間において、職員にその意に反して、臨時待命を命じ、又は職員の申出に基いて、臨時待命を承認することができる」旨に、それぞれ改めたものである。しかし
(1)、改正前の待命条例は、前記地方公務員法の一部を改正する法律の附則第三条(以下単に法附則第三項と略称する。)の規定に基いて、制定したものでない。ところが、臨時待命は、法附則第三項の規定に基いて、始めて条例で定めることが出来るものであるから、右に根拠をおかない改正前の待命条例の臨時待命の規定は無効である。もつとも待命条例は法則第三項に基く条例六五号によつて改正されているが、右条例六五号は、未だ公布されていないから改正の効果を生じないものであり、仮りに改正の効果を生じているとしても、無効のものを改正したのであるから、改正後の待命条例も無効のものである。
(2)、仮りにそうでないとしても、改正前の待命条例に規定した臨時待命と法附則第三項に定める臨時待命とは、その法律上の根拠、基盤、目的を異にするものである。従つて、改正前の待命条例を法附則第三項に基いて改正することは許されず、前者を廃止し、新たに後者に基き職員の臨時待命に関する条例を別個に制定すべきであるのにこれによらず、前記のように一部改正をしたに過ぎない待命条例は違法無効のものである。
右のとおり、待命条例は、無効のものであるから、これによつた本件待命処分は違法な処分である。
(二)、仮りに待命条例が違法無効でないとしても、法附則第三項によると、地方公共団体は、条例で定める定員をこえることとなる員数の職員については、昭和二九年度及び昭和三〇年度において、国家公務員の例に準じて、条例に定めるところにより、職員にその意に反して臨定待命を命ずることが出来るのであるから、職員に過員がないときは、地方公共団体は、法附則第三項に基く条例によつては絶対的に臨時待命を命ずることが出来ないものである。ところで、本件待命処分の行なわれた昭和三〇年六月一日における立山町の職員定員は、同町条例第六四号「立山町職員定数条例」(昭和三〇年五月六日公布施行、以下職員定数条例と略称する。)によつて、町長の事務機関の職員を吏員九八人、その他の職員一二人合計一一〇人と規定されているところ、同年六月一日現在の町長の事務機関の職員としての、吏員の実在員は八九名(昭和三〇年五月三一日現在の実在吏員は九八名であるところ、同月三一日までに申出に基いて、臨時待命を承認したもの九名であるから、六月一日現在の実在吏員は八九名となる。)であつたから、定員の九八名に達せず、過員が無い訳である。しかるに、法附則第三項に基き改正された待命条例により本件待命処分が行われたのであるから、その処分は違法である。
(三)、被告町長は、待命条例により、職員に臨時待命を命ずるにつき、高令者(五五才以上)であることを一の基準とし、原告が当時六六才であつたから、右基準に該当するものとして本件待命処分を行つたものである。しかし法律、条例等の根拠に基づかずして、一律に高令者であることをもつて、臨時待命のような不利益処分を行うことの基準としたことは、高令者であることを社会的身分として取扱い差別待過をしたものであるから、憲法第一四条の法の下の平等の原理に違反し、又地方公務員法第一三条の平等取扱の原則に違反するものである。従つて、原告が当時六六才で基準とする右高令者に該当するとして、被告町長のなした本件待命処分は違法である。
(四)、待命条例による臨時待命については、その目的、規定の趣旨等より考えて、先ず一般希望退職者を募り、これがないとき始めてその意に反する臨時待命を命ずべき職員を選考すべきものである。しかるに、被告町長は、原告に対し昭和三〇年五月二三日付協力依頼書と称する書面をもつて退職を勧告し、原告より退職勧告の理由を詰問されるや、にわかに、同月二五日一般庁員に対し退職希望者を募つている。これによると被告町長は、一般庁員と無関係に、待命条例により臨時待命を命ずべき者として原告を予定し、この予定に従つて本件待命処分を行つたこと明白である。これは、原告を他の職員と区別して不利益に取扱つたもので、地方公務員法第一三条の平等取扱の原則に違反するものであるから、本件待命処分は違法である。
(五)、待命条例第二条(改正後)によれば、被告町長は昭和三〇年八月三一日までに臨時待命を命じ得るに拘らず、昭和三〇年六月一日付で原告に対し臨時待命を命じたのは、他の一般職員と差別して原告を不利益に取扱つた(他の一般職員は、昭和三〇年六月二日から同年八月三一日までの間に臨時待命を命ぜられる可能性がある。)ものであるから、本件待命処分は、地方公務員法第一三条の平等取扱の原則に違反する違法のものである。
(六)、同法第二七条は、地方公務員は、同法に定める事由による場合でなければ、その意に反して、免職されない旨を規定している。しかるに、被告町長は、何んら同法に定める事由によらずして、原告に対してその意に反する本件待命処分を行なつているから、同処分は、前記第二七条に違反する違法のものである。
(七)、被告町長は、原告に対しその意に反する不利益処分を行いながら、原告の請求に拘らず、今日に至るも、同法第四九条に定める処分の事由を記載した説明書を交付しない。かかる違法な被告町長の行為は、本件待命処分を違法とするものである。
(八)、被告町長は、昭和三〇年三月七日原告に対し、原告をこのたびの整理の対象としないと言明し、同年五月二四日臨時待命については、希望退職者のみを対象とすると称し、更に同月二九日には、同年六月一日出庁の上臨時待命予定者の諒解を得て円満に承諾して貰うと言明しながら、同月三一日突然同年六月一日付待命通知書を原告に交付したのである。右によれば、被告町長は原告を欺いて本件待命処分を行つていることになるから、同処分は、違法である。又右の様に、同年六月一日付待命通知書を日付の前日である同年五月三一日交付することは違法であるから、この交付によつて効果の生じた本件待命処分は違法である。
(九)、原告は、老年であるが、職務に熱心であつて、地方行政事務につき高度の学識経験を持つている者であるから、未経験な若い者より事務の能率は高く、立山町のためには原告を勤務させる方が利益である。しかるに、被告町長においては、原告に対し本件待命処分をなし、立山町職員中より排除しようとするのは、被告町長が、町村合併による買収費に約金五三〇万円の巨額の金額を流用費消したとして告発されており、又町財政のびん乱甚しいとして、町民より攻撃されているのに対し、本件待命処分によつて、あたかも右流用費消、町財政のびん乱については、原告に責任があつたものである様に町民を誤信させ、自己に対する町民の攻撃を免れんとする策動に基くものである。従つて、本件待命処分は、被告町長の職権濫用行為というべきであるから違法である。
五、右のように、本件待命処分は違法な処分であるから無効であるので、その無効であることの確認を求める。
六、仮りに、本件待命処分の右違法が、本件待命処分を無効とする程度のものでないとすれば、本件待命処分は、右違法を理由に取消されるべきものであつて、予備的に本件待命処分の取消を求める。
七、被告委員会は、本件待命処分に対する原告の審査請求に対し、昭和三一年六月一八日、原告に対し、本件待命処分を承認する旨の同日付判定書を送達したことは、前記のとおりであるが、この判定は次の理由によつて違法である。即ち、
(一)、本件待命処分は、前記のように違法なものであるから、被告委員会においては、本件待命処分を取消すべき判定をなすべきに拘らず、これを看過無視し、本件待命処分を適法のものとし承認した被告委員会の判定は違法である。
(二)、被告町長は、原告が高令者(五五才以上)であること、及び恩給受給者であること等を理由に本件待命処分を行つたものであることは、被告町長が被告委員会に提出した処分事実説明書によつて明かである。従つて、被告委員会においては、原告よりの審査請求に基き本件待命処分を審査するについては、原告が高令者、恩給受給権者であるかどうか、原告がこれに該当する当時は、このような理由で本件待命処分を行うことの適否について判断すべきであると同時に、審査の範囲はこれに限定されるものである。しかるに、被告委員会は、前記判定をするに当り、被告町長において、原告が高令者、恩給権者であること及び地方公務員法第二八条第一項第一号ないし第三号までに該当する者(原告はこれに該当しない。)であることを考慮して、本件待命処分をしたのであるから、同処分は相当であると判断したのは、審査の範囲を逸脱しているものであり、右判定は違法である。
八、右のように、被告委員会が昭和三一年六月一五日なした判定は、違法であるから、これが取消を求める。
と述べ、被告らの答弁に対して
(一)、昭和三〇年五月中旬、臨時待命を申出て被告町長において承認した者は、被告ら主張の八名の外なお林善作がそうであり、合計九名である。もつとも右林善作に対する待命通知書は昭和三〇年六月一日付となつているが、これは被告町長において、原告に対する本件待命処分を行うため、定員の超過を仮装せんがための工作に過ぎないもので、右林善作に対する被告町長の承認は、同年五月三一日になされている。
(二)、前記昭和三〇年六月一日現在の吏員実在員八九名の中には、同年四月六日国民健康保険業務再開のため採用された被告ら主張の奥村ミサホ外七名、右六月一日当時条件付吏員であつた林洋一及び前記林善作を算入していない。
(1)、被告らは、右四月六日付採用者八名を吏員の実在員に算入すべき旨を主張するが、その主張は次の理由によつて失当である。
(イ)、吏員の採用は地方公務員法第一七条第一項によつて、職員に欠員を生じた場合に限るものであるところ、右四月六日当時には欠員がなかつたから、被告町長において、新規採用はできないのである。しかるに前記八名を採用したのであるからその採用は無効である。
(ロ)、吏員の採用は、同法第一七条第四項によつて、競争試験又は選考によらなければならぬのに、前記八名の採用に当つては、このような手続によつていないからその採用は無効である。
(ハ)、仮りに、前記八名の採用が有効であるとしても、奥村ミサホを除いた残余の七名は、被告ら主張のように、事務吏員ではなく、雇に過ぎないものであるから、職員定数条例第二条の一号に定める吏員ではないのである。即ち、雇は同条例の第一条によつて、第二条の職員から除外さるべき雇、傭人に該るから、職員の定数に含まれないものであり、勿論被告町長の事務機関の職員である吏員に該らないものである。
(ニ)、仮りに、前記八名が吏員として有効に採用されたものであるとしても、同人等はいずれも条件付採用者であるから、正式採用になるまで吏員の実在員として算入すべきものでない。
(2)、林洋一は同年四月六日臨時雇より技術吏員に命ぜられた者で、同年六月一日当時は条件付採用者であるから、やはり吏員の実在員として入れるべきものでないのである。
(三)、原告が、被告ら主張の退隠料金三一、六五〇円を受領していることは認める。しかし、右退隠料金の受領については、原告においてこれを拒絶したところ、持参者である松原由広(新川出張所主任)より整理の都合上困るから是非受領して貰いたいと依頼があり、同僚のよしみもあり、且つ本件待命処分に対して既に被告委員会に審査の請求をし審理中であつたので、一応預る意味で受領したに過ぎない。従つて、被告ら主張のように、本件待命処分に対する不服申立権を放棄し、同処分を承認する意味で右退隠料を受領したものでないから、右退隠料に関する被告らの主張は理由がない。
(四)、その他原告の請求原因としての主張に反する部分は否認する。
と述べた。
被告ら訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、次のとおり答弁した。
一、原告主張の請求原因中一ないし三の事実及び四の事実の内待命条例の改正の点は認めるが、その余の事実は否認する。
二、被告町長が本件待命処分をなすにつき準拠した待命条例は当初より法附則第三項の規定に基き制定されたものである。
三、被告町長が、本件待命処分を行つた経緯は次のとおりである。
(一)、条例六五号をもつて、待命条例の一部を改正した当時(条例六五号は昭和三〇年五月六日公布、即日施行)における立山町長の事務機関の職員の定数は、職員定数条例により、吏員九八名、その他職員一二名、計一一〇名で、実際在職した人員は、吏員は一〇八名(この内には、国民健康保険法に基いて、立山町全地区に国民健康保険事業を再開施行のため、同年四月六日、立山町が新規採用した技術吏員奥村ミサホ、雇坂下睦夫、同林清勝、同森本隆彦、同松永信行、同小池和子、同荒木敬之及び同跡治英二の合計八名を含む。なおこの八名は地方公務員法第二二条所定の条件付採用者であり、奥村ミサホを除く七名は同年五月二〇日、いずれも事務吏員として昇任した。)、その他の職員七名、合計一一五名であつた。
(二)、そこで被告町長は、定数を超過している吏員一〇名につき改正後の待命条例により、臨時待命を命じ、又は職員の申出に基いて臨時待命を承認することとしたところ、同年五月中に、高正豊治(同月二六日申出)、萩中誠久、藤田弥須治、松岡義家、森井長松、福井律三(いずれも同月三〇日申出)、石黒善太郎、野沢庄左エ門(いずれも同月三一日申出)の八名より臨時待命の申出があつたので、いずれも同月三一日承認(同年六月一日より待命)したが、同日、更に技術吏員松原義信の退職があり、結局なお一名の過員があつたので、臨時待命を命ずることにした。
(三)、被告町長は臨時待命を命ずべき職員の選考については、公務の能率、行政の適正な運営等を考慮した上、地方公務員法第二八条第一項第一号ないし第三号の定めるところの、勤務の良否、適格性の欠如、職務遂行性の有無を勘案することとした。
(四)、原告は、当時六六才の高令である上、日頃勤務時間中、他の多数吏員が勤務している事務室内で事務机を離れて、いびきをかいて、睡眠をむさぼる等して、その勤務状態につき、とかく町民や同僚吏員より、ひんしゆくを受け、その勤務成績も芳しくないものがあつた。そこで被告町長は、同法第二八条第一項第一号ないし第三号の趣旨を勘案して、原告を臨時待命を命ずべき該当者として、決定し、本件待命処分を行つたのである。
(五)、そして、待命期間の四ケ月経過後である昭和三〇年一一月七日原告の請求により、被告町長は、昭和二九年立山町条例第三四号、立山町一般職員手当支給条例の定めるところにより、退隠料(特別退職金)金三一、六五〇円を原告に支給し、原告はこれを受領したものである。
四、右の経緯にかんがみるときは、本件待命処分には何の違法もない。原告は、本件待命処分当時の町長の事務機関の職員としての吏員の実在員は八九名である、と主張するが、それは誤りである。即ち、原告主張の実在員八九名というのは、同年四月六日立山町において、国民健康保険業務実施のため、採用した前記八名を除外して計算したものであるとすれば、その誤りは明白である。右八名の吏員は、条件付採用者であるが、正式任用の職員とその身分取扱において相違がないから、吏員の身分を有するこというまでもないところである。従つて、当然右八名も吏員の実在員として、計算しなければならないものであるから、原告主張のように、被告町長において、過員がないのに、本件待命処分を行つたという違法はない。又原告は、被告町長において原告を高令者であることを理由として本件待命処分を行つたのは違法であると、主張するが被告町長においては、決して、原告を高令者である、との理由のみをもつて本件待命処分をしたものでなく、前記のとおり、原告の日頃の勤務状況に照し、地方公務員法第二八条第一項第一号ないし第三号の規定するところを合せ考えて、本件待命処分を行つたのであるから、右主張は理由がない。
五、仮りに、本件待命処分が、原告主張の如く違法であるとしても、原告において、前記のように、本件待命処分に伴う退隠料金三一、六五〇円を被告町長より受領しているので、本件待命処分の違法を理由に、その無効を主張したり、或は取消を求めることは出来ない。
六、右のように本件待命処分には、違法なところはなく、仮りに違法なところがあつても、原告において、これを主張し得ないのであるから、被告等に対する原告の本件請求は失当である。
(証拠省略)
理由
第一、原告の被告町長に対する請求についての判断
一、原告が、昭和二九年七月一〇日富山県立山町事務吏員となり、爾来同町建設課長として勤務してきた者であること、被告町長が、待命条例(同町条例六二号「立山町職員の待命に関する条例」)の改正後のものに基き、昭和三〇年五月三一日原告に同年六月一日付待命通知書を交付し、原告に対しその意に反する臨時待命(待命期間四箇月)を命じたこと(本件待命処分)、原告は、本件待命処分には不服であつたので、所定期間内に被告委員会に対し同処分の審査の請求をなしたところ、被告委員会において昭和三一年六月一五日付で右処分を承認する旨の判定をなし、右判定書が同年同月一八日原告に送達されたことはいずれも当事者間に争いがない。
二、原告は、本件待命処分は違法のもので、無効であり、仮りに無効でなくても取消されるべきものであると主張するので、以下その主張の違法事由について順次判断する。
(一)、待命条例は法附則第三項(昭和二九年法律第一九二号、地方公務員法の一部を改正する法律附則第三項)に根拠をおかずに制定された違法のものであり又その改正手続に違法の点があるとの原告の主張について、
(1)、成立に争いのない乙第二、第三号証によれば、改正前の待命条例(昭和三〇年四月四日公布、同月一日より適用のもの)は、その第一条に「この条例は立山町職員人事の刷新並びに事務能率の向上を期し、人件費の節減を図るため職員の臨時待命に関する事項を定めることを目的とする」と規定し、第二条に「前条の目的を遂行する為、任命権者は昭和三〇年八月三一日までの間において職員にその意に反して臨時待命を命じ又は職員の申出に基いて臨時待命を承認することができる」と規定していたこと、その後条例六五号(同町条例六五号「立山町職員の待命に関する条例の一部を改正する条例」、昭和三〇年五月八日施行)により右第一条を「この条例は地方公務員法の一部を改正する法律(昭和二九年法律第一九二号)附則第三項の規定に基き職員の臨時待命に関する事項を定めることを目的とする」と、第二条を「前条の目的を遂行するため、立山町職員定数条例の施行に伴い、任命権者は、昭和三〇年八月三一日までの間において職員にその意に反して臨時待命を命じ、又は職員の申出に基いて臨時待命を承認することができる」と改正したことを認めることができる。
(2)、原告は、改正前の待命条例は法附則第三条に基かずして制定された違法のものであると主張するが、同条例が立山町の職員の臨時待命に関する事項を定めることを目的として制定されたものであることは、その第一条(前記)によつて明らかであるところ、地方公共団体である立山町がその職員の臨時待命につき条例を定め得るのは法附則第三項に基く外ないのであるから、同条例の規定する事項から同条例が法附則第三項に基いて制定されたものであることを窺われるのみならず、証人萩中誠久、(第一回)同中田治重(第一回)、同堀田三五郎、同佐伯市太郎の各証言及び原、被告(被告町長)本人尋問の各結果を綜合すると、被告町長は、かねてから立山町の行政簡素化による職員の整理を企図し、希望退職者を募つていたが、退職者がなかつたので、法附則第三項において認められている臨時待命により右意図を達せんとしたが、これを円満にやるために、法的根拠を明示することによつて生ずる強制的印象をさけるため、根拠法令を明示しない待命条例案を昭和三〇年四月三日立山町議会に提出したところ、同議会において、右条例案に法附則第三項に基くことを明示していないこと及び未だ職員の定数を定めていないので臨時待命を実施できないことにつき論議もあつたが、同議会は、右の点につき町当局に対し速に善処することを要望した上、右条例案が法則第三項に基くものであると認めて、これを議決し、同月四日立山町条例六二号として公布されたものであることを認めることができるので、改正前の待命条例は法附則第三項に基いて制定されたものとして有効なものであること明白で、これに反する原告の前記主張は採用に値しない。
(3)、成立に争いのない乙第一、第三号証、証人中田治重(第一回)、同佐伯市太郎の証言及び被告町長本人尋問の結果によると、被告町長は、前記のように立山町議会より要望されていたので、同年五月六日立山町職員の定数に関する条例案と共に、待命条例が法附則第三項に基くこと及び職員の定数に関する条例の施行に伴い臨時待命を実施するものであることを明示すために必要な規定の改正を内容とする、待命条例の一部を改正する条例案を同議会に提出し、その議決を経て、同月八日職員の定数に関するものは職員定数条例(同町条例第六四号「立山町職員定数条例」)とし、待命条例の一部改正に関するものは条例六五号として、それぞれ公布されたことが認められる。条例六五号が公布されていなかつたものであるとの原告本人尋問における供述によつては、直ちに公布がなかつたものとみることは出来ず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。右認定したところによると、改正前の待命条例を条例六五号によつて改正した手続には何の違法もないから、右改正手続に違法があるとする原告の主張も採用できない。
(二)、本件待命処分当時の立山町職員の過員の有無について
(1)、成立に争いのない乙第一号証によると、立山町は、職員定数条例により、町長の事務機関の職員の定数を吏員九八人その他の職員一二人計一一〇人と定めていることを認めることができる。
(2)、被告町長は、本件待命処分当時即ち昭和三〇年五月三一日現在立山町長の事務機関の吏員として在職した者は一〇八名である、と主張し、原告は、当時現在の右吏員は、原告主張の一〇八名より奥村ミサホ、坂下睦夫、林清勝、森本隆彦、松永信行、小池和子、荒木敬之、跡治英二、林洋一及び林善作の一〇名を除いた九八名であると争うものである。
(3)、右一〇名の内林洋一及び林善作を除いた残余の八名の者が、本件待命処分当時の吏員としての在職者でないとする原告の主張について、先ず審按する。
(イ)、立山町において国民健康保険事業を再開施行のため、被告町長が、昭和三〇年四月六日奥村ミサホを技術吏員として、坂下睦夫、林清勝、森本隆彦、松永信行、小池和子、荒木敬之及び跡治英二(以下坂下睦夫外六名という。)を雇として、新規採用したことは当事者間に争いがない。
(ロ)、原告は、坂下睦夫外六名は昭和三〇年五月三一日当時雇であつたところ、職員定数条例に定める吏員に雇を含まないから、坂下睦夫外六名を同日現在の吏員在職者として算入すべきでないと主張するが、成立に争いのない乙第一五号証、証人中田治重(第二回)の証言、被告町長本人尋問の結果によると、被告町長は昭和三〇年五月二〇日坂下睦夫外六名を事務吏員に任用し、本件待命処分当時坂下睦夫外六名が事務吏員として在職していたことが認められる(証人萩中誠久の第二回証言中「坂下睦夫外六名が事務吏員に任用されたことは知らない」という部分及び原告本人尋問の結果中「林清勝が吏員に採用されたことを聞いたことはなく、又同人より吏員に採用されたとの辞令を見せられたこともない」との部分によつては、右認定を左右し得ない。)ので、雇が職員定数条例に定める吏員に該るかどうかについて判断するまでもなく、原告の右主張は理由がない。
(ハ)、次に原告は、被告町長において職員に欠員がないのに昭和三〇年四月六日奥村ミサホ及び坂下睦夫外六名を新規採用したものであるから、右採用は地方公務員法第一七条第一項に違背し無断であると主張するが、前記認定のとおり、被告町長は、立山町において再開施行する国民健康保険事業の事務に従事させるため、右四月六日奥村ミサホ及び坂下睦夫外六名を採用したのであるから、右採用は新たに設けられた職員の職を充員するためになされたものというべく、従つて、同法第一七条第一項に定める職員の職に欠員を生じた場合の職員の採用に該るので、原告の右主張は理由がない。若し原告において、右四月六日の採用が、職員定数条例(乙第一号証によると、職員定数条例は同年五月八日公布、同日から施行し、昭和二九年一月一〇日から適用されたものであることを認めることができる。)に定める職員の定数の範囲を超えるという意味で、欠員がないのに採用したことになるということを主張するものであれば、その主張の理由のないこと明白である。何となれば、右四月六日の採用は職員定数条例が効力を発生する前に行われたものであつて、行政法規の不遡及の原則から、右採用に職員定数条例の適用することは許されないところだからである。なお、前記認定のように、坂下睦夫外六名は、昭和三〇年五月二〇日被告町長により事務吏員に任用されているものであるところ、成立に争いのない甲第四号証、証人萩中誠久(第一、二回)、同中田治重(第一、二回)の証言及び被告町長本人尋問の結果によると、立山町では人事委員会をおかず職階制を採用していないこと、同日以前において立山町の職員(臨時的任用の者を除く。)には、雇、事務吏員、技術吏員の別があり、雇より事務吏員又は技術吏員に任用されることは昇進として取扱われ、被告町長が同日坂下睦夫外六名を雇より事務吏員に任用したのも昇進の意図でなされたものであることを認めることができ、右によれば、坂下睦夫外六名の雇より事務吏員への任用は、昇任として(立山町では職階制を採用していなかつたこと前記のとおりであるから、職階制を前提とした厳格な意味の昇任ではないが)同法第一七条第一項の適用を受けるものとなすのが相当である。しかうして、証人萩中誠久(第一、二回)、同中田治重(第一、二回)の証言によると、同年五月二〇日当時立山町では事務吏員に欠員がなかつたことを認められるので、右坂下睦夫外六名の事務吏員への昇任は、同条第一項に違背し、欠員がないのに職員を任命した違法のものといわなければならないが、任命権を有する被告町長がその権限に基き坂下睦夫外六名を昇任させたものである限り、右違法の故をもつてそれが当然無効のものとなるとは解し難いものである。
(ニ)、原告は、被告町長において同年四月六日競争試験又は選考によらないで奥村ミサホ及び坂下睦夫外六名を新規採用したものであるから、右採用は無効である、と主張する。証人中田治重(第一回)の証言及び被告町長本人尋問の結果によると、被告町長は、奥村ミサホについては、同人が保健婦の資格を有し且つかつて立山町に勤務したことがあることにより、坂下睦夫外六名については、二十名の志望者中より高等学校卒業者ということ及び家庭事情等より坂下睦夫外六名を選び、更に同人等に作文の筆記試験を課し(立山町では職員の採用については多く作文の筆記試験の方法によつていた。)た上その成績により、いずれも同年四月六日新規採用したものであることを認めることができる。証人萩中誠久(第一回)の証言中右認定に反する部分は信用しない。右認定によれば、被告町長は、奥村ミサホ及び坂下睦夫外六名を選考により新規採用したものと認めることができる。更に、同年五月二〇日被告町長が、坂下睦夫外六名を事務吏員に昇任させるに当り、競争試験又は選考によつたということは、これを認めるに足る証拠がないので、右昇任は同条第四項に違背して違法であるが、任命権を有する被告町長がその権限に基き右昇任を行つたものであるから、右違法であつても右昇任は無効のものと解し得ないので、奥村ミサホ及び坂下睦夫外六名の任用が競争試験又は選考によらないから無効であるとの原告の主張は理由がない。
(ホ)、次に原告は、奥村ミサホ及び坂下睦夫外六名は、本件待命処分当時条件付採用者であるから、吏員の在職者に入らないものである、と主張するが、そして、前記認定のように奥村ミサホ及び坂下睦夫外六名は同年四月六日新規採用になつた者であり、従つて、本件待命処分当時地方公務員法第二二条第一項により条件付採用期間中の職員であつたこと明らかであるが、右条件付採用というのは、職員として採用されるが、たゞ正式採用となるためには条件(最低六月の期間を良好な成績で勤務すること)の成就を要するというに過ぎないものであること、同条の規定によつて明白であるから、右奥村ミサホら八名が条件付採用期間中の職員であつても吏員の在職者に算入すべきものであること疑がなく、原告の右主張は理由がない。そもそも、同条第一項によれば、地方公共団体においては、臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、職員の採用はすべて条件付のものとなるのであるから、若し原告の主張のように、条件付採用期間中の職員が職員の定数に入らないものとすれば、同法第一七条第一項において職員の職に欠員を生じた場合にのみ採用を認める旨の規定はこれを理解することができなくなる。原告もこの理に立てばこそ、前記(ハ)記載のように奥村ミサホ及び坂下睦夫外六名の新規採用は職員に欠員がないのに採用した違法のものである、と主張したと考えられるのである。
右のとおり、奥村ミサホ及び坂下睦夫外六名を本件待命処分当時吏員の在職者でないとする原告の主張はいずれも理由がないから、右の者らはその当時の吏員在職者として算入すべきものである。
(4)、林洋一が本件待命処分当時吏員として条件付採用者であつたから吏員の在職者に入らないとの原告の主張は、仮りに林洋一が条件付採用者であつても、その理由のないこと前説示したところによつて明らかであるから、林洋一は本件待命処分当時吏員の在職者として計算すべきものである。
(5)、原告は、林善作に対する臨時待命は同年六月一日付待命通知書をもつてなされているが、昭和三〇年五月三一日に申出を承認されているものであるから、本件待命処分当時の吏員の在職人員に入れることは出来ない、と主張するが、成立に争いのない甲第五号証、乙第七、第八号証並びに証人林善作、同中田治重(第一回)の各証言及び被告町長本人尋問の結果を綜合すると、事務吏員である林善作は、昭和三〇年五月中旬に被告町長より臨時待命の勧告を受け、同月二六日付で待命の申出をしたが、県恩給組合の年金受給の関係では同年六月三〇日まで立山町に勤務するのが有利であつたので、同日以降に臨時待命承認がなされることを条件として右待命の申出をしたものであること、被告町長は、林善作の右申出を容れ、同年五月三一日に同年七月一日から臨時待命処分に付する旨の同年六月一日付待命承認通知書を林善作に交付したことが認められる。右認定に反する証拠はない。してみると、林善作に対する待命処分は、同年七月一日からその効果が発生するものであつて、林善作は同年六月末日までは、立山町の事務吏員たる地位を失なわないものであるから、本件待命処分当時の吏員在職者の中に入るものである。この点に関する原告の主張も理由がない。
(6)、そうすると、本件待命処分当時立山町長の事務機関の吏員として在職した者は一〇八名で、職員定数条例に定める吏員の定数九八名より一〇名の過員があつたことになるところ、同年五月三一日技術吏員である松原義信が退職し(被告町長の主張に対し原告は明らかに争わないので自白したとみなす。)、同日被告町長において高正豊治、萩中誠久、藤田弥須治、松岡義家、森井長松、福井律三、石黒善太郎及び野沢庄左エ門の八名に対する臨時待命(同年六月一日より待命)を承認する(このことは当事者間に争がない。なお、林善作に対する臨時待命の承認もされているが、これは前記のとおり右高正豊治ら八名に対するものと待命の効果発生期が異る。)と共に、本件待命処分をしたのであるから、過員がないのに本件待命処分をしたとの原告の主張は採用できない。
(三)、本件待命処分は憲法第一四条、地方公務員法第一三条に違反するとの原告の主張について
(1)、原告は、被告町長において待命条例により職員に臨時待命を命ずるにつき、高令者(五五才以上)であることを一の基準とし、原告が右基準に該るものとして本件待命処分を行つたのは、高令者であることを社会的身分として取扱い差別待過をしたものであるから、憲法第一四条、並びに地方公務員法第一三条に違反したものであると主張するので検討する。被告町長本人尋問の結果により成立が認められる乙第一三号証、証人萩中誠久(第一回)、同中田治重(第一回)の各証言、原告本人及び被告町長本人の各尋問の結果によると、被告町長は、合併前の旧町村の町村長、助役、収入役であつた者で年令五五才以上の者については、後進に道を開く意味でその退職を望み、待命条例に基く臨時待命の対象者として右の者らを主として考慮し、右の者に該る職員に退職を勧告したこと、原告が右に該る者であること、原告の勤務成績が良好でないこと及び原告が恩給受給権者であること等の事情を考慮した上、本件待命処分を行つたものであることを認めることができる。右によれば、被告町長において臨時待命を行うにつき、五五才以上の者であることを一の基準としていたことができる。しかし本来憲法第一四条、その規定を受けて制定された地方公務員法第一三条にいわゆる社会的身分と言うのは、広く人が社会において有する或る程度継続的な地位を指称するのであつて、人の生長に従つて生ずる人の自然的状態である五五才以上の者ということは、右にいう社会的身分に該らないこと多言を用いないでも明らかであるから、原告の前記主張は理由がない。
(2)、次に原告は、待命条例による臨時待命は、その目的、規定の趣旨等から、先ず一般希望退職者を募り、これにより目的が達せられぬ時、始めて意に反する待命処分がなされねばならぬにも拘らず、被告町長が一般希望退職者とは全く無関係に臨時待命を命ずべき者として原告を予定し、この予定に従つて本件待命処分を行つたのは、他の一般職員と区別して原告を不利益に取扱つたもので、地方公務員法第一三条の平等取扱の原則に反する違法がある、と主張するので審究する。前記乙第一三号証、成立に争いのない乙第一四号証、証人萩中誠久(第一回)の証言及び原告本人及び被告町長本人の各尋問の結果を綜合すると、被告町長は、昭和二九年四月一九日各課長、各支所長に所属職員中の退職希望者を調査し同月末までに報告するよう命じたが、退職希望者として報告される者がなかつたので、待命条例による臨時待命の実施に当つては、一般職員より希望退職者を募る前に原告を含む約十名位の特定職員に退職勧告をし、その後昭和三〇年五月二五日一般職員に対し待命条例に基く退職希望者を募集していること、右募集に対し希望者がなかつたので、本件待命処分をしたものであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。右によれば、被告町長において原告を他の一般職員より区別して不利益に取扱い、本件待命処分を行つたと認めるこができないので、原告の右主張は理由がない。
(3)、原告は、待命条例(改正後)第二条には、昭和三〇年八月三一日までに臨時待命を命じうると規定してあるに拘らず、同年六月一日付で原告に対し臨時待命を命じたのは、原告を他の一般職員と差別して不利益に取扱つたものであるから、本件待命処分は同法第一三条に違反すると主張するが、そして待命条例(改正後)第二条に右のように規定していることは前記認定のとおりであるが、右規定は、被告町長において待命条例施行の日より昭和三〇年八月三一日までの間に臨時待命を命じ得ることを定めたもので、被告町長に同日臨時待命を命ずべきことを定めたものでないこと明からであるから、同年六月一日付でなされた本件待命処分は同条に違背しておらず、又原告を他の一般職員と差別して不利益に取扱い本件待命処分を命じたことにもならないので、原告の右主張も理由がない。
(四)、本件待命処分は地方公務員法第二七条に違反するとの原告の主張について
原告は、同法に定める事由によらずして、原告に対しその意に反する本件待命処分を行つたのは同法二七条に違反する、と主張するが、前記認定のとおり待命条例は法附則第三項に基くものであるから、待命条例に基いてなされた本件待命処分が地方公務員法第二七条第二項に言う「この法律に定める事由による場合」に該当するものであること明白なので、右原告の主張の理由がないこと論をまたない。
(五)、地方公務員法第四九条に関聯し本件待命処分が違法となるとの原告の主張について
原告は、原告が請求するに拘らず、被告町長において未だ同法第四九条に定める処分の事由を記載した説明書を原告に交付しないから違法であり、かかる違法は本件待命処分を違法にすると主張する。被告町長が右の処分事由説明書を原告に交付していないことは当事者間に争いがなく、同条第三項に、任命権者は申請のあつた場合には、処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない旨規定しているが、右規定は、被処分者に当該処分につき人事委員会又は公平委員会に審査の請求をなすための資料を与えようとする趣旨に出でたものと解せられるから、右規定に違背して被告町長が処分の事由を記載した説明書を原告に交付することがなくても、これにより既になされた本件待命処分が違法となるとは到底解することができないので、右原告の主張も理由がない。
(六)、本件待命処分は原告を欺いて行われたとの原告の主張について
原告は、被告町長が原告を待命処分にしないと称しながら、前言をひるがえし、原告を欺き本件待命処分に付したのであるから、同処分は違法であり、且つ昭和三〇年六月一日付待命通知書を日付の前日である同年五月三一日に交付した違法があるから、この交付によつて生じた本件待命処分は違法であると主張するので審按する。証人萩中誠久(第一回)の証言及び原告本人尋問の結果によれば、被告町長は昭和三〇年三月初旬原告に対し「立山町が新川村を合併してから未だ一年も経過していないから、旧新川村長をしていた原告は整理の対象にしない」旨語つたことがあること、ところが、その後被告町長は右言に反して原告に対し本件待命処分をなしたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。右によれば、被告町長は前言に反して本件待命処分を行つたことになるが、これにつき被告町長が道義上の責任を負うべきかどうかの問題となるとしても、右のことによつて本件待命処分が違法となる理由がないと考える。又被告町長が原告に対して、昭和三〇年六月一日付待命通知書をその前日の五月三一日に交付したことは当事者間に争いがないが、それは始期付の待命処分がなされたにとゞまるものと認められ、本件待命処分の効果が何時発生するかと言う問題が生ずるのみであつて、これがため本件待命処分が違法となるものでないこと言うをまたない。よつて原告の前記主張は理由がない。
(七)、本件待命処分は被告町長の職権濫用行為であるとの原告の主張について
原告は、本件待命処分は町財政のびん乱についての被告町長の責を原告に転嫁せんがためにのみなされたものであり、被告町長の職権濫用行為であるから違法である、と主張するのであるが、原告の全立証によつても右原告主張の事実を認め難いので、原告の右主張も理由がない。
三、以上のとおり、本件待命処分には違法の点がないから、被告町長に対し、第一次的に本件待命処分の無効確認を、予備的にその取消を求める原告が本訴請永は理由なく失当として棄却すべきものである。
四、原告の被告委員会に対する訴についての判断
原告は被告委員会に対して、同委員会が昭和三一年六月一五日になした判定の取消を訴求するが、その理由とするところは、原処分である本件待命処分が違法であるのにこれを適法とした点と、被告委員会がなした判定手続自体に違法の瑕疵があるとするものであるところ、前者の理由は、原処分である本件待命処分に対すると全く同一の理由であり、後者の原告が判定手続自体に存すると主張する瑕疵は、仮りにあつたとしても被告委員会の判定を当然無効ならしめるものとは認められないから、本件待命処分の適否につき訴を提起し、これにつき実体判決がなされる以上、この外に被告委員会に対し右判定の取消を求める実益は原告に無いものと考えられる。何となれば、右実体判決がなされると関係行政庁である被告委員会は右判決に拘束され、これと異つた判断をなし得ないものであるからである。本件においては、原告は原処分庁である被告町長に対し原処分である本件待命処分の無効確認又はその取消を求め、これにつき当裁判所は前記のように実体判決をなすものであるから、被告委員会の前記判定の取消を求めることは原告に何の利益もないことなので、原告の被告委員会に対する訴は権利保護の利益を欠くものとして却下すべきものである。
よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 布谷憲治 家村繁治 山中紀行)